貞操逆転世界で悠々自適にオタ活生活 作:オタコウ
俺は男女比のおかしくなった貞操逆転世界に転生した当初、まぁなんとかなるだろうと思っていた。
別にファンタジー世界や現代の海外に転生したわけではないのだ。
基本的な生活のレベルは前世とそう変わらない。
どころか、数の少ない男子として転生した分、前世よりも優遇されているまである。
これなら前世みたいな無味無臭の社畜生活は送らなくてもいいかもしれない。
そんなことを思っていた矢先のことだった。
俺はテレビで「懐かしいアニメ特集」をやっているのを見た。
当時の俺はまだ本当に物心がついた頃で、アニメとか漫画のオタクコンテンツに全く触れていない時期だ。
だからこの世界のオタクコンテンツには漠然と「前世とそう変わらないだろう」という適当な認識を抱いていた。
しかし画面の向こうで、上半身の露出の激しいビキニ姿のむちむちボインが、険しい視線でこういったのである。
『お前はもう、死んでいる』
あ、ああー、そ、そうきたかぁー。
俺がこの世界のオタクコンテンツが、前世とは色々と”真逆”になっていると察した瞬間である。
そこから俺の、この世界のオタクコンテンツを楽しむための試行錯誤が始まった。
◯
その日、俺は我が家のリビングでアニメを鑑賞していた。
モニターが大きいのもあって、部屋を暗くしたほうが臨場感があるという理由で、部屋は暗い。
リビングの大きなソファに腰掛けて、机には飲み物とお菓子を広げての鑑賞会だ。
我ながら、なんとも優雅なことである。
「――あ、今の伏線になってるんだ」
「え、どこどこ」
「ほら、さっきのリンケ大佐の発言の中に、開発中の新機体の話が出てくるじゃん。主人公の乗り換え機体の前フリだと思ってたんだけど、しれっとそのなかにラスボス機の情報が混じってる」
「あ、ほんとだぁー」
――で、そんな俺の横には一人の少女が座っている。
ソファの上で体育座りをしながら、膝と胸の上に置いた飲み物をストローでぼんやりと飲んでいる少女。
驚くほど透き通るような白髪に、小柄な背丈。
それに似つかわしくないプロポーション……というか胸。
今はもこもこのパジャマ姿を着ていて、なんか羊か何かになったみたいだ。
少女の名は――
「シロネ、飲み物のおかわりいるか?」
「んい? だーいじょうぶ、うへへ」
倉沢シロネ。
名は体を表すような少女は、ゆるい笑みを浮かべてそう返した。
それにしても貞操逆転世界なのはいいとして、どうしてラノベみたいに髪色が個性豊かだったり、顔の良い女ばっかりなんだろうな、この世界は。
シロネとか純日本人でこの白髪だよ、ファンタジーってすごい。
「そんなことよりぃ、そろそろ戦闘シーンだよ、戦闘シーン」
「ああ、こっからは一秒たりとも見逃せないな」
「んへへ、そうそう」
さて、俺達が見ているのは、さっきの会話からも分かる通り「ロボットアニメ」だ。
前世におけるガンダムに相当するアニメ。
面白いことに、タイトルや設定は前世のガンダムとはほとんど違うのに、「ロボットアニメのお約束」みたいなものは前世とそう変わらないこと。
今見ているのは、そういったお約束が既に確立された時期の作品なのだけど、当然のように「主人公の後継機」が登場する。
熱い乗り換えシーンも健在だ。
「あー、やっぱこれだよな。この戦闘シーンがロボモノには必要なんだよ」
「相変わらずソウキくんは変わってるねぇ。いや私もこういう戦闘シーン大好きだけどさぁ」
いいながら、体育座りを崩してお菓子に手を伸ばすシロネ。
彼女の言うことは最もで、この世界でもロボットアニメは健在だが、それを主に接種しているのは女性の方だ。
男性は、あまりロボットアニメを好まない。
いや、前世でロボットアニメを鑑賞することが趣味だった女性くらいはいる。
男性自体の比率が下がっているから、必ずしもイコールではないが。
ただ、前世でロボットアニメを好んでいた女性は、どちらかといえばロボや戦闘シーンではなく登場人物の人間関係を重視していただろう。
だからこの世界でロボや戦闘シーンにこだわる男の俺が、「変わってる」のは当然の評価なのだ。
「けどさ、やっぱり戦闘シーンの迫力ってすごいじゃないか。それを映えさせるためには、バシッと決まったデザインのロボが必須なわけだよ。俺は何も変なことではないと思うけどな」
「気持ちはわかる、すっっごくわかる。いいよねやっぱ。お、いよいよあのシーンだよ、こっから黙るねー」
「だな」
――俺達は現在、既に一周を終えたロボアニメの二周目を楽しんでいる。
