スーパーロボット活劇、超世王セイバージャッジメント   作:dwwyakata@2024

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畑中博士が予想していた通り、動き出す新種中型、アトミックピルバグ。

作中で解説しているとおり、現状の人間のテクノロジーから見て、最大楽観的に考えても十世代は上の相手になります。勿論実態は更に比較にもならない程に上です。

此奴が動き出した以上、こいつの四キロ圏内は全て文字通り人工物も人間も消し去られます。

それを避ける為に、GDFと超世王セイバージャッジメントは総力を挙げます。





3、動き出す破滅の球体

ようやくシミュレーションでもアトミックピルバグを撃破出来るようになってきた。ただし、まだまだ最悪の予想の状況では勝率が低い。

 

最悪の予想……勿論最悪の最悪は、高熱での攻撃が一切通じないという状況ではあるのだが。

 

今は中型、小型が一斉に来る場合を想定しなければならないのが実情だ。

 

そのため、今回超世王には、新装備の他にも今までの装備類を積載することになる。このため、装備重量がきつくなり。

 

整地走行で40㎞程度しか速度が出ない。

 

下手をすると、人間の走る速度程度である。

 

ちょっとばかり問題が多いが、それでもどうせ逃げられないのは同じだ。小型も中型も、時速百㎞以上で動き回る。

 

これは次世代戦車を売りにしていたアレキサンドロスⅢでも逃げられないという点では同じである。

 

訓練を続けていると、来るべき時が来たと言うべきか。

 

連絡、それも緊急連絡が入った。

 

「アトミックピルバグ、移動開始!」

 

「!」

 

すぐにシミュレーションマシンを出る。

 

広瀬大将が連絡を入れ、すぐに各師団が動き出したようだ。

 

ちなみに市川中将は、今回で参謀長を降りると公言しているらしい。元々広瀬大将とは相性も良くなかったらしいし。

 

自分で得意分野にあたる部隊を指揮し。

 

その長に収まりたいのかも知れなかった。

 

或いは各国で超世王のデチューンモデルを試したいというのも、噂ではなかったのかも知れない。

 

それで明確な戦績を上げれば。

 

晴れて師団長というのであれば、分からないでもない。

 

ただ今は、此方からシャドウを刺激するべきではない。

 

それもまた事実なのだ。

 

「アトミックピルバグの進路、速度は」

 

「現在西……京都工場を目指しているようです! 時速は40㎞ほど!」

 

「随分と遅いな……」

 

中型としては遅すぎるほどだ。

 

敢えて速度を出していないのか、これから出すつもりなのかはちょっとなんとも分からないが。

 

ともかく、出るしか無い。

 

すぐに超世王セイバージャッジメントの新装備を積載して。工場から出る。広瀬大将の手腕で、既に各部隊が展開しているようだった。

 

「監視用のドローン、監視カメラ、次々破壊されています!」

 

「スカウトは撤退。 予想進路から外れてください。 現時点で迎撃行動の範囲はどうなっていますか」

 

「四㎞を保ったままです!」

 

「……」

 

珍しいな。

 

シャドウは戦闘になると奥の手を出してくることも多かったし、それで随分苦戦させられることもまた然り。

 

此奴は今の時点で本気を出す予定がないのか。

 

それとも。

 

ともかく、想定される交戦地点に急ぐ。今の時点で、アトミックピルバグのデータを確認しているが。

 

いずれのデータも、起伏を一切無視して、京都工場に向かっているという事を示しているようだった。

 

しかも移動中に四㎞圏内に入った人工物は、あらかた破壊しながら進んでいる状態である。

 

京都工場に辿りつかせたら終わりだ。

 

第一、第二、第三の各師団が布陣を終える。

 

この戦いは一瞬だと既に説明が為されているようだ。もしも斃せなければ一瞬で此方が全滅する。

 

神戸も落ちる。

 

超世王セイバージャッジメントだって無事ではすまない。

 

そう広瀬大将が演説しているが。

 

無事では済まないどころか、この武装が通じなかったら、一瞬で破壊されて終わりである。

 

