スーパーロボット活劇、超世王セイバージャッジメント 作:dwwyakata@2024
連鎖するクーデター。
既に破綻し掛かっていたGDFにとどめの一撃になりかねない状態です。
広瀬大将他、動ける人間は動きます。
この局面では対人兵器ではない超世王セイバージャッジメントは、破壊されないことだけが仕事です。
やはり予想通り、立て続けにクーデターが起きた。それは最強硬派を潰すだけの動きではなかった。
ある国では、主戦派が上層部を襲撃。
そのまま政権を乗っ取った。
国と言っても、せいぜい数万人しかいない。
それで数万人しかいないのに、全員を兵士として扱い。全てをシャドウとの戦闘の矢面に立てるとか、無茶苦茶を言い出したのだ。
絶対に止めろと天津原が珍しく厳しい口調で言ったのだが、完全にその国は無視。それどころか、GDFからの離脱まで宣言した。
それに続いて、スコットランドなどの強攻姿勢を貫いていた国もGDFから離脱を表明。
シャドウとのコミュニケーション確立は、雪崩を打つように人類の細い糸でつながっていた僅かな団結を断ちきったのである。
連鎖的に七国がそうしてGDFから離脱。
そして、自殺的な攻撃をシャドウに仕掛け始めたようだった。
クーデターは更に続く。
北米でもある都市で、強硬派が軍を煽ってクーデター未遂を起こした。22万人がいる半地下都市なのだが。
其処ではかろうじて鎮圧に成功。
どうにか北米は面目を保ったが、大統領に対する狙撃事件が直後に発生。大統領は無事だったが、GDFには激震が走っていた。
クーデターが良い方向に動いた国もある。
GDFからの離脱を表明し、連絡が途絶えてから四日後。
一つの国が通信を再確立。GDFに再加入を求めて来た。
人口11万のその国では、無謀な総力戦態勢、全兵士でのシャドウへの突撃を主張する軍部に対して。
自殺行為につきあわされる兵士達が流石に反旗を翻し。
激戦の末に、5000人以上の兵士や非戦闘員が犠牲になった末に、強攻策に狂った上層部が倒れた。
それでも死者五千である。
はっきりいって、ロクな状況ではなかった。
それから一月。
良いニュースもあったが、悪いニュースはその15倍はあった。
日本でも、ついに問題が発生した。
今、菜々美は超世王に乗って、工場の外で布陣する第二師団に混じっている。その第二師団に対して、暴徒が何かずっとわめき散らしていた。
シャドウと内通しているものを殺せ。
今までの自作自演で多数の犠牲を出した連中を差し出せ。
そう叫んでいるが。
掲げているプラカードなどは日本語が書かれておらず、なんだか分からない文字が書かれていた。
なんでも活動家の間で「代々伝わっている」身内でだけ通じる文字らしく。
そんな身内でしか通じない文字で威嚇されてもと、ぼやくしかない。
いずれにしても二千人に達する暴徒は、神戸から這いだしてくると、鉄パイプや角材で武装して、京都工場に向かってきていた。
警官隊などによる制止も無視。
今では警備ロボットが暴徒を囲んでいるが。それでも暴徒は昂奮を納める様子もない。中には火炎瓶を用意している者もいた。
第二師団全部が出て来ている訳ではないのだが、軍が出た理由は決まっている。
第四師団の一部の兵士が、この暴徒に加わっているのである。
しかも其奴らは、軍用兵器を持ち出してもいた。
最悪の事態だ。
民衆の声を無視するなとか。
民衆に軍隊が暴力を振るうのかとか活動家達は叫んでいるが。
そもそも京都工場を破壊し、中にいる人間を皆殺しにしようと目論んでいる時点で、何を寝言をいう資格があるとでも思っているのか。
この手の活動家は自分は何をしても許されると本気で思っている節が古くからあったらしいとは聞いているが。
それにしても酷いなとしか菜々美は言えない。
