とりあえず状況を整理しよう⋯⋯
「アン!」
「うるさい!」
「アアアン///」
私は青葉の愛嬌を片手に考え始める。
まず、私はいつも通りご飯を食べてた⋯⋯
その次に、どこからともなく声が聞こえてきた⋯⋯
それを不思議に思った私はその声のする方へ顔を向けた。そしたらなぜか裸で⋯⋯
しかも私に胸を揉まれて満更でもない顔をしている青葉がいた。
いくら考えても何も浮かばない⋯⋯
考えるだけで頭が混乱する。
このありえない現実。私は一つの結論をだした。
「これは⋯⋯夢だ」
「夢じゃないよ?」
「おーい紅葉? 夢じゃないよー?」
「私はここにいるよー?」
「おーーい、なに目を逸らしてるんだー!」
「酷い悪夢だ⋯⋯」
私は頭を抱える。
青葉が亡くなってからまともに寝れたことがなかったがここまで酷い夢は初めてだ⋯⋯
悪魔の囁き。青葉の皮を被った化け物。
「さて、どうしよう⋯⋯どうしたらこの悪夢は終わるのかしら?」
私は彼女の胸を揉みながら考える。
「いい加減目を覚ませーこれは現実だぞー! 後そろそろ胸を揉むのやめてくれないか〜? 私は触られるより触る方が好きなんだぞー」
「⋯⋯そうね。いい加減目を覚ますべきだわ」
皮肉にも夢の中で目覚めなければいいと思っていた。だが、今の私はこの悪夢から目覚めようとしている。全くだ。他にいい夢はなかったのだろうか。
【さぁ現実の私よ早く起きて! そしてこの悪夢から覚まさせて!】
両腕を上にあげて天井を見る。
「――」
何一つ変わらない状況。いつまで経っても青葉の姿が写り見える。私は膝から崩れ落ちた。
「もしかしてこれ⋯⋯現実⋯⋯?」
「だからさっきからそう言ってるじゃないか紅葉〜それはそうと⋯⋯また胸を触るな」
「とりあえずわかった。これは現実なのね⋯⋯」
とても受け入れられない。いや、受け入れたくないが正しいか⋯⋯亡くなった彼女が現れて嬉しい⋯⋯はずなのになんともよく分からない。不可解な感情だ。
「うんうん。やっと認めてくれたか〜まぁそれはそれとして⋯⋯はぁ〜数ヶ月ぶりの紅葉のでかでか富士山揉みがいがあるぅ⋯⋯」
「私もわかったことがあるわ。この感じ間違いなく青葉なのね。でも青葉⋯⋯貴方だとしてもおかしなことだらけよ。貴方は確実に亡くなったはず、お葬式だって出たしお墓にだって行った。何がどうなってるの?」
とりあえず私はこの状況をそういうものとして受け入れることにした。多分彼女は私の知る青葉だと思ったから。根拠なんて無い。ただの感?⋯⋯分からない。けど、今目の前の青葉からは長年一緒に過ごしたあの青葉だと思うものがあった。
「んー? それはねぇ⋯⋯しらね」
「はぁ⋯⋯? 青葉私をおちょくってるの?」
ただでさえ混乱しているのに彼女の「私に聞かれても⋯⋯」みたいな空気。
「私だってわかんないもーん。
まぁでも、強《し》いて言うなら? お盆だから?」
馬鹿みたいな回答。だけどこれが皮肉にも彼女が彼女だと確信できる発言でもあった。青葉は私のことを一番知っている。それと同じように私は彼女のことを一番知っているつもりだから。
「⋯⋯お盆休みって先祖様の霊を祀る行事でしょ?
