うた、俺はお前の隠し事を聞かない。ただし隠す努力はしてくれ。   作:のろとり

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 困った、最近全然筆が進まない……。
 完結までは持っていきますが、かなり投稿頻度が落ちると思います。

 時系列は第41話です。
 具体的に言うと、こころちゃんが教室で一人残ってる時です。


第30-1話 紫雨こころは悩みを続ける。

「うーん……」

 

 生徒会長選挙前日。

 こころは自身しか居ない放課後の教室で、白紙の原稿用紙とにらめっこしていた。

 

「生徒会長になったらやりたいこと……」

 

 演説での内容を考え始めてから、いったいどれほどの時間が経っただろうか。

 

 生徒会長になると決意し、立候補するまでは良かった。

 うた達や研究会のみんなも、研究会を廃止にさせないと自分の行動を後押ししてくれ、今日まで頑張ってこれた。

 

 そしていざ、選挙当日演説の内容を決めようと原稿用紙を用意したまでは良いが、筆が一向に進まない。

 自身が生徒会長になった姿を、生徒会長になって何がしたいかのイメージが付かないのだ。

 

 それもそのはず、こころの元々の目的は研究会の廃止であって生徒会長としての立ち位置はあくまでその目的の為の通過点に過ぎない。

 

 決して生徒会長の地位を軽んじていたり、目的を達成したからその肩書きを忘れて遊び呆けたりなどするつもりはない。

 もし実際に生徒会長に選ばれたのなら、全力で取り組むつもりだ。

 

「私って生徒会長になったら何をしたいんだろ」

 

 それでも気持ちだけでは何も変わらない。

 そんな悩みを小さく呟くこころであったが、その悩みに相談に乗ってくれる人物は誰も居ない。

 否、仮に居たとしても掛けられる言葉は応援ぐらいだろう。何故ならその答えはこころ自身が見つけ出すものであり、周りから何を言われようがこころ自身が納得する答えでなければ悩みは晴れないのだから。

 

「紫雨さん」

 

 一向に答えが見つからない悩みに頭を抱えていると、教室の外からこころを呼ぶ声が聞こえた。

 

 誰か忘れ物でも取りに来たのだろうか?

 疑問を浮かべながら声のした方向へ振り向くと、そこには生徒会長の座を狙うライバルでありこころの先輩であるちよの姿があった。

 

「もう下校時刻よ」

 

「えっ!? もうそんな時間!?」

 

 ちよの言葉に驚き、こころが時間を確認すると帰りのHRが終わってからかなりの時間が経っており、このまま残っていては家族が心配してしまうだろう。

 

 こころは急いで机の上の荷物をカバンへしまい、教室の中からでも聞こえるほど大雨の中、傘も差さずに帰ろうとするが、ふとカバンを持ち上げようとしたところで動きを止める。

 

「あの、ちよ先輩」

 

「なにかしら?」

 

「どうしてちよ先輩は生徒会長に立候補したんですか?」

 

 あまりにも唐突すぎる質問ではあるが、ちよは一切嫌な顔をせずこころの瞳を真っ直ぐ見つめる。

 元々こころがちよの事を知ったのは、ちよが「自分が生徒会長になったらアイドルプリキュア研究会を廃止する」と宣言していたのを聞いたからだ。

 

 それ以前は関わりなんてなく、もしかしたら何処かですれ違ったりはしていたかもしれないが、思い出そうとしても思い出せない。いや、そもそも話した事も無かった気がする。その程度の認識であった。

 

 廃止なんてさせない。だから生徒会長になる。

 その一心でここまで動いてきたが、いざ生徒会長になったらのイメージが湧かない。そんな時、以前から生徒会長に立候補していたちよが目の前に現れたのだ。

 

 生徒会長と言う肩書きの重圧。

 学校の代表と言う不安。

 周りからの応援と言う期待。

 

 それらが心の中で混ざりあった結果、こころは恥を捨ててちよに質問した。どうして生徒会長に立候補したのかを、不安や緊張を抱えたりしないのかと。

 

「学校を今より良くしたいと思ったから、ただそれだけですわ」

 

 そんな複数の気持ちが混ざりあったこころの質問に、ちよはそれが当然と言うような態度で一言、口を開いた。

 

 人によってはそれを綺麗事と捉えるかもしれない。口だけだと、言葉だけならなんとでも言えると、誰が生徒会長になっても何かが変わることはないと。

 

 だがこころにはちよの言葉が眩しく見えた。

 それはまるでステージの上に立つアイドルのように。誰かの期待に答えたいと強く思い、それを自らの努力でみんなに返す。

 アイドルと生徒会長、立場も肩書きも何もかも違う。比較すら出来ないほど互いにかけ離れた存在であるが、今のこころにはどうしてか、それらが同一に見えていた。

 

「わたくしはこの学校が好きですわ。委員長としてクラスだけでなく、学校中のみんなの為に頑張りたいと思うほどに」

 

「…………」

 

 こころはちよの言葉に呆然とし、自分の行動を恥じた。

 自分の居場所を守る為に行動を起こした。その選択自体は間違っていなかったと今でも思ってる。

 だがその行動力によって出力された選択は自分の事しか考えていないモノであり、ちよのように周りを考えての行動ではない。

 

 もっと良い方法があったのではないか。

 そんな後悔と共に、こころを口を閉ざす。

 

