進撃の巨人2 名も無き英雄、最後の兵士の歩み   作:なげすて

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ハンジ視点で描かれる物語。進撃の巨人2で名もなき英雄エンドを迎えたのち、もし進撃の人物達があんな時やこんな時に、『彼』のことを思い出していたら、というコンセプトのお話。


おまけの物語② 閑話: もう一つの壁

一体、何体の超大型巨人を倒しただろうか。時間稼ぎを買って出て、その巨体にまた、この目を輝かせられる時がくるなんて思わなかった。

 

 

第一憲兵が放った、順番という言葉。

私は今でもその言葉に、怒りを抱く。彼の諦観は、任を降りたことで現状から逃避する口実を得た者の言葉など、私は馬鹿げていると思った。

 

 

そして、決してこれは自殺志願なんかじゃない。

私はこの期に及んで、また理解しようとしたのだ。長らく忘れていた、巨人にワクワクする感覚。団長になってから、もう長らく忘れていた、この高揚感を。時には、報道のために嘘を吐いて、兵団の重要な決定権に、それ以外の渉外までやらされて。

 

とうに、自分のやりたかったことなど、色褪せてしまっていた。

 

不思議だった。もう巨人の正体なんて、世界が先んじて行っていた研究によって、とうにバラされていたのに。私は、まだ理解することを諦めていなかったんだ。

 

……いつか、わかり合えると思っていた。エレンには申し訳ないことをした。君が4年前に上官への反逆で牢屋に入っていた頃も、思い詰めていた顔をしていた。

その時は上手くいったんだがね。巨人についてのことだから、またうまく行くと思ったんだが。

たった一年。彼がレベリオで何を見てきたのか。私には理解できなかった。

彼のことも、分かってあげたかった。それ程の怒りを抱えていたことなんて、露も知らなかった。

 

 

……ところで、なぜ私はまだものを考えることが出来ているのだろう。

 

この体に火が着いて、随分経つと思うのだが。

 

ん?瞼を越して、光が感じられるぞ。なぜ感じ取れる?見えているのか?……これは、空か。青空。あの時とは少し時間がずれているようだが。待て。それなら、彼らは──

 

「飛行艇は!?」

「飛び立ったよ。」

「え?」

「ハンジ。お前は役目を果たした。」

 

エルヴィン。それに、ミケ、ナナバ、モブリット……。サシャ。ダズ。ディータ。彼の愛馬のシャレット。シス。

 

 

キース・シャーディス。

 

 

ああ。もう、分かったよ。十分すぎるくらいに。

よっこらしょと。

 

「全く。団長に指名されて大変だったよ。エレンのバカがさあ……。」

「ああ。ゆっくり聞くよ。」

モブリット。随分世話かけちゃってごめんね。

「彼は、結局変わらなかったよ。前に進み続けようとする、エレンのままだったんだと思う。回りくどく蛇行し続けた私と違ってね。」

「まったくその通りだ。あの小僧、もう嗅げぬが、とうに俺たちを追い越したんだろうな。」

「……エルヴィン。私は、立派に団長をやれたのだろうか。」

「……。」

「私には、君のように先を見通す力も、迷わないよう鼓舞する力も、絶望的な状況を、何かを犠牲にすることで勝ち残れるよう賭ける力もなかった。……これで、団長として生きられたと言えるのだろうか。」

「……それについて答えるのは、きっと私ではないだろう。」

「分隊長。」

「モブリット。」

「ハンジさん。」

「モブリット。」

「あなたは、立派だったと思いますよ。私が命を懸けて、あなたを庇ったことに後悔はありません。」

「………。」

「それに、分かってるでしょう。誰も、同じ人にはなれない。シャーディス団長にも、エルヴィン団長にも。我々には、我々にしかできないことがある。ここに来る前に、答えは出てた筈です。」

