バトルスピリッツ 王者の鉄華2   作:バナナ 

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第8話「闇バトルの真実」

 

 

 

たった1つの願いのために、ただ直向きに戦って来た。

 

その中で私は大事なものを失い、別の大事なものに気付かされた。正直それを得ただけでも、闇バトルに参加した意味はあったと思う。

 

だけど、そんなことはほんのささやかなことだった。これから始まる、大いなる戦いと比べたら。

 

 

******

 

 

「闇バトルの真実?」

 

 

太陽照りつける平日の昼間。ほとんどの面積を平原で占める大きな公園にて。

 

私はウィンドに告げられた。「闇バトルの真実を伝える」と。

 

唐突だったから、思わず身構えてしまったが。

 

 

「それってどうせ、実は願いは叶えない。オマエらは踊らされてたんだ的な展開だろ。別にそんなの想定済みだぜ」

 

 

いや、そう。

 

そうなんだよ。正直ずっと疑ってた。

 

人を転送させたりBパッドをハッキングしたり、闇バトル周りの技術ははちゃめちゃに高い。だからひょっとしたら本当に叶えてくれんじゃないかと思ってもいた。

 

だけど、うん。まぁ、こんな話鵜呑みにするなんて、やっぱバカだよな。何か裏があるに決まってる。

 

 

「半分あってるわね」

「半分?」

 

 

ウィンドが言った。この話題になってからずっと顔が本気だ。普段はあんなにおちゃらけてるくせに。

 

 

「さっき言った『オマエらは踊らされてたんだ的な展開』……その具体的な内容、わかる?」

「あ?…いや、そこまでは」

 

 

わかるわけないだろ、そんなこと。何言ってんだ。

 

 

「それはそうよね。なら、Aカードのことから話しましょうか」

「Aカード?…なに、アレ普通のカードじゃねぇの?」

 

 

なんだ、なんで急にAカード?

 

Aカードつったら、今んとこは全部契約カードってこと以外は何もわかんねぇけど。

 

 

「普通、と言えば普通かもね。時にヒカリちゃん。Dr.Aと言う男は知ってるわよね?」

「え、あ、あぁもちろん。確か30年くらい前に世界を支配しようとした悪い奴だろ?…授業で習ったぜ」

「そう」

 

 

ウィンドは常に黒いローブを身につけていて、表情は口元しか見えないけど、なんでだろう。凄く悲しそうな表情をしているように見える。

 

 

「Dr.A。およそ28年前にこの世界を絶望の淵に追いやった、マッドサイエンティスト。その研究対象は、人とカードの『進化』の力」

「進化?」

「これは学校では習わないでしょうね。オーバーエヴォリューションと言うカードの進化の現象。貴女のガヴも過去に2回、進化したでしょ。Dr.Aはそれを悪用し、世界を」

「いやいや待て待て。よくわからん。もうちょっと噛み砕いて説明してくれ!!」

 

 

これ全部説明させると長いやつだ。

 

そう察した私はウィンドにそう提案した。

 

 

「あら失礼。つい熱くなって。そうね。Dr.Aと言うマッドサイエンティストは、この世を支配するために、たくさんのカードの進化を研究、いえ、実験して来たわ」

「うん」

「闇バトル参加者に配ったAカードとは、その実験の成れの果て。要するに失敗作ね」

「おぉ。ん?」

 

 

噛み砕いて説明しろと言ったのは私だが、とんでもないことをサラリと告げられ、表情が固まる。

 

 

「ま、待てよ。じゃあガヴは、元々Dr.Aのカードだったってことか!?」

「そう。正確にはDr.Aの監視下にあったカード。ガヴだけじゃない。貴女が今まで戦って来た、メカゴジラ、アギト、ゼット。他の参加者達のAカードもね」

「なんでオマエ達はそれを持ってたんだ」

「イスルギが所持していたわ。どうやって集めたのかは知らないけどね」

 

 

