バトルスピリッツ 王者の鉄華2   作:バナナ 

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最終話「アメイジングな世界へ」

 

 

 

野蛮な連中の喧騒が絶えない、薄暗いバトルスタジアム。

 

私こと鉄華ヒカリは、その喧騒を全身に浴びながら、バトルスピリッツを行っていた。対面は雑魚。もちろん、もう間もなく私の勝ちだ。

 

 

「契約アイギスで、アタック」

「ラ、ライフで……うぁぁぁー!!」

 

 

私の指示に従い、金髪青眼の機械少女が、指先から弾丸を連射。

 

対面の男のライフバリアを全て撃ち抜き、私を勝利へ導いた。

 

 

「決まったァァァァ!!…一体誰が予想しただろうか、なんと優勝は未成年の少女、ジャパニーズ出身のヒカリだァァァァ!!!」

 

 

MCらしき金髪トサカの男がそう告げると、喧しい喧騒が、より一層耳障りになる。

 

私はノーリアクションのまま、Bパッドのバトルモードをオフにすると、不必要となったアイギスがこの場からゆっくりと消滅した。

 

 

「ブラボーブラボー、流石は鉄華ヒカリ。あの鉄華オーカミの娘なだけある」

 

 

そんな私に声を掛けて来たのは、銀髪オールバックの男。着こなしている金箔のスーツもさることながら、全ての指に値段が想像つかない程の指輪をはめていることから、相当な金持ちであることが伺える。

 

 

「おぉ、勝ったぜ。約束通りくれんだろ、コ・レ♡」

 

 

私は銀髪オールバックの男に、金のサインを向ける。

 

すると男は薄ら笑いを見せて。

 

 

「当然さ。約束通り相当の額をお支払いしよう。まぁでも、そんなものより、君の身体の方が高価なものになるだろうがね」

「!」

 

 

そう告げると、銀髪オールバックの男は、私の両手に手錠を掛けた。

 

 

「おめでとう。君はこれからカード兵士として、多くのお金を稼ぐだろう。そのお金は雇い主に全て入るけどね」

「……」

「ハハハ!!…馬鹿だね君は。この地域で鉄華オーカミの娘だなんて言いふらしたら、カード兵士として売り飛ばされるに決まってるじゃないか」

 

 

男が口喧しく何かを話している気がするが、昨日徹夜したせいか、眠くて何も聞いてなかった。

 

 

「ふぁ〜あ」

「ハハハ。よく欠伸なんて出るね。まだ何が起こったかわからないのかい?」

「どうする」

「は?」

「カード兵士の人身売買をやめるか、それとも、ここで捕まるか」

「は?」

 

 

男に二択の問い掛けを強いる私だったが、男がそれを選択する間もなく、タイムリミットを迎えた。

 

薄暗いバトルスタジアムから日が刺した。バトルスタジアムの壁が大きな音を立てながら粉砕されたのだ。

 

私の双子の妹、鉄華ミツキの召喚した、ウルトラマンゼットによって。

 

 

「ヒカリに手を出す奴は殺す」

 

 

ミツキが言った。表情はいつも通りの無表情だけど、強めの言動と雰囲気から、めちゃくちゃブチ切れてるのがわかる。

 

 

「な、なんだコイツは!?」

「やっぱ悪党の現行犯逮捕に限るよな。悪いことした直後の奴をボコるのは、こっちとしても気分が良いし」

「オマエ、本当は何者だ!!」

 

 

今度は男が、私に訊いた。私は、掛けられた手錠を力づくで千切り終えると、答える。

 

 

「別に何者でもねぇよ。悪しきバトルスピリッツを成敗して回ってるだけの、ただのガキ2人だ。覚悟しろよ。テメェらの罪は重いぜ」

 

 

その後、どちらに群杯が上がったのかは、言うまでもない。

 

私とミツキの2人で、この場にいたカード兵士を人身売買する犯罪グループを一網打尽にし、全員お縄につかせた。

 

 

******

 

 

「やり過ぎよ」

 

 

あれから数時間後、警察が犯罪グループを連行する中、もう直ぐ40代間近で、そろそろ顔に小皺が出て来た女性、ウィンドが、薄暗いバトルスタジアムに空いた大きな穴を指差しながら、私とミツキに言った。

 

 

「いや、アレはミツキがやったんだよ」

 

 

私がそう言い返すと、ウィンドはミツキの方へ顔を向ける。

 

 

「ミツキちゃん。貴女はどうしていつもやり過ぎるの。いつも壊れた物の修繕費を誰が支払ってると思ってるの?」

「……ヒカリが悪い」

「はぁ!?」

 

 

言い訳が出て来なかったミツキは、あろうことか私に責任転嫁する。

 

 

「私の何が悪いってんだ。オマエが盛大にぶち壊してただろうがよ」

「壊してない」

「ウソをつくな!!」

 

 

無表情な顔で、息を吸うようにウソをつくミツキ。見兼ねたウィンドは「はぁ」と、ため息を吐くと……

 

 

「近いうちに、みんなでバイトしないといけなくなるかもね」

「え、待てよ。じゃあその間は、そのバイト先のある町に住まないと行けねぇってことか!?」

「そうに決まってるでしょ。毎回こんな派手に物を壊すんだから」

 

 

闇バトルが終わってから2年。旅を始めてから1年が経過した。

 

私とミツキ、ウィンドの3人は、今日のように、バトルスピリッツを悪用しようとする連中を倒して回っていた。

 

お金のやりくりは大変だけど、なんだかんだで楽しくやっている。

 

 

「もう2ターン、早く勝つことが可能でした」

「あ?」

「アイギスがそう言ってる」

 

 

黙ってたミツキが急に口を開く。

 

私の今のデッキの契約カード、アイギスが話していたことを、勝手に通訳してくれたのだ。

 

 

「ホントにそんなこと言ってんのかよ」

「言ってる。アイギスは、まだヒカリに相棒だと認められていないのが嫌みたい」

「相棒ねぇ」

 

 

私はスカジャンの右ポケットからアイギスのカードを取り出し、そう呟く。

 

アイギスとは、もう1年。それなりに長い付き合いになった。闇バトルのたった11日間しか戦っていない、ガヴと比べたらかなりの差がある。

 

だけど……

 

 

「まだ、ガヴが忘れられない?」

 

 

ウィンドが私に訊いた。

 

そう。その通りだ。私の頭の中には、ガヴと共に駆け抜けたあの11日間の記憶が、未だに焼き付いている。

 

 

「ごめんね。アイギスじゃ、役不足だったかしら」

 

 

立て続けにウィンドが言った。

 

ガヴもアイギスも、元はウィンドのカードだったため、自責の念を感じているのだろう。

 

