【完結】学園都市のナンバーズ   作:beatgazer

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XX.ナンバーズ
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 アーミー本部、駐屯地正門前 ―――

 

「ここに至って何怖がってるんですか。もう着きましたよ、鉄装先生」

 アンチスキルの警邏車両の運転席に座る潮騒は、車を停めてシートベルトを外し、助手席にいる同僚へと声をかけた。

 

「で、でも、潮騒先生」

 冷や汗で鼻の頭までずり落ちていた眼鏡を直しながら、鉄装綴里は不安げに言った。

「相手はその辺の不良でも強盗犯でもなく……(アーミー)ですよ?私たちよりもよっぽど、戦闘のプロの人達でしょう?」

 

「そうは言っても、他の駐屯地はどこも武装解除したじゃないですか」

 潮騒は困ったようにこめかみの辺りを掻いた。

「こちらが未然にあの大佐の企みを察知したお陰で、あちらの指揮系統はのっけからズタズタ。どこの基地も狐につままれたような状態だったって話です。この本部だって、大多数の兵士は素直に外へ出て来ていて、武装蜂起しているのは大佐以下直属の僅かな人数らしいですし、それも()()()が制圧しかけてるんですから。我々はあくまでも周辺の警備です。平気ですって」

 

 潮騒は何とか安心させようとする。しかし鉄装は、大丈夫かなぁ、などとしきりに零しながら、薄桃色のハンカチで汗を拭いている。

 教職に採用されたての鉄装の横顔には、まだあどけなさが残る。それでいて警備員(アンチスキル)に志願してくるのだから、度胸はそれなりにあるのだろうが、今回の任務には相当に不安が募っているようだ。

 潮騒と鉄装を含め、周辺から招集されたアンチスキルに与えられた任務は、群がる野次馬やマスコミを中に入れないこと。文字通り「警備員」なのだから、そう緊張することもないのだが、と潮騒は思った。

 

「……わ、私、荷物取ってきます」

 鉄装がドアを開け、車両後方へと小走りに向かう。

 

 ―――黄泉川先生がいてくれたらな。

 潮騒は独り言ちて、待機を命じられている先輩隊員のことを思い出した。面倒見のいい彼女のことだ。きっとこのような状況で、バディを組む後輩の不安を解すのは、お手の物なんだろう。

 

「あの!潮騒先生!」

 思ったよりも早く鉄装が戻って来たことで、潮騒の思考は急に現実に引き戻された。

 

「えと、その、恥ずかしながら、予備の装備一式が無くて……」

 

「ええ?」

 怪訝な声を上げた潮騒は、鉄装と一緒に車のバックドアを開けて確認する。

「おっかしいなあ、俺のはあるのに……」

 

「はっハイ!」

 鉄装が申し訳なさそうに頭を下げる。

「ごめんなさい、こんな大事な時に、忘れてしまって……」

 

「いや、一緒に点検したじゃないですか。俺だってちゃんと見ましたよ」

 おっかしいなあ、と繰り返し、潮騒は首を捻った。

 鉄装の装備の予備一式が、防刃シャツ、ズボンから脛あて、ヘルメットに至るまで、車内に掛けてあった一式がごっそり無くなっている。

 

「……まあ、今回はまさか予備が必要なことなんてないでしょうし」

 やはり出発時に、鉄装と自分の双方が見落としてしまったのだ、と潮騒は無理やり納得した。

 周りを見渡すと、既に多くの仲間が、警備につき任務を始めている。

 

「急ぎましょう、支部に戻ったら一緒に探せばいいんですから」

 スミマセン、ありがとうございます、と鉄装が頭を下げた。

 

 

 

 車に鍵をかけ小走りで移動していく潮騒と鉄装からやや離れた場所に、同じアンチスキルの装備を身に付けた別の人物がいた。

 

「……すまないね。借りるよ」

 自分にしか聞こえない声で、木山春生はアーミー本部の聳え立つビルを見つめる。

 およそ2週間ぶりに、ここへ戻って来た。ナンバーズに改めて会うために。

 

