「紅葉〜勉強どんぐらい進んだの〜?」
「ん? 宿題ならもう全部終わってるわよ。今は休んでた所を重点的にやってるわ」
「えーー!!? もう終わったの!? この数日で!?どんなマジック使ったの〜?」
「普通よ」
指の間に挟んで見せつけるように。紙には赤文字で。答え。
「えーー紅葉ずっちぃ〜」
「貴方だって夏休み遊びすぎて毎回、三日前に答え写しても間に合わねぇって言ってたじゃない」
「ゥグッ⋯⋯」
言葉につまる。事実ゆえ、何も言い返せない。
「紅葉? 正論はね? 時に人を傷つけるの⋯⋯わかった?」
諭すように。柔らかな声で言った。
「貴方からずる云々言ってきたんじゃない。何言ってるのよ」
「ウグッッ!! もう何もいいましぇん⋯⋯」
「そうね、そうした方がいいわ。貴方じゃ私に勝てないもの」
無意識にトドメを刺された。三度の正論。
「ふーんだ! 紅葉はいいよね〜頭が良くて。ここ数日勉強やっただけで夏休み明けのテストで上の方入るんだもんね〜」
不貞腐れたような声で。そっぽ向く。
「そんなことないわよ? 私の場合貴方しか友達居なくていつも暇だったから、勉強ぐらいしかやること無かっただけよ?」
「え⋯⋯そうなんすか」
思わず顔を見た。知られざる真実。青葉ですら知らなかった悲しき事。
「紅葉⋯⋯私たち⋯⋯死んでもズッ友だから!」
思わず肩に手を置いた。ついでに親指を立てたグッドポーズ。私が居るからと、哀れみを隠すような笑顔。
「手をどけなさい、はっ倒すわよ」
明らかに気を使う青葉の行動、頭に来る。
「そんな嫌がらなくていいじゃないかぁ〜
ほれほれ〜君の⋯⋯いや、君だけの友達青葉さんが慰めてるんだ〜喜べよ〜」
座ってる背中を何度も突く。伝わる感触。その度にどんどん募る怒り。鉛筆に力が加わる。押しつぶされ、今にも折れそうな芯。
「紅葉〜下来て〜?」
「ん? 何かしら」
危機一髪。今にも爆発しそうだったが、母の声で収まった。
「――そうなんですよ⋯⋯ほんと嫌になっちゃいます⋯⋯」
「誰かと喋ってる?」
「そうね。誰か来たのかしら?」
かすかに聞こえる喋り声。階段を降りる。軋む音。降りてる途中、玄関を開けて話してる姿が目に入る。
「誰だろ〜?」
宙に浮く青葉。先に降りて確認する。
「紅葉ママ誰と話して⋯⋯!? うっそーー?!」
「紅葉ぃー! 大変だよ!!」
「何が大変なのよ⋯⋯」
青葉がそう伝えた時、既に一階。
「あ、来たみたいです」
母がこちらを見た。
「? お母さん誰がき⋯⋯」
「紅葉〜! 久しぶり!」
「せ、先生⋯⋯」
「久しぶり! 体調は? 今平気か?」
あまりに突然。その場で立ち尽くす。
「だ、大丈夫です⋯⋯」
「そっか! なら良かった⋯⋯
紅葉聞いたぞ?夏休み明け学校来れそうなのか?」
唾を飲む。
「は、はい⋯⋯少しずつですけど頑張って行けたらなって⋯⋯」
決意はした。ただすぐに声には出なかった。最後の方は言ってないに等しいほど掠れてしまった。
「そっか⋯⋯先生もクラスのみんなも心配してたから来れそうなら良かったよ⋯⋯何かしら心配事とかないか?」
ただ先生は何も触れなかった。それどころか話をしようとしてくれた。
「⋯⋯」
ただやはり言葉に詰まる。心配事? そんなの全てだ。何においてもこの状況で安心できることなどない。
血の気が引く。今にも倒れそう。考えれば考えるほど出てくる否定の言葉。
(あぁ⋯⋯やっぱり私は無理だ。もうこのまま⋯⋯)
今、目の前にあるのは逃げたい。ただそれだけ。
「大丈夫だよ紅葉⋯⋯私はここに居るから!」
小さな声で励ます彼女。聞こえないのだからボリュームなんて関係ないのに。
いつの間にか安心して立てていた。手を握ってくれたからか⋯⋯
目の前に見えた絶望。ただそれより前に⋯⋯私の隣に居てくれる存在。なんで早く気づけなかったんだろう。
「も、勿論色々あるよな!それにまだ色々気持ちの整理とか⋯⋯それに⋯⋯他にも――」
「先生大丈夫です。私にはいつも⋯⋯」
【青葉居てくれてますから】
普通に考えたら意味の分からない事。ただ先生も紅葉の母も知っていた。紅葉にとって青葉がどういう存在か。どれだけかえがえのない人物だったか。二人の中を見ていれば一目瞭然だった。
「そうだな! あの青葉だ! いつも紅葉に変なことしてた青葉が傍から居なくなることなんて絶対ない!」
「ん? ちょっと先生? 今私の事ディスらなかった!?」
「そうですね⋯⋯」
「ちょっと紅葉!? 君もそこ笑うところじゃないよ?
青葉さんがまるで変なやつみたいじゃないか!?」
いつの間にか普通に話せていた。それどころか話も弾んだ。気を使っていた先生もいつものように⋯⋯前みたいに接してくれた。
「そんな感じかな〜? 色々話したい事も伝えれたし〜⋯⋯あ、そうだ! 紅葉夏休み明けたら、文化祭何やるか決めるぞ」
「おぉ〜文化祭〜何やるんかな?」
「一応五月、六月ぐらいに考えた候補の中から決めるから、紅葉も何がいいか考えといてくれ。出てた候補で言うと屋台だな」
「おぉ〜屋台〜焼きそばァ〜? たこ焼きィ〜? フランクフルトォォ!」
勝手に盛り上がる青葉。
「まぁ屋台は多分決まりで後は何売るかみんなで決める感じかな〜? 紅葉もアイディアとかあれば考えといてくれ」
「分かりました」
「それじゃ私はそろそろ帰るな〜それじゃまた学校で会おう紅葉!」
「ありがとうございました先生」
「それじゃあなぁ〜失礼します〜」
お辞儀をして先生を見送った。ドアが閉まる。
「少しは話し合えたか?」
少し心配そうに聞いてきた。ただ、安心した顔だった。
「うん。大丈夫だよ」
「そっか! なら良かった〜紅葉ホットケーキ食べるか? これから焼くんだけど」
「食べる!!」
「そうか〜ならテーブルで待ってろー急いで焼くからな〜」
そう言ってお母さんはすぐキッチンに向かった。
「ホットケーキ〜私も食べれるかなぁ〜」
それを追いかけるように歩き出した青葉。
「⋯⋯待って」
私はそれを止めた。
「ん? どったの紅葉?」
首を傾げて不思議そうに。
「⋯⋯ありがと!」
面と向かって言うのは多分、これが最後。だって恥ずかしいから。
「ん〜? 私なんかしたっけ?
う〜ん⋯⋯? 紅葉私なにした⋯⋯って居ねぇ!?
ちょ! 紅葉さん! 置いてかないで〜?」
でも伝えたかった。貴方に救われたから。