不細工なロボット。
さっさとパイロットを引きずり出せ。
シャドウのスパイ。
裏切り者。
そんな声も聞こえる。
だったらお前等が超世王に乗って戦えよ。そう言い返したいが、何も言うなと先に広瀬大将に言われている。
ライオットシールドが出て来た。
昔暴徒鎮圧に活躍した盾だ。半透明の素材だが、非常に強力。シールドバッシュという戦術が、いかに強力であるか。盾は防具以前に武器でもあることを、現代でも示した強力な装備である。
であるのだが。
持ち出されたライオットシールドは、既に存在しない機動隊という警察の鎮圧部隊に主に配備されていたらしく。
それらはシャドウとの戦闘で殆ど失われてしまったようなので。
兵士達にくばられた数は限定されていて。
それで、暴徒を抑えるのは、警備ロボットに頼らざるをえないようだった。
連絡。
広瀬大将からだ。
「活動家達の首謀者を今洗っていますが、どうやら神戸市内に潜伏しているようです。 其方にいる暴徒はただの陽動の可能性があります」
「どうします。 無力化でもしますか」
「今は少し待ってください。 今身元を洗っていますが……可能性として、以前入国してきた者達が糸を引いている可能性がありそうです」
そういえば、以前幾つかの国のお偉いさんが、「家族」を連れて無理矢理入国してきた事があったっけか。
それらが不平不満を口にしている可能性があるというわけだ。
勝手に自分の国の習慣を強要しようとしたりで、ろくな連中ではなかったが。
それに、である。
古くには、この手の活動家を神聖視するような風潮まであったらしい。
いわゆる知的層……インテリと古くは言われたそうだが。そう言った者達は、この手の活動を擁護する傾向があったらしく。
その手の層が手放しで褒め称えたために、とにかく暴れる連中が更に凶暴化するケースがあったようだ。
今、現物を見ていて。
これらに知性のかけらも感じないのは、皮肉としかいえない。
とにかく、今は広瀬大将の行動を待つしかない。
石が暴徒から投げられた。
喚きながら、暴徒が他にも何か投げ始める。
流石にちょっとばかり危ないな。超世王に引っ込む。
外にいる兵士達も、負傷者が出たら反撃にすぐに出るだろう。ただ、菜々美からは何もしない。
姉を侮辱するような言葉が飛んできているが、別に気にしない。
姉は見かけと頭以外は零点の人間だ。
その頭にも優秀だが著しく問題がある。
それもあって、菜々美としてはああだこうだと言う気にはなれない。まあ、あの悪口も一理あるなとしか言えない。
ライオットシールドの陣列に、暴徒が突っ込んで、弾き返されたようだ。
元々軍の訓練を受けている者達もいるのだ。
そして、致命的な事が起きる。
暴徒に紛れていた脱走兵が、持ち出していたM44をぶっ放したのである。
それは暴徒数人を巻き込み、更にライオットシールドにも着弾。大穴を開けて、兵士が吹っ飛んで倒れた。
それを見て、昂奮した暴徒が、一斉に襲いかかってくる。
ついにそれで、第二師団の兵士達も我慢の限界に達したようだった。
「鎮圧! 出来るだけ無力化しろ!」
「軍による弾圧だ!」
「無抵抗の一般市民を虐殺するつもりか!」
「お前達のどこが無抵抗な一般市民だ!」
仲間を撃ち殺された兵士が叫ぶ。警備ロボットがスタンガンを使って、次々に暴徒を黙らせる。M44をぶっ放した脱走兵は、即応した第二師団の兵士が即座に撃ち抜いて倒したが。あれは五~六人は死んだと思う。しかもこの暴徒どもは、どうせ軍のせいだと喚くのだろう。
たまったものじゃない。
他にも脱走兵が潜んでいるかも知れない。
そう思った瞬間、暴徒の中で何かが爆発。
あれは多分軍で支給されている自殺用の手榴弾だろう。シャドウに殺されるよりは自死を選びたい兵士のために渡されているものだが。実際にはシャドウに殺されるのは本当に一瞬なので、そんなもの使う余裕はないのが現実だ。