「……オイ、あんた」

 歩き始めようとしたところで、木山に低い声がかけられた。

 振り返ると、腕章からして階級がある程度上の者らしい、男のアンチスキルだった。厳めしい目つきで木山を見ている。

 

「……何か?」

 

「何かじゃないだろう」

 男の隊員が、自分の胸の辺りを手で示す。

「ベスト見ろよ。背中につけてどうすんだ」

 

 ああ、と木山は納得し、3つの横縞(ストライプ)と三叉槍があしらわれた防弾ベストの位置を直す。

「すみません、急いでいて」

 

「まあ、急な招集だったしな、お互い頑張ろうぜ」

 

 予想外な労いの言葉に、木山は内心ほっとし、礼を述べると、その場を去る。

 

 同じく持ち場へ向かおうとした隊員は、ふと思い立って足を止め、振り返った。

 アンチスキルの中では年長である彼にとって、見覚えの無い顔だったからだ。

 しかし、先ほど話した相手の姿は、既に大勢のアンチスキルの人波の中へと消えてしまったようだった。

 

 

 


 

 

 

 ―――アーミー本部、S館15階、ベビールーム

 

「フレンダッ!!滝壺を頼みます!!」

 絹旗は叫ぶや否や、脱兎の如く駆け出した。

 何事か背後でフレンダが喚いていたが、絹旗にそれを気にしている余裕はない。

 

 吹き飛ばされた麦野を見て高笑いしている島鉄雄(41号)が、絹旗の接近に気付いて顔を歪ませる。

 

「発情してンのかよ?雌犬が次々と……」

 暢気に軽口を叩く余裕を見せている鉄雄に向かって、絹旗は内股に忍ばせた銃を素早く取り出す。

 鉄雄の顔が驚きに染まり、ほぼ反射的に顔を覆った。

 

 銃声が響く。

 鉄雄は念動能力(テレキネシス)を展開して銃弾を弾いた。

 

「やはり」

 絹旗が、小さな体躯に似合わない速度であっという間に鉄雄との距離を詰める。

 顔にかざした両腕の間から、鉄雄の目が見開かれるのが見えた。

 絹旗は、がら空きの鉄雄の腹を思い切り蹴り上げた。

 

「超鈍いですね、お前」

 絹旗が言い放った。

 鉄雄は血反吐を吐きながら、体3つ分の高さ程も宙に浮き、そして強かに体を床に転がせた。

 

「やった絹旗ァ!」

 滝壺を介抱するフレンダが歓喜の声を上げた。

 

「大方、そのテレキネシスにかまけて強くなったつもりでしょう?けど、()()()()()()に銃を向けられただけでビビってるんなら、戦いに関しては超どしろーとですよ」

 

 絹旗が辛辣に言った。鉄雄は、体を丸めて身悶えしている。

 絹旗は一瞬だけちらりと壁に叩きつけられた麦野を見た。四肢をだらんと床に投げ出して動かないが、壁を砕くほどの勢いで飛ばされたにしては傷ついていないように見える。何者かに操られながらも、咄嗟に電子線による緩衝壁を展開したのだろうか。

 敵地の真っ只中、そして滝壺が危ないという状況を鑑みて、麦野が戦闘不能になるのはまずい。目の前の41番目の実験体(ナンバーズ)は、能力こそ底知れないものの、戦闘に関しては明らかに不慣れだ。この隙に一気に勝負をつけなければならないと、絹旗は考えた。

 

「て、てめェ」

 咳込んで血を飛ばしながら、鉄雄が掠れた声で言い、絹旗を睨みつけた。

「なんだ今の蹴り……ただのガキじゃねえな」

 

「……外見で判断しないでもらえます?」

 絹旗は片足を半歩分下げた。

「超、不愉快です」

 足元の空気が急激に渦を巻く。絹旗はロケットのように飛び出した。

 

「く、来ンじゃねェ」

 鉄雄が捨て鉢に腕を振るうと、先ほどまでの戦闘で生じた瓦礫の大小が絹旗目がけて飛んで行く。

 向かってきた瓦礫は、絹旗の体の表面に纏われる不可視の壁によって砕け、弾かれていく。

 鉄雄が息を呑んだ時には、絹旗は既に体を翻し、足を高々と上げていた。

 

