小鳥の鳴き声。カーテンから零れる光。目覚まし時計の時間が刻一刻と迫ってくることを感じさせる。
もうすぐ――音が鳴る。
目覚ましが声を上げた。しかしその刹那。すぐにスイッチを止める。
「⋯⋯」
セットした時間から長針ズレる。されども音は鳴らない。
「ふ⋯⋯ふはははは!! 来た!!我の時代が来たぞ!!
昨日紅葉言ってたもんね〜私が寝てる間はあんなことやこんなことしていいって!!
さぁさぁ? 何をしてあげましょうかねぇ⋯⋯」
指先が動く。それぞれの指がそれぞれの意志を持つように。紅葉に向かっていく。
「ん⋯⋯」
「!!」
無意識に、言葉を発しながら壁側に寝返りを打つ。
(や、やばい!! 起きるな⋯⋯絶対に起きるな!!)
「⋯⋯」
寝息が聞こえる。
「⋯⋯セーフ!!全く冷や冷やさせやがって⋯⋯だが、それもここまで!!」
体全体を舐めますように観察する。
「よし⋯⋯決めた。
おっほ〜気持ちいい〜のぉ」
ほっぺに触れる。柔らかい。下まで沈む。
次はつまむ。親指と人差し指でゆっくりと。上まで持ち上げる。お餅みたいに伸びる。
「さてお次は⋯⋯」
「んー温かいのぉ〜それに⋯⋯も、紅葉のいい匂いが!!」
背中に顔を埋める。温もりと匂いに包まれて。
音がする。紅葉の生きてる証。
目をつぶる。一瞬だけ。
「あ#は##な#さい!」
(ん? うるさいな⋯⋯)
「あお##お#なさい!!
(なんだよもう⋯⋯こっちは気持ちよく寝てるんだから⋯⋯ん?寝てる?)
「青葉!!起きなさい!!」
「ん!! ンア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙何寝てんだ私!!」
目を閉じた、それだけなのに。世界が加速した。急いで飛び起きる。
「⋯⋯青葉おはよう?」
(あれぇ〜? なんか目にハイライトないですねぇ⋯⋯完全に目が笑ってないぃ)
「お、おはよう紅葉ぃ? ぐ、グッドモーニング?」
「えぇ、おはよう⋯⋯じゃないわ!! 午後四時なんだけど!? 貴方目覚まし切ったでしょ!! それに起きた時、私の背中貴方のよだれでびしょびしょだったんだけど!?」
起きて早々怒号の嵐。何とか切り抜けるしかない。
「あは〜な、なんのことかなぁ? わ、私は何も知らないなぁ〜」
急いで誤魔化す。ただ、目が泳ぐ。
「まったく貴方は⋯⋯何したの」
「んぇー? なんの事ですか!? 別にやましい事なんてこれっっっぽっちもしてませんけど!?」
「⋯⋯何したか聞いただけなのに随分饒舌ね青葉?」
「⋯⋯!? 謀ったな貴様ッ!!」
「勝手に自滅しただけでしょバカね。それじゃあ罰として⋯⋯」
身構える青葉。長年の感が伝えている。何かやばいことをされるのでないかと。
「ん! これやるわよ」
いつぞやの。薬局の日に買った手持ち花火を突き出す。
「ほぇ? そ、そんなんでいいの?」
「当たり前でしょ? 貴方に何かする訳ないし。それで、やるの? やらないのどっち」
「⋯⋯ッ!もちろんやります!! いえ! やらせてください!」
青葉はそう言い高く舞った。鈍い音がした。額《ひたい》を床に擦り付ける。
「そう、ならいいわ。日が沈んだら公園に行ってやりましょう」
「了解〜! 花火だ花火だお祭りだ〜焼きそば、たこ焼き、焼きとうもろこし〜紅葉と二人でお祭りだ〜」
部屋中を走り回る。足取り軽やか。文字どおり宙に浮いて浮き足立つ。
「⋯⋯盛り上がってる所悪いけど、袋に入ってる小さいヤツよ? そんなにすごいものじゃないわ。まぁでも何か買ってくるのは良いかもだけど⋯⋯」
「ふっ、任せな紅葉⋯⋯花火だけだと味気ないからこれ! 持ってくからよ!」
カッコつけた声でこれ見よがしに水鉄砲を見せつけてくる。
「貴方ってノリがいいわね⋯⋯」
少しの呆れ顔。ただ、同時に笑っていた。
「お腹減ったね⋯⋯」
青葉の腹が鳴った。
「そうね⋯⋯でも今食べたら花火⋯⋯」
紅葉も腹の虫が鳴る。
「⋯⋯何か食べましょうか」
「そうだねぇ〜」
「お母さん⋯⋯何か食べるものある?」
一階へ降りた二人。リビングで袋をガサゴソやっているのが目に入る。
「あ、紅葉おはよう〜今じゃがいもととうもろこし茹でてるけど食べる?」
「⋯⋯とうもろこし」
「じゃがいも⋯⋯」
二人の胸のうち。同じことを思う。
(むちゃくちゃ祭りの食べ物じゃねぇか⋯⋯)
「ん、食べる」
「そうか。ならテーブルに座ってて〜出来たら持ってくから。じゃがいも塩とマヨネーズもいいけどやっぱりこの季節だし、じゃがバタにしようかしらね〜」
「⋯⋯!! じゃ、じゃがバタ!!」
互いの顔を見て同じセリフ。二人して気分上々。
「ふんふん〜じゃが〜じゃがじゃがじゃがバタ〜」
食べる気満々。机に何もないのにフォークを持って座っている。足をばたつかせルンルンで首が左右に振る。
「⋯⋯青葉?」
「ん? 何紅葉?」
「⋯⋯貴方リビングにいる間どうやって食べるの⋯⋯?」