菜々美も億が一にも助からないだろう。

 

敵が八㎞まで接近。

 

装備の状態を確認。

 

出撃の直前まで整備をしてくれた整備工のおっちゃん達には感謝するしかない。姉も最後にチェックを入れてくれた。

 

現時点で、相手の速度が時速40㎞。

 

音速に達する事も想定していたので、この点だけは随分と楽である。問題はこの後なのだが。

 

ともかく、やるしかない。

 

七㎞のラインを割ったときに、広瀬大将に言われて、もう一度ノワールにメールを入れてみる。

 

返事はなしか。

 

では、やるしかないだろう。

 

姉は京都工場から、三池さんに連れられて脱出したようだ。

 

25年ぶりとなる、シャドウの能動的な侵攻。ただ、シャドウから「奪還した」土地に入り込んで来ただけだ。

 

今の所は。

 

これがもっと入り込んで来たら、文字通り終わりである。

 

広瀬大将が、指示を下していた。

 

「各部隊、攻撃開始!」

 

「オープンファイヤ!」

 

「効力射開始!」

 

総力での攻撃が始まる。

 

まず地を飛び立ったのは、実に五万に達するドローンである。これらは一定距離を保ちながら、一斉にアトミックピルバグに迫る。

 

凄まじい数だが、どれもただ飛ぶだけの玩具。

 

短時間で大量生産するのは、時間も物資も足りなかったのだ。

 

それらが、四㎞ラインを超えた瞬間、次々に爆散する。同時に、各部隊に展開している迫撃砲部隊、自走砲部隊が、一斉に射撃を開始していた。

 

凄まじい弾幕が、アトミックピルバグに浴びせかけられる。

 

弾丸だろうがアトミックピルバグには関係無い。

 

等しく人工物だ。

 

いうまでもなく、戦車砲や自走砲に装備されている大口径砲の弾丸は、速度で軽く音速を超える。

 

だが、それらがいずれも次々に爆散している。

 

凄まじい迎撃精度。

 

CIWSなんか問題にもならない。

 

これほどの迎撃精度だと、確かにいちいち選んではいられないだろう。ただ、凄まじい飽和攻撃で、ついにアトミックピルバグの至近で爆発が起き始める。

 

その瞬間、菜々美はレバーを引いていた。

 

今回用意してきたのは、多段式の投擲型……いや違う。

 

水平発射するタイプの斬魔剣の亜種とでもいうべきだろうか。斬魔剣に似ているが、今回は幾つか違う点がある。

 

まず発射は水平で、ロケットでそのまま飛んでいく。

 

ミサイルの場合は精密な制御が出来るものを指すのだが、ロケットはそのまま噴射だけするものを指す。

 

当然ロケットの方が安価だ。

 

ミサイルは相当な高額兵器だが、これは内部に精密動作をする部品をたくさん有しているからである。

 

ロケットはこれに対し、一時期戦車の戦略的価値を著しく下げたといわれるRPG7を例に出すまでもなく、とにかく安価なのである。

 

この多段発射式の斬魔剣の亜種。

 

姉が名付けたのは、「斬魔クナイ」。

 

これを発射。

 

大きさは斬魔剣の半分ほどしかない。これが相手まで到達するように、常に飽和攻撃を続けるのだ。

 

直撃。

 

仕組みは斬魔剣と同じだが、細かい制御が効かない。その代わり、高圧プラズマを相手に流し込み続ける。

 

相手に着弾すると同時に展開して、相手に吸い付く仕組みもついている。

 

クナイというよりも蛸でも放り投げているような感覚だが。

 

着弾後の名人芸は必要ない。着弾させるのが至難なのだ。

 

「初撃命中!」

 

「効果確認……効果浅!」

 

監視しているスカウトからの連絡だ。まあ予想はしていた。防御面も堅くて当たり前である。

 

熱量を上げれば焼き切れる時間は短くなるかも知れないが、あのサイズの廉価版斬魔剣では、出力にも限界がある。しかも今回は、有線でのコントロールも不可能だ。

 