「超無駄です」

 鉄雄の首筋めがけ、絹旗は勢いをつけて踵を振り下げた。

 鉄雄の上半身が掘削のような音を立てて床にヒビを入れる程に頭から叩きつけられ、一方で下半身は反動でエビのように跳ね上がった。

 

 絹旗は能力を行使して相手の首を折った。

 これで生きている人間はいない。

 

 背後から、拍手が聞こえた。

「フレンダ、任務終了です」

 絹旗は振り返って言った。

「麦野を回収しましょう」

 

「む、麦野ぉ……死んでない?」

 

「そう簡単に死ぬ訳、ありませんよ。あの()麦野ですし」

 涙目で立ち上がったフレンダに向かって絹旗が言った。

 

 その時、ミシリと音がした。

 

 違和感を覚えた絹旗は足元を見やる。

 絹旗の足元の床には新たなヒビが入っていた。それが、静かに、蜘蛛の巣を形成して拡がっていく。

 

「ッ!」

 細かな衝撃を感じた。

 見ると、腕や脇腹、首筋など、至る所に石礫が飛んできて、絹旗の能力によって皮膚上4,5センチメートルの位置で震えながら静止している。

 それらはひび割れ、更に細かな礫となって絹旗の体にまとわりつく。

 

 何かがおかしい。

 そう察した時には、絹旗は体の異様な重さを感じ、既に床に膝をついていた。

 そうしている内に、そこら中から瓦礫が飛んでくる。中には絹旗の体の大きさに迫る物もある。

 

「か、体が……」

 重い。

 絹旗は正座のような体勢になるが、腹に重石のような瓦礫が押し込められてきた。

 辛うじて顔を少しだけ上げ、鉄雄の方を捉える。

 顔は見えないが、半分は血に染まった腕がこちらへ向けられているのが分かった。

 

「つ、つふれろ、ひね、ひねェ」

 どこか空気の抜けたような声が聞こえた。

 

「嘘でしょ、生きてる……?」

 自分の足元へと、岩を抱えながら吸い込まれていく感覚だった。

 絹旗は最早顔を動かすこともできず、目の前の視界は無数の石礫で覆われた。

 いくら装甲があるとはいえ、このままでは体が押し潰される。

 

 銃声が聞こえた。

 フレンダの仕業だろうか。

 助けて。

 五臓六腑に突き刺さる痛みを伴った猛烈な息苦しさの中で、絹旗は自分が命を失う事を懸念しているのだと気付いた。

 過去に「実験」を受けてから、他者への思いやりは案外残されていても、自分自身の生存を願う感情は抑制されていた。それでも、今湧き上がるこの気持ちは、死への恐怖なのかもしれなかった。

 

 その危機は、突然去った。

 絹旗を抑えつけていた圧力は突然霧散し、自分の身の周囲に、瓦礫の山が出来た。

 ごつごつとしたお世辞にも寝心地がいいとは言えないその山に、脱力して身を預けながら、絹旗は辛うじて薄目を開けた。

 

 眩い、青白い光に包まれて、怒りの形相をした人物が立っている。

 

「てンめえええ!!!」

 麦野が声を張り上げ、叫んだ。顔中、煤と血に塗れている。

「保育園児が!超能力者(レベル5)に勝とうだなんてなァ!!千年早えんだよこのクソガキがァ!」

 麦野は部屋の反対側へと顔を向けて叫んでいた。

 途中に設置されていた図体の大きいコンピュータをなぎ倒し、荒々しい軌跡を残して、今度は島鉄雄が壁まで吹き飛んでいた。

 

 その途中には、肩口から千切れた右腕が、どうにか原型を留めて転がっていた。

 

「滝壺ォッ!!」

 麦野は怒りを収めず、仲間の名を怒鳴り声で呼ぶ。

 壁にもたれるようにしてへたりこんでいた滝壺が、息をつきながらへと顔を上げる。

 麦野は肩を怒らせて大股で歩み寄ると、その両肩を掴んだ。

 

