キコを殺した犯人が目の前にいる。
コイツだけは絶対に許せねぇ。
ぶっ潰す。ぶっ潰してやる。この身がどうなろうとも、必ずキコの仇は取ってやる。
******
「オマエだけは、絶対にぶっ潰してやる……!!」
「ヒャーハッハッハ。流石はオレが見込んだ未来のカード兵士。威勢は百点満点。だがオマエの契約カードはカシオペアシールにより行動不能。少なくともこのターンはどうすることもできねぇなぁ」
闇バトル6日目、私こと鉄華オーカミの相手は、昔、幼かった私とミツキを攫った狂気の誘拐犯、ハバキリだった。
バトルの最中、この男が、キコを殺した張本人だと発覚し、私の胸中は今、激しい復讐心に燃えている。
「ターンエンド」
手札:3
場:【仮面ライダーガヴ ブリザードソルベフォーム】LV2
【変身!!仮面ライダーガヴ】LV2(3)
バースト:【無】
カウント:【9】
今はターンエンドするしかねぇが、必ずコイツはぶちのめしてやる。
キコの仇を討ち、タダツネの無念を晴らすんだ。この私が。
[ターン06]ハバキリ
「メインステップ。【契約煌臨】発揮ぃ。魂状態の契約Wを、ルナトリガーにするぜぇ」
ー【仮面ライダーW ルナトリガー[3]】LV2(3)BP11000
魂状態となっていた契約Wが、【契約煌臨】の力により、右が黄色、左が青色のフォーム、ルナトリガーとなり、フィールドへ復帰して来た。
「煌臨時効果。オレの手札を全て破棄。その中にライダーカードがあれば、オレはオマエの手札の枚数分、ドローできる」
「!」
「今のオマエの手札は3枚。よってオレも3枚ドロー」
緑属性特有のマリガン能力。今ので厄介な防御マジック、仮面の魂も破棄されたけど、その分新しい可能性が、アイツの手に。
「W サイクロントリガーを召喚」
ー【仮面ライダーW サイクロントリガー】LV2(3)BP5000
「召喚時効果。デッキから3枚オープンし、対象カードを手札に加える」
今度は緑と青のWが召喚される。
その効果によってオープンされた3枚のカードを目にするなり、ハバキリは不気味な笑みを浮かべて。
「オレは2枚目のサイクロントリガーを手札に加え、オープンされた他2枚、仮面の魂と『さぁお前の罪を数えろ!』の効果を使い、これも手札に加える」
「また仮面の魂が手札に来やがったか」
「すかさず、2体目のサイクロントリガーを召喚」
ー【仮面ライダーW サイクロントリガー】LV1(1)BP3000
「召喚時効果。ヒートメタル、仮面の魂と『さぁお前の罪を数えろ!』を手札へ」
「また3枚回収!?」
「ヒャーハッハッハ。どうやら勝利の女神は常にオレの味方をしてくれるみたいだぜぇ」
今の効果連打だけで新たに4枚もマジックカードを手札に加えやがった。
コイツ、Bパッドに細工でもしてんじゃねぇだろうな。
「アタックステップ。LV1のサイクロントリガーでアタック」
攻撃して来た。今の私のフィールドは、カシオペアシールで身動きが取れなくなったブリザードソルベしかいねぇから、ブロックはできない。
だが、何も受け身が取れなくなったわけじゃねぇ。
「フラッシュ。変身ガヴの【神技】を発揮。アタック中のサイクロントリガーを消滅」
私がサイクロントリガーへ向けて手をかざすと、それはたちまち紫と黄色のオーラに包まれて消滅する。
「なら、残りの2体でアタックだぁ」
「……ライフで受ける」
〈ライフ4➡︎3➡︎2〉鉄華ヒカリ
敵の追撃。サイクロントリガーとルナトリガーは銃を構えると、それぞれ風を纏った単発の弾丸と、不規則な動きな無数の弾丸を放ち、私のライフバリアを合計2枚破壊する。
「ぐっ」
「どうしたどうしたぁ。もう負けそうになってるじゃねぇかぁ。エンドステップ。カシオペアシールの効果一度目。リザーブにコア1つを追加。これをあと4回繰り返せば、オマエの契約スピリットは動けるようになるぜぇ」
ふざけやがって。そんなに試合を長引かせる気なんてねぇくせに。
「ターンエンド」
手札:7
場:【仮面ライダーW ルナトリガー[3]】LV2