一周目はただただ物語を純粋に楽しみ、二周目からは作画や伏線、他にも色々と二周目だから気付ける要素を楽しむ。
時間の有り余った学生時代にしかできない楽しみ方だ。
いやほんと、こういうところは純粋に転生して良かったと思うよね。
もう一度学生時代のモラトリアムを味わえる、それだけでも爆アド極まりない。
「あー、終わったぁ」
「やっぱこの回最高だな」
「それもう二十回くらいいってるんだけどー」
「あと三十回はいう」
「わかるー」
ついでに言うと、前世だと学生時代でも4クールアニメ二周とか、付き合ってくれる友人はいなかった。
俺が男としてチヤホヤされる立場だからなのか、それとも長い付き合いで心を許してくれているからなのか。
シロネは俺と一緒にこの周回に付き合ってくれている。
もともとシロネとは幼馴染で、学校も昔から一緒だった。
気の置けない仲であり、オタク友達。
そんなシロネがいてくれるのも、ありがたい要因の一つだ。
「そういえば、私エンディングの最後のシーン好きぃ」
「あ、わかる。いいよな」
このアニメの今のエンディング。
最後のシーンは主人公がヘルメットを脱いで空を見上げるシーンで終わる。
ヘルメットを脱ぐシーンは、ロボットアニメにおいてはお約束の一つだ。
そこに加えて、俺はこのシーンに別の楽しみを見出していた。
主人公がヘルメットを脱ぐと、在るものがふぁさっと中から溢れてくるのである。
長い長髪だ、更には主人公である美少女の顔がドアップで映る。
――そう、このロボットアニメの主人公は美少女だ。
前世でも美少女が主人公になるガンダムは、シリーズの後の方で色々と出てきたけど、この世界だと初代からして主人公が美少女である。
いや、当時の書き方だからちょっと顔に味は在るけどね。
すくなくとも、ここ十数年の主人公は、今でも通用するナイスデザインである。
どういうことかと言えば、それはここが貞操逆転世界だから。
前世で当たり前のように少年が主人公だった作品は、少女が主人公になり。
週刊少年ジャンプはこの世界だと週刊少女ジャンプだ。
結果として、前世でも好きだった大半のコンテンツは、こうして今でも見方を変えて楽しめるのである。
正直、完全に前世と感覚が違っていたら、俺は諦めていたかも知れない。
だけど中途半端に、この世界のオタクコンテンツは前世の感覚でやって行けてしまうのである。
それはいいことでもあり、悪いことでもあるんだけど、俺はポジティブに捉えることにした。
前世の感覚で楽しもう、と考えたのだ。
見方によってはネガティブな思考に思えるかも知れないが、そうではない。
言ってしまえばこれは「縛りプレイ」。
限られた手札の中で、如何にオタクコンテンツを接種するかのゲームである。
しかも、そこまで難易度は高くない。
程よい縛りプレイはゲーマーにとって栄養素だ。
だから俺は、この貞操逆転によってオタクコンテンツの観念まで逆転した世界で――前世と変わらぬ悠々自適なオタ活を楽しむべく生きている。
◯
来栖ソウキは倉沢シロネの幼馴染だ。
シロネにとって、ソウキはあまりにも都合の良い幼馴染だ。
男で、オタ活に理解があるどころか、前向き。
どころかその趣味趣向が女であるシロネに近いのだ。
基本的に男子はなよっとしていることが多い中で、珍しく積極的に女子と関わる男子。
オタ活に理解があるどころか、女子の好きそうなロボモノが好きな男子。
レアなんてものじゃない。
まぁ、中には女子と積極的に関わる陽キャな男子も多少はいる。
しかしそんな陽キャ男子はたいてい女子にチヤホヤされるのが好きだからそうしているだけで、決して女子の根暗なオタク趣味には興味を示さない。
だが、ソウキは違う。
如何にも陽キャな雰囲気を撒き散らしつつ、ディープなオタク趣味にどっぷり。
こんな都合の良い男子、他にいる?
いねぇよなぁ!
おかげで、ソウキのことを好きな女子は結構多い。
というか、「ソウキって私のこと好きでしょ」と思ってる女子は星の数。
ソウキがこの実情を知れば「俺ってオタクに優しいギャルだったのか……」と思うこと間違いなし。
そう、ソウキはオタクに優しいギャルなのだ。
ソウキの前世に置いて、それは空想の産物だった。
オタクに優しいギャルはいない、オタクにも優しいギャルや、オタクなギャルはいても。
だが、ソウキが転生し、世界の貞操が逆転したことで――ここにオタクに優しいギャルは爆誕した。
これは、そんなオタクに優しいギャルであるソウキが、オタ活を楽しみながら周囲の女子を振り回す――そんな日常の物語だ。