スーパーロボット活劇、超世王セイバージャッジメント 作:dwwyakata@2024
総力戦開始。
二体いるどっちの中型も一度攻撃を通させれば、師団規模の壊滅がおきます。
超世王セイバージャッジメントと、それに乗っている畑中菜々美さんの負担は激甚となります。
第二師団とともに、再び四国に進出する。今回は第三師団の増田中将が後ろを守ってくれる。
ここ二回の戦闘での被害が小さく済んだこともあり、部隊の再編も続けられている。新兵ばかりだったが、それもある程度訓練を積んで、多少はマシになったようだ。後は人間の数だが。
クローンでの人間作成を増やす事が決定したらしい。
近年は子育ては殆どが専用のロボットによって行われているし、教育は催眠学習で詰め込んでしまうので。子育てに掛かる人員はほぼ必要なくなっている。これは老人介護も同じだ。
ただ、大人で知識もあるクローンを作り出す事なんてできない。
それが出来る技術はまだない。
それもあって、人が減れば補充するのに二十年掛かる。
その状況は、何も変わっていない。
ちなみに、広瀬大将や菜々美、姉のクローンや、遺伝子データを半分持たされた子供が大量生産されているらしい。
知らない間に子供がわんさか増えていると言う訳だ。
しかしそれらの子供が天才になるかというと答えはノーだろう。
優生論なんて真面目に信じている連中は落胆するだろうが、そう世の中は甘くはないのだから。
軍部隊の展開が終わる。
菜々美もそれに混じって、超世王を前線に進ませる。
はっきりいってあまり気持ちが良い姿ではない。また、前回に比べて、武装もあまり変わっていない。
なんとかシールドを装備したが、これは回数制だ。一応補給用の車両も控えているが、少なくともストライプタイガーを倒すのは、スプリングアナコンダの精密射撃を何度か防いでからになる。
そしてそもそもとして、スプリングアナコンダは攻撃の優先順位を明確に見定めて狙って来る。
無駄に頭が二つある訳ではないのである。
三角測量に近い形で頭を使っているのか、そうではないのかはよく分からないが。
いずれにしても、奴の射程に軍部隊が入るのは自殺行為だ。
わらわらと現れる小型。
四国全土に残っていた小型が集結してきているとみていい。クリーナーも相当数がいるだろう。
狙撃大隊が展開を終える。
第二師団前衛の少し後ろに控えている指揮車両の中から、広瀬大将が指揮を飛ばしていた。
「攻撃開始。 予定通り、小型を駆逐します。 超世王セイバージャッジメントに、今回の会戦で小型が一体も近付かない事を目標に、各自射すくめてください」
「了解! 制圧射撃開始!」
「効力射!」
螺旋穿孔砲を装備した部隊が展開して、一斉射撃を開始する。凄まじい火線が飛び交う中、それらの射撃が次々にシャドウを打ち倒して行く。
小型シャドウが一斉に来る。
一応、スプリングアナコンダの有効射程よりもかなり余裕を持って射撃をしているが。今回は全面からの圧力が強烈だ。ブラックウルフもシルバースネークも、相当数が出て来ている。
クリーナーもいる。
クリーナーは前衛にいるが、これは恐らく弾よけなのだろう。クリーナーといえど、もしも接近を許せば一瞬で溶かされてしまう恐ろしい相手だ。近寄らせるわけにはいかない。
優先度としては、ブラックウルフ、毒吐きの射程に入るシルバースネーク、クリーナーだろうが。
ちょっとこれは、数が予想外に多い。
そもそも此奴ら、どこから四国に入ってきたのか。
それを突き止めない限り、今回のデコイが発覚して右往左往、なんて事件は今後幾らでも起きる事だろう。
狙撃大隊が頑張っているが、今のうちに改良した斬魔剣を試しておく。