【仮面ライダーW サイクロントリガー】LV2
【変身!!仮面ライダーW〈R〉】LV2(3)
バースト:【無】
カウント:【9】
私のターンが回って来た。ぶっ殺してやる。
[ターン07]鉄華ヒカリ
「メインステップ。契約ガヴの効果、手札1枚をコストにカウント+4。さらにヴァレンを召喚」
ー【仮面ライダーヴァレン チョコドンフォーム】LV1(1)BP2000
「召喚時効果。3枚オープンし、ヴラムを手札に加えて、コレも召喚する」
ー【仮面ライダーヴラム プリンカスタム】LV1(1)BP4000
「召喚時効果。カウントを2減らし、デッキの上と下から1枚ずつドロー。さらにカウントが減ったことで、2枚のフラッペカスタムの効果。ノーコスト召喚」
ー【仮面ライダーヴァレン フラッペカスタム】LV2(2)BP8000
ー【仮面ライダーヴァレン フラッペカスタム】LV2(2)BP8000
怒涛のドローで展開が繋がった。私はブリザードソルベを除き、フィールドに4体ものライダースピリットを揃える。
私のデッキは契約カードだけじゃねぇ。サポートのライダースピリット、ヴァレンとヴラムも十分強いぜ。
「フラッペカスタムの召喚時効果。相手スピリットのBP-12000。0になったらデッキ下に戻す。残った2体のWを倒せ!!」
2体のフラッペカスタムによる氷塊纏う右ストレートが、ハバキリの2体のWの顎にクリーンヒット。凍りつかせたのち、消滅させる。
「アタックステップ。フラッペカスタムでアタック。効果で1ドロー」
反撃開始。私はフラッペカスタムで攻撃を仕掛ける。
だが。
「フラッシュマジック、仮面の魂。オレのライフはこのターン、1つしか減らない」
「くっ」
「アタックはライフで受ける」
〈ライフ3➡︎2〉ハバキリ
フラッペカスタムの拳骨が、ハバキリのライフバリア1枚を砕くものの、発揮された防御用マジック、仮面の魂の効果により、それ以降の攻撃はライフバリアを砕けない状態へ陥ってしまう。
「ヒャーハッハッハ。オレの残りライフは2。手札にはもう1枚の仮面の魂。次のターンまでは余裕で凌そうだなぁ」
「クソ。ターンエンド」
手札:3
場:【仮面ライダーガヴ ブリザードソルベフォーム】LV2
【仮面ライダーヴァレン チョコドンフォーム】LV1
【仮面ライダーヴラム プリンカスタム】LV1
【仮面ライダーヴァレン フラッペカスタム】LV2
【仮面ライダーヴァレン フラッペカスタム】LV2
【変身!!仮面ライダーガヴ】LV2(4)
バースト:【無】
カウント:【11】
ダメだ。ガヴのデッキじゃ、どうやっても仮面の魂だけはケアできねぇ。
もうちょっとでタダツネの無念を晴らせるのに。キコの仇を取ることができるのに。アレのせいで後一歩のところで遠のいちまう。
[ターン08]ハバキリ
「メインステップ。【契約煌臨】を発揮。ヒートメタル」
ー【仮面ライダーW ヒートメタル[3]】LV2(3)BP8000
魂状態の契約Wが、また【契約煌臨】により復活。右が赤、左が銀のヒートメタルだ。
「さらに。W ルナジョーカーを召喚」
ー【仮面ライダーW ルナジョーカー】LV1(1)BP2000
今度は右が黄、左が黒のW。他と同じで、一見強そうには見えねぇけど。
「召喚時効果。1コアブースト。相手の手札が4枚以上なら、デッキ上3枚オープン、その中のWを全て手札に加える」
「全て!?」
「ヒャーハッハッハ。オレはオープンされた2枚のファングジョーカーとルナトリガーを手札に加え、そのまま纏めて召喚」
ー【仮面ライダーW ファングジョーカー[3]】LV1
ー【仮面ライダーW ファングジョーカー[3]】LV1
ー【仮面ライダーW ルナトリガー[2]】LV1
信じられねぇ。コイツ、まだこれだけのスピリットを用意できるのかよ。除去が追いつかない。
「2体のファングジョーカーの効果で4コアブースト。ルナトリガーの効果。変身ガヴから全てのコアを取り除く」
「な……ぐっ!?」
