【完結】学園都市のナンバーズ   作:beatgazer

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「とにかく!私は行くったら行く!止めないでください!」

 御坂美琴は、オフィスの出入口まで大股で辿り着くなり、振り返り大声で言った。

「どういう絡繰りか知らないけど、木山春生が強力な能力者だってなら、尚更カオリさんが危ないじゃない!警備員(アンチスキル)じゃ歯が立たないなら、私が相手になる!」

 

「待ってください、お姉様!」

 白井黒子が駆け寄ろうとするが、立ち上がって数歩走った所で不意にバランスを崩し、膝をついた。

 見かねた固法美偉が白井黒子を支える。

 

「あなたは、昨日意識を失うほどの攻撃を受けたばかりなんだから―――無理は禁物!」

 しかし、と黒子は恨めし気な目で固法を、そして美琴を見上げる。

 

「大丈夫」

 美琴が自分の胸をトントンと軽く叩くと、静かに、だがはっきりとした声で言った。

「私が、木山春生を止めて、カオリさんを救う―――そして、このくそったれな騒ぎを終わりにしてみせる。こんな時こそ、『お姉様』を頼りなさい」

 美琴の目は、まっすぐに黒子を見つめている。

「もしも力になってくれるっていうなら―――そうね、ここで私からの連絡を受けられるようにしておいてよ。何か大事なことがあれば、すぐに伝えられるようにしたいから」

 そう言うと、美琴は扉の向こうへと早足で去っていく。

 

「待って!」

 後を追って初春飾利が飛び出す。

「私も行きます!」

 

「初春さん」

 廊下で美琴が立ち止まり、振り返って目を丸くする。

「相手は得体の知れない能力を使うんだから、危険―――」

 

「今は5級警報下です。風紀委員(ジャッジメント)の私が同行しなければ、足止めを食らうに決まってます」

 初春が、胸の前で拳をきゅっと握った。

「佐天さんを、カオリさんを……眠ってる人たちを、助けたいんです!」

 初春の頬に紅が差す。

「そりゃ超能力者(レベル5)の足元にも及ばないでしょうが―――島鉄雄や木山春生との戦いになったら、きっと御坂さんが頼りです。ならば、白井さんとの連絡は私が引き受けます。私にだって、きっと何かができるはず!お願いです、一緒に行かせてください!」

 

 

 

「……とは言うものの」

 ジャッジメント支部が入居するビルを後に、街頭へ足を踏み出した美琴は立ち止まった。

「この状況下でどうやって一〇学区まで行こうか……」

 

 休日の午前、普段であれば行き交う車の量も多く、学生の足として重宝されるタクシーを探すのにも手間は取らないはずだ。

 しかし、今の学生街は閑散としていて、人影はまばらだ。辛うじて認められる人々は、どこか周りの目を気にしながら、視線を地面に落とし、早足で歩き去っていく。空の向こうのあちこちから、アンチスキルかセキュリティボールが発しているものかは分からないが、サイレンが遠鳴りして聞こえる。

 

「5級警報下ですからね。警報が下がるまで、タクシーはどこの会社も運行を控えているそうです」

 後を付いてきた初春が、携帯電話の画面に指を走らせながら言う。

 

「公共インフラは動いているんだよね?じゃあ、駅まで行くしか―――」

 

「それが、御坂さん」

 初春が苦々し気に顔を上げた。

「この警報発令が強権的だと、各労組が反発しているそうで……ライトレール、モノレール、その他鉄道、バスに至るまで、ストを決行しているところばかりみたいです。まともに動いている公共交通機関はほぼ無いといっていいです」

 

「ハァ?」

 思わず美琴は声を荒げ、振り向いた。

「この、大事な時に!?」

 

「こないだの、七学区を闊歩したデモ隊が取り締まられたのを、根にもってるんでしょうね」

 美琴の剣幕にややたじろいで、初春が言った。

「この警報も、反政権的活動を取り締まるための隠れ蓑だって言ってる連中が―――」

 

 その時、美琴と初春の前に、一台のワゴン車がやってきて、停まった。

 白を基調としたボディの側面に、「警機1231」とプリントされている。アンチスキルだ。

 美琴たちの反対側、助手席側のドアが開かれる音を聞き、ほぼ反射的に初春が美琴の前に進み出た。

 

