スーパーロボット活劇、超世王セイバージャッジメント   作:dwwyakata@2024

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戦闘開始。

失敗したら確定で死ぬ。人類も詰む。

そういう戦いです。

人間が制海権を失って四半世紀の世界。海にて無敵を誇る暴君相手に、総力での挑戦が開始されます。






3、爆音と静音

工場脇につけている超世王に乗り込む。近畿全域に展開している第二師団所属となった砲兵隊、ミサイル部隊、対空ロケット部隊、ドローン部隊が、それぞれ展開を終えた。作戦については、既に何度かの会議で確認済みである。菜々美も内容は把握しているので、ミスはないだろう。

 

時計を合わせる。

 

よし、問題ない。

 

一応、姉は脱出用の装置も組み込んでくれているが、これはそもそもとして。イエローサーペントを倒した後、超世王のダメージが大きすぎて、自力での離脱が出来ない時のために用いる。

 

そして今回、作戦に投入されるのが、量産型の斬魔剣だ。

 

これそのものは、既に作る為のノウハウがあることもあって、生産自体は……コストは掛かるが、どうにかなる。

 

シャドウが情報を共有している可能性が高い以上、これを使うのには大きな意味が存在している。

 

それは菜々美も理解しているので。

 

今は淡々と、作業を進めていくだけである。

 

「此方畑中中佐。 これより指定座標へ移動を開始する」

 

「了解。 以降はモニタにのみ状況を表示します」

 

今からこの超世王は。

 

全ての音を出すことが許されない。

 

コックピットには複数の画面が映し出されていて、非常に忙しい状態だが。咳払いとかすらも許されない。

 

元々潜水艦はそういうものだったと聞く。

 

それくらい気を付けて動いて、やっと海中でのステルス性能を発揮できるようになったのだという話だが。

 

今回は、それを最大限生かして。挑まなければならない相手だ。

 

超世王は、海の中を進む音さえ、最大限殺すように調整が行われている潜水艦をボディーとしている。

 

故に、イエローサーペントが気付いた時には、奴の土手っ腹に風穴があく。

 

そう、上手く行くと信じたい所である。

 

黙々と移動を続行。

 

「ドローン部隊、発進。 ブライトイーグルへ攻撃を開始」

 

「攻撃開始! 空対空ミサイル発射!」

 

軍用ドローンが飛び立つと、適性距離から空対空を一斉に放つ。マッハ8の速度が出る追尾式ミサイルだ。

 

それに対して、大阪湾上空にいる飛翔種ブライトイーグルは……名前と裏腹に、ずっと三日月のような形状で浮いている、発光している塊は。迅速に反応していた。

 

何か放つ。

 

それだけで、ミサイルが一斉に軌道を狂わせ、或いは地面に着弾し、或いはドローンへと戻っていく。

 

この軍用ドローンも、使い捨てとはいえ二世代前の戦闘機並みの力はあるのだが。これはどうにもならない。

 

更にドローンに対しても、ブライトイーグルが放つ何か。

 

これも正体がよく分かっていないのだが、それが効果を示し。互いに同士討ちをしたり、またたくまに潰乱。次々に爆発、墜落していった。

 

戦術もなにもない。

 

スウォーム攻撃も無意味だ。

 

ブライトイーグルが一鳴きするだけで、航空兵器は蹴散らされてしまう。これは最新鋭戦闘機でも同じ。

 

これと同じ現象が、同じような飛翔種であるサンダーフィッシュでも起きる。

 

人間がシャドウに勝てない理由の一つだ。飛翔種に対して、一切有効な攻撃手段がないのである。

 

だが、今回は簡単には諦めない。

 

「第二波行きます」

 

「地対空ミサイル、発射! 後退しつつ、飽和攻撃を」

 

移動式の地対空ミサイル部隊も攻撃を開始。五月蠅そうにブライトイーグルが、少しずつ移動を開始。その度に鳴く。それで、ミサイルもドローンも、次々に叩き落とされていく。

 

この不可解な攻撃は、軍用機だけではなく、輸送機も容易に叩き落とす。今では各地の航空上で、航空兵器が埃を被っている理由だ。昔はエアフォースはエリート兵の独壇場だったと菜々美も聞いているが。

 

シャドウはそれを嘲笑うようにして、それらを玩具に変えてしまったのである。人間は結果として、空を失った。

 

今は、空を取り戻す前に海だ。

 

