私こと鉄華ヒカリは、昔からなんでもできた。勉強もスポーツも、双子の妹のミツキにだって、バトスピ以外で負けたことはない。
だから、ずっと怖いもの知らずだった。その気になった自分より強いものなんて、ましたや怖いものなんてこの世にはいないと、本気で思っていた。
だけど、それはほんの思い上がり。私は、昔見た怖いものを忘れていただけだった。そう。幼い頃に私とミツキを助けてけれた、あの黒い巨人のスピリットを。
******
優勝すればどんな願いも叶えられる「闇バトル」が行われている舞台、地下深くにある巨塔「アンダーグラウンドスタジアム」……
そこの一室で行われている私、鉄華ヒカリと、双子の妹、鉄華ミツキによるバトルスピリッツは、間もなく佳境を迎えようとしていた。
だけど、私の身体は、この肝心な時に全く言うことを聞いてくれない。立ちはだかる光の巨人、ゼット デルタライズクローが持つ武器、ベリアロクに付いている黒く禍々しい顔が怖くてしょうがないのだ。
「ハァッ……ハァッ」
「トラウマなのは知っていたけど、ここまでなんてね」
うるせぇ黙れ。いつもならミツキにそう言い返すところだが、それさえ口にできなかった。
冷や汗は止まらないし、手足の震えは手札のカードを持ち、立っているだけでやっとだ。こんな状態でバトルなんて……
「だけど、容赦はしない。デルタライズクローの煌臨時効果。ガヴ ブリザードソルベをデッキ下に戻す」
「!!」
デルタライズクローはベリアロクを振って、空間をも斬り裂く一撃を放ち、私のガヴ ブリザードソルベを切断。粒子化させられる。
「け、契約ガヴは魂状態で残す」
マズイ。【重装甲】に対抗するためのカードを失っちまった。これ以上はもう、打つ手がねぇ。
「ベリアロクの効果。アタックしたバトル終了時、自身のシンボル分のライフダメージを与える」
「な!?」
じゃあつまり、実質的なダブルシンボル。私の残り3つしかないライフは一気に消し飛んじまう。
「フラッシュマジック、仮面の魂」
「……」
「このターン、私のライフは1しか減らない」
気力を振り絞って、なんとか防御マジックを打てた。このターンは大丈夫だ。
「なら、ライフ1つは砕かせてもらう」
「!?」
〈ライフ3➡︎2〉鉄華ヒカリ
「うぁぁぁぁぁぁあ!!!」
ライフは1つしか砕かれない。だけど、眼前に迫って来たデルタライズクロー、いや、ベリアロクに、私はより強い恐怖心を抱き、膝から崩れ落ちてしまう。
「ターンエンド」
手札:2
場:【ウルトラマンゼット デルタライズクロー[4]+ 幻界魔剣ベリアロク〈R〉 】LV2
【対怪獣特殊空挺機甲隊ストレイジ本部〈R〉】LV2
バースト:【無】
カウント:【8】
ミツキがターンを終了した。次は私のターンだ。早く勝つための新しい戦術を見つけないと。
立ち上がれ。立って戦え、私の身体。
「様子が変ね」
「うむ。何かトラブルだろうか」
バトル場の観客席にて、このバトルを観戦していた主催者、鉄仮面の大男イスルギと、運営スタッフの1人、ウィンドが、ヒカリの異変に気づき始めた。
「ヒカリちゃん、まるで何かに怯えているような……まさか」
「何か心当たりが?」
ミツキのベリアロクへと視線を移したウィンドが何かに勘付いた。たったこれだけのヒントで、ヒカリがベリアロクに怯えているなんて到底結びつかないと思うが。
「いえイスルギ様。なんでもありませんわ。ただ、闇バトルにサレンダーは許されない。今は見守っておきましょう」
「……そうだな。だが人命は尊重されるべきだ。いざと言う時は助けてあげてくれ」
「えぇ、もちろん」
これくらいの壁は乗り越えて行かないと、この先の戦いで勝つことなんて到底不可能よ。さっさと立ち上がって、Aカード、ガヴの真の力を、このウィンドに見せてちょうだい。
鉄華オーカミの娘、鉄華ヒカリ。
「……」
ウィンドからの謎めいた期待の眼差し。それを受けたからではないが、私は震える手足を奮い立たせ、ようやく立ち上がった。
「サレンダーしてもいいんだよ」
「うるせぇ。私は、バトスピは嫌いだけど、負けるのはもっと嫌いなんだよ」
「フ。それでこそ鉄華ヒカリだ」
負けらんねぇ。絶対勝ってバトスピを消すんだ私は。今にして思えば、怖いと思っていたから消そうとしていたのか?