前に出て、クリーナーとブラックウルフを、右に左に斬り倒す。ロボットアームだから、関節とか人間のものとは関係無しに動かせる。良い感じだ。そのまま斬り伏せ、切り倒し、狙撃大隊の負担を減らす。ただ圧力がかなり強烈だ。
歩兵戦闘車に装備されたオートキャノンが良い仕事をしているが、それにも限界がある。
空軍がいれば多少はマシに……いやダメか。
ブライトイーグルが九州にいて、その気になればいつでも戦場に出てくる。奴が出てきた瞬間、あらゆる航空機はそのまま真下に落ちる事になる。ドローンはただのがらくたと化す。
空軍が力を発揮するには、ブライトイーグルがいない範囲をもっと拡げるしかない。
少なくとも航空兵器で制空権を取れる時代なんて、とっくに終わってしまっているのだから。
「第三連隊、第四連隊、それぞれ300後退。 畑中大佐、少し後退してください」
「了解。 足並みを揃えます」
飛びかかってきたブラックウルフとクリーナーを、それぞれ右左に斬り伏せつつさがる。斬り伏せるというが、全体重を掛けて斬っているような事は無く、文字通りロボットアームを振り回して弾き斬るような感じだ。あまり綺麗に斬っている形ではない……のだが。このロボットアームと機体左右に生えている二対の足は、あらゆる武術を研究し尽くした上で動きをしている。
原理的には達人が作りあげた技と同じようにシャドウを斬っているはずだ。
菜々美自身も忙しく、状況に応じて超世王セイバージャッジメントを動かしている。シルバースネークがかなり前衛に出て来た。味方がクロスファイヤーポイントに引きずり込んだが、倒し切れない。
置き盾の内側に、歩兵戦闘車がさがる。
置き盾に盛大に毒がぶっかけられ、一瞬で溶かされてしまった。姉の作ったヒヒイロカネなんとか装甲も、限界がある。少なくともスプライトタイガーの爪やシルバースネークの毒液の前には無力である。
追いすがってきている小型を蹴散らしつつ、さがる。
味方が陣容を再編しつつ、小型を撃ち払っているが。それでもまだまだ小型が来る。第三師団が守っている淡路島の基地に、ブルーカイマンが迫っているようだ。第三師団も、基地に据え付けられているオートキャノンと連携して、ブルーカイマンの迎撃を開始したようである。
橋は今の時点では問題がない。
それに最初にストライプタイガーと戦った時に比べて、かなり四国の奥まで侵攻している。
いきなり追い落とされる事もない。
「スプリングアナコンダ、ストライプタイガー、どちらからも監視を外さないようにしてください」
「はっ! ……ストライプタイガー、移動を開始!」
「!」
「ゆっくりですが、西に移動中!」
レールキャノンを打ち込むように。
即座に広瀬大将が指示を出し、レールキャノンが咆哮する。マッハ17に達する弾丸がストライプタイガーを襲うが、直撃してもなんのダメージもない。質量攻撃は通用しないのだ。
ただし、意味はある。
ストライプタイガーが本物だと言う事がわかるのである。
同時に、スプリングアナコンダへ断続的な射撃が始まる。
これもちゃんと直撃はしている。
まるで通用していないというだけだ。
それでも相手が本物だと言う事だけは分かる。あの弾一発一発が、とんでもないコストが掛かっているが。
それでも湯水のように人命を浪費するよりマシだ。
「ストライプタイガーの狙いはなんでしょうね」
「……両者が離れたことは好機とも見えますが、或いは攻撃を誘発しようとしているのかも知れません」
「ふむ。 だとすると、待ちますか」
「いえ、小型の攻撃をある程度捌いたら誘いに乗ります。 問題は何を手札として隠しているかが気になる事ですが」
シャドウは頭脳戦くらいこなして来る。
広瀬大将は、それを前提に動いている。
そもそもシャドウの性能は、人間の兵器をこれでもかとメタったものばかりだ。偶然とはとても思えない。
