進撃の巨人2 名も無き英雄、最後の兵士の歩み   作:なげすて

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本作前編でフラッシュバックした際に『彼』が見た、名もなき英雄が迎えた末路の一つ。
『彼』が付け続けてきた日誌の断片。
進撃の巨人2のエンディングで、奇跡的に生還することが出来た名もなき英雄でも、世界の脅威を相手に、どうすることも出来なくなっていた。
そんな絶望を書いた話。世界からの侵攻に、『彼』らは最後の覚悟を決める。


おまけの物語① 断片:世界に囲まれて

日誌。853年のどこか。……いいや、そんなことはもう、どうでもいいのだろう。

 

エレンとミカサが失踪した。

私たちがマーレに密入国した日。キヨミ様と会談し、パラディ島の趨勢で気を揉んでいた中でのことだった。日が暮れた頃、まずエレンの行方がわからなくなった。私達は手分けして探したが、次にミカサが行方を眩ました。スリの少年の住まいを訪ねたところ、二人が村の境界の辺りに、向かい合って立っていたのを村長が見たそうだ。私達が二人に関する情報を手にしたのは、それで最後だった。

翌日、ユミルの民の保護を訴える組織が、パラディ島の住民を保護対象から外す声明を発表した。

 

今私が記しているこの文章は、それから3年後のことである。

 

タイバー家が世界各国の首脳が集う場で、パラディ島の悪魔に宣戦布告がなされた。

我々は完全に退路を断たれた。対話による道も、完全に閉ざされてしまった。

そんな渦中でさえ、エレンとミカサは、どこにもいなかった。

 

兵長や私達リヴァイ班、各兵団から戦力を集めたところで、この状況が好転するとは思えない。

パラディ島は世界連合艦隊に包囲され、【鎧】、【戦槌】の巨人により壁は破壊。ジークの引き連れた無垢の巨人の群れと【顎】の強襲により、壁内人類はまたたく間に後退した。ピクシス司令は、

「壁内人類同士で争いが起こらなかったのは皮肉なことじゃ。まさか、避難が完了する前に皆殺しになることで、実現するとはのう」

と言い残して、ウォール・ローゼにて殿を務め、2つ目の壁もあえなく破られた。

 

戦車に飛行船に巨人の群れ、そして"戦士たち"がウォール・シーナに迫って来ていた。

 

タイバー家が各国に訴えた。

『パラディ島の悪魔と戦って欲しい』

と。

ユミルの民である私達。巨人に変身することが可能で、嘗て世界を蹂躙した悪魔の末裔。

わずか数年で世界の真相を知らされた上、さらに数年でその印象を払拭することなど、到底不可能だった。

 

アズマビトは、この連合作戦には干渉しなかった。

敵でも、味方でもない。

慈善で自国を世界と戦わせることなどあり得ない。まして、資源を求めるだけに動いていた国に、私達は期待などしていなかった。

 

…見返りといえば、エレン達のことを思い出す。

調査兵団がエレン戦わせたのは、人類を救うためで、エレンもそれを望んでいて、目的が合致していると思っていたからだ。

私達は、彼に戦うことを選ばせた。

人類の希望となるよう、仕向けさせ続けた。

そこに、自由はあったのだろうか。

私達は、彼の望みを聞いただろうか。

 

彼の望みから目を背け続けたことが、この結末を呼んだのだろうか。

 

 

代わりなどいない役割から降りたいと望むことなど、出来る訳無かったのだろう。

 

だが、【始祖】も【進撃】も、この三年間探したところで見つからなかったのなら、もう、ここに書き記すことも止めにしなければ。

 

エレンがいない今、我々も何もしていない訳ではなかった。現代の兵器に対抗すべく、地雷を島の領土に埋め、銃の技術を進歩させ、徴兵し、世界からの侵攻に備えるべく呼び掛けていた。

 

改良した兵器が一つ。

『対兵器雷槍』。重いため携行できる数は両腕に一本ずつだが、推進力、射程を高めており、その勢いは飛行船をも打ち落とし、戦車を装甲の上から吹き飛ばす。

従来の雷槍は、鎧の巨人の固い外皮の隙間に差し込み、信管を引き抜いた爆破でダメージを与えていたが、これは信管を無くし、氷爆石の推進力で雷槍を飛行させ、物体に衝突させて起爆する。