潜行して、移動する。

 

次々に叩き落とされるドローン。微速前進するブライトイーグル。よし、そのままでいい。

 

菜々美は舌なめずりしながら、これも出来るだけ音が出ないように設計している操縦桿を、丁寧に操作する。

 

海流すら読みつつ、移動を続ける。

 

海流に下手に逆らうと、それだけで音が生じるからだ。

 

「イエローサーペント、動きなし!」

 

「畜生、余裕の様子だぜ……」

 

「空母打撃群を単騎で全滅させる奴だぞ。 こんな程度の攻撃、仮に喰らっても文字通りなんでもないんだろうよ! ましてや護衛の飛翔種がいるんだぞ!」

 

「分かっていてもむかつくな!」

 

兵士達が怒号を張り上げて、走り回っている。

 

菜々美については誰も触れない。

 

今回の作戦。

 

表向きはブライトイーグルに対するものとされている。これは、シャドウが通信を傍受している可能性に備えてのものだ。

 

だから、超世王には出来るだけ通信も入れないようにしているのだ。

 

魚が超世王に近付いて来た。かなり大きな魚だが、移動速度がそれほどないこともある。衝突する事もなく避けていった。丸々と太って美味しそうだったな。そう思ったが、そのままやり過ごす。

 

スクリューも魚を巻き込むようなことはなく、ごく自然に静かに推進力を産み出している。

 

姉は言っていた。

 

イエローサーペントは、目なんて見えていない可能性があると。それどころか、目さえない可能性も。

 

名前の通り黄色い体を持っているそれには、一応目らしいものもあるのだが。

 

他のシャドウと同じように、生物ではない以上。同じように目として機能しているかは分からない。

 

ブライトイーグルが大阪湾から充分に離れた。

 

だがあいつは、その気になればマッハ6以上の速度で動く。

 

だから、まだ油断はしない。

 

第四波のミサイルとドローンが、今波状攻撃をしている。

 

それでも、まるで小揺るぎもしない。

 

対空ロケット砲が打ち込まれる。これは電子制御ではなく、近接信管がついているだけのものだが。

 

これも中途で爆散してしまう。

 

近接信管が狂わされているのかも知れないが、菜々美には分からない。もう少しである。

 

大阪湾に入る。

 

よし、此処からだ。

 

大阪湾はもとの水深は200メートル弱。現在はそれより少し深くなっているようではある。

 

元々水質汚染が悲惨な港湾で、古くには犯罪組織が気にくわない人間を多数沈めていたという話もある。

 

底をさらったら、コンクリ詰めにされた人骨が幾らでも出てくるかも知れない。

 

ただ、今の状況からして。

 

イエローサーペントが根城にしている以上。それらすら、残っていないかも知れないが。

 

「イエローサーペント捕捉」

 

文字が出る。

 

よし。

 

まずは接近成功。奴は、それなりに長大な体をくねらせつつ、海面近くで蠢いている。

 

サーペントとは名ばかり。動いている様子を見ると、どちらかというと昆虫に近い有様だ。

 

ただ、生物的ではある。

 

あれは生物ではないと、今まで色々な研究から分析されているが。あの動いている様子を見ると、生物なのかも知れない。

 

とにかく今回は、今まで誰も被害を出していない。ブライトイーグルは進んでいるだけで、地上部隊に攻撃を加えていない。自走砲部隊も、現時点では待機しているだけである。

 

文字が出る。

 

イエローサーペントから目を離さないでね。

 

ああ、これは姉によるものか。最悪の場合でも、データはとっておきたいのだろう。

 

姉はリアリストだ。

 

菜々美がもしも殺されたとしても、次の戦いに備える。そういう人だ。勿論情がないとは思わない。

 

だが、姉はそれ以上にリアリストである。

 

ただそれだけなのだ。

 

無言で超世王の操縦を続ける。淡々と移動し続ける。まずは海底に沿って移動し、それでふっと泡のように至近で浮かび上がる事に決まっている。

 

イエローサーペントの多数ついている足は、本当に足としての用途があるのか極めて疑わしい。

 

だが、それにかまっている暇はない。

 

水中戦は文字通り一瞬の勝負になる。

 

さて、問題は、ブライトイーグルを、きちんと引きつけられているかどうかだが。

 

アラーム。

 

音では無い。画面に出る。

 

紀伊半島にいたイエローサーペント。紀伊半島と言っても、かなり此処からは離れているが。

 

