スーパーロボット活劇、超世王セイバージャッジメント 作:dwwyakata@2024
ネメシスとの戦いが終わっても、まだアホな人間はたくさんいます。
シャドウ……ノワールは、時にそういうのを片付ける助力を人間にします。
ただし、片付けること自体は人間がやらなければなりませんが。
アフリカにある国で。
いきなり街頭モニタがハックされた。
この国は、人口36万とそれなりの人数がいるが、かたくなに催眠教育システムの導入を拒否し。
未だに貧富の格差を肯定し。
GDFの査察も拒否していた。
街には警備ロボットすらおらず。
シャドウに対して必ず追い払うと威嚇的な発言をする代表が、自身を守る兵士ばかり増やして。
搾取を続けていた。
ネメシスエンドが倒れてから八年。
それでもまだこういう場所がある。
すべての政体が民主制である必要はない。民主制にも限界がある。
だが、この国を訪れた人は誰もが言っていた。
皆の顔がくらい。
港にも警備兵が出張っていて、極めて威圧的だ。
言論の自由など別世界の出来事だとしか思えない。
この国の人々は搾取になれてしまっている。
そういう国だ。
もちろん埋め火のように不満は鬱屈していたのだが。それでも巧妙な情報操作と。監視社会もあって。
国民の不満は、力で押さえつけられていた。
だが、それが唐突に終わるときが来た。
ハックされた街頭モニタには、この国の代表が行ってきた悪行の数々が、すべて実映像で流され始めたのである。
ノワールの声が、淡々と告げる。
「これが町中に警備兵を配置して、君たちを監視し続けている男の正体だ。 言論を統制し、催眠教育システムの導入を拒み、家庭用ロボットの配備まで拒んでいる彼が、軍事費からどれだけピンハネしているかも見せておこう」
そして、公開されている予算とは裏腹の実態の収支までもが街頭モニタに表示される。
それどころではなく。
それと同時に、町中の監視システムや。
警備兵が装備している電気式の武装までもが、すべてシャットダウンされていた。
パニックを起こす体制側に対し。
ノワールは冷静そのものだ。
「復興にGDFは手一杯なようなのでね。 私達が手を貸すことにした。 今、政府中枢は誰も身動きできない。 私がするのはここまでだ。 ちなみにこの映像は世界中で流してある。 君たちが立ち上がるか、海兵隊がこの国の政府を解体するか、どのみちこの国の政府は終わった。 ただ、後者の場合、この国は君たちではなく、よその国が信託統治することになるだろうね」
街頭モニタがふつりときれる。
それと同時に、今まで鬱屈していた人々が、怒りを炸裂させていた。
現地に急いで駆けつけた海兵隊の士官、山内大佐が見たのは、政府の建物が燃える光景だった。
この国の実態は比較的早くから知られていて、GDFの会議でも糾弾の声があったのだが。
実際問題として、ここよりひどい国も多く。
何より復興に手一杯の国も多い。
神戸式の催眠教育システムを導入した国が良くなるまでは数年はかかる。
それもわかりきったことであるので、導入に慎重になる国も多い。
ネメシスエンドが世界を滅ぼしかけてからまだ八年なのだ。
もう八年というのは。
少しばかり楽観的すぎるものいいなのである。
いずれにしても、現在ではGDFは北米の精鋭ではなく、GDFの直轄部隊として再編成されている。
旧海兵隊のメンツも多いが。
それはそれとして、畑中中将の告発もあって、開発が進んだのだ。
その畑中中将はそろそろ容体が危ないらしいが。
ともかく今は、制圧作戦だ。
街に突入する。
暴徒制圧用のテーザーガンを装備した軍用ロボットが先頭に、鎮圧作戦を開始する。
いかに軍を増やして護衛を増やしていても、人間の数が違いすぎる。
その上ノワールが、ピンポイントで監視システムを麻痺させたのだ。
政府軍に鎮圧の力はなく。
今まで暴虐の限りを尽くしていた彼らは、逆に暴虐の限りを尽くされる側に回っていたが。
しかしながら流されてきた映像には、子供に対する性的虐待、弱者からの略奪暴行、場合によっては殺人の隠蔽、違法薬物を売りさばいて財源にするなどの看過し得ないものも多く。
それを腐りきった軍は、独裁者だったこの国の代表の指示を受けるまでもなく自主的にやっていたので。
馬鹿馬鹿しくて、同情などする気にはなれなかった。