()()しろッ!」

 麦野が滝壺へと凄まじい剣幕で命令した。

「誰かが、この私の脳ミソをハックしやがったッ!!消し炭にしてやらねえと気が済まねえんだよ!!」

 

「む、麦野っ。気持ちは分かるけど、無茶だよっ」

 フレンダが慌てて駆け寄っていった。

 絹旗も、ふらつきながら立ち上がる。

 能力による防御が働いたとはいえ、鉄雄の攻撃は凄まじい圧力だった。肋が折れてなければいいが、と絹旗は咳込みながら考えた。

 

「滝壺も、何か干渉受けてたっぽいんだよ、今から更に能力を発動させたら、どうなるか―――」

 

「大丈夫」

 滝壺が汗をぬぐい、麦野を見上げた。

「私なら、大丈夫。麦野を危ない目に合わせた相手がいる。ほっとく訳にはいかない、でしょ?」

 フレンダと絹旗が心配そうに見守る中、滝壺の返答を聞いた麦野は、口角をニヤリと上げて、懐からシャープペンシルのケースのような物を取り出し、滝壺の手に押し付けた。その透明なケースの中に収められた白い粉末のひとつまみが、滝壺の手のひらへと音を立てずに零れた。

 

 

 するとそこへ、複数人のバタバタという足音が聞こえ、絹旗とフレンダは振り返る。

「あっ、お前!」

 フレンダが驚きの声を上げる。

「結局、生きてたって訳ね。悪運が強いこと」

 

「フレンダ!」

 金田もまた裏返ったような声で呼び返した。

「おま、どうしてこんなとこに?」

 

「何?知り合い?」

 ケイが聞くと、金田はフレンダを指差した。

 

「俺を収容室から出してくれたんだよ、この子が!」

 

「この子って」

 ケイがフレンダを見て目を丸くした。

「ここはアーミーの基地だよ?学生街じゃないのに、その格好は……」

 

「見た目に騙されちゃあダメさね」

 チヨコが機関銃を握り直して言った。警戒心を孕んだ声だった。

「あんたら……『アイテム』だね?今回の計画には、暗部組織が噛んでるって話だったが……聞いたことあるよ。年端もいかない少女だけで構成された、学園都市の不穏分子の抹殺に当たる少数精鋭の能力者チームがいるってね」

 

「そういうアンタらは結局、死に損ないのゲリラの端くれって訳ね!自分らが罠に嵌められたって、気付くの遅くなーい?」

 フレンダが高く笑い声を上げて言った。

「そう!我らこそ、うら若き美少女戦士、アイテムって訳よ!……麦野はちょっと歳いってるかな?あ、因みに私は唯一の無能力者!凄いでしょ?それにしてもアンタたち、ここからどうするつもり?もうこの街に、アンタたちの居場所なんてないってのに」

 

 フレンダの言葉を聞いたケイが一歩前へ進み出る。

「待って!それどういう意味―――」

 

フ・レ・ン・ダァ!?

 金田もケイもフレンダも、ヒッ、と息を呑んで背中を震わせた。

 麦野がゆらりと髪を振り乱し、青筋を浮かべて振り返った。

「私の何がいってるって?」

 

「お、オイ!てめーらが何のチームか知らねえけどさ!」

 口をパクパクさせているフレンダを尻目に、金田が叫んだ。

「島鉄雄ってヤツを探してンだ!知らねえかよ?」

 

 鉄雄の名前を聞いた途端に、麦野がひとしきり高笑いしたかと思うと舌打ちし、光弾を放つ。

 金田が咄嗟に身を屈めると、その光はすぐ頭上を掠め、背後の壁に衝突して焼け焦げを作る。

 

「壁のシミになったガキが何だって?」

 麦野の声は冷え冷えとし、それでいて怒りに溢れていることが分かるものだった。

 

「……オイ、まさか」

 

「残念ですが」

 金田が頭を抱えながら恐る恐る立ち上がると、絹旗が口を開いた。

「あなたのお友達は、既に麦野の手で消されました。落とし物なら、あそこにありますが」

 絹旗が指さした先に、血塗れの片腕が転がっているのを見て、金田は放心したようにあんぐりと口を開けた。

 