いずれにしても、行く。
味方の攻撃が、現状の超世王の装備構成では対応できないシルバースネークに集中する。超世王に近付いてくる雑魚は、斬魔剣で切り伏せる。そのまま、スプリングアナコンダの射程まで踏み込んで。
それから、全速力で加速する。
足を上げて、無限軌道を用いて加速。
40式がベースで、それを更に改良しているのだ。その気になれば時速90㎞まで出るし、なんなら悪路でも70㎞は出る。
突貫。
スプリングアナコンダが、此方を認識。
熱源反応。
オートでなんとかシールドが展開した。
それは、かっこいい盾ではない。少なくともカイトシールドとかの、一般的に想像される盾とは完全に形状が別物だ。
それは風船である。
実は空気というのは極めて温度を通しにくい。毛皮が暖かい理由は、毛が暖かいのではなく。
毛の間にあるいわゆるデッドエアが、温度の伝達を防いでいるからだ。
更に真空となると、熱の伝導は更に難しくなる。
熱というのは分子が激しく運動している状態で生じている。真空では伝わらないとは言わないが、いずれにしても熱は極めて伝導しづらい。
このなんとかシールドは、いきなり至近に出現する高熱に対して、中身が真空に近い風船を膨らませる。
熱が直撃。
だが風船が破裂すると同時に、熱を耐えられるレベルまで抑え込む。今回の超世王は、装甲を対熱に全振りしている。これでどうにか対処可能だ。
しかし、それでも機体が揺れる。
かなり強烈だが、流石は姉が作った変態兵器だ。しっかり超遠距離からの反物質攻撃という意味不明な攻撃を防ぎ切って見せている。
その代わり、装甲を犠牲にしている。
これは何発も耐えられないな。それを理解した。
早速スプリングアナコンダは次弾装填を始めている様子だ。それに、スプライトタイガーがこっちに全速力で突貫を開始。
速度はいきなり音速を超えている。
いや、しかもこれは。
熱源反応発生と同時に仕掛けて来るつもりか。
なるほど、最初から此方の出方を窺っていた。その上で、どうしかけるかも決めていたと言う訳か。
それに、今のなんとかシールドの構造を見て、視界が防がれるとも判断したのだろう。判断は間違っていない。
どんだけ此方が高性能の戦術コンピュータで支援していようが。
菜々美自身が支援プログラムを受けているとは言え、名人芸で操作していようが。視界が防がれるあのなんとかシールドは、明確に仕掛ける隙だと判断したのは間違っていない。
だが、その程度。
此方が予測していないとでも思うなよ。
文字通り、スプライトタイガーが崖を駆け下りる勢いで迫ってくる。この場に何がいようと対応できる速度では無い。
CIWSでも、最高速度の此奴を追うのがやっと。
バルカンファランクスの弾丸でも、当たるかどうか。
そんな文字通りの疾風で来る。
目の前で、左にステップするストライプタイガー。
同時に、スプリングアナコンダの熱攻撃が炸裂していた。
シールドが展開され、同時に機体が激しく揺動する。凄まじい衝撃だが、菜々美は歯を噛んでこらえる。
その瞬間、レバーを即座に引く。
今のシールドの死角に入り込んだストライプタイガーが仕掛けて来るのなら、上ではない。
上は隙を晒す事になる。
右か左か。
そして、今機体は傾いて、明確に右に隙を晒した。
それを見たスプライトタイガーが、右に来ないわけがない。勿論刹那の瞬間、それも機体が激しく揺動している状況。
判断した菜々美は、文字通り周囲がゆっくり見えるのさえ感じていた。
激しい激突音とともに、突貫を掛けて来たスプライトタイガーが捕獲される。
まんまこの間と同じ装備で来ると思ったか。
ちょうどパンを掴むトングのように。
今回の斬魔剣は、二枚刃だ。
