もしもあの時、薄暗い路地裏で出会ったウィンドから、ガヴのデッキを貰ってさえいなければ。
闇バトルにさえ参加しなければ。
バトルスピリッツさえしなければ。
私はこんなに苦しまずに済んだのだろうか?
こんなに傷つくことはなかったのだろうか?
その答えを知ることはできない。
なにせ私は、デッキを貰い、闇バトルに参加し、バトルスピリッツを行うと言う愚かな選択を既にしてしまったのだから。
もうそれ以前の平穏な日々に戻ることはできない。
決して。
******
深夜の帰り道。適当に羽織って来た白いパーカーが雨に濡れて重い。
「……」
キコが死んだ。
病気が突然悪化したのが原因だと、父親のタダツネは言った。
「……」
そのタダツネは闇バトルから降りるそうだ。キコはもういないんだ。叶えたい願いもないなら当然の判断………なのかもしれない。
『あたしキコ!!…バトスピ大好き、クールでかっこいいミツキちゃんも大好き!!』
「やめろ」
『今日はラッキーだな、しあわせだな〜。あこがれのミツキちゃんに会えたし、ミツキちゃんのいもーとのヒカリちゃんにもあそんでもらえるし』
「思い出すな」
『ながーい。キコね、もう1年くらいここにいるの』
「忘れろ」
『でも今日は大丈夫!!…だってヒカリちゃんがいるもん!!』
「さっさと失せろよ!!」
毎秒頭の中に流れて来るキコとの記憶。私はそれから逃げ出すため、走り出した。
そんなことしても、離れられるわけがないというのに。
******
疲れたのか、知らない間に走る足を止めていた。
ようやく着いた家の前。玄関前で、双子の妹ミツキが、傘をさして待っているのが見える。
「ヒカリ。バトルスーツも脱がないでどこ行ってたの?」
「……」
私はミツキを無視して通過。そのまま玄関前へ。
「私の質問に答えて」
「……」
「ヒカリ」
「……」
「ヒカリ」
「うるっせぇ!!…ついてくんな!!」
泣きかけの上擦った声で怒鳴り、ミツキを黙らせると、私は玄関を開けて、家の中に入って行った。
******
翌日の深夜。闇バトルが開催してから5日目。
私はいつも通り、ガヴのデッキと共に、会場のアンダーグラウンドスタジアムの更衣室へと転送された。
「你好、ヒカリちゃん」
「……」
いつも通り、到着早々、闇バトル運営スタッフの黒ローブの女、ウィンドが話しかけて来た。
「昨日も勝利おめでとう♡……と言いたいところだけど、観たわよ。なんでわざと負けようとしたの?」
「……」
ウィンドが訊いて来た。昨日のタダツネとのバトルのことだ。
だけど、そんなことを答えてやる義理はない。
「どこだ」
「?」
「大会主催者は、イスルギはどこだ!!…出せ、連れて来い!!」
激昂し、ウィンドに詰め寄る。
そうだ。さっさと出せ。今日ここに来たのは闇バトルのためだけじゃない。
「……何があったのかは知らないけど、無理ね」
「!」
「あの方は今日もこの広大なアンダーグラウンドスタジアムで、誰かの闇バトルを観戦している。貴女が開会式を除いて、二度もあの方に遭遇できたのは正にラッキーだったのよ」
アンダーグラウンドスタジアムの中にはいるのか。それなら、やることは一つ。
私は、ウィンドから背を向け、バトル場とは逆方向の扉、アンダーグラウンドスタジアムの通路へ出る扉へと向かう。
「どこへ行くつもり?」
それを良しとしないウィンドが、私の前に立ちはだかる。
