スーパーロボット活劇、超世王セイバージャッジメント 作:dwwyakata@2024
人間からして見れば対処できない大軍であっても、シャドウから見ればそうではありません。
相手が本気で防御に力を入れ始めた。
それだけです。
現在では既に人間の数をシャドウの数が遙かに上回っています。
それ故に、こう言う事も出来る。ただそれだけです。
濃尾平野。
今までにないシャドウがいる。
小型は推定三万。
中型も、キャノンレオンだけで六体が寝そべっている。人間の動きを見透かしているように、である。
それ以外の中型もいる。
ここだけではない。
濃尾では五体目のランスタートルが出現。
中国地方では、誘引は無理と判断したか。グリーンモアがどうどうと姿を見せると、その周囲に十体を超える中型。
北九州も同じだ。
各地の離島の制圧を進める超世王に関しても、シャドウは興味を見せる様子が無い。
むしろ、小競り合いで超世王の性能を確認して、シャドウの方が分析しているのではないのだろうか。
そう菜々美には思わされていた。
一度京都工場に戻る。
濃尾に現れた大軍を見て、GDFは泡を食っているらしい。最近は殆どリモートで会議に参加していたのだが。
今回は神戸に帰るやいなや会議に参加させられ。
広瀬大将になんとかしろと怒鳴る上層部。
嵐山がそれらを黙らせる。
真っ青のまま、ずっと額の汗をハンカチで拭い続けている天津原。
ナジャルータ博士に無能呼ばわりした代表を、北米代表がいい加減にしろと怒鳴りつける一場面。
そういうろくでもない会議を見せつけられて。
ぐっと疲れていた。
結局離島解放作戦は六つ目で一旦停止。
それぞれの島にいた小型は全て駆逐したが。沖縄に万を超えるグレイローカストがいて。
それらがいつ北上してきてもおかしくないし。その場合は守りきる事などは不可能だと広瀬大将が明言。
第二師団の戦力損失の補填はまだ中途で、訓練が終わっていない兵士も多い事。
更には、まだまだ超世王が交戦経験がない中型がいて。それらが今回の大軍の中に見られる事。
それらを列挙すると、流石に「なんとかする」のは不可能だと悟ったのだろう。
超世王が新しく中型と交戦する度に大きな損害を受けて、毎回紙一重で勝っていることは周知。
また、ここ最近の各国で行われた対小型戦で、日本にいるGDFの第一軍団と広瀬大将に対する無能呼ばわりはなりを潜めた。
どこの国でも、広瀬ドクトリンを採用した部隊は戦果を上げ。
そうでない部隊は大きな被害を出すばかりだった。
自分の国の軍隊なら圧勝できる。
そう自信満々にほざいていた連中の国も、全て小型相手に25年前の再現をしてしまった事を考えると。
流石に広瀬大将を無能呼ばわりはできなくはなるのだろう。
少なくともしばらくは、だ。
だが、それでも会議はあれだけ荒れた。
菜々美としてはうんざりである。
姉が毎回、意味不明なプレゼンをして、周囲を怖がらせて楽しんでいるのがなんとなく分かってきた。
こんなアホ会議。
それくらいして、ストレスを発散しなければやっていられないのかも知れない。もっとも、姉は自分の絵が正気値をゴリゴリ削るものだとは思っていないようだから、色々不思議ではあるのだが。
ともかく疲れたので、休憩を入れてから、シミュレーションマシンに入る。
広瀬大将から言われたが、しばらくは戦略の見直しだそうである。
今シャドウに仕掛けるのは無謀だ。
濃尾にいるシャドウの軍勢が前進を開始しただけで、神戸は終わる。
それは菜々美だって分かっている。
神戸から何処に逃げようと結果は同じだ。
四国だろうが離島だろうが、シャドウが押し込んできたら一日で終わる。それをもう一度人類は思い知らされた形になる。
まあ、いい気味だと菜々美は思う。
アホ共には良い薬だろう。
今の人類では、シャドウには勝てない。
菜々美は何度もそれは強調してきたはずだ。
それを敗北主義だの何だのと罵る連中はいたが。実際問題、正面からやりあって勝てる相手ではないのだから。
今回、それが分かりやすい形で示された。
それだけで大きな意味があるのだろう。
しばらくは休みが取れるかも知れない。そう思う。
広瀬大将から連絡が来る。
メールだが、菜々美だけではなく、他にも数名に同時に当てられていた。