なんで貴方がでてくるのよ」
「知るか! でかぱい女! 私が揉まない間にまたでかくなりやがってコノヤロウ! 私なんて死んだからこれ以上成長できないじゃない!!」
「そんなこと言ったって、貴方元々ないようなものじゃない。さっきだって揉むところなかったし」
つい、いつものように返してしまった。
しばしの沈黙が流れる。
「紅葉⋯⋯お前⋯⋯言っていいこととダメなことがあるだろ!!」
「何よ事実でしょ?」
何故だろう。この心地良さ。
「お前がおかしなだけで私もそこそこでかいんだからな!!」
「そうなの? 私に比べたらないようなものだから知らなかったわ」
「ガーーン⋯⋯」
それを聞いた青葉の動きが止まった。まるで石のように。
この何気ない会話。これが日常だった⋯⋯
「わ、わ⋯⋯」
「わ? 何よ言いたいことがあるなら言いなさいよ 」
いつまでもこの関係から成長しない私たち。でもそれで良かった。あなたがいてくれたら。
「わ、わ、わ⋯⋯私がお前の胸を育てたんだぞ!
毎日毎日子供のようにもんでもんで育ててきたんだぞ! 紅葉!お前は私に感謝こそすれそんな事言っていい立場じゃないんだぞ!それにお前は!!」
ガミガミと。長年の不満が爆発したようだ。
「ふぅ⋯⋯わかったか紅葉? だいたいお前は⋯⋯!!??」
呼吸が荒い。余程長らく文句を言っていたようだ。
呼吸を整えこちらを見る。
「ん? 何か言ってたかしら? 長くなりそうだったから紅茶を入れてたわ」
さながら貴族のお嬢様。家にあるオシャレなカップティーに紅茶を注ぎ足を組む。私はわざと青葉をからかう。
さすがの青葉でもこれには爆発五秒前⋯⋯滅多に怒らない顔も鬼のようになっている。
「それで、結局貴方はなんで生きてるの、なんで私の前に現れたの」
カップを置き、私は投げかける。それを聞いた途端青葉もいつもの顔になる。
「うーーん」
悩む素振りを見せながら空中で逆さまになって浮いている。くるくると何度も回りながら。
「少なくともそんなこと言ってるようじゃ答えにはたどり着けないかな」
知らない知らない言ってたのにその何か知ってるかのような返事。 私が問いただしても絶対に口を割らないだろう。
「⋯⋯あっそ」
それだけを言ってお茶を飲んだ。聞きたいことは沢山ある。ただ、その思いは胸の奥に閉まっておく。
「まぁでも⋯⋯悪い気はしないわ⋯⋯」
「んえーーー? なんだってぇー? 聞こえないなぁ?
もう一回言ってみな〜? んーー?」
青葉は完全に調子に乗った煽り顔。手を耳に当てて挑発してきた。
椅子から立ち上がり青葉の元へ向かう。
「え? なになに? 私の耳元で言ってくれるのぉ? ほれほれー」
「すぅーーー⋯⋯」
私は息を吸い、手を上にあげた。そして⋯⋯青葉のお尻に目掛け思いっきりビンタをした。
「ッ⋯⋯たぁぁぁぁぁいい!!!」
いい音がした。それと同時に青葉が悲鳴をあげる。
「な、何するの!?」
混乱と少しの苛立ち。やっと素の彼女が見えた気がした。
「青葉⋯⋯ざまぁみろ♡」
私はその場でくるっと周り精一杯の顔で青葉に笑顔を向けてやった。
リビングのドアを開けて急いで階段を駆け上がる。ドタバタとした音が家に響く。
「なるほどなるほど⋯⋯私の見ない間に紅葉がこんなことするようになったのね」
「スーハー⋯⋯」
「待てや! ばか紅葉!!」
先に上がった私にも聞こえるような大声で叫ぶ。
「待つわけないでしょ〜?」
私はやられたような煽り口調で言い返す。成長しない私たち。
青葉がなぜ幽霊になって私の前に現れたか分からないけど今は⋯⋯
この瞬間だけは⋯⋯絶対に忘れない