 

「そもそもアイギスに、ガヴの代わりなんて求めてねぇよ。アイツの代わりなんかどこにもいやしねぇ。ガヴはガヴで、アイギスはアイギスだ」

 

 

私は少しだけ突っぱねた態度でそう告げると、アイギスのカードをポケットのデッキへと収めた。

 

 

「本当に求めてないの?」

「!」

 

 

私にそう訊いて来たのは、ミツキでもウィンドでもなく、まだ10歳程度の少年だった。黒い髪で、顔立ちが良い。正直10年後の姿が見てみたいと思ったくらいだ。

 

 

「だ、誰?…誰の子供?」

 

 

私はミツキとウィンドに訊いた。

 

 

「私達の歳で子供はあり得ない。多分ウィンド」

「私生涯独身を貫くと誓ってるの。冗談も程々にしなさい」

 

 

私達の冗談に対して、いい加減キレ気味になって来たウィンド。

 

その後直ぐに笑顔を作り、少年の目線を合わせるように、しゃがむ。

 

 

「ぼく、どこから来たの?…お母さんは一緒じゃないの?」

「ねぇ。求めないの、自分の願ったもの」

「…いや、だからお母さんは?…ここ結構危な〜いところなのよ」

「求めないわけ、ないよね?」

「……」

 

 

なんとか少年と会話しようと試みるウィンドだったが、こちらに向かってお手上げだと言わんばかりのポーズを見せて来た。

 

 

「どうすんだよこのガキ」

 

 

私は、またミツキとウィンドに訊いた。

 

 

「多分孤児ね。差し詰め理由は、親がカード兵士にされたとか、その辺かしら」

 

 

ウィンドが答えた。今はカード兵士を人身売買していた現場にいるのだから、その発想になるのは至極当然である。

 

 

「私達が面倒見る?」

 

 

ミツキが発言した。

 

 

「却下。子守する程私らは暇じゃねぇ。今ならその辺に警察がいる。さっさと引き渡して来い」

 

 

取り敢えず警察に預かってもらおう。

 

そう思った矢先だった。

 

少年が不敵な笑みを浮かべたのは。

 

 

「ねぇ。見せてよ。君達が心の奥底で求めているものを」

「は?…オマエ、さっきから何言って……ッ」

 

 

少年が懐からカードを取り出した瞬間。そこから黒い光が、解き放たれたように伸びて行き、あっという間に私達3人を飲み込んだ。

 

 

******

 

 

 

「ヒカリ、起きて」

「……」

「こら、起きなさい、ヒカリ!!」

「ッ……え、なに!?…なにごと!?」

 

 

私こと鉄華ヒカリは、誰かの声を聞き、勢い良く跳び上がる。

 

そこに広がっていた光景は………

 

 

「わ、私の部屋??」

 

 

見知った天井、見知った間取り。優しい母さんの顔。間違いなく私の家だった。

 

あり得ない。だってさっきまで私は……

 

 

「なんで」

「なんでって、自分の部屋なんだから、当たり前でしょう」

「当たり前なわけあるか。だってついさっきまで……」

 

 

あれ。私、さっきまでどこで何してたんだっけ。

 

妙に頭に何か引っかかる。

 

なんでだ。

 

 

「寝ぼけてないで、顔洗って来なさい。今日は父さんが帰って来てるんだから」

「え、父さんが!?」

 

 

珍しい。あのプロのカードバトラーとして多忙な鉄華オーカミが、家に帰って来るなんて。

 

気になることは後で考えるとして、今は父さんの顔でも拝んどいてやるか。そう思った私は、母さんの言う通り、顔を洗い、ついでに服まで私服に着替えた。

 

 

ー………

 

 

何度も開けて来た、自宅のリビングのドア前。

 

私こと鉄華ヒカリは、珍しく緊張していた。母さんの作った朝食の匂いとは別に、もう1つ、別の匂いを感じていたからだ。

 

 

「……」

 

 

意を決して、ドアノブを掴み、入室する。

 

朝食の匂いが広がると同時に、私が目にした人物は……

 

 

「あぁヒカリ。おはよう」

「父さん……おかえり」

 

 

父、鉄華オーカミだった。

 

言うまでもなく、20年以上前に、バトルスピリッツで世界を救った大英雄だ。この世に生きる者全てが、彼をそう称えている。

 

と言っても、私から見た時の価値観は、他の父親と何ら変わりない。私と同じ赤色の髪を持ち、40近くの歳の割にはかなり端正な顔立ちの、ただの親父だ。

 

 

「こらヒカリ。朝ご飯冷めるよ」

「あ、悪りぃ母さん。いただきます」

 

 

母さんにそう言われると、私はテーブル椅子に腰掛け、手を合わし、母さんの作った朝食を食し始める。

 

 

「…母さんのご飯、久しぶりに食べた気がする」

「何言ってんの、昨日も食べたでしょ?…美味しくない?」

「いや、美味しい。めっちゃ」

 

 

不思議と、母さんのご飯の味が妙に懐かしく感じた。

 

父さんが帰って来て、家の空気感が変わったからだろうか。

 

 

「父さんは久しぶりだよな。母さんのご飯」

 

 

私が父さんに訊いた。

 

 

「うん。まぁ」

 

 

それに対し、父さんは薄いリアクション。まるでミツキみたいだ。

 

 

「久しぶりの愛妻の手料理のお味はどうよ、マイハズバンド」

 

 

母さんがドヤ顔で父さんに訊いた。

 

 

「美味しい」

「へへ。そうだろそうだろ。さ、もっと食べろよ」

 

 

普通なら百年の愛も冷めると思われる、父さんの薄いリアクションでも、母さんは大喜び。

 

ホントお似合いだよ、この2人。

 

 

「ヒカリ」

「あ?」

「バトスピ、楽しいか?」

 

 

今度は父さんが私に訊いた。あの淡白な父さんが、自分から話しかけるのはとても珍しい。

 

 

「……まぁ、昔よりかは……?」

 

 

私は、自分の返答に対して、疑問を抱いた。

 

それもそのはず、私はバトスピが嫌いだ。少しだって楽しいなんて思うはずがない。

 

 

「そっか、なら良かった」

「……」

 

 

さっきからやっぱり、何か変だ。

 

この空気感や雰囲気と言い、なんだろう。何か大事なものが欠けたような………

 

 

「あ、ヒカリ。そう言えば、今日はキコちゃんと遊ぶ約束してたんじゃないの?」

「あっ!!…やば、忘れてた」

 

 

母さんの言葉で思い出した。

 

そうだ。今日は私の小さな友達、佐々木キコとヴルムヶ丘公園で遊ぶ約束していたんだ。

 