なんてこった。じゃあこれまで闇バトルで出会って来たカードはみんな、Dr.Aが持ってたカードってことかよ。

 

いや、それよりも気になることが。

 

 

「イスルギはなんのためにAカードを集めたんだよ。闇バトルを開催したことと何か関係があんのか?」

 

 

そうだ。AカードがあのDr.Aのカードだったとは言え、それが闇バトルの真実と言うワードと結びつかない。

 

 

「さっき教えた通り、Aカード達は、Dr.Aの息のかかったカード達。当然、その内には多量な進化の力を秘めている」

「……」

「その力は、バトルの中で磨かれて行く。だからイスルギは参加者を集め、彼らにAカードを配り、闇バトルを計画した」

「だからなんのために?」

「……」

 

 

ウィンドは僅かな時間、答えるのを渋るが、間もなくして直ぐに答えてくれた。

 

 

「優勝した者は、必然的に、Aカードの進化の負荷にも耐えられるカードバトラーと言うことになる。イスルギは、その優勝したカードバトラーの肉体を乗っ取るつもりなのよ」

「は、はぁ!?」

 

 

急に話がオカルトチックになった。俄には信じがたいけど。

 

 

「肉体を乗っ取るって、アイツ肉体あるじゃん。そんな必要ないだろ」

「アレは仮の姿。あのまま地上に長く居座ることはできない。だから地下にアンダーグラウンドスタジアムを造ったのよ」

「……アイツ、お化けかなんか?」

 

 

私がウィンドに訊いた。ウィンドは首を横に振る。

 

 

「いえ。貴女のもっと身近にあるもの」

「身近に?」

「Aカードよ」

「!?」

「しかもただのAカードじゃない。幾多も繰り返して来た実験の結果、あのDr.Aが唯一相棒として選んだ切り札、エボルト」

 

 

身体中に鳥肌と言う名の電流が走った。

 

イスルギはカードで、しかもあのDr.Aの相棒。瞬時に理解しろと言われても無理がある内容だ。

 

 

「な、なんでだよ!?…だってDr.Aは昔、英雄、芽座椎名に倒されたんだろ!?」

「そうよ。でも、彼が倒されても、その使っていたカードは残った。所有者を無くしても尚、それは無限に進化を繰り返して、私たち人間以上の力と知恵を手にしてしまったのよ」

 

 

なんか、話の規模がデカ過ぎやしないか?

今のウィンドが私に嘘をついているようにも見えねぇし。

 

 

「オマエの言ってることが本当なら、今すぐ闇バトルを中止にしろよ!!…そんな奴が肉体を得て大暴れでもしたら」

「大暴れはしないわ。ただ、奴は全人類をカード化するつもりよ」

「はぁ!?…なんだよそれ、じゃあ尚更中止にしねぇとダメじゃんか!!」

 

 

告げられて行く真実の数々は、私を混乱させるには十分過ぎる内容だった。

 

とても現実で起こることだとは思えない。

 

 

「もちろん、何もせずに手をこまねいていたわけじゃないわ。闇バトル中、私とずっといた貴女ならわかるんじゃない?」

「あ?」

 

 

いや、わからんが?

「私ならわかる」ってことは、私が見て来た範疇でも察せるってことだよな。

ウィンドのやったことって言ったら、私を闇バトルに誘って、何故か毎回私の更衣室に来て。

あとは私にガヴを渡してくれて。

 

ん?

ガヴ?

 

 

「まさか、ガヴ?」

「そう。私はイスルギの計画を止めるため、闇バトル運営スタッフに潜入し、ガヴにある細工を施し、貴女に託した」

「細工?」

「えぇ。イスルギ。いえ、エボルトに肉体を乗ったられる際、Bパッドを通じて、逆にエボルトを粒子化させる、いわゆるウィルスよ」

「ウィルス!?」

 

 

なにそれ怖。人体に影響ないのかな?

