バトルスピリッツ 王者の鉄華2   作:バナナ 

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第10話「エボルト」

 

 

 

昔から、暇な時はよくカードの声を聞いていた。

 

世界を救った凄いバトルを体験した時の話とか、悪い奴のデッキに入っていて辛かった時の話とか、語ってくれるエピソードは、カードによって様々。

 

誰にも言えないおかしな話だけど、私にとって、それは狂おしいほどに好きな時間の1つだった。

 

カードの声は、いつだって純粋だ。だから信じていた。カード達の「イスルギは悪い奴じゃない」と言う言葉を。それがあったから、私はイスルギを信じ、ウィンドこそが真の黒幕だと睨んでいた。

 

しかし、結果はその真逆で。

 

 

 

******

 

 

 

地下の巨塔アンダーグラウンドスタジアムの頂上にて行われた、闇バトル決勝戦。

 

優勝と真実を賭けて戦った私とヒカリのバトルスピリッツは、結果的にどちらもヒカリの勝利に終わる。

 

そして、本性を表した大会主催者イスルギは、闇の瘴気へと姿を変え、ヒカリの身体を我が物にし、今、私の目の前にいる。

 

 

「イスルギが、ヒカリに……?」

「左様。だが、もう君の姉の意識はない。あるのは、このイスルギ、いや、Aカードの頂点、エボルトの魂だ」

「エボルト……」

 

 

その名前に鳥肌が立つ。

 

終始疑っていた徳川フウが語った真実。まさか、あんな出鱈目な話が本当だったとは思いもしなかった。

 

少しでもフウを、ヒカリを信じていれば変われた結果だったんだろうか。

 

 

「おや。あまり驚かないんだね。そこの女から聞いたのかな?」

「……」

「徳川フウ……!!」

 

 

この騒ぎの中、知らぬ間に観客席からバトル場へと降り立った女性、徳川フウ。

 

その顔を見るなり、私は腹の底から怒りが込み上げて来た。私は、Bパッドが破壊されたことで、地面に散らばったヒカリのカード、ガヴを回収しながら、彼女の方へ詰め寄る。

 

 

「おい。コイツはアイツに対するウィルスだったんじゃないのか!?」

「……えぇ。そうよ」

 

 

ガヴのカードを見せつけながら、私は切れ気味に質問。それに対して徳川フウは歯切れの悪い言葉で返答。

 

その声が、また私の怒りを募らせる。

 

 

「ふざけるな。効いてないじゃないか。そのせいでヒカリは」

「……」

「そもそもアンタがヒカリを闇バトルなんかに巻き込まなければ、こんなことにはならなかったのに」

 

 

自分はこんなにも怒りを露わにできる人間だったのだと驚いてもいた。

 

目の前の女だけが悪いわけじゃない。そんなことは理解していると言うのに、ヒカリの命が絡んだからか、内に秘めた怒りは収まることを知らない。

 

 

「そうよ。貴女の言う通り、全て私のせい」

「!」

「エボルトを倒すと言う大義を建前にして、私はヒカリちゃんを命懸けの戦いへ誘った。しかも最初は『願い』と言う嘘で誘惑してね」

「……」

「悪いのは私。何年時が経過しようが、私はDr.Aの孫で、大嘘つきの徳川フウ。本来ならその存在そのものが、赦されていいものじゃない」

 

 

だから、恨むなら私だけを恨め。

 

徳川フウは、そう言いたげな表情だった。

 

昔、カード達が言っていた。コイツは『悪』だと。平気な顔で嘘をつき、命を奪い、関わって来た人物全てを闇に陥れた邪悪な存在だと。

 

故に、少しでも気を許しては行けない。現にヒカリはエボルトに身体を奪われて………

 

 

「聞きたくない」

「え」

「オマエがどうかなんて、聞きたくない。私が聞きたいのは、ヒカリを救出する方法があるかどうかだけだ。あるんでしょ。だからオマエは中二階からバトル場まで降りて来た。違うか?」

 

 

でも今は、コイツの言葉を信じるしかない。

 

だって信じないと、ヒカリを救けられない。ヒカリがいなくなるのは、嫌だ。

 

 

「えぇ」

 

 

私の質問に対し、徳川フウは首を縦に振った。

 

 

「さっき、エボルトは明らかにガヴのウィルスを恐れた。だからヒカリちゃんのBパッドを破壊してまで、自らとカードとの距離を取った」

「ッ……じゃあこのカードをエボルトに当てれば」

「えぇ、可能性は十分に……」

 

 

徳川フウの推測により、光明が見えたその時。

 

それは起こった。

 

 

「は?」

 

 

ウィンドが、中二階の観客席にいた闇バトルの面々諸共消えた。

 

あまりに一瞬な出来事だったために、何が起こったのかを瞬時に把握できなかったが、地面に落ちた「徳川フウ」と言う名前が刻まれたバトスピカードを目にするなり、全てを察する。

 

 

「ッ……」

 

 

声を詰まらせて、何もリアクションできなかった。ウィンドと他の面々は、カードにされたのだ。おそらく、エボルトの力で。

 

 

「おや。今のでここにいる全員、カードになったはずだが、何故鉄華ミツキだけ免れた?」

「……エボルト」

「あぁそうか。ガヴのカードの影響か。おのれ徳川フウめ、余計な真似を」

 

 

エボルトは、状況を整理すると、展開後のBパッドの形状をした闇の瘴気を左腕に纏い、そこへデッキを投入。

 

 

「なら、私がバトルで勝ち、それを取り上げるまでだ」

「……」

 

 

目的は当然バトル。私の手にあるヒカリのガヴのカードを略奪するつもりのようだ。

 

 

「喜びたまえ鉄華ミツキ。君はこの世界で最後にバトルスピリッツをプレイしたカードバトラーとして、歴史に名を残すことになるのだから」

「……」

 

 

ようやく自覚して来た。ヒカリを、カードにされたみんなを元に戻すためには、腹を括って、目の前の怪物を倒す他にないのだと。

 

 

「最後にはさせない。私は、ヒカリともっとバトスピするんだ」

「ほお」

 

 

覚悟は決めた。Bパッドも再度展開した。

 

逃げることは許されない。

 

ここでこのバケモノに勝つ。それ以外に残された道はない。

 

 

「流石は、世界を救ったカードバトラーの1人、鉄華オーカミの娘。この状況になっても物怖じしないとは。いや、内心ではしているのかな?…まぁどちらでもよいか。さぁ始めよう。人類史最後のバトルスピリッツを」

「勝つ」

 

 

……ゲートオープン、界放!!