「決まってる。アンダーグラウンドスタジアムの中を走り回って、イスルギを探す」
「闇バトルはどうするの?」
「そんなのいつでもいいだろ」
「いつでもは無理よ。1時間以上対戦相手を待たせた場合、不戦敗となってしまうわ」
「なら1時間以内で見つけ出す。いいからそこをどけ!!」
どうしてもイスルギに訊きたいことがあるんだ。
どうしても………
「その必要はない」
「!!」
「私に何か用かね。鉄華ヒカリ君」
通路側の扉を開けて現れたのは、他でもない、鉄仮面を着用した大男、闇バトルの主催者、イスルギ。
「イスルギさん。いたんですか」
「あぁ。今日はヒカリ君のガヴの調子を見ておきたくてね」
「イスルギ!!」
イスルギを視界に映すなり、私は奴に飛び掛かり、胸ぐらを掴む。
「何やってんのヒカリちゃん!!」
「構わんよ。何か私に訊きたいことがあるのだろう。そう言う顔だ」
流石に止めに入ろうとするウィンド。イスルギがそれを宥める。
「闇バトルに優勝した時の願いで、人の命を生き返らせることはできるのか!?」
「なに、命?」
「どうしても生き返らせたい子がいるんだ。私は、自分の願いを捨ててでも、その子にまた会いたい!!」
「……」
「どうなんだ、答えろ!!」
頼む。
キコが助かるためには、もうこれしかないんだ。
頼む。頼むから………
「……」
しかし、イスルギは首を縦には振らなかった。その瞬間、私は全てを察し、絶望した。
「言ったはずだ。『限度がある』と。一度失った命を元に戻すことなど、不可能だ」
「……そんな。じゃあ、もうキコは」
胸ぐらを掴んでいた両手は力を失い、膝から崩れ落ちる。
「どう言う事情かは知らないが、たかが命1つで、己の抱いた願いを捨てようとするとは。ガヴを覚醒させた君は、もう少し骨のあるカードバトラーだと思っていたが。残念だよ」
幻滅した様子でそう告げると、イスルギはこの場から去って行く。
「……」
ウィンドも無言で、通路側の扉から出て行った。私は更衣室で、ひとりぼっちになる。
「キコはもう、何しをしても、生き返らない」
たった1人の女の子さえ救ってあげられない。
世界を救った英雄、鉄華オーカミの娘が聞いて呆れるぜ。私は、ただの無力なガキじゃねぇか。
クソが。
******
キコは死んだ。私に残されたのは、嫌いなバトルスピリッツのみ。
今は闇バトルのために、アンダーグラウンドスタジアムのバトル場にいる。
「オマエが鉄華ヒカリか。闇バトルも5日目。今日もこのオレ、金銀ザイ様が華麗なる1勝を収めて見せるぜ」
高校生くらいの金髪野郎が宣言して来た。
「さぁバトルだ。始めようぜ」
「おい」
「あ?」
「オマエの願いはなんだ」
私は金髪野郎に訊いた。
「何を訊くかと思えば。そんなもん決まってるぜ、金だよ。金」
「……」
「プールが埋まるくらいの大量の金!!……オレは闇バトルで優勝し、必ず億万長者になってやる」
それを訊き終えると、私はBパッドを左腕に装着していた。
「プールが埋まるくらいの大量の金!!…オレはこの闇バトルで優勝し、必ず億万長」
「もういい、黙れ」
「はぁ!?…テメェから訊いて来たんだろが!!」
「さっさとかかって来い」
私の振る舞いに納得がいかない様子だったが、金髪野郎もさっさとBパッドを装着し、バトルの準備を終える。
「問答無用。女だからって容赦しないぜ」
……ゲートオープン、界放!!
