スターチス   作:黒犬2匹と老犬

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やり忘れたこと

「う〜ん⋯⋯うーーーん?」

 

 首を傾げながら両目が内側に寄る。

 

「どうしたのよさっきから唸って」

 

「いやさぁ〜? もうすぐ夏休みも終わりじゃーん?

 だからさ、やり残したことないかなぁってさ」

 

 青葉はなにか口に含んだような声で言った。

 

「やり残したこと? 何かあるかしら。

 なんだかんだ言って海も水族館も行ったし、外で水鉄砲の撃ち合いしたり、夏っぽいご飯食べたし、一応花火もしたし⋯⋯他にやり残したことあるかしら?」

 

「んーーー? 言われればないのかな?

 クゥっ⋯⋯頭キンキンするぜ〜」

 

「ちょっと? 何私の分のアイス食べてるの?

 自分のはもう食べたでしょ? 何貴方一人で二つ食べてるのよ」

 

「⋯⋯てへっ」

 

 片目を閉じてちょこっと舌を出す。ついうっかり⋯⋯だから許してね♡そんな表情が受け取れる。

 

「そんなんで許されるわけないでしょ。反省しなさい」

 

 

「紅葉〜? いつまでこれやればいいの?」

 

 気だるそうな声。私は青葉に罰を科した。正座でいること。手を突き出してそのままにしておくこと。私はアイスを多く食べましたと書いた反省文を首から吊るすこと。

 

「今日一日中、ずーっと持ってなさい。それが貴方の罰よ」

 

「えーーー!! そんな重いんですか!?

 それならそうと早く言ってくれたら私食べなかったよ?」

 

「そもそも貴方浮いてるんだから苦じゃないでしょ。それに、地面から数センチ浮いてるの分かってるわよ。雰囲気だけでも反省の色をしなさい。それに私が言ってても貴方はアイスを絶対二個食べたわ」

 

「ちぇっ〜バレてたか⋯⋯

 それにしてもなんかやり残したことないな〜?

 ⋯⋯そうだ!!」

 

「何よ? なにを思いついたの?」

 

「心霊だよ!! 夏といえば幽霊に心霊⋯⋯それに怖い話!!」

 

 わざと声を低くして。私を怖がらせようとする。

 

「青葉⋯⋯?」

 

「どしたの?」

 

 多分。いや絶対。気づいてない。でなきゃ、私の心配声にあんな能天気な返しはしない。

 

「貴方幽霊じゃない⋯⋯貴方の存在自体が怖いでしょう⋯⋯」

 

「はっ!? そうじゃん私幽霊じゃん!!」

 

 私は頭を抱えた。ハッとした顔、目も口も大きく見開いて。自分で自分に驚いていた。

 

「貴方ほんとに幽霊になってからおバカになってないかしら⋯⋯」

 

 憐れむような、アホを見るような目。そんな私の目線に気付かずに、当の本人はまた何かを考えるように、呆けた顔をしている。

 

「ダメだ何も浮かばねぇや!

 今年の夏、遊び尽くしたってことでいいのかな〜?」

 

「いいんじゃない? 少なくともこの夏は私にとって

 とても良かったんだけど貴方は違うの?」

 

「うーーん? 確かに⋯⋯今年はむちゃくちゃ紅葉とイチャイチャ出来たし、最高の夏だった⋯⋯」

 

「貴方の考える基準そこなの。

 まぁいいんじゃないかしら。今年は遊ぶ期間が短かったし。やり残した事があってもまた来年やればいいじゃない」

 

「来年かぁ⋯⋯」

 

 青葉は枕に顔を埋めながら言った。足をばたつかせてベッドが軋む。

 しばらくした後、突然起き上がって私を指さした。

 

「そうだね〜まだ紅葉のスケスケ水着見てないからね⋯⋯それを見るまで私は死なん!!」

 

 なんの下克上か。なんて反応すればいいか困る告白。

 

「貴方の夏のイメージ汚れてないかしら⋯⋯」

 

「え〜? そうかなぁ?」

 

 なんとも煮え切らない返事をした私。本人は何も思って無さそうだが。

 

「紅葉〜? ハンバーガー買ってきたけど食べる〜?」

 

「ん⋯⋯行くわよ青葉」

 

 お母さんの声、私は部屋を先に出た。

 

「来年かぁ⋯⋯」

 

 部屋に一人、取り残された。私は自分の手のひらを握りしめた。

 

(まだ大丈夫⋯⋯私はまだ紅葉のそばに居られる⋯⋯)

 

「青葉〜?何してるの〜?」

 

 廊下に響く催促する声。

 

「今行く〜〜」

 

「全く⋯⋯何してたの?」

 

「いや〜アイス食べすぎてお腹が⋯⋯」

 

「全くバカね。貴方は⋯⋯」

 

「ごめんちゃーい!」

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