ジンジンと照らす太陽。海の香りと押し寄せてくる冷たい波。思わず足元がぐらつく。大勢の人と歓声が聞こえてくる。
「皆さんこんにちは紅葉です!
私は今海に来ています! 青い空どこまでも広がる海! 雲一つない空! まさに『夏』を飾るに相応しいこの地。今の私の気分は!【さいっ低】」
「ちょちょちょカットカット〜何してんの紅葉! せっかく夏のお天気お姉さん的な感じで言ってたのにぃ!」
青葉の強い要望。お願いコールを断れず言われた通りやっては見たが限界が来た。今では見かけない麦わら帽子に白のワンピース。青葉の欲望全開だ。更には上機嫌で笑顔を絶やさずらしい。明らかに配役を間違えている。一応やっては見たが作り笑顔も疲れるものだ。
「うるさいわね、それ以上何か言ったら海に沈めて遺骨をばらまくわよ」
「さすがにやっていい事と悪いことがあるだ、あ、あ? ちょっと!? 波ィィィ」
立ってる私と距離が空く。砂が動くような地面が動くような。私に文句を言ってる間に青葉はみるみるうちに波に飲み込まれた。
とても大きな水しぶきが上がった。
「キャーー」
すごい水しぶきに甲高い声をあげるお姉さんや
「おいおい今の凄かったなぁ」
冷静クール日焼けサーファーお兄さん。
「お母さん今のもう一回やってー!」
お母さんに無茶ぶりを言う純粋無垢な子供。
「さて⋯⋯帰ろ」
様々な人の声を聞きながら波を背に砂浜を歩き出す。
「んーーおいーーー!! 助けろやぁ!?」
水しぶきの中から現れた青葉らしき人物。海の中からなんとか出てこれたらしい。髪の毛に海藻と渦巻《うずま》きの巻貝が付いている。
「あら? 生きてたの? もう一回死んだら成仏できるんじゃなくて?」
「顔に見合わず酷いこと言うな⋯⋯」
「それにしても、幽霊って塩ダメなイメージあるけど、あなたは大丈夫なの?」
海藻を引き剥がしている手が止まる。おまけに顔がどんどん青ざめく。
「確かに⋯⋯そうじゃん⋯⋯」
死を悟ったような顔。死んでいるのに。青ざめた肌は後ろの海と同化する程。
「あなたバカなの」
なぜ私はこんなことをしてるんだろう。海が目的では無いのにだ。はぁ⋯⋯あの時の口車に乗ったのは間違いだったかしら⋯⋯
***
「紅葉⋯⋯海に行こ!」
「あらそう、行ってらっしゃい」
ベッドで寛いでいる時、急にそう言い出した。
興味がない。適当に返事をした。ただでさえいきなりなのに外、しかも海に行こうなどと。青葉は私がインドア派と知っているのに。
「うんうん! いってきまーす〜⋯⋯ってそうじゃないわ!」
漫才さながらのノリツッコミ。
「二人で一緒にいこ〜よ〜う〜み〜リア充共観察しにいこうよ〜」
そう言いながら私の腕をぐいぐい引っ張ってくる。
「あなた海が目的じゃなくて二つ目が目的でしょ」
「そ、そんなことないし?ヒューーッ⋯⋯」
できてもない口笛で誤魔化そうとしてる。
「それに海に行くならついでに二人で水着姿着て遊ぼうよ〜」
それが本音か。ただ単にこいつはあれこれ理由をつけていたが結局のところ私の水着が見たいだけの変態だったようだ。
「おーねーがーい〜」
「嫌な物は嫌よ。絶対行かないわ。大体あなた私がそういう場所嫌いなこと分かってるでしょ?だいたいあなたは⋯⋯」
青葉は唐突にこんなことを言い出す。私はいつもそれに乗せられてしまうが今日という今日は絶対に⋯⋯
「って聞いてるの!?」
私の話を聞きもしないで何やらガサゴソやっている。その様子に私は少し怒鳴ってしまった。私の話を聞かず自分勝手。こいつは私の事を一番知っているはずなのに。私の好きなことから嫌いなことまで。それなのにあれやこれや言ってくる姿が頭に来る。
「ほんとに行く気ないの〜? ほんとにぃ?」
青葉は本を開いてとあるページを指す。
私が怒ったのに気にもとめてない。それどころかそんな私に青葉は作戦通りとでも言いたげな⋯⋯私が行く確証があるような勝ち誇った顔。
「⋯⋯貴方の提案で行く訳じゃないから」
青葉の開いた本を見て私はまんまと作戦に乗ってしまった。ほんとにこいつは私の扱いがうまい。ただ少し癪だ。これは私の意思で決めた事だ。決して青葉の作戦に引っかかった訳ではないと、バレバレの強がりを持って返事をした。
「⋯⋯何してるの?早く準備しなさいよ」
「んーー紅葉ぃぃぃ!」
その言葉を聞いた青葉はすごい笑顔で抱きついてきた。同時にものすごく意地の悪い顔をしながら。
「んーもう何いじけてんのよぉ〜私に提案された場所が良くて悔しいのぉ? プップッ〜笑」
彼女には私の強がりもバレバレのようだ。全てお見通しと言わんばかりに痛いところを突いてくる。ただ、そんな青葉も知らなかったようだ。人間⋯⋯核心をつかれるとすごくムカつくことに。
「⋯⋯青葉♡」
私はとびきりの笑顔を青葉に向ける。
「え///なに紅葉⋯⋯まさか今日はそっちから⋯⋯」
顔を手で隠し恥ずかしそうにしている。恐らく変な妄想でもしているんだろう。思う存分しておけ、それがお前の最後だから。
青葉の後ろに素早く回り込み。首に腕をかけ、左の手で右の腕をロック⋯⋯そして締める!
そう、これはチョークスリーパー。
「ウッ⋯⋯ヴ!!?」
長年一緒にいたけど初めて来た声。急に締められた青葉は抗うことすら出来ず、初めは私の手を何度もタップしてもがいていたが直ぐに静まった。
***
「ハッ!? こ、これは⋯⋯夢?」
十分ほど気絶していたが唐突に目覚めたようだ。
「何言ってるの早く二階行くわよ」
「ほえ? う、うん⋯⋯」
青葉はさっきまでのことが現実だったのだろうか⋯⋯?と混乱しているようだ。まぁ、覚えてないならそれはそれでいいだろう。私たちは海に行くのだからその準備をしなくては。