ルナトリガーのマグナムから放たれる、予測不能な軌道を描く弾丸。それは最終的に私のライフバリアに直撃。
創界神ネクサス、変身ガヴから全てのコアが失われ、前のターン発揮した【神技】が使用不可となってしまう。
「これでもう、さっきみたいな受け方はできねぇなぁ」
「くっ」
「アタックステップ。ファングジョーカーでアタック」
アタックステップが来た。ファングジョーカーが肩の刃を引き抜き、構える。
「このフラッシュ。オレは変身Wの【神技】の効果発揮。相手スピリット1体を疲労させる。これを二度使い、オマエの場のプリンカスタムとフラッペカスタムを疲労だぁ」
ハバキリの右掌から吹き出して来た突風。
それは私のフィールドを吹き抜け、プリンカスタムとフラッペカスタムの2体に片膝をつかせ、疲労状態へ追い込む。
「フラッシュマジック、仮面の魂」
「!」
「説明するまでもねぇな。このターン、私のライフは1つしか減らねぇ。アタックはライフで受ける」
〈ライフ2➡︎1〉鉄華ヒカリ
「ぐぁぁあ!?!」
素引きしていた仮面の魂を使用しても尚突き進んで来たファングジョーカー。その刃が、私のライフバリア1枚を切り裂いた。
「ぐっ……ハァッ、ハァッ」
敗北寸前の大きなダメージだ。
元々全快の状態じゃなかったことも災いし、私の体力は既に限界。呼吸は乱れ、眼前が僅かにかすみ始める。
「仮面の魂を素引きしていやがったかぁ。だがこれで、オマエの残りライフはたった1つ。次はねぇぜぇ。ターンエンドぉ」
手札:5
場:【仮面ライダーW ヒートメタル[3]】LV2
【仮面ライダーW ルナジョーカー】LV2
【仮面ライダーW ルナトリガー[2]】LV2
【仮面ライダーW ファングジョーカー[3]】LV2
【仮面ライダーW ファングジョーカー[3]】LV2
【変身!!仮面ライダーW】LV1(2)
バースト:【無】
カウント:【9】
そうだ。アイツに次のターンを回すと、私は負ける。
だから疲れてる場合じゃないんだ。
敵を見ろ。
握ってるカードを見ろ。
作戦を立てろ。
死んでも、復讐を果たせ………
「……」
「おい、まだ続けるのかぁ?」
「……」
「フラフラじゃねぇか。オマエはオレの道具になる女だ。オレは道具は大事に扱うタチでなぁ。オマエにゃ美品でいて欲しいのよぉ」
「……」
アイツの言いたいことはわかる。要するにさっさとサレンダーしろってことだろ。
誰がするか。
テメェをぶっ倒して、私は仇を取る。
「うるせぇ。私のターンだ。黙って見てろ」
「もう負けは決まってんのに。どうしてそこまで抗う。そんなに復讐したいか?…カード兵士になりたくないか?」
「当然だ」
アイツは私の力量を測るためだけに、カード兵士にするためだけに、キコを殺したんだ。
許せねぇ。絶対に許しちゃいけねぇ。
「カード兵士はいいぜぇ。バトルに勝つだけでオマエは金が貰える。贅沢に暮らせるんだぁ」
ハバキリは性懲りも無く「それにぃ」と、また言葉を続ける。
「ずっと、バトスピが嫌いだったんだろう?」
「!」
「父親は世界を救った英雄、双子の片割れはプロのカードバトラーと来たもんだ。そりゃ他人から比較されまくって萎えるのは当然だわな」
何も言い返せない。
事実その通りだ。私の心底には、確かにそれを拒む感情があり、そのさらに奥深くには、ベリアルと言うトラウマが眠っている。
「よく聞け。カード兵士はなぁ、バトルスピリッツにさえ勝てば、何をしても許される。もちろん殺害もだ」
「……」
「今まで勝手にオマエを比較して来た連中も皆殺しにできる。どうだ、オレの軍門に降るのも、悪くないだろ?」
また、回りくどいことを。
さっさとオレの物になれって言えよ。
元より、なる気はねぇけどな。
「私は……」
ー『今のヒカリは矛盾している。本当はもう、バトルスピリッツを消したいなんて、思っていないんじゃない?』
「!!」
「オマエの道具になる気はねぇ」と、ようやくハバキリに言い返そうとした直後。私の脳裏には、今日の夕暮れ時に、ミツキから言われた言葉がリピートされた。
なんで今、このタイミングで?