正確には空中機動すらするスプライトタイガーに対して、一発で決めるために作られたサイドアームがあり。
それによって、スプライトタイガーを挟み込んだのである。
そのまま、地面に叩き付ける。
暴れるスプライトタイガーだが、それも計算してのサイドアームだ。前回の戦闘で至近距離を抉られて、危うく頭を真っ二つにされるところだった。
だが、それでスプライトタイガーの間合いは把握できた。
間合いを把握したから、少なくとも斬魔剣で斬るムーブに入るための時間を稼ぐため、しかも間合いの外で抑え込むためのサイドアームがあればいい。
姉はそうして、ロボットアームを改良したのである。
凄まじい圧力が、サイドアームに掛かる。
既に斬魔剣がスプライトタイガーを斬り始めているが、生物ではあり得ない角度に手足を曲げ、拘束を解こうと魔の虎は暴れ狂う。
大人しくしろと言ってもするわけがない。
サイドアームも、二度のスプリングアナコンダからの熱攻撃でダメージは受けている。これは、抑え込む事は厳しいか。
サイドアームからダメージのアラーム。
スプライトタイガーの爪が抉ったのだろう。複雑な構造にしてあり、ちょっとやそっとで壊れるようにはなっていないが。
それでもがつんと、機体が揺れる。
歯を噛む。
やっぱりこの虎は手強いな。だが、それでもどうにかしなければならない。此奴が第二師団に殴り込んだら、止めるすべが無い。とにかく今は、此処で仕留めていかなければならないのだ。
斬魔剣自体の改良も進んでいて、更に破壊力が上がっている。それでも、超高熱を長時間当て続けないとシャドウ、特に中型種を殺せないのは同じだ。大型種に同じ手段が効くかはまだ未知数だが、ともかく今はこの虎を始末しなければならない。
アラーム。
もう十秒で、もう一発熱攻撃が飛んでくる。
機体のダメージを確認。これは、ちょっと余力が無いかも知れない。だから、一気にスプライトタイガーを斬りに行く。だが、その焦りの瞬間、スプライトタイガーが体を乱暴に振るって、サイドアームを粉砕していた。
だが、逃れるまでには至らない。
ただ、斬魔剣が激しく弾かれて、ロボットアームにダメージが入る。スプライトタイガーが瀕死で逃れようとするが、最後につながっていた胴体を斬魔剣で切り裂く。同時に、熱攻撃が着弾していた。
ぐっと呻いて、機体の揺れを耐える。
毎回シートは改良されている筈だが、それでも強烈だ。
呻きながら、ダメージを確認。なんとかシールドで今回も防いだには防いだ。だが、これは。
機体のダメージ大。スプリングアナコンダの位置。
まずい。かなり第二師団に接近している。わずかの時間での攻防で、あれだけ動けるのか。
流石にあいつも中型種でないというわけだ。
時速百キロ以上で動き回るのはどのシャドウも同じだが。このままだと、第二師団があの熱攻撃に晒される。
更に下手をすると、速度差で逃げられる。
サイドアームをパージ。もう使えないので、少しでも重量を減らす。
診断プログラムを走らせて、斬魔剣のロボットアームを調整させる。同時に足を上げて無限軌道に変更。
全速力で、スプリングアナコンダに向かう。
スプリングアナコンダの双頭が、同時に鎌首をもたげて此方を見る。
見かけは蛇っぽいが、顔は蛇には全く似ていない。どちらかというとあれは……猫だろうか。
それが余計に不気味な見かけを作り出していると言える。
レールキャノンが咆哮。
彼方此方に出現したデコイを、次々に撃ち抜いているようだ。更に、スプリングアナコンダにも着弾。
あれが本物だと知らせるように。
見た。
スプリングアナコンダの双頭が、同時に白熱していく。
あれはどういう仕組みかよく分からないが、多分あの視点の交差点が、熱攻撃の着弾点になっていると見て良い。