それが逃げ惑う暴徒の中で炸裂した。
血肉が飛び散る中で、狂乱の宴が続く。
これを無抵抗な民衆に、軍が一方的な暴力を振るったとでもいうのだろうか。
マスコミがまだ健在だった頃は、そうかき立てたかも知れない。
幸いにも、マスコミはもう存在していない。
ただ、SNSで印象操作をして、これを限りなく悪意を持って軍の凶行として広める輩はいるかも知れないが。
40式が動き出すと、暴徒は逃げだそうとするが。
警備ロボットがさっと退路に回り込んで、鎮圧をする。
それでも死者は出る。もみ合いの中、倒れたところを頭を踏まれたり。兵士に殴りかかって、殴り倒されて倒れた時に石で頭を打ったり。
更には、まだ暴徒に潜んでいる脱走兵が銃撃を開始して、それに巻き込まれたり。
兵士が無抵抗の市民に発砲するのは論外だが。
此奴らは無抵抗の市民でもなんでもない。
菜々美は嘆息した。
とりあえず暴徒はあらかた捕縛して、つれて行かれる。刑務所がパンクしないか心配だが。
問題はまだ他にもある。
広瀬大将から連絡が来る。
「やはり間違いありませんね。 其方に出た暴徒は陽動です」
「本命が来たんですか」
「ええ、それもGDFの本部ビルに」
「すぐに向かいましょうか」
不要と広瀬大将は言う。
既に備えはしているということだった。
現在、犯罪に対する方策は警官だけではない。半地下になっている神戸はほぼ人工都市とでもいうに等しく。
基本的にAIがプライバシーを配慮しながら監視をしている。
学校では古くには虐めが当たり前のように行われ、虐められる方が悪いという謎理論が横行していたらしいが。
現在では催眠教育が主体になった結果、学校そのものがなくなった。
今では街などの彼方此方に監視カメラが配置され。
それと連動した警備ロボットが動いており、通報無くとも犯罪者は殆ど逃げる事ができない。
このため神戸の犯罪発生率は極めて低い。
どれだけ裕福でも犯罪を起こすような人間はいるが、そういう連中の先手先手を打って犯罪を防ぐ仕組みが作られているからだ。
ただこれも、今できたものではない。
最初は監視システムの目を潜って犯罪をする輩が幾らでもいたし。
詐欺師の類だって多数いた。
幸い、AIがそれらをビッグデータとして学習し続けた結果、少なくとも犯罪者の上を行く程度には成長した。
その結果。
今の時代は神戸の犯罪率はさがった。
さがっていたのだが。
その神戸を、完全武装の兵士達が疾走していた。数は一個中隊ほどもいる。道行く人は訓練だと思っているようだが。
いずれもが殺気立っていて、もしも遮る人がいたら即時で発砲していただろう。
そして、実際問題、GDFの本部ビルにそれらの兵士達が流れるように突入しようとして。
警備ロボットが制止しようとし。
それを兵士達が蜂の巣にして粉砕して、それで市民達はやっと異常に気づいたようだった。
悲鳴を上げる者もいるが、すぐに逃げ散る。
我が物顔に警備ロボットを蜂の巣にし、GDFの本部ビルに押し入ろうとする兵士達だが。
彼等がビルに入ると、其処には誰もいない。
しんとした空間。
それが罠だと悟ったのは、訓練された兵士達だったからだろう。
あらゆる通路から、警備ロボットが現れる。
それも普通の円筒形のものよりも二回りも大きい。装備している銃を見て、兵士達は躊躇なく発砲した。
螺旋穿孔砲の普及と広瀬ドクトリンの徹底により、力不足と言う事もあって戦闘からどんどん消えているM44ガーディアンだが、逆に言うと埃を被って倉庫で幾らでも眠っていると言う事である。
基本的に軍倉庫は厳しい監視下にあるのだが。
いつの時代も、どんなに堅牢なハードウェアで守りを固めても。