そう思ったが、瞬間的に理解した。本当の理由を。
「私は矛盾していた」
「は?」
私が言い返した第一声に、ハバキリは首を傾ける。
「最初は本気でバトスピを消すつもりだった。こんなもんなくなっちまえって思っていた。だけど闇バトルでいろんな奴とカードを交えて行く中で……」
私は変わっていったんだ。自分でも知らない間に。
私の頭の中には、キコと遊んだ記憶。父さんがバトスピを守ってくれたからこそ生まれた記憶。
私はあの時間が、たまらなく、愛おしいくらい、大好きだった。
「私は変わっちまってた。バトスピを愛してくる奴を、好きになったんだ」
「さっきから何をわけのわからんことを」
次第にイラつき始めたハバキリは、額に青筋を浮かべるが、私は続ける。
「もう矛盾はしねぇ。はっきりしてやる。私が本当に消すのは、オマエのように、バトスピを悪用しようとする奴ら。父さんが守ってくれた世界を穢す連中だ」
「なに」
本当に大事なものが何かを理解した。だから、もう迷わなぇ、悩まねぇ。
キコみたいに、父さんが守ってくれた世界で楽しくバトスピしていた子を不幸にさせないために、私は戦う。
そのために願いを叶える。
「オマエも、力を貸してくれるか、ガヴ?」
刹那。
カシオペアシールのWの光で動きを封じられていた、ブリザードソルベ、もとい契約ガヴが、私の強い思いに応えるように、青にも近い薄い紫色の輝きを放つ。
私は、これが新しい力の兆しなのだと言うことを瞬時に察して。
「な、なんだ。動けないはずの契約スピリットが光って」
「どうする。ここでサレンダーするか、それとも今、私に倒されるか」
私はハバキリに究極の二択を迫る。
ハバキリは、ガヴの異常な輝きに困惑していたが、直ぐに冷静になり、私の問いかけにも返答する。
「は、はは。ヒャーハッハッハ!!…馬鹿か。オマエも知ってるだろ。オレの手札には大量の防御マジックがある。オマエが何をしようとも、コイツらで受け切ってオレの勝ちなんだよぉ」
「……」
「サレンダーするか倒されるかを選ぶのはオマエだ。どれを選んでも、オマエはオレの道具、カード兵士になるがなぁ!!」
愚問だったみたいだな。
もうコイツと、言葉を交える必要はない。
全力を持って、倒すだけだ。
[ターン09]鉄華ヒカリ
「ドローステップ。ドロー!!」
このターンのドローカード。
それは、キコが私のために描いてくれた、ガヴのカード。
クレヨンで描かれ、ツギハギだらけのそのカードは、青くて優しい光に包み込まれ、新たなるカードへと昇華して行く。
「キコの描いてくれたガヴが。よし、行くぜキコ」
カードの進化は有名な話だ。この世界ではよく起こる現象。
だが、ラクガキのカードが進化する話は聞いたことがない。一体どう言ったメカニズムでそうなったのかは当然わからない。
だが、今はどうだっていい。この胸の内に、キコを感じることさえできれば。
「メインステップ。先ずは、カシオペアシールによって疲労しているブリザードソルベから全てのコアを外し、消滅させる」
「なに!?」
カシオペアシールにより身動きが取れなくなっていたブリザードソルベを無理矢理消滅させる。
いわゆる自害だ。
「馬鹿が。自分から消した場合、契約スピリットは魂状態になれない。もう二度と契約スピリットは使えないぞ」
「そんなの承知の上でやったに決まってんだろ」
「!」
「手札からマジックカード『ガヴ』を使用。トラッシュにある契約ガヴを、手札のカードと入れ替える」
「なに、トラッシュ回収効果だと!?」
「そして、追加効果で『ガヴ』をミラージュとしてセットしたのちに、契約ガヴを再召喚!!」
ー【仮面ライダーガヴ ホッピングミフォーム[2]】LV2(3)BP9000