 

「早く行かなきゃ。ご馳走さん」

「はい、いってらっしゃい」

 

 

ご飯をかき上げて飲み込み、強引に食べ終えると、私は急いで席を立つ。

 

 

「ヒカリ」

「なに父さん、急いでんだけど」

「負けるなよ」

「??」

 

 

去り際、父さんからの意味不明な一言に、一瞬困惑し、足が止まる。

 

 

「キコにわざと負けるなよってこと?…手なんか抜かねぇよ。最近あの子めっちゃくちゃ強いんだぜ?」

「……」

「無視かよ。まぁいいや、行ってくんぜ」

 

 

急いでた私を言葉で制止させたくせに、会話の途中でまたご飯を食べ始めた父さんを他所に、私はリビングを後にし、家を飛び出した。

 

 

******

 

 

ヴルムヶ丘公園。

 

界放市ジークフリード区にある大きな公園で、たくさんの人々がバトスピができるよう、遊具は少なめで、スペースが広め。

 

バトスピをするなら打って付けの場所だ。

 

 

「あ、ヒカリちゃん!!」

 

 

走る私に、短い両腕を精一杯振りながら、自分の位置を知らせてくれたのは、藍色の髪の、5、6歳程度の少女、佐々木キコ。その直ぐ隣には、父親の佐々木タダツネもいる。

 

2人を視界に入れると、自然と笑みが溢れ、嬉し泣きしそうになった。

 

 

「よぉキコ。久しぶり」

 

 

キコの元に辿り着いた私。片膝を曲げ、視線を合わせながら、キコに告げた。

 

 

「ひさしぶり?…あはは、なにいってるのヒカリちゃん。わたしたち、きのうもあったのに〜!!」

「え、アレ。そうだっけか、あ、あはは」

 

 

また記憶違い。

 

明らかに変だ。私は、自分が記憶喪失にでもなったのかと疑い始める。

 

 

「いつもすまない、ヒカリさん。今日もキコのこと、よろしくお願いします」

「おう。タダツネも、仕事頑張れよ」

「えぇ、もちろん。キコ、良い子にしてるんだよ」

「うん!!…パパ、いってらっしゃあい」

 

 

黒いスーツを着こなし、黒い革鞄を手に持つタダツネは、今日も仕事だ。私とキコは、手を繋ぎながら、空いたもう片方の手を振り、彼を見送った。

 

 

「そう言えば、私、どこでキコ達と知り合ったんだっけ?」

「ねぇヒカリちゃん。バトスピしよ!!」

「お、やるか。今日は負けないぜ」

 

 

些細な疑問が絶えないが、今はそんなことどうでもいい。

 

そう思った私は、キコとバトスピするため、懐からBパッドを取り出し、左腕に装着した。

 

あとはデッキだ。

 

 

「えと、デッキ、デッキと」

 

 

あった。裏のポケットに入っていたデッキを、私は取り出す。

 

 

「今日も頼むぜ、ガヴ」

 

 

私の相棒のカード、ガヴ。それが投入されたいつものデッキを、私は、装着されたBパッドへと装填した。

 

 

「え」

 

 

その時だった。

 

デッキを装填した先から、赤い炎が噴き出したのは。

 

 

「な……ッ!?」

 

 

それに対して驚く間もなく、私の頭の中に、何かの映像が流れ出した。

 

いや、「何か」ではない。これは、私とガヴが歩んで来た、11日間。エボルトから世界を救うまでの、険しくも、楽しかった記憶だ。

 

 

「……ガヴ?」

 

 

炎が消え去ると、私はBパッドからデッキを抜き取り、確認すると、ガヴのカード、及びデッキは粒子化し、消滅。

 

その瞬間。私は全てを思い出し、確信した。この光景は、全て幻であると。

 

 

「ヒカリちゃん?」

 

 

様子のおかしくなった私に心配したキコが、私に声を掛けてくれた。

 

相変わらず、優しいな。

 

 

「悪りぃキコ。私行かないと。じゃあな」

「え、そんなそんな、きょうもあそんでくれるっていったのに」

「ごめん。今は一緒にはいてやれない。また、いつか絶対一緒に遊ぼうな。それまで、腕を磨いておけよ」

 

 

こんな状況になってしまった理由は、間違いなくあの小さな少年だ。ミツキとウィンドも、どうなったかわからない今、早く行動して対抗策を考えないといけない。

 

そう思い、私は抱きついて来たキコを優しく振り解く。

 

 

「なんで」

「キコ?」

「なんでオマエは、影時間の影響を受けない。この時間は、オマエの欲する物が全て詰まっていたと言うのに」

「え」

 

 

キコの目が赤黒く発光した次の瞬間、周囲のヴルムヶ丘公園の景色は吹き飛び、元の場所に戻っていた。

 

 

「元の場所に戻った?……でもなんか雰囲気が。なんだ、この棺桶」

 

 

確かにそこは、元の場所、バトルスタジアム近辺であったが、緑がかった不気味な夜の空、それを彩る直立した棺桶の数々が、今の世界が非常事態であることを、私に知らせてくる。

 

 

「さっきまで貴様もその棺桶に入っていたんだ」

「オマエ、やっぱさっきのガキ。キコに化けてやがったのか」

 

 

幻で被ったガワが粒子となり消え去ったことで、おそらくこの現状を作り上げたであろう張本人である、小さな少年が姿を見せる。

 

 

「オマエは誰だ」

 

 

私が小さな少年に訊いた。

 

 

「僕の名はファルロス。Aカードの最後の生き残りだ」

「!」

 

 

苛立った様子で、ファルロスは答える。

 

彼がAカードの最後の生き残りであると言う言葉に、私は驚きを隠せない。

 

 

「Aカードって、そんな。Aカードはあの時、ガヴと一緒に消えたはず」

 

 

そうだ。間違いない。

 

正確には、ガヴを除いたAカード達は意思と力のみが消え去っただけだが、あの時、確かに全てのAカード達は消滅したはずなのだ。

 

 

「おめでたい頭だね。全てのAカードが、君とガヴに力を貸したとでも思っていたのかい?」

「!」

「そう。あの時、僕だけは何もしなかった。そして、エボルトが消えた時に誓った。僕が代わりに、人間を滅ぼすと」

 

 

そこまで告げると、ファルロスは左腕に闇の瘴気を集め、それをBパッドの形へと変形させる。

 

どうやら、お望みは私とのバトルスピリッツだそうだ。

 

 

「さぁバトルだ鉄華ヒカリ。僕の作った影時間を拒むと言うのであれば、君だけは力づくで消し去ってやる」

「……まだイマイチ状況が飲み込めねぇけど、他のみんなを助けるためには、戦うしかなさそうだな」

 

 

おそらくミツキもウィンドも、周囲にいた人々も、直立した棺桶の中だ。そこから救出するためには、ファルロスに勝つしかない。

 

そう判断した私は、装着済みのBパッドに、アイギスのカードを含んだデッキを装填。バトルの準備を瞬時に完了させた。

 

 

「いいぜ、勝負だファルロス!!」

「威勢だけの子供が。ガヴが無ければ何もできないことを証明してあげるよ」

 

 

……ゲートオープン、界放!!