それを動かす人間というソフトウェアがゴミだから、どうしてもシステムは破綻してしまうのである。
倉庫から持ち出されたM44が警備ロボットを撃ち抜こうとするが。
その弾丸が、射出した白い弾に阻止される。
兵士達はこれが対中型戦……レッドフロッグ戦で使われた、畑中博士が作った防御兵器の劣化版だとしらない。
明らかに困惑しながら射撃を続けるが。
警備ロボットは黙っていなかった。
二門装備している銃のもう片方が火を噴く。
此方は古典的なゴム弾だが、それでも完全装備の兵士を一発で気絶させるには充分な火力である。
しかも警備ロボットの射撃は正確極まりなく、突入した兵士達はまたたくまになぎ倒されていった。
「ブリキ人形共に何を手こずっている! 広瀬と天津原、それに嵐山の首に掛かっている賞金を忘れたか!」
「し、しかし射撃が通りません!」
「気合で通せ!」
ばかげた精神論で叱咤するのは、一個大隊の中で一番動きが悪かった兵士だった。
いずれにしても、これらの二回り大きい警備ロボットは、兵士達の後方からも現れて射撃を開始。
狙撃兵が何人か事前に伏せていて後方から警備ロボットを狙ったが、それらも全て通らない。
ライフル弾を即応して叩き落とす白玉。
直後に返す刀で飛んでくるゴム弾。
それに94名に達する兵士達は、八分も保たずに全滅していた。
最後に残った一人は喚いていたが、それもすぐにゴム弾の斉射を浴びて沈黙する。
それから、第二師団の兵士達が姿を見せる。
広瀬大将の指示で、彼等はすぐに外には出ないようにと言われていたのだ。これは無意味に人を死なせるような事ではないとも。
倒れている兵士達を、手慣れた様子で第二師団の兵士達が捕縛し、武装解除するが。これは対シャドウ戦の訓練以外では、これくらいしかやることがないからである。対シャドウ戦では、接近されたら終わりだ。だから軍隊式格闘術なんてものはなんら意味を為さないのである。
高速で接近する小型を、いかに螺旋穿孔砲の支援プログラムを受けつつ撃ち抜くか。これが課題になる。
逆にそれ以外はする事もないので、暴徒の鎮圧や、武装解除が必須になるのだった。
捕らえられた兵士達の情報がすぐに明らかになる。
やはり第四師団の兵士達だ。
損耗が大きくなって、それで訓練兵を募集するから、こういうのも混じる。
そして、その中で指揮をしていたのは。
以前要人としてこの国に入り込んで来た者だった。
ある国の国家首相だった男である。
家族と称して愛人を一ダースも連れてきたのだが。それらを全部送り返した後、ひたすら主戦派に回ってわめき散らしていた男だ。国を放置して、神戸で贅沢三昧をしている分際で、である。
他の兵士達よりも明らかに動きも悪かった。
つまり兵士としても並み以下だったと言う事だ。
とりあえず、GDF本部を狙った襲撃はこれで終わった。だが、まだ危険がある可能性が高い。
すぐに第四師団でも、全兵士に対するチェックが行われた。その過程で、クーデターに荷担しようと、作戦の展開を待っていたものが40名以上逮捕された。
事後処理には二日が掛かった。
そしてこの事件は、元々ないに等しかったGDFの団結を、完全に無に帰すこととなったのである。
GDF本部襲撃の実行犯として逮捕したアルバレア共和国の元大統領は、金髪碧眼の背が高い白人男性である。東欧に残った最後の国だが、東欧じたいが色々と問題が多かった地域だった。シャドウによって蹂躙された後、旧ロシアの人間やらも集まって出来た国である。
それはもう、こういうのが首相であっても仕方が無いのかも知れない。
即座にGDFはこのことを公表。
アルバレア共和国は、即時に大統領を元大統領とする声明を発表した。流石にこれは分が悪いと判断したのだろう。
まだ各国で混乱が続いている中、元大統領に聴取が行われた。
