家の扉を開ける。私は青葉に腕を引っ張られ帰宅した。
「紅葉? 帰ってきたの? おかえりなさい〜」
遠くから母の声がする。
「たっだいまです〜お母様〜」
「⋯⋯ただいま」
まるで自分の家かのように大きな声で返事をする。対して私は小さな返事をする。
「紅葉ぃどうする〜?」
「なにが⋯⋯」
青葉の言葉に私は震えながら答えた。
「そりゃもちろん! ご飯にする? お風呂にする?
そ れ と も 〜 ? わ・た・し♡?」
さっきのことが頭に残る。今でも頭はその事でいっぱいだ。なのに青葉はなんともない⋯⋯先程までのことは無かったみたいに。薬局で買った日焼けの塗り薬を私に見せつけてくる。
「⋯⋯」
私は無言のまま靴を脱いだ。
「⋯⋯お母さんお風呂入る」
「はーい。お湯沸かしてね〜」
私は青葉の横を素通りしてお風呂の準備をする。
「な、なな、なるほどねぇ? お、お風呂にするんだね、うんうん。では、私も早速お風呂に〜〜」
無視されたことに少しは動揺したようだ。だが、調子のいい様子。すぐさまお風呂に向かってきた。ただ、今の私はそれを許す程優しくない。青葉の髪を掴み玄関へ向かう。
「えっ? も、紅葉?」
困惑した様子。私は買い物袋を奪い玄関を開けた。
「な、なんだろ手凄く嫌な予感がする⋯⋯前にもこんなことあったような⋯⋯」
珍しく予感的中。私は青葉を思っきし投げ飛ばした。
「うんわぁーーーー!! へぶしっ⋯⋯」
投げ飛ばされた青葉は対面の壁に激突。
「んーもう人使いならぬ幽霊使い荒いんだから〜全く⋯⋯こんな酷いことしなくてもいいぢゃん!」
当たった頭を気にしながらぶつくさ文句を言ってくる。
クラクション。一台の車が向かってくる。
「ほぁ?」
こちらに戻ろうとした時、偶然通りすがったクルマにぶつかった。
「私は死にましぇぇぇん〜〜」
どこかで聞いたようなセリフ。どこか遠くへ飛んで行った。
それを確認した私は部屋の鍵を閉めた。
***
「フンフフフン〜」
私は鼻歌を歌いながら湯船に浸かる。日焼け跡が少し、しみるが今はそれが気にならないほど気分がいい。
目を閉じてリラックス。体中の力を抜いて浮かぶ。
しばらくして目を開けると、先程まで居なかった青葉と目が合う。一瞬鼻歌が止まる。
「⋯⋯」
どれくらい見つめていただろうか。私はすぐ目を逸らして無視をした。
「っておーーーい! もっと心配しろやぁ!?
さすがに酷いだろぉ?」
「あら、生きてたの? 死んだかと思ったわ」
「いや〜幽霊なのにまた死ぬかと⋯⋯ってそうじゃないわ!! てかこれ前もやらなかったか!?」
車に引かれた割には元気そうだ。しかもノリノリ。
「まぁ、そんなことは置いといてなんの用? 私見ての通りお風呂入ってるんだけど?」
「ん? 知ってるよそんなの」
嫌な予感がする。
「 ⋯⋯貴方服脱いで何する気」
私は無意識に青葉を睨んでたと思う。
「え?そんなの決まってるじゃあないか!
私も入るのさ!
