スターチス   作:黒犬2匹と老犬

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そんなに目悪いの?

「とりあえず服は買えたし、目的達成ね。いちごさんは行きたいお店あるの?」

 

 

「私の場合は⋯⋯あの⋯⋯えっと⋯⋯」

 

 

 買い物袋で口元を隠し、目があちらこちらに動く。

 

 

「お、お腹すいたな⋯⋯」

 

 

「⋯⋯まぁ、そうね。お昼だし何か食べましょうか」

 

 

 

 ***

 

 

 

「うひょー! 色んな食べ物があるぞー! 紅葉! 端から端まで全部食べよ!」

 

 

 フードコートについて早々、目を輝かせる青葉と⋯⋯

 

 

「美味しそう⋯⋯」

 

 

 口が開きっぱなしのいちご。

 

 

(前から思ってたけど⋯⋯あなた達、意外と相性良くない?)

 

 

「紅葉さんは何食べるの〜?」

 

 

「んー⋯⋯色々ありすぎて困るわね」

 

 

「わかる〜悩んじゃうよね!」

 

 

「ラメーンに? 牛丼《うしどぅん》に? ケヴァブ! 全部美味しそうだな〜」

 

 

 よだれを垂らしながら、一店一店見て回る青葉。イントネーションもおかしくなって、思わず顔をひきつる。

 

 

(あ、青葉が入ったお店はやめとこうかしら⋯⋯)

 

 

 

 ***

 

 

 

「いちごさんて前から思ってたけど⋯⋯すごい食べるわね⋯⋯」

 

 

「ま、まさかほんとに全部の店のご飯頼んじゃうなんて⋯⋯」

 

 

 通行人が三度見するほどの量が机に並べられる。色々な匂いが混ざり合い、よく分からないほどに。

 

 

「食べるの好きなんだよね〜紅葉さんも良ければつまんで〜?」

 

 

「ありがとう⋯⋯少し貰うわね⋯⋯」

 

 

「ん〜うみゃい! 色んな味が食べれて幸せだな〜」

 

 

 手慣れた手つきで次から次に、テーブルの下に居る青葉にご飯を運ぶ。

 

 

「こういう所のご飯。また少し味が違う気がしておいしいのよね」

 

 

「分かりまふ! 友達と食べるごふぁんおいひぃんですよね!」

 

 

「う⋯⋯うん⋯⋯口の中無くなってから喋ってくれるかしら⋯⋯」

 

 

 

 ***

 

 

 

「う⋯⋯もう⋯⋯動けない⋯⋯」

 

 

 空席のソファーに寝転んで苦しそうな青葉。

 

 

(あそこまでなるなんて珍しいわね⋯⋯)

 

 

「ふぅ⋯⋯腹八分目ってとこかな〜?」

 

 

 お腹をさすりながら恐ろしい発言をしたいちご。

 

 

「え? 今ので⋯⋯?」

 

 

「うん! 残りの二割はデザートに!」

 

 

「凄すぎるわね⋯⋯」

 

 

 

 ***

 

 

 

「紅葉さん、寄りたいところないの?」

 

 

「うーん⋯⋯特にないかしら」

 

 

「そっか⋯⋯(このままだと解散しちゃう⋯⋯何とか引き込める方法は⋯⋯)」

 

 

「ねぇ紅葉! あそこ寄らない?」

 

 

「ん?」

 

 

 足を止め、袖を掴んで、指した場所。

 

 

「オシャレ店だって! 絶対面白いでしょ!」

 

 

「どんなお店なの⋯⋯?」

 

 

「わかんない! けど私のセンサーが反応しているのよ〜ここは入った方がいいって!」

 

 

 青葉のよく分からない発言。

 

 

「まぁ、いいけど⋯⋯いちごさんこのお店寄らない?」

 

 

「わ、分かりました! (ラッキー!)」

 

 

 

 ***

 

 

 

「このお店⋯⋯ピアスとかカラコンとか売ってるのね」

 