 

 

コールにより、私達2人によるバトルスピリッツが幕を開ける。

 

先攻はファルロスだ。小さな少年の容姿からは、想像もつかないような、並々ならぬ殺気を溢れ出したながら、ターンを進めて行く。

 

 

[ターン01]ファルロス

 

 

「メインステップ。僕はファルロスを2体、召喚」

 

 

ー【ファルロス】LV1(1)BP1000

 

ー【ファルロス】LV1(1S)BP1000

 

 

ファルロスは、自分と同じ容姿、同じ名前のスピリットを2体呼び出す。

 

 

「続けて契約創界神ネクサス、望月 綾時を配置」

 

 

ー【望月 綾時】LV1

 

 

次いで現れたのは契約創界神ネクサス。背の高い、スマートな少年だ。

 

 

「契約創界神。そいつが、オマエの本来の姿か?」

「そうだよ。闇バトルが終わってから2年。僕は人間を滅ぼすために進化した。あのエボルトのように」

 

 

そう告げた直後、ファルロスはまた手札から1枚のカードを引き抜く。

 

 

「ファルロス1体を消滅させ、その後手札からネクサスカード、影時間を配置」

 

 

ー【影時間】LV1

 

 

「配置時効果。トラッシュからネクサスカード、タルタロスをノーコストで配置」

 

 

ー【タルタロス】LV2(1)

 

 

「ッ……な、なんだ!?」

 

 

ファルロス1体を犠牲にして展開される2枚のネクサスカード。それと同時に隆起を始める大地。

 

地盤から突き抜けて来た、不気味な緑色に発光する、謎の巨大な建造物。その頂上が、私達の戦うフィールドとなった。

 

 

「ここは一体……」

「知ってるよ。君みたいな馬鹿は高い所が好きってね」

「誰が馬鹿だ!!」

「エボルトも馬鹿だった。だからこの世で最も高い所で最終決戦を望んだんだ。影時間の追加効果。トラッシュからファルロスをミラージュとしてセットし、ターンエンド」

手札:1

場:【ファルロス】LV1

【望月 綾時】LV1

【影時間】LV1

【タルタロス】LV2

バースト:【無】

ミラージュ:【ファルロス】

 

 

殆どの手札を使い切ることで、1ターン目から怒涛の展開を行ったファルロス。

 

だが、それに臆することは、今の私には許されない。囚われたみんなのため、ターンを進めて行く。

 

 

[ターン02]鉄華ヒカリ

 

 

「メインステップ。契約アイギスを召喚」

 

 

ー【[S.E.E.S制式戦闘服]アイギス】LV1(1)BP3000

 

 

私の初動は契約スピリットカード。胸の赤いリボンが特徴的な、金髪青眼の機械少女、アイギスだ。

 

 

「おいファルロス。オマエ、まさかこの世界中の人達を全員、あの黒い棺桶に閉じ込めるつもりか?」

 

 

アタックステップ直前、私はファルロスに訊いた。

 

 

「つもりも何も、既にそうなっている」

「なに!?」

「今、全人類は僕の創り上げた影時間に縛られている」

 

 

周囲にいた者達だけでなく、地球上の全ての人々が、ファルロスの影時間に囚われていた事実を知るなり、鳥肌が立った。

 

 

「なんで、こんな酷いことするんだ」

「何を言ってる。酷いことをしたのは、オマエ達人間じゃないか」

「!!」

「オマエ達人間は、僕達カードを使い勝手の良い道具として思っていない。だからあの日、僕はずっとエボルトを支持していたんだ。彼の願いは、全ての人間のカード化だったから」

 

 

私の質問に対し、怒りを示すファルロス。

 

だが決して、理不尽な逆ギレと言うわけではない。エボルトとの戦いを経たことで、私も彼の気持ちは痛い程わかる。

 

 

「……アタックステップ行くぜ。契約アイギス」

 

 

一旦バトルを再開する。

 

私は契約アイギスでアタックの宣言をし、その効果を発揮させる。

 

 

「アタック時効果。カウント+2。その後1コストを支払い、ソウルコア無しで【契約煌臨】を行う」

「!」

「これにより、アタック中の契約アイギスを、パラディオンに」

 

 

ー【パラディオン】LV2(S)BP7000

 

 

アイギスが「ペルソナ!」と、強く宣言すると、その姿を、浮遊する甲冑を纏う槍に変化させる。

 

 

「煌臨時効果。カウント+1。デッキから3枚オープンし、その中のスピリットカードを全てパラディオンの煌臨元に追加」

 

 

パラディオンの効果により、私はデッキの上から3枚のカードを、Bパッド上にあるパラディオンの下に追加した。

 

 

「フラッシュ、パラディオンの効果。煌臨元1枚につき1体、コスト4以下のスピリットを破壊する」

「……」

「スピリットのファルロスを破壊」

 

 

パラディオンの槍の体を活かした全力の突貫が、スピリットのファルロスを貫き、爆散させる。

 

 

「ファルロスの効果。系統、影時間を持つスピリットがフィールドを離れる時、カウント+2し、ネクサスの影時間に1コアブースト」

「それがどうした、パラディオンのアタックは継続中だ」

 

 

スピリットのファルロスを倒したパラディオンは、空中で宙返りし、体勢を立て直すと、そのままファルロスのライフバリアへ向けて再び突貫。

 

 

「フラッシュ【顕現】を発揮。ソウルコアと望月 綾時から1コアを支払い、シャドウスピリット、プリーステスを顕現」

 

 

ー【プリーステス】LV1(1)BP2000

 

 

突然出現した影の塊。それが花開くように広がると、身体が白と黒で分かれた怪人が姿を見せる。

 

 

「シャドウスピリット!?」

「ライダーでもデジタルでもモビルでもない、僕が進化することによって得た力の1つだ。プリーステスの顕現時効果。自分のデッキ上1枚を破棄。それが影時間なら、カウント+1。1枚ドロー。さらに顕現していた時、相手スピリット4体から1個ずつコアをリザーブに置く」

 

 

プリーステスは、耳障りの悪い呻き声を張り上げると、己の髪の毛を伸ばす。

 