最初は酷く昂奮していて、訳が分からない話をしていた元大統領だが。
元大統領に貸し出していた家屋から薬物の類が多数発見されると、アルバレア共和国は元大統領の肩書きさえ消去して、そんな人物とは無縁だと言い始めた。
そもそも国政を放棄して愛人とともに日本に逃げ込んできたような輩である。
それも仕方が無いのかも知れなかった。
ともかく聴取が開始されると。
元大統領ですらない男は、口から泡を飛ばして叫ぶばかりだった。
「お前等無能な猿共の代わりに、俺がGDFを回してやろうという善意からの行動だ! シャドウなんて化け物と共存なんぞ出来るか! この世界は俺たち富を独占する者が回していれば良いんだよォ!」
「昔ならともかく、今の貴方の国は豊かとは言い難く、更に貴方の個人資産は全て貴方の故国によって凍結されました。 脱税から密輸までやりたい放題だったようですな」
「黙れっ! 支配者はそれくらいやって当然だ! 富を貪り喰い、民衆とか抜かしている猿共を全て支配する権利があるのが支配者なんだよォ!」
「三下」
聴取の様子を見ていた菜々美は、思わず呟いていた。
こんなのが数千人も指嗾して、クーデターを起こしかけたのか。しかもあの中隊が突入に成功していたら、下手をすると神戸が乗っ取られていた可能性が高い。広瀬大将の行動が迅速だったから、犠牲者は最小限に抑えられたが。
そうでなかったら、どうなっていたことか。
ちなみのあの警備ロボットは、姉が言われて設計したらしい。
M44ガーディアンで武装した兵士達相手に、制圧を余裕で出来る設計で。そう言われて、あれを作ったそうだ。
M44ガーディアンは、一応少数とは言え小型を倒した実績がある兵器。普通の警備ロボットの装甲では対応できない。
それであの警備ロボット……レッドフロッグ戦で用いたバリアを装備し。更にはプロテクターの上から完全武装の兵士を余裕を持って黙らせるゴム弾を発射できる……が作られたと言う訳だ。
まあ全ては目論み通り。
広瀬大将は、今の時代でなければ出世など無理だっただろうと嘲弄する声があるのを聞いたことがある。
シャドウに対しては強いが、人間同士の戦争で役に立つとは思えないと。
それが寝言に過ぎなかった事が、これではっきりしたのである。まあ、戦争の才能というのは学習にどうしても勝る。
だから、仕方が無いのかも知れない。
暴徒達も、インテリ崩れの家系の人間が多く、かなり高齢の者が目だった。
これら暴徒達に、「共産革命を行う」という約束で、元大統領は陽動作戦を依頼したらしかった。
ただそれだけではなく、手元にある密輸やら薬物の売買やらで手に入れた金を用いて、それらをばらまいてもいたようだが。
インテリといえど、所詮は金である。
今の時代、金なんかなんぼあっても、シャドウに襲われたら助かりやしないのに。
ともかく、これは内乱罪だろう。
殆ど適応例がないらしいこの刑罰は、死刑および無期懲役である。しかも死者まで出しているので、死刑で確定と見て良い。
今の時代はAIが裁判を行うので、数日で結果が出る。
元大統領は国すら見放したこともある。資産も凍結された今、誰も助け船など出さないだろう。
それからしばらく、GDF内で混乱が続いた。
幾つかの国でもクーデター未遂が発生して、鎮圧されたが。初期消火に失敗して、内乱寸前まで行った国家も幾つか出た。
人間は、シャドウが何もしなくても。
GDFをほぼ瓦解させ。
そして今。
勝手に破滅の坂を転げ落ちようとしている。
菜々美は側にある超世王を見上げる。
不格好で狂気的なデザイン。
菜々美が知っているスーパーロボットとは真逆のデザインだ。
だがこいつでなければ、中型を倒す事など出来なかった。ましてや単騎で小型を四桁倒す事だって無理だった。