宙を舞い、投げ捨てられた服。
「あらそう」
青葉が服を脱いでそれを発した時、嫌な予感が当たった事を理解した。私はすぐさま湯船から出る。
「イヤン///紅葉色々見えてるぅ⋯⋯」
恥ずかしそうな反応。手で目を被って見ないように。隠してるように見えて指が空いてるけど。
「え? なになに!? まさかこれって!? 禁断の告白!?」
随分幸せそうな妄想。でもいいと思うわ。これから起こることを考えるなら。
「青葉⋯⋯///」
「!!」
私はさりげなく首に手をかける。近い。青葉の瞳に私が映る。青葉はとても緊張して棒立ちだ。
「青葉⋯⋯」
水しぶきが上がった。
「ビバブヴァウファ!?!?」
「さぁ、私が入ってたお湯よ? 入りたかったんでしょ? 入れてあげたわ」
私は青葉の顔を湯船に沈めた。
「タフィカヌィハイリタカフゥッタケドゥコンヌァンビュアヌアア⋯⋯」
気泡が次々と浮かんでくる。何やら水の中でなにか叫んでるようだ。
「ボコボコボコ⋯⋯ボコ⋯⋯ポコ⋯⋯」
最初は大きかった気泡も次第に小さく。声もいつも間にかしなくなってた。
「――ハッ!? こ、ここは!?」
「⋯⋯何してんの」
「あれ?な、なんだろう⋯⋯ものすごく嫌な事をされた気がする⋯⋯なぜか紅葉のお風呂に侵入してからの記憶が無いのよね」
「そうなの? 不思議なこともあるものね幽霊でも記憶喪失なんてあるのかしら」
※一応あの後すぐに引き上げた。
「んーーー? うーーーーん?」
「⋯⋯何してるの、湯船入らないの」
「!?!?」
「紅葉さん!? 入っていいんですか!?」
「はぁ⋯⋯好きにしたら? 別に入らなくても⋯⋯」
水しぶきが盛大に上がる。青葉が飛び込んだ勢いで、お湯がお風呂全体に飛び散った。
「⋯⋯」
そのせいで頭から凄い量の水を被った。
「おっふろ〜おっふろ〜紅葉とお風呂〜」
完全に上機嫌。嫌でも高いテンションが伝わる。
「ちょっと⋯⋯」
「んー? どうした紅葉」
「入っていいとは言ったけど何私に寄りかかってるのよ⋯⋯」
「えーー? 2人で湯船に入るならこうじゃなーーい?」
「狭いし熱いんだけど⋯⋯」
背中越しに暑さが伝う。お湯じゃない⋯⋯人の温かさ。
「え〜?注文多いなぁ⋯⋯それなら、こんな感じで顔と体を見つめられる方がいい?」
悪い顔。意地悪。嫌な顔をこちらに向けてくる。私はそれから目を逸らす。
「あーちょっと!? ほら、目⋯⋯逸らさないで?」
私の顎に手を乗せた。どこを向いても無理やり目を⋯⋯顔を合わせられる。
「これの方がいいんでしょ? ほら、もっと見てよ⋯⋯?」
「わ、私が悪かったからさっきの体勢に戻って⋯⋯」
青葉の手をどけ押し返す。
「うーーーん⋯⋯嫌だ!」
「ちょ、ちょっと青葉やめ、何してるの!」
私の手を払って、無理やり抱きついてくる。
「ちょっと⋯⋯青葉ダメ離れて」
「えー? 嫌だよぉ温かいし〜? 紅葉の温もりも
「あ、ちょ⋯⋯やめ⋯⋯」
私の手首を掴んで自分に触れさせた。やけどしそうな程の熱さ。きめ細やかな、柔らかい。
「なになに紅葉さーん? もしかして⋯⋯変な妄想しちゃってる? それよりどう? 私の?」
「へ、変な妄想なんかしてないし! それに貴方何してるのよ!」
無理やり手を離す。おかしい、手の中にまだ感触が残ってる。
「――そっか⋯⋯私は妄想してるけどね?」
「⋯⋯え?」
湯船から上半身を出して。長い髪が肩に当たる。
「あっ⋯⋯」
蛇口から水が垂れる。ポタポタと音を立てて。
「ふふ⋯⋯なに照れてんの? 顔真っ赤だよ? 安心して? 何もしないから。今はね」
耳に残る息遣い。それに声。青葉が迫ってきて体が動かなかった。なにあれ⋯⋯心臓うるさ⋯⋯