展開。制圧。
ひたすらそれを続ける。
まだまとまって抵抗してくる部隊もいるが、海兵隊に配備されたテムジン級歩兵戦闘車(いうまでもなくチンギスハンの本名である)を先頭に、制圧戦を開始。
そもそも彼らが装備しているカラシニコフをはじめとする小火器なんて、戦闘ロボットの装甲すら貫けない。
これがM44ガーディアンや螺旋穿孔砲だったら話は違ったのだろうが。
残念ながらそうではない。
給金などをピンハネしていたからだ。
そういった装備への更新がなされておらず、旧時代の装備が未だに使われているのである。
それでも民を弾圧するには十分だった。
そういうことだ。
制圧を進めていく。
一度戦車が出てきたが、テムジン級の主砲一発で爆発四散。
まあ乗っていた兵士は即死だろうが、戦争だ。
それは仕方がない。
海兵隊員に、どうして今まで来なかったと、くってかかる民衆の声の方がつらいくらいである。
山内も海兵隊の士官として、こういう仕事はいくつもしてきた。
だからこそ、周囲で精神を病んでしまう兵士が多いこともわかっていた。
それでもつらい。
ともかく、制圧作戦を進める。
やがて、代表の官邸に突入。
代表は生きたまま確保したかったが、無理だった。
官邸の電子システムは完全にハックされ、シェルターもなにも機能しなくなっていたのである。
あちこちには代表の側近や愛人の死体が散らばっているが。
どれもこれも凄まじい殺され方をしていた。
どれだけ代表が恨みを買っていたのか。
これを見るだけでも、一目でわかるほどである。
そして代表も死んでいた。
悪辣な独裁者は、今までの行為の報いを一身に受け。
全身割れたガラスで滅多刺しにされた上。
暴徒が兵士から奪ったらしいカラシニコフで原型がわからなくなるまで弾を撃ち込まれて果てていた。
ひたすらに残虐さだけでこの国を支配してきた。
愚かな男の末路だった。
死体を回収した後、ロボットを前面にたてて、鎮圧作戦を続ける。
スピーカーで音声を流す。
圧政を繰り返した代表は死んだ。
これ以上暴れるのは、この国の未来に悪影響をもたらす。
暴徒は暴れるのをやめておとなしくしてほしい。
軍の残党の鎮圧は我々がやる。
そう音声を流しているとき、ばつんと音がした。
山内が乗っているテムジン級。山内は上半身を出して演説していたのだが。狙撃されたのだ。
一種のアクティブ防御装置が働いた。
あの畑中博士が超世王セイバージャッジメントに搭載した兵器の一つを、一般の歩兵戦闘車に搭載できるまでデチューンしたものらしいが。
おかげで助かったなと、苦笑い。
即座にロボットが向かう。
街は極めて複雑で雑多だったが。海兵隊が到着する頃には、どこかの親切な誰か(もちろん棒読みである)が街のおぞましいほどに精密な地図を送ってきてくれていたこともある。
まあ監視カメラやらを簡単にハックできる存在である。
現状の街がどうなっているのか位は、簡単に把握できることは、想像に難くはないが。
狙撃手が連れてこられた。
まだ幼い男の子だ。
おびえきっている。
おそらく兵士が捨てていった銃を使って、狙撃したのだろう
侵略者、とこの土地の言葉で言われた。
山内は苦笑い。
ノワールの演説の内容は聞いていた。
だが、この暴徒の有様である。
海兵隊が来なければ、もっと被害は拡大していただろう。
「国民をいじめていた無能な兵士達とは違う立派な勇者だ。 丁寧に扱え。 失礼があったら許さないぞ」
「は……」
さて、ここからが大変だ。
ここが後回しにされていたのは、もっとひどい国がいくつもあったからで。
いったん海兵隊が制圧しても。その後がうまくいかないケースも結構あったのが理由の一つなのである。
ここだってそれは同じかもしれない。
なまじ人間が多いのが余計に事態をややこしくする。
山内大佐は、制圧がほぼ完了するまで指揮を続け。
終わってから、大きくため息をついていた。
代表が死んで、暴徒をある程度鎮圧して、軍の残党を片付けて。
警備はロボットに任せる。
人間の仕事は聴取と、それに復旧の手配だ。
物資については心配ない。
ある程度の物資は、シャドウがどんどこ用意してくれるからである。これは気前がいいというよりも。
人間が無作為に土地を荒らすよりは、資源を提供してやった方が地球にとって都合がいい。
そういうことなのだろう。