そして戦い抜いてきたからこそ、シャドウが此方に通信を入れてきた。
戦いは無駄ではなかった。
無駄だったのは、上層部の自浄作用。
とてもではないが、これではこれ以上シャドウと戦うどころではない。
「畑中准将。 あまり良くない知らせです」
「どうしました」
「GDFから離脱していたスコットランドが、温存していた核を用いる動きを見せているようです」
「効きやしないっての……」
思わずぼやく。
案の場というべきか。
最強硬派と化していたスコットランドは、クーデター祭の中、何度もシャドウに対して戦いを挑み。
その軍は文字通り全滅の憂き目にあったようだ。
手も足も出なかった軍の「醜態」を見たスコットランドの上層部は、生き残った兵士達に対して精神論で罵倒した挙げ句、無能だから負けたと公衆の面前で罵り。意図的に負けた利敵行為を行ったとして、生き残りの兵士達を全員投獄したという。
それだけでも末期的だが、更に温存していた核兵器を持ち出したのだとか。
25年前の戦いでは、核が悉く通じなかったことを忘れたのだろうか。
忘れたのだろう。
「通信のホットラインはつなげないんですか」
「無駄ですね。 向こうから切っています。 これについては、現地の市民が必死に通信してきましたが、それも切れました。 恐らく言論統制を敷いていると見て良いでしょうね」
「……」
シャドウは攻撃されなければ反撃しないが。
核なんかぶち込んだら、反撃してくる可能性はあるだろう。効かないとしてもだ。
これでも数十万の民がまだいる筈だ。それを巻き込んで、自爆でもするつもりなのだろうか。
軍を送り込む事すら出来ない。
どうにもできない中、スコットランドはICBMに搭載した水爆を発射。発射した先は、よりにもよって北極。
相手は大型。「魔王」である。
そして、結果は25年前と同じになった。
ICBMは中途で一瞬にして灰燼と帰した。
観測は遠く過ぎて出来なかったが、シャドウ出現後の戦役で使われた、数多の人工衛星やデブリをまとめて塵と化した攻撃と同じものだろう。
文字通り何もかも消し飛んだのを確認。
幸い、スコットランドにシャドウが攻めこむ様子は無かった。それだけは幸いだったと言える。
それで、GDFにまだ残っている国々は緊急で会議を行いたいと天津原に申し出たようだが。
菜々美は参加したくない。
だが、一応これでも将官で英雄だ。
参加しないとまずいだろう。
溜息を幾度も重ねていると、メールが来る。
ノワールからだった。
ノワールは煽るような文面を寄越してきた。
まあ、菜々美も反論は出来ない。
ただ、三池さんには即座に連絡。
対応については、ナジャルータ博士も含め、アドバイスを貰いながら返信をする。
これでも菜々美は組織に所属している人間だ。
好き勝手な対応は出来ない。
「やあ、また随分と乱痴気騒ぎをしているようだね。 私が駆除した時と同じくらい酷いのではないのか」
「不愉快極まりないけれど、それについては同感かな。 記録でしか見た事がないけれど」
「勉強を積極的にするのは良いことだ。 それで……」
ノワールは。わざとメールを一旦切った。
この様子だと、核攻撃を怒ってはいないらしい。
まあそうだろうな。
多分旧軍需産業と組んでいたスコットランドは、ICBMも一世代か二世代ぶん強力に強化していたのだろう。
搭載している水爆もだ。
だが、それでもそもそも大型シャドウの前には、玩具にもならなかった。
ABC兵器は、25年前にあらゆるものが、ありったけシャドウに叩き込まれた。それでも通じなかったのに。
今更どうして通じると思ったのか。それが分からない。
今回は中途で撃墜されたが、多分直撃したところで効かなかっただろう。TNT換算で何メガトンの火力だったか知らないが。それでも、そもそも長時間超高熱を与えないとシャドウは斃せないのだ。
