ちょっとただの村人がもってて良いチートじゃなさすぎる 作:コナハズ
俺の前世はつまらない社畜オタクだったから、正直語ることはないんだけど。
だからこそ俺は相応に、異世界転生に夢を見ていたんだよ。
今の自分とは違う環境で、今とは違う新しい自分になる。
そういう状況に、憧れを抱いていた。
だから実際にその状況に放り込まれて、実際にチートを手に入れたと理解した時。
俺はきっと「うまくやろう」と思ったんだ。
このうまくやろうっていうのは、「誰からも邪魔されない自由な人生」を生きること。
実力のある冒険者になって、好きな時に休んで好きなときに冒険する。
どこかへ旅行に行くのもいいだろう、異世界には娯楽が少ないから、冒険そのものが娯楽になるのだ。
あまり目立ち過ぎてはいけない、かといって評価されずにくすぶってもいけない。
異世界は厳しい世界なのだ。
だから、そういう人生を目指そうとした。
力さえアレば、それができるとおもっていたんだ。
その結果が、これである。
いやぁ、とんでもないことになっちゃいましたね。
俺が森の一部を消し飛ばしたと思ったら、その音で大人たちが集まってきて、ヤバい魔物が出たんじゃないかと大騒ぎ。
加えてそれを役人に報告したら騎士団まで派遣される始末。
ちゃんと国が国民を守ってるってことだから、いいことなんだろうけど。
これで成果がありませんでした、ってなったらその方が俺としては色々死んでたかもしれん。
で、実際にはどう考えても成果なんて出るわけないんだけど、別のものが出ちゃいました。
ダンジョンである。
この世界において、ダンジョンが資源の宝庫であることは以前も話した。
ダンジョンが出れば、ダンジョンの近くにある集落はダンジョン街として整備され、各地から冒険者が集まる。
結果としてその集落の住人は潤い、これまでとは生活が一変するわけだ。
それは以前は冬を越えるのも命がけだった俺の村を、ちょっと小洒落た都会に変えてしまうほどに。
といってもまぁ、今はまだ完全に準備が急ピッチで進んでいる段階で、建設中の建物も滅茶苦茶多いんだけど。
その御蔭で村人が更に潤うので、彼等も生き生きとしている。
死んだ目をしているのは俺だけだ。
胃が痛いのは俺だけだ。
更に厄介事を抱えているのも、俺だけだ。
俺を創造神と呼ぶ光の精霊”シフ”、俺とシルリだけ見えるその精霊は、今も俺の家をふよふよ漂っている。
だが、何度も言うけど俺は本当にただの村人だ。
創造神の生まれ変わりではないし、特別な血筋でもなんでもない。
けれども、俺の能力がそれを否定する。
余りにもチートなそれを、俺は鍛錬によって何とか使えるようになろうとしていた。
幸いにも、試す相手なら困っていない。
まぁ、試す相手に困っていないのもまた、俺が抱える厄介ごとの一つなのだが。
+
「――”焔”よ!」
俺がそう叫んで手をかざすと、手のひらサイズの火球が生み出される。
眼の前にいる”それ”は、一瞬だけその火の玉に驚くも――すぐに構わず突っ込んできた。
ここで逃げてくれれば、その方が俺にとっては楽だってのに。
『ギャギャギャ! コロスゥ!』
叫びながら突っ込んでくるのは、いわゆるゴブリンというやつだ。
棍棒を構えて、単独で俺を殺そうと迫ってきている。
それを、俺が射出した焔が包み――一撃で消し飛ばした。
「……こんなもんか」
魔物が倒されると、その体は消滅して一部だけが残る。
ゲームみたいなシステムだ。
『創造神様のぉ、加護ぉ。今日はいい素材出ましたかぁー?』
とか思っていたら、のんびりとしたシフの声が響いて、俺の隣にちょっと光っているシフが現れる。
彼女の言う通り、このゲームみたいに素材だけがドロップするシステムは、創造神の加護によるものらしい。
なんというか、創造神って転生者だったりしないか? と思うが、俺と創造神に直接のつながりはない。
一応な。
「どうしたんだ、シフ。家の方でなにかあったか?」
『いえー? まだシルリ様も帰ってきてませんしぃ、父上も母上も仕事中ですぅ』
「だったら、わざわざ俺に声を掛ける必要もないだろ」
シフは現在、俺の居ない家に誰かが帰ってきたり、訪問してきたりしないかを見張っている。
というのも、俺は現在家から出ていない事になっているからだ。
ここにはある方法でやってきていて、そして俺がいるのは森の中。
何をしているのかと言えば――山の向こうからやってくる魔物を狩っているのだ。
『それにしても、また数が増えてませんかー?』
「山の向こうで、何か起こってるのかもな」
『起こってるか起こってないかでいえば、もう数年前からずっと起こってますけどー』
「それは言わないでくれ……胃が痛むから」
数年前、ダンジョンが発見された時。
騎士団はかなり本格的に森を調査した。
森の一部を消し炭にするヤバい魔物がいるかもしれないのだ、当然である。
しかしこれによって、色々と不都合を被った存在もいるのだ。