そのまま焼き切ろうとしていた斬魔クナイが、爆散。

 

邪魔、といわんばかりだ。ただ処理する順番が来たから、アトミックピルバグがそのまま爆破した。

 

それだけのことである。

 

しかし、直後に第二射が直撃。

 

六キロ先、後退しながらだが。それでもピンホールショットを決めた。また同じ箇所に、超高熱が流し込まれ始める。

 

さて、どうでる。

 

加速されるとちょっとまずいのだが。第三弾を準備する。

 

多段式のこの斬魔クナイ、二十発まで弾を用意しているが。一発でのダメージがあれだと、ちょっと不安だ。

 

舌なめずりしているなか、横合いから出て来たのはMLRSである。

 

姉が作った変態兵器の方では無く、対地制圧用のロケット兵器だ。これもシャドウ相手にはまったく役に立たなくなったこともあり、倉庫に保管されていたのだが。

 

クラスター弾をばらまくという意味では、今回の作戦では使える。

 

シャドウにはダメージを与えられないとしても。

 

超世王が攻撃をする間の時間、相手の迎撃を飽和させるという意味では使えるのだ。

 

第二射が、目に見えた傷を作るが、それほど効いているようには思えない。というかあいつ。

 

なんか違和感がある。

 

今までは、ダメージを受けたシャドウは、凄まじい大暴れをしたり。本気を出し始めたりしたのだが。

 

あれはなんというか。

 

シャドウは恐らく生物では無い。

 

これはナジャルータ博士が前に言っていた。

 

ノワールと会話した後も、菜々美はその結論は変えなくていいと思っている。

 

シャドウは少なくともこっちの世界で生物と呼ばれている存在とは違うと見て良い。その結論は、変わらない。

 

問題は、あいつが。

 

今までの、ダメージを受けると苦しんでいた他のシャドウから見てすら、異質だと言う事だ。

 

なんだろう。

 

何か、全く根本から勘違いをしているように思える。

 

MLRSがクラスターロケット弾を叩き込み、そして次々に爆発させる。そのまま粉々に打ち砕かれるロケット弾。それらが本来は、鉄の雨と怖れられ、歩兵を蹂躙してきた殺戮兵器だが。

 

シャドウの前にはなんら役にも立たない。

 

第二射の斬魔クナイが爆破された。

 

即座に第三射。ダメージは確実に蓄積している。しかし、どうにも変だ。後退しながら、菜々美は広瀬大将に連絡を入れる。

 

「広瀬大将、妙だと思いませんか」

 

「どういうことですか」

 

「あいつ、やられても何とも思っていないようにすら見えます。 今までの中型は、ダメージを受け始めてからは殺意全開でした。 シャドウは生物かというとかなり怪しいという点は私も同意するんですが、彼奴は……」

 

「そうですね、あまりにも妙です。 しかし、彼奴を行かせたら……」

 

そうだ。

 

神戸も、京都工場もやられる。

 

第三射のクナイが爆破された。

 

球体だが、転がってくる事もなく、アトミックピルバグはそのまま進んできているようである。

 

距離を保ちながら、第四射。

 

更に傷が増える。

 

だが、それで迎撃が弱くなるかというとそんな事はない。

 

「第一師団、残り弾薬半分!」

 

「此方自走砲部隊! 弾丸使い切った! 撤退する!」

 

「狙撃大隊、四㎞ライン近くまで展開! 敵と併走しながら、螺旋穿孔砲、重機関銃、ありったけ叩き込んでください!」

 

「イエッサ!」

 

かなりまずいな。

 

恐らくだが、今までのシャドウ相手の比では無い消耗だ。人的消耗は今の時点では出ていないようだが。

 

まてよ。

 

まさか彼奴の狙いは、最初からこれなのか。

 

ぐっと歯を噛む。

 

とにかく、倒してからだ。

 

斬魔クナイを立て続けに二つ。これは各師団の弾薬などが怪しくなってきているからである。

 

狙撃大隊が接近して、四㎞ラインの外側から猛射を浴びせているが、それだっていつまでもつか分からない。

 