コールと共にバトルが始まった。5日目の闇バトルだ。これに勝ったら5ポイント。決勝戦進出まで、ちょうど半分だ。
だけど、仮に決勝戦まで駆け上がって優勝したとしても、キコが生き返ることはない。
******
何ターンか経った。バトルが進んだ。
当然、私こと鉄華ヒカリの、勝利間近。分厚いオレンジグミの装甲を持つ切り札、ライダースピリット、オーバーガヴが、その剛腕で今にも金髪野郎のライフバリアを木っ端微塵にしようとしていた。
「こ、こんなバカ強いなんて訊いてねぇぞ」
「オーバーガヴ!!」
〈ライフ3➡︎0〉金銀ザイ
「そんなのって有りぃぃ!?」
オーバーガヴの振るった剛腕が、金髪のライフバリアを纏めて粉砕。私に勝利を齎した。
「……」
特に危なげなく勝てた。
いつもなら、バトルスピリッツを消すと言う願いに前進したこと喜んでいるところだ。
だが今は。
「おい」
「ヒィ……今度はなんだよ」
負けた金髪野郎の胸ぐらを掴み上げる。
「オマエは、今までの闇バトルの中で、自分以外の誰かのために願いを叶えようとした奴と会ったことはあるか?」
「はぁ?」
「だから、他の誰かのために、命懸けでバトルしていた奴はいたかって訊いてんだ!!」
バトル場の壁に叩きつけながら、私は訊いた。
金髪野郎は、荒んだ私に怯えつつも答える。
「い、いるわけねぇだろ。どいつもこいつも自分の利益のことしか頭にない馬鹿ばっかりだったぜ」
「……そうか」
返答を聞いた私は、金髪野郎を離し、バトル場を後にしようと、反対側の出口へ向かって歩き出す。
「そう言うテメェの願いはなんなんだ。オレにも訊く権利くらいはあるだろ」
「……」
私が離れたことで、僅かに心の余裕ができたのか、金髪野郎は強気な態度で私に訊いて来た。
「私も、オマエらと同類だ。ろくな奴じゃねぇよ」
そうだ。私も自分の利益しか頭にない馬鹿だ。タダツネのように、自分の娘のために全てを賭けられるような、立派な奴じゃない。
******
5日目の闇バトルが終わった翌日。
着替えもせず、風呂にも入らず、学校にも行かず。白いバトルスーツの上から深緑のパーカー1枚を羽織り、私は無駄に広い原っぱのある公園のベンチに腰を下ろしていた。
「……」
『今日あそんでくれたオレイ!!』
「キコ……」
ポケットに入れたデッキのカード1枚を引き抜いてみると、それはキコのくれた、クレヨンで描かれたガヴ。
ギザギザしていて、下手だが、私にとっては最高の1枚。キコとの大事な思い出だ。
「行くよパパ、あたしのターン!!」
「!!」
キコの声がしたと思い、そこへ振り向く。だがそれはキコではない、同じ歳くらいの別の女の子。
その子の父親らしき人物と、Bパッドを使ったバトスピをしていた。
「よぉし。どこからでもかかって来なさい」
「うん!!」
「……」
『またあそぼうね。ぜったいだよ』
『あぁ』
『ぜったいのぜったいの、ぜったいだよ』
『約束するぜ』
キコとの約束を思い出した。それはもう、叶えようと思っても、絶対に叶えられない。
だって、キコはもういないから。
「……」
今まで泣いたことはなかった。
子供の頃にミツキと一緒に誘拐された時も、ベリアルと言うスピリットに恐怖を刻み込まれても。
如何なる恐怖が襲いかかって来ようとも、私は泣くことがなかった。今日、この日までは。
******
夜になった。涙はとっくに枯れ果てた。私は未だに公園のベンチに腰を下ろしている。
喉が渇いたし、腹も減った。だけど、もう全てがどうでもよくなっていて、何もしたくなかった。このまま死んでもいいとも思っている。
そうだ。そうすればキコの所に行けるんじゃねぇか?