「しばらく遠征は中止とします。 大陸からグレイローカストが飛来し、関東に飛び去ったのが確認されました。 濃尾にいるシャドウの大軍勢は先発に過ぎず、その後方にはまだまだ控えていると言う事です。 しかも現状、グレイローカストの大群による一斉攻撃は対処手段がありません。 下手な中型よりも危険な相手です」
確かにそれはそうだ。
今まで交戦してきた相手に比べて、グレイローカストは明確に厄介である。小型の中でもこれほど組織戦に特化した奴はいないと言って良いだろう。
そしてグレイローカストは他の小型と同等の速度とタフネスを持ち、飛行まで出来ることを考えると。
軍殺しの中型に比べても、群れでの戦闘力はまったく引けを取らないと考えても良いだろう。
関東などの東日本には、ずっと通信を入れて、生存者を確認する試みが続けられてきたのだが。
これを考えると絶望的だ。
元々東京が陥落した時点で、東日本は全滅状態だったのだが。
いずれにしても、しばらくは休みとみていい。
姉としても、今のうちに超世王を調整して、色々と装備などのブラッシュアップもしていってほしいし。
また、暇を見て休んで欲しいものだ。
訓練に戻る。
やはりグレイローカスト対策か。
いくら対小型の戦闘力を強化しようと試みた所で、流石にグレイローカスト万単位を超世王で捌くのは無理だ。
しかも中型も一緒に来る可能性が高い。
特にここ最近、中型は投擲型斬魔剣を明確にメタった行動をしてきている事が多い。これは恐らくだが。これで倒された中型が多いために、対策を練ってきていると判断して良いだろう。
グリーンモアが指揮を取っているというよりも。
面倒なのがいるから、グリーンモアが出て来た。それが正しいのかも知れない。
現に日本の戦況は、グリーンモアが大陸から渡ってきてからというもの、加速度的に悪化していると言える。
300を確実に倒せるようになり。
今は今まで交戦した中型を相手にしながら、400を倒せるように訓練を進めているところだが。
どうにもならないのがランスタートルで。
あれはバーン何とかナックルでしか現状では対処手段がない。そしてあれを超世王に搭載すると、他の兵装を積み込めない。
超世王は戦場で複数の中型を相手にするべく調整を続けているが、現状では同時に相手に出来ない中型が何種もいる。
いずれにしてもオールインワンの機体には出来なさそうだと菜々美は思う。
アラームが鳴ったので、訓練を終える。
ちょっといつもより短く感じたか。
だが、アラームを見る限り、同じ時間だ。ため息をついて、ぬれタオルを被る。それで、少し頭を冷やす。
ずっとこうやって訓練ばかりだ。
それでも実戦では、新しく交戦する中型相手に、毎度毎度死ぬ思いをしている。菜々美なんぞその程度である。
兵士達に英雄視されることも多いが。
これが現実だと告げてやりたい。
体に増える古傷も増えるばかり。
ロボットアニメのヒーローと菜々美は違うのである。
しばらく休んだ後、起きだす。
姉が今度は代わりに休憩に行った。風呂に入るように三池さんが口酸っぱく言っていて、こくこくと頷きながら歩いている。
あれはちょっと限界が近そうだな。
本当に容姿と中身の乖離が激しいなと、菜々美は思う。
そして訓練だ。
今日はもう二セットこなす。シミュレーションでデータを取っておけば、それだけ実戦が楽になる。
実戦で取る事ができたデータが、シミュレーションでは生かされているし。至近で取ることができたデータは、そのシャドウの出来る事の限界を割り出すことにもつながる。
まったく分かっていなかったシャドウの生態が、少しずつわかってきている。
小型種ですら捕獲できないのである。
こうやって戦いながらデータを取り。
それをナジャルータ博士が分析していくことでしか、人間はシャドウを知る事ができないのだ。
訓練が終わると、頭が煮上がりそうである。
宿舎に戻って風呂に入ると、後はレンジでチンして食べる奴だけにする。一応手配はされているので、ありがたくいただく。
冷凍食品は昔はとても凝ったものがあったらしいのだが、今は残飯と菜々美が作る適当な飯の中間くらいである。
シャドウの侵攻が停止した直後くらいは大混乱で酷かったらしいのだが、菜々美はその頃のことはあまり記憶にないし。