 

 

私とヒカリ以外の誰もがカードにされてしまった中、このアンダーグラウンドスタジアムの頂上にて、再びコールと共にバトルスピリッツが幕を開ける。

 

対戦カードは、私、ミツキと、ヒカリの身体を我が物にした、元ラスボスのエースカード、エボルト。

 

先攻はエボルトだ。人類最後の砦である私からガヴを取り上げるべく、ターンを進めて行く。

 

 

[ターン01]エボルト

 

 

「メインステップ。紫属性のネクサス、財団Xを配置」

 

 

ー【財団X】LV1

 

 

「配置時効果。手札の仇敵カード1枚を破棄することで、カウント+1。2枚ドロー」

 

 

エボルトの初手はネクサス。フィールドには出現しないタイプだ。その効果でエボルトのカウントと手札が増える。

 

 

「ターンエンド」

手札:6

場:【財団X】LV1

バースト:【無】

カウント:【1】

 

 

ここでエボルトはターンエンド。全人類の存亡を肩に乗せた、私のターンが始まる。

 

 

[ターン02]鉄華ミツキ

 

 

「メインステップ。お呼びください、奴の名を、Aカード、ウルトラマンゼット」

 

 

ー【ウルトラの絆 ウルトラマンゼット】LV1(2S)BP3000

 

 

私の初手は、Aカード。胸部にゼットの文字が刻み込まれた光の巨人、ウルトラマンゼット。

 

 

「ゼット。なんだその目は、まさか貴様、まだその小娘に従う気か?」

「アタックステップ。ゼットで攻撃。効果でカウント+2。1コアブースト。LV2にアップ」

「それはライフで受けよう」

 

 

〈ライフ5➡︎4〉エボルト

 

 

フィールドに出たゼットを見て、エボルトが何を感じたのかは定かではないが、それを無視し、私は即座に攻撃の宣言。

 

青いマントを脱ぎ捨て、飛び立ったゼットが、チョップ攻撃でエボルトのライフバリアを1枚粉砕する。

 

 

「ターンエンド」

手札:4

場:【ウルトラの絆 ウルトラマンゼット】LV2

バースト:【無】

カウント:【2】

 

 

淡々と進めて行き、私も最初のターンを終える。

 

 

「なんで」

「?」

「なんで貴方はこんな酷いことするの?…闇バトルが始まる前、貴方のことを疑っていた私に、ゼットは貴方のことを『良い人』だと教えてくれた。だから信用した。だから徳川フウの方が何かを企んでいると考えた」

 

 

エボルトにターンが回って来る直前。私はエボルトに訊いた。

 

エボルトは鼻で笑うと、返答する。

 

 

「フ。そう言えば、君はカードの声を聞き、意思疎通ができるんだったね。私もゼットも共にAカードと言う兄弟だ。兄弟を悪く思わない者なんていないだろう?」

「……」

 

 

要するに、ゼットは兄弟愛がある故に、エボルトのことを「良い人」と称したと言うことか。

 

 

「兄弟だからって悪く思わないなんてことはないよ。ヒカリだって、多分私のこと嫌いだし」

「何が言いたい?」

「……」

「私の善性に訴えかけても無駄だ。そんなもの、オマエ達人間には微塵も持ち合わせてはいない」

 

 

会話は一度途切れ、バトルスピリッツが再び進行。エボルトのターンが始まる。

 

 

[ターン03]エボルト

 

 

「メインステップ。財団XのLVを2に。さて、お披露目と行こうか。20年以上進化し続けた、私自身を」

「!」

「Aカード、契約エボルト。LV1で召喚……!!」

 

 

ー【エボルト(怪人態)[2]】LV1(1)BP3000

 

 

エボルトが召喚したのは、自分自身。かつて、この世界を混沌に陥れた悪魔の科学者、Dr.Aが操っていたとされるスピリット、エボルトが、契約スピリットとなって、私とゼットの前に立ちはだかる。

 

 

「1つ良いことを教えてやろう。かつて、唯一の成功例として、Dr.Aに改造された私は、毎分毎秒、常に進化を繰り返している。人生の中でほんの数回しか進化できない君らに、私を倒すことなど、到底不可能だ」

「進化するだけがバトルスピリッツじゃない。それは、Dr.Aに勝った芽座椎名が証明している」

「奴は特例だよ。普通の人間ではないからね。アタックステップ。我が分身、契約エボルトでアタック」

 

 

敵の攻撃が来た。エボルトは直後に「アタック時効果!」と強く宣言する。

 

 

「カウント+2。その後、私のカウント以下のコア数の相手スピリット1体を破壊する」

「!」

「私のカウントは3。コア3個のゼットを破壊」

 

 

契約エボルトは闇のオーラを拳に纏い、体格差をものともせずにゼットを殴り伏せ、破壊する。

 

 

「この効果で破壊した時、デッキから1枚ドロー。財団XのLV2効果。相手のスピリットを撃破した時、カウント+1」

「ゼットは魂状態で残す。アタックはライフ」

 

 

〈ライフ5➡︎4〉鉄華ミツキ

 

 

「ぐっ!?」

 

 

契約エボルトの掌より放たれた闇のエネルギー弾が、私のライフバリア1枚を粉砕する。

 

尋常ではない強い衝撃に、私は片膝をつく。

 

 

「どうした。たったの一発でもうお終いか?…ターンエンド」

手札:6

場:【エボルト(怪人態)[2]】LV1

【財団X】LV2

バースト:【無】

カウント:【4】

 

 

「そんなわけ、ないだろ」

 

 

身体を奪われたヒカリのために、私はすぐさま立ち上がると、巡って来たターンを進めて行く。

 

 

[ターン04]鉄華ミツキ

 

 

「メインステップ。創界神ネクサス、歴戦の勇者 ウルトラマンゼロを配置」

 

 

ー【歴戦の勇者 ウルトラマンゼロ】LV1

 

 

私の背後に、創界神ネクサスのウルトラ戦士、ゼロが出現する。

 

 

「神託でコア+3。さらに魂状態のゼットを対象に【契約煌臨】を発揮。宇宙拳法、秘伝の神業。ゼット アルファエッジ」

 

 

ー【ウルトラマンゼット アルファエッジ[5]】LV2(3)BP8000

 

 

魂状態のゼットが、光を帯びて、ゼロにも似た姿、アルファエッジとなって、フィールドへ復活。

 

 

「煌臨時効果。カウント+1。デッキから3枚オープンし、その中の対象カード、特空機4号を手札に。アタックステップ。アルファエッジで攻撃。効果でカウント+2。1コアブースト」

 

 

ゼットのデッキは兎に角攻撃あるのみ。それは相手が前人未到の力を持つバケモノであっても変わりはない。

 

 

「フラッシュ、創界神ゼロの【神技】を発揮。攻撃中のアルファエッジを回復」

 

 

私はさらに攻撃を叩き込むべく、フラッシュを宣言。アルファエッジに二度目の攻撃権利を与える。

 

 

「アタックはライフで受ける」

 

 

〈ライフ4➡︎3〉エボルト

 

 

アルファエッジは頭部からエネルギー状の刃を展開。それを神業の如く巧みに操り、エボルトのライフバリア1枚を切り裂く。

 

 

「もう一度、アルファエッジで攻撃。効果でカウント+1と1コアブースト」

 