「あの!」

 助手席から降りて来た人物に対して、初春が腕の腕章を示して声を上げる。

「こちらは、ジャッジメントです!不要不急の外出という訳では―――」

 初春は、途中で言葉を止めた。

 助手席から降りて来た小柄な相手も、同じように片腕の腕章を示したからだ。

 

「承知している。第一七七支部所属の初春飾利殿」

 

「アンタ……!」

 美琴はその相手に見覚えがあった。コンビニエンスストアのATMでトラブルを起こしたとき、自分に事情を尋ねてきたジャッジメントだ。

 

「二度目だな、御坂美琴。レベル5の超電磁砲(レールガン)

 白装束のジャッジメントが、小さな顔を傾げるようにして、美琴の姿を認める。

「風紀委員第三八五支部所属、(サカキ)だ」

まとまりのない髪型をした少女、サカキが、口をぽかんと空けた初春と美琴に向かって名乗った。そして、親指を後ろの車両へと向けて示す。

「一〇学区の原子力研究特区へ向かうのだろう?二人とも乗るといい。我々が追う者も、お前達が追う者も、きっとそこで相見えるだろう」

 

 

 

 半信半疑のまま、初春に続いて車に乗りこんだ美琴は、重ねて驚く。中列の座席に座る少年の顔を、嫌という程知っているからだ。

 

「あ―――アンタ!」

 上条当麻に人差し指を向けながら、美琴が上擦った声を出した。

「なんで、こんなとこにいんの!!」

 

「そりゃこっちの台詞だ」

 驚きを禁じ得ないのは相手も同じようだ。上条当麻は美琴から身を引き、呻くように言った。

「お前も、この電磁波防護服の連中に誘われたのか?」

 

「行き先は同じなんだろう。5級警報に加えてこのスト騒ぎの中じゃ、まともに移動はできない」

 上条を挟んで、美琴から見て反対側に座るのは、サカキの仲間だろう、同じく白装束を身につけた、尖った顎に黒髪の風紀委員の少女だ。仏頂面で、腕組みをして座っている。少なくとも、初春が何も指摘しないことから、腕章は本物なのだろうと美琴は思った。

 仏頂面の少女が上条と美琴の方を見る。睨みつけるような視線だ。

「窮屈だ。もっとそっちに寄れるだろう」

 

「……ハイハイ、分かりましたよ」

 刺さるような視線を向けられた上条が、ため息をつきながら美琴の方へ体を動かす。美琴がいつも見かける学生服姿ではなく、家からすぐ飛び出して来たのだろうか、ジャージの短パンにスポーツブランドのロゴの入ったTシャツというラフな格好だ。上条の太腿がスカート越しに自分の肌に当たった気がした。美琴は唇をきゅっと引き締め、びくっと身を縮こませる。

 

「なんだよビリビリ」

 怪訝そうに上条が美琴を見た。そして、不意に右手を美琴の左肩に乗せる。

 美琴はハッとして、上条へ顔を向けた。

 大真面目な、ツンツン頭の顔が間近にある。その顔が口を開く。

「言っとくが、得体が知れなくたって、相手はジャッジメントだ。ここでもしお前が俺にビリッと食らわせようものなら―――」

 

「ッ、うッさい!」

美琴は首を振って手を払い除け、上条を睨みつけた。訳が分からないが、顔が上気するのを感じる。

「言われなくても、その位分別はついてる!余計なお世話!」

 

「なんだよ、いつもは時間も場所もお構い無しに噛みついてくる癖に」

 

「かっ噛みつくって―――!」

 

「あの!」

 3列目の席から、花飾りをつけた顔が呆れたように覗き込む。

「やめましょうよ、言い合うの」

 

 初春の言葉に、美琴も上条もバツが悪そうな顔をして黙り込んだ。

 助手席から振り返るサカキが、一つ咳払いをした。

 

「同行させておいて悪いが、お喋りに興じている暇はない」

 サカキが運転席のアンチスキルに向かって小声をかけると、その隊員は小さく頷いて車を発進させた。

 

 美琴は窓の外を流れ出した風景に顔を向け、ため息をついた。

 いつもこうだ。上条(コイツ)といると、調子が狂う。

 何をしているんだ。自分は今から、カオリさんを助け出しにいくのだ。

 そして、木山春生や島鉄雄が立ち塞がるなら、打ち破るのみだ。

 美琴は両手で自分の頬を軽く打った。まだ妙な熱を帯びていた。

 