いや、今はそんなことどうでもいい。早くカードを。次のカードを。
[ターン07]鉄華ヒカリ
「メインステップ……」
だ、ダメだ。視界が定まらない。カードを見ることができない。手札に何があったのかも忘れた。
今の私の目には、恐怖の対象、ベリアロクしか見えない。身体全体がアイツから逃げろと訴えかけて来る。
「呆れた。そんなに怖いの、このベリアロクが」
「……」
何も言い返せない。
「わかってると思うけど、これはあの日の夜に見たスピリットとは違う。いわば模造品。本物はもっと強くてカッコいい」
そんなことはわかってる。アレが偽物で、本物は別に悪い奴じゃないって。私達を助けてくれたんだって。
だけどダメなんだ。怖くて恐くて、身体が動かない。
「ヒカリが怖いのは、ガヴの声を聞こうとしないから。本物のカードバトラーなら、カードの声を聞き、スピリットと一緒にどんな困難にも恐怖にも立ち向かって行けるはず」
ミツキがまた意味のわからんことを言った。なんだよ、カードの声って。厨二病も大概にしろよ。
「ヒカリにその気がないなら、私がターンを貰う」
恐怖で身体が震え、まともにバトルができなくなった私を見兼ねて、ミツキが私からターンを奪った。
次で確実に私のライフを0にする気なのだろう。
[ターン08]鉄華ミツキ
「メインステップはもう必要ない。このままアタックステップへ。デルタライズクローで攻撃」
ガラ空きとなった私のフィールドに、ベリアロクを持ったデルタライズクローを容赦なく送り込んで来た。
この一撃が通れば私はライフを消し飛ばされて負ける。早く、何か手を打たねぇと。
「これで私の勝ちだ」
早く。早く早く。
見えてくれ私のカード。この恐怖を跳ね除けて、状況を打開できる一手を私に教えてくれ。
「……」
刹那。私の眼前へと迫って来たデルタライズクローが、ベリアロクの黒き刃で私のライフバリアを横一閃に斬りつける。
これで、私のライフは0。このバトルは敗北し、勝利はミツキの手に。
この場にいる誰もが、私でさえそう思っていた。
身を挺してベリアロクを受け止めた、契約ガヴを目の前にするまでは。
「な!?」
「魂状態の契約ガヴが、ヒカリを庇った!?」
その光景に、私含めた全員が驚いていた。今の契約ガヴはデルタライズクローに倒されて、半透明の魂状態。要はアタックもブロックもできないはずだったのに。
それがなんで私を庇ったんだ。
「契約ガヴ、どうして」
思わず訊いてしまった。ベリアロクを身体全体で受け止めてくれている契約ガヴに。
カードの声を聞くなんてバカバカしいと考えていたのに。何故だろう。そこには大切な何かがあると思ってしまったんだ。
一緒に勝とう。
「……」
こっちへ首を向けた契約ガヴが、私にそう告げて来た。気がした。
そう。気がしただけだ。実際に口を開けて声を聞いたわけじゃない。
だけどなんだ、この、胸に熱く込み上げて来るものは。不思議だ。あれだけ蔓延っていた恐怖が、次から次へと払われていく。
「くだらない。そんな悪足掻きをしても結果は何も変わらないのに。勝者はこの私、鉄華ミツキだ」
ミツキの言葉に応えるように、デルタライズクローの眼光が強く光り輝く。その力は強まり、遂に契約ガヴを吹き飛ばし、突破。ベリアロクの一撃が、私のライフバリアに炸裂する。