そしてそれは、此方を狙って来ていた。
だが、着弾点をそれで分かるのなら、更にマシになるかも知れない。接近。最大速度を保って、四分後に接敵。後四発は最低でも耐えなければならない。
小型が迫ってくるが、それは味方の狙撃大隊が始末してくれる。本能的にドリフトした。シルバースネークの毒吐き。下手すると直撃する所だったが、一瞬早く回避に成功した。直撃していたら機体を溶かされて即死だった。冷や汗が出る。狙撃大隊も、とっくにスプリングアナコンダの射程内に入り込んで、優先してくれている。小型と一部で接触してしまっているが、それでも他の味方と連携しながら、必死に戦ってくれているようだ。
これは被害が出るのは抑えられない。
そしてスプリングアナコンダを倒し切れなかったら、その被害が全て無駄になる。更に突貫。
熱攻撃が着弾。
激しい揺れを機体が襲う。
今ので無限軌道の片方の履帯が外れた。だが、それでも走るのに支障はない。足を使うのは最終手段だ。少し速度が落ちる。これでは、接敵まで更にもう一発直撃を耐えなければならないか。
シールドの残弾数を見て、ふっと笑った。
シールドを丁度使い切る。
もともと瞬間的に膨らませ、しかも真空を内部に作るという技術が相当なものなのである。
それを幾つも使い捨てとして装着する時点で、姉の変態技術がよく分かる。
性能は信頼している。
だから、突貫する。
小型を斬り払う。ブラックウルフやクリーナーが押し寄せてくるが、大半は第二師団が狙撃で始末してくれる。それでも倒し切れない者だけを仕留める。
斬魔剣のダメージも蓄積してきている。
斬魔剣だけではなく、それを振るう為のロボットアームのダメージがまずい。というか、相手はこの機構を理解した上で、熱攻撃を仕掛けてきている可能性が高い。このまま接近する間に消耗すれば、それは。
スプリングアナコンダの至近に、発射型の斬魔剣が着弾。その動きが一瞬だけ鈍る。どうも呉美中尉がやってくれたようだ。大丈夫、それだけで値千金である。数秒を稼いだことで、多分着弾回数が一回減る。
前に、少しでも進め。
至近、シルバースネーク。味方大隊を狙っているそいつを、毒吐き前に斬魔剣で一閃する。
乱戦の中だ。
どうしてもこう言う事は起きる。
毒吐きは阻止したが、毒は僅かに飛び散って、残っていた無限軌道の履帯が粉々に融解する。パージ。履帯は両方はずれてしまった。
大丈夫。
超世王の今回の機体のベースになっている40式は、ずっと改良を重ねてきた戦車だ。シャドウ相手には手も足も出無い事は分かっていても、それでも歯を食いしばって改良を重ねてきた戦車なのだ。
やれる。
そのまま、速度を更に上げる。
熱攻撃が着弾。装甲が一部剥離。機体が激しく揺れて、シートに叩き付けられる。だが、ぐっと呻きつつも、舌は噛まない。
スプリングアナコンダは、また至近に斬魔剣が着弾した事もあって逃げる事は出来ないでいる。
もしもスプリングアナコンダを狙った攻撃だったら、当ててしまってもかまわないのだが。
恐らく、小型が狙って来ていて、厳しいのだろう。
動きを止めないと厳しいというのもある。
もう、至近にまで迫る。
岩を乗り越えて、超世王が跳躍する。着地の時、酷いだろうなと思いながらも、それでもぐっとレバーを引く。
更に加速だ。
空中で、熱攻撃が着弾。
シールドがまた防ぐが、それでも対熱装甲が吹っ飛ばされる。というか、焼け付くように熱い。
熱が機体内部に入り込んで来たのだ。
着地。
跳ね上げられるような衝撃が来たが、超世王は耐える。まあ40式なんだから耐えるはずだ。そう信じて、スプリングアナコンダに躍りかかる。
相手が、その瞬間。
想像をしていない行動に出た。
