うた、俺はお前の隠し事を聞かない。ただし隠す努力はしてくれ。 作:のろとり
三人称視点です。
今回の時系列は第39話です。
具体的に言うと、寸田
『以上、クローバーの4名でした!』
ダンシングスターカップ当日。
これと言ったトラブル───例えば噂の怪物が現れたりなど───は一切無く、大会はスムーズに進み現在は躍の一つ前の出場者の出番が終わった。
「すっー……はっー……」
その様子を見届けた躍は深呼吸して身体の内側に響いてくる心臓の音を落ち着かせる。
たった今ダンスを披露したクローバーと言うグループ名の女の子達も自分と遜色無い、もしくはそれ以上の実力を持っていた。
独学なのか、それとも誰かに教えてもらったのか。どちらにせよ、自分の肩に背負っている期待が重く感じてしまうほどのモノを見せられてしまった。
「よし!」
だが、そんな重い期待に応えたいと躍は思う。
自分を応援してくれたみんなに報いる為にも、自分の優勝した姿を届けたい。そんな想いを抱き、躍は気合いを入れる意味も込めて自身の頬を叩き、ステージへと歩を進める。
『次ははなみち中学校ダンス部部長、寸田躍くんです!』
「寸田先輩!」
「躍!」
観客の拍手と共に、こころと台助が躍に応援をする。
躍がそちらの方へ一瞬視線を送ると、今日までダンスの練習を手伝ってくれていたこころ達が固まって座っているのが見えた。
発表の場である以上、いつまでも個人に対して視線を送り続けたり、手を振ったりするのは相応しくないので、その応援に対して出来る返答は今から発表するダンスしかない。
「……!」
ステージの真ん中に立った躍はスピンを始める。
昨日までならがむしゃらに磨き続けてきたスピンは目が肥えている人物から見れば不出来に思えたかもしれないが、今の躍はダンスに対しての姿勢が違う。
『寸田先輩は何のためにスピンするんですか!?』
それは本質を忘れていた自分に投げ掛けられた後輩からの言葉。
自分にとってスピンとは……その原点とは何かを思い出させてくれた言葉は、ダンスを発表している今も心に残り続けている。
自分にとってスピンとは周りのみんなに笑顔を見せる為の行動。
例え相手が宇宙人だろうとも、動物だろうとも、それこそギャグのツボが違くても、スピンがあれば心が通じる。周りのみんなが笑顔になると躍は信じている。
この日の為にがむしゃらながらも磨き続けてきたスピンに無駄は無かった。否、無駄にならないようにしたと言った方が正しいだろう。
原点を思い出す前までならばスピンに拘り続け、肝心のダンスと噛み合っていなかっただろう。それはまるで比率を間違えたカレーライスのように、一方に偏りすぎてもう一方の存在が目立たなくなってしまっただろう。
しかし今は違う。
スピンだけに拘らず、スピンを活かすならどんな踊りをするか、そしてその踊りを通して何を伝えたいか。ダンスの本質を捉えている今の躍に死角は無い。
このままなら、優勝も夢じゃない。
躍はそう確信していた。自信があった、この瞬間までは。
「ッ!」
ダンスが激しさを増す中、躍は自身のトレードマークである帽子が頭から落ちそうになる。
幼少の頃から身に付け、もはや身体の一部と言っても過言ではない帽子を思わず拾いたくなる衝動に駆られるが、躍は反射で動きそうな身体を理性で止めてダンスをしながら、帽子が床へ落ちるまでの僅かな時間で頭を回す。
まず帽子を無視してダンスを続ける選択肢は無い。
帽子が無ければスマホを落とした現代人の如く不安に押し潰され、ダンスに集中出来なくなってしまう。かと言って、そのままにすれば足元に落ちた帽子を踏んで脚を取られてしまうかもと、そんな心配が脳裏を過りダンスの繊細さが欠けてしまう。
故に躍が取れる選択肢は主に二つ。
一つは帽子を落ちないよう身体を大きく仰け反らせる。
一つは帽子をそのままにしてダンスを続ける。
後者は先程の通りであり、前者は帽子こそ落ちないもののダンスとしては評価が落ちてしまうだろう。
どちらを選んでもメリットもデメリットも存在する。だから躍は……
「ッ……と!」
帽子を蹴りあげた。
拾うのでもなく、そのままにするのでなく、アクシデントをパフォーマンスと昇華させる第三の選択肢を選んだ。
そして蹴りあげた勢いでバク転をし、まるでそれが演出だと言わんばかりにアドリブの行動をダンスへと繋げる。
