スーパーロボット活劇、超世王セイバージャッジメント 作:dwwyakata@2024
世界政府というか、そもそももう人間が残っていないので、残党をかき集めた組織。それがGDF。そしてその中でかろうじて人口がある程度残っている神戸周辺に展開している四個師団とわずかな戦力が、GDFの実働部隊です。
その中に英雄と言われている兵士がいました。
異能の科学者畑中直子博士の妹、畑中菜々美です。
別にムービーヒーローのような超人ではありません。
ただ、姉の作る変態兵器をとても上手に扱える。それ以外は、多少普通の兵士よりもスペックが高い。その程度の人なのです。
畑中菜々美は朝の訓練を終えると、ライフルの手入れをする。支給されているライフルは、対シャドウ用……といえば聞こえはいいが。小型種に何度かダメージを与えた記録が残っているだけの非力な代物。
対物ライフルでさえ小型種に傷をつける程度の威力しかない。
それを知っている菜々美は、無駄じゃないかこんな事と思いながら、愛用の銃をせっせと手入れする。
これでも北米で使われていたアサルトライフルの系譜を辿り、最終的にGDFで完成されたM44ガーディアンと言われる銃。
歴史上最強のアサルトライフルではある。しかもショットガンや狙撃銃にもなる。
問題は歴史上最強ではあっても、シャドウには無力すぎること。
GDFの神戸支部……事実上人類最後の砦を守る兵士はわずか三万。それも神戸に合流するとシャドウの攻撃を誘発する可能性があるから、四つの師団に分けられて、それぞれ神戸から少し離れた場所に基地を構えている。
菜々美がいるのは元大阪。
今は完全に更地になり、森が出来はじめている大阪の側にある基地だ。
シャドウとの小競り合いで、今まで小型だけだが、八体の撃破記録を持っている菜々美は、若くして少佐の地位を貰っているが。これは末期戦だからである。末期戦では景気よく地位が振る舞われることが多く。
ましてや小型とはいえシャドウを八体も倒した(シャドウの数は最悪億を超えるとまで言われているが)菜々美が、景気よく佐官にまで昇進したのも、不思議ではないのかも知れない。
また姉が……畑中直子が、筋金入りの変人であり。
ルックス100点、言動0点とか言われている存在であることもあって。
奇人姉妹とか言われている事を菜々美は知っていて。
それもまた、毎日ストレスになるのだった。
銃の手入れが終わると、武装を一つずつチェックしていく。
今の時点で兵器弾薬の備蓄は充分。
三万の兵士が戦うぶんには、数百年はやっていける。
シャドウは軍物資の格納庫などを積極的に破壊する事はなかった。ただしステルス戦闘機は容赦なく破壊した。
これはステルスの技術が原因ではないかと言われているらしいが。
いずれにしてもシャドウの攻撃を避けるために、現在GDFで利用している偵察機などは、ステルス技術を全て撤廃している。
またアクティブリンクシステムなどもシャドウの攻撃を受けやすいため、今は戦車なども名人芸で動かしているのが普通だ。
菜々美は戦車もいける口だが。
戦車に乗ったって、シャドウは装甲を紙切れみたいに噛み裂いてくる。
それを思うと、今では鉄の棺桶に過ぎないMBTに乗れたってと、どうしても思ってしまうのだった。
全ての手入れを終えると、外に。
宿舎の外では、空気が澄みきっている。
昔に比べて、明らかに空気がうまいらしい。あまりおおっぴらには言えないが、それについては年配の兵士が時々口にしている。
まあ、それもそうだろう。
GDFはシャドウに対する「利敵行為」をとにかく嫌っているし。
シャドウの存在が何かしらの良い事につながった、とされるような言葉を口にすると、最悪営倉行きだ。
昔はシャドウを崇めるようなカルト団体もいたらしい。
それらはみんなシャドウに殺されてしまったが。そうでなければ、今でもシャドウを崇める連中はいたのかも知れない。
黙々と歩いて、それで手にしている通信装置がなる。
また無駄な会議でもやるのかと思って連絡に出ると、姉だった。
「ハーイ菜々美ちゃん! おはよう!」
発作的に切りたくなるが我慢。
とにかく苦虫を噛み潰しながら返事する。
「もう昼だが?」
「いいのいいの今起きた所だから。 出来るだけ急いで京都基地に向かってくれる?」
「また変な玩具つくったの?」
「変とは失礼な! 画期的な対シャドウ兵器よ! そ、れ、も! 菜々美ちゃんにあわせて作ったオーダーメイド!」
げんなりである。