ダメージを二倍与えるには、斬魔クナイを二倍入れていくしかない。このために、残弾も多めにしてある。

 

傷が目に見えて増えていく。ただ黙々と進みながら、ありとあらゆる四㎞ラインに入ったものを、順番に爆破していくアトミックピルバグ。途中にあった監視塔なども、容赦なく消し去られた。

 

恐らく人間が踏み行っても同じように扱われるだろう。

 

人間は生物ではあるが。

 

恐らくアトミックピルバグは人工物として認識して、即座に消しに掛かってくる。だから倒すしか無いのだ。

 

「第三師団、弾薬そろそろ使い切ります!」

 

「さがってください。 各狙撃大隊、例のものを」

 

「はっ!」

 

また斬魔クナイが爆破される。

 

各師団の状態は良くない。

 

とにかくありったけの弾薬を片っ端から投入して、それでやっと超世王の攻撃の隙を作ってくれているが。

 

それも、これではそれこそ弾丸を使い尽くしてしまう。

 

狙撃部隊が取りだしたのは、アサルトライフル。それも旧式のものだ。弾丸は恐らくNATO弾とかの……人間には有効な弾丸。

 

もう倉庫で埃を被るしか仕事がないそれを、全て使い尽くすというわけだ。

 

「ジャムった場合は捨てろ! とにかく一発でも叩き込んで、相手の気を反らせ!」

 

「イエッサ!」

 

「相手の動きは直線的だが、くれぐれも近付きすぎるなよ! 最初にやられたスカウトみたいに消滅するぞ!」

 

アサルトライフルの一斉射が始まる。

 

あんなものはもはや旧時代の遺物だが、だからこそこれでいいのだろう。

 

人を殺すための傑作兵器。

 

ここで使い切ってしまうのが一番だ。

 

クナイが爆破されて、また次。次。かなり厳しい。そろそろ京都工場が射程内に入ってくる。

 

残弾、残り三。

 

アトミックピルバグの体の傷はかなり大きくなってきている。これで斃せる事に賭けるしか無い。

 

一斉に発射。

 

三発とも、全部命中。

 

よし、とぼやく。

 

更に傷が深くなって行くアトミックピルバグ。だが、それを気にしている様子すらない。

 

もう1丁、とどめだ。

 

バックを停止。

 

おそらくコレで斃せなかったら、どうにもならない。

 

だから、試す。

 

敢えて四㎞ラインに前進。

 

最終的な作戦として、既に広瀬大将には伝えてある。同時に三つの師団も、残った弾丸をありったけたたき込みはじめる。

 

斬魔剣Ⅱを投擲用に用い、そのままアトミックピルバグに叩き込む。

 

深手を受けていたアトミックピルバグが、だめ押しの一撃をぶち込まれて、凄まじい悲鳴を上げた。

 

初めて、他の中型と同じような反応を見せた。

 

だが、次々に爆破されるクナイ。

 

更に、その余波で、斬魔剣Ⅱも誘爆。まずい。これは離れないと。だが、離れるより先に、アトミックピルバグの迎撃が停止する。

 

そして、奴は溶けるように。

 

文字通り空に溶けるように、消滅していった。

 

呼吸を整える。

 

最後の一瞬、四㎞ラインを割り込んでいた。一瞬でも倒すのが遅れたら、死んでいただろう。

 

しかもああしなければ、倒せなかった。

 

非常に厳しい賭だった。それでも、勝ったには勝ったか。

 

損害報告を広瀬大将がまとめる。

 

中途で脱落したり、ジープから落ちたりした兵士はいるが、負傷者はいるがそれだけ。それは、良かった。

 

問題は、別のところにある。

 

「全軍、残弾を使い切りました。 もはや残弾は……」

 

「す、スカウト21より連絡! 関ヶ原にシャドウ出現!」

 

「やはりな……」

 

菜々美は最悪の予想が当たったことを悟る。

 