山内は指揮を執りながら、GDFの本部に連絡を入れる。
少し前に周防という男に代表が替わったのだが。
この周防は、以前の悪名高い天津原と同じ無害なだけの男で。燃え尽きた市川の代わりが、こいつくらいしかいないからである。
だが、ノワールが気まぐれのように汚職を摘発して、SNSなどにデータを流すし。
場合によっては今回の事件のように街頭映像などで流すこともあって。
今では汚職なんかしたくても出来ない。
そして、この周防も、無害と言うだけでやっていけている。
ぼんくらでもやれるのが民主主義だ。
馬鹿馬鹿しい話ではあるが。
シャドウの出現で、それがようやく本来の形で完成したのかもしれない。
「制圧は概ね完了しました。 後は統治のために政治家を派遣してもらうことになりますが」
「今、実績がある人間を見繕っている。 ただ、護衛は大丈夫だろうね」
「人間だけが警備するならともかく、警備ロボットを連れてきていますので。 まあ大丈夫でしょう」
「そうか、とにかくもう少しかかるから、待っていてくれ」
こういうあれた街にいきなり民主主義を導入するのは悪手だ。
シャドウ戦役前は、民主主義が絶対正義と考えられていた時代もあって。それを元にいろいろな国に強引に導入して失敗するケースが多かった。
今でも、警備ロボットを街の人間達は明らかに恐れてみている。
円筒形の威圧を与えない形状にしているのだが。
それでも、人間をたやすく押さえ込み、生半可な武装では手も足も出ないそれは、悪霊か何かに見えるのかもしれない。
軍事制圧用の軍用ロボットとなるとさらに恐ろしさも跳ね上がるのだろう。
それを笑うつもりはない。
「山内大佐、炊き出しの準備が整いました」
「よし。 すぐに始めてくれ。 くれぐれもその場で食べるようにさせてくれ。 身動きできない人間には、介護ロボットを派遣して、その場で食料を食べさせるように」
「イエッサ」
「……」
昔の無能な国連維持軍は、腐敗だらけで話にならなかったらしい。
人道支援もしかり。
支援物資は現地の金持ちの懐にはいるだけだったという。
つまり貧困国の貧困層は何の助けも得られなかった。そういうことだ。
今ではガチガチに監視体制があり。GDF海兵隊は極めてクリーンな軍に生まれ変わっている。
それを海兵隊の旧メンバーはあまり好ましく思っていないこともあるようだが。
暴力を思うままに振るう軍隊が横行しているままでは。
いずれ致命的な戦闘に発展する。
シャドウがいる今、そんなことにはならないだろうし。
何よりノワールが見ている。
ロボットが炊き出しに来た人間をすべて確認している。二度炊き出しに受け取りに来るような人間が出ないようにするためだ。
既に街の中は完全に制圧され、ネットワークも構築され始めている。
それでいい。
不正が一切出来ない環境であれば。
ここでまた不正がはびこることもないのだ。
特にAI制御のロボットには、賄賂が通じようもない。
だからこの国の上層部は、ロボットの普及を拒んだのだろう。金で買収できたり、脅迫できる相手ではないからだ。
もちろん不正が一切出来ない場所は多少息苦しいかもしれない。
しかしながら、何もかも不正が好き勝手に出来る場所は。
それはもう人間が暮らす場所ではない。
世界がそうなりかけていたのが、シャドウ戦役前の世界だ。
だから、これでいいのだろう。
とにかく周囲の警戒を続ける。もちろん海兵隊の兵士にもろくでもない輩はいる。信頼関係を少しずつ構築するしかないし。
それが山内の仕事なのだ。
程なくして、医療チームなども来る。
とはいってもつれている警備ロボットは医療機能も持っている。持ってきているのは医療物資だ。
既にトリアージは終わっている。
医療を受ける順番は人間が考えなくてもいい。
これは堕落ではなく省力だ。
この場合は、人間が判断ミスをするよりも。
ずっと進歩した結果実用的になったAI制御のロボットがトリアージまで済ませ。
後は必要な処置だけ人間の医師がやればいい。
省力であり進歩である。
そして、それらを邪魔されないように。
山内は周囲ににらみをきかせる。
四日たって、大体の事態の状況がわかった。
やはり警備の兵士達が慌てている間に暴徒が官邸を強襲。
代表やその側近は一網打尽となって、数の暴力に押しつぶされたようだった。