「そう。……そうか…。」

君に言われると、すんなり納得してしまうな。

「本当に、お疲れ様でした。分隊長」

「君もだよ、モブリット。散々私のわがままに付き合ってもらってね。」

納得の果てに、一つ重要な思い出が、不意に沸き起こる。

「エレンは道の世界で一度、私と話している。牢屋で胸ぐらを捕まれたときに、一度ね。あの場所で、地ならしは止められないと、彼は言っていた。無数に分かたれた運命の中で、なぜかこれがもっとも理にかなっていることしか、彼には分からないらしい。」

ようやく思い出した。それまで堰止められていたように、それまでの記憶が甦る。

「ふむ。分からないらしい、か。それもまた不思議だな。」

 

「そういえば、『彼』はどこにいるんだい?そろそろ、そのフードを脱いで、久しぶりに顔を見せてもいいと思うのだけれど。」

「『彼』は、ここにはいない。」

「え?」

どういうことだ。いないなんて。そんな訳無いだろう。

「いないって……。どういうことだよ、エルヴィン。ここは、"そういう"場所じゃないのか?行方不明だったミケも、今ここにいるわけだし。」

「確かに、ここはそういう意味を持つ場所でもある。だが、俺達が見た限りでは、『彼』はここにはいない、ということだ。」

「訳が分からないよ。あの時、ウォール・シーナの外縁を散々探した。だが、どこにもいなかった。てっきり逃げきれたと思ったのに、ローゼにも目撃情報は無かった。それならと、諦めたのに……。ねえエルヴィン!教えてくれ!私達を見ていたのなら、分かる筈だろう!!『彼』がどこにいるのかを!!もう一度会わせてくれ!」

「……残念だが、『彼』はどこにもいない。」

「え?」

「驚くべきことだが、どうやら『彼』は、ここにも、この世界にもいないらしい。」

「壁外のことも、すべて分かるのか?」

「なんとなくだがな。」

「もしかして、ここも道の世界ってやつなのかな?だとしても、景色が全然違う気もするのだけど。」

「ユミルの民は道の世界で繋がっていると、あちらではそう言っていたな。おおむね正しいと、私は思う。」

「ああ、筒抜けなんだ。じゃあ、やっぱり『彼』がここにいないのはおかしい。もしかして、あの壁の中でも殊更珍しい純血の他人種だったとか?」

「その線もまた無い。俺達には、少なくとも『彼』が見えていた時期がある。」

「え?」

「正確には、『彼』がいた時間。『彼』が兵士として名を挙げた時間。『彼』がなにもせず、静かに一生を終えた時間。無作為だがいくつもの『彼』の時間を観察することが出来た。様々な見てくれの『彼』を。『彼』に限らず、あらゆるユミルの民達の時間も、多種多様なパターンがあった。俺達も含めて。」

「エレンと同じような状態ってわけか。それで、『彼』が消えた、というパターンは?」

「ああ。今回が初めてだ。流れる時間そのものは、たった一度きりだがな。」

「一体、どこに行ってしまったんだろうね。」

「さあ。ここも随分と、俺達の知らないものを知る欲求を満たしてはくれるが。……多分、俺達がまだ知らない『壁』の向こう側があるのだろう。きっと、『彼』はそれを超えたのだ。」

「……そうかい。ここに来て、まさかまだ壁があるなんてね。ここも万能ではないんだね。」

「その壁は、俺達に超えるには、難しいらしい。なにせ、出入口が無いのだからな。」

エルヴィンは空を見上げる。本物なのかは分からないが、あの青空は、目を細めること無く見つめられる。暖かくもあり、涼しくもあり、心地よい。まだ大きな謎が幾つも残されているのに、それに焦ることもない。この場所は、どこまでも私達の心を安心させる。

「……今頃『彼』は、知らない場所で一人ぼっちなのかもしれないね。」

「たどり着けないがな。単なる慰めだが、俺達は覚えていよう。『彼』のことを。いいや、『彼ら』のことを。」

「そうだね。きっと、またどこかで会えると信じよう。『彼』も、そうだといいね。」

未知のものへ迷わず土足で踏み込んで、希望を勝手に抱く。そして、おめでたい理想を信じ続けるのを止めない。

 

それが、我々調査兵団の生き方なのだから。

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