関ヶ原には、新たなアトミックピルバグが出現していた。一体倒すだけで、GDFの現在の総戦力を動員し、全ての鉛玉を使い尽くす勢いで飽和攻撃をし。それでやっとだった相手が。

 

なんの問題もないとシャドウが言っているかのように。

 

しれっと二体目が現れていた。

 

疲弊しきった声で、広瀬大将が言う。

 

「総員撤退。 負傷者を回収してください。 もはや我々に弾丸は残されていません。 戦う術がありません」

 

敵は屠った。

 

だが、この戦いは負けだ。

 

完全にGDFの上を相手は行った。そして今回の戦訓を生かしたところで、アトミックピルバグを簡単に倒す事は無理だ。

 

奴は超高熱に対して強力な耐性を持っている。今まで交戦した中型の中でも、ブライトイーグルと同等かそれ以上の耐性があったと見て良い。

 

それがあの凶悪無双な迎撃能力を有しているのだ。

 

奴が動き出すだけで、GDFは逃げるか。弾丸を使い切りながらどうにか動きを止めるしかない。

 

倒せるかもしれない。

 

だが、ただそれだけ。

 

戦略的には完全な負けを強いられる。

 

そういうシャドウが出現したのである。

 

疲れきった皆が、帰途につく。

 

二匹目がすぐに動き出すかどうかは分からないが。もしも動き出したとしても、対応は出来ない。

 

超世王は珍しくほぼ無傷だが。

 

菜々美は、強烈な敗北感を受けていた。

 

 

 

京都工場に戻る。

 

即座に斬魔クナイを補充する。

 

こいつはクナイと言いながら、収納用の装備が極めて重い。このためこいつを積んでいく場合は、超世王が鈍足になる事を覚悟しなければならない。

 

だが、これを装備して出ても次は勝てない。

 

あいつを倒すための物量を用意できないからだ。

 

しいていうならば、人工物であれば何でも迎撃するというのが弱点になるかも知れないが。

 

その人工物だって、どれくらいのラインから迎撃してくるのかは分からない。

 

しかもクラスター弾などはまとめて消滅させられていたようだし、正直当面は軍事作戦なんて不可能である。

 

頭を抱えたくなる相手だ。

 

今までも人間の近代兵器のメタを取ってくる相手ばかりだったが。

 

今回の奴はそれらの中でも特にまずい。

 

アトミックピルバグは、移動するだけで人間の全てを消し去り、迎撃しようとする相手には膨大な物資の消耗を強要する。

 

そして何となく分かってきたが。

 

恐らく今回の戦い。

 

アトミックピルバグのデモンストレーションだったのだ。

 

戦えると思うならやってみろ。何体でも繰り出してやる。

 

今まで名人芸で斃せてきた中型とは根本的に違う対策型だ。なんなら幾らでもこれから繰り出してやる。

 

そうノワールが言っているような気がして、大きな溜息が出ていた。

 

ソファでぐったりしていると、会議に出るように言われたので。姉と三池さんと一緒に、テレビ会議が出来る部屋に移る。

 

顔色が真っ青になっている天津原。

 

この様子だと、近いうちに胃が全部溶けて無くなるのではないのか。

 

「アトミックピルバグは撃破しましたが、代償に現在稼働出来る実戦部隊は、全ての弾薬を失いました。 今後もし戦うとしても、同様の損耗を覚悟しなければならないでしょうね」

 

広瀬大将はそれだけいうと。

 

この戦いの人的被害はゼロで。

 

それこそ、相手の意図通りなのだろうと強調した。

 

戦いの前にスカウト16が蒸発させられたが、それもアトミックピルバグの脅威を印象づけるためのものだったのだろうとも。

 

「シャドウは恐らく、これ以上の抵抗は無駄であることを見せつけてきたのだと思います。 今回アトミックピルバグを倒すためだけに、GDFのほぼ総力を挙げ、弾丸も使い切りました。 シャドウは小型すら介入させずに、それを見ているだけで良かった。 アトミックピルバグはシャドウにとってはロボット掃除機のようなもので、それこそただおいておくだけで人間の力を効率的にそげる便利なもの、くらいな扱いなのだと思います」