姉が作ったそのオーダーメイド兵器で、今まで菜々美は六体のシャドウを撃破した。いずれも小型種ばかりだが、本来は戦車でも出さない限り斃せず、それも確定で倒せるかはかなり怪しい相手だった。そしてその新兵器は、今では量産されて配備されている。
小型種といっても色々おり、四つ足で狼に似ているブラックウルフ、蛇に似ているシルバースネークなど様々だが。これらはいずれも凄まじい速度で接近してきて、兵士達を食い殺す。
人間を殺した後は、他の小型種である「クリーナー」が来て、死体を装備ごと溶かしてしまう。
こうして遺体すら残らない。
既に5000万にまで減った人間だが、その遺体が殆ど残っていないのも、そうしてクリーナーに始末されたからだ。
それを人間の尊厳への挑戦ととるか。
効率的な人間の処理ととるのかは。
菜々美には何とも判断が難しい。
「とりあえずまたシャドウを殺せば良い訳ね。 今度はどんな玩具な訳」
「ふふふ、ひみつ☆」
「さいですか」
聞いているだけで疲れる。
見た目だけは最高と言われる姉は、中身が残念すぎることでまあ菜々美も呆れる程ではあるが。
しかし、別に菜々美と仲が悪い訳ではない。
悪党ではあるかも知れないが。
別に邪悪ではない。
だからどうでもいい。
ジープに乗る。
菜々美は佐官という事もあって、更には既に許可が出ていることもある。また、人間が減りに減った今、実の所治安は滅茶苦茶良くなっている。
一時期は混乱に乗じてマフィアだのが跋扈したらしいが、それらはみんなシャドウが駆除してしまった。
今や人類の歴史上一番安全な時代だなんて言われている程で。
ジープで移動している間も、特に何か言われるようなこともない。
時々思うのだ。
シャドウがこのまま攻めてこないのなら、戦わなくてもいいのではないかと。
英雄とも思えない考えだが。
別になりたくてなったわけではない。
無駄に焼けやすい肌も、野性的で男みたいと言われる容姿も。それで男よりも女にもてまくることも。
不満は色々あるが。
それでも、平和なことは嫌いじゃない。
シャドウに対する画期的な兵器か。
もしもこのままシャドウと共存出来るなら。
口に出してはいえないことだが。
どうしてもそう考えてしまうのだ。
ジープで移動を続ける。舗装道路はかなりやられているが、この辺りは出来るだけ出ないようにと達しがでているから。
神戸や基地周辺はしっかり舗装が生きている。
ジープは時々激しく揺れるが。
別に不愉快な程でもなかった。
基地に到着。ちなみに京都基地といいながら、実際にあるのは奈良県南部だ。京都は敵の勢力下にあり、大阪ですら危ないのである。菜々美のことは知られていて、ゲートはすぐに通してくれる。シャドウは人間に擬態とかそういったことをする必要もない存在で、その基地への侵入は警戒しなくてもいい。
むしろ人間の犯罪者の方が警戒する必要があるくらいだが。
それもここ数年は話すらきかない。
この基地は工場があって、其処では色々な兵器が作られている。人間側も必死なのではある。
半ば諦めている者も多い中。
それでも諦めずに、勝利を目指している者はいる。
菜々美はどうなのだろう。
ともかくIDカードで、工場内に入る。姉は細かく指示しながら、それを作りあげている最中だった。
また随分と不格好なものを作ったな。
ちょっとあきれた。
以前から、菜々美は戦闘力を買われて、新作兵器を用いてのシャドウ撃破にかり出されている。
それでシャドウを倒して見せたから英雄扱いされているわけだが。
これに乗るのか。
ちょっと顔が引きつるのが分かった。
いわゆるロボットアニメには、ロマンがある格好いい人型ロボットがたくさん出てくる。そういうのとは傾向が違う、無骨なデザインのいわゆるリアルロボットという奴もたくさんいる。
だが、これは。
それらとは違う。
車体になっているのは恐らくGDFのMBTである40式戦車か。整地走行速度80キロを安定して出し、その速度からの射撃で10キロ先の時速70キロで移動する相手に百発百中させる凄まじい射撃精度が強みだ。10式戦車の更に二世代後の戦車である。
装甲に関してもあのM1エイブラムスを上回る強力なもので、人間相手の戦争だったら最強だろう。
だが、シャドウ相手には、戦績が芳しくない。
前衛を張ろうにも、この40式の装甲を持ってしても、小型シャドウの攻撃を防ぐことすら厳しい。
中型以上が相手だと、薙ぎ払われてまとめて消し飛ぶだけ。
そういう悲しき戦車である。