砂埃が巻き上がる中、きっと誰もが私のライフバリアは砕け、尽きたと思ったことだろう。
「なに」
「くだらなくねぇ。あぁそうさ。くだらなくねぇ!!」
ベリアロクが私のライフバリアに届くよりも前に、今度は私自身でそれを受け止めた。もう恐くはねぇ。一緒に戦ってくれる仲間がいるから。
バトスピは嫌いだ。別に楽しくねぇし。鉄華オーカミの娘だからと勧誘されるのにも虫唾が走る。
それは、昔も今もこれからだってそうだ。だけど、誰かの想いに応えないのは、私と言う人間が廃る。たとえその想いが、カードのものであっても。
「なにも驚くところじゃねぇぞミツキ。『本物のカードバトラーなら、カードの声を聞き、スピリットと一緒にどんな困難にも恐怖にも立ち向かって行けるはず』と言ったのはオマエだ。私は聞いた。ガヴの声を、一緒に勝とうと言うガヴの意思を。カード如きが発破を掛けてきたんだ。こんなところで人間様がウジウジしていられるかぁぁぁあ!!!」
私はそのままベリアロクを、所有者のデルタライズクローごと投げ飛ばす。本気を出した私にとって、これくらいは造作もないことさ。
「行くぞガヴ。オマエの本当の力を、私に見せてくれ!!」
私は、吹き飛ばされ、倒れていたガヴに手を差し伸べる。
そして、ガヴがその手を取った瞬間。
「!!」
私のBパッドから、いやデッキから、炎のような溢れんばかりの赤い光が噴き出す。
私は感じた。これはカード達の息吹き。ガヴの中で目覚めた、本当の力なんだと。
「これは」
「おぉ、鉄華ヒカリのAカードが、ガヴが覚醒した。我が兄弟よ」
何やらイスルギが興奮気味に観客席から立ち上がっているが、そんなことはどうでもいい。
私は、私とガヴは今から勝ちに行くぜ。
「フラッシュマジック、ネクロブライト。トラッシュからヴァレンを再召喚」
ー【仮面ライダーヴァレン チョコドンフォーム】LV1(1)BP2000
恐怖がなくなったことで、手札のカードが見えるようになった。私はマジックカードを使い、チョコ板の装甲を持つ戦士、ヴァレンを呼び出す。
「召喚時効果。デッキ上から3枚を見て、その中のカード1枚を手札に加える!!」
ヴァレンの効果を使い、私は赤く煌めき続けるデッキから3枚のカードをドロー。その中でも最も強い輝きを放つカード1枚を残し、他はトラッシュへと送る。
「フラッシュ【契約煌臨】を発揮。魂状態となったガヴよ、再び戦う力を、勇姿を取り戻せ」
その残したカードをBパッドへと叩きつける。
それは、さっきの今までデッキ内に存在していなかったカード。私の想いに応えてくれた、ガヴの新たなる可能性。
「仮面ライダーガヴ オーバーモード、LV2で契約煌臨!!」
ー【仮面ライダーガヴ オーバーモード】LV2(3)BP30000
魂状態となっていた契約ガヴに、オレンジのグミの装甲が次々と装着されて行く。両腕が剛腕と化したそのマッシブな姿の名は、ガヴ オーバーモード。私の相棒が、進化を遂げた姿だ。
すげぇ。胸の中心から熱くなるこの感じ、まるでガヴと一体化したような気分だ。
「進化した、単体BP30000……」