いやまぁ、別になんともないし大丈夫か。

 

 

「なんかよく分からんけど、要するにガヴはエボルトにとって毒ってことか?」

「そう言う認識で構わないわ。でも、結局はガヴを手にした人が闇バトルで優勝しないと意味がない」

「そこで選んだのが私か」

「そう。あの鉄華オーカミと鉄華ライの娘。才能のサラブレッドである貴女は、まさにこの計画の要」

 

 

じゃあウィンドは、初めからウィルスをエボルトに流し込むために、ガヴを私に託したのか。

 

 

「ごめんなさい」

「え」

 

 

ウィンドは、突然ベンチから立ち上がり、私に向かって頭を下げて来た。

 

 

「な、なんの真似だ。やめろよ、らしくねぇって」

「私は貴女を闇バトルに巻き込んだ。最初はただバトルに勝ってもらうだけのつもりだった。でもまさか、あんなことになるなんて」

 

 

あんなこと。まさか、キコのことか?

教えた覚えはないから、自力で調べたのかな。

 

 

「キコのことか?」

 

 

定かじゃないから訊いた。ウィンドは今度は首を縦に振る。

 

 

「えぇ」

「顔上げてくれよ。もう気にしてねぇっつったら嘘になるけどよ」

 

 

そうだ。キコの死は、今でも私の心の奥底を抉り続けている。

 

今後、何があっても、その抉られた穴が埋まることはないのだろう。

 

だけど……

 

 

「確かにキコは死んじまったけど、あの子の言葉はまだ私の中にある。失ったもんばかり見てもしょうがねぇ。残ったもんと、これから増えるものを、私は精一杯守るだけだ」

「ヒカリちゃん」

 

 

前を向いて歩いて行くしかねぇ。

決めたんだ。私は必ず、悪しきバトルスピリッツを消す。闇バトルは、そのための道の1つだ。

 

 

「闇バトルの優勝、任せてくれ」

「!」

「必ず、エボルトの野望は止めて見せる。相手が元ラスボスのカードだろうがなんだろうが、父さんが守ってくれたバトルスピリッツを穢す奴を、私は許さない」

 

 

私がそう告げると、ウィンドはようやく下げていた頭を上げ、口元に笑みを浮かべる。

 

 

「ありがとう。変わったのね」

「いや、何も変わっちゃいねぇよ。本当に大事なものが何かって言うのを、思い出しただけだ」

「大きくなったあとに、大事なことを思い出せたのは、貴女が成長した証よ」

 

 

ウィンドの言葉にむず痒さを感じつつも、次の目標が見つかった直後。

 

物陰にある草むらから、1人の人物が飛び出して来る。

 

 

「ヒカリ、そいつの言っていることを信用したらダメだ」

「ッ……ミツキ!?」

「……」

 

 

突然現れたのは、私の双子の妹、鉄華ミツキだ。黄みがかった長い白髪に、葉っぱが刺さっているのを見るに、私の後を追って、様子を見ていたに違いない。

 

だとしたら、これまでの会話も全て耳にしていると考えていいだろう。

 

 

「どうしたんだよオマエ。まさかずっとそこにいたのか?」

 

 

私は、ミツキの髪に刺さった葉っぱを取り除きながら訊いた。

 

 

「いいから。コイツとは関わらないで」

 

 

ミツキは私の質問を無視し、腕を強引に引っ張り、私を自分の所へと引き寄せ、ウィンドのそばから引き離す。

 

 

「おいどうした。何を怒ってんだよ」

 

 

ミツキがここまで怒りを露わにするなんて珍しいな。

 

 

「ヒカリはコイツが誰なのか知ってるの?」

「あ?…誰って、オマエこそ知ってんのかよ。闇バトル運営スタッフのウィン……」

「違う!!」

「!」

「アイツの本当の名前はフウ。徳川フウ。あのDr.Aの実の孫だ」

「な!?」

 

 

ミツキの言葉に耳を疑い、言葉を詰まらせた。思わずウィンドの方へ視線を移す。

 

