スーパーロボット活劇、超世王セイバージャッジメント 作:dwwyakata@2024
接触を図ってきたシャドウらしき存在「ノワール」。
フランス語で黒を意味する言葉ですね。
日本でも格好良い単語だし、よく使われているかと思います。
いずれにしても勝ち目が限りなくゼロに近い状態。もしもシャドウとコミュニケーションを取れるのであれば、取らなければなりません。
超世王の調整はまだ続けられている。この間、ついに一回の会戦で超世王単騎で倒したシャドウの数が四桁の大台に乗った。
同時二体の中型も倒した。
だが、中型と戦闘しつつ小型と戦うのは限界がある。
種子島の戦いでもそれは露呈していたが。この間の姫路の戦いでも、それは明らかすぎる程だった。
超世王は全壊したが、それでもコアシステムは無事。
超世王は姉曰く何度でも立ち上がる。
立ち上がってはいないが、まあ復活するというぐらいの意味で良いのだろう。整備工のおっちゃん達は、また前とは変わっている設計図に沿って、どういう用途で使うか分からない部品を作り続けている。
愚痴は聞こえるが。
それでもきちんと指示に従っているのは。
姉を疑ってはいないと言う事なのだろう。
おきだして、シミュレーションマシンに入る。幸い、前回の会戦での手傷は軽い方である。
だから、すぐに退院できた。
古傷は彼方此方痛むが。
まあ、それは我慢しなければならないし。
我慢できる範囲だ。
医師にはくどくど文句は言われている。このままだと、三十前に戦線には立てなくなるとも言われた。
それまでには戦いが終わる見込みはないだろうと菜々美は思う。
幸い遺伝子データは提供してあるから、菜々美の子孫等が絶える事は無い。直接腹を痛めて子供を作らなくても、今は良い時代だし。
別に気になる男もいないので、それでいい。
シミュレーションを一セットこなす。
やはり同時に二体の中型と戦闘するのは骨だ。更にこれにブライトイーグルが混ざる場合がヤバイ。
この間は、三体同時……その内一体であるランスタートルを、上手く連携してデチューンモデルと撃破する事ができた。
だが、対ブライトイーグル用のビームを装備しているデチューンモデルと連携したとしても、暴れ回るブライトイーグルは簡単には死なないし。奴が暴れ回るだけで、EMPがばらまかれまくるのだ。
それを思うと、とにかく勝率が下がる。
厳しい話だった。
三池さんがケーキを焼いてくれたので、有り難くいただく。整備工のおっちゃん達にも振る舞われていた。
とりあえず疲れた脳には効く。
黙々とケーキを食べていると、メールが来る。
宛先がノワールと書いてあるのを見て、眠気がブッ飛んでいた。
兎に角中身を確認する。
悪戯でないかどうか、調べておく必要がある。
「やあ久しぶり。 アドレスを変えたようだけれど無駄だよ。 見つけるのは難しく無かった」
「お前、誰だ」
「私はノワール。 私というのは、君達でいう単一個体を示す一人称だから、厳密には違うけれどね」
「そうか」
即座に三池さんに目配せ。
三池さんは、こっちの方……ITのテクノロジーで色々伝手がある。本人もある程度知識がある。即座に対応を始めてくれた。
菜々美はやりとりを続ける。
此奴が何者か。
前の奴と同じか、調べる必要がある。
「お前は誰だ。 愉快犯か」
「そんな原始的な端末でよく此処まで素早く文字を打てるね。 感心するよ」
「答えろ」
「愉快犯ではないかな。 広瀬という指揮官にも興味はあるけれど、私は単に君という存在を知りたいだけだ。 君は別に戦いにそれほど執着はないようだった。 だが、だとすると、何を求めて生きているのか。 それがわからない」
何を求める、か。
一般的な発情期の子供だったら異性を求めるのだろうが、菜々美はそういうのはなかったな。
姉も良くしたもので、それは同じだったらしい。
姉の場合は見かけだけは良かったから、女だったらなんでもいい見たいな男が声を掛けて来る事はあったようだが。
まあ相手が数分もてば良い方だった。
「モチベがなかったら生きていてはいけないのか。 そういうお前はどうなんだ」
「私は生きているという概念がない」
「……人間ではないと判断して良いか」
「人間? いや、まさか人間だと思っていたのかな? そうではないと分かるように喋っていたつもりだったが」
愉快犯だったら、変なしゃべり方をする可能性がある。
そう指摘すると、ノワールとやらはなるほどと感心して。感心だけしていた。それ以上でも以下でもないようだった。
三池さんが、タブレットを掲げる。
前回と同様。