 

二撃目まで行けた。良い調子だ。

 

このまま楽にライフを破壊できればいいけど。

 

 

「フラッシュ、【契約煌臨】を発揮」

「!」

 

 

やっぱりそう簡単に上手くはいかないか。エボルトはこのタイミングで初の【契約煌臨】持ちのカードを切って来た。

 

フィールドの契約エボルトが闇の瘴気に包まれて行く。

 

 

「仮面ライダーエボル コブラフォーム」

 

 

ー【仮面ライダーエボル コブラフォーム[2]】LV1(1)BP6000

 

 

契約エボルトは、闇の瘴気の中で姿を変え、ライダースピリットに。

 

禍々しさこそ残してはいるが、まだあまり強そうには見えない。

 

 

「煌臨時効果。カウント+1。その後、デッキから3枚破棄し、トラッシュにある仇敵カード1枚を手札に戻す」

 

 

契約煌臨したスピリットの効果が発揮。エボルトのトラッシュから1枚のカードが手札に戻る。

 

 

「それだけ?」

 

 

煽るつもりはなかったが、私は思わず口からこのセリフが出て来た。内心でホッとしていたんだろう。

 

だが。

 

 

「この瞬間、契約煌臨元となっている契約エボルトの効果を発揮」

「!」

「アタックステップ中に私のカウントが増加した時、そのカウント以下のコストを持つ仇敵スピリット1体を、トラッシュから全ての軽減シンボルを満たした状態で召喚する。闇の底より蘇れ、仮面ライダーデザスト」

 

 

ー【仮面ライダーデザスト】LV1(1)BP3000

 

 

契約エボルトが生成した闇の瘴気が、スピリットの形を形成し、具現化。闇の剣士、デザストがフィールドに蘇る。

 

 

「契約カードの効果で、トラッシュからスピリットを復活!?」

「私は全ての仇敵スピリットを司る。デザストの召喚時効果、カウント+1。そのカウント以下の疲労状態のスピリット1体を破壊する」

「なに」

「今の私のカウントは6。よってコスト4のアルファエッジを破壊」

 

 

蘇ったデザストは、その手に握る闇の剣をアルファエッジの胸部へと突き刺し、それを爆散へ追い込む。

 

 

「くっ」

「財団Xの効果でカウント+1。他愛もないな鉄華ミツキ。ゼット程のカードを使っておいてこの程度か?」

 

 

常に余裕綽々の表情を見せるエボルト。ヒカリの顔でそれをやられると腹が立つ。

 

 

「なわけない。フラッシュ、ゼットの効果。手札にある徳空機を1コストで召喚。来て、徳空機4号 ウルトロイドゼロ!!」

 

 

ー【特空機4号 ウルトロイドゼロ】LV3(5)BP15000

 

 

ゼットのもう1つの効果により、私が呼び出したのは、ゼロに限りなく似せて造られたであろう、ロボット、ウルトロイドゼロ。

 

 

「ほぉ。これはまた滑稽なスピリットを」

「その余裕の顔、ムカつく。召喚時効果。カウント2につき1つ、相手スピリット1体からコアを取り除く。よってコブラフォームを消滅」

 

 

呼び出されたウルトロイドゼロは、両腕に搭載されているマシンガンを掃射。

 

放たれた幾つもの弾丸は、コブラフォームを撃ち抜き、爆散させる。

 

 

「消滅した時、1枚ドロー。さらにアタック。効果で財団Xをゲームから除外し、2枚ドロー」

 

 

ウルトロイドゼロは、身体中から蒸気を噴き出しながら出撃。その鋼鉄の眼光が輝くと、エボルトのBパッド上にあるネクサスカードが塵芥のとなり、消え去る。

 

 

「滑稽なスピリットにお似合いのユニークな効果だ。アタックはデザストでブロック」

 

 

ウルトロイドゼロは、剣を向けて突撃して来たデザストを踏み潰し、破壊。勝利する。

 

 

「ターンエンド」

手札:6

場:【特空機4号 ウルトロイドゼロ】LV3

【ウルトラの絆 ウルトラマンゼット】(魂状態)

バースト:【無】

カウント:【7】

 

 

ウルトロイドゼロのお陰でなんとか優勢になれたこのターン。私はエンドとし、一度エボルトの様子を見る。

 

だが、そんなものはただの「まやかし」であると、直ぐに気付かされる。

 

 

[ターン05]エボルト

 

 

「メインステップ。魂状態の契約エボルトを対象に【契約煌臨】を発揮。このカードの【契約煌臨】は、ソウルコアの代わりに、相手スピリット1体からコアを3つリザーブに置くことでも発揮できる」

「なに、私のコアで【契約煌臨】!?」

 

 

気づいた時にはウルトロイドゼロから3つのコアが弾かれ、LVが3から1にダウンしていた。

 

そして、【契約煌臨】により、半透明の状態だった契約エボルトが、再び闇の瘴気を身に纏って行き。

 

 

「仮面ライダーエボル ブラックホールフォーム。LV2で契約煌臨」

 

 

ー【仮面ライダーエボル ブラックホールフォーム[2]】LV2(2)BP12000

 

 

復活した契約エボルトは、白き外装を纏う黒いライダースピリットへと変貌を遂げていた。

 

より禍々しさが増した、その姿の名は、エボル ブラックホールフォーム。

 

 

「煌臨時効果。ウルトロイドゼロを消滅」

 

 

ブラックホールフォームが、登場後直ぐに放った黒い球体。

 

おそらくブラックホールそのものであると思われるそれは、私のウルトロイドゼロを容易く吸い込み、フィールドから消し去った。

 

 

「続けてブロンズドライブを召喚」

 

 

ー【ブロンズドライブ】LV1(1)BP3000

 

 

「召喚時及び破壊時の効果。手札の仇敵カードを捨てて1枚ドロー」

 

 

エボルトが、ブラックホールフォームに続けて呼び出したのは、ブロンズ色の邪悪なライダースピリット、ブロンズドライブ。

 

 

「アタックステップ。ブラックホールフォームでアタック。その効果でカウント+2し、私のカウント以下のコストを持つブロンズドライブを破壊し、1枚ドロー」

「ッ……自分のスピリットを破壊!?」

 

 

アタックステップに入って、エボルトが行ったのは、まさかの自壊。

 

自分の効果で、自分のスピリットを破壊すると言い出したのだ。フィールドでは、ブラックホールフォームが、味方であるはずのブロンズドライブの胸部を腕で貫く。

 

 

「ブロンズドライブの効果。手札の仇敵カード1枚を捨て、1枚ドロー。さらにブラックホールフォームの【OC:9】の効果。自分のアタックステップ中に自分の仇敵スピリットが破壊された時、相手ライフ1つを破壊する」

「なに!?」

 

 

〈ライフ4➡︎3〉鉄華ミツキ

 

 

「うわっ!?」

 

 