「それだけじゃねぇ!!…オーバーガヴの煌臨時効果。私のカウント2につき、相手フィールドのコア1つをリザーブに置く」
これこそ、進化に目覚めたオーバーガヴの効果だ。今の私のカウントは12。つまり6つのコアをミツキのフィールドから取り除ける。
これが決まれば、ミツキのフィールドのカードは壊滅。私の逆転勝利が一気に近づく。
「忘れたの?…私のフィールドのスピリットは、ネクサス効果により【重装甲】を得ている。進化を果たしても、ガヴの色は紫と黄のまま。その効果は通用しない」
当然、そう言い返して来るよな。残念だが、「通用しない」は、こっちのセリフだぜ。
「オーバーガヴのこの効果は、私のカウントが10以上の時、無色化する」
「!!」
「【重装甲】だろうがなんだろうが、色さえなくなれば関係ねぇ。吹っ飛ばせぇぇぇえ!!!」
振りかぶったのちに放たれた、オーバーガヴの拳。その拳圧は、突風を、嵐を引き起こす。
デルタライズクローとキングジョーは、それに巻き込まれ、体内のコアを弾き出されて消滅。ミツキのフィールドのスピリットは全滅した。
「合体していたベリアロクはフィールドに残さず、デルタライズクローと同じくトラッシュへ落とす。ターンエンド」
手札:3
場:【対怪獣特殊空挺機甲隊ストレイジ本部〈R〉】LV2
【ウルトラの絆 ウルトラマンゼット】(魂状態)
バースト:【無】
カウント:【10】
クソ。ミツキの奴、全滅したなら、少しくらいたじろぎやがれ。涼しい顔しやがって。
今に見てろ。次のターンで、オーバーガヴの真価を見せてやるぜ。
[ターン09]鉄華ヒカリ
「メインステップを飛ばしてアタックステップ。オーバーガヴでアタックだ!!」
すかさずアタックステップに入った私。オーバーガヴの気合いも十分だ。両腕の剛腕をぶつけ合い、打ち鳴らしたのちに、ゆっくりとミツキの元へと歩みを進めて行く。
「オーバーガヴのさらなる効果。アタック時、シンボルを紫と黄の3つに固定する!!」
「ッ……トリプルシンボル」
「そうだ。オマエのライフ3つ、貰うぜ!!」
オーバーガヴのさらなる効果は、一撃で3つのライフバリアを砕くトリプルシンボルになると言うもの。超パワーに超パワーを二乗したかのような、最高の効果だ。
「私は、心の奥底でバトスピを恐れていた。わかるかガヴ、オマエにもどこかで恐怖を抱いていたんだ。だからオマエの本当の力を引き出せてやれなかった。でも今は違う。私の中を流れる赤き血潮一滴一滴がオマエの糧となり力となり、オマエの中で燻っていた熱き想いが、私の右手に宿り、恐怖を掻き消す。私達は一心同体。この繋がりはもう、誰が相手だろうと断ち切ることはできねぇ!!」
私の声、想いに応えたオーバーガヴは、その眼光を赤く煌めかせる。
そして、ミツキとの距離を縮めると、右拳に赤いオーラを纏わせて振るい、強烈なパンチを繰り出す。
大地を抉りながら突き進む拳圧は、ミツキの残り3つのライフバリアを軽々粉砕。
したと思ったが。
「フラッシュマジック、白晶防壁」
「な!?」
「このターンの間、私のライフは1つしか減らない。オーバーガヴのアタックはライフで受ける」
〈ライフ3➡︎2〉鉄華ミツキ
ミツキの前方に展開された水晶状のバリアが緩衝材となり、オーバーガヴの一撃を弱める。それにより、砕けたライフバリアはたったの1枚。ミツキは顕在だ。