それが突如移動を開始したのである。しかも目的地は、明らかに大阪湾である。

 

そしてその移動と同時に、ブライトイーグルが動きを止める。

 

自走砲部隊が動き出す。

 

第二師団の広瀬中将が、即座に第二のイエローサーペントに集中攻撃を開始したのである。

 

陸上からの攻撃だが。それも殆ど意に介していない。

 

至近からの対潜爆雷にもびくともしない奴だ。自走砲による集中攻撃なんぞ、それこそ痛くも痒くもないのだろう。

 

だが、音を頼りにしているのであれば。

 

それで、ある程度超世王の動きは誤魔化される。

 

しかし時間は殆どないと見て良い。それでも焦るな。焦って先に補足されれば、一瞬で粉みじんだ。

 

原子力空母を瞬殺する相手である。

 

全長五十メートルにも及ばないこの超世王なんて、それこそ一撃でひとたまりもないだろう。

 

勿論生半可な潜水艦とは違う防御性能を有しているが、耐えられるかどうか。

 

「ブライトイーグル移動開始! 大阪湾を目指しています!」

 

「小型種出現! 自走砲部隊に向けて移動開始!」

 

「各狙撃大隊展開! 自走砲部隊への攻撃は想定の範囲内です! 自走砲部隊は展開しつつ、イエローサーペントへ集中砲火を続行!」

 

「イエッサ!」

 

焦るな。

 

自身に言い聞かせながら、ゆっくりと浮上を開始。

 

イエローサーペントは海上から体の一部……頭に見えるだろう部分をつきだしているようである。

 

まるでネッシーみたいに見えるだろうかな。

 

そう思いながら、距離を詰めていく。

 

音もなく、武装を展開。

 

今回装備しているドリルは、音もなく展開する事が可能ではあるのだが。考え尽くされた形状の潜水艦が、形状を変える。つまり航行中はそれで音が出ると言う事である。つまり、至近距離まで武装は展開出来ない。

 

姉は言っていた。

 

クリオネが補食するときの姿を参考にしたと。

 

超世王の前面部が展開。

 

そして、全てがロボットアームとなり、イエローサーペントを掴む。同時に、繰り出されたドリル……四連に横に並んでいるが。それが一斉に、奴の体に食い込んでいた。

 

超高熱のプラズマが、ドリルの回転とともにイエローサーペントに叩き込まれる。それは一瞬で、黄色い悪魔の全身を内側から焼き尽くしていく。

 

同時に海水が炸裂するように爆発。衝撃がコックピットまで来る。当たり前だ。姉が何をプラズマにしているかは知らないが、これの温度は数万度に達すると言う話だ。それが直に海水に触れでもしたらどうなるか。

 

イエローサーペントが、掴まれた蚯蚓のようにもがく。超世王の船体が激しく揺動する。

 

もしも衝撃波を放たれたらおしまいだ。それは分かっている。だが、必死に菜々美は操縦桿を動かして、プラズマを注入する四連ドリルを食い込ませ続ける。ドリルはあくまで注射器の役割を果たす。それらが高圧高温のプラズマを、イエローサーペントの体内に叩き込むのが目的となっているのだ。

 

イエローサーペントの体が、千切れる。

 

そして、爆発と同時に、船体が一気におされる。

 

超世王は即座に武装を格納。

 

ダメージは、かなり大きい。だが、上空にブライトイーグルが迫ろうとしている。必死に対空砲とドローンによる攻撃が続けられているが、相手にもしていない様子だ。忙しくモニタを見ながら、海底に潜行。

 

爆発したイエローサーペントが消えていく。問題は、二匹目が此方の海域に高速で接近している事だ。

 

即座に連絡が来る。

 

姉からだった。

 

相手の航行速度からして、恐らくは接舷しても逃げられない。船体にダメージがある以上、消音性も初撃の時より落ちている。

 

ならばやるべきは。

 

自走砲部隊と連携して。此方に接近しているイエローサーペントに奇襲を掛けるしかない。

 

ブライトイーグルの存在もある。

 

あれがEMPか何か分からないが。発している攻撃は、恐らく超世王にも届くと見て良い。

 

だとすれば、急いでまずは海底に潜行しつつ、相手の方に向かって欲しい。

 

後は、自走砲部隊の攻撃データを送る。

 

連携して仕留めて欲しい。

 

そういう話だった。

 