「ヒカリ」
「……」
「昔から、悩んだ時はよくここに来るよね」
ミツキが来た。相変わらずの真顔で、何を考えてるかわかりもしねぇ。
「何しに来やがった」
「夜遅いから。お母さんが探して来てって」
「母さんにはイチカの家に泊まるからいいって言っとけ。さっさと帰れよ」
言葉でミツキを突き放す。
しかし、この間とは違って、ミツキは引き下がらず。
「昨日会った女の子、死んだんだってね」
「!?」
ミツキは、ドストレートにキコの話題を始めた。
「テメェ、なんでそんなこと知ってやがる」
「今日、病院行って来たから。あの女の子と、また会うって約束してたし。そこで、その子の父親と会って、全部話してくれた」
「……」
タダツネ。アイツが全部ミツキに話したのか、余計なことを。
「最近ヒカリの元気がないのは、その子が死んだせい?」
「るせぇ。黙ってろ」
「なんでヒカリはその程度で落ち込むの?」
「……」
コイツは言葉をマイルドにしないし、オブラートにも包まない。
次第に私は、怒りを募らせて行く。
「たった1日遊んだだけの関係でしょ?」
「ッ……黙ってろっつってんだろ!!……オマエに何がわかんだよ!!」
募らせた怒りが爆発し、見下ろすミツキの胸ぐらを掴み上げる。
「ヒカリ。どう足掻いても、人はいつか死ぬよ」
「!」
「あの子は、そのいつかが少し早かっただけ」
うるせぇ。うるせぇよ。
それっぽい正論ぶつけて来んな。本当はしょうがないってことくらい、言われなくてもわかってんだ。
でも、もっとずっと長く一緒にいたいじゃねぇかよ。
「オマエの言ってることは正しい。正しいんだろうけどよ……もっと生きて欲しかった。私はキコにもっと生きて欲しかった!!…大好きなバトスピをずっとしてて欲しかった!!」
「そのバトスピを消そうとしてたのに?」
「!?」
「今のヒカリは矛盾している。本当はもう、バトルスピリッツを消したいなんて、思っていないんじゃない?」
「……」
そんなことはねぇ。
私はバトルスピリッツを消したい。
鉄華オーカミの娘だからと言う理由だけでバトスピと紐付けられるこの毎日を終わらせたい。
タダツネとは違う、子供じみた、我儘な願いを、私は今でも抱いている。
「……」
次第に頭の血が下がって来た。私はミツキの胸ぐらから手を離す。
「でも、ヒカリなら、いつかきっとその矛盾に対する答えを見つけられると思う」
「……オマエ、もう喋んな」
もう、わけわかんねぇよ。
何がしたいんだよ。ミツキも、私も。全てがバトルスピリッツを中心に回っている、この世界も。
「どこ行くの?」
「帰る」
ポケットに手を突っ込むと、私はようやく、ベンチから立ち上がり、帰路へ着く。
「着いて来んな」
「私も家同じ」
私の横を歩くミツキ。
正直言って鬱陶しい。邪魔だ。
でも、自暴自棄になって自殺するよりかは、まだマシに思えた。
******
あれから風呂にも入ったし着替えもしたし、飯も食った。
清潔感満載の状態で、私は今宵の闇バトルに臨む。
「……」
ちょうど12時になった。いつもの白い光と共に、私はアンダーグラウンドスタジアムへと転送される。
「……ウィンドの奴、今日に限っていねぇのか」
いつもなら私の更衣室に必ずと言っていいほど現れていたウィンド。
何故か今日に限っていなかった。まぁそっちの方が色々と楽で助かるけど。
「昨日は乱暴なバトルをしてすまなかったな、相棒。でも悪りぃ。多分今日も乱暴になっちまうかもしれねぇ」
ポケットから取り出した契約ガヴのカードに向かって、私はそう告げる。
カードに語りかけるなんて、私も随分変わっちまったな。
「……行くか」
いつもの白いバトルスーツ、黒いニット帽を着用すると、私は扉を開け、今宵のバトル場へと足を踏み入れた。
目的は、ストレス発散。取り敢えずカスみたいな願いを掲げる参加者をボコボコにできれば、それでいい。
「ヒャーハッハッハ!!…待ってたぜ。鉄華ヒカリ」
「!!」
対戦相手側から聞こえて来たのは、精神を逆撫でするような、甲高くて気色悪い男の声。
私は、この声を知っている。
「オマエ、あの時の、誘拐犯……!?」
「久しぶりだなぁ。オレの元で調教を受けず、何不自由なくすくすくと育った感想はどうだ?」
忘れもしない。頬にWの文字が刻まれた筋肉質の男。
10年前、私とミツキを誘拐した張本人だ。まさかこんなところで再会するなんて。
「私のクソチビな身長を見て、すくすく育ったように見えるか?」
「そうだなぁ。やはりオマエら双子はオレに育てられるべきだった。そうすれば、史上最強のカード兵士になれたかもしれねぇのに」
「カード兵士?」
誘拐犯から出た「カード兵士」と言う聞き慣れない単語に、私は首を傾げる。
「日本じゃあ、条約が厳しくて聞き慣れないかもなぁ。カード兵士ってーのは、文字通り、カードの兵士。要するに戦争の道具だよぉ」
「!」
「バトルスピリッツは武力にも勝る。今や血を流さない兵器として、銃や爆弾よりも重宝されてんだ」
カードバトラーが、バトルスピリッツが戦争の道具?