前屈みの姿勢で、再び契約ガヴが姿を見せてくれる。もうカシオペアシールは存在しない。当然、回復状態だ。
「なに。一度消滅させ、召喚し直すことで、カシオペアシールを実質無効にしただと!?」
「そうだ。これでもう、ガヴを縛るものはない」
「だ、だがまだオレの手札には無数のマジックカードがある。契約スピリットが復活したとて、負けることはない」
当然それも承知の上だ。
行こうぜキコ。オマエがくれた力で、私は勝つ。
「復活した契約ガヴを対象に【契約煌臨】を発揮」
その瞬間。契約ガヴが、また薄い紫色の光に包み込まれて行く。
静寂且つ力強いその光の中で、契約ガヴは姿形を変え、進化する。
「仮面ライダーガヴ マスターモード、LV2で契約煌臨……!!」
ー【仮面ライダーガヴ マスターモード】LV2(3)BP10000
進化したその姿は、より刺々しくて野生的。だけど不思議なことに神秘性も兼ね備えている。
静かなる力の中で目覚めたそのスピリットの名はマスターガヴ。極限の中で手に入れた、私の相棒の新たなる可能性だ。
「契約ガヴの効果。手札1枚をコストにカウント+4。これで私のカウントは12を上回った。マスターガヴの【OC:12】を達成。これにより、マスターガヴはBPと効果を新たな会得する」
「何を得てもオレには勝てねぇ!!…ヒャーハッハッハ!!」
準備は整った。未だ余裕ぶちかまして嘲笑ってているアイツに、マスターガヴの真の力を見せてやる。
「アタックステップ。マスターガヴでアタック。【OC:12】で得た効果により、マスターガヴはブロックされない」
「!」
「さらにもう1つの効果。カウント-1。カウントが減ったことで、契約ガヴの効果で1ドロー」
マスターガヴは、クラウチング並みの低姿勢から咆哮を張り上げると、目にも止まらない凄まじい速度でフィールド内を縦横無尽に走り回る。
「フラッシュマジック、白晶防壁。アタック中のマスターガヴを回復させる」
勝利の算段は整った。アイツの残りライフは2。回復したマスターガヴの、ブロックされない二撃が通れば勝てる。
「回復ぅ?…ならまたお寝んねさせてやるぜぇ。フラッシュマジック、『さぁお前の罪を数えろ!』を使用」
「!」
「これにより、オマエのスピリットを2体重疲労させる」
荒れ狂う突風がフィールドを吹き抜ける。
それに吹き飛ばされ、マスターガヴは重疲労状態に陥る。
と、コイツは思っていたんだろうな。
「なに!?」
フィールドにいるマスターガヴは、再び咆哮を張り上げ、その突風を掻き消す。
「ど、どう言うことだ」
「マスターガヴの効果だ。アタック時、カウントを-1することで、このターン中、マスターガヴでアタックしている間、オマエは紫と黄以外のマジック、アクセル、チェンジを使えない」
「ッ……じゃあ、残った仮面の魂も」
「あぁ、他の色を含んでいるから、使えねぇ」
オーバーガヴの効果を「力」と例えるなら、マスターガヴの効果は「技」だ。
この場を完全に支配するその効果は、まさにマスターの名前に相応しいぜ。
「仕留めるぞ、先ずは一撃!!」
「ら、ライフで受ける」
〈ライフ2➡︎1〉ハバキリ
「ぐぉ!?」
高速で何度も打ち込まれたパンチが、ハバキリのライフバリア1枚を砕いた。
次で最後だ。
「二撃目、ラストアタック!!」
私のラストアタックの宣言に応えたマスターガヴ。その高速移動の力を駆使し、ハバキリの眼前から姿を眩ます。
「き、消えた!?」
いや、消えていない。マスターガヴは既にハバキリの背後を取り、低い姿勢のまま、右足にエネルギーを溜め込んでいる。
そして。
「決めろマスターガヴ。これが、私の本当の願いの、第一歩だ!!」
