「な、何泣いてるのよ⋯⋯」
「だ、だってあいつが好きって言ってそれで私が⋯⋯
紅葉私の事⋯⋯」
「⋯⋯何言ってるの貴方」
目が腫れ上がり、止まらない涙。
「ううっ⋯⋯うっ⋯⋯」
「もう⋯⋯泣かないで青葉」
胸に頭を抱き寄せた。
「なんでさっきのを見て私が貴方を振ってあの子についてくと思ったのよ⋯⋯」
「だって⋯⋯だってぇ⋯⋯」
私を離さないようにしがみつく。背中の服がどんどん引っ張られる。
そんなとき、遠くから聞こえるチャイム。
「あ、そろそろ戻らないと」
私は青葉を投げ飛ばした。
「うべしっ⋯⋯」
倒れた時、鼻水が糸を引いた。
「そろそろ教室戻らないとだから早く来なさいよ」
「うぅ⋯⋯全く、優しくないぜ私の彼女は⋯⋯待ってよ紅葉〜」
ティッシュをかみながら後を追う。
間に合った。席に座って隣を見る。
「⋯⋯ひぃぃい⋯⋯」
一瞬目が合う。途端、手で顔を隠しながら情けないような声を出すいちご。
「シャーーー!!」
髪の毛を逆立てて、猫のように威嚇する。
「何してんのよ⋯⋯」
変なことをする青葉に呆れる。すると前の扉が開いた。
「うーし、テスト始めるぞー」
それから二時間。特に何も無く、放課後。
「一日中テストよく頑張った! それじゃ各々帰れ! 解散!」
担任の先生から励ましの言葉をもらって解散した。
「お疲れ様紅葉〜それじゃ帰ろ〜」
テンションマックス。暇な一日が終わって上々そうだ。
「おーーい紅葉」
「あ、先生⋯⋯」
「今日は大丈夫だったか? 久しぶりで疲れたか?」
「そうですね⋯⋯疲れました」
「そうか〜今日は帰ってよく休めよ!
それじゃまたあした学校でなアディオス〜」
なんとも軽い。誰にでも分け隔てなくこの態度。
「相変わらずだなぁ先生は。それじゃ改めて帰ろ〜放課後アイスでも買って帰る〜?」
席を立った、その時。
「あ、あの⋯⋯」
「ん? あ⋯⋯いちごさん」
「何の用だ!!」
青葉はすぐさま威嚇に入る。
「えっと⋯⋯なんの用ですか?」
「あの⋯⋯お茶しませんか?!」
「⋯⋯なんで?」
***
涼しい。暑い中、流した汗が引く。
「いらっしゃいませ! 何名様で?」
「あ、二人で」
「ご案内致します。ごゆっくりどうぞ〜」
机に置かれたメニュー表。バックを置いて座る。
「⋯⋯で何の用ですか?」
一向に話さない。席を立ってドリンクを持ってきた。机に肘を置いて。背もたれに寄りかかって。話し始めるのを待つ。
「あ、えっと⋯⋯あの!」
ドリンクが半分減った頃、やっと口を開いた。
ただそれより先に主張した。対面の私に聞こえるほどのお腹の音が。
「ひゃぁ!?」
痛い音がした。机の紙が揺れる。頭を勢いよく伏せた。
「⋯⋯なんか注文すれば⋯⋯?」
「うぅ〜ん! 美味ひぃ!」
美味しそうに頬張る彼女。
「私が言ったからあれだけど、これは⋯⋯」
端から端まで。いちごの注文した商品が並ぶ。鉄板の匂いが食欲を唆る。
「そ、それは良かったね?」
私も釣られて注文したポテト。隙を見ながら床に居る青葉に渡す。
「あーーむ⋯⋯ポテトおいひぃ!!」
出来たてのポテトが口でほぐれる。
「久々のファミレス最高だな! それにしても⋯⋯どゆ状況これ?」
青葉の疑問。私が聞きたい。
「し、失礼しました⋯⋯」
口を拭きながら。ものの数分で上の皿が消えた。
「それで⋯⋯なんの用?」
やっと本題に入れる。ちなみに青葉は満足したのか、私の膝上で撫でられながら寝た。
「あ、あの⋯⋯お⋯⋯お友達になってくだひゃ!