 

「ほ、本当なのかウィンド。オマエがDr.Aの孫!?」

「……」

 

 

するとウィンドは無言のまま、顔に深く被っていた黒いフードを上に上げ、素顔を晒し出す。

 

 

「ミツキちゃんの言っていることは本当よ。私の本当の名前は徳川フウ。かのA事変を引き起こし、世界を混沌に陥れた悪魔の科学者、Dr.Aの実の孫」

「!!」

 

 

年齢はウチの母さんと同じくらいか、黒く長い髪を靡かせ、ウィンドは自分の正体を明かした。

 

 

「い、いや待て。だからってウィンドが何かしたわけじゃ」

 

 

そうだ。血筋なんて関係ねぇ。Dr.Aの孫だからなんだってんだ。ウィンドは今まで私のそばでバトルを見守って来てくれてたじゃねぇか。

 

コイツが良い奴なのに変わりはねぇはずだ。

 

 

「コイツは、私達のお爺ちゃん、春神イナズマを殺害した」

「……は?」

 

 

しかし、ミツキの次の発言によって、その考えは覆される。

 

 

「う、嘘だよなウィンド。オマエが私達の爺ちゃんを殺したって」

「……」

 

 

頼むウィンド。「嘘」でもいいから、違うって言ってくれ。

 

 

「それも、本当よ」

「!!」

「今から20年程前。かつて私は、己の欲望のために暗躍し、多くの人々を傷つけて来た。その中で、貴女達の父親、鉄華オーカミと対立した。そしてその戦いで、私は春神イナズマ。鉄華ライの父親をこの手にかけた」

「そ、そんな」

 

 

ありえねぇ。何かの間違いだ。ウィンドに限って、そんなこと。

 

 

「今まで話していたことは、おそらく全て嘘。ヒカリを騙して、何かの計画に使うつもりなんだ」

 

 

ミツキが言った。信じたくねぇ。

 

でも、今のミツキもウィンドも嘘をついているようには見えない。私はどうしたら。

 

 

「ヒカリに手を出すな。これ以上近づけば、容赦はしない」

 

 

ミツキは、私の前方へと手を伸ばし、守るための体制に入る。

 

その様子を見るなり、ウィンド。いや徳川フウはクスリと笑みを浮かべて。

 

 

「似てるわね」

「なに」

「ミツキちゃんは父親、鉄華オーカミに。そしてヒカリちゃんは母親の、鉄華ライに」

「何の話、馬鹿にしてるの?」

 

 

フウは何か懐かしいものを見るような目でこっちを見ている。対してミツキはその目を煽りだと認識しているのか、次第にその内に秘めた怒りは強めて行く。

 

 

「時にミツキちゃん。貴女はなんで私のことを知っていたの?」

 

 

フウがミツキに訊いた。

 

 

「私は確かに悪人だ。でもその悪事は世間的には明るみになっていない。なのに何故?」

「カードから聞いた」

「カード?」

「私には、昔からカードの声が聞こえる」

「え、何それ」

 

 

ミツキの口にしたメルヘンチックな設定。正直こっちの方が信用できないが……

 

 

「なんだよミツキ、カードの声って。そんなの聞こえるわけ」

「ヒカリにもあるはずだよ。私と戦った時」

「オマエと……!?」

 

 

待て。そうだ。私にもある。

 

カードの声、ガヴの声を聞いたことが。

 

 

「もっとも、私と比べると、ヒカリの力は弱いようだけど」

「面白い異能ね。流石は鉄華オーカミの娘」

「私は昔から、カード達にお父さんの武勇伝を聞くのが楽しみだった。その中で聞いたんだ。オマエの、徳川フウの悪事を!!」

 

 

じゃあミツキは、闇バトルが始まるもっと昔から、フウのことを知っていたのか?