 


 

 

 ―――第一〇学区、原子力研究施設、北側ゲート

 

「……警護は誰もおらんのか」

 車からアスファルトの地面に降り立った敷島大佐は、周囲を見渡して呟いた。

 大佐一行は、アキラが地下に封印されている石棺(サルコファギ)から最も近いゲートの入り口まで辿り着いた。

 アーミーの最重要機密に至る門である以上、普段であれば、24時間態勢でアーミーの専門部署の者が厳重に警備を敷いている。大佐が意図する所ではなかったとは言え、クーデター決起に参加しなかった警備隊は、ここで待ち構えていれば、大佐一行を拘束しにかかってくると見ていた。しかし、そのような人影は全く見当たらない。大佐に同行してきた数少ない部下たちも、緊張を顔に浮かべながら周囲に目を光らせているが、一面灰色に舗装された地面を、風が吹き抜ける音だけが聞こえるばかりだ。

「マサル」

 口元のピンマイクを通して、大佐はナンバーズの一人に話しかける。

「41号の気配は?」

 

『アキラ君の目の前―――じっと、動いていないみたいです』

 マサルの返答が、イヤホン越しに大佐へ聞こえる。

 

「今度は、まるで誘われているようだな」

 煙草を咥えたドクターが、ライターを何度も鳴らしながら言った。

「見ろ、どうぞお入りくださいとでも言いそうじゃないか」

 

 ドクターの言葉を聞いた大佐は前方に向けて鋭い視線を送った。ゲートは解放されており、その先には大佐もかつて利用したヘリポート、そして更に先には、巨大なコンクリートの塊―――アキラの石棺が見える。

 そして、ヘリポート白線を跨ぐようにして、一台の青色のスポーツカーが停められている。

 

「アレは……」

 部下の一人が声を漏らしたその時、車のシザーズドアが翼を広げるかのような特徴的な動きで開かれ、中から一人の人影が降り立った。

 ヒールがカツンと路面を打つ音が聞こえた。

 

「木山、春生……!」

 大佐が唸るように名を口にする。

 部下たちが、大佐の前に並び立ち、一斉に銃を向ける。

 

「おやおや、あなたもここまで辿り着きましたか、大佐」

 木山が、大佐たちの真正面に立って言った。

 複数の銃口を向けられていても、まるで怯む様子が無い。

「お互い、追われる身でしたか。あなたも相当悪運の強いお方だ」

 

「お前がここに何の用だ」

 大佐が凄んだ。

「41号の暴走を止めねばならない。そこをどけ」

 

 大佐の言葉に、木山は、はあっとため息をつき、空を見上げた。

 雲が西から東へ流れていく。木山のウェーブがかった髪が、風に波打つように揺れた。

 

「島君に用があるのは、私も同じでね」 

 なびく髪を片手で押さえ、木山が俯く。

 どん、どん、と音が聞こえ、大佐は視線を一瞬、その音が聞こえる方に動かした。

 木山の乗り付けたガヤルドだ。音と共に車体が僅かに揺れている。

 誰か、乗せられているのか―――。

 

『大佐―――』

 ふと、大佐のイヤホンに、マサルからの入電がある。

『気を付けて!彼女は今―――』

 

「そちらこそ、邪魔立てするな」

 木山が顔を上げた。その目は怒りに満ちていた。

 大佐の前で隊列を組んでいた部下の一人が、不意によろめくように向きを変えた。

 

「オイ、お前―――」 

 誰かが慌てたような声を上げた。

 バアン、と破裂音がして、大佐は反射的に身を引いた。

 部下の一人が、驚愕の表情を浮かべて小銃を構えている。その先には、地面に這いつくばって呻く仲間の姿がある。片足を撃たれて、苦悶に満ちた表情をしている。

 

「ち、違う!!」

 俺じゃない、と銃を構えた部下が口走った次の瞬間、全員が、互いの足元に銃口を向け合った。

 大佐は、その内の一つが、自身へと向けられていることに気付いた。

 

 幾つもの銃声が一斉に鳴り響き、それとほぼ同時に、トラックに偽装した大佐達の車両が、突如に浮かび、そして重苦しい音を立てて横転した。

 

 

 

「降りたまえ」

 ドアを再び開けた木山が、穏やかな声をかける。

 車内では、青褪めた顔をしたカオリが、怯えながら木山を見上げていた。

 