次の瞬間。ブラックホールフォームは、もがき苦しむブロンズドライブを私に向かって投げつける。

 

ブロンズドライブは、前方の私のライフバリア1枚と衝突し、共に爆散。

 

 

「カウントが増えたことで、契約エボルトの効果発揮」

「!」

「カウント以下のコストの仇敵スピリット1体の軽減を全て満たし、召喚する。現れよ、ウルフ・デッドマン ライオット」

 

 

ー【ウルフ・デッドマン ライオット】LV2(3)BP8000

 

 

闇の瘴気が生み出す仇敵スピリットが、またフィールドに出現。今度は狼と炎の意匠を持つ怪人型のスピリット、ウルフ・デッドマン ライオットだ。

 

 

「ウルフ・デッドマン ライオットの召喚時効果。自分と相手のスピリットを1体ずつ破壊する」

「ッ……私のフィールドにスピリットはいないのに!?」

「私はウルフ・デッドマン ライオット自身を破壊。効果で1枚ドロー」

 

 

ウルフ・デッドマン ライオットは、逆巻く炎で身を焦がし、自身の肉体を焼失させる。

 

私のフィールドにスピリットはいない。一見すると意味のない効果だ。ブラックホールフォームさえいなければ。

 

 

「この瞬間、再びブラックホールフォームの【OC:9】の効果。ライフ1つを奪う」

 

 

〈ライフ3➡︎2〉鉄華ミツキ

 

 

「ぐぅっ!?」

 

 

肉体が燃え尽きた、ウルフ・デッドマン ライオットの魂が、邪悪な炎纏いし怨念となり、私のライフバリア1枚を燃やし尽くす。

 

 

「まだフラッシュタイミングも来てないのに、ライフを2つも破壊されるなんて」

「諦めたまえ。君と私では、内蔵された進化の量が違う」

「くっ……」

 

 

徐々に滲み出て来たのは、確かな格の違い。

 

掛け離れた実力差を感じつつも、私はめげずに手札のカード1枚を引き抜く。

 

 

「フラッシュ、ウルトラマンジード ギャラクシーライジングの効果を発揮」

「……手札からスピリット効果を」

「このカードを召喚」

 

 

ー【ウルトラマンジード ギャラクシーライジング〈R〉】LV1(1)BP5000

 

 

窮地になったタイミングで、光の如く救援に来た光の巨人。

 

その名はジード ギャラクシーライジング。釣り上がった目の形が特徴的なウルトラマンのスピリットだ。

 

 

「こうしてギャラクシーライジングを召喚したとき、このターンの間、私のライフは1つしか減らない。さらに召喚時効果。1枚ドロー」

 

 

ギャラクシーライジングが、私に与える恩恵は、防御とドロー。

 

私の残りライフは2つ。これでこのターンは確実に耐えることができる。

 

 

「ブラックホールフォームのアタックは、ギャラクシーライジングでブロック」

 

 

ギャラクシーライジングは、巨人故の恵まれた体格を活かし、ブラックホールフォームの頭上からパンチを繰り出すが、ブラックホールフォームは、それを片手一本で抑え込むと、逆にギャラクシーライジングを投げ飛ばして見せる。

 

 

「ギャラクシーライジングは召喚されたターン、破壊されない」

「ターンエンド」

手札:6

場:【仮面ライダーエボル ブラックホールフォーム[2]】LV2

バースト:【無】

カウント:【9】

 

 

ギャラクシーライジングのおかげで、なんとか残りライフ2を維持しつつ、自分のターンを迎えることができた。

 

私の今のカウントは7。アイツで決着をつける。

 

 

[ターン06]鉄華ミツキ

 

 

「メインステップ。【契約煌臨】発揮。魂状態のゼットを、暗黒纏し戦士、デスシウムライズクローへ!!」

 

 

暗黒の嵐を纏い、ゼットの強さは極限の境地へ。

 

黒と金に輝く肉体を持つ、私の真のエースカード。デスシウムライズクローがフィールドへ登場した。

 

 

「さらにトラッシュにある紫ブレイヴ、ベリアロクの効果。自身を1コストで召喚し、そのままデスシウムライズクローに合体」

 

 

ー【ウルトラマンゼット デスシウムライズクロー+幻界魔剣ベリアロク〈R〉】LV2(7)BP18000

 

 

出現した異次元の裂け目より手を伸ばし、デスシウムライズクローは、黒く邪悪な短剣、ベリアロクをその手に収める。

 

 

「アタックステップ。デスシウムライズクローで攻撃。契約煌臨元のゼットの効果でカウント+2。1コアブースト」

 

 

反撃開始だ。私の指示に応えたデスシウムライズクローがベリアロクを構える。

 

 

「デスシウムライズクローのアタック時効果。ブラックホールフォームをデッキ下に戻し、手札1枚を破棄」

「……」

 

 

ベリアロクを振るう、デスシウムライズクローの鋭い剣撃が、ブラックホールフォームを切断。契約エボルトを魂状態にまで追い込む。

 

 

「フラッシュマジック、仮面の魂」

「!」

「このターン、私のライフは1しか減らない」

 

 

世界の命運を別つ、この試合でも、仮面の魂に苦しめられる。

 

それが発揮された今、私は一度エボルトにターンを返す必要がある。その行為がどれだけ重たいのかは、もはや語るまでもない。

 

 

「フラッシュ、デスシウムライズクローの【OC:8】の効果。1ターンに一度、相手トラッシュのコア1つをボイドに置き、回復」

「コアを消すか。人間らしい小癪な手だ。アタックはライフで受ける」

 

 

〈ライフ3➡︎2〉エボルト

 

 

仮面の魂によって虹色のベールに守られたライフバリアへ向けて、ベリアロクの剣先を振り下ろすデスシウムライズクロー。

 

しかし、それは見た目よりも頑強。砕けた数は1枚のみと言う結果に終わる。

 

 

「もう一度デスシウムライズクローで攻撃。効果でカウント+2。1コアブースト」

「何度アタックしても無駄だ。仮面の魂の効力は、貴様がエンドを宣言するまで残り続ける」

 

 

デスシウムライズクローの二撃目。ベリアロクを横一閃に放った剣撃は、虹色のベールにより完全に弾かれる。

 

仮面の魂の影響下だと、砕けるライフの数は僅か1。その結果は当然だ。

 

 

「無駄じゃない。カウントとコアが増えた。創界神ゼロの【神域】の効果で、ゼットは疲労状態のままブロックできる」

「そんな効果に意味などない。だから無駄だと言っている。貴様もそうだゼット」

 

 

会話の最中、エボルトはフィールドにいるデスシウムライズクロー、ゼットへ視線を向ける。

 

 

「何故この私に歯向かう。いつまでその小娘に従っているのだ。貴様は憎くないのか、己の欲望のためだけに、我々カードを道具のように扱って来た人間達が」

 

 

自身と同じAカードであるゼットへ訴えかけるエボルト。

 