 

 

「そして闇バトルの開会式の時、ホログラムに映るオマエを見て確信した。絶対に何かを企んでいると」

「……」

「自分の願いなんて本当はどうでもいい。私が闇バトルに参加したのは、オマエの企みを阻止するためだ!!」

 

 

そうか。だからミツキは闇バトルに。

 

 

「言ってみろ。オマエはこの闇バトルで何を企んでいた!!」

「……」

「答えろ、徳川フウ!!」

 

 

鋭い剣幕を向けながら、ミツキはフウを問い詰める。

 

それに対して、フウから出た言葉は。

 

 

「ごめんなさい」

「!!」

 

 

謝罪、だった。

 

 

「何をどう取り繕っても、私が貴女達のお祖父様を殺害した事実は変わらない。これから先、私は何をしてもその罪は拭えない。もちろん、他の罪もね」

「……ウィンド」

「でもお願い。今だけは私の言うことを聞いて。イスルギは、私のお祖父様が残していった負の遺産。アイツを止めなければ、世界は未曾有の危機に晒される」

 

 

ウィンドは己の胸に手を当て、必死に懇願する。

 

そっか。ウィンドは、イスルギのことは、自分の責任だと思っているんだ。だから………

 

 

「もういいよ2人とも」

「!!」

「ここでいくら話し合ってもキリがねぇ。決着は闇バトルで、私とミツキでつけよう」

「ヒカリ!!」

 

 

2人の言い争いを仲裁に入った私に、ミツキが声を荒げる。

 

私がフウの味方だけをしていると思ったんだろう。

 

 

「ヒカリはこんな奴を信じるの!?…コイツは私達のお爺ちゃん、お母さんのお父さんを」

「それはもう訊いたよ」

「!!」

 

 

自然と低い声が出た。ミツキを黙らせてしまう。

 

 

「よく聞けミツキ。私はフウ。いや、ウィンドが嘘を言っているようには見えねぇ。だから、信じたいと思ってる」

「ヒカリちゃん」

「でも、本当のことを教えてくれているのか、それとも嘘をほざいているのかは、結局のところ、闇バトルで優勝しない限りは見えない。なら、お互いポイントを貯めて、勝ち上がるしかねぇだろ?」

「……」

 

 

流石にミツキも言い返さない。

 

私の言っていることが正しいと気づいたんだろう。

 

そう。仮にウィンドが嘘を私についていたとして、今この場で問い詰めてもダンマリを決めるだけで、真実は明るみに出ない。

 

そして、本当のことを言っていたとしても、どの道私はガヴのウィルスで、イスルギの企みを止めなければならない。

 

故に、真実をはっきりさせるためには、闇バトルで優勝するしかないんだ。

 

 

「わかった。ヒカリがそこまで言うなら、今は何もしない」

「……ミツキちゃん」

「でも勘違いしないで。あくまで『今は』だ。必ず阻止して見せる。徳川フウの野望を。たとえヒカリが邪魔をしに来ようとも」

「邪魔する気はねぇよ。私はただ消すだけだ。悪しきバトルスピリッツを」

 

 

その会話を最後に、多くの驚愕と疑念を孕んだ、真実の告白は幕を下ろした。

 

そして、その真実を信じる私と、信じないミツキとで対立関係が出来上がってしまう。

 

その関係と、イスルギの企みも全てを解決するためには、やはり闇バトルで優勝する他なくて。

 

 

******

 

 

あれから、4日の月日が流れた。

 

私とミツキは宣言通り、互いに勝ち進み続け、10ポイント目を獲得。今日は遂に闇バトル決勝戦。

 

闇バトル参加者の誰もが無我夢中になっていた願い。それを叶えられる奴が、今日決まる。

 

もっとも、ウィンドの言っていたことが本当なら、元々願いを叶えられる奴はいないってことになるけど。

 

 

「行くのね、ヒカリちゃん」

 

 

更衣室。いつも通り、私の横にはウィンドがいた。白いバトルスーツを着替え終え、これからバトルへと赴く私に声をかけて来る。

 

 