「先程約束した通り、君はここまでだ」

 木山が懐から小さく細長い鍵を取り出し、カオリの手錠を外した。

 

「後は、私一人がやるべきことだ」

 

 一人へリポート上に取り残されたカオリは、木山が走らせるガヤルドが小さくなっていくのを見つめる。

 カオリは自分の背後から、互いに脚を撃たれた兵士達が上げる呻き声を聞いた。

 手錠を外されてもなお、カオリは自身の両腕を胸の前で組むようにしていた。その腕は、震えが止まらなかった。

 

 


 

 

「ミヤコ教って言ったっけ」

 気恥ずかしさを逸らすように口を開いたのは美琴だった。

 

「なぜ、アンタたちは私たちを連れて行ってくれるの?」

 

 美琴の問いに、助手席のサカキが後ろを振り返り、黒髪の仲間(ミキという名らしい)と目配せをした。

「利害の一致だ」

 

「……もう少し具体的に言ってくれない?」

 余りに簡潔過ぎるサカキの返答に、美琴は声に棘を含ませる。

 

 それに対して、サカキは正面を向いたまま淡々と話す。

「我々は、帝国のリーダーである島鉄雄がこれから起こす事態に対処するべく動いている」

 

「事態って?」

 

「アキラの覚醒だ」

 

「それって……最近、SNSとかでやたらトレンドに上がってる名前……」

 美琴は隣の上条を見やる。上条は肩を竦めてみせた。

 

「帝国の連中がしばしば口に出す言葉ですね?」

 後ろから発言したのは初春だ。

「彼らが祭り上げる、何らかの上位存在。それが何を指すのかは、全く具体的ではありませんでしたが……レベルアッパーの摂取によって、“アキラ”に近づく。そのようなことを語る者が多いと聞いています」

 

「或いは、『大覚様』とも呼ばれる」

 サカキが言った呼び名に、美琴は聞き覚えがあった。化学工場で、追い詰められた帝国の幹部が口走っていた。

「我々がアキラについて把握している情報は少ない。それが、過去に防衛省主導の能力研究によって生み出された28番目の存在であること。そして、現在は一〇学区の特区内にある原子力実験施設のどこかに眠っていて、帝国の首班たる41号島鉄雄がその目覚めをもたらすであろうということだ」

 

「それが起きると、どうなるの?」

 美琴の問いに対して、僅かな間があった。

 

「災厄がもたらされる」

 

「……相変わらずもやっとした答えね」

 サカキの短い返答に、美琴が言った。前を向いたままのサカキの無表情な顔は、美琴には微動だにしないように見えた。

 

「つまり、島鉄雄と木山春生というレベルアッパーによって通じた両者の目的は、アキラと呼ばれる謎の存在にあり、2人はその眠れる悪魔(レヴィアタン)をくすぐろうとしている」

 後ろから、初春が言った。

「こんなところですか?」

 

「最後の生易しい表現を除いて肯定する」

 サカキの抑揚のない声が返って来た。

 

「アキラについては何となく分かりました。けど、不審な点があります」

 初春が声色をやや厳しくして言う。

「第一に、あなた方ミヤコ教のみなさんはなぜこの件に干渉するのか。今の話だけ聞いていると、あなた方には利害というものが存在しないように思えます。第二に、私たちをわざわざ連れて行くことの、あなた方にとってのメリットを教えてほしいです。あとは、野暮かもしれませんが……あなた達、本当に正規のジャッジメントとアンチスキルなんですか?もしも偽装を働いているのであれば、看過し難いです」

 

 初春の指摘に、また暫し沈黙が流れる。車は、往来のほとんど無い交差点で信号待ちをしている。低いエンジン音が聞こえる。外の街は静かで、今しがたサカキが言ったような事態が刻一刻と進行している雰囲気は感じ取れない。

 

「一つ目の問いだが」

 サカキが口を開いた。

「我が教団は、この学園都市に根差し、人々の救済のために働く。よって、災いが降りかかり人々が苦しむのを阻まんとするのは当然のことだ」

 美琴は、今しがた述べられた理由を、ひどく耳あたりのよい言葉に満ちていると感じた。それは隣の上条も、後ろの初春も同様だったようで、疑いの表情をうかべている。

 