今までの戦訓を見ていてそれくらいは分かっている筈なのに。
完全に近代兵器信仰を拗らせた結果の愚行。
菜々美からも、何一つ擁護が出来ない愚策の果てだった。
ノワールは言う。
「君達がこのまま破滅するのは、此方としてはあまり面白くない」
「面白い面白くないで殺していたら人間と同じだろ」
「感情的な意味ではない。 現時点でこの規模であれば、君達は地球に負担を掛けずに生きていけるし、なんなら我々でもその尻ぬぐいは難しく無い。 だがこのままだと、君達はそのか細い連携すら断ってしまうだろう」
「それについては同意する」
まあ、全て言われたとおりだ。シャドウの方が、余程客観的に人間を見ていると言える。それと、人間をやはり滅ぼすつもりはないようだ。
ただ、それが。
憐憫とかの人間的な感情から来るものとはとても思えないが。
「一度絶滅した種を再生させるのは我々でも大変でね。 君達が片っ端から殺戮しまくったおかげで、随分苦労した。 また一つ苦労を背負い込むのは色々と面倒だという事だよ」
「そうか、あんた達も万能ではないと」
「万能であれば君達をすぐに全て滅ぼして、まっとうな文明を構築するように生物として調整しているだろうね。 それが出来ないし、してもいけないとされている。 だからこうして苦労しているのさ」
「苦労はお互い様か」
無茶苦茶な事を言うノワールだが。
人間の文明がろくでもない代物である事は、はっきりいってあのアホ丸出しのクーデター祭で菜々美も嫌と言うほど思い知らされた。
もしも超世王が人型ロボットとして完成して、量産でもされていたら。
それもクーデターに使われていたかも知れない。
はっきりいって冗談じゃあない。
そんな事のために菜々美は苦労してきたのではないのだ。
「やはり上司がいるんだね。 何者? 宇宙人?」
「それは答えられない。 ……強いて言うならば、宇宙人ではないとだけ言っておこうか」
「宇宙人ではない?」
「君達の定義ではそうなる。 そして私の主は、現時点の現状維持で概ね満足している状態だ。 これ以上も以下も望まない。 別に君達が滅んだところで困る事は一つもないが、私のリソースが割かれる。 それは面倒だ。 だから、滅ばないようにするしかないだろうね」
頭が痛くなってきた。
超高度な文明を持つ宇宙人による侵略。
これはナジャルータ博士が提案していた説の一つだった。
相手は人間を知っている。
それも恐らくは、過去未来。平行世界などの人間もだ。
だとすると、可能性があるとすれば、銀河規模の文明を持つに至った知的生命体ではないのかと。
確かに菜々美としては納得出来る説ではあった。
そういう生命体から見れば、地球人なんてタチが悪い辺境の蛮族くらいにしか見えないだろうし。
21世紀の各国で起きたように。
何もかも違う存在を見境無しに受け入れたところで、互いに不幸にしかならない。
その程度の事は分かりきっているのだろうと。
だが、宇宙人でないとすると。
シャドウ……ノワールは何者だ。
「我々に滅びないことだけを望んでいるのかなあんたは」
「そうなる。 今の君達は、物資を自給自足し、最盛期ほどではないにしても文明を発達させる余地も持っている。 それで充分と私は判断する。 余計な欲を掻かないように、多少痛めつけた方がいいかな?」
「その場合は抵抗させて貰う」
「ふっ」
鼻で笑いやがった。
こういう事が出来るという事は、人間の思想とか思考とかを完全に理解していると言う事である。
やっぱり全てで上をいかれている。
「そうだな、此方から提案しておこう。 攻撃を受けず、これ以上領域を広げないのであれば。 汚染物質を垂れ流しすぎたり、広域に汚染物質をばらまかない限りは、私からは基本的に手を出さない」