ゆえに鉄の棺桶などと言われているが。
それも妥当だろうと菜々美は思っていた。
そして、それに接続されているばかでかい刃物は何だ。
姉が満面の笑みで来る。
「みてみてー! 菜々美ちゃんのために作ってるスーパーロボットよ!」
「これが?」
「これが!」
嬉しそうな姉。
死んだ目の作業員達。
特に助手の三池さんは、完全に帰らせてくれと顔に書いていた。気持ちは嫌になる程わかる。
「後幾つかのギミックがついたら、これも完成!」
「で、これで何と戦うと」
「京都にいるキャノンレオン」
「!」
ぞくりと来た。
キャノンレオンは中型シャドウで、その凄まじい射撃精度で多数の人間を殺して来た凶悪な種だ。
人間が軍隊で組織的に反撃していた頃、一個師団が此奴に返り討ちにされたという記録が残っている。それもこいつ一体にである。
それを、この不格好な40式と変なでかい刃物で倒せというのか。
流石に菜々美もこれは死を覚悟するが。
けらけらと姉は笑う。
「大丈夫大丈夫。 シャドウの性質と菜々美ちゃんの性能を計算する限り、勝率は88パーセント。 そしてこれで勝てば、もっと予算が出るから、このスーパーロボット「超世王セイバージャッジメント」ももっとバージョンアップ出来るわ」
「いや名前。 そのスーパーロボットそのまんまの名前と、この格好、何もかもがあってない!」
流石に泡をくって菜々美が言うが。
姉は細かい指示をいきなり出し始め、クレーンが動いて作業を進める。
断って良いだろうか。
いや、これは断って帰れる雰囲気では無い。
しかも姉の計算は当たるのだ。
だいたい9回に8回は勝てると。
なんだか聞いているとくらくらするが、それよりも泣きたくなってきた。
今までも変な武器を持たされてシャドウと戦わされ。なんとか生き残ってきたのだが。その度に姉は菜々美を大喜びでなで回して、周囲の遠い目を尻目にしていた。今度もこんな名前が明らかにおかしい兵器に乗せられて、寄りにもよってキャノンレオンとやりあわされるのか。
色々混乱する菜々美に、姉は更に言う。
「シミュレーターは組んであるから、早速乗って頂戴」
「シミュレーターって……」
「都度バージョンアップするからね!」
「……ハイ」
なんだか悲しくなってきた。
とりあえず、同情の視線を向けてきている三池に案内されて、そのままシミュレーターに向かう。
シミュレーターは卵形の筐体になっていて、その中で全ての感覚を再現できる。この程度の技術は、今の人類にはある。
シャドウが現れなければ、宇宙進出出来ていた。
そんな声もあるらしいが、それは果たしてどうだろう。
シャドウが現れる前、人類は狂ったように自分が住む地球を破壊し続けていた。それは自分の金さえあればいいというくだらない理由からだった。地球だけじゃない。人類の間でさえ致命的な依存性薬物を小金を稼ぐためにばらまきあったり、意味不明の理屈で文化や芸術を破壊し合ったりしていたようである。
そして今。シャドウがそういった連中を全て処理してしまった結果。
むしろやっと、技術が適切に進歩しているのではないかとすら思うのだ。
ともかくシートにつく。
このシートは40式ベースか。
人員が足りなくなってきたこともある。40式は基本的に一人操作の戦車だ。古くは三人から四人が乗るのが当たり前だったが、今の戦車は一人で動かせる。
操作については、かなり分かりやすい。
姉は変態兵器ばかり作るが、兵器の操作方法そのものはとても親切に作られている。
実際、菜々美が小型シャドウを倒せる事を証明した幾つかの兵器は、ダウングレードして戦線に配備されている。
小型シャドウとの戦闘は殆ど今では起きていないのも事実だが。
それでも年に何度か小競り合いはあり。
その度に戦果も挙げている。
そういう実績があるから。
姉が無法を許されているのだろう。
ともかくなんとか王せいばーなんとかを動かす事を考えて、操縦桿を握る。
姉の作る兵器は使いやすいが。
一つ欠点がある。
膨大なデータがモニタに出てくる。これだ。
あらゆる情報を一気に繰り出してくる。
これがあって、ほとんどのテスターが音を上げてしまうのだ。
畑中姉妹に依存するのはまずいのではないのか。
そういう声もGDF上層から上がっていたらしいが。
それも実績を前に黙らされ。
この膨大な情報についていける菜々美が重宝されているのも。まあ、素の頭の出来が良いからなのだろう。
あまり実感は無い。
そもそも菜々美と姉の両親は、極凡庸な人間だったと聞いている。シャドウに殺された普通の親子。
