うた、俺はお前の隠し事を聞かない。ただし隠す努力はしてくれ。   作:のろとり

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 なんで私は主人公を放って寸ここを書いているんですかねぇ……。
 キミプリ本編とはキャラの心境とか色々変わってますし、本作の主人公が一切登場しませんが、番外編程度に楽しんでください。

 作中の時間軸は第7話です。
 具体的に言うと、ダンスの練習をしているこころちゃんの所を寸田先輩が訪れる場面。


第4.5話 寸田躍は紫雨こころが心配である。

 学校内では周りの目があり、こころも上手く話せないと考えた躍は放課後、こころがいつもダンスの練習をしている場所へと顔を出した。

 

 ここならば人が通る事は少ない。

 学校よりも話しやすいだろうと思いこの場を訪れたのだが、そもそもの話としてこころが今もダンスを続けているのかすら不透明だ。

 

 何があったのかは本人に聞かない限り推測の域を出ないが、もしダンスを辞める決断する程の出来事がこころの中で発生していたら……躍はどうすれば良いか分からなかった。

 

「あっ」

 

 しかし杞憂は幸いにも不要であった。

 何故なら躍の視線の先には、ひたすらにダンスの練習を続けるこころが居たからだ。

 今居る場所ではこころの顔は見えないが、ダンスを踊っているこころはいつも輝いている。きっと自身の知らない内に元気を取り戻して、笑顔でダンスの練習をしているのだろう。

 

「しぐれさ……」

 

 そして躍は見てしまった。

 心の底から楽しくダンスを踊れていないこころを。

 まるでガラスについた埃をそのままにしているような、貼り付いた笑顔の奥に悲しい表情を見せているこころの姿を。

 

 思わずといった様子で、こころの名前を呼ぼうした口が途中で動きを止めてゆっくりと、何も言葉を出さないまま閉じてしまう。

 

 そうしている内に、振り付けを練習する為にこころが流していた曲が止まる。

 聞こえていた音が無くなった事で、躍の意識はハッキリとする。曲が止まり、こころがダンスの動きを止めると言う視覚と聴覚の変化によって、ボンヤリとしていた意識が回復したのだ。

 

「や。紫雨さん」

 

「あ……寸田先輩。いつからそこに」

 

「ついさっきね」

 

「すみません、ダンスに集中していて気付かなかったです」

 

 嘘だ。

 一応はこころから見える場所に居たのだが、声を掛けるまで気付かなかったのは、ダンスに集中していたからか。それとも心ここに在らずで周りに意識が向いていなかったのか。躍はすぐにどちらか察してしまった。

 

「ダンス、頑張ってるね」

 

「はい。ダンスしてる時は色々と忘れられるので。嫌な事も、昔から……」

 

 何か嫌な事でも思い出してしまったのか、こころの表情は大雨が降る直前の空のように曇ってしまう。

 話題を間違えてしまったかと一瞬焦るが、同時にダンスを今も続けている事と、ダンスをしてる時ならその抱えている嫌な事も忘れられると知れた。

 

「ねぇ、紫雨さん。ダンス部に来るつもりはない?」

 

 躍は暗くなってしまった雰囲気を変えようと、以前断られたダンス部へと再度勧誘をする。

 とは言っても、半ば諦めているような状態での勧誘ではあるが。

 

 今のこころにはキュアアイドル&キュアウインク研究会がある。

 それこそ入学初日に部活を設立し、部長となってからも積極的に部活動に力に入れている様子を実際に校内で見て、その布教活動の頑張りを噂として聞くほどに。

 

 最初に誘った時も、今所属している部活があるのは知っている。それでも兼部でも良いから、入ってくれたら嬉しいなと誘ったのだ。結果としては駄目であったが。

 

「…………はい。私で良ければ」

 

「えっ?」

 

 だから二回目の勧誘も断られると思った。

 無理だと分かった上で、話題を変えるための勧誘であった。

 それを今、こころはなんて言った。私で良ければ? それはキュアアイドル&キュアウインク研究会を退部として、ダンス部に入部すると受け取って良いのだろうか。

 

 こころの言葉がグルグルと頭を回り、いつまでも情報が完結しない。寝起きで未だ働いて始めていない脳に言葉を投げ掛けられたように、ずっと同じ情報が流れているかのように。

 

「寸田先輩?」

 