姉だけで考えた事とは思えない。恐らくは広瀬中将との連携で考えた事だろう。ダメージに目をやる。なるほど。特に前面部のダメージが大きい。急いで潜行。潜行する際には、あまり音は出ないが。

 

僅か頭上を、衝撃波が通り。がくんと超世王が揺らされた。

 

大阪湾で爆発。

 

文字通り、湾の一部が消し飛んだようだった。

 

二体目のイエローサーペントからの攻撃である。

 

大波が大阪湾全体を揺らす。それは原子力空母を一撃で破壊する衝撃波だ。しかも指向性持ち。

 

直撃したら、欠片も残らない。しかも余波だけでこれである。

 

焦るな。今ので更に船体がダメージを受けたが、今のは明らかに最初にイエローサーペントを潰した攻撃地点を狙っていた。

 

潜水しつつ、移動開始。速度を落とさざるを得ないのは、消音性が消えているからだ。ブライトイーグルに、ドローンが四方からの攻撃を仕掛けるが、それらも殆ど効果を為さない。

 

このままだと、上を取られる。

 

その瞬間、撃ち出されたのは斬魔剣の劣化版だ。牽引車両が着いている40式が、放ったのである。

 

ブライトイーグルが明らかにそれに反応。全力で回避に掛かる。それで時間が出来る。更には態勢を崩したブライトイーグルに、ミサイルが直撃。ダメージを与えることは出来ないが、確実に時間を稼ぐ。

 

潜行し、海底すれすれで移動。

 

斬魔剣は外れたようだが、それはしかたがない。

 

相手は空中にいるのだ。地上にいたキャノンレオンのようにはいかない。そのまま移動を続行。海底を擦らないように、細心の注意を払いながら、大阪湾を抜ける。ブライトイーグルが大阪湾に辿りつくのと、ほぼ同時にそれを為す。冷や汗が流れる中、モニターを続けて確認。

 

自走砲部隊の猛攻を受けながら、イエローサーペントがこっちに向かっている。冗談のような速さだ。生物だったらあり得ない速度である。カジキの仲間には時速90キロを出す者がいるが、その倍近い。しかもそれが巡航速度だし、全速力を出すつもりならどれほどの速度を出せるのか。音速を超えることは分かっているが、それですら本気か分からないのである。

 

だが、海中で無闇に衝撃波を放つつもりはないらしい。たまに直撃弾をそれで防いでいるようだが。

 

或いは海中の生態系へのダメージを懸念しているのか。

 

大阪湾から、南下。ブライトイーグルは周囲を旋回していたが、それで困惑しているようだ。

 

恐らくは、護衛していたイエローサーペントが倒れたからだろう。

 

二体目とは連携していないのか。

 

何かしらの理由があるのかも知れないが、今は詮索している余裕がない。海底を、最大戦速で急ぐ。

 

そろそろだな。

 

不意に、広瀬中将が砲撃を止めさせる。それで、いきなりの異変に、二匹目のイエローサーペントが気付く。

 

動きを止めると、周囲を周り始めた。

 

索敵していると見て良い。

 

下手をすると気付かれるな。逆らわないようにして、そのまま海流に身を任せる。超世王もダメージがある。

 

幸いというべきか。

 

辺りを無差別に衝撃波で攻撃するような真似はしてこない。やはり此奴らは、地球そのものを守護しているのか。

 

距離はあと700というところか。ただ、海底近くまで潜んでいる。この辺りはギリギリ大陸棚だが、下手をすると一気に深海に滑り落ちることになる。焦るな。言い聞かせながら、機会を窺う。

 

とにかく、相手の注意が逸れる瞬間を狙わないと、とてもではないが倒せなどはしないだろう。

 

後一手、欲しい。

 

ともかく、今は好機を狙う。

 

通信。

 

ブライトイーグルが動き出した。此方に向かっている。神戸もその間にあるが、恐らく狙いは此処だと見て良い。しかし、その割りにはイエローサーペントとの連携が微妙に取れていない。

 

どういうことだ。

 

シャドウは情報の連携をしているように思えるのだが。それは必ずしも、常に出来ている訳では無いのか。

 

焦るな。

 

ともかく、好機を窺う。

 

その時、再び斬魔剣が撃ち放たれる。そもそも第一射は外れる事を前提で撃っていたようである。

 

二射目は、神戸に向かうブライトイーグルとの間を横切るように撃たれたようで、それでブライトイーグルが足を止める。そして、恐らくだが。その放たれた斬魔剣に、イエローサーペントも気付く。