伸びた髪は、突貫して来たパラディオンに絡み付き、内部に存在していたコア1つを取り除いた。

 

 

「パラディオンに乗っていたコアは2つ。それくらいじゃ倒せねぇぞ」

「知ってるよ。アタックはプリーステスでブロック。フラッシュ、望月 綾時の【契約技】を発揮。コア2個以下のスピリットを破壊し、その後カウント+2」

 

 

髪の毛に捕らえられたパラディオンは暴れ始める。今にも髪の毛を引きちぎり、プリーステスを貫きそうだ。

 

 

「なるほど、その効果でパラディオンを破壊しようってか」

「いや、この効果で破壊するのは、ブロックしたプリーステスだ」

「なに」

 

 

遂に髪の毛を引きちぎり、自由を取り戻したパラディオンが、プリーステスへ向けて突撃。

 

しかし、それが直撃しようと瞬間、プリーステスは消滅。パラディオンの攻撃はタルタロスの頂上の地盤を僅かに掘削しただけで終わる。

 

 

「ここで、望月 綾時の【契約域】の効果。シャドウスピリットが破壊された時、カウント+2」

「!」

「これで僕のカウントは7に達した」

 

 

さっきの【契約技】の効果でパラディオンを破壊しなかったのはこれが理由か。

 

たった2ターン目でこれだけのカウントを増やしたんだ。狙いは、巨大スピリットの早期召喚と見て間違いなさそうだ。

 

 

「ターンエンド」

手札:3

場:【パラディオン】LV1

バースト:【無】

カウント:【7】

 

 

かと言って、それがわかっていても、そのスピリットの効果がわからないと、手の打ちようがない。結局は出たとこ勝負だ。

 

私はこのままターンエンドを宣言し、それをファルロスへと渡した。

 

 

「オマエのエンドステップ。タルタロス、LV2の効果、トラッシュにあるシャドウスピリットカード、プリーステスを、僕の手元へ」

 

 

ターンを渡した直後、ファルロスがまた別のカード効果を使って来た。破壊したプリーステスのカードが、アイツの手元へと舞い戻る。

 

 

[ターン03]ファルロス

 

 

「メインステップ。僕は新たなシャドウスピリット、ハイエロファントを召喚する」

 

 

ー【ハイエロファント】LV1(1)BP4000

 

 

ファルロスが新たに召喚したのは、青い不気味な顔に、象のような巨大な体格を持つスピリット、ハイエロファント。

 

 

「アタックステップ。ハイエロファントでアタック。このフラッシュ、もう一度望月 綾時の【契約技】を発揮させ、ハイエロファントを破壊し、カウント+2」

「ッ……また自分のスピリットを破壊!?」

 

 

せっかく呼び出したハイエロファントを、またも自分のカード効果で破壊するファルロス。

 

しかし、この行動には当然狙いがあって。

 

 

「【契約域】の効果でさらにカウント+2。そして、ハイエロファントの破壊時効果。僕のカウント以下のシャドウスピリット1体を、手札、手元、トラッシュから、ノーコストで召喚できる」

「!」

「今の僕のカウントは11。よってこの8コスト、最強のシャドウスピリット、ハングドマンを召喚」

 

 

ー【ハングドマン】LV3(5S)BP13000

 

 

血飛沫と共に破裂したハイエロファントの中より現れたのは、より巨大なシャドウスピリット。

 

幾数もの青い翼が雑に刺さった、ツギハギだらけの鉄骨から吊るされている大男、ハングドマン。

 

その得体の知れない風体は、ファルロスのエースカードだと察するには十分だった。

 

 

「ハングドマンでアタック。その効果、系統に影時間を持つネクサス1つを疲労させることで、カウント+2。ハングドマンを回復」

「なに」

「僕は影時間のネクサス、タルタロスを疲労させる」

 

 

青い翼が羽ばたき、吊るされたハングドマンが動き出す。

 

 

「僕の場の影時間のネクサスは3枚。つまり、ハングドマンは最大4回の攻撃ができる」

「くっ……アタックはライフだ」

 

 

〈ライフ5➡︎3〉鉄華ヒカリ

 

 

「ぐぁ!?」

 

 

ハングドマンは、その筋肉質な両腕で、私からライフバリア2枚を捥ぎ取り、抱擁し、圧壊させた。

 

 

「さぁ二撃目」

「その前に、手札から絶甲氷盾の効果を発揮」

「!」

「効果でオマエのアタックステップは終わりだ」

 

 

ハングドマンの二撃目が来る直前。私は汎用性の高い、白の防御マジック「絶甲氷盾〈R〉」の効果を発揮。

 

それにより、なんとかこのターンの侵攻を食い止めることに成功した。

 

 

「運の良い奴。だけど、オマエはハングドマンは倒せない。ターンエンドだ」

手札:1

場:【ハングドマン】LV3

【望月 綾時】LV2(1)

【影時間】LV1

【タルタロス】LV2

バースト:【無】

ミラージュ:【ファルロス】

カウント:【13】

 

 

強大なシャドウスピリット、ハングドマンを守備に構え、ファルロスはそのターンを終了。

 

 

「ハッ。強いカード1枚出せれば良いってわけじゃないぜ、バトスピはよ」

 

 

次は私のターンだ。パラディオンを破壊しなかったことを後悔させてやる。

 

 

[ターン04]鉄華ヒカリ

 

 

「メインステップはそのまますっ飛ばして、アタックステップだ。行け、パラディオン」

 

 

パラディオンへアタックの指示を告げた瞬間。私は手札から1枚のカードを引き抜く。

 

 

「煌臨元の契約アイギスの効果、カウント+2し、【契約煌臨】を行う。アタック中のパラディオンを、重装アイギスに」

 

 

ー【対シャドウ特別制圧兵装]アイギス[重装ver]】LV1(2S)BP11000

 

 

契約アイギスの効果により、新たなスピリットが契約煌臨。パラディオンは光の粒子となって消え失せ、新たに重装備を施したアイギスが姿を見せる。

 

 

「重装アイギスの煌臨時効果。煌臨元のS.E.E.S1体をノーコストで召喚でき、その後、対象の系統を持つ全てのスピリットに、1コアずつブーストする。私はこの効果で、2体目の重装アイギスを出す」

 

 

ー【対シャドウ特別制圧兵装]アイギス[重装ver]】LV1(2)BP11000

 

 

フィールドにはすぐさま2体目となる重装アイギスが出現。この2枚目は、前のターンにパラディオンの煌臨時効果で埋められた物だ。

 

 

「そして、重装アイギスのこの効果は、召喚時にも発揮できる。私は3枚目の重装アイギスを、その3体目の効果で、契約アイギスも出す」

 