極限まで右足に溜め込んだエネルギーをそのままライダーキックとして、ハバキリのライフバリアへと蹴り込む。
〈ライフ1➡︎0〉ハバキリ
「ぐ、ぐぉぉぉお!?」
ハバキリのライフバリアはたちまち粉砕。遂にそれは0となり、バトルが終了。
勝者はこの私、鉄華ヒカリだ。キコとの絆が、私に勝利を齎してくれた。
「勝った。勝ったぞ、タダツネ。キコ」
バトルスピリッツを悪用する連中を滅ぼす。私のこの願いの、大きな第一歩に、身体中から浮き上がる鳥肌が止まらない。
ついでに動悸も止まらない。多分これ、疲れてんだな。タダツネとバトルしてからほとんどまともに休めてなかったから。
「ふ、ふざけんな。ふざけるなよぉ!!」
「!」
「このオレが負け!?…闇バトルで獲得し続けて来たポイントがマイナスされるだと!?…鉄華ヒカリを、この手にできないだと!?」
倒れていたハバキリが立ち上がって来た。コイツ、あれだけのバトルダメージを負ったのに、まだ意識があるのかよ。
「こうなったら力づくだぁ。無理矢理にでも、一緒に来てもらうぞ鉄華ヒカリぃ。オマエはこのオレが手塩にかけ、無敵のカード兵士にならなければならないのだからなぁ」
マズイ。こんな疲弊している状態で襲われたら、10年前と同じだ。確実に誘拐されちまう。
ちくしょう。バトルは私が勝ったのに。
「ヒャーハッハッハ。もう立ってるのもやっとか?…こりゃ都合が良い。連れて行く手間が省けるぜ」
ハバキリが、私との物理的距離をじりじりと詰め始める。ダメだ。もう抵抗する気力も残っていない。悔しいが、お終いだ。
「流石にはしゃぎ過ぎましたね」
「は!?」
「!?」
唐突に声が聞こえて来た。耳覚えのある、男の太い声だ。
その声主を確認する間もなく、ハバキリの身体は粒子に変換され、消えて行った。
「な、何が起こったんだ。ハバキリは!?」
突然起こった不思議な出来事。私は困惑しながらも辺りを見渡す。
「もう大丈夫よ。ヒカリちゃん」
「ウィンド!?」
「辛かったわね」
「……」
最初に目に留まったのは、黒ローブの女性、闇バトル運営スタッフのウィンドだった。今日は観に来てなかったのに、一体いつから観ていたんだ?
「んなことより、ハバキリはどこ行ったんだよ。急に消えちまったぞ」
「彼は闇バトル参加者を拉致すると言う犯行を何度も行なっていた。故に、大きな処罰を与えることにしたのだ」
「ッ……イスルギ」
今度は大会主催者の鉄仮面の大男、イスルギだった。私のそばまで駆けつけてくれたウィンドと違って、バトル場の中二階のベンチに腰掛けていた。
「大きな処罰って、何をしたんだよ」
「それに関しては、君が知る必要はない。ただ、彼が拉致していた闇バトル参加者は全て、我々闇バトル運営スタッフが救出した。心配は無用だ」
「……!!」
『それでもキコはもう帰って来ねぇよ』と強く言い掛けたが、そんなことコイツに言ってもお門違いだ。
落ち着け。今は素直に、ハバキリの悪事が対処されたことを喜んでおこう。
「そっか。ありがとう」
「疲れたでしょうヒカリちゃん。一旦帰って休みましょう」
私が怒りを鎮めたことを察したのか、ウィンドが私の肩に手を置きながらそう告げて来た。
「わかった」
確かに疲れたし、お言葉に甘えるか。
そう思った私は、ウィンドと一緒に、アンダーグラウンドスタジアムのバトル場をあとにした。
「……」
1人になったイスルギ。
鉄仮面を着用しているが故に、今何を考えているのかは定かではない。
だが、何かに苛立ち、憤怒していることだけはひしひしと伝わって来て。
「私が間違っていた。やはり人間は愚かな生き物だ。救わなければ、今を生きる、全てのスピリット達を」
意味深な言葉を呟くイスルギ。
