自分の部屋のベッドの上に飛び乗る。
「んふふ〜ん⋯⋯」
枕に顔を埋めて鼻歌を奏でながら。右に左に転がる。
「な、何してんの⋯⋯?」
なにか見てはいけないものを見たかのような顔。床から頭だけを出してこちらを覗く。
まさかそんな所から見られるとは。思わず動きが止まる。普通はドアから来ると思うだろう。
「⋯⋯」
気まずい空気。私は無言で起き上がり青葉の方に体を向け⋯⋯
「何もしてないわ」
そう言いながらメガネを上げた。
「いやいや、何もしてないわけな⋯⋯」
珍しくまともな意見。ただ、
「何もしてないわ!!」
青葉の言葉を遮り言い放つ。
「そ、そう⋯⋯」
何か言いたげな顔をしていた。ただ、あまりの迫力に気圧《けお》されたようだ。
「⋯⋯で、あなたなに私の部屋に居るのよ
さっさと出ていきなさい。」
「えーーー? 紅葉ぃそれはちょっとあんまりなんじゃなーい? 私が亡くなったことが寂しくて学校にも行けなくて引きこもってたのはどこの誰だっけぇ?」
「そ、れ、に?」
「私の姿はあなたしか見えないからここしか居場所がないんですぅお分かり?」
超絶ウザイ煽り顔。さっきのお返しにと言わんばかりに責めてくる。語尾の子音の長さにウザさの拍車がかかる。
「⋯⋯あっそ。それじゃ私寝るからおやすみ」
ただ、私はやられっぱなしで終わらない。呆気ない一言。ただそれだけを言って青葉の挑発を無視して毛布をかけた。
「は? え? ちょ、ちょちょ紅葉お前待っ⋯⋯」
逃げるが勝ちとはよく言ったものだ。青葉のかなり焦っている声が聞こえる。私をいじった罰だ。ほっといていいだろう。
私は眼鏡を置いてすぐ眠りについた。最後まで青葉はうるさかった。気がする⋯⋯
***
どのくらい経っただろう。外は少し暗くなっていた。
「ふぁー⋯⋯めがね⋯⋯」
半分寝ぼけてながら手探りで眼鏡を探す。
「ん、あった⋯⋯」
メガネをかけ部屋を見渡す。
「⋯⋯なにこれ」
思わず口に出る程の散らかり具合。
散乱している部屋、タンスや引き出しが全て開いている。そこら中に散らばる洋服。
「これにしようかな⋯⋯やっぱこっちかな? うーーん」
鏡の前で私の服を着て悩んでいる青葉の姿⋯⋯
「青葉⋯⋯」
「ん? 何〜?」
「⋯⋯部屋片付けなさいよね」
「え⋯⋯」
予想だにしてなかったのか手に持っていた私の服を落とした。辺りを見渡す。顔がひきつり始めた。悟ったのだろう。事の重大さに。
「も、もみじ⋯⋯手伝って♡」
私の方を向いた。とびきりの笑顔。アイドルなら百点満点。ほっぺに手を当て口角を上げ、可愛い声で乗り切ろうとしている。来世があるなら間違いなくテレビの大スターになっているだろう。ただ、なぜそんなことをしたか?答えは簡単。大方《おおかた》部屋を片付けるのがめんどくさくて私に手伝わせる作戦だ。
「あおは⋯⋯」
見え透けた罠。ここで私が仕方ない⋯⋯私がやるよ⋯⋯と言ったらどうなるか。絶対私に全てを丸投げするだろう。自分は片付けないで。そんなの許す訳がない。生憎、青葉の小手先の行動にひっかかる私では無い。逆に罠にはめてやる。
まずはその下準備。私はいやいやだが行けそうな雰囲気を出す。悩みながらも押し切れそうな感じで。
「も、もみじ⋯⋯」
その顔を見てからか。顔に綻びが生じた。まるでバカを見る目。罠にかかった獲物を見下すような。上手くいって笑いが堪えきれないのだろう。だがお前はもうおしまいだ。
「ダメに決まってるでしょ。あなたが汚したんだから。あなたが片付けなさい」
上げて落とす。青葉からしたら急変した事に驚いただろう。
「えーー! なんでなんで〜! 手伝ってくれてもいいじゃーーん。紅葉のばかばかぁー!」
「なんで私が手伝わなくちゃならないのよ。貴方が人の部屋散らかしたんだから責任もってきれいにしなさいよ。」
「だって! 元はと言えば紅葉が悪いんじゃん! 私を裸のままで放置するし! 一人で勝手に寝ちゃうし!
やることないから部屋漁って服探したりエロ本さがしたりそれぐらいしかやること無かったの!!」
「貴方開き直ってないかしら⋯⋯」
駄々をこねる子供のように床に寝転び手足をばたつかせる。完全に子供⋯⋯否、子ども以下。小さい子が散らかしたのなら笑い話のひとつにでもなるだろう。だが、今散らかして駄々を捏《こ》ねているのは普通の女子高生だ。
「はぁ⋯⋯わかったり私も手伝ってあげるから早く服選びなさいよ」
「も、紅葉⋯⋯」
その言葉に目をキラキラ輝かせる。あまりに幼稚な姿についうっかり言ってしまった。ミイラ取りがミイラになるなんて言葉があるがまさか私が罠にハマるとは。今回は私の負け。
「わーーん! ありがとう〜〜」
犬のように懐に来て抱きついてくる。人は死ななきゃ治らないなんて言葉があるが、青葉の場合死んでもこの感じ。生前と同じく迷惑野郎なのは変わらない。
だが結局。それを許す私も変わらなかったようだ。
「えへへへへぇ⋯⋯紅葉、温かくて気持ちいねぇ⋯⋯」
デジャヴ。いつだろう。前にもこんなことがあった気がする。
「はぁ⋯⋯もしかしてこれから毎日こんなことが続くのかしら」
「えへへへへ⋯⋯紅葉、毎日イチャイチャしようねぇ......」
私の愚痴に変態みたいなことを言い放ち遠慮なく私の体を触る。生前より大胆に。
「⋯⋯貴方幽霊になってから遠慮がないわね」
「そりゃもちろん! 死んだからには私を縛るものは何も無い! 欲望のままに私は生きる! って事でとりあえず一緒にお風呂入ろ〜」
「嫌だわ」
「えーー! なんでよ! 入ろうよー! 裸の突き合いしようよーー」
「⋯⋯あなたのそれ意味違わない?後、思ったのだけど貴方、服着てて大丈夫なの? 他の人から見たらどう見えてるの?」
「うーーーん? うーーーん⋯⋯」
青葉は真剣な顔をしながら宙に浮かんでグルグル回転している。何の気なしにやっているが見てるこっちは驚きだ。
「うん! わからない!」
元気な声でそう言い放つ。結局考えても答えは出なかったようだ。返事だけはいっちょ前。ほんとに困ったものだ。
「⋯⋯」
「とりあえずお風呂入るなら脱いできなさいよ⋯⋯」
「えーー!?!? お風呂はいっていいの〜?」
驚いた反応をしながら服を脱ぎ捨てた。あちこちにとっちらかった服⋯⋯
「さぁ、行くぜ紅葉! 桃源郷はすぐそこだ!」
「貴方幽霊になってバカになってないかしら⋯⋯」