廃棄されているサーバから飛んできている。
偽装の可能性無し。
仮想環境からメールが来ている可能性が高いが、それにしてもどうやって実際のネットに潜り込んできているか分からない。
相手にメールがどう届いているのかすらも分からない。
もっとやりとりを続けて欲しい。
そういう事だった。
「お前はシャドウなのか」
「シャドウ? ああ、君達は私をそう呼んでいるのか。 そういえばそうだったな。 君達の言い方に沿えばそうだ。 私の名前はノワール。 それが正しい」
「それはフランス語で黒を意味する言葉の筈だ。 人間ではないのだったら、どうしてそんな名前を名乗っている」
「それは答えられない。 こっちにも色々事情があるのでね」
事情、か。
いずれにしても、何かしらの目的がある事は分かった。
いっそのこと、GDFの上層部と話してくれないか。そう提案するが、見事に蹴られる。ノワールは、半ば笑っているかのようだった。
「君も分かっていると思うが、GDFと君が呼ぶ組織の者達は一部を除いて無能の極みだ。 だから見ているだけで良かったのだがね。 君達姉妹があまりにも異色すぎる。 広瀬という指揮官もだが。 だから面白いから、活動を見ているし、前回と今回は連絡も取ってみた。 私はあれらには興味は無いし、会話をするつもりもないよ」
「一体何がしたいんだお前」
「今の状態の維持」
「どういう意味での維持だ。 地球を擬似的なビオトープにして、その中で人間を管理でもする気か」
「ちょっとその言葉には語弊があるな。 地球というこの星では、ラン藻という存在が最初に破壊的な改革をもたらしたが、それは良い方向に地球の生物の独自性を発達させていくことになった。 ラン藻……シアノバクテリアの存在前は、細胞組織を持つ微生物すら地球にはいなかった。 原始的な嫌気性細菌しか存在しなかった。 それが巨大化し多様化し、多細胞生物が出現し、今では数多の多様性をもった生物による世界が構築されている。 それを君達は、自分達の感情で自分の美的感覚やらの価値観に沿って「あっていい」「あってはいけない」かを判断して、破壊し尽くした。 それは許容できる行動ではない」
なるほど、ナジャルータ博士が言っていたような話だ。
此奴が本当にシャドウだとすると。
地球の環境を安定させることが目的なのか。
また三池さんがタブレットを見せてくる。ナジャルータ博士が、こう聞いてみろと言ってきているそうだ。
即座にそれを打ち込む。
「地球には恐竜などの滅び去った繁栄していた種族もいた。 そういった生物は無視するのか」
「それらは既に保存済だ」
「な……」
「君達もそれは同じだ。 君達は害を為さない数で自己管理され、そのまま次の世代の生物が出現した時に、その座を自然に譲ればいい。 私はそれ以上は望まない。 君達はエゴであまりにも醜悪にこの星を荒らしすぎた。 君達の私物とこの星を考え、後続の生物たちの事も考えずにただ暴れ狂った。 生物は自分に都合良く環境を整えるものだが、君達はあまりにも度が過ぎている。 だから駆除しなければならなかった。 それは君達も理解している事ではないのかな」
なるほど、そういうことだったのか。
菜々美は天を仰ぐ。
此奴はガイア理論か何かに基づいて地球管理をしている可能性があると判断していた者も多かったが。
もし今喋っているのが本当だとすると。それは当たっていたのかも知れない。
「人間の可能性がどうのこうのという事をいうつもりはない。 せめて宇宙に出て、其処で新天地を作る事は許しては貰えないか」
「許可できない。 君達はもしも宇宙に出れば、今度は宇宙全てを自分の私物と見なし、小石の一つまでも蹂躙し尽くすことが確定の種族だ。 君達は古くに存在していたモンゴルなる国家を邪悪の権化と考えているようだが、私が駆除した時代の君達そのものがそのモンゴルなど問題にならないほど邪悪な蹂躙者であることを知るべきだ」
「人間を大量虐殺したお前が言うか」
「君達の無法に比べればささやかもささやかな規模だが?」
即応される。
まあ、それも話としては分かる。
実際問題、環境の切実な問題ですら、金に換えていた連中がいたくらいである。欲望のままに振る舞う事を全肯定する輩が、「人間らしい」などと認識されていたのが人間の現実だ。
それは菜々美だって分かっている。
人権ですら金に換えていた連中が社会で「名士」扱いされていたのだ。
このまま宇宙に出しても、宇宙を荒し尽くすのは目に見えているし。それはわざわざ指摘するまでもない。
人間が次の世代の生物にバトンを渡し。
その生物が。地球と上手くやっていける存在であるのなら。