 

「うへぇ⋯⋯紅葉⋯⋯ベロにピアスしてる写真あるよ⋯⋯」

 

 

「な、なんかちょっと怖いわね⋯⋯」

 

 

 明るいショッピングモールとは一変。少しディープな雰囲気が漂う。

 

 

「紅葉さん! こっち来て!」

 

 

「ん? どうしたの?」

 

 

「この辺のピアス可愛くないですか?」

 

 

「そうね。オシャレだと思うわ」

 

 

 何十種類の色、形の違うピアスが並んでいる。

 

 

「あの! 私がこれしたらどう思います?」

 

 

「いちごさんが? 別にいいと思うけど。絶対似合うわ」

 

 

「ほ、ほんとですか!? なら紅葉さん! 私に似合いそうなの探してください!」

 

 

「え⋯⋯私が探すの?」

 

 

「も、紅葉さんが私に似合うと思ったのがいいんです⋯⋯」

 

 

「このメス猫! 紅葉に色仕掛けしやがって! お前なんかドクロのピアス付けときゃいいんだよ!」

 

 

「わかったわ。センス良くないけど頑張るわね」

 

 

 

 ***

 

 

 

「ねぇ〜紅葉? 今のうちに私たち二人でどっか行こうよ〜」

 

 

 私の腕を引っ張り、何とかして抜け出そうとしてくる。

 

 

「何言ってるのよ。そんな事出来るわけないでしょ」

 

 

「ちぇ⋯⋯」

 

 

 口を尖らせて明らかにご機嫌斜めな青葉。

 

 

「全く⋯⋯それじゃあ貴方は私似合いそうなコンタクトでも見つけてきてよ」

 

 

「!? わかったよ! 私が紅葉に似合うやつ持ってくるね! フン!」

 

 

「露骨にテンション上がったわね⋯⋯」

 

 

 

 ***

 

 

 

「いちごさん、これどう?」

 

 

「お花のピアス⋯⋯」

 

 

「名前的にも似合うと思ったんだけど⋯⋯合わなかったかしら?」

 

 

「いえいえ! 全く! むちゃくちゃ嬉しいです!」

 

 

「そう⋯⋯なら良かったわ」

 

 

「もしもし紅葉さんやい? 私のも見てほしいのだが?」

 

 

 こっそりと、私の手を開けて握られた。

 

 

「ん? 紅葉さんそれコンタクト?」

 

 

「えぇ⋯⋯ちょっと気になって」

 

 

「オシャレなやつだよね!」

 

 

「そうなの。ただ私⋯⋯メガネ外すと何も見えないのよね」

 

 

「そんなに目悪いの?」

 

 

「そうね⋯⋯メガネ外すと何も見えないの。色も判別出来ないわ」

 

 

「えぇ!? そんなに!?」

 

 

 メガネを外し、目を細める。

 

 

「も、紅葉さん⋯⋯すごい顔になってるよ⋯⋯」

 

 

「そうなの。メガネ外したら何も見えなくて。あれ? いちごさん背高くなった?」

 

 

「いやそれマネキンだよ!?」

 

 

「あらそうなの? ごめんなさいね。⋯⋯いちごさん肌白くなった?」

 

 

「いやそれ骸骨!? 」

 

 

「あら、そうなの?」

 

 

 メガネをかけ直す。

 

 

「あら、いちごさん少し派手になった?」

 

 

「いやそれ人体模型!? てかメガネかけたから見えるよね!?」

 

 

「あら。私としたことがついうっかり」

 

 

「(紅葉さんがボケるなんて珍しい⋯⋯)そ、それにしても紅葉さん相当目悪いね⋯⋯」

 

 

「そうね。小さい頃は目が良かった気がするんだけど⋯⋯」

 

 

「そうなの?」

 

 

「いつだったかしら。風邪をひいてそれから急に目が悪くなった気がするのよね⋯⋯」

 

 