その彼の手に握られていた1枚のバトスピカードには、消え失せた「ハバキリ」の名前が刻み込まれていた。
******
朝。雀の囀りが聞こえて来る。
私こと鉄華ヒカリは、自室のベッドからゆっくりと起き上がり、起床した。
大きな欠伸が出る。久しぶりに熟睡できたからだろうか。
「……」
眠気覚ましに目を擦った直後、デスクの上に置いていたAカード、ガヴのデッキが視界に入って来た。
それと同時に想起したのは、ガヴと共に乗り越えて来た、数々のバトルスピリッツ。
「ありがとなガヴ。オマエと出会ってから、たくさん大事なことを学んだよ。喧嘩っ早くて口調も乱暴な私だけど、これからもお互い、良い相棒同士でいような」
「もちろん」
ガヴのカードに、そう返答されたような気がした。私の頭の中も相当メルヘンチックになって来たのかもしれねぇ。ミツキみたいなアホにならないように注意しねぇとな。
「ん?」
そんな折、私のBパッドからメッセージが届いた。
「ウィンド?」
その相手はウィンド。
アイツ、どうやって私のメアド手に入れたんだよ。と、言いたい所だけど、私のBパッド、闇バトル用にハッキングされてたんだった。それくらいはお茶の子さいさいか。
「おはまる、ヒカリちゃん♡…唐突にメールしてメンゴね。今日の正午、ヴルムヶ丘公園で待ち合わせね。美味しいお茶菓子用意してるから、そこで闇バトル6勝目のお祝いでもしましょ⭐︎…貴女のウィンドより」
寝惚けながらも、取り敢えずそのままメールを読み上げてみた。
正直内容よりも、文体が異常に古臭い方が気になる。
「なんか急だな。つか、今日学校だし。昨日もずっとサボってたから、流石に連チャンでサボるのはなぁ」
そうだ。私はまだ14歳の中学3年生。学校をサボって、出会ってまだ1週間も経っていない変なおばさんに会いに行くわけがない。
******
ヴルムヶ丘公園。私の住んでいる界放市ジークフリード区にある大きな公園だ。
「ヴルム」は、伝説のスピリットでよく聞く大層な名前だけど、公園自体は、遊具無しで、全体の9割が原っぱで構成された単純なもの。
それに平日だから、人もいない。
私とウィンドを除いては。
「アンニョンハセヨ、ヒカリちゃん。5分前行動なんて、素晴らしいわ」
「別に、普通だろ」
結局、来てしまった。
こんな変態おばさんとは顔も合わせたくないんだけど、なんか、訳アリっぽかったから。
「先ずは6勝目、おめでとうね。さ、今日は色んなお菓子を用意したからね。いっぱい食べてちょうだい」
「……」
ウィンドは、黒いローブから取り出した大量のお菓子をベンチに広げる。
私は、その内の1つ、キャンディーを手に取り、口に入れた。
「さっさと要件を話せ」
「!」
「6勝目なんて中途半端なタイミングで呼び出して来たんだ。なんか理由があるんだろ?」
私がそう告げると、ウィンドは、いつもの砕けた表情から、真剣な表情へと切り替える。
「そ。前置きは要らないようね。なら、早速本題に入らせていただこうかしら」
「……」
「私が今日貴女を呼んだのはね、闇バトルの真実を伝えるためよ」
「!!」
私は今日、このウィンドの口から直接聞かされることとなる。
知らない間に、自分がどんな危険な場所に足を踏み入れていたのかを。
次回、第8話「闇バトルの真実」
******
本編では語れない(語る暇がない)設定集。
・ヒカリはバトスピが嫌いだから、オーカミやミツキのように、召喚口上は述べない。ガヴを相棒として認めてからも、これは変わらない。
・Wのカードは、ハバキリを真の所有者とは認めていない。だからエクストリームまで進化していない。
・6、7話で、ウィンドがヒカリの応援に来なかったのは、ハバキリの隠れ家の掃討に赴いていたから。