父さんや母さん、キコ、私以外のみんなが愛しているバトルスピリッツが?
「オマエら双子を誘拐したのは、そのカード兵士に育て上げるためだ」
「……」
「鉄華オーカミの子供をカード兵士に育てれば、この世界をオレが手中に収めるのも夢じゃなかったからなぁ」
でも、コイツのその夢は潰えた。あの日、突然現れた黒い巨人を操るカードバトラーに。
だからもう叶うことは……
いや、あるか。闇バトルなら。
「オレの願いは、オレの言うことだけを忠実に聞くカード兵士の軍団を築き、世界をオレ色に染め上げることだぁ」
「……」
「ヒャーハッハッハ。今からでも遅くねぇ。その中にオマエも入れてあげようか鉄華ヒカリ?…片割れの、あの泣き虫ちゃんと一緒に」
コイツの言っていることが本当なら、今こうしている間にも、誰かがカード兵士として、道具としてバトルスピリッツをさせられていることになる。
そしてコイツは、そのカード兵士をもっと増やして、いろんな奴を不幸にさせようとしている。
いいな。こう言うカスは思考停止でボコれる。
「むしゃくしゃしてたんだ。テメェみたいなクズが相手だと殴りやすくて助かるぜ」
私は怒りのままにBパッドを展開すると、そこへデッキを装填。バトルの準備を完了させる。
それを見た誘拐犯は、また「ヒャーハッハッハ」と甲高い笑い声を上げて、同じくBパッドを構えた。
「叩き潰してやる」
「そう恐い顔しなさんな。せっかく高く売れる顔してんのによぉ」
「喧嘩なら売ってやるよ。行くぜ」
……ゲートオープン、界放!!
コールと共に、私、鉄華ヒカリと誘拐犯によるバトルスピリッツが幕を開ける。
先攻は私だ。目の前のクズを叩きのめすべく、そのターンを進めて行く。
[ターン01]鉄華ヒカリ
「メインステップ。創界神ネクサス、変身ガヴを配置」
ー【変身!!仮面ライダーガヴ】LV1
私の初手は創界神ネクサス。ライダースピリットデッキ特有の変身カードだ。身体が紫と黄色のオーラに包まれる。
「神託でコア+3。ターンエンド」
手札:4
場:【変身!!仮面ライダーガヴ】LV2(3)
バースト:【無】
とりまシンボルは確保した。次のターンから本番だ。
[ターン02]ハバキリ
「メインステップ。そう言えば名乗ってなかったな。オレの名前はハバキリ。カード兵士のことに関しちゃ、その道のプロだ。よろしくなぁ」
「訊いてねぇことをベラベラ喋んな。さっさとしろ」
誘拐犯ことハバキリ。気色悪い笑みを浮かべ続けながら、ターンを進めて行く。
「それなら早速オレのAカードを出してあげよう。来い、ライダースピリット、契約W」
ー【仮面ライダーW サイクロンジョーカー[3]】LV1(2)BP3000
ハバキリが1枚のカードをBパッドに叩きつけると同時に吹き荒れた竜巻。その中で姿を見せたのは、右半身が緑、左で半身が黒のライダースピリット、W。
「アタックステップ。その開始時に契約Wの効果を発揮。相手の手札4枚につき1コアブースト」
今の私の手札は4枚。1コアブーストか。
相手の手札の枚数を参照にして効果を発揮するテーマか?