 

恐らくは、知っている。

 

気付いた奴が、海中に潜ってくる。回避行動と見て良い。念の為に下がって来ているのだろう。

 

だが、これが好機だ。

 

海流に身を任せつつ、そのまま海底を離れる。

 

やはり、予想通りだ。

 

イエローサーペントは音を聞いてはいるが、見えていない。此方に向かってくる質量体、くらいにしか超世王を考えていない。

 

距離が縮まる。

 

ブライトイーグルは旋回して、大阪湾に戻ると、マッハコーンを作っていきなり加速。海上を進み始めたようだ。あまり時間はない。だが、それでも。好機は今しかないのだ。

 

集中。

 

此処で此奴を倒すデータをもう一つ採れば、それは大きな勝利になる。ブライトイーグルは対地攻撃能力も持っているが、それ以上に危険なのが凶悪極まりないEMPだ。超世王の居場所を特定されあれを放たれたら、まず助からないだろう。潜水艦がEMPなんぞ喰らったら、それこそ鉄の棺桶として海に沈むだけである。

 

距離、50。その時、イエローサーペントは障害物として此方を認識したようで、逃れようとする。

 

だが、その時。

 

ロボットアームを伸ばして、その体に食らいついた。

 

そのまま前面を展開して、なんとかドリルを全身に叩き込む。だが、その時、イエローサーペントが凄まじい捻転をした。それにより、普段だったら掛かってはいけない負荷が超世王全体に掛かる。

 

体格的にはこっちの方が遙かに上の筈なのに。

 

海中をぐるんと振り回される。それは昔存在した遊園地の遊具に乗っているとこんな感じだろうかと思わされる凄まじさだった。だが、それでも菜々美はレバーを引き、ドリルを操作する。

 

頭がシェイクされそうだ。

 

船体が凄まじい音を立てている。あまり長時間振り回されると、そのまま水中で船体が分解するだろう。

 

だが、突き刺さったなんとかドリルが、イエローサーペントの体を抉り、高圧のプラズマを叩き込み始める。

 

だが、イエローサーペントは更に体をねじる。ぐるんと船体が周り、大きな破損が出たのが分かった。

 

アラーム。

 

船体のうち、装甲が激しく断裂した。ロボットアームも砕ける。だが、残りのアームで敵に食らいつきながら、プラズマを叩き込み続ける。海水が沸騰し、凄まじい熱量に更にアラーム。

 

生存用の領域が、凄まじい負荷に晒されている。脱出推奨。そう書かれているが、それどころじゃない。

 

今脱出したって、絶対に助かりっこない。

 

姉が作る兵器は基本的に勝てるようには作ってあるが、それ以上に現在人間がおかれている状況が悪すぎる。

 

今回はブライトイーグルは倒しようがない。

 

奴が来る前に、どうにかして此奴を倒して此処を離れるしかない。

 

ぐっと歯を噛むと、最後の一押し。

 

壊れかけのロボットアームが、完全に砕け散る。同時に、ドリルが文字通り引き裂くようにして、イエローサーペントの体を抉り抜いていた。

 

真っ逆さまになった超世王が、必死にジャイロによる平衡回復機能を用いて、正常な状態に戻ろうとしている。

 

だが、それより先に、ブライトイーグルが来ている。

 

しかし。

 

幾つかのモニタは壊れたが、それでも分かる。ブライトイーグルは、此方を見失ったと見て良い。

 

シャドウといっても万能じゃない。

 

奴は対地、対空の能力に特化していても、対潜は無理か。今はともかく、それでもいいから動かないようにする。

 

発見でもされたら終わりだ。

 

水漏れし始めた。

 

これは、さっき振り回されたとき、船体に相当なダメージが入ったな。それは分かったけれど、黙って待つしかない。

 

一応排水機能は動かしているが。

 

アラートが彼方此方のモニターに出ている。

 

排水機能を超える浸水があるということだ。

 

そして潜水艦である。

 

今は水深200メートルほどと比較的マシな場所にいるが、それでももしもこれ以上状態が悪化したら。

 

今は救援の潜水艇だって動けまい。

 

このままだと空気だってなくなる可能性が高い。

 

ブライトイーグルは、イエローサーペントが死んだ辺りを旋回して回っている。素早く計器類をチェック。

 