ゼットは、エボルトのこの問いかけに対して何も答えなくて。

 

 

「ノーコメントみたいだね」

「……」

「でも私には答えがわかる。ゼットは守りたいんだ。この闇バトルの中で絆を育んだ私のことを」

「なに」

「貴方もカードならわかるでしょ。カードとカードバトラーの間には、決して揺るがす、砕けない、固い絆があることを」

「そんなもの、あるわけなかろう。カードバトラーはカードバトラーでも、我が主人は、あのDr.Aだったんだぞ」

「うん。でも同時に、何度もカードと絆を育んだカードバトラーと対峙して来た。だからわかるはず。カードとカードバトラーの絆。そしてそれが、どれだけ強いものなのかを」

 

 

すると、エボルトは明らかに苛立ったような表情を見せて。

 

 

「黙れ」

「!」

「人間とカードの間にあるのは、使うか、使われるかの関係のみ。憎しみを暴力か支配でしか満たすことのできない人間如きが、知ったような口を聞くな。もう容赦はせん。徹底的に叩きのめし、ガヴのカードを奪い取ってくれる」

 

 

地雷を踏んで激情を露わにしたエボルトのターンが始まる。

 

 

[ターン07]エボルト

 

 

「メインステップ。貴様のデスシウムライズクローからコアを3つ取り除き、【契約煌臨】を発揮。契約エボルトを、再びブラックホールフォームへと進化させる」

 

 

ー【仮面ライダーエボル ブラックホールフォーム[2]】LV2(2)BP21000

 

 

2枚目。エボルトは全く同じ契約煌臨スピリットのカードを持っていた。

 

魂状態となっていた契約エボルトが、再びブラックホールフォームへと姿を変え、フィールドに再臨。

 

 

「煌臨時効果。ギャラクシーライジングからコアを取り除く。消し去れ」

 

 

ブラックホールフォームが掌から生成し、投げつけた黒いエネルギー弾が、ギャラクシーライジングに直撃。塵芥となり、この場から消し去られる。

 

 

「さらにブロンズドライブ」

 

 

ー【ブロンズドライブ】LV1(1)BP2000

 

 

ブラックホールフォームの横に現れたのは、またしてもブロンズドライブ。前のターンと同様の流れが展開されて行く。

 

 

「アタックステップ。ブラックホールフォームでアタック。再びその効果でデスシウムライズクローからコアを取り除く」

 

 

ブラックホールフォームの掌から放たれる黒いエネルギー弾が、デスシウムライズクローにも被弾。コアが多数弾け飛ぶが、前のターンに、予めコアを多く乗せていたため、消滅には至らなかった。

 

 

「契約エボルトの効果で、カウント+2。ブロンズドライブを破壊。ブラックホールフォームのもう1つの効果で、貴様に1点のダメージ」

 

 

また同じコンボ。ブラックホールフォームは、味方であるはずのブロンズドライブの頭部を鷲掴みにし、私のライフバリアへと投げつける。

 

 

「私のライフが効果によって減る時。手札から白晶防壁の効果を発揮」

「!」

「これを破棄することで、その減少数を-1にする」

 

 

〈ライフ2➡︎2〉鉄華ミツキ

 

 

私のライフバリアの前方で爆発するブロンズドライブ。

 

その瞬間、突如浮き上がった半透明の新たな防壁が、爆発による爆炎から私のライフバリアを守り抜いてくれた。

 

 

「だが、すぐさま次弾が装填されるぞ。私のカウントが増えたことで、契約エボルトの効果。トラッシュからウルフ・デッドマン ライオットを召喚」

 

 

ー【ウルフ・デッドマン ライオット】LV2(3)BP8000

 

 

ここも前のターンと同じ。

 

地底の底より雄叫びを上げながら、ウルフ・デッドマン ライオットがフィールドへ復活。

 

そして、今からまた死ぬ。

 

 

「召喚時効果。ウルフ・デッドマン ライオット自身を破壊し、デスシウムライズクローを破壊。

 

 

ウルフ・デッドマン ライオットは、自身の肉体を怨念のような黒い靄を帯びた炎に変換させると、デスシウムライズクローに飛びかかり、それを焼き尽くした。

 

 

「そして、ブラックホールフォームの効果で、今一度貴様に1点のダメージを与える」

 

 

デスシウムライズクローを焼き尽くした炎が、私の方にも広がり、襲いかかって来る。

 

 

「手札の白晶防壁を破棄することで効果発揮。もう一度、受ける効果ダメージを-1にする」

「2枚目!?」

 

 

〈ライフ2➡︎2〉鉄華ミツキ

 

 

私は、手札から捨てた2枚目の白晶防壁の効果を発揮。フィールドの側面から出現した猛吹雪が、広がり続けていた炎を掻き消した。

 

 

「まだそんなカードを隠し持っていたとは。だがどう足掻いても結果は同じ。ブラックホールフォームはダブルシンボル。貴様の残りライフなど、この一撃で十分だ」

「フラッシュマジック、白晶防壁」

「!?」

「今度はフラッシュ効果。このターン、私のライフは、如何なる場合があっても、1つしか減らない。その攻撃はライフで受ける」

 

 

〈ライフ2➡︎1〉鉄華ミツキ

 

 

「ぐ、ぐぁぁあ!?!」

 

 

迫り来るブラックホールフォームの拳を、私は隠し持っていた3枚目の白晶防壁のカードをBパッドへと叩きつけて、緩衝材となる別途のバリアを発生させることで、残り2つのライフバリアが全て砕けるのを阻止する。

 

 

「ハァッ……ハァッ……」

「馬鹿な。まだ耐え凌ぐだと。なんとしぶとい」

「どうしたの、まだ何かある?」

 

 

ギリギリの状態で耐え抜き、満身創痍な状態の中、私は息を切らしながらも立ち上がり、エボルトを煽る。

 

 

「いや、何もない。ターンエンドだ」

手札:6

場:【仮面ライダーエボル ブラックホールフォーム[2]】LV2

【バースト:【無】

カウント:【11】

 

 

よし。白晶防壁を溜め込んでた甲斐あって、なんとかターンが回って来てくれた。

 

次で必ずヒカリを取り戻してやる。

 

 

[ターン08]鉄華ミツキ

 

 

「メインステップ。ウィンダムを召喚」

 

 

ー【特空機2号 ウィンダム[2]】LV1(1)BP2000

 

 

「召喚時効果。カウント+1し、トラッシュに1コアブースト」

 

 

私が、いの一番に呼び出したのは、首が長めのロボット、ウィンダム。

 

この効果により、私のカウントは12にまで到達した。

 

 

「行くぞエボルト。私は今から、オマエを倒せる唯一無二のカードを呼ぶ」

「なんだと」

 

 

初めから、私とエボルトに力量差があるのは察していた。

 

だから咄嗟にデッキに投入したんだ。ヒカリの想いが詰まった、このカードを。

 

 