何処へ飛んだかはバク転をした際に確認した。見るのは上ではなく、自分のダンスを笑顔で見ている観客。後はもう、帽子が落ちる場所に合わせて頭を置くだけである。
そして躍は最後の仕上げと言わんばかりにスピンをする。
原点を思い出した事、そして自分を応援してくれているみんなにも報いたい想いが、躍のボルテージを一段階新たなステージを押し上げる。
風が舞う。
それは会場の扉から外風が舞い込んだのではなく、躍の起こすスピンから発生している空気を中心に、台風の如く巻き起こっているのである。
人は風を起こすのが可能か。
その問いは誰かは肯定する。暑いからと手で扇いで涼しい空気を自身に送るように、小さい風程度ならば発生させるのは容易である。
ならば、外風と間違うほどの突風を引き起こすのは可能か。
その問いに誰かは否定した。そんなのは不可能だと、無理だと……そう、躍が実際に可能にするまでは。空想は現実へ変化する、不可能は可能へ形を変える。
今この瞬間、突風を巻き起こせるほどの実力を発揮させた躍は、優勝と言う二文字を手に入れるのに最も近い実力を有していると言っても過言ではないだろう。
だが───
「躍……」
「あ、台助」
「惜しかったな」
「……うん」
必ずしも優勝出来るとは限らない。
現実はそう甘くはないのだ。
大会が終わり、会場を出た躍に気まずそうに話しかける台助の視線の先には、躍が首からかけている
あの場で壁を乗り越え、本来以上の実力を発揮した躍であったが、発揮出来てしまったが故に優勝を逃してしまった。
躍のスピンによって発生した風によって、蹴りあげた帽子は躍の確認した落下地点と別の場所へ落ちてしまった。
幸いにも手で届く範囲であった為、多少の減点で済んだがその減点があまりにも痛く、優勝まであと一歩届かない……否、優勝へ進んだ一歩が引っ込んでしまったのである。
「悪い、躍。俺が」
「いや、台助のせいじゃ」
「そうじゃない。あの時の躍に何が足りないか、俺は分かってた。でも黙ってたんだ、自分で気付いた方が躍の為になると思って……」
「…………」
台助の懺悔に躍はなんて言葉を投げ掛けるか悩む。
台助が自分の為を思って動いてくれたのは分かる。そしてきっと、台助が直接伝えていた所で自分はその言葉の真意を理解出来ずに受賞すら叶わなかっただろう。
仮に優勝出来たとしても、いつか同じように壁にぶつかってこの前と同じようにスピンへ拘り続けていただろう。
しかしそれを台助に直接伝えても、台助に響かないだろう。まるでこの前の自分のように。
なら直接伝えるのではなく、何か別の方法は無いか。
そうして躍は思い付く、自分にとって大切で台助の気持ちを晴らせる方法を。
「台助」
躍はその場でスピンを始める。
大会と言う大舞台が終了した事による緊張感からの解放と、全力を出しきった脱力感で万全な状態とは言えないまでも、がむしゃらに練習を続けたお陰で体力を付いている。
発表の時のように実力以上の力は発揮出来ないまでも、普段と遜色の無い動き程度なら可能である。
「笑顔になれた?」
「え? えっと」
「やっぱ俺もまだまだかぁ~」
困惑する台助を余所に躍は苦笑いをする。
スピンで相手を笑顔にしたいのに、目の前の相手を困惑させている今の実力で胡座をかくわけにはいかない。まだ自分は頂点に立った訳でない、それが準優勝と言う形で分かっただけでも収穫はあった。
「ありがとう台助! 俺、もっと実力を磨いてみんなを笑顔に出来るようにする!」
「……あぁ、なるほど。そういう事か」
躍がたった今、スピンしたのにはどんな理由があったのか。
自身の表情と躍の言葉でそれを察した台助は、励ますつもりが励まされてしまったと、苦笑をした後に目の前の躍と目を合わせる。
「応援してるぜ、躍!」
「うん!」
惜しくも準優勝と言う結末で大会を終えた躍であったが、不思議とその表情に暗い感情は無い。
優勝を逃した悲しい気持ちも、みんなに想いに応えられなかった悔しい気持ちもある。だがそれらを全てひっくるめ、躍は原点を見つめ直す。
その気持ちを忘れなければきっと、スピンでみんなを笑顔にする。その夢を叶えられるだろう。
今回の話を書く際にぼくプリのキャラについて調べたんですが、あの人達って高校生なんですね。危うく誤って中学生部門に出場させる所でした。
次回の投稿は3週間後の予定です。
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