「わたくし、紫雨さんが生徒会長に立候補してくれて嬉しかったわ」

 

「え?」

 

 しかしそんな口も、ちよの言葉によって疑問の音が漏れる。

 立候補してくれて良かった? 何を言っているのだろうか。むしろ自分と言うライバルが登場した事により、ちよが生徒会長になれないかも。そんな事が起こり得るかもしれないのに。

 

 こころはちよがそんな考えをしないのは分かっている。

 むしろ堂々と、ズルも慢心もせず全力で目の前の目標に取り込む性格だ。

 

 それは生徒会長と言う一つしかない席を狙って戦ってきたライバルとしてよく知っている。だからこそ、ちよの言葉の意味が、嬉しいと思った理由がこころには分からなかった。

 

「自分が正しいと信じていた道が間違ってるかもと思えたから」

 

「それってどういう……?」

 

「わたしくの周りにはわたしくの行動が正しいと言ってくれる人ばかりですわ。でもそれは同時に、わたしくが間違った道を進んでも正してくれる人が居ない事と同じでもありますわ」

 

 こころの疑問に答えるようにちよは言葉を続ける。

 そしてこころは生徒会長を目標に堂々としている姿とは別の、ちよの弱い一面を見た。

 

 学校を今以上に良くしたい。生徒会長になりたい。

 その他者へと尽くし、自信の溢れる態度の裏でちよは悩んでいたのだ。自分の行動は本当に学校の為なのか、生徒会長を目指す者として正しい判断なのかと。

 

 それもそうだ。

 ちよはまだ中学二年生の子どもだ。正しいか分からない道に悩むなんて、大人でもありふれた出来事。正解が分からないから王道を、安全な道を進んで心の平穏を保とうとする。

 誰だって先の見えない道には恐怖と不安を覚える。それはちよであっても例外ではない。

 

「だからありがとう」

 

「……あの」

 

「なにかしら?」

 

「私、そこまで考えて生徒会長に立候補した訳じゃないんです。ただアイドルプリキュア研究会の廃止を阻止出来たらと思って。それで」

 

「それでも、紫雨さんは放課後に残ってまで生徒会長になろうと頑張ってる。とても凄い事だと思いますわ」

 

「いえ、そんなことは」

 

 こころは気まずさからか、自分がどうして生徒会長に立候補したのかを、別に学校の為なんかではなく自分自身の為に行動したのだと語る。

 

 しかしそんなこころの本心も、ちよにとっては些細な事であった。切っ掛けはどうであれ、今こうして全力で取り組んでいる。その行動は褒められ、そして誇りに思って良いのだとちよは語る。

 

 それでもこころからすれば、自身とちよを比べてしまい褒められても素直には受け取りにくく、思わず顔を逸らしてしまう。

 

「……? ところで紫雨さん。傘は持ってきてますの?」

 

「いえ……」

 

 ちよは急に目が合わなくなったこころに疑問を抱きながらも、ちよは一向に止む気配の無い雨へと視線を移す。

 

 今日、この時間に雨が降る事をこころは天気予報で知っていた。

 だから今日は早めに帰ろうと思っていたが、明日の演説の内容を考えている内にいつも下校している時間はとっくに過ぎ、雨が降り、こうしてちよに声をかけられるまで時間を忘れてしまっていた。

 

 こころは外の景色を確認する。

 空は一面黒い雲で覆われ、水溜まりがそこらかしこに出来上がっている。もし傘も差さずに帰ればびしょ濡れになるのは確定であり、身体を冷やして風邪を引いてしまうかもしれないだろう。

 

「でしたら此方をどうぞ。わたくしはもう一本ありますので」

 

「あ、ありがとうございます」

 

「それではまた明日」

 

「は、はい」

 

 ちよはカバンから折り畳み傘をこころに渡し、そのまま廊下を歩いていった。

 あまりにも唐突で自然な動きだったので、こころは少しばかり思考が追い付かず言葉に詰まりながらもお礼と挨拶をする。

 

「私もそろそろ帰らなくちゃ」

 

 こころは忘れ物が無いか机やカバンの中を確認───準備自体は終わっていたが、急いで下校の準備をしたので念の為である───し、ちよから借りた傘を丁寧に持って教室を出ようとした。

 

「あれ、ちよ先輩?」

 

 すると教室の窓から雨の中を走っているちよの姿が見えた。

 下校しようとしているのだから、校舎の外に出るのは不思議な事ではない。むしろ当然の行動ではあるが……どういう事だろうか。今見えたちよは傘を差していなかった。

 

 まさか傘立てに置いていたのを忘れた?

 こころは忘れていったであろう傘を届けようと、教室の電気を消して下駄箱へと向かうが、傘置き場には一本も傘が置かれていなかった。

 

「もう一本あるなんて、嘘じゃないですか」

 

 そこでこころは気が付く。

 ちよは元々折り畳み傘一本しか持っていなかったのだと。

 そしてその持っていた傘を、自分が濡れないようにと貸してくれたのだと。

 

 今からちよを追いかける?

 いや、既に姿が見えないのだ。追いかけたところでどの道で帰ったのか分からない。

 それに……その行動はきっと、ちよの優しさを無に還してしまうだろう。何かを返してほしい、そんな気持ちでちよは動いていないのだから。




 ちよちゃんの口調が難しかったので、某ジャッジメントの能力者をイメージして書きました。

プリキュアを見たことある?

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