マジか、紙一重とは言え、この流れを止めれるのかよ。
「フ。ようやく、面白くなって来た」
ミツキが微かな笑みを浮かべ、手札を構えながら、私に囁いた。
「こっちは別に面白くねぇってんだよ。上等だ、かかって来い。ターンエンド」
手札:5
場:【仮面ライダーガヴ オーバーモード】LV2
【仮面ライダーヴァレン チョコドンフォーム】LV1
バースト:【無】
カウント:【12】
白晶防壁の影響下だと、これ以上ライフは破壊できねぇ。私はヴァレンをブロッカーとして残して、そのターンをエンドにした。
次のターンで、必ず仕留める。
[ターン10]鉄華ミツキ
「メインステップ。その様子だと、バトスピを好きになってくれたみたいだね、ヒカリ」
ミツキは、ドローしたカードを目にしながら、私に訊いて来た。
「あぁ?…なわけねぇだろ。バトスピなんか誰が好き好んでやるか。私はただ、この仮面ライダーガヴを相棒と認めただけだ」
「へぇ」
「確かに私は、あの黒い巨人のスピリットが怖くて、バトスピを遠ざけていたのかもしれない。けど、嫌いなのも事実だ。私は、バトスピ如きで縛られたりしねぇ。好きなことを好きなだけやって、自由に生きる。闇バトルでバトスピをやるのは、あくまでそのための手段だ」
私の返答に対し、ミツキはまた微かな笑みを浮かべた。
「そっか。じゃあまだバトスピをこの世から消す気なんだ」
「あぁ」
「なら、負けられないね。ヒカリと楽しくバトスピするのが、私の願いだから」
「!!」
会話の最中、ミツキの身体から黒く煌めくオーラが噴き出す。
その光源は手札のカードからだ。まるでデッキのカード達が、ミツキに力を託しているようにも見える。私とガヴみたいに。
「行くよ、これで最後だ。【契約煌臨】発揮」
黒く眩しいカードを手に握り、ミツキはカード効果【契約煌臨】の発揮を宣言。
間違いなくミツキの最強スピリットが呼び出される。デルタライズクローがエースではなかったんだ。私は手札強く握り、身構え、フィールドのスピリット、オーバーガヴとヴァレンも拳を構えて警戒態勢に入る。
だが。
「そこまでだ」
「!!」
声がした。威厳のある男の太い声。方向は観客席の方。既にその声主は知っている。
大会主催者、鉄仮面の大男、イスルギだ。
「君達の実力は見せてもらった。このバトルは中断とし、闇バトルのポイントは、それぞれ+1ポイントとする」
「あぁ?…何急にしゃしゃり出て勝手なこと抜かしてやがる」
要するに、ポイントは上げるから、このバトルを中断しろと言ってるのだ。ふざけるるな。ここまで来て決着をつけないなんて馬鹿な話があるかよ。
「大会主催者。いくら貴方でも、私とヒカリのバトルを止めることは許されない」
これには流石のミツキもオコだ。珍しく気が合うじゃねぇか。
「水を差したことは深く詫びよう。だがどうか許して欲しい。君達の実力とカードを目にしたことで、どうしても観てみたくなったのだ。互いに激戦を潜り抜け、10ポイントを集めた君達による、決勝戦のバトルを」
「……」
よくわからねぇけど。今よりも強くなって、もっと相応しい舞台で競って欲しい。そう伝えたいのか?