 

「それで……どうすれば」

 

「良いでしょうか」

 

天津原代表に対して、菜々美は挙手する。

 

そして、咳払いしてから、説明を入れる。

 

「広瀬大将の発言に私も賛成します。 もしも私がノワールだったら、この後に連絡を入れてくると思います。 以降はくだらない交戦を考えないように、と」

 

「しかしそれでは、奴らに無条件降伏をしろというのと同じではないか!」

 

「人間の国家相手の無条件降伏よりよっぽど有情だと思いますよ。 人間の場合は降伏した相手から何もかも奪い尽くすではないですか。 シャドウの場合は、完全に放置。 それが全てです」

 

菜々美がそう言うと、重い沈黙の帳が場に降りた。

 

もはや、打つ手がない。

 

それは明らかだった。

 

ナジャルータ博士が、交戦データを分析した結果を話してくれる。

 

誰もそれにどうこうとは言わない。

 

「私も畑中少将の分析は正しいと思います。 アトミックピルバグは倒される時まで、中型が断末魔のように出していた音を出しませんでした。 恐らく最初から、人間の弾薬を使い尽くさせるためだけの存在。 そういうものだったのだと思います。 シャドウは生物ではなく、厳密には集合意識ですらないのかもしれません。 だから取れる、最大の塩試合。 それがこういう存在の登場なのでしょう」

 

「研究者なら、なんとか出来ないのかね」

 

「相手のテクノロジーは我々より最低でも十世代は上と見て良いでしょう。 しかももっとも楽観的に見ても、です。 その上相手は此方に対して手を抜いているのが今回はっきりしました。 今まで畑中少将が中型を斃せていただけでも不思議だったくらいなんです。 一世代程度兵器を刷新した程度で勝てると舞い上がっていた旧軍需産業と近代兵器信仰をしていた者達の晒した無様は、みなさんも見たばかりでありましょう。 シャドウは滅ぼそうと思えば人間をいつでも滅ぼせるし、なんだったら一度滅ぼす事だって選択肢にある。 多数の絶滅動物が復活している事からもわかりましょう。 滅ぼしたって再生させて、時間を掛けて手なづければ良い。 それをしていないのは、単に生かしておいた方がシャドウにとって効率が良いからだけです!」

 

ナジャルータ博士が現実を突きつける。

 

ますます場は重くなった。

 

咳払いしたのは、広瀬大将だ。

 

「とにかく、です。 今我々がするべきは、奴隷にならないように、彼等に対して少しでも抵抗する力を蓄え、それで少しでも有利に交渉できるようにする。 それだけしかありません。 残念ながらGDFとシャドウでは……恐らく全盛期の地球の軍隊とでも同じでしょうが、圧倒的に力の差がありすぎますし、大型を仮に倒せてもなんら解決にならないでしょう。 今回出現したアトミックピルバグを、破綻的な物資をつぎ込みつつも倒す事が出来た。 それだけでも、相手に対して、力を持っていることは示せました。 これからは、対話と和平のフェーズです」

 

「負けを前提に指揮官である君がそのようなことをいうのかね!」

 

「負けなどとっくにしています! 勝っているとでも思っていたのですか!」

 

流石にたまりかねて、まだ隙あらば領土を奪還、などと考えている国代表に広瀬大将が言うと。

 

やはり、その場は黙り込むのだった。

 

荒れないだけましか。

 

菜々美はとっくに負けていることは知っていた。

 

ロボットアニメだと精神論で此処から状況を打開したりするものだが、そんな都合がいいものは此処にはない。

 

精神論であいつ……アトミックピルバグに勝てたら苦労しない。

 

更に、である。

 

通信が入る。

 

「各地より連絡が入りました! ほぼ同時にです!」

 

「なんだ、どうした」

 

「アトミックピルバグ出現! 北米、欧州、アフリカ、東南アジア! 各地に残った大都市を伺う位置にいます! 日本と同じように、現時点では一切動いていませんが……」

 

「終わりだ」

 

誰かがぼやいた。

 