「仮面ライダーガヴ オーバーモード、LV2で召喚……!!」

 

 

ー【仮面ライダーガヴ オーバーモード】LV2(3)BP30000

 

 

「なに、ガヴだと!?」

 

 

私のフィールドに、オレンジ色のグミで構成された、マッシブな肉体を持つライダースピリット、オーバーガヴが見参。

 

これには流石のエボルトも驚いている様子。

 

 

「召喚時効果。ブラックホールフォームから全てのコアを取り除き、消滅させる」

「くっ」

 

 

オーバーガヴの拳圧は突風を巻き起こし、エボルトのフィールドにいるブラックホールフォームを難なく吹き飛ばした。

 

 

「徳川フウは言った。ガヴのカードをオマエに当てれば、倒せる可能性は十分にあると。当てる、つまり触れさせるだけでいいということだ。それなら、バトル中、ガヴがオマエのライフを破壊しても同じでしょ」

「!」

「ヒカリは返して貰う。アタックステップ、オーバーガヴで攻撃」

 

 

明らかにエボルトの動揺が激しくなった。どうやら本当に効き目があるらしい。

 

それを察した私は、即座にアタックステップを宣言し、オーバーガヴに攻撃の指示をする。

 

 

「オーバーガヴもダブルシンボルのスピリット。オマエのフィールドはガラ空き、残りライフは2つ。これで終わりだ」

 

 

この一撃で、ヒカリも、世界も救える。

 

そう思えた矢先、エボルトは手札から1枚のカードを、己のBパッドへと叩きつけた。

 

 

「させるものか。フラッシュマジック、エボルティックフィニッシュ」

「!」

「効果でコア2個以下のスピリット1を破壊したのち、契約エボルトを再召喚。ウィンダムを砕け」

 

 

ー【エボルト(怪人態)】LV2(3)BP9000

 

 

半透明の魂状態になっていた契約エボルトが、突如として色素を取り戻すと、そのまま跳び蹴り、ライダーキックを放ち、私のウィンダムを粉砕した。

 

 

「ッ……今の効果で、ブロッカーが」

「そうだ。いくらガヴのカードに、私を屠る力があれど、触れれなければどうと言うことはない。そうだ。全ては無意味。貴様らのように、カード達に戦いを虐げるだけの猿など、生きているだけ無駄なのだ」

 

 

拳を構えながら、のそのそと歩みを進め、ジリジリとエボルトとの距離を詰めていたオーバーガヴを、契約エボルトが阻む。

 

このままだとブロックされてしまい、勝利の道は閉ざされ、ヒカリも一生あのまま。

 

それだけは絶対にさせない。

 

 

「他の人間なんて、別にどうでもいい。カード化でもなんでもしろよ」

「……」

「でも、姉に、ヒカリに手を出す奴だけは絶対に許さない!!…フラッシュ【契約煌臨】、攻撃中のオーバーガヴを、マスターガヴにする」

「!?」

 

 

ー【仮面ライダーガヴ マスターモード】LV2(3)BP22000

 

 

私は、2枚目のガヴのカードを契約煌臨。

 

フィールドでは、オーバーガヴが自身の腰部に装着されてる小箱を反転させ、その姿を、紫色の野獣見溢れるマスターガヴへと切り替える。

 

 

「マスターガヴの【OC:12】の効果。ブロックされない」

「なに」

 

 

刹那。

 

マスターガヴは、立ちはだかる契約エボルトの前方から姿を消し、瞬く間にエボルトの目前へと移動して見せる。

 

 

「ヒカリを、私のお姉ちゃんを、返せぇぇぇぇえ!!!」

 

 

〈ライフ2➡︎1〉エボルト

 

 

「ぐ、ぐぉぉぉぉぉ!!!」

 

 

エネルギーと気合、そして、私の熱い想いを込めて放たれた、マスターガヴのライダーパンチは、エボルトのライフバリア1枚を貫き、遂にエボルトにその手が触れる。

 

直後、辺り一体に紫電が迸り、エボルトがもがき、苦しみ出す。ガヴのウィルスの効果が効き始めたのだろうか。

 

 

「どうだバケモノ。これが人間の足掻きだ。さっさとヒカリから離れろ」

「が、ぐ、ぐ」

 

 

地面に転がり込む程の苦しみ様から、確実に効いているのがわかる。

 

このまま行けば確実にヒカリを助けられる。

 

だが。

 

 

「効くか」

「!?」

「……人の叡智など、効いてたまるか。こんなもの、私の無限進化の前では無力だ」

「そ、そんな」

 

 

かろうじて、エボルトは立ち上がって来た。

 

息は枯れ果てており、満身創痍な様子だが、マスターガヴの一撃だけでは足りなかったのかもしれない。

 

ならもう一撃。と言いたいところだが、もうそんなリソースは残っていない。

 

敗北だ。私はヒカリを助けられないまま終わる。

 

 

「どうしたムシケラ。早くターンエンドを宣言したまえ」

「……」

 

 

ダメだ。ターンエンドを宣言したら負ける。

 

そしたらヒカリも永遠にあのまま。

 

嫌だ。

 

嫌だ嫌だ。嫌だ。

 

 

「嫌だ。ヒカリィィィィィィイ!!!」

 

 

息を吸い込み、ヒカリの名を叫んだ。

 

いつも「無感情」とか「人の心がない」とか言われるこの私の目から、涙が溢れて来る。

 

 

「ヒカリのこと信じてあげられなくてごめん。でも違うの。本当は私、ただヒカリを助けたくて、助けたくて」

 

 

助けたくて助けたくて助けたくてしょうがなかった。

 

だって、小さい時、臆病な私を、ヒカリはいつも守ってくれた。だから今度は私が、守ってあげたかった。恩を返したかった。

 

でもその気持ちが、よりヒカリを苦しめてしまった。私は自分が許せない。

 

 

「私、もっとヒカリとバトスピしたいよ。だから、そんな奴、早く振り払って戻って来てよ。お姉ちゃん……」

 

 

もう打つ手は残っていない。だからもう、必死に懇願し、泣き崩れることしかできなかった。

 

自分は、たった1人の姉すら救うことができない、惨めで情けない妹だ。

 

 

「もういいか?」

「……」

「叫ばせるだけ叫ばせてやったのだ。もう言い残すことはなかろう。私のター……ッ!?」

「え」

 

 

私に呆れたエボルトが、自分のターンを開始しようとした途端。

 

様子が一変した。突然、またもがき苦しみ出したのだ。

 

 

「な、なんだ。この身体の中を駆け回る異物感は!?」

「ふざけんな。異物はテメェだろうが」

「ヒカリ!?」

 

 

今一瞬。エボルトの口から、明らかに彼らしくない、チンピラ染みた言動が聞こえて来た。ヒカリだ。

 

まさか、中でヒカリがエボルトに抗っているのだろうか。

 

 