双頭の口から同時に、炎を吐いたのだ。遠距離熱攻撃ではなく、至近に迫った相手には、こんな手があったのか。
シールドが防ぐほどでは無いが、奔流になる程のとんでもない火焔である。当然、車内にも焼け付くような熱が入ってくる。対熱装甲をぶっ壊されたのだ。これではコアパーツが熱暴走で壊れるのも時間の問題だが。
そのまま。斬魔剣を振り下ろす。
逃げられないスプリングアナコンダの頭の一つに、斬魔剣が食い込む。それで炎が消え、斬魔剣が奴の体に食い込んでいく。頭の一つから斬り込み、更に体を蒲焼きにするかのように、ぐっと切り裂いていく。
もう一つの頭が、車体に巻き付いてくる。
まだ放熱の最中だというのに、無茶苦茶だ。もの凄いパワーだが、本来はこんな攻撃はしないのだろう。
だがそれでも、壊れかけの超世王が悲鳴を上げている。
ガゴンともの凄い音がして、至近の装甲が喰い破られた。間近で、スプリングアナコンダがこっちを覗き込んでいる。
お前か。
多数のシャドウを倒したのは。
そう言われているかのようだ。
猫に似ている顔と思ったが、目には白目に当たる部分がなく、はっきりいって目なのかさえ分からない。
口の中に、火焔が宿り始める。
まあ、喰らったら即死だが。どうせシャドウに集られても死ぬ。
だったら。
レバーを冷静に操作。熱暴走寸前のコアユニットも答えてくれる。最後の一撃を、スプリングアナコンダに叩き込む。
悲鳴のような凄まじい音を立てながら、スプリングアナコンダの顔が、至近で消えていった。
熱い。
放熱機構を全開に、コアユニットを守る処置をする。それでも、ブチ開けられた穴から入ってくる空気が涼しすぎるくらいだ。
脱水症状を起こしかねないな。
そう思いながらも、螺旋穿孔砲を手にとる。
そして、空いた穴から飛び込んでこようとしたブラックウルフを一瞬早く撃ち抜く。弾丸の再装填をするが、手が震える。これは、ちょっと意識がもつかあやしい。
凄まじいスキール音とともに、ジープに乗った狙撃大隊の兵士らしいのが来た。それで、こっちに迫っている小型を対応してくれる。
菜々美はハッチを開けようと試みるが、外側は融解していてどうにもならない状態だ。斬魔剣が良くとどめまで奴を斬ってくれたなと感心する。
そのまま、スプリングアナコンダが開けた穴から這い出す。ふらふらな菜々美は、こっちに来る戦場救急車を見ると、意識が落ちたのを感じた。
「スプライトタイガーに続いてスプリングアナコンダ撃破! 大戦果です!」
「まだ小型がいます。 畑中大佐を助け出し次第、戦線を整理。 確実に生き残りの敵を制圧してください」
「イエッサ!」
広瀬大将は、畑中大佐が助けられたのを見て、それで大きく嘆息していた。椅子になつくと、幾つかの地点に支援を送る。
後方では第三師団が既にブルーカイマンを撃退。橋を守りきった。
九州のブライトイーグルは阿蘇山で動きを見せていない。連携をしなかった理由はわからない。
しなかったのか、できなかったのか。
それともする気さえなかったのか。
シャドウの事は何も分かっていないのだ。
夕暮れまで続いた掃討戦で、恐らく四国にいた小型は殲滅できたと判断。此方の被害は300名を超えたが、それでも四国からシャドウを一掃できたと考えれば、許容範囲の損害と見て良いのかも知れない。
いや、三百人だ。
一個連隊に近い数だ。
ともかく、撤退を開始させる。想像より被害が小さいと喜ぶよりも、もっと上手く作戦指揮を出来ればと、嘆くべきだっただろう。
超世王セイバージャッジメントは良く相手を斃せたと感心するほどのダメージを受けていたが。コアユニットは無事だ。コアユニットの支援PCは完全に熱暴走で壊れてしまっていたが。
これは恐らくだが、コアユニットだけは畑中博士が特別頑丈に作りあげたのだろう。超世王セイバージャッジメントの本体とも言える部分だ。
