うた、俺はお前の隠し事を聞かない。ただし隠す努力はしてくれ。   作:のろとり

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 今回の時系列は第40話です。
 具体的に言うと、ななちゃんがフランスに行っている頃です。


第28話 うた、俺は無力だ。ただしそんな俺でも願う事だけはさせてくれ。

「田中さんって海外に行った事ありますか?」

 

 とある休日の昼下がり。

 いつもと違い活気が少ない───客入りが少ないのではなく別の理由で───グリッターにて、俺はアルバイトしている田中さんにそんな質問を投げ掛けた。

 

「海外……ですか?」

 

 俺の唐突な質問に田中さんは首を傾げたが、俺のその質問をする理由に対して思い当たる節があったようで、小さく「なるほど。そういう事でしたか」と呟き、思い浮かんだ理由を口にする。

 

「フランスに行ったななさんの事が心配なんですね」

 

「まぁ、そんなところです」

 

 時は遡り、先日の事。

 ななちゃんはフランスに居るお母さんからピアノのコンクールのチケットが届き、久しぶりに会える嬉しさと自身のお母さんピアノの音が聞ける楽しさを胸に、お父さんと一緒にフランスへと向かった。

 

 そして本来なら数日ほど家族の時間や観光を楽しみ、日本に帰ってくる予定……だったのだが、お母さんから「家族みんなでフランスに住まないか」と提案されたそう。

 理由としてはフランスは日本以上にピアノを勉強出来る環境が整っているから。今以上にピアノの腕を磨けるからと言ったモノである。

 

 ななちゃんはピアニストであるお母さんの影響で、幼少の頃からピアノを学んでいる。その実力は蒼風ななとしては過去にコンクールで優勝し、キュアウインクとしてはピアノを弾いているイメージが強く結び付いているほどだ。

 

 そんなななちゃんが今以上にピアノの腕を磨けるように、そして将来の事を考えればフランスに住むのはとても有意義な時間であり、ななちゃんの為になると思ったからこそななちゃんのお母さんは移住を提案したのだろう。

 

 だが、それはななちゃんがうた達と───つまりは、友達と離れ離れになるのを意味する。

 俺個人の我が儘を言うのであれば、ななちゃんには日本に残ってもらいたい。けれどもその我が儘を口にすれば、ななちゃんを困らせてしまうだろう。

 

 それに俺は海外について詳しくない。

 何も知らないのに「俺が気にくわない、日本に残ってくれ!」なんて言えるわけがない。せめて何か口にするにしても、まずは海外について知識を深めてからにしよう。

 そう思い、俺は田中さんに海外に行ったことがあるのかを質問したのだが……きっと、何を聞いても俺の考えは変わらないだろう。それでも、少しでも気が紛れるような行動をしたいのだ。

 

「台助さんの言う海外の範囲によりますが、少なくとも日本以外に行った事は無いですね」

 

「そうですか」

 

 田中さんと出会ってからそれなりに経つので今更の話になるが、田中さんの言葉から考えるにキラキランドは海外ではなく別世界なのだろう。だからと言ってどうしたと言う話ではあるが。

 

 俺は一言注釈を入れた田中さんの言葉に隠された意味を軽く考えつつ、別世界から来たから対応を変える訳でも無いから、何処から来たとしても関係無いとたった今出した結論を頭の片隅へ追いやる。

 

「気になりますか? ななさんの事が」

 

「あー……まぁ。でも気になるのは」

 

「友達と離れてしまったうたさんやななさんの心ですか」

 

「田中さん。もしかしてエスパーだったりします?」

 

「さぁ、どうでしょうね」

 

 顔に出ていたのか、それとも俺の思考が分かりやすかったのか。洗ったコップを拭きながら、平然とした様子で田中さんはそう返事をする。

 

「ところで田中さん」

 

「どうしました?」

 

「えっと、ですね……その」

 

「ねぇ、台助くん。ちょっと良いかな」

 

 顔を俯かせ、視線を泳がせながら「本当に聞いて良いのか」と、今からする質問を口にするべきかと悩んでいると、上の休憩所からうたが困ったような表情をしながら声を掛けてきた。

 

 俺は田中さんに「この話はまた今度しましょう」と視線だけ送ると、田中さんはその意図を読み取ってくれたようで、無言で首を縦に振ってくれた。

 

 どうやら俺の伝えたい言葉以外にも、実際にそれを口にすればうたが「邪魔をしちゃったかな」と遠慮するので、出来れば何も言わないでほしいと言うのも伝わったようだ。

 