血統主義を掲げる人間には色々許しがたいのかも知れない。
まあ、それもまた、どうでもいいことだ。
黙々と操作をする。
なるほど、やり方は理解できた。
短時間で情報を取り込み、そして自分のものにする。それが菜々美の兵士としての強さである。
菜々美のフィジカルはせいぜい並みかそれよりちょっと上くらい。
女性兵士としては少し背が高いが、容姿が野性的すぎて男と勘違いされる事もあって。男はさっぱりよってこない。
前に聞いたのだが、気配が怖すぎるとか言われるらしい。
そんな事を言われてもしらん。
別に着飾りたいと思った事はないが、それでも色々思うところはある。
ともかく色々と、やれることを今はやるしかない。
キャノンレオンが被害を出しているのは事実。それにキャノンレオンは確か日本だけで十数体が確認されている筈。シャドウで一体しか同種族が確認されていないような奴は大型種くらいで、それ以外は基本的にどの種もたくさんいるのだ。
アウトレンジから必殺攻撃をしてくる此奴を斃せるようになれば、色々と行動の自由が確保できるのも事実。
そういう意味で、姉がつくったゲテモノ兵器を使いこなせるようになるのには大いに意義がある。
操作を確認。
理論通りに動くなら、なんとかやれそうである。
姉は自分の発明品によく分からない癖をつけることが多いのだが、その癖ごとこのシミュレーターは再現されている。
これを片手間に組んだのだろうから、姉の凄まじさはよく分かるし。
あのおぞましいパワポのプレゼンが許されているのも理解出来る。
だが、この斬魔剣とかいう名前負けも著しすぎる代物、どうにかならないのか。なんか人型の格好いいロボが振るいそうな武器なのに。
まずはシミュレーションを重ねる。
使い方もまたなんというか。
なんとか王なんとかいう凄く格好良い名前と裏腹の、泥臭いというかなんというか。ものすごく色々と言いたいことがある。
姉はネーミングセンスだけは中学二年生の男子なので、菜々美もとにかく恥ずかしい名前の装備を今まで散々操作させられてきたが。
ついにスーパーロボットの名前をつけられたもはやロボットですらない代物に乗せられてしまって。
スーパーロボット愛好家に睨まれそうである。
ともかくだ。
それも我慢して、練習をする。
菜々美でもこれは操作が難しい。
とにかくあらゆる意味で癖が強すぎるのである。
癖そのものは掴んだ。
だが、それでもかなり難しい。
まずは「斬魔剣」だとかを振り下ろす事からだ。それも、振り下ろすだけで一苦労である。
目標に命中させるのには、まずは実績を重ねなければならない。
実績さえ積めば、其処から分析して、姉が操作補助用のシステムをくみ上げる。機材の微調整は三池がやるのだろう。
そのためには、まずは当てる事。
シミュレーターでしばらく練習をして、動く相手に当てる練習を重ねる。
まったく、戦車砲が通じない相手だからと言って。こんな原始的な機構で、時速100キロを軽く超えて動き回る上に、精確に射撃してくる相手に精密に命中させなければならないのだ。
たまったものじゃない。
それに、である。
この作戦には、生き残っているGDFの兵士達が相当数参加するらしい。
まあ小型種のシャドウを近づけないためなのだから、仕方がないが。そう言った兵士達に直衛は頼む事になる。
小型種ですら、昔は一体倒すのですら膨大な被害を出していた。
今は単にシャドウと交戦する事が減ったから被害が減っただけ。
もしも菜々美がキャノンレオンを倒し損ねたら。
その被害が更に激増するどころか。
再びシャドウが攻撃を再開して、神戸が潰されるかも知れない。
プレッシャーは重い。
黙々と操作を続けていると、だいぶ時間が経っていた。警告音が鳴ったのでシミュレーターからでる。
以前から集中しすぎて消耗する事が多く。
それで新兵の頃、何度か倒れた。
それもあって、菜々美はアラームをセットして訓練するようにしている。特に姉が作ったゲテモノ兵器のシミュレーションをする時にはなおさらだ。
シミュレーターから出ると、姉がにこにこに微笑んでいる。
笑顔だけなら生半可な芸能人だとかアイドルだとかよりもよっぽど綺麗なのだが。この姉が天才だがアホであることを知っている菜々美はげんなりした。
「どう、菜々美ちゃん。 当てられた?」
「今の所命中率は2%強かな。 止まっている相手にはだいたい当てられるようにはなってきた」
