朝の目覚まし、鳴り響く。
「ん⋯⋯」
暗闇の中、手当たり次第に手を伸ばす。
「んーうるさい⋯⋯メガネどこ⋯⋯」
半開きの目。狭い視野で首を回す。
「あった⋯⋯」
メガネをかける。途端、
「おっはよーーーー!!」
耳元に響く青葉の声。
「紅葉......ついにこの時が来たな。そう!学校に行く時ガッ!」
「朝からうるさい......」
青葉は目覚ましを止め、カーテンを開けそう言った。部屋に光が差し込む。目がそれを拒否した。毛布を被って目を閉じる。
「ちょっと〜! 早く起きろー六時だぞー」
「ん〜⋯⋯起きるから揺らすな⋯⋯」
毛布越しに体を揺さぶられた。青葉の朝とは思えない声量を耳が拒否する。
「全く⋯⋯紅葉がこんな朝弱いなんて知らなかったぞ〜?毎朝、フッおはよう青葉⋯⋯(髪を耳にかける)
なんてやってたから勘違いしてたよ!!」
まるで毛布を被った芋虫。ピクリとも動かない。
「って⋯⋯寝るなァァ!! ねるな!!」
青葉の猛攻。本気で毛布を引き剥がす。
「ん⋯⋯青葉⋯⋯」
重いまぶたを開ける。するとなんだか疲れてる顔が目に入る。
「どったの! 紅葉!」
呆れ顔⋯⋯少し怒った様子。
「全く⋯⋯起こす暇あるなら着替えさせなさいよ⋯⋯」
私は目を擦りながらそう言った。
「嘘でしょ? そんなこと言うと思ってなかったよ私?
てか君今までどうやって朝起きてたの?
全く⋯⋯はい手上げる! はい立って! 足上げて!! ふん!」
なんだかんだ文句をこぼしても寝ぼけた私の服を脱がせていく。
「紅葉もしかしてだけど毎日こんなことしてたの?
それでよく毎朝私の事待ってたね?
さては、今まで起こしてもらってたのか!?」
パジャマまで青葉が畳む。いつもは好きな時間に起きていた。それ故に発覚した問題。
「んーしょ⋯⋯これで終わり〜
紅葉〜? ハンカチとかカバンとか色々準備出来た〜?」
「⋯⋯どうかしら?」
その場で一回転。スカートがなびく。
「おお〜いつも見てた紅葉だぁ〜完璧だよ!」
「そう⋯⋯なら良かったわ。それじゃ一階に行きましょうか」
「そうだね〜いこいこ〜」
「おお紅葉おはよう! よく寝れたか?」
扉を開けたら香ってくる匂い。私が姿を見てとても嬉しそうに驚いた。
「よく寝れたわ」
「そうか〜なら良かった。もう少しでできるから待ってろ〜」
ソファーに座りテレビを見る。
「もう九月なのに暑いね〜こんな中、登校なんて参っちゃうよ。げっ⋯⋯今日の気温三十度越えだってやだねぇ⋯⋯」
「そうね⋯⋯」
いつもの調子の青葉。大して私は震え声で返事をする。
「⋯⋯紅葉緊張してる?」
「⋯⋯そうね。まだ1時間ぐらいあるのに今から緊張しちゃってるわ⋯⋯」
「そうだよね〜久しぶりだしねぇ⋯⋯」
手が震える。数ヶ月ぶりの学校だから? もちろんそれもある。ただ⋯⋯
「学校のみんなにはあなたの姿は見えないし貴方の居た痕跡はもうないでしょ⋯⋯私は貴方が居ない人扱いされてるのが嫌⋯⋯」
貴方がいない事実。私には居る。けど、一歩外へ踏み出せばもう⋯⋯元々無かったみたいに消えて⋯⋯
「それはしょうがないよ。私は居ない人なんだし。
でも!紅葉は私の事見てくれるし私といつまでも!
いつ⋯⋯までも⋯⋯一緒に居てくれるんでしょ?」
悟ったような。今までの貴方にはなかった⋯⋯幽霊になったあなただけが見せる顔。自信の無さそうな声で私を覗いた。
「だったら私はそれでいいの! ⋯⋯ってこれ答えになってるかな?」
空元気な声。さっきまでとは大違い、作ったような。
「まぁ、貴方がそう言うなら⋯⋯」
【私はいつまでも貴方のそばに居るわ】
「そっか⋯⋯ありがと!」
いつもより強く。この手が離れないように。
「紅葉〜? ご飯出来たぞー?」
「わかった〜!」
「ご飯だ〜今日のご飯は何かな〜?」
お母さんが呼ぶ。それにつられて、そそくさとキッチンへ行ってしまった。
「私のご飯なんだけど⋯⋯まぁいっか⋯⋯」
先程まで握った手。青葉の温もりが残ってる。私はそれを包むように手を丸めた。