確かにノワールが言う事は正論だ。
ただ、菜々美が思うところ。人間の先にいる生物、ポストヒューマンが、そんな都合がいい存在になれるかは怪しいが。
それに関しては、人間が責任を持ってポストヒューマンをまともにしなければならないのかも知れない。知的生命体を自称するならば。
「聞かせてほしい。 貴方は結局のところ、何者なんだ」
「それは答えられない」
「人間とは無関係ではないな。 あまりにも人間を知りすぎている」
「それも答えられない。 此方としても、答えられない言葉というものが存在しているのでね」
そうか、これについては黙りか。
いずれにしても、黙りにしているのは相応の理由があると言う事だ。
どうにかシャドウとコミュニケーションを取りたい。
そうナジャルータ博士は言っていたが。
それはどうやら、相手からの接触でかなってしまったらしい。
「仮に貴方を打倒したとしたらどうなる」
「それが出来ない事は君が一番よく分かっているはずだが」
「今北極圏にいる一番大きい奴。 あれが貴方の本体ではないのか」
「残念ながら違う。 あれは君達が衛星軌道上にばらまいたゴミを全部片付けるための個体だ。 今は必要がないから、抑止用に一体だけ稼働させている。 他もその気になれば即座に動かせる」
それが本当だとすると。
大型だけ倒してもダメか。
ため息をつく。
またタブレットに記載がある。
「もしこれ以上攻撃をしてこないのであれば、此方は其方に手を出さないというのはありだろうか」
「……」
「今まで海運を貴方は攻撃して来ていた。 それが大きな脅威になっていた。 それがなくなるだけでも有り難いのだが」
「船舶が海に汚染をばらまいているのをどうにかすれば攻撃はしない。 それと勘違いしているようだが、君が対応してきた個体は、基本的にこの時代の人間の文明レベルにあわせた性能にしているだけだ。 もしもこれ以上攻撃をするようなら、リミッターを解除するだけだと言う事を忘れないでいてもらおう」
通信が切れた。
さて、難しい局面だぞ。
とにかく、シャドウは菜々美にしか興味を持っていないことが分かった。姉にどうして興味を持っていないのかはわからない。
まあ、今のが本当にシャドウだったとしたら、だが。
それに、答えないことが幾つもあった。
奴の正体も分かっていない。
ガイア理論に沿って地球が産み出した環境調整用の存在では無いか、という仮説はどうも違いそうだ。
だが、奴の言葉が全部嘘っぱちである可能性もある。
いずれにしても、これはナジャルータ博士達にはしばらく徹夜で仕事が待っていそうだな。
そう菜々美は思った。
リミッターを解除すれば、即座に超世王など斃せる。
そういう意味のことを相手は言っていたように思う。
菜々美としては、無言にならざるを得ない。
やはり釈迦の掌の上の孫悟空だったというわけだ。
今までの努力は無駄だったのか。
いずれにしても、ちょっと訓練は休止。GDFでは、大慌てで会議をしているようだった。
愉快犯の可能性を、今総出で調べている。
もしこれが愉快犯で無かった場合は。
そもそもシャドウに、愉快犯ではないと示して貰う必要がある。
此方から連絡をするのは控えて欲しいと、ナジャルータ博士には言われた。今は、一つでも手を間違えるわけにはいかないのだと。
いずれにしても、疲れが溜まっていたのだ。
数日、昼寝をしながら毎日を過ごす。
勿論鈍らないように訓練はするが、それはそれ。
菜々美は医師に口酸っぱく休憩をするように言われていたし。今後どうなるか分からない以上、休んでおくタイミングは今しかなかった。
たまに会議への参加も求められたが。
凄まじい荒れようで、嵐山ですら苦労しているようだったので、ずっと黙っていた。此奴らの様子を見れば、それはシャドウが人間と和解しないよなあというのも、何となく納得出来る。
「一連の会話を見る限り、これはただの愉快犯によるものだ!」
そう怒鳴り散らしているのは、またスコットランドの連中だ。
どういう理屈か知らないが、軍需産業が作った最新兵器で固めた連中のご自慢の部隊が南九州でもスコットランド近郊でもシャドウに負けたのを「何かの陰謀」だと決めつけ、広瀬ドクトリンの導入をまだ拒んでいる。
そしてこれは菜々美やナジャルータ博士の自作自演だとか決めつけているので、流石に立ち上がりかけたが。
嵐山が咳払い。それで黙り込んでいた。