「素晴らしいわ! 私の計算だと、当てるだけで普通の兵士は無理だって思ってたからね!」
「いや止まった的にすら当てられない兵器を作るなよ」
思わず突っ込みをいれてしまうが。
ただ、菜々美からしても、理屈そのものは分からなくもない。
パワポで説明されたら多分正気を失いかねないからそれは御免被るのだが。
ともかく理論上は中型シャドウを殺す事が可能になるかも知れない。それだけで、随分大きい。
今はシャドウの機嫌次第でいつ人間が滅びてもおかしくない。
それを考えると。
シャドウを全滅させる、とまでいかなくても。
少なくともシャドウに対抗出来るようになるのは必須だ。
それに、五千万まで減った人類でも、資源は食う。
如何にテクノロジーがまだ残っているといっても、このままいくとそれすら維持できなくなる。
そうなればまたシャドウが攻撃を再開したとき。
もはや人間は対抗できないだろう。
その程度の事は菜々美だって理解出来る。
だから、シミュレーションには協力するしかない。それについては、協力する意欲だってある。
「今日はもう休んでね。 シミュレーターの結果を見て、調整をしておくからね!」
「分かった。 頼むよ姉ちゃん」
「任されたっ! さあ、ここからが本番よ! ウフフフフ、ハーッハッハッハッハッハッハ!」
いきなり高笑いを始める姉を見て、周囲の整備工達が呆然としている。
完全に悪の博士の高笑いだが、もうどうでもいい。
姉がこういう研究開発をするようになってから、整備では姉の色々アレなところは知られているだろうし。
今更驚く奴もいないだろう。
見ていてとても疲れるが。
それくらいでシャドウを斃せるのだったら、それくらいは我慢して貰わなければならない。
我慢するのは菜々美も同じだ。
シャドウを斃せるようになる。
それについては、菜々美だって意義はよく分かっているのだから。
疲れながら、兵舎に戻る。
そしてぼんやりしていると、上官である菱田中佐から連絡が入った。
軍用の携帯端末で連絡を受ける。
「新兵器の様子はどうかね」
「姉の仕事は早くて、今の時点で既にプロトタイプとして仕上がっています。 ただ、実用にこぎ着けるまではまだかかります。 今の時点では、小官でも当てるのは厳しいでしょうね」
「分かった。 そのまま訓練と調整を続けてくれ。 完成し次第、京都に陣取るキャノンレオンを討ち取る」
「イエッサ」
通信を切る。
溜息が出た。菱田はただ生き残っただけで中佐になった男で指揮能力は皆無に等しいが、ただし度量は大きく、姉や菜々美にフリーハンドで作戦を任せてくれる。それだけはありがたい。
今日は早めに寝る。
姉と一緒にいるととても疲れる。早めに疲れは取っておかなければならないのだ。
勝つためにも。
※シャドウについての更なる細かい話。
シャドウには小中大と三種に別れます。
このうち大型シャドウは世界で八体しか確認されておらず、しかも人間を掃討した今は一体だけが確認されています。これはシャドウが本当にどうやって現れているかも分かっておらず、そもそも観測の手段が無いことも理由の一つですね。ちなみにこの大型はズバリ魔王と言われていて、北極近辺……アラスカやシベリア辺りをうろうろし続けています。目的については分かっていません。
中型は強力なシャドウで、それぞれが一個師団を蹂躙する程の力を持っています。空母打撃群を単騎で潰した奴まで存在しています。既存の兵器では何をやっても斃せません。序章後書きでも説明したとおり、核による僅かな撃破例はただの誤認の結果です。
小型種は体長二m程の種が多く、陸上海中を主体に生息しています。ただ此奴らも、単騎で戦車をひっくり返すパワーを持ち、生半可な武器では傷一つつけられない上に、チーターも吃驚の速度で走り回るのですが。ちなみに小型種は撃破例がありますが、それでも既存の火器ではまず斃せない上に、億単位でいます。戦車砲ですら倒れないので、歩兵での撃破は困難を極めるのです。
第一話では中型シャドウの一種、キャノンレオンを相手にします。高速機動しながら高出力プラズマを吐いて来る軍勢を潰す事に長けた中型で、一発で連隊規模の部隊が蒸発する火力と、主力戦車ではとても追いつけない速力、あらゆる兵器が通じない(今までは)防御力を有しています。
こいつをどう仕留めるかが第一話の課題。
そして、こいつを斃せれば、初の中型撃破になるのです。
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