今は普通に鶏や牛や豚も育成されているので、そういった肉は食べられる。
まあ、あまり美味しくは無い。
美味しくできる程手間を掛けられないのだ。
適当に腹にかっ込むと、寝る。
とにかく今のうちに出来る事をやっておかなければならない。下手をすると、あの大軍と真正面からやり合わせられる可能性もある。
そうなった時に。
生き残る努力は、必須だった。
二週間が過ぎる。
呉美大尉から、久しぶりに連絡が来た。呉美大尉とは最近はずっと別行動だったのだが。
なんと知らない内に、巡視艇で監視任務をしていたらしい。
落とせそうな孤島を調べていたそうだ。
此処で言う落とせそうというのは、菜々美が乗る超世王ではなく。南九州での戦闘で、呉美大尉が乗ってきたデチューンモデルの話である。
あれも改良が進んでいて、対小型……シルバースネーク以外の小型なら、そう今の超世王と遜色ない戦力を有しているらしい。
京都工場で超世王の現物を調整しているが、現在では超世王用のラインが神戸地下の軍工場に設置されているそうで。
其処で姉から来たアップデートを毎回行い。
それを反映しているそうである。
「敵を陽動出来ないかという理由で、近々また九州近海の島に仕掛けます」
「しかしあまり大きな島は残っていない筈だけれど」
「はい。 だからこの超世王セイバージャッジメントデチューンモデルの性能試験にはぴったりだと言えます。 今度の島は200程度の小型がいるだけで、シルバースネークは10体。 これは一緒に上陸して貰う狙撃大隊に任せます」
「無理はしないようにしてください」
返信を済ませる。
まあ、呉美大尉はあれで歴戦の戦士だ。そう引き際を誤る事もないだろう。
それに、だ。
政治的な圧力とかそういうのを感じる。
これは恐らくだが、超世王を量産して、各国で運用するための下準備と見て良いだろう。呉美大尉はいいパイロットだが、それでも凡人の域を超えていない。それを考えると、各国の連中が考える事は。
それで運用できるなら。
畑中姉妹はいらない、である。
こんな状況でもそんなアホなことを考えていて。
それで自尊心を満足させようとしているのだから、愚劣さにもいい加減頭に来る。広瀬大将のところに何度かクーデターの打診があったらしいが。広瀬大将はそれでも全部蹴っているらしい。
今はそんなことをしている状況では無い。
それが理由らしい。
ただし、上層部を良く思ってもいないようだ。
実際この状況で人間同士の戦闘なんて起こったらどうなるか。それこそ、考える事すらおぞましかった。
いずれにしても、菜々美は訓練をして、後の戦いの勝率を上げるだけである。
工場に出向くと、どうやら新兵器を出してきたらしい。姉が何やら作っている。これはまた、大げさな兵器だな。
ちょっと大きくて、超世王には積めそうにないが。
「何これ。 ……何?」
「グレイローカスト対策のようですね。 超世王に乗せるものではないようです」
「ふうん……」
まあ、そうだろうな。
以前利用していた超世王と連結するレッカー車を運用に利用するそうである。いずれにしても、使うのはそれほど難しくはないようだ。
煙幕の類は基本的にシャドウには一切通じない。
それもあって、これはグレイローカストを、直接的に叩く兵器となる訳だ。
「それで、これが完成したらどうなるんですかね」
「一応理論的には、400体ほどのグレイローカストを一発で仕留められるようですね。 ただし、一度撃つと再装填に数時間かかるようですが」
「数時間」
「これを25両用意すれば、万のグレイローカストを仕留める事が可能になります」
まあ理論上はそうだが。
問題は、これを25両出すとすると、師団規模の護衛が必要になる。
それにこれ、どうみても他の小型に対して対応できる兵器には見えない。色々運用手段は限られるし、それもかなり厄介な代物になる筈だ。
使えるとしてもかなり限定的。
それも師団規模の護衛が必要になり、他の小型にも適応出来ない。
尖りすぎである。
ただし、25両でグレイローカスト一万を片付けられるとなれば。それは対小型という観点で、画期的な兵器になる可能性は高い。
沖縄には今一万ほどのグレイローカストがいるらしいが。
