廃都ノヒアでの救助を終え、マクルの街に戻ってから数日が経った。
神官であるカヤ姉さんが神殿に詳細を伝えているはずだが、俺も出向の必要ありと連絡が入ったためバリハルト神殿へと向かった。
バリハルト神殿は華美な装飾はない。だが、一歩踏み入れたそこには厳粛な空気が漂う。
俺を出迎えてくれたのは姉さんと、神官長であるラウネー・クミルーヌ様だった。
ラウネー神官長は俺と姉さんの直属の上司にあたり、俺達に任務を与え管理してくれる上位の聖職者だ。
「ラウネー神官長。此度は意向に背く真似をして誠に申し訳ありませんでした!」
「よいのです。詳細はカヤから聞き及んでおります」
「本日出向いてもらったのは他でもない。戦士セリカの功労を認め、新たな命を伝えるためです」
功労を認め?命令無視したにも関わらず功労を認めるというのはおかしいのではないか?
そんな疑問を抱いた俺を無視し、
「その為にも、オレノ大司祭より“戦士セリカを労り、手厚くお迎えせよ”とのお達しが出ています」
オレノ大司祭!?この街のバリハルト神殿の最高責任者である大司祭が自ら?
よけいきな臭いじゃないか…
「参りましょう……大司祭様がお待ちです」
付いてくるように促す二人のほかに、複数の兵が俺達を護衛…いや逃げ出さないように続く。
大司祭の待つ部屋に向かう途中、いつもと空気が違うことに気づく。
厳粛な空気の他にまるで戦場に立っているかのようなピリピリした空気が混じっている。
(これってやっぱり“あの”イベントだよなぁ………)
神殿の奥はバリハルトの神に従事している者でも、正階級の神官以上でなければ立ち入ることが出来ない。
いくら招かれたとはいえ、準階級である俺が踏み入るなど異例すぎる。
「……オレノ大司祭。戦士セリカを連れて参りました」
部屋の奥で高位の司祭と言葉を交わしていた大司祭は、神官長の言葉で振り向いた。
「戦士セリカ。よく無事に戻られました」
「此度の救出は非常に困難を極める中、勇気と同志の厚き信頼によって乗り越えたこと……我が神バリハルトもお喜びのことでしょう」
「もったいないお言葉です」
「そなたは今は亡き父の意思を継ぎ、立派な戦士となるべく歩んできました。
わが友の遺児であるそなたには、心からの感謝の意を伝えたく思います」
「そなたは勇者となるべく日々研鑚し、今ここに新たな大命を授けるに値する戦士となったのです!」
俺は深く頭を下げる。――困惑の表情を見抜かれないように。
確かに父は志半ばで命を落としたことを知っている。そして俺はその意思を継ぎ、多くの人々のために戦うことを誓ったのも事実だ。
……しかし割と命令違反をしたりするような見習いを勇者?やはりこれも運命なのか?
「謹んで大命を授かりたく、お願い申しあげます」
大司祭の頷きに、並ぶ神官長が言葉を掛けた。
「頭を上げなさい、戦士セリカ。大命を授ける前に見てもらうものがあります。……カヤ」
「はい。戦士セリカ、こちらに」
姉さんは俺に視線を合わせてから、さらに神殿の奥へと足を進める。
そこには厳重すぎる封じをされた扉があった。
(ここに神器が……)
「セリカ…気をしっかり持つのよ」
「…姉さん」
扉の前で立ち止まった姉さんは、周囲に聞きとられないように囁いた。
姉さんがこれほどに厳しい表情を見せるときは、本当に油断ならない事態であることの証左であり、それほどにあの神器というものは恐ろしいものであることが伺える。
「わかった…心乱れぬよう気をつけるよ」
そうして扉の封じが外されると、まるで辺りが暗くなったかの錯覚を覚える。
「くっ…これは…酷い」
鈍い明りが満たす部屋、その中央には幾重もの結界が張られ、そこには“何か”が置かれていた。
それを一目見た瞬間鳥肌の立つような悪寒と溢れ出す腐臭に吐き気を覚える。
「……これが、ウツロノウツワよ」
「………」
やはりこれがそうか。実際に見てみるととんでもないものだと分かる。見た瞬間鍛錬をしていない人々ならすぐに発狂してしまうだろう。
「神器らしいけど……とてもそうは見えないわよね……」
“ウツロノウツワ”はそこにあるだけで周りのものすべてを腐らせるかのような邪気を放っている。
……しかし、
「意外と恐ろしくはないな」
前世にある気色悪いオナホだと思えば割とどうとでもなる。触っても何か変な感じがするが慣れれば耐えられないほどでもない。
「セリカ!?……なんてことするのよ!“これ”に直接触るだなんて!」
「これに触っちゃまずかったか?」
「…はぁ。もう戻りましょう。私はこれ以上我慢できないわ……狂ってしまう」
弱々しい声に振り向くと、姉さんは身体を震わせ、目から涙まで零している。
「……早くでようか」
部屋を出た途端、重苦しい空気から解放されたように感じ、肩の力が抜けた。
思った以上に緊張していたらしい。
しかし、神殿の清浄な空気をいくら吸い込んでも、得体のしれない嫌悪感はいつまでも心に残っていた。
「神官長……申し訳ありませんが……少し休ませていただけないでしょうか」
「よく耐えました。私も付いていきますからゆっくりとお休みなさい」
「ありがとうございます……」
「戦士セリカ、貴方は大司祭の元へお戻りなさい」
「はっ!」
姉さんは顔を蒼白に染めながら神官長に支えられ、ふらふらと部屋を退室した。
「無事正気を保ったまま戻りましたね。……試練とはいえ辛かったでしょう」
言葉を返すことが出来ず、頭を下げる。
「言葉で説明するより確実であると考え、対面してもらいました。
…戦士セリカよ。貴方に授ける大命は“ウツロノウツワ”の浄化方法を見つけだすことです」
「……神官ですらまともに触れること叶わず、今は封じるよりほかに手段がありません」
「しかし、あの封じもいつまで持つかは不明で、“ウツロノウツワ”がもし封じを破ればどれほどの災禍をまき散らすか想像もつきません」
「戦士セリカは浄化方法を探し出すと共に、神器に触れても自我を保ち、浄化できる者を見つけ――」
自分の手を見つめる。
あれに触れた瞬間、姉さんに遮られ離してしまったが、確かに触れた感触が残っている。
「そなた……神器に触れたのかねっ!?触れて正気を保っているのか!!」
「……はい。触れたのは一瞬でしたが」
「なんと……」
周囲のものにざわめきが走る。
「ふむ…そうでしたか。そなたは間違いなく戦士の資格を持ち、やがて神格者の高みまでのぼることが可能かもしれません。そなたの父もまた神器浄化の大命を帯びておりましたが、志半ばで倒れました…だからこそ、そなたは父を超え、尊き使命を全うしてもらいたい」
「心を強く持ち、バリハルトに仕えなさい。そなたは我々の希望となるでしょう」
「はいっ!戦士セリカ、ここに大命を拝します!」
「これからは色々な任務をこなしながら、“ウツロノウツワ”の浄化方法を探ることになります。戦いの準備を整えた後に、ラウネー神官長より新たな任務を説明させます」
「……過酷な任務となりますが、あなたならば必ずやり遂げると信じておりますよ」
「過分な御配慮に感謝いたします」
大きく頭を下げ、俺はバリハルト神殿を後にした………
現在の変化:セリカの魂の強化によるウルロノウツワへの耐性極大化・バリハルト神殿の上級神官のセリカの見解・ごく一部の原作知識所有