「ドブネズミ共は黙ってろ。今、私は猛烈に虫の居所が悪ィーんだ」

 麦野は吐き捨てるように言うと、滝壺の方を見た。

 

 いつの間にか、滝壺は荒かった息が整い、汗も引いていた。

「うん。大丈夫」

 明るいブラウンの瞳がらんらんと光り、声には力が戻っていたが、どこか機械的だった。

まだ感じる。ターゲットのAIM拡散力場は記録した

 滝壺が指差した先には、別の部屋へと続く入り口があった。麦野がそれを見て目を細める。

 

「何番目だか知らねえが……全員地獄行き、か・く・て・い・ね」 

 

 その時、また別の集団の足音が聞こえ、ケイは振り返った。

「マズいね」

 チヨコが言い、ジャキッという音を立てて銃の安全装置を外した。

 

 あの大男の大佐と彼が率いる残党たちだ。

 前方には能力者集団のアイテム、後方にはアーミー。

 どうする。どうすればいい。

 ケイは必死に思考を巡らせた。

 

「おばさん」

 ケイの横で、金田が小さな声でチヨコに話しかけていた。

「頼みがある」

 チヨコは金田の言葉を聞いて、驚きの表情を浮かべた。

 

 


 

 

 

 その頃、ベビールームのすぐ外では、敷島大佐たちが、床に転がっている多くの死体に足を止めていた。

 部下が死体の身元を確認する。

「ベビールーム担当の衛兵と……所属不明の兵力です。銃で撃たれていますが、出血の少ない、妙な死体もあります。相討ちでしょうか?さっきの女子供の仕業とは思えません」

 

「……ドクター」

 天井を仰ぎ、泡を吹いて事切れている大西を見下ろして、大佐が呟いた。

 憐みとも、憤りともとれる声色だった。

 

「私が、パスワードをつい今朝変えたんだ。何だか嫌な予感がしたからな。押し入るのに、手間取ったんだろう、彼らは」

 口のタバコを噛み締めながら、鷲鼻の研究者が呟いた。

 

 それに対して無言を貫き、大佐はベビールームの入り口を見つめた。

 大きな爆発があったかのように、扉は吹き飛んでいる。抉られた壁の断面には、高熱で晒されたことを示す飴細工のような変形の痕が見て取れた。

 

「41号か、別の者の仕業か……」

 大佐は拳を握り締めた。

「死体は放っておけ。3人を……ナンバーズを、何としても保護するのだ!」

 

 

 


 

 

 

 ベビールームは、公園を模した広大な空間と、寝室として使われる小部屋がある。

 照明が落とされ、暗く静まったその小部屋の一つで、3人の実験体(ナンバーズ)が、閉じていた目をほぼ同時に開けた。

 

「気付かれたみたいだよ」

 27号(マサル)が、球体の移動カプセルの中から言った。

「どうする?鉄雄君は倒れたけど、あの女の人、ものすごく僕らに怒ってるよ」

 

「……戦う?」

 正座している26号(タカシ)が、膝に置いた手を震わせて言った。

「あの人、怖い。とっても強そうだもの。どうしよう」

 

「あの人、元々鉄雄君を殺すつもりで来たのに、怒りっぽいんだね。なんだか八つ当たりじゃないかな」

 マサルは愚痴るように言うと、近くに置かれたベッドのへと顔を向けた。

「どう思う?キヨコ」

 

「私たちは、ここで消えることはない」

 ベッドに横たわる25号(キヨコ)が口を動かした。

「それに……鉄雄君はまだ、生きているわ」

 

「だとすると、尚更うまく立ち回らなければならないね。ぼくたちの力を合わせるんだ」

 マサルの言葉に、タカシが頷き、キヨコは視線で応じた。

 

 マサルとタカシが、青白い光の差し込む部屋の入り口を見る。

 

 ブーツの足音が聞こえる。

 

 

 

 




投稿当初には、ここまで話数を重ねるとは予想していませんでした。

あと十数話で完結予定です。

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