まあ自業自得である。
ただ、放置していても民主主義がいきなり生えても来ないし、それが出来る状態にもならない。
遅れて到着したのは、GDFの首脳部から派遣されてきた臨時統治チームだった。
政治のいくらかの部分……かなりの割合だが。
ともかく政治の少なくない割合をAIが担当できる状況を神戸が作っており、これらの臨時統治チームは、崩壊国家、あるいは失敗国家化していた国に神戸式のシステムを導入して、形になるところまでを実践してきた経歴がある。
ただ今回はかなり緊急だったと言うこともあり。
普段より人数が少ない。
山内は担当者のリーダーであるブラムズという黒人男性に敬礼する。
元々北米の四都市の一つの市長を務めていた経歴があり。
市長就任時、自分の信仰を市長としての任務に反映することは一切ないと宣言。そして実施した硬骨漢である。
それもあって、真面目すぎて面白くないと周囲からは言われていたようだが。
前市長がありとあらゆる汚職を手がけていたような人物だったこともあり。
市長に就任。
それから有言実行したことで、満期まで務めた珍しい人物だ。
敬礼してから、状況を説明。
ブラムズ「代理統治官」は、来る途中にも情報は見ていたと話してくれる。話が早くて助かる。
既に国軍の残党はすべて刈り尽くしたはずだが、反感を持っている民はいる。それもあって、護衛をしながら街を歩き、状況を見せる。
ひどい有様だと、ブラムズは嘆いていた。
「圧政を行う人間は、基本的に他人のことを一切考えない。 考えるとしても利益を生む存在としか思わない。 その結果がこれだ。 おぞましい話だと思わないかね」
「まったくですね」
「今まで四つの国を立て直してきたが、今回は仕事を部下に任せてこちらに来た。 ノワールが目に余ると判断した結果の行動なのだろうが、私たちも手が足りていない。 とにかくしばらくは治安維持に重点を置く必要がある。 山内大佐、協力をお願いする」
「イエッサ」
話通り、責任感のある人物のようだ。
一通り街を見て回ってから、いくつか設置した臨時モニタで、ブラムズが演説をする。演説と言っても、これからどうするかの説明だ。
まず前の代表がどれだけ悪事を働いていたか。
これらの証拠は官邸に山ほど残されていた。
順番に読み上げていくブラムズの声は冷静で、こういったひどい国をいくつも立て直した人間の経験がうかがえる。
それらを読み上げた後、ブラムズは次にどれだけの物資が横領されていたかの説明をする。
もちろん税金もだ。
ほとんどが前代表と取り巻きの遊びのために消えていた。
そういう話が出ると、怒りの声が上がる。
まあ、それもそうだろう。
ただこの国は、シャドウ戦役前の乱れに乱れたアフリカの状況を反映したようなひどい場所だった。
前代表は、今までの代表に比べて特段ひどい人物だった訳でもない。今までと同じことをしているとしか思っていなかっただろう。
そして、こいつが死んでも。
代わりが出てくるだけ。
それがわかっているから、今まで人々は反抗する気をなくしていた。
どうせ反抗したって、内戦になるか、別のカス野郎が代表になるだけだ。
それを越えるくらい、ノワールが暴露した事実が強烈だった。
さらにノワールは、その怒りがちゃんと代表に向くように制御し、後押しまでしたのである。
おそらく代表は死ぬまで自分がなんでこんな目に遭うのかと思い続けていただろう。
それだからこそ。
死ななければならなかったことだって、理解できなかったに違いない。
「これよりまず君たちの生活を元に戻す。 ロボットが仕事を割り振るので、それに沿って働いてほしい。 また、子供に関しては教育を誰でも受けさせる。 神戸で使われている催眠教育システムをすぐに導入する。 短期間で先進国の学者並みの知識を得られる……それぞれの能力を最大限まで引き出せる代物だ。 希望があれば、大人でも受けられるようにしよう」
ほかにも、失われた物資の補填、インフラの再建などについても説明がある。そして説明が終わると、すぐにブラムズは動き始めていた。
ロボットと、再建専門のスタッフとともに、現場に出て働き始める。
アフリカは黒人にとっての天国だと、北米の人権活動家の一人であるマルコムXは信じていたという話があるが。
実際には黒人の間にも差別や階級があり、極めて悪辣な支配者が奴隷貿易や西洋列強の介入を招いたのも事実だ。
