時計の針。セミの声。エアコンの音。様々な音がいやでも耳に入り込む。
頭が痛い⋯⋯なにも考えたくない.....もう目覚めたくない⋯⋯感情が染み出てしまうから⋯⋯
あの日から私は沈んだまま――
暗い部屋、締め切ったカーテン、床に散らばったゴミ。
針が動く度一音一音が主張する。
うるさい。静かにして。目を覚まさせないで。
一定のリズムで聞こえてくる音。いくら耳を塞いでも問いかけてくる。限界。
部屋中に鳴り響いた目覚ましの音。それが聞こえたと同時に起きあがる。
「うるさい!!」
私は声を荒らげて目覚まし時計を地面に叩きつけようとした。
「紅葉? 起きたの? お母さんこれから出かけるね、ご飯作ってあるからお腹すいたら食べてね!」
一階から母の⋯⋯私を心配する声。しばらく階段下で物音や気配がした。ただ、しばらくすると家を出る音が聞こえた。
「はぁ⋯⋯」
深いため息を吐く。それと同時に時計を置いた。
私はベットに寝転がり布団をかけた。現実逃避?とにかくこのまま目が覚めないといいなと思いながら。
雨の音、ガラスに雨粒が当たる。
「行かないで⋯⋯ねぇ行かないで⋯⋯私を1人にしないで⋯⋯」
幼いころの記憶――
「大丈夫だよ紅葉! 私は貴方を一人にはしないから!」
「ほんとに?」
「ほんとのほんとに!」
疑いの目。この時の私は信じられなかった。
「⋯⋯わかった、わかった。紅葉私がお前に呪いをかけてやろう! ずーと私と一緒にいる呪いだ! どうだ! 怖いだろう? 」
「いいよ......私と一緒に居てくれるならなんでもいいよ。だからずーと私のそばに居て」
「後悔しても⋯⋯しらないから」
......の顔。あれ? 霧がかかったみたいに思い出せない。けど、これだけは確かに覚えてる。
唇に触れた感触、これが私のファーストキス......
エアコンの稼働音。冷えた空気。はだけた服。寝起きの倦怠感が襲う。
「⋯⋯お腹減った」
私は階段をおりて一階のリビングに向かった。
テーブルに置き手紙が置いてある。ご飯、お味噌汁あり、チンして食べて、おかず冷蔵庫にあり。
私はメモを見て料理を始めた。
「ほうほう。ご飯にお味噌汁それに卵焼きに、お肉の炒め物。いい朝ごはんですなぁ⋯⋯ふむふむ」
「⋯⋯?」
気の所為? どこから声がした気がした。
レンジの電子音や味噌汁が沸騰する音。
お皿に盛り付け、テーブルに運ぶ。
「⋯⋯いただきます」
卵焼きを口に入れた。甘い。わたしの好きな味。
「おいし⋯⋯」
「おいしいーーー!!」
⋯⋯私がそれを言う前に声がした気がする。ただ、周りを見渡しても人は居ない。
調味料を吟味する。これに決めた。七味を手に取り、ふりかける。
「えー辛くないのそれ?」
⋯⋯おかしい。幻聴?この家には誰もいないはず。訝しむ。周りを見ながらお茶を注いだ。
「朝からお茶〜? 健康的だなぁ〜 やっぱご飯には炭酸でしょ!! 」
私はその声が聞こえた途端コップを強く叩きつける。
⋯⋯間違いない。なにか“いる”
疑いは核心へと変わった。目に見えぬ声。この家には誰もいない。この不可解な事をする主《あるじ》に対する恐怖心と苛立ち。ふぅ......私は一呼吸置いた。
とりあえず私はこの声の主を捕まえようと試みる。
ご飯のお茶碗を手に持ち、お味噌汁に入れた。
そして豪快に音を立てすごい勢いでかき込んだ。
少し下品な食べ方。これをすればどこからか聞こえる奴もまた喋りかけるだろう。声の主は私の食事に興味があるようだから。
「⋯⋯あんたそんな食べ方したっけ?」
私はその謎の声が聞こえた途端、すぐさま手を伸ばした。
「捕まえたぞ! さっきから誰なんだお前は!! 」
私は謎の声の主の方へ向こうとした時、声が聞こえてきた。
「アーン! 紅葉! そんなに揉んじゃダメぇ! 」
何故か喘ぎ声で。
青葉に会いたいといつも思っていた。夢でもなんでもいい。だからもう一度――
なのに私は今、その思いを少し後悔してる。
振り向いた声の先に貴方の裸姿が見えなければ⋯⋯