まあ、頑強に作るのも当然なのかも知れなかった。
部隊をまとめさせ、損害をまとめ、レポートとする。
休む暇も無く、会議に出なければならない。火傷と脱水症状、打ち身で今治療を受けている畑中大佐については、説明をしておく。
会議では、畑中大佐を惰弱だとか罵る輩がいるが、賛同するものはいなかった。
新種を初見で撃破したのである。
シャドウの恐ろしさを知っている者ほど、そんな恥知らずな言動には賛成できなかっただろう。
「これからスカウトを出して確認しますが、まだ敵の残党がいる可能性があります。 四国からシャドウを排除できた事を確認し次第、輸送路などを整備することで、安全圏を広げる事ができ、九州へのアクセスも容易になるでしょう」
「大戦果というわけだな」
「恐らくは四国のシャドウは一掃できたはずですが、シャドウが出現する仕組みが分かっていない以上、絶対にそうだとは言い切れません。 シャドウが攻勢に出た場合、まだまだ人間などひとたまりもなく滅ぼされてしまう。 それに代わりはない、ということは忘れないようにしてください」
「……」
絶対に勝てると言えないのかと呟く奴もいたが、それに同意する人間はいなかった。
古くからこういった輩はいた。
出来もしないことを部下に強要したり。
いもしない人材を求めたり。
野菜炒めからあらゆる野菜を捨てた挙げ句、食べるものがなくなったとか喚く幼児と同レベルだ。
人間は殆どの場合、成長しても図体が大きくなるだけ。
それを示しているような事例である。
ともかく、会議を終わらせた後、限界が近いので寝る。勿論寝ている時に何かあってはまずいので、スカウトはその間には出さない。
スカウトに現地判断させるには危険すぎるからだ。
おきだしたのは、それでも翌朝五時。
六時間ほどしか睡眠は取れていないが、それでもなんとかはなるか。
世の中にはいわゆるショートスリーパーという人間もいるらしいが、実態は殆どの場合寿命を前借りしているだけで。本当に睡眠がわずかで済む人間はショートスリーパーだと思い込んでいるうちの一割もいないと聞いた事もある。
広瀬大将は勿論違うと自認しているから。
睡眠時間をこれ以上削って、自分のパフォーマンスを落とす事は出来なかった。
翌朝から、早速スカウトを出すが、狙撃大隊も同時に展開する。とにかく戦車よりも歩兵戦闘車。140ミリ砲やら150ミリ砲、レールガンよりも螺旋穿孔砲や、螺旋穿孔砲のオートキャノン。
それは兵器として注文している。
今まで面制圧の王として活躍してきた戦車だが。
もはやシャドウの前には攻防両面で役に立てない。
それならば更に速度を上げた歩兵戦闘車とオートキャノンで敵に優位に立つ高速機動戦の方がまだ勝機がある。
これは広瀬ドクトリンと言われているらしいが。
いずれにしても、各国がこのドクトリンで師団規模の兵力を編成するのは厳しいだろう。北米ですら厳しい状態なのだから。
それにこれはあくまで小型種相手に有効なドクトリンに過ぎず、中型種には現在ブラッシュアップ中の超世王セイバージャッジメントによるそれぞれに特化した攻撃が必要になってくる。
中型種は現時点での広瀬ドクトリンによる編成をした師団でも、単騎で一方的に蹂躙される相手だ。
今はあらゆる意味で。
人間側に準備が足りていない。
それにシャドウが本気を出したら、今からでも人間は簡単に滅ぼされてしまう。
口を酸っぱくして、勝ったとぬか喜びしている連中に、何度でも釘を刺さなければならない事実だ。
指揮車両に乗り、一個連隊ほどの戦力でスカウトを支援すべく出る。
市川が来たので、四国の集落に到達した場合の支援物資を用意しておくように告げる。既に用意されている物資もあるので、トラックなどで運ぶ事になる。