「えぇ!? そんなことある!?」

 

 

 いちごの驚いたリアクション。その時、腕を引っ張られた。

 

 

「紅葉さんやい? 買うのかい? 買わないのかい?」

 

 

 私の人差し指を掴んで、下から覗き込む。まるで子供が親の手を握るような⋯⋯一本の指だけを優しく握りこんで。

 吸い寄せられるような黒い瞳。本人は何も考えてなさそうな顔をしているけど私はそんな貴方が――

 

 

「⋯⋯いちごさん。買いたいものはそれだけ?」

 

 

「うん! 私は大丈夫だよ! 紅葉さんはそれ買うの?」

 

 

「そうね⋯⋯ぶっちゃけ私には必要ないのだけれど⋯⋯なんとなく。気に入ったから」

 

 

 貴方が選んでくれたから。私の為に。それが嬉しかった。だから――

 青葉が選んだカラコンを手に持って、見せつけるように。

 

 

「紅葉ぃ!」

 

 

 大喜びな本人。私の足にしがみついちゃって。

 

 

「ほへ〜紅葉さん大人って感じ!」

 

 

「そう? 変わり者なだけよ」

 

 

 髪をなびかせて私の方を見た紅葉さん。長くて艶やかな黒髪。毛の束の一本一本が息しててとても綺麗。

 だけど⋯⋯私に見せたその笑顔はそれもっと――

 

 

 

 ***

 

 

 

「今日はありがとうございました!」

 

 

「こちらこそ。帰りは気を付けてね」

 

 

「はい! また⋯⋯学校で⋯⋯!」

 

 

「えぇ⋯⋯また学校で」

 

 

 外に出るとオレンジ色の夕日が照らした。顔や露出してる皮膚をじんわりと焼くような日差し。いちごの背を見送って私達は歩き出した。

 

 

 ***

 

 

「青葉? 話って何? 貴方がこんなこと言わなかったら一緒の電車で帰ってたんだけど?」

 

 

 暖かい風が当たる。眩しい夕日から遮るものがない歩道橋の上。車の音が耳に入る。

 

 

「ん〜? 話なんてないよ。ただ、一緒に歩きたかっただけさ」

 

 

「はぁ? 貴方何言っ⋯⋯」

 

 

(ん? あれ⋯⋯なんか目が霞む⋯⋯青葉手⋯⋯)

 

 

 メガネを上げ、目を擦る。

 何も見えない視界。一メートルも離れていない青葉の姿も、後ろの薄汚れた背景と同化する。

 

 

「紅葉大丈夫? どうしたの?」

 

 

 メガネをかけたらすぐに現れた青葉。濁った世界が色付く。

 

 

「いえ⋯⋯なんともないわ。夕日が眩しくてね」

 

 

「そっか〜」

 

 

「⋯⋯」

 

 

 なんともない、いつもの通りの姿。

 

 

(さっきのは見間違いね⋯⋯)

 

 

「それよりいつまでここにいるの?」

 

 

「ん? そういえば⋯⋯なんでここに居るんだっけ?」

 

 

「貴方ねぇ⋯⋯」

 

 

「まぁまぁ〜いいじゃないか〜二人仲良く! 手を繋いで帰れば〜」

 

 

「最初からそう言いなさいよ⋯⋯」

 

 赤く染った夕日。最後の灯火。今日という日の終わりが来る。

 

 

「それにしても今日は暑いね〜」

 

 

「いつもでしょ」

 

 

「そうとも言う〜」

 

 

「そうとしか言わないわよ」

 

 

 重なった青葉の手。変わらない温もり。

 

 

「紅葉⋯⋯私の手見すぎじゃない?」

 

 

「⋯⋯別に?」

 

 

「おいおい? なんだい今の間は? 何を思ったのか言ってみなさい?」

 

 

「⋯⋯」

 

 

「ちょっと? 無視しないで!?」

 

 

「⋯⋯」

 

 

「紅葉〜!?」

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