いたぁひ⋯⋯べ、ベロかんだでゃ⋯⋯」
「⋯⋯それが用件?」
「ひょ⋯⋯ひょうでふゅ」
犬みたいにべろを出して。痛そうな顔で答える。
「⋯⋯私に好きとか言ってたけどそれはどこから来たの?」
「あ、あの、えっと⋯⋯元々、私が個人的に紅葉さんのこと気になっていて⋯⋯
それで友達になりたくて⋯⋯だけど私に話かける勇気がなくて⋯⋯
それで毎日悶々とした日々を過ごしてたんですけど、紅葉さん学校に来なくなって⋯⋯
それで⋯⋯今日久しぶりに紅葉さんが学校に来て、席替えして隣の席になったからこれを機に話しかけようと思って⋯⋯でも話せた事が嬉しくてなんか⋯⋯凄い⋯⋯あの⋯⋯」
「ふーーん⋯⋯」
ものすごい早口。最後の方は声が小さくて聞こえなかった。
「⋯⋯」
なんと返そうか。いかんせん、初めての経験。いい言葉が浮かび上がらない。
「ご、ごめんなさい⋯⋯もう関わらないようにしますので⋯⋯」
沈黙に耐えかねて。それだけ言って狭い通路を勢いよく飛び出した――瞬間、いちごさんは足を滑らせて転んだ。
「うぅ⋯⋯痛い⋯⋯」
涙目に、鼻を押さえながら立ち上がる。
「大丈夫?」
私は手を貸した。
「あ、ありがとうございます⋯⋯」
手を借りて、立ち上がったいちごさん。私は決めた。
「あのさ⋯⋯」
「は、はい⋯⋯!」
話しかけるといちごさんは大きく息を吸った。顔が自然と上を向き、目が合った。
「友達って何やればいいの?」
「⋯⋯え?」
漏れ出す息。そんなに何か変なことでも言ったのだろうか。
「私友達が一人しか居なくて。だから友達って何すればいいのか分からないの」
「え、えっと⋯⋯友達⋯⋯
そういえば私も友達居ませんでした⋯⋯」
「まぁ⋯⋯互いに頑張ろう⋯⋯」
「そうですね⋯⋯」
どんぐりの背比べ。励ませる立場じゃないけれど。
「そろそろ暗くなってきたし出よっか」
窓辺、赤色がかった光が顔を照らす。
「はい⋯⋯」
外に出ると、東の空は星が見え始めていた。それなのにまだまだ暑さはとどまりそうにない。
「あ、そうだ⋯⋯」
「どうしました?」
「連絡先交換する? したくないならいいけど⋯⋯」
駐車場。各々の別れ道に立った時、私は言った。
「え? いいんですか?」
目を丸くして。信じられないって顔。
「うん。多分みんな友達になったら連絡先交換するでしょ?」
「え? 友達?」
「あれ? 私と友達になりたいんじゃないの? 嫌ならいいけ⋯⋯」
「なります!! ならせてください!!」
食い気味に。今日話した中で一番の元気。
「うわぁ⋯⋯感動だ⋯⋯家族以外の連絡先⋯⋯」
交換した途端、スマホを何度も見入っていた。
「それじゃ。私こっちだからまたね」
太陽に背くように、暗闇へ歩き出す。
「あの!! また明日⋯⋯」
少し遠く、背中から聞こえたその声。後ろ手を横に振って返した。
「友達かぁ〜紅葉も浮気者だなぁ
私というものがいながら。はぁ⋯⋯」
「何そんなに落ち込んでるの?」
「なに⋯⋯私はこのまま忘れられて彷徨《さまよ》うのかと思ってさ」
「ほんとに何言ってるの?」
砂利道。行きとは違う、漂う険悪な雰囲気。何をそんなに不貞腐れるのか。
「そんなに嫌なの? 私に貴方以外の友達ができること」
「嫌じゃないけど⋯⋯もう知らない! ふん!」
首をそっぽに向けて。一人先に行ってしまう。
「⋯⋯青葉」
「なに!!」
振り向きすらしない。声に伝わる機嫌。
「何をそんなに怒ってるのか知らないけど。手は繋いでくれないの? 私の手離さないんじゃなかったの?」
「⋯⋯」
その言葉を聞いて立ち止まる。
「ん! 紅葉の隣は私の物だから⋯⋯」
ムスッとした顔でこちらにくる青葉。
「そうね⋯⋯私も貴方以外は嫌だわ」
「全く、こんな時ばっか都合のいいこと言っちゃって⋯⋯」
少し強引に掴んだ手。だけど通じ合う。手から気持ちが溢れ出る。
「嫌なの?」
「⋯⋯嫌じゃないよ⋯⋯」
「ならいいじゃない?」
「⋯⋯ばか⋯⋯」
文句を言いながらも、今度は歩幅を合わせて。
「帰りましょう。家に」