超世王のダメージは大きいが、かろうじて移動は可能だ。

 

音声での通信を入れる。

 

ただし音量を下げながら、だ。

 

「此方畑中中佐」

 

「畑中中佐、無事でしたか!」

 

「現在コックピットに浸水中。 酸素容量も後数時間で尽きるとみていい」

 

「急いで脱出を」

 

オペレーターに出来ないと、冷静に告げる。

 

今喋っているのですら、酸素を無駄に消耗するのだ。其処で、である。

 

ブライトイーグルが此方を捕捉できていないこと。

 

ただ流石に海面に近付くと捕捉されること。

 

奴の有するEMPに近い能力は正体不明だが、潜水艦でも喰らったらそのまま棺桶になって沈むこと。

 

これらを説明して。

 

更に依頼を入れる。

 

「これから海中の小型種がいない方向を指定して欲しい。 其方に移動する。 ブライトイーグルの探査地点から離れ次第、浮上して脱出艇で離れる」

 

「今調べます。 光学探知でしか調べられないのが問題ですが……」

 

「酸素の残りがギリギリだ。 通信を切る」

 

さて、此処からだ。

 

モニタに少しして、ガイドが映し出される。

 

よし、どうにか海岸沿いに行けば脱出出来るが、これはちょっと危ないかも知れない。前回の戦いでランスタートルを倒し、シャドウを排除した辺りギリギリである。小型に発見されたら即おだぶつ。

 

ブライトイーグルだってそれは同じだろう。

 

移動開始。

 

超世王にもう少し頑張ってくれと言い聞かす。移動すると同時に、がつんと怖い音がした。

 

また装甲がダメージを受けたとみていい。

 

潜水艦での戦闘となると、こればっかりはどうしようもない。むしろ振り回されて無事である超世王がおかしいくらいなのだ。姉が頑丈極まりない作りにしてはくれたが。それと、頭が痛い。

 

酸素が減っているのもあるが、戦闘中振り回されて、彼方此方打ったのも原因であるだろう。

 

無言で移動を続ける。

 

海底ギリギリを沿って移動して行く。

 

ブライトイーグルはまだ旋回を続けていたが、追ってくる様子は無い。だがあいつはその気になれば音速なんか鼻で笑うような速度で飛んでくる。とにかく今は、見つからないようにするしかないのだ。

 

また音。

 

今度は凹むような音だ。

 

このまま水圧で押し潰されるのでないか。

 

そんな恐怖があるが。

 

しかし、怖れていても仕方が無い。とにかく進む。メインのスクリューのパワーは殆ど動かなくなっているが。

 

どうにか補助は動く。

 

既に膝辺りまで水が来ている。

 

酸素だって少ない。

 

補助のスクリューを動かして、必死に移動。海流の力も借りて、とにかく海岸線をなぞるように進む。

 

ブライトイーグルから充分に離れるが、同時にがくんと傾いたのが分かった。

 

何かしら、かなり強い海流に捕まったらしい。あわてて逃げるのでは無く、それを利用しつつ移動速度を上げる。更に浸水が激しくなる。このままでは浮上も厳しくなるのではないかと焦りがあるが。

 

だが、それでもやる。

 

コンソールがアラートを吐かなくなった。

 

恐らく中核のシステムが死にかけているのだ。アラートどころではなくなったというわけか。

 

更に呼吸も苦しくなって、判断力が落ち始める。まずいな。まだ予定のランデブー地点までかなりある。

 

一応、緊急脱出装置は使えるが、まだ使うタイミングじゃない。

 

補助動力も、そろそろ危険な段階だ。

 

強制排水システムを用いるが、それでも焼け石に水。無駄と判断して、一度で止める。海流から外れる。それで一気に船体が揺れて、またシートに体が叩き付けられる。ぐっとうめき声が漏れる。

 

酸素ももう残り少ない。

 

後少し。

 

言い聞かせながら、操縦桿を動かす。

 

超世王は姉と菜々美の執念が乗り移ったかのように動いてくれている。本当だったら自沈していてもおかしくないだろうに。

 

既にモニタは全て水没するか死んでいる。

 

薄暗いのも、それも焦りに拍車を掛ける。

 

それでも、どうにかやる。

 

やらなければ死ぬし、出来れば情報だって可能な限り持ち帰りたいのである。この後の勝利のために。

 

よし。

 