その現実をアフリカで見て、マルコムXは宗旨替えをするほどの衝撃を受けたという事実がある。
問題は民族や信仰の対立が昔ほどではないが残っていることだ。
この街にそれが集約されている今。
とにかく、改革は急がなければならない。
いずれにしても、山内が見ていても、満点の対応が続く。ブラムズはとにかく手慣れているという印象を受ける。
これなら、安心して任せていいな。
そう思いながら、山内も自分で農機具などを手にして、復興を開始する。
そうしていくと、やがて人々から質問を受けるようになった。
自分は何々族の血を引いているが、仕事に就けるのか。
信仰の自由は保障されるのか。
何々族が憎い。復讐は許されるのか。
異教徒は打ち払えるのか。
そういうのが、今まで代表による暴力支配で打ち消されていた。恐怖で等しく支配されていたというべきだろうか。
一つずつ、丁寧に答えていく。
念のために、側に支援用のロボットを置きながら。
今後、仕事については問題ない。それぞれが適切に働ける。体の負担についても、ロボットが考えてくれる。
信仰の自由は保障される。だが、他の人間の信仰を阻害してはいけない。自分と他の人間は違う人間であって、何を信仰しても自由なのは自分だけではないからだ。人を殺したり生け贄にするような信仰以外なら、何を信仰しても罰せられることはない。
他の民族に対する憎しみは、この世界ではもはや意味がない。世界は人間のものではなく、シャドウのものとなった。一瞬で独裁者が斃されたように、憎しみあいを続けていると、いずれ皆シャドウに殺されるだけだ。
異教徒は打ち払ってはいけない。異教徒にとってはあなたが異教徒だ。そして世界はもはや人間の土地ではない。これからは、シャドウが見張る中、皆で力を合わせて生きていかなければならないのだ。
そういう話をすると、納得されたり、憤慨されたり、反応はいろいろだ。
ロボットが、憤慨する相手には、丁寧な例え話をしていく。
凄まじい説得力のある話をするので、頭に血が上った相手も、即座に黙り込んでしまう。多分、ただしゃべっているのではないのだろう。何かしらの方法で、興奮を抑制してるのかもしれない。
山内もその辺りは仕組みを知らない。
いずれにしても、支援ロボットが極めて有能で助かる。
山内だけでは、こうはいかなかっただろう。
たまに、痩せ細った老人から、ものすごく専門的な話をされる。全くわからない場合は、支援ロボットが即時で応じる。
どうやらアフリカの古典的な哲学に関する命題についてであるらしい。
これを答えられるのはすごいな。
そう思いながら、やりとりを見守る。
やがて、老人が大笑いしていた。
「見事。 これをすべて答えられたものとは久々に出会った。 ロボットも進歩したものよな」
「あなたは学問保全のために仕事を用意できます。 この国の知識人として、活動していただけませんか」
「わしは隠居していたいのだがなあ」
「お願いします。 是非」
支援ロボットに任せておく。
こういう在野の人材を、少しでも発掘するのは有用だ。そして変に欲を持って、堕落するのも防がなければならない。
その辺は山内の手に余る。
専門家に任せるしかなかった。
それからは、あちこちを警備しながら、にらみをきかせる。
悪さをしようとするものは海兵隊の兵士にもいる。
だが、警備ロボットの恐ろしさは彼らも知っている。それが海兵隊の兵士にも、この国の人間にも、双方に抑止力となっている。
現場監督は、自身が腐敗しないようにしていかなければならない。
山内はそれが出来るように。
常に自制を心がけなければならなかった。
さらに一週間が経過して、追加の物資や人員が届く。
与えるだけではだめだ。
自分で物資を得られる術を教えなければならない。
これは昔の善意に沿った人道支援とやらがほとんどの場合うまくいかなかった教訓だ。
教育も開始されている。
短時間で何も知らなかった子供が、四則演算などを理解していくのを見て、見る間に周囲の大人も催眠教育の実施を要求し始める。
もちろん催眠教育を受けるのは自由だ。
ただし、これも無料ではあるがただではない。
犯罪を犯したら何が起きるか。
犯罪発生率が高い国では何が起きるのか。
身勝手な主観がどういった事態を引き起こすのか。