 

ー【対シャドウ特別制圧兵装]アイギス[重装ver]】LV1(2)BP11000

 

ー【[S.E.E.S制式戦闘服]アイギス】LV1(1)BP3000

 

 

「追加効果でコアブースト。これで全ての重装アイギスのLVは2だ」

 

 

次々と現れるアイギス。その数は4体にまで増殖し、コアブーストにより増えたコアの数は合計9つにまで至った。

 

 

「手数で押す作戦か。野蛮で知性の低い猿らしいやり方だ」

「猿でも、勝てれば何でもいいぜ。フラッシュ、重装アイギスのさらなる効果。1ターンに一度、アイギスがアタックかブロックしている時、相手スピリット1体を手札に戻す」

「!」

「対象はハングドマン。消え失せろ」

 

 

重装アイギスは、指先からマシンガンを連射し、ハングドマンを撃ち抜く。

 

耐え兼ねたハングドマンは粒子化し、ファルロスの手札に戻る。そうなるはずだった。

 

 

「ハングドマンのもう1つの効果。相手効果でフィールドから離れる時、手札かトラッシュにあるシャドウスピリットカード1枚を手元に置くことで、回復状態で残る」

「!」

「僕はトラッシュにあるハイエロファントのカードを手元に置くことで、ハングドマンをフィールドに残す」

 

 

粒子化されたハングドマンだったが、ファルロスが、トラッシュにあるカードを手元に置いた瞬間、分散された粒子が再び複合し、復活を果たす。

 

 

「言ったはずだ。君ではハングドマンを倒せないと」

「くっ。なら2体目の重装アイギスの効果で、もう一度ハングドマンを手札に戻す」

「無駄だ。トラッシュから2枚目のハングドマンを手元に置くことで、フィールドのハングドマンを残す」

 

 

2体目の重装アイギスの効果も空振りに終わる。1体目と全く同じ挙動、同じ手順を繰り返し、ハングドマンはフィールドへ復活した。

 

だが、空振りではあるが、無駄に終わったわけではない。

 

 

「3体目の重装アイギスの効果を発揮。もうオマエのトラッシュにカードはねぇ。今度こそ、しっかり戻ってもらうぜ」

「……」

 

 

3体目の効果により、遂に除去が成功。ハングドマンは、重装アイギスの指先から連射されたマシンガンに撃ち抜かれ、粒子化。ファルロスの手札へ戻る。

 

しかし……

 

 

「【顕現】を発揮。ハングドマンを召喚する」

「なに、そいつも顕現を持っていたのか!?」

 

 

ー【ハングドマン】LV2(2)BP10000

 

 

顕現により、ハングドマンは三度復活。勝ち誇ったかのように、耳障りな咆哮を張り上げる。

 

 

「重装アイギスのアタックは、ライフで受けるよ」

 

 

〈ライフ5➡︎4〉ファルロス

 

 

ハングドマンをフィールドに残しこそしたものの、BPは重装アイギスに劣るからか、ファルロスはアタックをライフで受ける宣言。

 

重装アイギスは跳び蹴りで彼のライフバリア1枚を破壊する。

 

 

「2体目、3体目の重装アイギスでもアタックだ」

「それもライフで受けてあげるよ」

 

 

〈ライフ4➡︎3➡︎2〉ファルロス

 

 

誘発も何もないことを察した私は、2体目と3体目の重装アイギスにもアタックを指示。ファルロスは案の定それをライフで受けた。

 

フィールドでは、2体の重装アイギスが、両サイドから至近距離で指先のマシンガンを放ち、ファルロスのライフバリアを1枚ずつ撃ち抜いた。

 

 

「ターンエンド」

手札:2

場:【[S.E.E.S制式戦闘服]アイギス】LV1

【対シャドウ特別制圧兵装]アイギス[重装ver]】LV2

【対シャドウ特別制圧兵装]アイギス[重装ver]】LV2

【対シャドウ特別制圧兵装]アイギス[重装ver]】LV2

バースト:【無】

カウント:【5】

 

 

契約アイギスでは、ハングドマンには敵わないため、それではアタックを行わず、私はそのままターンエンドを宣言した。

 

次は、ハングドマンをフィールドに残した、ファルロスのターンだ。

 

 

「このエンドステップ時。ミラージュにセットしたファルロスの効果。シャドウスピリット1体につき、相手のデッキを、上から1枚除外する」

「なに、除外!?」

「さらに、この効果は手元のシャドウスピリット1体につき、+1する。今の僕のフィールドにいるシャドウスピリットは、ハングドマンの1体。手元のシャドウスピリットカードは3枚。よって4枚のカードを君のデッキから除外する」

 

 

私のデッキに、まるで呪うように影が纏わり付き始める。その影は、私のデッキを侵食していき、上から4枚のカードを消滅させた。

 

 

「オマエは、僕達カードと君達猿に、絆があると本気で信じてるんだっけ?」

 

 

自分のターンを迎える間際、ファルロスが私に訊いた。

 

 

「あぁ当然だ。私はガヴと絆を結んで、エボルトから世界を救ったんだ」

「でもそのガヴはもういない」

「!」

「結果的に、君がガヴを殺したんだ。やはり君達猿は、僕達カードにとっての外敵だよ」

 

 

ムカついた。思わず「そんことねぇ!!」と強く言い返そうとしたが、その前に、ファルロスは「スタートステップ」を宣言し、ターンを開始した。

 

 

[ターン05]ファルロス

 

 

「メインステップ。マジック、スネークビジョン。全ての相手スピリットのコアを1個にする」

「!」

 

 

4体のアイギス達にも呪いのような影が纏わり付いた。その影響により、体内にあるコアがいくつか弾き出され、全員LVが1までダウンしてしまう。

 

 

「手元からハイエロファントを再召喚」

 

 

ー【ハイエロファント】LV1(1)BP3000

 

 

「ハングドマンのLVを3にアップし、アタックステップ。ハングドマンでアタック。その効果でカウント+2し、ネクサスのタルタロスを疲労させ、回復」

 

 

スピリットの展開とLV調整を行い、ファルロスはアタックステップへと移行。ハングドマンで再度攻撃を仕掛けて来た。

 

 

「フラッシュマジック、白晶防壁」

「!」

「効果により、このターン、私のライフは1つしか減らないぜ」

 

 

私は引けていた2枚目の防御マジックをこのタイミングで投下。

 

これにより、このターンの生存が約束された。

次のターンに、残ったスピリットで総攻撃すれば、そのまま勝利できる。

 

しかし。

 

 