「本当にそれでいいのか」
「いいよ。 そもそも君達が一万年経ってもなんら進歩していない種族なのは分かりきっている事だ。 流石に十万年経ってもなんら進歩しないようだったら問題だが、私は結論を今すぐに出せとはいわない。 君達とは私の時間のスケールが違う。 ただそれだけの理由だ」
「それは随分とお優しいことだな……」
ちょくちょく苛立たされるが。
それも相手のテクニックかも知れない。
それに、だ。
何回か試したらしいのだが、ノワールは菜々美以外のメールには完全に無反応であるらしい。
つまり菜々美が話すしかない。
「このまま内乱で自滅するようだったら、幾つか君達のコロニーを滅ぼして、「敵」がすぐ其処にいることを思い知らせるしか無さそうだが」
「やめろ」
「やめるかどうかは君達次第だ」
メールが切れた。
溜息が出る。
さて、どうなるか。すぐにナジャルータ博士達が連絡をしているようである。これは、今まで以上に会議があれるだろうな。
それに、である。
超世王が装備している一部の武器はともかくとして、超世王はそもそも対人戦闘用の兵器ではない。
近代兵器と戦わせてもあまり意味が無いし、相性も良くない。
旧軍需産業の連中が超世王を馬鹿にしていたのも、うちの戦車の方があらゆる面で優れているし。シミュレーションをしても絶対に勝てるというのが理由であったようだ。
まあ、それはそうだろう。
だが、それは相性というもので。そういった兵器がシャドウに蹴散らされても、なおも思考を切り替えられなかったのは、彼等の問題である。
菜々美の知った事じゃない。
そして姉の作る変態兵器の扱いに特化している菜々美は、恐らくこれから起きるだろう凄惨な人間の内輪もめでは役に立たない。
空飛んで下手すると羽とか生えてるような人型兵器……文字通りスーパーロボットどうしの戦いであったら、或いは役に立てるかも知れないが。
んなもの作るのには、姉でも老婆になるくらいまで時間が掛かるだろうし。
量産なんてもっと無理だ。
天津原から連絡が来た。
「これから会議を行う。 GDFを離脱した国家は、それぞれシャドウに仕掛けた挙げ句、保有していた軍を全滅させてしまったようだ。 これらをGDFに再加入させ、シャドウに対して身を守るための策を改めて練る。 指導者の入れ替えも必要かも知れない。 場合によっては、どうにかして各地に軍を出しての鎮圧も……」
元々無能で決断力も低い天津原だ。
嵐山に尻を叩かれてこの会議を開くことを決めたようだが。それでも胃に穴が開きそうになっているだろう。
初めて菜々美は、この無能な男に同情していた。
菜々美だって、対人戦はそんなに出来る方ではないし。
ましてやバカ共の鎮圧なんて事に関しては、絶対にやりたくないのも事実なのだから。
※ICBMと核兵器について
いうまでもなく現在の人類の最終兵器ですね。
そもそも本作の敵のシャドウに核は通用しないのですが、この話で核を発射したのは、「25年前の戦いでは核の性能が低かったから通じなかった」という発射した連中なりの理屈によるものです。
現在最強の核兵器は旧ソ連で開発されたツァーリボンバで、破壊力は最大でTNT換算50~100メガトンといわれていますが。この話中で発射された核兵器は水素爆弾で、炸裂していればTNT換算500メガトン相当の威力となり。また搭載していたICBMも現在のものはマッハ20程で飛ぶのですが、この話で発射された最新世代のICBMはマッハ45まで速度が出る強力なものでした。
まあそれでもなんら効果は無かったのですが。そもそも着弾する前に撃墜されましたし。ついでにいうと、仮に直撃していても大型シャドウには効きませんでした。
近代兵器信仰をしていた者達にとっては、これはあまりにも厳しい現実だったと言えます。