それを無学な人間にもわかりやすいように催眠教育でたたき込んでいく。
山内も催眠教育でそれらを学んだ口だ。
昔やっていた倫理やら道徳やらの教育は、それこそ何の意味もなかった。真面目な人間ほど損をする社会システムもあって、むしろ奴隷教育と化していた有様だった。
皮肉にも、シャドウの到来でそれが終わった。
今では真面目に善良に生きる人間が一番得をするようになっている。
シャドウとの戦いが終わった今は、それはなおさらだ。
うまくいっているようだな。
独裁者にとって都合がいい、馬鹿しかいない国。
その状況が変わりつつある。
それを見届けながら、山内はレポートを作る。
これもテンプレートがある上に、AIが支援してくれるから、個人的な癖も出ず、あっというまに出来る。
事実だけを淡々と報告。
最終的にこの暴動での死者は二万人に近かったが。
しかしこの犠牲者が、この国の未来を作る。
そう割り切るしかない。
まだこの状態でも、次の独裁者になろうと目論んでいるような輩もいるようだが。この国に導入されるシステムが、それを許さない。
洗脳だとわめいているやつもいる。
信仰を盾に、ロボットをすべて破壊すべきだとわめいている者もいる。
昔はそれで皆黙ったのだろう。
今は、ロボットが早々に鎮圧して連れて行く。
そして背後関係を容赦なく洗う。
賄賂なんて通じない相手だ。そうすると、ぼろぼろとろくでもない情報が出てくる。それらはすべて公開される。
信仰を利用して人々を支配していた宗教指導者が、裏でどういったことをしてたかは、すべて公開される。
それらで、今までの資産も社会的地位も一瞬で失う輩は多数出てくる。
裁判も一瞬で終わる。
十人以上殺しているような犯罪組織の長が、即座に死刑になる。わめき散らしているそいつが連れて行かれるのを、山内は冷めた目で見るしかなかった。
程なくして、GDFから連絡が来る。
「山内大佐、ご苦労だったね。 とりあえず戻ってきてほしい」
「大丈夫だとは思いますが、後任が必要では」
「わかっている。 これからジャソン中佐がそちらに向かう」
「ジャソンですか」
あまり評判が良くない女だ。あの第一軍団第五師団の創設メンバーの一人である。つまりは元秘密警察だ。
ただ、それでも今は悪事の一つも出来ない状態ではあるらしい。
市川前代表による秘密警察創設のもくろみがいろいろな形で崩れたこともある。第五師団は単なる憲兵と化し、内偵などはするが、ダーティーワークなどは今はほとんどやっていないらしい。
だからあくまで感情的な不快感だ。
まあ、いいだろう。
「これからは君のような正規の軍人ではなく、本物の悪党をあぶり出す仕事だ。 その国の代表だったやつを裏から操っていた者がいるという話があってね」
「ドブネズミを捕まえなければならないわけですね」
「噂が真実であったとしたらね。 ただ、今の都市の規模から考えて、そんな者はそうはいないだろう。 国際犯罪組織が存在し得なくなった今、ギャングスターなんてものは所詮過去の幻想に過ぎないのさ」
「……」
悪逆を尽くすものが、ヒーロー扱いされる時代は終わった。
アウトローを格好良く描く時代も終わった。
もちろん創作としてそういったものを楽しむのはいいだろう。
実際のアウトローがどんな連中だったのかは、こういう国での凶行がすべてを物語っている。
それが可視化されるようになった。
それでかまわないのだ。
帰国の準備をする。
丁寧に応答に応じた人たちが、山内の帰国を送ってくれた。
手を振って、それに答える。
まあ。これくらいの役得があってもいいだろう。
最近はありがたいことに、酒なども多少は出回るようになってきている。前はとてもではないが、作る余裕がなかったのだが。新土佐の地下プラントで、様々な酒が造られるようになり。
それが世界中に輸出されている。
ただまだ絶対量が足りないので。
山内などの立場であっても、そう多くは飲めないのだが。
それでも、嗜好品を作る余裕が生じてきた。
それだけでも大きいのだ。
ホバーに乗って、帰路を急ぐ。
戻ったら訓練か、或いはデスクワークか。
どちらにしても、暇が訪れることはない。山内は猟犬だ。猟犬の仕事が終わったら、それは……。
まあ今の時代は煮られることもないだろう。
ただ、粛々と猟犬であり続ければ良かった。