なら手札の枚数管理も気をつけねぇと。
「増えたコアで契約WはLV2にアップ。さらにアタック。もう1つの効果でカウント+2だぁ」
「ライフで受ける」
〈ライフ5➡︎4〉鉄華ヒカリ
「ぐっ」
私のライフバリアに、契約Wの追い風の恩恵を受けた回し蹴りが炸裂。5枚ある内の1枚が砕け散った。
「んんん〜〜ライフバリアが割れる音、気持ちぃ」
「一々喋り方がネチネチしてて気持ち悪りぃんだよテメェ」
「気持ちのは仕方ねぇだろぉ。ターンエンド」
手札:4
場:【仮面ライダーW サイクロンジョーカー[3]】LV2
バースト:【無】
カウント:【2】
落ち着け、相手のペースに呑まれるな。
予定通り、このターンから本気出して行くぞ。
[ターン03]鉄華ヒカリ
「メインステップ。Aカード、ライダースピリット、契約ガヴを召喚」
ー【仮面ライダーガヴ ホッピングミフォーム[2]】LV2(3)BP5000
前傾姿勢で現れたのは、私の相棒、お菓子のグミの装甲で覆われたライダースピリット、ガヴ。
「アタックステップ。契約ガヴでアタック」
反撃だ。私は、Bパッド上にある契約ガヴのカードを捻ると同時に、効果発揮を宣言する。
「フラッシュ、変身ガヴの【神技】を発揮」
「!」
「変身ガヴから3つのコアをボイドへ支払い、契約Wからコア2つをリザーブへ」
私が、契約Wへ向けて手をかざすと、それはたちまち紫と黄色の光に包み込まれ、その体内に内蔵された力の源、コアが2つ弾け飛び、LVダウンに陥る。
「まだ行くぜ。契約ガヴの効果。手札1枚をコストにすることで、カウント+4。その後をカウント-1して、コア2個以下のスピリット、契約Wを破壊する」
コーラグミを纏った、契約ガヴのダイナミックな蹴りが、契約Wに直撃。爆散させ、それを半透明の魂状態へと追い込む。
「アタックはライフで受けてやろう」
〈ライフ5➡︎4〉ハバキリ
今度はソーダグミを纏った強烈なパンチが、ハバキリのライフバリアに炸裂。それを1枚粉砕する。
「ターンエンド」
手札:3
場:【仮面ライダーガヴ ホッピングミフォーム[2]】LV2
【変身!!仮面ライダーガヴ】LV1(1)
バースト:【無】
カウント:【3】
ここまでの攻防は互角ってところか。
次のターン、アイツが【契約煌臨】で契約スピリットを復帰できるかでだいぶ変わりそうだな。
[ターン04]ハバキリ
「メインステップ。【契約煌臨】を発揮。魂状態の契約Wを、ヒートメタルにするぜぇ」
ー【仮面ライダーW ヒートメタル[3]】LV1(2)BP6000
そう簡単には終わらせてはくれなかった。
魂状態になっていた契約Wは、右半身が赤、左半身が銀色の姿、ヒートメタルとなって復活する。
「さらにファングジョーカーを召喚」
ー【仮面ライダーW ファングジョーカー[3]】LV2(2)BP5000
立て続けに、左半身が白、右半身が黒の刺々しいWが召喚される。
「召喚時効果。ヒートメタルとファングジョーカーに1つずつコアブースト。カウント+1。そしてもう1枚、変身Wを配置」
ー【変身!!仮面ライダーW】LV1
「配置時の神託。コア+2。落とされた仮面の魂は手札に加える」
向こうも変身カード。しかも今の神託で防御マジック、仮面の魂を回収された。厄介だ。
「そう言えばよぉ。あの子は残念だったなぁ。なんだっけ名前。あぁそうそう、佐々木キコとか言うガキンチョ」
「!?」
何故かハバキリの口から「キコ」の名前が出て来た。私はそのことを問い詰める間もなく、アタックステップが開始されて。