「貴様、鉄華ヒカリ。馬鹿な、既に意識は途絶えたはず」

「あぁ。ずっと暗いところに閉じ込められていたぜ。でもな、ガヴの拳に乗っかって来た熱い想いが、私に一筋の光明を与えてくれた」

「何を訳のわからんことを」

「オマエにだけは言われたくねぇよ」

 

 

私こと鉄華ヒカリは、エボルトの力に抗い続ける中、自分の左腕に、黒い靄で構成された、趣味の悪いBパッドを視認する。さらにその上にある、エボルトのカードも。

 

 

「コイツか。コイツが邪魔なんだな」

 

 

私はすぐさま、僅かにコントロールを取り戻した右腕で、左腕に装着されたBパッドを鷲掴みにする。

 

 

「まさか、カードごと無理矢理引き剥がす気か!?…愚かな。そんな強引なことをすれば、貴様もただでは」

「うるせぇ。妹が身体張ってんだ。お姉ちゃんが何もしねぇわけにはいかねぇだろうが。それにテメェがいると、もうガヴのデッキを使えねぇじゃねぇかァァァァァァァァ!!!」

 

 

叫びながら、有りっ丈の力を使い、私は左腕のBパッドを引き剥がし、大地に叩きつけた。

 

 

「ぐ、ぐぁぁぁぁあ!?!」

 

 

するとエボルトは、狂ったような断末魔を上げ、闇の瘴気ごと消滅して行った。

 

ガヴのウィルスが効いていたみたいだし、私から分離されたことで、完全に消滅したのかもしれない。

 

 

「私の使うデッキは、カードは、ガヴだけだ」

 

 

闇の瘴気で構成されたBパッドも消えたことで、行われていたバトルも無効になったのか、フィールドに残っていた契約エボルトが粒子化し、消え去って行く。

 

そして、マスターガヴも。

 

 

「ありがとな、相棒。伝わったぜ、オマエとミツキの熱い想い」

 

 

私は、今にもこの場から消えようとするマスターガヴに向かって、そう告げる。

 

マスターガヴは、頷き、契約エボルトと同様、粒子化してこの場を去った。

 

 

「ヒカリィィィ!!」

「ミツキ」

 

 

私の元に駆け寄って来たミツキ。そのまま私を抱き締めた。

 

声の掠れ具合から、涙を流しているのがわかる。コイツが泣くのを見るのは、小さい時以来だ。

 

 

「よかった。ヒカリ」

「おいおい、何泣いてんだよ、らしくねぇ」

「らしくなくないもん」

「ったく。まぁでも、頑張ったな」

 

 

私は、自分よりも上背の双子の妹、ミツキの頭を撫でる。

 

その間、さらにもう1人、私達2人を抱き締めてくれた人物がいて。

 

 

「ありがとう。ヒカリちゃん、ミツキちゃん」

「ウィンド!?…カード化から解放されたのか!?」

「えぇ。他のみんなもね」

 

 

エボルトに取り憑かれていた時の記憶は全て覚えていた。よかった。みんなカードから元に戻れたんだ。

 

中二階にいる闇バトル参加者達は、この状況を何も理解できずに、みんな不思議そうにこっちを見ているけど。

 

 

「本当に、なんとお礼を言えばいいか。お祖父様の負の遺産を倒してくれて、ありがとう……」

「おいおい、湿っぽいのはやめろよウィンド」

 

 

泣き崩れかけるウィンドに、私が告げる。

 

 

「そうだ。私達姉妹の感動の再会に、オマエは邪魔」

「話をややこしくするな」

 

 

真顔で変なことを言うミツキにツッコミを入れると、自然と笑みが溢れた。

 

私達は勝ったんだ。エボルトを倒して世界を救ったんだ。

 

本気で、そう思っていた。

 

 

「そうだ。湿っぽいのはやめろ」

「!」

「エボルト!?」

 

 

どこからともなく、エボルトの声が聞こえて来た。私達3人は瞬時に背中合わせになり、辺りを見渡すが、それらしきものは見えない。

 

しかし、次の瞬間。

 

 

「うわッ!?」

「ミツキ!?」

 

 

ミツキがもがき苦しみ出した。さらにその矢先、ミツキの身体から闇の瘴気が噴き出し、左腕のBパッドが粉砕され、デッキのカードがバラバラに飛び散る。

 

私は察した。エボルトは、次はミツキを自分の依代としようとしていることを。

 

 

「おいミツキ、しっかりしろ」

「ミツキちゃん!!」

「うっ……うっ。ヒカリ、私を倒せ。ぐぅあ……」

 

 

ミツキはその言葉を最後に気を失った。

 

そして、すぐに目覚める。かの悪のカリスマ、Dr.Aが残した最凶の怪物、エボルトとして。

 

 

「この私をここまで追い詰めようとは。認めんぞ人間ども。貴様らとカードに絆の力があるなどと」

「うるせぇぞエボルト!!…私の妹を返せ」

 

 

しぶとくも、まだ生きていた。今度はミツキの身体を奪ったアイツに、私は怒りを露わにする。

 

 

「喧しい。貴様らとの戯れはここまでだ。私は一瞬にして、この世界に蔓延る、全ての人間をカードにしてくれる」

「なんだと!?」

「ハハハ。ハーハッハッハ!!…私の勝ちだ」

「どこに行きやがる。待ちやがれ!!」

 

 

エボルトはそう告げると、高笑いしながら、闇の瘴気を纏い、不思議な力で浮遊すると、アンダーグラウンドスタジアムの頂上から飛び立った。

 

その様子は、まるで地下から地上。いや、天空を目指す様な感じで。

 

 

「エボルトの狙いがわかったわ」

「!」

「奴のカード化する力は絶大だけど、その範囲には限りがある。だから奴はおそらく、地球の遙か上空、大気圏外まで飛翔し、そこからカード化する光線を放つことで、地球全体にいる人間達を纏めてカード化するつもりなのよ」

 

 

ウィンドが私に告げて来た。確かに、それだとさっき言い放っていたアイツの言動にも辻褄が合う。

 

 

「それを止めるためにはどうしたらいいんだ。教えてくれウィンド!!」

 

 

私はウィンドに訊いた。エボルトを止めて、ミツキと世界を救う方法を。

 

ウィンドは、少しだけ言葉を詰まらせた後に、返答する。

 

 

「……確かにあるわ。でも、この方法はあまりにも危険過ぎる」

 

 

ウィンドの言葉に、「今さら何言ってんだ」と、思いながら、私は口角を上げた。

 

 

「頼む」

「……」

 

 

私の覚悟を知ったウィンド。その後すぐに、私にエボルトを止める唯一の手段を話してくれる。

 

 

「エボルトは無限に進化を繰り返すバケモノ。ガヴのウィルスが効かなかった理由は、おそらく進化することによって『抗体』を得たから。ガヴがこれに対抗するためには、ガヴ自身、進化するしかない」

「いや無理だろ。急に進化しろって言われても」

 

 