違う。

 

とっくに終わっていた。

 

菜々美は心中で訂正する。

 

というか、別に特段状況が悪化したわけじゃない。今までだって、シャドウがその気になったら人類なんて数時間で地球から消えていた。

 

それがより分かりやすく可視化された。

 

それだけの話だ。

 

多分ノワールが連絡を入れてくるな。

 

そう思いながら、葬式の場みたいになった会議を、菜々美はぼんやり見つめた。姉が発言する。

 

「現時点で、もっともアトミックピルバグはやりづらい相手かと思います。 そしてシャドウはこれをなんぼでも繰り出せることが分かりました。 それに今まで交戦経験と撃破経験がある中型も、まだ性能が上がることはほぼ確実と見て良いでしょう。 一旦此処は、相手に対する攻勢を見せる姿勢を控えて、戦力を休養させ、研究するフェイズに入る時かと思います。 相手が交渉を申し出てきたら、乗るべきでしょう」

 

「賛成します」

 

姉にナジャルータ博士が賛成する。

 

完全に死人の顔色をしていた天津原が、力無く頷いていた。

 

「分かった。 専門家……それも多くの実績を出してきた専門家二人がそういう程だ。 確かにそうするしかないだろう」

 

「天津原代表!」

 

「GDFの弾薬庫を空にするまで打ち込んで、やっと斃せた相手が、世界中に現れて、都市を伺っている。 今の時点では動く気配はないが、もう誰でも分かる。 あれを一体斃すだけでやっとだった。 それすらも、畑中博士と畑中少将、広瀬大将がいなければ無理だっただろう。 今は、戦いを避けるフェイズだ。 それについては、無能で無学な私でも分かるよ」

 

天津原代表は下を見ている。

 

もう、息をしているだけでやっとという雰囲気だ。

 

「各国ともに交戦を避けるように。 アトミックピルバグが前進してきたら、その時はもうどうしようもない。 シェルターなどに逃げ込んでも全く無意味だろう。 もしも逃げるなら、進路からはずれて動くように避難誘導をしてほしい。 会議を終わる」

 

これは、天津原のおっさん。

 

入院確定だな。

 

嵐山は秘書官で力を発揮できるタイプのようだし、上に立つよりは今の立ち位置の方が良いだろう。

 

ため息をつく。

 

テレビ会議を抜けると。三池さんが肩を落としていた。

 

「流石にお二人もどうにもできませんか」

 

「ちょっとあの迎撃能力はねえ。 それも反物質による攻撃を収束して熱も放射線も指定破壊範囲から出さないようにコントロールまでしてる。 今回超世王に負ける事を前提で動かしていたのかもしれないけれど、それでもあれは人類に「現実」を叩き付けるには充分な中型だったと思うわねー」

 

「同感」

 

姉は平気そうな顔をしている。

 

菜々美はと言うと、完敗でむしろすっきりした。仮に何とか物資を集めて二体目を倒しても、すぐに三体目が出てくるだろう。

 

勿論そんな事をする意味は微塵もない。

 

とにかく今は、状況を整える方が先だ。

 

神戸を蹂躙させなかった。

 

この工場を潰させなかった。

 

それだけで、今は満足するべきなのだと、菜々美も分かっている。だから、それ以上の事は考えない。

 

医師から連絡がある。

 

広瀬大将から連絡が来ていたらしい。しばらく無理矢理でも休養させるように。そういう指示だそうだ。

 

有り難い話だが。

 

まあ、今のうちに休んでおくとするか。

 

それだけしか、菜々美に出来る事など無かった。








GDFの弾薬庫は空になりました。

それでやっと一体だけ斃せたアトミックピルバグですが、だからどうしたとばかりに幾らでもお代わりが出て来ます。

この瞬間。

まだ主戦論を唱えていた連中の心は完全に折れたのです。

斃すのに膨大な物資を強要してくるアトミックピルバグは文字通り塩試合の権化であり。

超テクノロジーを持つ相手に塩試合をされたら、勝ち目は無い。

それが思い知らされたわけですね。
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