これをまとめて片付けられたら、それは非常に大きいと言えるだろう。
「これから畑中博士がプレゼンをするそうです。 ええと兵器の名称は、ハイパースパイラルMLRS、だったかな」
「ハイパーとスパイラルは何。 てか螺旋で良くない?」
「そんな事を私に言われても」
「あ、はい」
まあ、一番困っているのは三池さんだろう。
だから、菜々美が聞いても仕方が無いか。
ふと見ると、姉が書いた絵がデスクに放置されている。そっか、あれが今度のプレゼンで使われるのか。
相変わらず邪神の絵にしか見えないが、あれが姉にとっては分かりやすいものなのだろう。
それにしてもなんでMLRS。
あれはあくまで広域制圧用の対地ロケット兵器の筈だが。
ちなみに超世王で今まで蓄積したデータを使うため、シミュレーションはしなくてもいいそうである。
シミュレーションで調整するのは、別の兵器になるそうだ。
そうなると今度のプレゼンは多分三時間コースだな。アホな上層部の連中がそれでまとめて発狂死でもしてくれればいいのだが。
菜々美は意地悪くそんな事を思った。
いずれにしても、これは広瀬大将も噛んだ何かしらの広域戦略が動き始めていると判断していいだろう。
菜々美に出来る事は。
その戦略が円滑に動くように。
戦術的な範囲で自分が出来る事をするように。
訓練をしておく。
それだけだ。
プレゼンが終わる。つやつやしている畑中博士。案の場上層部は全員口から魂が出ていた。
耐性が出来ている三池ですらきつかったくらいだ。
まあ、そうなるだろうな。
そうとしか言えなかった。
二つ連続兵器のプレゼン。ちなみに恐怖のプレゼンだったが、広瀬大将は意外と平気そうだった。
三池以上に耐性が出来たのか、或いは何かしら理由があるのかも知れない。
いずれにしてもとても楽しそうにプレゼンをして、それで上層部の連中をあらかた酷い目にあわせて。
それで畑中博士が満足したらしい事は確かだった。
それはそれとして、連絡が来る。
見覚えがない名前だ。
確かナジャルータ博士が、各国での対小型シャドウに対する反攻作戦の過程で、何かしら分かった事があれば連絡してほしいとか各地の博士に連絡をしていたはず。畑中博士は、すぐにその正体を特定していた。
「あら、これは確か潮汐を専門にしている学者ね」
「潮汐ですか」
「今では学者の比率は世界人口と比べてもっとも多い時代とは言えるのだけれど、何しろ状況が状況なのよねえ。 軍に関連しない学問には予算が下りにくい」
これは事実だ。
昔、ある小説に対する批判で、「政治家と軍人しか出てこない」とかいうものがあったらしいが。
実際問題、シャドウ相手にこれだけ厳しい戦いが続いていると、この世界はほぼ似たような状態になってくる。
最大都市の神戸にいる人間も、何らかの形で軍に関わっているか、政治に関わっているかのどちらか。軍人と政治関連の人間も多い。
そう批判されたある小説も、まんま長期間の戦争を続けている時代を描いていた筈で。
そういう意味では、今の状況を見るとリアルであるとは言える。
ただ、この世界に比べると。
まだ人間同士での殺し合いで。
負けた方は皆殺し、とかやっていないだけ。その小説の世界の方が、恐らく余裕はあるのだろうが。
「それで潮汐学の先生がどうしたんですか」
「……ふーん。 なるほどねえ」
「?」
「気温が20世紀初頭の基準にシャドウが現れてから10年ほどで戻ったという話は知っているわよね」
それは、まあ当然だ。
21世紀初頭には、日本の夏の気温は40℃前後にまで上昇していた。日本だけではなく、他の国でも同様の異常現象が起きていた。
これは人間の活動のせいかどうかは色々な意見があったらしいのだが。
それはそれとして、シャドウが現れてから、各国が過ごしやすくなった……寒冷地を除いて、は確かだ。
寒冷地は気温が激烈に下がったらしい。
そういえば今は冬場に見られる霜柱も、21世紀初頭を知る人間からは、珍しく見えるそうである。
「南米で小型だけがいる島を奪回する作戦が成功したらしくてね。 其処でその先生が調査をしたらしいの。 今まで北極圏は魔王がいて近づけなかったし、南極圏近くは人間の都市が存在していなかったから調べようが無くてね」
「確かに人工衛星も航空機も使えない今だと、そうなりますよね」