「フラッシュ、手元にあるプリーステスの【顕現】を発揮」

「ッ……手元から【顕現】!?」

「タルタロスがある限り、シャドウスピリットカードは、手元からでも【顕現】を発揮できる。再び現れよ、プリーステス」

 

 

ー【プリーステス】LV1(1)BP2000

 

 

このタイミングで、一番最初に現れたシャドウスピリット、プリーステスが復活を果たす。

 

当然効果は覚えている。故に察した。全滅してしまう、と。

 

 

「顕現時効果。相手のスピリット4体から1個ずつコアをリザーブに置く」

「くっ」

 

 

プリーステスは長い髪の毛を伸ばし、それを針のように、アイギス達へ刺していく。

 

串刺しにされたアイギス達は、この場から全員消滅。契約アイギスのみ、半透明の魂状態となって、フィールドに残る。

 

 

「……ハングドマンのアタックはライフで受ける」

 

 

〈ライフ3➡︎2〉鉄華ヒカリ

 

 

「ぐぁぁあ!?!」

 

 

ハングドマンは巨大な手を握り固め、私のライフバリア1枚に鉄槌を下す。

 

砕け散ったライフバリアの衝撃は、私を吹き飛ばし、壁へと強く叩きつけた。

 

 

「ターンエンド」

手札:1

【ハングドマン】LV3

【ハイエロファント】LV1

【プリーステス】LV1

【望月 綾時】LV2(2)

【影時間】LV1

【タルタロス】LV2

手元:【ハングドマン】

バースト:【無】

ミラージュ:【ファルロス】

カウント:【15】

 

 

「ぐっ」

 

 

スピリットが全滅し、絶体絶命の状況。

 

だが、倒れたまま終わるわけにはいかない。私は気力を振り絞り、立ち上がる。

 

 

「もう諦めろ」

「!」

「人間が世界を支配する時代は終わったんだ」

 

 

私が立ち上がった直後、ファルロスが、そう告げて来た。

 

 

「僕の何が悪い?」

「あ?」

「エボルトは人をカードにすることで無にしていた。だけど僕は彼とは違い、影時間と言う幸せの時間に閉じ込めているだけ。同じ絶滅でも、そっちの方が遥かにマシのはず。寧ろ今よりも幸せなはずだ」

「……」

「何故抗う。オマエも、影時間にいた方が幸せであっただろう」

 

 

今度は訊いて来た。

 

それに対し、私は、残った1枚の手札を強く握ると、答える。

 

 

「あぁ。そうだな。失った人達と会えて、私は嬉しかったし、幸せだった」

「ならばどうして、今オマエは僕に対抗している。抗う必要など、どこに」

「あるに決まってるだろ……!!」

「!」

「失った人達と会うってことは、それまでのそいつらと自分の人生や生き様を否定しているもんなんだよ。私は自分の幸せなんかのために、それを否定したくねぇ。いつかまた会えるその日に、胸を張れるように、誇らしくいれるように。ちゃんと生きて、ちゃんと戦って、ちゃんと死ぬ!!」

 

 

そうだ。

 

誰かが決めて、作り上げた幸せな時間なんて要らない。今まで出会って来たみんなの想いは、そんなもののためにあるんじゃない。

 

 

「流石ヒカリ。わかってる」

「ッ……ミツキ!?」

「言ったからには、ちゃんと死なないとね。もっとも、今ではないけど」

「ウィンド。2人とも、影時間から戻って来れたのか!!」

 

 

タルタロスの物陰から姿を見せたのは、ミツキとウィンド。2人とも、影時間の拘束を自力で解いて来たのだろう。

 

それを見たファルロスは、また腹を立てたのか、怪訝な表情を見せる。

 

 

「馬鹿な。鉄華ヒカリ以外の人間も、僕の影時間から脱するなど」

「見たかファルロス。誰しもオマエが作る時間を望むわけじゃねぇ。みんな、大事な物は頭の中じゃなくて、心にあるんだ」

 

 

私はファルロスにそう告げると、右拳を固め、それを心臓のある左胸に添える。

 

すると、その時だった。

 

 

「あぁ、そうだね。ヒカリ」

「!!」

 

 

優しい男の声が聞こえて来た。いや、正確には身体に響いて来たんだ。

 

私はこの声を知っている。

 

決して忘れられない、相棒の声だ。

 

 

「受け取ったぜガヴ。オマエの想いと、言葉。どうする?」

「!」

「ここでサレンダーするか、それとも今、私に倒されるか」

 

 

その声の主を探そうとすることはせずに、私はバトルへと意識を向けた。

 

いつもの二択を、ファルロスへと問い掛ける。

 

 

「ごちゃごちゃうるさい。もう何も訊かないぞ。僕が勝てば、結果は何も変わらないんだ。エボルトの代わりに、僕がカードの時代にして見せる」

「そうか」

 

 

選択は後者と見なす。

 

故に、私はファルロスをここで倒す。今を生きる、みんなと、消えて行ったAカードや、ガヴのために。

 

 

[ターン06]鉄華ヒカリ

 

 

「メインステップ。【契約煌臨】発揮。魂状態の契約アイギスを、パラディオンに」

 

 

ー【パラディオン】LV2(3)BP7000

 

 

魂状態の契約アイギスは、力を振り絞り、「ペルソナ」を再度宣言。自らの姿を、今一度パラディオンへと変化させる。

 

 

「パラディオンの煌臨時効果。カウント+1。デッキ上3枚の中にあるスピリットカードを全て煌臨元に追加」

「無駄だ。今更そんなものを呼び出したところで」

「無駄なんかじゃねぇ。アイギスは、積み重ねた煌臨元を、力に変える。アタックステップ、パラディオンでアタック」

 

 

パラディオンの煌臨元に、新たに3枚のカードを追加したのち、私はアタックステップへ。

 

契約アイギスの効果を発揮させる。

 

 

「契約アイギスの効果。カウント+2。その後、1コストを支払い、パラディオンを、手札のアイギス&アテナに【契約煌臨】……!!」

 

 

ー【[全弾展開]アイギス&アテナ】LV2(3)BP20000

 

 

「なに、さらに上から【契約煌臨】を行うだと!?」

 

 

パラディオンは光を纏い、槍と青い盾と携えた女神へと姿を変え、アイギスもフィールドに再び出現する。

 

これが、このスピリットこそが、今の私の全力。今の相棒。

 

 

「だが、たった1体で3体のシャドウスピリットを倒せるわけ」

「シャドウスピリットを倒す必要はねぇ。私が倒すのは、オマエだけだ!!」

「!」

「アイギス&アテナの効果。煌臨元3枚を手札に戻し、オマエのライフを2つ破壊する!!」

「なに……」

 

 