「あぁ」

「……なんで、私を信じたいと思ったの?」

 

 

若干間を置いたあと、ウィンドが私に訊いた。

 

徳川フウと言う正体を知られた上で、尚も自分のことを信用して来た私に疑問を抱いていたんだろう。

 

 

「大きくなったあとに、大事なことを思い出したのは、成長の証」

「!」

「オマエが言った言葉だ。オマエもそうだったんだろ?…大事なことを思い出せたから、そのためにオマエは戦ってる。たとえそれが、贖罪にならないと知っていても」

「……」

「ま、全部私の憶測だけどな」

 

 

こんだけカッコつけておいて、ミツキの言う通りウィンドが私を本当に騙していたらマジでダセェな。

 

 

「……」

「!」

 

 

いや、やっぱそれはないか。

 

仲間の流した涙。信じ抜くには十分過ぎる。

 

 

「ニッヒヒ。こんなことを頼むのは、おこがましいとは思う。だけどお願い、必ずイスルギを止めて」

「……任せろ」

 

 

ウィンドは流した涙を拭いながら、私に言った。

 

任せとけ、応えてやるよ。そのためには先ず、ミツキを倒す。

 

 

******

 

 

 

闇バトルが行われている地下の巨塔、アンダーグラウンドスタジアム。

 

その頂上。見上げれば黒い天空が目に入るその場所、バトル場に、私とミツキは相まみえていた。中二階にいる、闇バトル参加者達の歓声と煽り、罵声を一身に受けながら。

 

 

「闇バトルに参加してくれた、全ての紳士淑女の諸君ら。遂にこの日が来た。多くのライバル達を跳ね除け、この闇バトルの決勝戦にまで登り詰めた2人の勇姿を、是非その目に焼き付けたまえ」

「イスルギ……」

 

 

中二階よりも高い位置にある高台にて、鉄仮面の大男、イスルギが観客達を煽るようにそう告げた。

 

さらに湧き上がって行く歓声の中、私はバトル場からアイツを見上げる。

 

盛り上がっているけど、みんな知らないんだ。これから起こる惨劇を。止めるんだ。この私と、ガヴで。

 

 

「どこを見てるのヒカリ」

「!」

「ヒカリの相手は私だよ」

 

 

対面している双子の妹、ミツキが私に声をかけて来た。

 

4日前と同様、まだウィンドのことで苛立っているみたいだ。

 

 

「まだ徳川フウの嘘を信じるつもり?」

「……」

「いい加減目を覚まして。ヒカリは騙されてる。私はヒカリを死なせたくないだけなの」

 

 

そんなことはとっくの昔から知ってる。

 

私の身を案じてくれているなんて、テメェの身振り手振り、一休一投足を見れば直ぐにわかんだよ。

 

だけどそれは。

 

 

「私も同じだ」

「!」

「もう誰も、父さんの守ったバトルスピリッツで傷ついて欲しくない。だから私は戦う。そのためのガヴだ」

 

 

そこまで宣言すると、私は己のBパッドを左腕に装着し、ガヴのデッキををそこへ装填。バトルの準備を整える。

 

 

「なら私が、それを止める。ヒカリを傷つけさせないために。ゼットの力を借りる」

 

 

ミツキもまた、Bパッドとデッキを取り出し、バトルの準備を整えた。

 

これで完全に準備は終えた。あとはコールするのみ。

 

 

「だったらもう長く語り合う必要はねぇな。行くぞミツキ」

「行くよヒカリ」

 

 

……ゲートオープン、界放!!