「ええ、それでようやく南極圏を調べられたらしいのだけれども。 それでおかしな事が分かったらしくてね」
なんでもそれによると、南極圏の氷は20世紀初頭の水準に完全回復していた、らしいのだ。
南極圏の氷は世界中の気温上昇に伴って溶け続けていた。これは21世紀になると更に加速化していた。
巨大な氷山が崩壊する例も出ていたほどだ。
南極という大陸は、地球の歴史上でいうとずっと氷漬けだった訳ではない。恐竜がいた時代には、普通に森があった事もあった。恐竜が生きていた時代もあった。
つまりずっと氷漬けだったわけではないのだが。
それはそれとして、今は氷漬けになっている。
だが、それだとおかしいらしいのだ。
「南極の氷がこの状態だと、北極も同様の可能性が高い。 それがこの潮汐学の博士の結論らしくてね」
「はあ、まあシャドウによる環境回復は世界中で観測されているので、驚くには値しないと思いますが」
「問題は此処から。 その割りには、海面水位が下がっていない」
「?」
まて。確かに言われて見るとおかしい。
21世紀初頭には、北極南極の氷が溶け出したことによって、少しずつ海面が上昇していたと三池も聞いている。
それが予想よりも海面がさがっていない。
だとすると、結論はどういうことか。
「理由としては幾つか仮説が考えられるわねえ。 でも、もっともありそうなのはこういう説」
「ど、どんな説ですか」
「水の総量が増えた」
それは、あり得るのかも知れない。
確か地球の水は永遠不変でも何でも無く、毎年少しずつ宇宙空間に流れ出ていると聞いている。
これが10億年くらいすると、何もしなかった場合地球の水は相当量が干上がってしまうという説もあるらしい。
それも、戻っているというのだろうか。
しかしだとすると。
水の量が増えている場合。また気温が上がったら、地球は文字通り海の星になってしまうのではあるまいか。
三池も助手とは言え科学側の人間だ。
これくらいの論理的思考は出来る。
それで、潮汐学のその先生の話によると、水面は下がり続けてはいるが、南北両方の極にある氷の量を考えるともっとさがっていないとおかしいし。なんなら海水面の低下もどんどん鈍化しているらしい。
このまま行くと20年ほどで海水面の低下は止まり。上昇に転じるそうだ。
もしそうなると。
仮に地球からシャドウをたたき出して、また人間が天下を取るとする。同じように地球中を蹂躙して、好き勝手に振る舞うようになるとする。
その時、地球は。
遙かに増えた水を持って、ノアの洪水が如く、地球を洗い流すのではあるまいか。
ぞくりとした。
もしシャドウが意図的にこれをやっているのだとしたら。
シャドウは人間の二枚も三枚も上を行っている事になる。仮にシャドウを倒したとして、人間が今までの行いを反省などするだろうか。
するとはとても三池には思えない。そしてまた同じ事を地球にし始めた場合。
今度こそ、人類は詰むのではあるまいか。
「シャドウがどうやって水を増やしているのかが興味深いわねえ……」
「いや、それどころじゃないですよ! シャドウにもし勝てたとしても、これでは意味が!」
「何言ってるの。 勝てる訳ないでしょ」
畑中博士がずばり言うので、三池は押し黙ってしまった。
確かに今までの勝利は、シャドウが勝つ事に興味が無かったから。ついでに再侵攻をするつもりもないから。それでもぎ取れただけに過ぎない。
もしもシャドウが本気で人間を潰しに来たら、勝てる確率は0だ。
本当に刃の上で踊っているに過ぎないのだ今の人間は。それを三池は思い出して、また悪寒を覚えていた。
畑中博士は、楽しそうに理屈を頭の中で練っているようだ。
とてもではないが、三池は。
そこまで大物にはなれそうになかった。
畑中博士は現実主義者です。
元々色々おかしな人ではあるのですが、だからこそこれだけの事が出来るとも言えますし。
どれだけ努力しても、武力で相手を打倒することが不可能である事は分かっているのです。
シャドウに対して抵抗能力をつける。
今、事実上出来るのはそれだけだと、誰よりも畑中博士は知っているのです。
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