雷槍は、壁の中に格納されている。

壁の内面を削って雷槍を埋め込んでいる。壁の外の兵器が苦手とする、上空からの側面への攻撃を対策した補給場所だ。狙うには飛行船の体を我々の前に晒すことになる。マリア、ローゼ、シーナ、三つの壁の全方位に配備されたそれらも、敵の戦力を削り続けた。

 

しかしそれでも敵の歩みは止まらなかった。

 

私達が100年そこらも知らなかった人類の歴史と怒りを、向こうは1000年単位で抱えていたなんて、つゆほども何も知らなかった。

もはや巨人の力でも、この戦況は覆らない。我々には、選択肢は残されていない。

 

戦うしか。

 

 

「ねえ、みんな君を待ってる。準備は出来た?」

 

第15代調査兵団団長が、私の部屋の扉を叩き、入る。

アルミン・アルレルト。調査兵団の中で残った104期は、この戦争の中繰り上がり式に兵士長となった私と、彼だけだった。

 

リヴァイ兵士長とハンジ団長がどうなったかは、書きたくない。死んだか、それとも…。ともかく、分隊長という肩書きそのものが、兵士長の行方不明と、アルミンと私の繰り上がり昇進と同時に組織系統から消えたことより、察してほしい。

 

「やあ、アルミン。捜索の進捗はどうだった?」

「…もう、そんなことしてるわけないだろ」

「ああ。そうだね。敵の飛行船は到着したか?」

「いいや、偵察用の気球に確認させた所、戦車と無垢の巨人の群れが大半だった。きっと、僕達の雷槍が奴らへの対処で尽きるのを待ってるんだろうね」

 

アルミンは虚ろな眼差しで答えた。

アルミンはエレン達の捜索を戦争が始まる、そのギリギリまで打ち切らなかった。もはや戦力としても、戦術家としても要となった彼に休みなどある筈もなく、巨人化できる人間が、どれだけ睡眠を取らずに活動できるのか実験でもされているかのように、彼が最後に寝息を立てていた日を、私は覚えていなかった。ドス黒い隈でもあれば分かりやすかったのだろうが、その顔はどこか幼さを残したあのときのままだ。アルミンはこれまでに何度も巨人化でこの島にクレーターを作っている。その度にジャンが、サシャが、コニーが彼を逃がすべく、一人、また一人と、敵兵の鉛弾で命を散らしていった。いくらでも治る身体では、心をいくら磨り減らしても、それが表層に現れることは無いのだ。

 

「僕達は、何を間違えたんだろう」

「さあ、いつだって間違っていたかどうかを、予見できた人なんて居なかったよ。……たとえ、エルヴィン団長でも」

 

一度エレンの手に渡し、そして戻ってきたこの日誌。まさか、再び最期の言葉を記すために開くことになるとは。

 

かつて、私の生還を歓喜した彼らも、もうどこにもいない。

 

今回ばかりは、託す者もいない。いたところで、この島から逃れられる者は絶対にいない。

 

唯一可能性があるとするなら、アニだろうか。

アニは、この島から同胞が消え去ったのを知らないまま、故郷に帰るのだろう。

 

「未練はないのか?」

「え?なんのこと?」

「ばればれだな。ベルトルトと同じだ」

 

私達から、笑みは浮かばない。

 

「僕達は、悪魔なんだろうか」

「私はそうは思わない。そう、思いたくないだけでもね。エルヴィン団長も、リヴァイ兵士長も、こんな気持ちだったんだろうか。自分が悪魔だって、そう思っていたのか?そんな訳ないだろう」

 

二人はアニの眠る水晶の前にたどり着く。

自分の行動が、世界の命運を左右すること。

嘗ての敵で、今でも敵であろう彼らも同じなのだ。そうと気付くには、なにもかも遅すぎた。

 

「さよなら、アニ」

 

アルミンはきっと聞こえていないであろう最後の言葉を投げ掛けて、私は無言でアニの足元に日誌を置き、地下から出ていった。

もう消されない松明の火に、巨大な水晶は照らされ輝き続けていた。

 

【エピローグ】

 

ウォール・シーナ外壁の、その頂上。かつてエレン達三人が、『彼』らの故郷を取り戻すと誓ったその場所で、二人は迫り来る大群を睨み、『彼』ら調査兵団は飛び立った。

私に向かって真っ直ぐに砲丸が飛んでくるが、敵の向こう見ず故かウォール・シーナの外壁に着弾した。

私達は死ぬのだろう。だが、これまでの兵士達が切り開いた道が、落ちる外ない断崖に続いていようと、たとえ後に続く者が誰もいなくても、私達は、最後まで戦い続けた。

 

 

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