「余計な詮索をするな。私たちには答えられないし、知らずともお前達は不自由しない」

 上条の隣でずっと黙っていたミキが、美琴たちに鋭い視線を投げ掛けて言った。

 

「第二に」

 ミキに向かって抗議しようとした美琴を遮るように、サカキが言った。

「木山春生については把握していないが、島鉄雄は少なくとも、我々の手には負えない。恐らくは、アンチスキルにもだ。そこで、ミヤコ様は、お前たちの力が必要だとお考えだ。手を貸してほしい」

 

「言われなくたってそうするつもり。指図なんか受けない」

 美琴が強い口調で言った。

「で?アンタもそれで連れて来られたの?」

 

 先ほどから黙って話を聞いている上条に美琴が話を振ると、上条は気まずそうな顔をした。

「いや、俺は、何というか―――」

 

「私たちには明確な目的がある」

 美琴が、口ごもる上条に畳みかけて言った。

「アンタがわざわざこの連中の誘いに乗る理由は何?」

 

「上条当麻の幻想殺し(イマジンブレイカー)は重要だ。島鉄雄の力を止める切り札になり得る。そこで、我々は上条当麻の力を借りる見返りとして、同居人の警護を申し出た」

 

「ど、同居人!?」

 思わぬ言葉に、美琴は驚きの声を上げる。

「アンタ、弟妹(きょうだい)でもいたの?」

 

「いや、アイツはきょうだい―――ウン、そんなとこ」

 明らかに上条は狼狽えている。

 

 そこへ言葉を挟んだのは、ミキだった。

「嘘をつくな。血縁関係は無いだろう?アレは明らかに英語圏白人(アングロサクソン)の女―――」

 

「ハア!?何それ!聞いてないんだけど!!」

 

「ちょ、誤解だって!!お前、なんか勘違いしてんだろ!!」

 美琴が激しい剣幕で怒り出し、上条は必死に弁解している。

 

「あの、それはともかく!」

 初春が大きく咳払いをして、美琴と上条の言い争いを遮った。

「あなた方が本当に正規のジャッジメントでありアンチスキルなのか―――あなた方の拠点は第一二学区のはずです。どうしてこんな学園都市中心部まで繰り出してきているんですか?」

 

「まず、我々は正規の所属員だ。君の同僚に照会してもらってもいい。確かだ」

 サカキが初春に答えた。

「ここ最近の、軍のクーデター未遂、そして『帝国』の暴動。それらに対処するために、学園都市内の各所から、アンチスキルが動員された。一二学区も例外ではない。そして、現在の五級警報下でも活動の許諾を得ている」

 サカキの今度の説明は、初めと打って変わって、それなりの説得力があるようだ。美琴にはそう思えた。

「私やミキは、それを利用して同行している。疑念は晴れただろうか?」

 

 初春は美琴と視線を交わした後、黙って頷いた。

 

「それはいいですけど、この車、変な道通ってますね」

 初春の言葉に、美琴は意識を窓の外に向ける。

 なるほど、確かに、自分たちが乗るバンは、今商店街の中の路地を突っ切っている。

「駅前を通ってバイパスに向かった方が早いんじゃ」

 

「先程情報が入った。駅前は今、ストライキを訴えるデモ隊とそれを鎮圧する機動隊で混乱している。これを避けて行く」

 サカキの言葉を聞いた上条は、自分の携帯電話で何事かを検索している。

 

「うわ!本当だ……大変なことになってるぞ」

 上条が覗き込む画面には、次々と野次馬が投稿したと思しき駅前の混乱の様子が更新されていく。

 

「統括理事会は、この一連の騒動の中で、アーミーと反政府勢力双方の影響力を一気に削ぐ算段だ」

 サカキの表情が険しいものに変わっていた。美琴が見る、初めての変化らしい変化だった。

 

「「我々とて、無関係ではない。だからお前達の力を貸してほしい」」

 急に、サカキとミキが同時に、同じ言葉を口走った。

 

 まただ、と上条が呟いた。

 美琴は、今しがた2人が言った言葉が、2人とは別の意思が働いたものではないか、と直感した。

 

 何にせよ、と美琴は窓の外へ再び視線を向けた。

 商店街の建物群は消え、開けた空が見えるようになった。

 早く、目的地まで辿り着きたい。そして、友人を救うのだ。

 美琴は逸る気持ちを押さえ、きゅっとスカートの裾を握り締めた。

 


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