「アタックステップ。ヒートメタルでアタック。その効果でカウント+1と1コアブースト。煌臨元の契約Wの効果でカウント+2し、自身のカウント以下の、疲労状態の相手スピリット1体を手札に戻す」
「!」
「今のオレのカウントは6。よってコスト3で疲労している契約ガヴは手札だ」
ヒートメタルは、鋼鉄の棒に炎を纏わせて振い、契約ガヴを殴打。契約ガヴはたちまち焼き尽くされ、消滅。
「手札には行かせねぇ。魂状態で残す」
「だけどいないことに変わりはないぜぇ」
いや、契約ガヴを除去して来ることは読んでいた。契約煌臨スピリットに対抗できるのは、同じ契約煌臨スピリットだけだ。
「フラッシュ【契約煌臨】を発揮。魂状態の契約ガヴを、ケーキングフォームへ!!」
ー【仮面ライダーガヴ ケーキング】LV2(2)BP7000
私もソウルコアをコストに【契約煌臨】を発揮。魂状態だった契約ガヴは、瞬く間にケーキの装甲纏うケーキングとなって復活。
「煌臨時効果。ファングジョーカーから2つのコアをリザーブへ置き、LVダウン。さらに私のカウントを-1することで、変身Wのコア2つをボイドへ。煌臨元の契約ガヴの効果。私のカウントが減った時、1枚ドロー」
ケーキングはホイップの絞り袋を内包した短剣からホイップを放出し、それをファングジョーカーへとぶっかける。
連なる効果。結果的に、ファングジョーカーのLVが1に下がり、創界神ネクサス、変身Wのコアが0になった上、私は1枚のカードをゲットした。
しかも、まだ終わらない。
「フラッシュ。契約ガヴの効果。手札1枚を破棄し、カウント+4。その後カウントを-1して、コア2個以下のファングジョーカーを破壊」
「!」
ケーキングは短剣をXの字を描くように振い、ハバキリのフィールドにいるファングジョーカーを斬り裂き、爆散させる。
「カウントが減ったことで1枚ドロー。ヒートメタルのアタックはケーキングでブロック。【OC:5】を満たしたことで、ケーキングのBPは12000。返り討ちだぜ」
ケーキングは、今度は今にも私のライフバリアに、鋼鉄の棒を叩きつけようとしたヒートメタルへ向かって、短剣を横一閃。それも斬り裂き、破壊した。
「契約Wは魂状態で残すぜぇ。ライフは死守したかぁ。ターンエンド」
手札:3
場:【変身!!仮面ライダーW】LV1
【仮面ライダーW サイクロンジョーカー[3]】(魂状態)
バースト:【無】
カウント:【6】
よし。今のターンでバトルは私の優勢に傾いた。
次のターンでタコ殴りにするのがいつものパターンだが、それをする前に、先ずは聞くことある。
[ターン05]鉄華ヒカリ
「メインステップ。オマエ、なんでキコのこと知ってんだ」
そう。キコのことだ。なんでこのアホはそんなこと知っている。
まさか、誘拐しようとしてたんじゃねぇだろうな。だったら許せねぇ。
「ヒャーハッハッハ。ちょうど3日目くらいかなぁ。闇バトルにオマエら双子が参加していることを知ってから、オレはまたオマエらのことを調べてたのよ。仲良くなった女の子が病気で急死なんて、切ないよなぁ」
「テメェに同情される筋合いはねぇよ」
「ま、オレが殺したんだけどなぁ」
「……は?」
唐突にサラリと告げられた告白に、私の思考は停止した。
「オマエ。そのガキンチョの父親と戦った時、わざと負けようとしただろ?…で、その直前、娘の容態が悪化したことで、サレンダーされたろ?」
「……」
「偶然にしちゃあ、できすぎだよなぁ?」
は?