「いずれにしても、現在総力を挙げて調査していますが、他人に公表していない畑中准将の個人メール相手に、それも軍のセキュリティをかいくぐって二度もピンポイントで連絡してくるのは、尋常な事ではありませんな。 畑中准将はごく身近な存在にしか個人連絡先を送っておらず、本来はあり得る事ではありません。 それが出来るハッカーは、それこそシャドウが出現する前にはいたでしょうが、今はいません。 それについては、研究をしている有志が確認しています。 もしもこれだけ巧妙な偽装メールを送るとしたら、それこそ国家レベルでの協力が必須で、現在どこの国にもそれをする余力などありません。 それは自身が一番よく分かっている筈ですが?」
「……」
「貴方方の不快感に寄り添って現実をねじ曲げても、問題解決から遠のくだけです。 シャドウが出現する前に、声ばかり大きな人間が、現実をねじ曲げて多様性を口実に実際に存在する多様性を潰していた……それも感情にまかせて……そういう愚かしい時代が存在していました。 今も一部の方は、感情に沿って喚けば周りがそれに合わせてくれるとお思いのようですな。 今の人間の数は、たかが五千万……これは紀元前の水準です。 それしか人間はいません。 それでありながら、自分を偉いとでも本気でお思いか。 ただ我々は、代表として税金の管理を任されているだけ。 存在そのものが偉いわけでもなんでもなく、シャドウが攻めこんでくれば一瞬で吹き散らされるように滅ぼされてしまう。 それ以上でも以下でもありません」
嵐山さんの言葉に、怒りも籠もった沈黙が流れる。
全て正論だ。だから怒りも買うが。そんな怒りに忖度してやる理由がどこにある。シャドウに滅ぼされる前、人間は正論を兎に角嫌っていたらしい。正しい事を正論というのにだ。
ロジハラとか言って忌み嫌っていたのだとか。
だから人間はシャドウなんかこの世界に呼び込んだのではないのかとすら思う。
菜々美は咳払いすると、初めてこの会議で発言した。
「私に連絡してきたのが本当にシャドウかどうかはわかりませんが、いずれにしてもはっきりしている事があります。 紀元前の水準まで減っても、人間はなんら進歩していない。 人間の敵相手に団結さえ出来ていない。 そして貴方方の誰よりも実際にシャドウを倒して来た私だから言えますが、このままやりあっても確定でシャドウには勝てないでしょうね。 人間の限界です。 こんな時代になっても、まだこんなアホらしいやりとりを続けているんですから。 今、幸い人間は人工子宮とクローン技術で誕生するようになってきています。 そろそろ、ありのままの人間が素晴らしいとか言う万物の霊長だとかの妄想からは解き放たれる時期ではないでしょうか」
「お、おのれ! たかがまぐれでシャドウを倒した程度の分際で、利敵行為をほざきよるか!」
「実際に25年誰も斃せなかった中型シャドウを倒して来た立役者の言葉ですが。 毎度毎度その足を引っ張り、無駄に兵士達を死なせてきた。 効きもしない近代兵器にあくまで拘り、資源もマンパワーも無駄にしてきた。 そういった事をしてきた方々の方が、余程の利敵行為をしていると思いますが」
嵐山の援護射撃が助かる。
それを聞いて、もはや言葉にならないわめき声を叫び散らかすばかりになったのが何人か。
これが各国の代表だというのだから呆れる。
王族やら貴族やら金持ちやらは優秀だとか。血縁で優秀さが担保されるとか。
そんなのを信じている人間に、現実を突きつけていると言える。菜々美も呆れて、言葉も出ない。
此奴らに優秀さなんてかけらも無い。
そしてこの手の輩がこうだったのは、今に始まった事ではない。
シャドウに人類が駆逐される25年前だってそう。
当時の国政の様子は様々な記録媒体で残されている。それを見る限り、此奴らと殆ど差はない。
日本の場合、その時代は三バンなどと言われ。金知名度地盤で選挙に勝てると言われていた。
少なくとも金は必須だった。
そして選挙に勝って議員になった連中の醜態はどうだったか。
そういった記録媒体に残されている。
それら議員はどいつもこいつもどう考えてもその辺にいる凡人だった。凡人だけならともかく、倫理観もなにも持ち合わせず、現実的にものも考えられない愚物の集まりだった。
少なくとも優秀などではなかったのである。
この事情は日本だけの話ではない。
どこの国でも大差などなかったのだ。
凡人が回すための政治システムといわれる民主主義が、クズが餌を貪り喰らうためのシステムに何故堕落したのか。
どんな素晴らしいハードウェアを作っても、使う人間とか言う生物がゴミカスだったからダメだった。
恐らくそれが事実だったのだろう。
菜々美には、そう辛辣に言う事しか出来ない。
嵐山が咳払い。
