光に飛び込んだ先は異世界でした。
…いや、分かる。コイツ何言ってるんだと思うのは分かるがそれで納得してくれ。俺も理解できないから。
俺が「産まれて」早3年。現状を理解すると共に元の世界に戻れないことを理解するのに約1年。この世界と自分の置かれた状況を理解するのに2年かかった。
「生まれ変わった場所が滅亡寸前とか誰得だよ…」
二次小説などにある転生ものはいわゆる転生トラックや神の手違いによって色々な世界に飛ばされチート能力や知識をもとに俺Tueeeeやハーレムで楽しくワイワイやるのがデフォだろう。まぁ稀に可愛そうなほど大変な世界に落とされたりするが…
その稀なパターンが俺だった。
産まれた世界は滅亡寸前。俺と同じガキなんておらず近い歳で6歳差。昔は何億といた人間も今や1万を下回る。なおかつ太陽はすでになくずっと夜の状態が続いている。最悪なのは…
「望(のぞむ)。晩御飯持ってきたぞ」
そこには小さなパンと具がほとんどない薄味のスープ。
もはや凶作なんて目じゃないほど悲惨な食生活。しかもこれが最上級のご飯とかマジびっくりだよ!
俺が産まれたときには既に世界が滅びることを皆は受け入れていたらしい。普通なら数少ない食糧をめぐって戦争が起きそうな気もするが賢者や時の施政者が頑張って抑制・教えを説いたらしい。
そして数年産まれることのなかった俺を希望の子と称し、この世界の全てを俺に託し死ぬ覚悟を決めたのだ。
俺はその事実を知った時驚愕した。だってそうだろう?誰が見知らぬ他人のために命を捨てれる。しかも一人や二人じゃない。全人類一人残らず…だ。
彼らは口ぐちにこう言った。君に全てを背負わせて済まない。ましてや君は異次元世界の人間だ。不甲斐ない我らを呪っても構わない。恨んでも構わない。だからどうか我らのことを覚えていてほしい。こんな世界があったのだと誰かに伝えてほしい。君が不自由な生活をしないように我らは全力を尽くす。頼む。どうか我らを救ってほしい!
当時2歳にも満たない俺に土下座せんばかりに頭を下げる大人たち。その中には人々の混乱を鎮めた施政者や賢者。そして俺の両親もいた。
ここまでされては俺は覚悟を決めるしかなかった。混乱はあった。恐怖もある。だが、それでも大人たちに、両親に助けられた恩があるのだ。頷く以外に俺は恩に報いる方法が無かった…
そうしてかれこれ早5年。この世界にある全ての学術・魔術・歴史その他の勉強を終えた。どうやら賢者たちは俺にさまざまな祝福を与えてくれたようで、勉強が好きでなかった俺でもすぐに理解・吸収できる。祝福様様だ。
…まぁこの祝福を与えるのに賢者一人の命が失われたらしいが。聞いた瞬間寒気がしたぜ。
お陰で今の俺は世界最強・世界一頭がいいというチート能力を手に入れたのだ!!
「…なんて夜一人で寝れないガキが持っていい能力じゃないな」
「しょうがないさ。私だって今も一人で寝るのは怖い。寝てる間に世界が終ってしまうのではないか。妻が、お前が、皆が死んでしまうのではないかと夢でうなされることもある」
「そうね。私たちはもう納得しているけれども望はこの世界に来てまだ5歳。怖がるのは子供の専売特許よ?」
就寝前。川の字で親子3人でベッドに横たわる。新しい両親は人間として素晴らしい人で、自分の子供がお父さんお母さんと呼べないガキでも無償の愛を与えてくれる。
「さて望。また聞かせてくれないか?望のいた世界のことを」
「そうだな…こんな話はしたっけ?俺が大学生のころ…」
ここ1~2年は寝物語に両親に俺が元いた世界の話をしている。そして両親は時に笑い、時にかなしみ、時に叱って話を俺が寝付くまで聞いてくれる。何か話していないと不安に押しつぶされそうな俺をいつも笑顔で受け止めてくれる両親。しかし元の世界の親や、俺は異物なのではないかという違和感。そしてそんな子供でも愛してくれる両親に対する罪悪感で未だに名前でしか呼べない。そういった感情が未だうまく処理できずこのときになると決まって泣いてしまう。
そんな俺に両親は決まって「お前は悪くない」「大丈夫。そんな望も愛しているわ」と抱きしめてくれ、その安心感でようやく俺は眠れるのだ…
来る絶望の日。その日に大規模術式により俺を除くすべての生き物の魂を使い俺の魂の強化、次元世界に俺の魂を移動させるという世界総計画が行われる。
そこには10年共に過ごしてきた両親。お世話になった町の人々。勉強を分かりやすく、そして丁寧に教えてくれた賢者たち。皆がそろって済まなそうな笑顔で立っていた。
「これより…術を起動する。起動したら一人ずつ死んでいくだろう。何か喋りたかったら喋るといい」
まず一人。身体がほのかに光り、料理を作らせたら世界一だろうと思うぐらい凄いコックが前に出てくる。
「俺の料理をうまいうまいって食べてくれてうれしかったぜ。俺は死んじまうが俺が考案した料理。次の世界で皆に食べさせてやってくれ」
そう言って…死んでいく。
また一人。俺のアニキとして知識としか知りえなかった場所に連れて行ってくれた。そのアニキがバツの悪そうな顔をして出てくる。
「おう弟よ。こんなバカな俺をアニキって呼んでくれてありがとうよ。次の世界ではいろんな場所を旅しろよ!いっぱいいっぱい楽しいこと見つけろよな!」
そう言って…また死んでいく。
また一人。また一人。俺に恨みごとを吐くでもなく、俺を案じ、俺に幸せになるようにと言いながら死んでいく。
俺はそれを黙って泣きながら聞いていた。
「息子よ。愛すべき息子よ。先行く不幸を許してくれ。そして必ず幸せになってくれ」
「愛しい望。貴方をよそへ行かせるのは悲しいけれど…貴方ならきっと幸せをつかむことが出来るはずよ」
「「…愛してる(ぞ・わ)」」
そうして…俺の両親も死んでしまった。
「俺を産んでくれて…ありがとう。父さん、母さん」
そして最後にこの術式を制御している賢者が俺の前に立つ。
「君を生贄にしてしまって済まない。何度謝っても償いきれない罪であることは百も承知だ。だが頼む。この世界をどうか伝えていってくれ。例え死しても忘れられなければ無駄な死とは言わないからだ。君には様々な強化を施しておいた。もし次の世界が争いに満ちていたとしても容易く死ぬようなことはないようにと。
…そしてわれらの最後の罪を。君は決して見たことや聞いたことを忘れることが無いようになった。済まない…本当に済まない。私がいえたことではないだろうが、どうか君のこれからの人生に幸多からんことを願っているよ…」
その言葉を言い終えた瞬間、賢者の身体は崩れていくように砂となっていく。
この言いようのない悲しみを。耐えがたい絶望を胸に。
俺は他次元の世界へと旅立った………
いきなり訳のわからないシリアスです。
よくある転生ものって世界が滅びるとかってないじゃないですか。けど確率的にそういった滅びの世界があってもおかしくないんじゃないか?と思ってこの作品の雛型が出来ました。
ちなみにこの次の章からはここまでシリアスな話にならないと思います。多分…