スーパーロボット活劇、超世王セイバージャッジメント   作:dwwyakata@2024

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限界が近い畑中菜々美さんの体。

後継者探しが本格的に開始されます。

今の時点では、シャドウは積極的な動きを見せていませんが。

相手の気分次第で何がどうなるかまったく分からない事に変わりはありません。

ノワールは会話は出来ますが、人間の都合にはあわせてくれない。そういう面倒な相手なのです。






2、後続のために

まだ人類のクローン技術は未熟だ。

 

シャドウが現れた直後くらいに、どうにか出来るようになったこの技術だが。懸念されていた通り、当初は遺伝子の劣化も引き起こされたし。何よりも完全再現も出来なかった。

 

今でも遺伝子データを用いて、人工子宮で子供を産みだしているのと、クローンで子供を作るのを併用しているのは、それが理由。

 

最終的にはクローン技術にそれを統合していく予定であるという。

 

そのクローンを作っている医療施設に、視察に行く。

 

急速育成の技術は存在していない事もある。

 

流石に硝子シリンダに子供がぷかぷか浮いているようなことはないが。

 

まだ子供の形をしていないちいさな塊が、人工的に作られた羊水の中に浮かべられている。

 

そういう装置がずらっと並べられている。

 

人間が子供を作りたがらなくなった今の時代。

 

こうしないと、あっさり人類は滅びる。

 

だったら、此処に手を入れるしかない。

 

人類にとって、子供を作らなくなった理由はよく分かっていない。増えすぎたのが原因という説もあるにはある。

 

だが、古くに発展した大帝国も、同じような理由で衰退したケースが幾つか見受けられると言う話もある。

 

単にエゴが肥大化しすぎたのかも知れない。

 

人権という大事なものを、金に換えて売りさばくような連中が好き勝手やるような時代がシャドウの現れる前にはあった。

 

自分さえ良ければ他人をどうしてもいいと考える人間が、あまりにも増えすぎていた。

 

だからこうなった。

 

研究施設を動かしているのは、田丸という中年男性だ。

 

なんでもいわゆるDQNネームというのをつけられた最後の世代であったらしく。シャドウによる攻撃から生き残ったあと、改名したらしい。

 

昔の名前は思い出したくもないそうだ。

 

今の時代は、そういったものをつける事は禁止されている。

 

ただ、そもそもとして、結婚して子供を作る事がほぼ無くなっている今の時代である。

 

AIが自動的に名前を割り振っている事もあって、この法律はほとんど使われる事もないようだが。

 

今回の視察は菜々美だけである。

 

姉は元々、こういうテクノロジーが好きらしいので、専門分野でなくても興味があったら見に行くらしい。

 

三池さんはそれにつきそいと。

 

とりあえず、こうやって菜々美も生まれてきたんだなと思うと。

 

色々と思うところもあった。

 

新生児がたくさん、育児用のロボットに世話をされている

 

育児用のロボットは人間の姿を模しているが、流石にこれはかなりの高コストの品であるらしい。

 

乳幼児は遺伝子上の親を見分けるなんて俗説もあったらしいが。

 

それはこの施設が本格稼働してからは、完全に否定された。

 

完璧にビッグデータから乳幼児を扱う方法を学習しているAIが、子供に沿って必要な育児をしていて。

 

乳幼児から新生児まで。子供はロボットに完璧になついていた。

 

その様子を見ながら、菜々美は質問を幾つかする。

 

「来る前に資料を見てきましたが、今では子供の95%が此処から生まれてきているんですね」

 

「はい。 人権を食い物にしていた人間達が、シャドウが現れる前には、結婚制度も夫婦のあり方も徹底的に破壊してしまいましたからね」

 

「色々と資料は見ていますが、酷い時代だったようですね」

 

「私達の上の世代くらいから歪みが顕著になったらしく、生涯男女交際さえしないような人が既に四割くらいいたそうですよ」

 

そう言われてもぴんと来ないが。

 

まあ、一応催眠学習でその辺りの歴史についても知ってはいる。

 

生物的にいうと人間の発情期は、繁殖にもっとも適した十代前半くらいから始まるのだが。

 

その欲望に振り回される人間も多かったそうだ。

 

ただ、男女でこの辺りの欲望は全く違う。

 

愛だのなんだのという話は幾らでもあったが。

 

男女で愛の考え方も体の構造も違うのである。

 

余程互いの性格的な相性でも良くない限りは、結局発情期に互いに理想を押しつけあって子供を作り。

 

その後は社会的な義務として惰性で子供を育てる。

 

そういうものであったそうだ。

 

そういう時代が終わった後は、自分達の理想の異性像を二次元などにて表現することが流行った。

 

欲求そのものはなくならなかったから。

 

そういうところで、皆落としどころを作らなければならなかったのだろう。

 

不毛だなと菜々美も思う。

 

そういうもののデータは見た事があるが。男女ともに好む相手の実像が現実とかけ離れているという点では同じだ。

 

それでありながら互いを気持ち悪いと嫌いあっていたらしく。

 