衛生状態などが良い筈もないので、医者も戦場同然の有様になるだろう。
ただでさえ軍病院を増設して、医師も増やして欲しいと矢の催促が来ている状態なのだが。
三千人を救えれば、かなり大きい。
同じようにして、少しずつ各地の孤立集落や孤島などの住民を昔のように人間のネットワークに加えていけば。
ほんの少しずつだけだが、それでも状況は改善するのだ。
「軍団長閣下、畑中大佐には声を掛けておきますか」
「いや、もう掛けてあります。 ただ、今回の戦闘では負傷もひどく、戦線に出て貰うのは厳しいでしょう」
「ふむ」
「代わりに、キャノンレオンを倒した実績がある呉美中尉を連れて行きます。 斬魔剣は一番多く中型を倒した実績があり、ストライプタイガーを倒した運用法は、恐らく陸上型のシャドウ全種に習熟率次第では通用します。 これはシャドウ側も理解している筈で、斬魔剣を装備した40式を連れて行く事で、抑止力になるでしょう」
説明を終えると、市川に仕事に行かせる。
それで広瀬大将自身は前線にでて、スカウトの支援に当たる。スカウトは今の時点では、小型も発見していないが。とにかく接近された時点で小型でもアウトだ。それもあって、狙撃大隊を展開して、連携して偵察を進めさせる。
山が多い地形もあって、光学探知だと限界がある。
ドローンを飛ばすにも、ブライトイーグルがそれを探知した場合、全て一瞬で落とされる。どうしても足で稼がないとまずい。
制空権という概念が失われたのは今の状態でも同じ。
ブライトイーグルは専用の装備をもってしても、簡単に斃せる相手ではないのは、変わっていないのだ。
四国に入って五時間ほど。
主戦場になった辺りではシャドウは見かけない。
徹底的に斃したのだ。
それでもまだいる可能性も、湧いてくる可能性もある。
「こちらスカウト31。 カワウソがいます」
「それがどうした」
「いや、スカウト31、記録を残してください。 カワウソは日本では絶滅した種です。 ひょっとすると後から持ち込まれたペット用のカワウソの可能性もありますが、それも加味してデータを送ってください。 もしも絶滅種が復活しているのだとすれば、シャドウがやった以外にはあり得ません」
「イエッサ!」
カワウソが復活しているとすると。
ニホンオオカミなども復活しているのかも知れない。トキなども。
今は参考程度に留めておく。勿論無意味に殺傷してはならない。
程なくして、スカウト19が集落に到達。
慎重に確認させた後、部隊を入れる。シャドウはいないが、住民は殆どホームレスも同然。
汚物も垂れ流しで、全員痩せこけていた。
すぐに医師を入れさせる。
これでは、他の孤立集落も似たようなものだろうな。言葉も殆ど忘れてしまっている人間もいるようだ。
すぐに医療班を入れて、救出作戦を開始させる。
周囲に連隊を展開して、救出作戦を支援。また、更に部隊を呼んで、周囲の警戒をさせた。
三千の住民……正確には救助されたのは3129人。その内の全員が栄養失調になっていた。
町長一家は惨殺されてもう生きていなかった。こんな状態で食糧を独占しようとして、暴動で殺されたのだ。
まあ自業自得であるが、こんな状態でもそんな事をするカスがいるのだと、暗澹たる気持ちになる。
殺した者達も責められないだろう。
それから五時間ほど指揮をして、四国からシャドウが一掃されたと概ね結論は出た。豊かな自然が戻った四国にまた道路などを敷設したりして荒らすのは少し心が痛む。それほど完璧に、人間がやりたい放題に荒らす前の環境に、四国は戻っていた。
四国からのシャドウの駆逐。
恐らく人類にとって、初めての戦略的勝利です。
シャドウにとって、四国がどうでもいい土地であったとしても。