「ッ! いや、なんでもないよ。やった、紫雨さんゲット!」

 

 時間にして数秒。

 反応が無い躍を心配したこころが声を掛けると、躍はハッとした表情をしてこころがダンス部に入部を決意したと表面上は喜ぶ。

 

 しかし内心は穏やかでは無かった。

 こころに何があったのか、研究会は良いのか、本当にそのまま入部してきて良いのか。

 言葉にしたい気持ちは沢山ある。でも躍は口には出さない。

 

 口に出してしまえば、こころは悩んでしまうだろう。

 心に抱えている暗さに追加して、自分の好きなダンスを続けて良いのかと。自分が自分じゃなくなってしまうほどに。嫌な事を忘れられる手段を自ら手放してしまうほどに。

 

「それじゃ、あまり邪魔するのも悪いから。紫雨さん、ダンス頑張ってね!」

 

「……はい」

 

 今の自分では力になれない。

 そう考えた躍は、己の無力さを胸に噛み締めてその場を後にするのであった。

 

 

 

 

 

「どうしようかな……」

 

 翌日、躍は再度昨日と同じ場所を訪ねた。

 しかしこころの姿は何処にも無かった。特段約束している訳でも、毎日同じ時間にダンスの練習をしている訳でもないので、会えないのは別に不思議ではない。

 

 それでも躍は昨日見たこころの姿が頭から離れず、どうにかしたいと頭を悩ます。

 一番手っ取り早いのはこころの自宅に向かって本人に会う選択肢なのだろうが、そもそもとして躍はこころの自宅を知らないので自然と確実な手の選択は消えていく。

 

「ん?」

 

 仮に会えたとしても、なんて声を掛ければ良いのか。

 ハムスターに遊ばれる回し車のように、思考の回転を続ける躍はふと、電柱に貼られている手書きのポスターへと意識が映る。

 

「キュアアイドル&キュアウインクのライブ?」

 

 そのアイドル達に躍は心当たりがあった。

 こころが部長を勤めている部活の名前にもなっているアイドル達だ。デビューしてから日が浅いから知名度こそは低いが、注目度の観点で見ればトップクラスと言えるだろう。そして名前程度ではあるが、躍も存在は認知していた。

 

 ライブが今日あるとは初めて聞いたが、そもそも躍はキュアアイドル達の情報を追っていない。あくまで「曲は聞いたことあるな。そんな人達が居るんだな」程度の認識である。きっと自分が知らなかっただけで、告知でもしていたのだろうと軽く受け止める。

 

「うん。良いかも」

 

 いつもなら「へぇ、そうなんだ」程度で流したが、今日の躍は違った。

 まずはこころに事情(隠し事)を聞くよりも、こころが好きな事(趣味)を知ろうと。相手のプライバシーに踏み込むよりも前に、相手に歩み寄ろうと思考を切り替えた躍は、ポスターに書かれている道に沿ってキュアアイドル&キュアウインクのライブ会場へと向かうのであった。

 

 …………そこからの記憶は曖昧である。

 

「ん、あれ……。俺どうしてたんだっけ」

 

 次に意識がハッキリとしたのは、自身が木陰に寄りかかっている場面であった。

 曖昧な記憶を掘り起こしながら、躍は自身の行動を振り替える。

 

 自分はキュアアイドル&キュアウインクのライブを見ようと、地図の通りに進んで、ライブ会場に辿り着いて……それから、どうだったのか。

 

 記憶がとても曖昧ではあるが、そんな曖昧な記憶の中に心当りが一切無い、それでも何処か心の中で「見た」と確信している光景がある。

 

『こころビート YES!! キュンキュン♪』

 

 あれは誰のステージだったのだろうか。

 こころの推しである、キュアアイドルでもキュアウインクでもない。そもそもアイドルは金髪であり、ウインクは青髪である。ステージで歌って踊っていた、こころと同じ紫髪の少女(・・・・・・・・・・・)とは似ても似つかない。

 

 知らない相手。知らない曲。知らない場所。

 いつの間にか自分は眠ってしまって、その夢の中の出来事を実際に見たと言った方が現実味があるだろう。

 

 しかし何故だろう。ステージに立っていた知らない筈の相手を自分を知っている気がする。振り付けこそは見覚えが無いが、踊りの癖を知っている。はて、だが何処で……

 

「先輩。大丈夫ですか?」

 

