スターチス   作:黒犬2匹と老犬

10 / 33
正直に言いなさい、何してたの?

 小鳥の鳴き声。カーテンから零れる光。目覚まし時計の時間が刻一刻と迫ってくることを感じさせる。

 もうすぐ――音が鳴る。

 

 目覚ましが声を上げた。しかしその刹那。すぐにスイッチを止める。

 

「⋯⋯」

 

 セットした時間から長針ズレる。されども音は鳴らない。

 

「ふ⋯⋯ふはははは!! 来た!!我の時代が来たぞ!!

 昨日紅葉言ってたもんね〜私が寝てる間はあんなことやこんなことしていいって!!

 さぁさぁ? 何をしてあげましょうかねぇ⋯⋯」

 

 指先が動く。それぞれの指がそれぞれの意志を持つように。紅葉に向かっていく。

 

「ん⋯⋯」

 

「!!」

 

 無意識に、言葉を発しながら壁側に寝返りを打つ。

 

(や、やばい!! 起きるな⋯⋯絶対に起きるな!!)

 

「⋯⋯」

 

 寝息が聞こえる。

 

「⋯⋯セーフ!!全く冷や冷やさせやがって⋯⋯だが、それもここまで!!」

 

 体全体を舐めますように観察する。

 

「よし⋯⋯決めた。

 おっほ〜気持ちいい〜のぉ」

 

 ほっぺに触れる。柔らかい。下まで沈む。

 次はつまむ。親指と人差し指でゆっくりと。上まで持ち上げる。お餅みたいに伸びる。

 

「さてお次は⋯⋯」

 

「んー温かいのぉ〜それに⋯⋯も、紅葉のいい匂いが!!」

 

 背中に顔を埋める。温もりと匂いに包まれて。

 音がする。紅葉の生きてる証。

 

 目をつぶる。一瞬だけ。

 

 

「あ#は##な#さい!」

 

(ん? うるさいな⋯⋯)

 

「あお##お#なさい!!

 

(なんだよもう⋯⋯こっちは気持ちよく寝てるんだから⋯⋯ん?寝てる?)

 

「青葉!!起きなさい!!」

 

「ん!! ンア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙何寝てんだ私!!」

 

 目を閉じた、それだけなのに。世界が加速した。急いで飛び起きる。

 

「⋯⋯青葉おはよう?」

 

(あれぇ〜? なんか目にハイライトないですねぇ⋯⋯完全に目が笑ってないぃ)

 

「お、おはよう紅葉ぃ? ぐ、グッドモーニング?」

 

「えぇ、おはよう⋯⋯じゃないわ!! 午後四時なんだけど!? 貴方目覚まし切ったでしょ!! それに起きた時、私の背中貴方のよだれでびしょびしょだったんだけど!?」

 

 起きて早々怒号の嵐。何とか切り抜けるしかない。

 

「あは〜な、なんのことかなぁ? わ、私は何も知らないなぁ〜」

 

 急いで誤魔化す。ただ、目が泳ぐ。

 

「まったく貴方は⋯⋯何したの」

 

「んぇー? なんの事ですか!? 別にやましい事なんてこれっっっぽっちもしてませんけど!?」

 

「⋯⋯何したか聞いただけなのに随分饒舌ね青葉?」

 

「⋯⋯!? 謀ったな貴様ッ!!」

 

「勝手に自滅しただけでしょバカね。それじゃあ罰として⋯⋯」

 

 身構える青葉。長年の感が伝えている。何かやばいことをされるのでないかと。

 

「ん! これやるわよ」

 

 いつぞやの。薬局の日に買った手持ち花火を突き出す。

 

「ほぇ? そ、そんなんでいいの?」

 

「当たり前でしょ? 貴方に何かする訳ないし。それで、やるの? やらないのどっち」

 

「⋯⋯ッ!もちろんやります!! いえ! やらせてください!」

 

 青葉はそう言い高く舞った。鈍い音がした。額《ひたい》を床に擦り付ける。

 

「そう、ならいいわ。日が沈んだら公園に行ってやりましょう」

 

「了解〜! 花火だ花火だお祭りだ〜焼きそば、たこ焼き、焼きとうもろこし〜紅葉と二人でお祭りだ〜」

 

 部屋中を走り回る。足取り軽やか。文字どおり宙に浮いて浮き足立つ。

 

「⋯⋯盛り上がってる所悪いけど、袋に入ってる小さいヤツよ? そんなにすごいものじゃないわ。まぁでも何か買ってくるのは良いかもだけど⋯⋯」

 

「ふっ、任せな紅葉⋯⋯花火だけだと味気ないからこれ! 持ってくからよ!」

 

 カッコつけた声でこれ見よがしに水鉄砲を見せつけてくる。

 

「貴方ってノリがいいわね⋯⋯」

 

 少しの呆れ顔。ただ、同時に笑っていた。

 

 

 

「お腹減ったね⋯⋯」

 

 青葉の腹が鳴った。

 

「そうね⋯⋯でも今食べたら花火⋯⋯」

 

 紅葉も腹の虫が鳴る。

 

「⋯⋯何か食べましょうか」

 

「そうだねぇ〜」

 

 

「お母さん⋯⋯何か食べるものある?」

 

 一階へ降りた二人。リビングで袋をガサゴソやっているのが目に入る。

 

「あ、紅葉おはよう〜今じゃがいもととうもろこし茹でてるけど食べる?」

 

「⋯⋯とうもろこし」

 

「じゃがいも⋯⋯」

 

 二人の胸のうち。同じことを思う。

 

(むちゃくちゃ祭りの食べ物じゃねぇか⋯⋯)

 

「ん、食べる」

 

「そうか。ならテーブルに座ってて〜出来たら持ってくから。じゃがいも塩とマヨネーズもいいけどやっぱりこの季節だし、じゃがバタにしようかしらね〜」

 

「⋯⋯!! じゃ、じゃがバタ!!」

 

 互いの顔を見て同じセリフ。二人して気分上々。

 

「ふんふん〜じゃが〜じゃがじゃがじゃがバタ〜」

 

 食べる気満々。机に何もないのにフォークを持って座っている。足をばたつかせルンルンで首が左右に振る。

 

「⋯⋯青葉?」

 

「ん? 何紅葉?」

 

「⋯⋯貴方リビングにいる間どうやって食べるの⋯⋯?」

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。