「紅葉〜? 日焼け少しは良くなったかな?」
「まぁ⋯⋯そうね。あれから毎日薬を塗ったから良くなったわね」
「そっかそっか〜毎日塗った私に感謝してよね〜」
「貴方は私の体に触れられるから協力してただけでしょ⋯⋯」
花火からはや三日。毎日のようにセクハラ⋯⋯いや、手伝いをしてくれたお陰で徐々にだが赤みを帯びた肌も落ち着きを取り戻した。
「紅葉〜? 下来れるかぁ?」
一階からお母さんの声が響いた。
「ん? 呼ばれたわね」
「そうだね⋯⋯なんで呼ばれたんだろ?」
「なに?お母さん」
「おう紅葉〜少し話したい事があるんだ。椅子にでも座って聞いてくれや」
「う、うん⋯⋯」
扉を開け、顔を合わせてすぐ感じた。
「ほむ〜? なにやら重大なお話の空気を感じますなぁ」
言われた通り椅子に座る。
「さて、紅葉⋯⋯」
机の上で両肘を立てて話し始める母に。身構えて、唾を飲みこんだ。
「最近楽しいか?」
「⋯⋯え?」
拍子抜け⋯⋯とは少し違うが、思ってた事と全く違う事を言われて思わず腑抜けた返事をした。
「まぁ、楽しいかな⋯⋯」
「そっか〜なら良かった⋯⋯」
しばらく口を噤《つぐ》む。開いたと思ったらまた閉じて。重い空気が漂う。それでも覚悟を決めたのか、手を下にしまい、話し始めた。とても優しく、諭すように。
「青葉ちゃんが亡くなってから⋯⋯部屋にずーっと閉じこもって一人、何日も泣いてたり顔合わせてもいつも死んでるような顔してたからずーと心配してたんだ。だけど私じゃ青葉ちゃんの代わりにはなれないし1番辛いのは紅葉だからその傷が少しでも癒えるのを祈ってた」
口調は穏やか。でも 暗い。目が物語ってる。
「だけどね⋯⋯最近貴方が外に出るようになってとても楽しそうな顔してるから⋯⋯まるで青葉ちゃんがいた時みたいに。だから、その調子でこれからも元気にしてろよ!! それだけだ!
部屋に戻っていいぞ〜私はタバコ吸うから〜」
最後は駆け足に、伝えたいことだけ言った様子。言いたいことを吐き出せたのかいつものお母さんの顔に戻っていた。
「うん⋯⋯分かった⋯⋯」
そんな母の様子に困惑しながらも言われた通り部屋に戻る。
「お母さん⋯⋯何が話したかったんだろ?」
それを聞いた途端滑るようにコケた青葉。
「も、紅葉ぃ!? あんた話聞いてました!? 娘を心配してたお母さんの気持ちを伝えてくれたんだよ!?」
「いや、それは分かるんだけど⋯⋯お母さん多分別の用件があったんじゃないかなって」
「ああ〜なるほど〜まぁそれは正解だねぇ〜」
「何? 青葉知ってるの?」
「まぁねぇ〜紅葉が寝てる時紅葉ママの話してる声聞いたからねぇ〜まぁそれを聞かなくても分かるけど」
答えを知ってて匂わせるように。のらりくらりと。
「何よ、言いなさいよ」
「んー? 紅葉もほんとは分かってるんでしょ?紅葉ママが伝えたかったこと」
「⋯⋯」
私は口を閉ざす。青葉がこれから何を言うか分かったから。
「まぁ本人が1番気にしてる事だからね。そりゃ気づかない訳がないよね。
そう⋯⋯
だけど紅葉が最近笑顔になって少しずつ前みたいに元気になってて嬉しかったんだよ。けど、学校の事伝えたらそれが重りになってまた部屋に閉じこもっちゃうと思って言えなかった」
「そっか⋯⋯」
言葉につまる。お母さんに言われるよりもきつい。青葉の口から出てきた事実が。
「まぁ⋯⋯少し考えてみて。ぶっちゃけ私が死んだせいで紅葉がこうなっちゃったんだし、私に言われたくないと思うけど。紅葉は生きてて⋯⋯私はもう死んでるから⋯⋯」
「青葉⋯⋯貴方のせいじゃないわ。
だからそこまで自分を貶めるのはやめなさい。これは私の問題⋯⋯今まで貴方に頼って生きてきたからこうなっただけ。少し私も考えてみる、だから部屋から出て行ってくれないかしら⋯⋯」
「わかった⋯⋯何かあったら呼んでね⋯⋯」
部屋を出る。直後、音が鳴り、振動が床を伝う。
「ああぁ⋯⋯なんで⋯⋯なんで私はこんなにも弱いんだ⋯⋯」
娘を思う気持ち。だから隠した。本音を。それがあの子のためになるなら⋯⋯と。ただ、紅葉もそれを分かってた。分かってて見ないフリをした。今起きてる奇跡にしがみついて。
「紅葉⋯⋯」
すすり泣く声。それをドア越しに聞くしか出来ない。無気力で何も出来ない私。あなたの涙は私のせいだから。