何言ってんだコイツ。だって、キコは病気で、亡くなって………
「こっちとしては、成長したオマエを、是非ともカード兵士として迎え入れたかったもんでなぁ。だからオレと当たる前に負けて、大会をリタイアでもされたら困っていたわけよ」
「……」
「簡単な仕事だったぜぇ。寝てるガキに注射を一本刺すだけだったからなぁ」
「……」
段々、目の瞳孔と指先が小刻みに震え始めた。
受け入れられないくらい大きな現実が、身体の中に入って来ようとしているからだ。
「それにしても、あの父親、馬鹿だよなぁ。もう少しでオマエに勝てたのに、たかがガキ1匹のためにそれを投げ捨てるなんてよぉ」
「……」
「しかも結局娘は死んだんだ。笑っちまうよなぁ」
「……!!」
「ヒャーハッハッハ」
腹を抱えて大きな声で嘲笑い出すハバキリ。
人を殺しておいて、それがさも当然であるかのような表情に、私の中で何かがはち切れた。
「オマエェェェェェェエ!!!」
怒りのままにターンを進めた。一気にアタックステップへと突入し、ケーキングで攻撃を仕掛ける。
「契約ガヴの効果でカウントを上げ、手札から【契約煌臨】!!……ブリザードソルベ!!」
ー【仮面ライダーガヴ ブリザードソルベフォーム】LV2(2)BP18000
ケーキングは、凍てつくアイスの鎧を纏うライダースピリット、ブリザードソルベに進化。
その手に新たに握られた赤い剣を、ハバキリへ向け、構える。
「オマエがキコを、キコをぉぉぉお!!」
「ヒャーハッハッハ」
「フラッシュ、ブリザードソルベは1ターンに一度、回復する」
許さねぇ。
キコが一体何をしたって言うんだ。タダツネがどんな想いで闇バトルに臨んでいたと思ってんだ。
叩き潰す。コイツだけは徹底的に叩き潰してやる。
「オレだけのせいにするのは心外だなぁ」
「あぁ?」
「オマエ、まだ気がついてないのか?……オレは闇バトルの中でオマエと再会した。つまり、オマエが自らの願いと言う誘惑に負けて参加さえしなければ、この惨劇は免れていたんだよ」
「ッ……ふざ。ふざけんなァァァァァァァァ!!」
私の怒りの言霊に呼応するように、ブリザードソルベは赤い剣をハバキリへ向かって投擲。
「ヒャーハッハッハ。フラッシュマジック、カシオペアシール」
「!?」
「ブリザードソルベを疲労。アタックはライフで受ける」
〈ライフ4➡︎3〉ハバキリ
投擲された赤い剣は、ハバキリのライフバリア1枚に突き刺さり、それを砕く。
だが、直前に放たれた「W」の文字に輝く星座が、ブリザードソルベを大地に縛り付ける。
「カシオペアシールの効果発揮後、オレは5回、自分のエンドステップにコアを1つずつ増やせる。効果で疲労したスピリットは、その5回目のタイミングが訪れるまで、回復しない」
「なに!?」
つまり、アイツのエンドステップを5回、私のターンを含めて合計10ターン経過しないと、ブリザードソルベ、契約ガヴは回復ができないと言うこと。
今のバトルスピリッツの環境は速い。これから10ターンも経過させるのは到底不可能。
実質、私の契約スピリットは封じられたも同然だ。
「あぁそうそう、そう言えばよぉ。言い忘れていたが、オレが勝ったらオマエの身体、いただくからな」
「!」
「闇バトルはカード兵士の宝庫。多くのカード兵士が欲しいオレにとっては、この機を逃したくねぇのよ。だから、オレに負けた奴は皆、外国にあるオレの隠れ家に招待することにしている」
「オマエ、私達以外の奴らも誘拐してたのかよ!!」
「人聞きが悪いなぁ。さっきも言ったろ?…オレは自分に忠実なカード兵士軍団が欲しいだけさぁ」
コイツ、闇バトルの参加者まで誘拐を……
今日は6日目。少なくとも5人を攫ったってことか?
「招待」なんて柔らかい言葉使ってるが、一度誘拐された私にはわかる。限りなく奴隷に近い状態で管理しているに違いない。
「ヒャーハッハッハ。ガキを殺したオレが憎いだろう。なら立ち向かって来い。その感情が、オマエの一流カード兵士への道、第一歩だ」
コイツは、私を道具としてしか見ていない。
いや、私だけじゃない。他の闇バトルの参加者も、タダツネ決意も、キコの命も。
全部、自分がこの世界でのし上がるための道具だと思ってやがんだ。
「一々能書き垂れてんじゃねぇ。オマエだけは、絶対にぶっ潰してやる……!!」
コイツに対する憎悪が溢れ出て止まらない。
キコの仇は、必ず取る。取らねぇと、私の気が済まねぇ。
次回、第7話「煌めけマスター」
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正直、鉄華2は前作と比べて内容が重く、だいぶ人を選ぶかなと思ってます。
ですが、2026から始まる新スタン環境での執筆に向けて、色んな内容の話に挑戦したいと考えております。なので、どうか温かい目でご覧になっていただけたら幸いです。