 

 

大歓声や罵声を浴びせられる中、コールと共に、私とミツキのバトル、闇バトルの決勝戦が開始される。

 

先攻はミツキだ。私をウィンドから守るために、ターンを進めて行く。

 

 

[ターン01]鉄華ミツキ

 

 

「メインステップ。ネクサス、ストレイジ本部を配置」

 

 

ー【対怪獣特殊空挺機甲隊ストレイジ本部〈R〉】LV1

 

 

ミツキの初手は、フィールドに何も出現しないタイプのネクサス。

 

アイツのAカード、ゼットに【重装甲】を配る効果を持ってるヤツだ。前のバトルではコイツに散々苦しめられた。

 

 

「バーストをセット、ターンエンド」

手札:3

場:【対怪獣特殊空挺機甲隊ストレイジ本部〈R〉】LV1

バースト:【有】

 

 

ミツキは罠のカード、バーストを伏せ、ターンを終える。

 

次は私だ。ガヴのウィルスでイスルギを消滅させるべく、ターンを進めて行く。

 

 

[ターン02]鉄華ヒカリ

 

 

「メインステップ。ヴァレンを召喚」

 

 

ー【仮面ライダーヴァレン】LV1(1)BP2000

 

 

「召喚時効果。オープンされた変身ガヴ、ブルキャンバギー、マジックのガヴ。これら3枚全てを手札へ」

 

 

今日はちょいと寄り道だ。

 

私が最初に召喚したのは、契約ガヴではなく、チョコ板の鎧を持つライダースピリット、ヴァレン。召喚時効果により、私は一気に3枚もの手札を獲得する。

 

 

「Aカードを初手にしないんだ。手抜きじゃ私には勝てないよ」

「!」

 

 

ミツキが私にそう告げると、アイツの伏せていたバーストカードが光輝き、反転する。

 

 

「相手スピリットの召喚時効果発揮後により、バースト発動。キングジョーストレイジカスタム。効果でコレをノーコスト召喚」

 

 

ー【特空機3号キングジョーストレイジカスタム[2]】LV1(1)BP5000

 

 

バーストにより現れたのは、これまたこの前のバトルで私を苦しめた巨大ロボット、キングジョーストレイジカスタム。

 

 

「召喚時効果。コスト4以下のスピリット1体をデッキ下に。消えて、ヴァレン」

 

 

キングジョーは右腕に備え付けられた粒子銃を、私のヴァレンへと向けて照射。それはヴァレンのチョコ板の装甲を焼き切り、その肉体を粒子化させた。

 

 

「Aカードから出していれば、バーストの発動は免れてたのに。やっぱり手抜きしてる?」

 

 

無表情で淡々と私のプレイングミスを指摘してくるミツキ。

 

だが。

 

 

「手抜き?……なわけねぇだろ」

「!」

「系統『菓族』を持つライダースピリットが相手によってフィールドを離れる時、このカードは手札からノーコスト召喚できる。来い、仮面ライダーヴラム アラモードモード」

 

 

ー【仮面ライダーヴラム アラモードモード】LV1(1)BP7000

 

 

進化したことで、気高き銀色の鎧に身を包んだヴラム、ヴラムアラモードモードが、私のフィールドへと駆け付ける。

 

 

「ヴラムアラモードの召喚時効果。スピリットかネクサス1つのLVコストを、このターンの間+2する」

「ッ……LVコストを+する効果」

「対象はストレイジ本部!!…射抜け」

 

 

ヴラムアラモードは登場するなり、弓で矢を放ち、ミツキのBパッド上にある『ストレイジ本部』のカードを射抜いて見せる。

 

射抜かれたカードは消滅し、トラッシュへと置かれた。

 

 

「へぇ。初めから狙いはネクサスだったんだ」

「あぁ。手抜きなんかしねぇよ。この世から悪しきバトルスピリッツを消す、その日までは」

「その新しい願いのせいで、ヒカリがいなくなるって言うなら、私はそれを全力で阻止するだけだ」

 

 

ウィンドの言葉を信じ、みんなを守るために戦う私。

 

逆にウィンドの言葉を信じず、私のために戦ってくれるミツキ。

 

互いに譲れぬ願いを持ってしまったがために、大きくすれ違う私達双子の争い。

 

その先で待ち受けるものとは………

 

 

 

 

 

 





次回、第9話「双子の決着」

******
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