「そう言うことなら、わかった」
「あ、おいミツキ」
先にカードと言う名の剣を鞘に収めたのはミツキだった。
勝手に納得した挙句、Bパッドの電源を落としやがった。フィールドに残っていた全てのスピリットが、この場からゆっくりと消滅して行く。
「命拾いしたねヒカリ」
「なにぃ!?」
「次は決勝で会おう。負けないから」
腹の立つ言い回しだ。
でも、ミツキが直前で呼び出そうとしていたあのスピリット、アイツからは未知なる力を感じた。確かにイスルギが止めなかったら、負けていたのは私かもしれない。
「ハッ。テメェこそ途中で野垂れ死ぬんじゃねぇぞ。闇バトル決勝戦。人類最後のバトルスピリッツを、私とオマエでやってやろうじゃんか」
「フ。そうはさせない。これからもヒカリには、私と楽しくバトスピをしてもらわないと行けないから」
私達2人のこの会話を最後に、今宵の闇バトルは終了となった。
必ず今よりももっと強くなる。その誓いを胸に、私はアンダーグラウンドスタジアムから自宅の部屋へと転送、帰宅した。
******
中断にこそなったが、ミツキとの激闘を乗り越えた、次の日の朝。疲れ果てて私服のままベッドで眠っていた私は目を覚ます。
母さんにバレないよう、一旦パジャマに着替え直し、部屋を出る。
「あ」
「……」
全く同じタイミングで、横の部屋からミツキが出て来た。昨夜の一戦を終えた後だ。正直ちょっと気まずい。もちろん感情の起伏に乏しいコイツは、そんなこと微塵も感じちゃいないんだろうけど。
「ヒカリ」
「ん?」
「私は今、人生で一番楽しい。だってヒカリとバトスピで競い合えるんだから」
「……」
なんでそんな小っ恥ずかしいことをさも当然みたいな顔して言えるんだコイツは、父さんの遺伝か?
まぁでも、ただ1つ言えることは、コイツは底無しにバトスピを、父さんと母さんが好きなバトルスピリッツを愛してるんだ。私と違って。
「誰が誰と競い合えるって?……わからせてやるよ。バトスピさえも、この鉄華ヒカリ様には遠く及ばないってことをな」
小っ恥ずかしい発言に関しては、私も同類か。忘れてたわ。私はコイツの双子の姉で、バトルスピリッツで世界を救った英雄、言うなれば前作主人公、鉄華オーカミの娘だった。
「フ。その自信が喪失しないことを祈るよ」
「へ。今に見てろよ、闇バトル決勝戦で、オマエのその減らず口を、だ、黙ら」
「ヒカリ?」
なんか知らんけど急に視界がぼやけて来た。足から身体全体の力が抜けて行く。立っていられねぇ。
あ、やばい。これ本当にやばいヤツ。
私がそう思った頃には、歪んだ視界に、ミツキらしき人物が入っていて。
******
私こと鉄華ヒカリは今、最寄りの病院のベッドの上である。どうやら、昨夜の激闘で体力を使い果たしていたらしい。
それ自体は別に大した問題じゃない。今日1日休めば、夜の闇バトルにも間に合うし。ただ腹立たしいのは、私の横で、双子の妹、ミツキが無言でリンゴの皮を剥いていることだ。
「よかったね。ただの貧血で」
やっと発した言葉がそれかよ。まぁ母さん曰く、私が倒れてから病院まで担いで連れて行ってくれたみたいだから、何も言い返せないけど。
「はい。リンゴ」
皮を剥いたリンゴを提出された。その仕上がりは身がほとんど残っておらず、最悪だ。
「もうちょっと身を残せよ」
「不器用なりに頑張った」
コイツ、ホントマジで、バトスピ以外は昔から何やらせても不器用なんだよな。
しかも昔は泣きベソで、私がいないと何もできなくて。
「なに?」
「いや、別に。今の私に、文句を言う資格はなかったな。食べてやるよ」
また今日の夜も闇バトルだ。今は何かを深く考えるのはやめて、体力回復に尽力しよう。そう思い、私はミツキが剥いたデコボコのリンゴを手に取り、口に頬張る。
「わぁ、鉄華ミツキちゃんだ!!」
「え」
「本物!?」
私達に、いやミツキだけに声を掛けて来たのは、5か6歳くらいの小さな女の子。病室の服を着用しているから、多分入院患者だと思う。
突然話は変わるが、私はバトルスピリッツが嫌いだ。闇バトルでの願いは「バトルスピリッツをこの世から消す」こと。
それだけは絶対に変わらないし、譲らない。
だけど、この子との出会いを歯切りに、やがてそれらは大きく捻じ曲がり始める。
第5話「命の願い」
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王者の鉄華2は、全部で13話程で予定してます。
何か後日談の話を思いついたら、無印の王者の鉄華も更新したいですね。