刹那。アイギスは機械の身体から有りっ丈のの銃火器を展開し、それら全てを一斉掃射。

 

 

「これが私の、バトルスピリッツだァァァァ!!」

 

 

弾幕はシャドウスピリット達を避け、ファルロスのライフバリアのみに直撃して行く。

 

 

「こ、これが。鉄華ヒカリの、人間とカードの絆!?」

 

 

〈ライフ2➡︎0〉ファルロス

 

 

「ぐ、ぐぁぁぁあ!?!」

 

 

展開された弾幕は全て爆散。ファルロスのライフバリアは吹き飛び、1つ残らず消し炭となる。

 

これにより、勝者は私、鉄華ヒカリだ。今回も、カードと一緒に、世界を救った。終了に伴い、アイギスやシャドウスピリット達は消え、タルタロスも消失。地上へと帰還した。

 

 

「やったね、ヒカリ」

「あぁ」

 

 

ミツキが声をかけて来た。バトルして勝ったのは私だが、何故かそのはドヤ顔だった。

 

 

「終わる。僕の作った影時間が終わる……」

 

 

敗北したことによる影響か、肉体が徐々に粉塵となって消えて行くファルロス。

 

その顔は、とても悲しそうだ。

 

 

「ファルロス。人であろうがカードであろうが、誰にも他人の時間を奪う権利はないんだ。エボルトも、最後はそれに気付いてくれた。だから私に未来を託した」

 

 

私はファルロスへ言った。すると、ファルロスは信じられないとでも言いたげな表情を見せて。

 

 

「……馬鹿な。エボルトがそんなことを言うはずが」

「言ったさ。だから私は生きて戦う。悪しきバトルスピリッツを滅ぼして、アイツが望んだ世界を実現するために」

「ッ……」

 

 

エボルトと結び、胸に刻んだ約束を、ファルロスに説明した。それを訊いた途端、ファルロスは、豆鉄砲でも打たれたような、驚いた顔に変わる。

 

 

「本当に信じていいのか、その言葉。絵空事ではないのか」

「あぁ。本気だ」

 

 

その後、無言で互いに目を合わせる私とファルロス。数秒後、何を思ったのか、ファルロスは口角を上げて。

 

 

「フフ。なら叶えてくれよ。人とカードが友達でいられる世界も……」

「ファルロス」

 

 

直後、ファルロスは塵芥となり消え去る。残されたのは、彼の使っていたカードのみ。

 

影時間も同様に終了し、捕えられていた全ての人達は解放され、無事に夜明けを迎えた。

 

 

「死んじまったのかな、ファルロス」

 

 

ファルロスの遺したカードを拾い上げながら、私は呟いた。

 

 

「いや、死んでないよ。カードの中から息吹を感じる。多分力が弱まっただけだね」

 

 

ミツキが淡々とした口調で、私に言った。

 

 

「え、死んでないのかよ。この流れで?…まぁでもよかった。なら、次目覚めた時は、友達として会おうな」

 

 

取り敢えず死んだわけではなかったことに一安心した私は、ファルロスのカードをスカジャンのポケットに仕舞った。

 

 

「よし、ミツキ、ウィンド。次の街に行こうぜ。バトスピで悪いことを企んでる奴らをボコボコに……」

「何言ってるのよヒカリちゃん。忘れたの?…お金がないから、しばらくはその辺でアルバイトしないとダメだって」

「あ」

 

 

気持ちを切り替え、新たな場所へ赴こうとした私を止めたのはウィンド。私がすっかり忘れていたお金の問題を提示する。

 

 

「で、私ね。ヒカリちゃんはこのアルバイトが向いてると思うんだけど、どう?」

「あ?」

 

 

ウィンドが私に1枚のビラを見せつける。英語だったが、そこには「メイドカフェ募集中」と記入がある。

 

 

「メイドカフェって。オマエ、私にこの恥ずかしい衣装着せたいだけだろ」

「……バレた?」

「バレるわ!!…この変態女!!…さてはお金ないのも嘘だな!?」

「それは本当よ」

「ヒカリ、私もやるよ」

「オマエはこう言うのダメだ。絶対皿割るだろ」

 

 

ウィンドだけでなく、すかさず割って入って来たミツキにもツッコミを入れる私。

 

ついさっき、あんなに命懸けの死闘を繰り広げたのが嘘みたいだ。

 

 

「お皿、割らないからやろう、ヒカリ」

「やろうよヒカリちゃん」

「ぐぐぐ……わかった、ならさっさとその店行くぞ。手っ取り早く金稼いでまた直ぐに旅に出てやる」

「わ〜い。流石ヒカリちゃん。押しに弱い」

「うるせぇ」

「やった」

 

 

そう返事すると、ミツキとウィンドは、珍しく互いに手を合わせ、喜ぶ。

 

 

「さ、ヒカリちゃん。お店はこっちよ」

「早く行こう、ヒカリ」

「はいはい」

 

 

気は進まないが、お店のある方向へ歩き出した2人の後を追って、私も歩き出した。

 

その時に、展開しっぱなしだったBパッドの存在に気がつく。左腕から取り外し、装填されたデッキを取り出す。

 

 

「……これからもよろしくな、相棒」

 

 

デッキを片付ける間際。私は、デッキの先頭にあったアイギスのカードへ向かって、そう告げた。すると、カードに描かれていたアイギスは笑み浮かべる。

 

これからもきっと、楽しくないことや辛いことが、私を待ち構えているに違いない。だけど、たとえそうだとしても、かつての相棒の言葉と想いを胸に刻み、私は今日も、ドストレートな道を歩んで行く。悪しきバトルスピリッツが滅びる、その日まで。

 

 

 

 

『バトルスピリッツ 王者の鉄華2』 -完-

 

 

 






読者の皆様、最後までご愛読いただき、誠にありがとうございました!!

ヒカリなら、きっとこの世界をアメイジングなものに変えていくことでしょう!

オメガワールドから始まり、オーバーエヴォリューションズ、王者の鉄華、そして2と続いたこの世界線も、遂に終幕。
特別編などは執筆するかもしれませんが、今後、この世界線の続編は作りません。

以前も申し上げていた通り、次回作は、全く違う世界線のお話。4月から始まる新スタン環境のカードを中心に描いて行く予定です。なので、新スタン環境初コラボとなる6月のブースターが何のコラボかによって全てが左右されます。その辺りは、公式からの情報公開後、私の活動報告などで進捗を上げていければなと思っております。

改めて、これまで長い間ご愛読してくださり、本当にありがとうございました!!
この世界線のお話は終了となりますが、前述の通り、執筆活動はまだまだやめるつまりはございません。より一層良いものが書けるよう、これからも精進して参ります!!
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