すると、ウィンドは辺り一帯を見渡す。その目線の先には、これまで私とミツキが戦い続けて来た、数百を超える闇バトル参加者の面々。

 

 

「手段ならある。闇バトル参加者の持つ『Aカード』の進化の力を1つに集結させるのよ」

「!」

「元々、Aカードはお祖父様が研究していたカード。その全てに進化の力が内包されているの」

「つ、つまり。みんなの力をガヴに集めれば」

 

 

ウィンドは頷いた。

 

それなら話は早い。私は早急に散らばったガヴのデッキのカードをかき集めると、中二階の観客席にいる、闇バトル参加者の面々に向かって。

 

 

「みんなァァァァ!!!…オマエ達のAカードの力を、私とガヴに預けてけれ!!」

 

 

そう叫んだ。

 

その結果は………

 

 

「……」

「頼むみんな。Aカードを掲げてくれ!!…見ただろ、世界が、ミツキが大変なんだ!!」

 

 

静寂。誰も返事をしてくれなかった。

 

無理もない。一時的にカード化されていたとは言え、側から目視しただけで、この状況が理解できるわけがない。

 

だが。

 

 

「それなら、私のカードを使ってください、ヒカリさん」

「!」

 

 

たった1人。たった1人だけ、私の声に応えてくれた人物がいた。

 

 

「タダツネ!!」

 

 

そう。キコの親父さん、タダツネだった。意外だったけど、私とミツキの決勝戦を観に来てくれていたんだ。

 

直後、タダツネは自身の持つAカードを私とガヴに向けてくれる。

 

 

「ガハハ!!…よくわからんが、受け取れ小学生」

「ヒカリ様のためなら、僕はなんだってやりますよォォォ!!」

 

 

今度は1戦目の対戦相手、鋼野ガトーと、2戦目の対戦相手、二階堂ツツジが。

 

そしてそれを皮切りに、次々と参加者達が私とガヴに、自身の持つAカードを掲げ始める。

 

力を貸し、与えたい。誰かを助けたい。そんなみんなの『願い』が、掲げられたAカードから赤い光を放出させる。

 

それこそおそらく、進化の光。私とガヴは、それらを一身に受け止める。

 

 

「うぉぉぉぉォォォォ!!!!」

 

 

みんなの熱き想いが、紡いで来たカードとの絆が、進化の力として、私とガヴに宿る。

 

その際、溢れんばかりの力によって、私の白いバトルスーツは赤く染まり、髪が、着用していたニット帽が燃え尽きる程の熱を持つ炎に変化した。

 

 

「ヒカリちゃん。私のBパッドを使って」

「あぁ、助かるぜ」

 

 

私の変化を見届けたウィンドが、私に向かって自分のBパッドを投げ渡してくれた。エボルトによって壊されていたから、その行為は非常に助かる。

 

私がそれを左腕に装着し、ガヴのデッキをそこへ装填すると、そのBパッドの色も、炎のような赤に変化した。

 

そして、地面に落ちていたミツキの「ゼット」のカードも、みんなと同様に赤い光を私達に放ち、力を与える。

 

 

「ヒカリちゃん」

「なんだ?」

 

 

ウィンドが私に声をかけて来た。

 

 

「見ての通り、進化の力は強大よ。でも、その力を飽和状態になる程抱えてしまったら、最悪の場合、かつての私のお祖父様のように」

「帰ったら、私に新しいBパッド買ってくれ」

「!」

「約束だぜ。これくらい小さな願いなら、すぐに叶えられるだろ?」

 

 

私の小さな願い。それを聞くなり、ウィンドは笑顔を見せて。

 

 

「えぇ。約束するわ。だから、必ず帰って来なさい」

「あぁ」

「それと、この子も連れて行ってあげて」

「?」

 

 

ウィンドはそう告げながら、1枚のカードを懐から取り出し、私に見せつける。

 

そのカードは。

 

 

「ッ……べ、ベリアル!?」

「ニッヒヒ」

 

 

邪悪な巨人。ベリアルのカードだった。

 

その際に突然思い出した。

 

私とミツキが幼い頃、誘拐犯に拉致された時に、このベリアルが助けてくれたことを。

それを操っていた女性のカードバトラーがいたことを。

 

 

「ほ、本物!?……ま、待てよ。じゃあオマエ」

「いってらっしゃい」

 

 

ウィンドを問い詰めようとした直後、彼女は屈託のない笑顔を私に向けながら、そう告げた。

 

その一言によって、私は喉の先にまで飛び出しかけた言葉を飲み込み……

 

 

「おう、行って来るぜ」

 

 

全ての戦いに決着をつけるべく、エボルト同様、浮遊し、天空へ向かって飛び出して行った。

 

 

「勝って。また世界を救って、王者の鉄華……」

 

 

天空へ飛び立った、燃え上がる赤い勇者に向かって、ウィンドが祈るように両手を合わせながら、呟いた。

 

 

 

******

 

 

 

ここは、高度100kmを超える、大気圏外。いわゆる宇宙だ。

 

鉄華ミツキの肉体を依代としたエボルトは、多くの人々を常に乗せ、廻っている地球を目に映していた。

 

その際、何を考えていたのかは、彼のみぞ知る。

 

 

「地球よ。オマエは美しい。だが、オマエに棲みついた生物は醜く、愚かであった。互いに憎しみ合いと殺し合いを繰り返し、仕舞いには我らカードをそれらのために用いて使った。その行為は万死に値するのだ」

 

 

エボルトは右掌を地球へと向ける。

 

カード化するためだ。その角度からそれを放った場合、間違いなく地球はそれに覆われ、今を生きる者達は漏れなく全てカードとなることだろう。

 

 

「滅ぶがいい。人よ」

 

 

エボルトがそれを放とうとした直前。全人類が消え失せる数秒前。

 

突如、赤い閃光が、凄まじい速度でエボルトに接近して行き………

 

 

「待てやゴラァァァァ!!!」

「ぐおぉ!?」

 

 

その赤い閃光とは、私、鉄華ヒカリのことだ。

 

依代になったミツキには悪いが、カード化の光線を放とうとしたエボルトの腹を、勢いのままドロップキックで阻害する。

 

 

「て、鉄華ヒカリ!?…その姿、まさか他のAカードを、我が兄弟達の力を束ねたとでも言うのか!?」

「もう逃がさねぇぜエボルト。さぁどうする。大人しくこの世界から手を引くか、それとも今、私達に倒されるか……!!」

 

 

新しい1日。新しい夜明けを迎えるため。何より大切な妹のため、私とガヴの、最後のバトルスピリッツが幕を開けようとしていた。

 

 

 




次回、第11話「さらば、バトルスピリッツ」


******

新年、あけましておめでとうございます!!
今年もよろしくお願いします!!

王者の鉄華2は、完結まで残り2話となりました。オメガワールド、オーバーエヴォリューションズ、王者の鉄華と続いた世界線のラストを飾るに相応しい話が執筆できるよう、頑張ります!!
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