側にいる天津原が、額の汗を拭いながら言った。
そのスムーズさ。
恐らく嵐山は、こうなることを見越していたのだろう。
珍しい、年を取って相応の経験を積んだ人物なんだなと、感心する。
実際には殆どの人間は、無駄に年齢だけ重ねるだけだという話だから。こう言う人間は例外なのだろう。
「いずれにしても、しばらくシャドウへの攻撃は禁止します。 畑中准将は、シャドウへの呼びかけを行って貰えますか」
「はあ、メールでもまた出して見ますか」
「そうですね、まずはそうしてください。 これよりGDFは失った戦力の補充、広瀬ドクトリンの徹底を重点的に行いますが、シャドウが警告してきた海運については注意が必要になるでしょう。 今までバラスト水などの問題で、人間は海運を通じて世界中の海を汚染してきました。 シャドウがそれを問題視しているのであれば、ある程度何かしらの工夫が必要になるかと思います」
喚いている連中は、もはや徹底的に無視。
嵐山がいうと、米国大統領は苦々しげだが、それでも頷いていた。
おかしな話だ。
米国大統領も決して有能な人物揃いではなかったと聞く。民主主義の総本山でありながら、大統領になるのは最初に侵略者として北米に渡った人間の子孫達ばかりという状況が続いたからだそうだ。
民主主義の総本山ですらそれだ。
今の大統領はそれもないらしい。
まあ北米を動かしていた信じられない程金を持っている連中は、あらかたシャドウに消されてしまったし。
それもまた、要因なのだろうが。
「ステイツ(北米)としてはそれでかまわない。 小型は斃せる事が分かった。 これから各地の都市で編成している部隊は、警察任務を主体にしながら、もしもシャドウが侵攻してきたときに備える事とする」
「やむをえん……」
何名かの国家代表もそれに続く。
実際問題、シャドウに勝てっこないのは、ある程度頭が回る人間だったら分かりきっている事なのだ。
まだキーキー喚いている連中は無視。
数人いるが、いずれにしても無視してもなんら問題が無い。
もしも彼等だけでシャドウへの自殺的な攻撃を強行するとしても、GDFは支援はしない。
それだけだ。
兵士が来た。そして、嵐山に耳打ちする。
嵐山はそうか、とだけ言って兵士をさがらせる。広瀬大将にも話は共有されたようだった。
「日本近海にイエローサーペントが出現。 それも十や二十ではありません。 おそらくですが、各国近海でも現れているとみていいでしょう。 海には我々が把握しているだけでも数千はあのシャドウがいることが分かっていましたが。 元々シャドウは、我々を地球の支配者の座から蹴り落としてから、数を不自然に減らしていました。 減らしていた分の数が、ただ現れただけかと思います」
「何とかしろ! その不格好なロボットで!」
「先ほど何かの偶然でシャドウを斃せていたとか言っていた方の台詞とはとても思えませんな。 それこそご自慢の近代兵器と有能な指揮官で挑んでみては如何ですか」
「……っ!」
電波状態が悪化する。
ひょっとすると、シャドウが何かしらしているのかも知れない。
いずれにしても、GDFの連絡も、以前よりも難しくなるかも知れない。
「それでは一旦会議を閉じます。 各国はそれぞれの内政と広瀬ドクトリンによる軍備の再編制にいそしんでください。 此方では畑中准将を中心として、シャドウとのコミュニケーションを図ります。 シャドウの側からコミュニケーションを取ってくれたのは、千載一遇の好機です。 勝ち目が無い相手に為す術無く滅ぼされるのではなく、相手を知る可能性が出来た。 それだけで、大きな希望が出来たと言えます」
天津原が原稿を読む。
顔色は真っ青で、気絶しそうだった。
この小心で無能な男には、あまりにもプレッシャーが厳しすぎたのだろう。それでも逃げ出さず、これを読むことが出来ただけで。
キーキー騒ぐだけで具体的に何もできなかった連中よりは万倍マシだが。
会議が閉じられ、それで菜々美も一度戻る。
ナジャルータ博士が中心となって、シャドウとどう交渉するか、これから話をまとめると言う。
いずれにしても、勝手に菜々美で動くわけにはいかない。
これからが。
正念場だ。
現在感情論で動く人間がどれだけ社会に害を為しているか色々な方面で可視化されていますが。
この傾向は結局一万年前、人類文明の勃興期から変わっていないと思います。
感情を理に優先する以上、人間は結局石器時代から一歩も進歩出来ていません。
それが核兵器までもったのは、極めて危険な事だと思いますね。
感想評価などよろしくお願いいたします。励みになります。