「それでうた。用件って言うのは」

 

「少し肩を貸してほしくて」

 

「そうか」

 

 上の休憩所へと移動し、俺はうたの希望通りに肩を貸すと、うたは俺の肩に頭を乗せてくる。

 いつもなら元気を振り撒きながらグリッターの手伝いをしているうたであるが、今日ばかりはいつものような元気は無く、その影響でグリッターも活気が少ない。

 

 理由はななちゃんと二度と会えないかもしれないから。

 本来ならばはなみちタウンを出た時はあくまで数日すれば戻ってくる予定だった。それが今やフランスに残るかもと、直接別れの挨拶すら言えない状態となってしまった。

 

 挨拶すら言えない別れがどんなに辛いものか。

 それは今のうたを見れば分かる。そしてそんなうたに俺が出来ることは無い。そう、何も無いのだ。

 今のうたの心が立ち直る方法があるとすれば、ななちゃんがはなみちタウンに戻ってくるのを選んだ時であるが……それは決めるのはあくまでななちゃんだ。俺がどういう出来る話ではない。

 

「なぁうた。多分、分かってると思うが言わせてもらう」

 

「…………」

 

「今回、俺は何もしない。いや、何も出来ない」

 

 俺はうたにただ自身の無力さを述べる。

 今回ばかりは今までのように誰かの背中を押して最善を尽くす事は出来ない。何故ならフランスに移住するか否かの話はななちゃん達家族の話であり、そこに俺が入る余地が無いからだ。

 

 球技大会やダンスの大会では練習を付き合う形で力になれた。

 プリルンが記憶を失った時はうたの背中を押す形で力になれた。

 メロロンが友達になりたいと素直に言えなかった時は話を聞く形で力になれた。

 

 だが、今回はどうだ。

 フランスに移住するか決めるのはななちゃんだ。きっとななちゃんがはなみちタウンに残ると言えば両親はその意見を尊重し、フランスに移住すると選べばななちゃんが一日でも早く馴染めるように尽力するだろう。

 

 そしてそんなななちゃんがどちらを選ぶのか……それはきっと、ななちゃん自身にも分からないだろう。

 自分の将来を考えてくれている両親の案を選ぶか、はなみちタウンでうた達と過ごすのを選ぶのか。互いの思いをよく理解しているからこそ、片方しか選べないのは辛いものがあるのは容易に想像が出来る。

 

「覚悟を決めろ、なんて言わない」

 

 俺がななちゃんに出来る事は何も無い。

 そんな状態で背中を押せば余計に悩んでしまうのが目に見えているし、そもそも肝心の本人が悩んでいるのだ。俺が「此方の道が良いよ」なんてアドバイスは出来ないし、それが切っ掛けでななちゃんが道を選んだとしても「もし別の道を選んでいたら」と、ほんの僅な後悔が胸に残ってしまうだろう。

 

「自分のしたい通りに動け、なんて言わない」

 

 結局の所、俺が出来るのはうた達の精神的なフォローだけだ。

 もしななちゃんがはなみちタウンを離れ、フランスに移住する道を選んだ時、うた達がずっと下を向かないよう、少しずつでも前を向いて進めるように寂しさと悲しさの混じった心を癒す事だけだ。

 

「だからせめて、その胸に秘めてる我が儘だけでも聞いて良いか?」

 

「……うん」

 

 もっと俺に力があれば。

 もっと俺が上手く立ち回れれば。

 もっと俺がうたを支えられていれば。

 

 今のうたを見ていると、そんな思いが沸き上がる。

 本当に今の俺は誰かの力になれているのか。うたのお化けの克服の時しかり、優勝を逃して悔しい筈の躍に逆に励まされてしまった時しかり、そんな事を考えてしまう時が増えてきた。

 

 それでも、今の俺に出来る限りの行動をしよう。

 キラッキランランとまではいかないまでも、クラクラなうたの心に少しでも光が戻るようにと信じて。

 

 うた、俺は無力だ。ただしそんな俺でも願う事だけはさせてくれ。




 話の始まりを「とある休日の昼下がり」にしようとして、「そういや作品の時間軸が本当に休日なのか分からないな」と、実際の時差やフライト時間を元に日本とフランスの時刻を計算しました。
 結果的にななちゃんは休日の間にフランスに行ったと判明しました。私は何処に力を入れているんでしょうね。

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