それが、山の向こうを根城にしている魔物たち。
というのも、俺達が暮らす森の奥には大きな山があり、その山の向こう側には結構な数の魔物がいる。
ただ、普通であれば山が魔物を阻み、俺達の村までやってくることはない。
しかしここ最近、明らかに山の向こうからやってくる魔物が増えているのだ。
おそらく騎士団が森を練り歩いたことで、山の向こうの魔物たちが危機感を覚えたのだろう。
結果、色々と事件が起こり、その余波がこっちまでやってきている、と。
『正直、冒険者に任せたほうが良くないですかぁ、これー。彼等にとっても食い扶持の一つになりますし、普通に請け負ってくれると思いますよぉ?』
「といっても、コレは完全に村の人達にとっては不利益だろ。それをもたらした根本的な原因は俺なんだから、責任は取らないと」
『ソレに加えて、能力の加減を練習する相手としてちょうどいいから、ですかー?』
「いいだろ、それを練習するのは誰にとっても利益になることなんだから」
言いながら、俺は手のひらに炎を生み出す。
さっきと比べると、明らかに勢いの弱い炎。
といっても、無詠唱で魔術を使っているのはそれだけでも破格なんだが。
『相変わらず、無詠唱魔術とか恐ろしいことしますねぇ。”魔滅”の加護はとんでもないですー』
「とんでもないものじゃなきゃ、森は消し炭になってないからな」
この世界には加護よ呼ばれるものがある。
概ねスキルと思って貰って構わないそれは、様々な効果を持つ。
魔術や剣術に対する素質を示すパッシブの加護だったり、鑑定みたいに能動的に効果を発揮するアクティブの加護もある。
まぁ、割と何でもありだ。
その中でも、俺が持っているのは”魔滅”という固有加護。
固有加護は、同じ時代に一人の人間しか持っていない能力のことで、魔滅はその中でも非常に稀有なもの。
数千年の歴史を持つこの世界で、歴史上に姿を表したのは一度きりだというから驚きだ。
その能力は、非常に単純。
『あ、また別のゴブリンですよぉー』
『アイツラ、ドコイッタ、ドコイッタ! ……ニンゲン!?』
ふと、次なるゴブリンが俺の前に現れる。
どうやらさっき退治したゴブリンと一緒に山を超えて、そしてはぐれたようだ。
まぁ、放って置くと村を襲うだけなので、さっさと討伐するのがいいだろう。
「――”風刃”よ!」
今度は、風の刃を生み出す。
それは明らかに何も無いところで生み出した炎よりも大きい。
まず、魔滅にはある程度加護を所有している人間の身体能力を高め、無詠唱で魔術を使うことができるようになるという恩恵を与える。
そして、そのほかに持っている特性はいくつかあって、一番わかり易いのが――
『ギャギャギャ! コロスコロス! ニンゲンコロス!』
それは敵が雑魚だろうと、滅茶苦茶強かろうと変わらない。
俺が加減しないと、森一つを消してしまうほどに威力があるのだ。
これ、悪意をある相手を前にしないと威力が上がらない、というのがかなり厄介。
おかげで一人で練習してるときは「俺ってちょっと強いかも」くらいだったのが、実践になるとやばくなった。
事故の原因である。
――何にせよ、風の刃は勢いよくゴブリンを切り飛ばした。
再びゴブリンは消えて、あとには素材だけが残る。
俺はふぅ、と息を吐くと素材を回収して、シフに渡した。
「悪いけど、保管しといてくれ」
『今更頼まなくたってぇ、そーぞーしんさまのためならえんやこらー、ですよぉ』
シフはそれを自身に取り込むと、ある場所にしまう。
んで、ふと何かに気付いた様子で慌てて俺に声をかけてきた。
『あ、創造神様、シルリ様が帰ってきますよぉ!』
「もうそんな時間か、んじゃあ……”転移”!」
俺は即座に魔術――空間転移を起動させると、慌てて自宅へと戻る。
シルリは俺が外で魔術の練習を知っていることは知っているが、それはそれとして家に帰って俺がいなかったら不安になるかも知れない。
『それにしてもぉ、流石にそろそろ魔物を倒し続けるのもまずいかもしれませんよぉー』
「……わかってるよ」
んで、転移して家に帰ったあと、シルリと顔を合わせる前にシフが呟く。
それは、俺の”魔滅”のもう一つの特性が関係していた。
『だって、この数年魔物を倒し続けて魔力を吸収して、ラーク様、更に強くなってますもん』
そう、そうなのだ。
俺の魔滅は、魔物を倒すとその魔力を吸収する。
普通の人はそうではない。
普通の人は魔力を「消費」することで強くなる。
繰り返し体を鍛えて強くなるようなものだ。
しかし俺はそこに加えて、魔力の吸収によって「経験値」を得られる。
これのせいで、数年雑魚魔物を倒しているだけでも、俺は強くなってしまった。
鍛錬をするのは、加減を覚えるため。
それは年々強くなる自分の力を、制御して抑えるためでもあったーー
チートにチートを重ねるんだよぉ、みたいな。
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