予定地点近くまで来たはず。残りの力を利用して、一気に超世王を浮上させる。浮上してくれよ。そう呟きながら、意識が薄れるのを感じる。必死に引き戻す。浮上速度が早すぎると、体に悪影響だって出る。

 

またべこんと恐ろしい音がした。

 

何か剥落したか、それとも。

 

限界だな。

 

そう判断した。

 

そのまま、レバーを幾つか操作して、緊急脱出装置を働かせる。それも一度では動かず、ひやりとした。

 

焦りが全身を強ばらせる。

 

既に胸近くまで来ている浸水も、それを更に助長する。

 

だが、それでも必死にレバーを動かす。三度目でついに緊急脱出装置が働く。コアブロックだけを射出する仕組みだ。

 

とはいっても、コアブロックが勢いよく射出される訳でも何でも無い。超世王の船体そのものをパージして、とにかく海上に出ることだけを目的とした脱出装置である。上手く行くか。

 

姉が作った変態兵器は、それでもちゃんと動く。それには絶対の信頼もある。名前は色々とあれだが、性能が折り紙付きなのは、菜々美も知っている。

 

頭に、更にもやが掛かってくる。

 

脱出装置を働かせたからといって、いきなり酸素が補充される訳でもないし。排水がされるわけでもないのだ。

 

ただ、やがて全身ががくんと揺れた。水も激しく揺動する。

 

どうやら、水面に出たらしい。

 

超世王の船体そのものは、ゆっくり海底に行っただろう。後で回収することになる筈だ。ハッチをどうにかこじ開ける。開けると同時に水が入ってきたので、ぞっとしたが。考えて見れば水を散々被っているのだ。それは開ければ水だって入ってくるだろう。

 

水はすぐに止まり、代わりに空気が入っては来ない。今コックピットは重い二酸化炭素が多いのだ。すぐに重い体を引きずって、はしごを上がる。コックピットから脱出しないと死ぬ。

 

足を滑らせ掛けて、ひやりとした。

 

焦りでパニックを起こしそうだが、上に光が見えている。

 

これで外に出たらブライトイーグルが、とかなったら最悪だが。どうにかそれもなさそうだ。

 

ちなみに救命胴衣をつけてはいるので。脱出さえすれば、最悪泳いで岸までいかなければならない。

 

冷え切った体を無理矢理鞭打って、どうにかハッチを出る。

 

酸素を思い切り吸う。何度も深呼吸して、それで一気にくらっと来た。まあ、それもそうだ。

 

何度か荒く呼吸して、ハッチにしがみつく。また落ちたら、この状態だ。気絶して、そのままおだぶつの可能性だって高い。

 

波が行き来している。

 

顔を上げると、岸が見えている。此方に来ているのは、小型の巡視艇らしい。シャドウとの戦いには何の役にも立たないが、何隻か姉の工場に配置されているのを見た。それによるものだろう。

 

手を振る。

 

ブライトイーグルがいつ来てもおかしくない。巡視艇が側に付けて。コアブロックを急いで固定する。これは持ち帰れと言われているのだろう。

 

ぐったりしている菜々美は、もたつきながら巡視艇に移る。何人かいる兵士が敬礼してきた。

 

「流石は畑中中佐! まさか二体もイエローサーペントを倒し、しかもブライトイーグルから逃げ切るとは。 恐ろしい判断力、それに胆力です!」

 

「褒めてくれるのは嬉しいけど、ちょっとごめん。 今は急いで此処を離れて。 ブライトイーグルに発見されると、多分ひとたまりもない」

 

「ブライトイーグルは瀬戸内海方向に去りました。 大阪湾は完全に安全を取り戻した形になります!」

 

「そっか……」

 

では、警戒すべきは後は海棲の小型だけか。

 

ともかく、巡視艇が移動を開始。移動しながらこの位置を知らせ、超世王の船体を回収する作業も即座に始めるようだ。

 

小型種の攻撃もあったようだが、被害はどうか。広瀬中将が指揮を取っていたのであれば、恐らく被害は小さいと思いたいが。

 

いずれにしても、横にならせて貰う。酸素吸入器を貰い、そのまましばらくじっとする。服も脱いで、体温の低下を妨げる。ヒーターの熱がとにかく頼りになった。

 

また、勝ったか。

 

だが、億の単位いると言われるシャドウの、ほんの一部を倒しただけに過ぎない。

 

それにこれで誰か調子に乗らなければ良いのだけれど。

 

そう菜々美は思うのだった。

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