「紫雨、さん……?」

 

 そんな夢か現実か怪しい記憶を躍が振り返っていると、座っている自身を上から見上げるような形で、いつの間にかそこに居たこころが声を掛けてきた。

 

「良かった。起きたんですね」

 

「えっと……?」

 

 昨日の様子と一変し、憑き物が落ちたようにいつも通り。いやわそれを通り越して今まで以上にキラキラが溢れ出している。

 その様子から躍は理解した。抱えていた悩みが完全に消えて解決したのだと、そしてダンス部に入部する気はなくなったのだと。

 

「先輩、ごめんなさい。私、ダンス部には入れません」

 

 躍の予想通り、こころはダンス部の入部を断った。

 しかし勧誘を断られた躍の心に曇りは無い。それどころか、キラキラな表情をしているこころを見ていると、自身にもそのキラキラが別けられて胸が躍ってくる。まるで推しを前にしているかのように。

 

「キュアアイドルとキュアウインクをこれからも追いかけて、いつか二人みたいになりたいんです」

 

 こころは申し訳無さそうに頭を下げ、ダンスの入部を断った理由を話す。

 キュアアイドルとキュアウインクのようになりたい、つまりはアイドルになりたいと言う意味だろうか? いや、きっとそれは違うだろう。

 

 こころが言いたいのは、アイドルでもダンスでもなく、自分を見てくれる人をキラキラにしたい。自分の好きだからダンスをするのではなく、相手に好きを届けるためにダンスをしたい。その為に、研究会でアイドルプリキュアについて学びたい。そう言いたいのだろう。

 

「紫雨さんなら絶対なれるよ!」

 

 躍は勧誘を断られた事に対する残念さは一切抱かず、ただ目の前の後輩が新しい夢を見付けられた事を自分のように喜ぶ。

 そして躍はこころがキュアアイドルとキュアウインクのようにキラキラを周りに届ける姿を想像し、夢か現実か怪しい記憶に眠る少女を思い浮かべる。

 

「……うん。きっとあの子みたいに」

 

「あの子?」

 

「さっき見た不思議な夢? 記憶? に出てきた子! 紫雨さんみたいにダンスも歌も凄い上手だったんだよ!」

 

「へ、へー……ちなみにどんな子か聞いても良いですか?」

 

「うん。紫雨さんと同じ紫色の髪をしていて、頭に団子が二つ付いてる長めのツインテールで」

 

「…………」

 

 楽しそうに「あの子」とやらを語る躍とは裏腹に、こころの顔からはキラキラが無くなり、何かを隠しているかのように目が泳いで冷や汗をかく。

 

 実の所、躍の話している「あの子」とはこころである。正確に言えば、プリキュアに変身したキュアキュンキュンとなったこころではあるが。

 

 昨日躍と話したあと、こころはプリルンと紆余曲折ありながらも無事に仲直りした。

 そしてキュアアイドルとキュアウインクのようになりたいと、強く願ったこころはプリキュアとなった。

 その際に行ったライブを、一応は観客として見ていた躍はうっすらと覚えていたのだろう。躍は夢か現実か曖昧なようだが、変に指摘をすれば自身がキュアキュンキュンだと知られてしまうかもしれない。ここは何も言わずやりすごそう。

 

「あれが俺の推しなのかなぁ……ってあれ。紫雨さん、どうかした?」

 

「い、いえ! なんともないですよ!?」

 

 躍の心配の言葉をこころはなんでもないと誤魔化した。

 こころに隠し事が一つ増えた瞬間である。




 プリルンとの和解や、プリキュアに変身するまでの経緯はサラッと流しました。
 その辺りのシーンは書けない事も無いんですが、主人公居ないので内容が原作ママ(アニメと内容が変わらない)になるんですよね。原作大幅コピーはハーメルン様の規約違反になる都合上、内容が気になる人はキミプリ本編を見ましょう。

 そしてこの話が投稿される頃、私はポケモ……ンンッ! 諸事情で執筆から離れます。ですが第6話分(10月30日投稿)まで既に予約投稿済みです。それ以降の話は用事を終わらせたら必死で書きます。

プリキュアを見たことある?

  • 見たことが無い
  • 何話か見た
  • キミプリのみ見た
  • 複数のプリキュアシリーズを見た
  • 全プリキュアシリーズを見た
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