洗面台のガラスが白く、濁った。
タオルで髪を拭きながらリビングに入る。
「お? 紅葉風呂入ってたんか〜?」
着替えを持った母と目が合った。
「テーブルに寿司置いといたから食べろ〜
それじゃ、私も風呂入ってくるからゆっくりしてろ〜」
すれ違った時。やけにお母さんに見られた気がしたけど⋯⋯なんだったんだろ?
「おおぉぉ〜! お寿司ぃー! お皿はどこかな〜」
青葉は両手でガッツポーズを決めていた。
「うおおぉー!!」
蓋を開けた。離れても聞こえるほど、歓声があがった。
「マッグゥロ⤴︎︎︎! サ・モオーン! たっめぃごぅ!
えっびぃのテンプーラ! その他いろいろ〜!
食べるぞ〜! いただきまーす!」
濡れた髪など気にせずに、すぐ食べ始めた。
「う、うまいぃ!! 最高ぅ⤴︎︎︎!」
美味しそうな顔につられて、私も食べ始める。
「うん、美味しいわね」
「だねだね〜でお次は⋯⋯お寿司にワサビを付けて、醤油をかける! そして食べる!! クゥ⋯⋯鼻に来る刺激! だが美味あ!!」
「貴方そんなにお寿司好きだったの......?」
酔ってるのかと思う程。見たことないぐらいテンションでついていけない。
「んーー? 好きだよ〜? だけど今日は”色々”したからかもね〜?」
嫌味ったらしく。私の顔を見ながら言ってきた。
「あっそ⋯⋯」
私は目を合わせないで。それだけ言った。
「ふぅ、食べた食べたぁ⋯⋯お腹いっぱいだよ⋯⋯」
「青葉? 私の食べかけ食べてくれないかしら?」
「ん? いいよぉ......(紅葉の食べかけ貰えるなんてラッキーだぜ!)」
「はいあーーん」
「んーーおいひぃ⋯⋯刺激的な味が癖になるぅ。
刺激的な⋯⋯あじ⋯⋯が⋯⋯かっらぁぁぁぁぁぁい!!??」
リビングに悲鳴が響いた。むせ返る青葉。
「ばか紅葉! どんだけわさび付け⋯⋯て⋯⋯
まさか紅葉わざと沢山つけたな! それも見えないよう中に!!」
「ふっ⋯⋯なんの事だか? 私はあのぐらいの量で食べてるからつい⋯⋯お子様舌の青葉ちゃんにはまだ早かったかな?」
いつものお返し。青葉お得意の煽り顔をしてやった。すごい勢いで減るペットボトルの水。
「はぁはぁ⋯⋯紅葉⋯⋯
いくら私が嫌なことしたからってやっていい事と悪いことがあるだろうが!!」
「なんの事だかさっぱり......?
私は何も⋯⋯”何も”思ってないわよ?
ごめんなさいね? 青葉の事知らなくてつい」
口では反省してるつもり。ただ私は嘘丸出しな笑顔で言ってやった。
「紅葉⋯⋯お前今夜覚えてろよ⋯⋯
いくら泣いたって許さないからな!」
「なんの事だか分からないけど望むところよ?
かかってきなさい」
睨み合ってる最中、扉が開いた。
「ふぅ⋯⋯あっちぃ!」
タオル一枚で。冷蔵庫まで動き回る。銀色ラベルのビールを取り出して、扉を開けっ放しでそのまま飲んだ。
「かぁぁっ! うめぇ!」
喉越しがこちらまで聞こえてくる。そのまま一本飲みきって次のを取り出した。
「おいしょっとふぅー⋯⋯」
ビール片手にソファーに座った。エアコンの風で髪が揺れている。
顔が赤い。しばらく私の顔を見て。お酒の匂いを漂わせながら聞いてきた。
「紅葉⋯⋯学校どうだった?」
「ん? 大丈夫だったわよ」
「そっか〜⋯⋯なら良かった! おりゃおりゃ!」
「ちょ、ちょっと髪が⋯⋯」
両手で髪をくしゃくしゃにされた。水がそこら中に飛んだ。
「ははwすまんすまん。寿司は美味かったか?」
「うん、美味しかったよ」
「そっか! どれどれ私も⋯⋯」
それからしばらく、お母さんと話し合った。
***
「紅葉ママ喜んでたね〜」
「そうね」
部屋に戻ると、付けっぱなしのエアコンが部屋全体を冷やしていた。
「変わらず面白いな〜紅葉ママは〜」
「そうかしら?」
「紅葉はいつも居るから分からないと思うけど、私から見れば面白いよ〜! ただ⋯⋯一番は紅葉だけどね!!」
「なにそれ? 褒めてる?」
「もちろん褒めてるよ!」
「そう? ならいいわ」
それから机に向かって話しながら課題を始めた。
「ふぅ、明日の準備もこれで終わり⋯⋯少し早いけど寝ようかしら⋯⋯?」
「えーーー!? こんなに早く!? 起きて色んなことしようよ〜!!」
私の腕を引っ張って駄々をこね始めた。
「そうは言っても明日も早いし⋯⋯それに疲れたわ」
「えーー? 私は疲れてないよ?」
「あんたの事は知らないわよ⋯⋯
それじゃあ互いにベッドに入って、十分経って起きてたらあなたのやりたいことに付き合うわ」
「おっけぃ! それでいこ〜!」
「ただし! 青葉が寝たら私も寝るわ⋯⋯いいわね?」
「了解だよー! 私が寝ることはないと思うけどね!!」
***
「⋯⋯うぅ⋯⋯もう食べられないよォ⋯⋯」
部屋を暗くして数分。いびきをかきながら寝落ちした青葉。
「⋯⋯なんだこいつ⋯⋯即落ち二コマじゃねぇか。
私も寝ましょ⋯⋯」
つい思わず青葉の口調が移った紅葉。
***
「んあああぁぁぁ!!!」
まだ夜も明ける前。時計を見て声を上げた青葉。
「むちゃくちゃ寝たじゃねぇか⋯⋯何やってんだ私⋯⋯」
「ん⋯⋯青葉うるさぃ⋯⋯」
夢を見ているのか。何か一人喋っている。
「まぁ⋯⋯これもこれでいいか。寝てる紅葉の顔、可愛いし⋯⋯」