シャドウ出現前くらいには、男女で何らかの接触を持つことそのものがリスクという時代さえ来ていたらしい。

 

シャドウが来なくても、世界はじきに滅んでいたか。

 

或いはどっちかがどっちかを家畜化する、この世の地獄が到来していたのだろう。

 

「あの子達は、もう少しで基礎的な精神発達が終わります。 そうしたら、それぞれが育成用のロボットに連れられて、催眠教育を終えるまでは家庭生活をすることになります」

 

「私の時代より更に小さいですね」

 

「技術が進みましたので」

 

そうか。

 

25年。シャドウと交戦しなかったのは、無意味ではなかったんだな。

 

菜々美の頃はとにかくもっと色々大変だった記憶があるので、今の子供はそれよりも楽に暮らせている訳だ。

 

十歳くらいで軽作業なら出来るくらいに教育が誰でも終わる。

 

昔IQは生涯変わらないとか言う暴論が流行していた時代もあったらしいが。

 

教育のシステムがビッグデータから拾い出されるようになった今。

 

極端に知能が低い子供なんてのは殆どいなくなり。

 

ほぼ全ての子供が、シャドウ出現前の水準で言うとIQ130以上の知能を持っているらしい。

 

これは如何に昔の教育のシステムが未完成で。

 

親やら駄目な教師やらに、たくさんの子供が未来を潰されたかの証左であるそうだ。

 

「畑中少将は、それにしてもどうして視察に。 誰か子供を引き取るおつもりで」

 

「いえ。 色々とありまして。 機密です」

 

「そうですか。 いずれにしても英雄に会えて光栄でした」

 

「……」

 

敬礼をして、そして施設を去る。

 

子供達は大人の姿をしたロボットと接して基礎的な学習を終え。学習が終わってから、本物の大人と接する事になる。

 

これらを見ていても、既に人間の生物としてのあり方は古くとは違ってしまっていると言える。

 

悩んでいたのが馬鹿馬鹿しくなってきた。

 

人権がどうのとクローンの技術が出てきた時には色々言われていたらしいが。

 

実際に動かして見ると、むしろろくでもない親に育てられる方が余程子供の人権を滅茶苦茶にしていたと言えるのでは無いか。

 

少なくとも、あの施設で育てられている子供達は、育児用のロボットに育てられて不満そうにはしていなかったし。

 

言動が非人間的かというと、そんなこともなかった。

 

既に人間が「動物」としては終わっていた。

 

だったら、あのあり方は、何も間違っていない。

 

それは見ていて良く分かった。

 

だったら、それで良いではないか。

 

嘆息して、次に向かう。

 

次は、顔見せだ。

 

一つずつ、順番にこなして行くことになる。

 

市川も八歳の子供をいきなり実戦投入しろとは言っていない。シャドウとの戦いが完全に行き詰まった今、無理に仕掛ける意味は無いし。そもそも当面は弾薬もなくて動けないのだ。

 

姉の方は、自分の遺伝子データを受け継いだ子供を、既に見にいっているらしいが。

 

菜々美はこれからだ。

 

黙々と神戸を歩く。

 

半地下都市だが。

 

だからこそ、どんな時間でも明るいし。それに、治安も気にしなくて良かった。

 

 

 

現在の家屋は殆どが集合住宅である。菜々美も神戸の住宅区画に家を持っているが、家庭用のロボットに管理は任せてしまっていて、ずっと戻っていない。

 

中には地上に豪華な家を建てたがる者もいるようだが。

 

シャドウが来た場合、どんな豪邸だろうが一瞬でふっとぶ。

 

そういう時代だから、その手の輩はごく少数。

 

国の方で生活スペースを供給してくれるのだから、それでいい。

 

これも最初は不満が多く出たらしく。

 

実際混乱の中、暴徒が暴れたりもしたらしいのだが。

 

シャドウとの戦いが続いた結果、それも既になくなっている。今では静かに、それぞれの人間に与えられた家屋に、人が暮らしている。

 

家屋の整備は専用のロボットがやっている。

 

故に劣化もないし。

 

違法建築などもおきない。

 

火事などここ五年起きていないそうだ。

 

いずれもが管理ロボットが丁寧に監視して回っているからで。小火の兆候があれば、家庭ごとに配備されている管理ロボットが即座に消火に動き、それでもダメならもっと大きな消防システムに即座に通報が行く。

 

これも、昔はディストピアだとか文句を垂れる人間が多かったらしいが。

 

暮らしてみたら、誰も文句を言わなくなった。

 

その好例だろう。

 

案内された家で、顔合わせをする。

 

護衛の兵士は外で待機。

 

菜々美は、その子と顔合わせを側でした。

 

市川が言う所の自分のクローンだが。技術がまだ未熟と言う事もあるだろう。やっぱり昔の菜々美には似ていない気がする。

 

表情も穏やかだし、ガツガツしたところも全く無い。

 

むしろ大人しそうな物静かな子だ。

 

一応スポーツなどに適性はあるそうだが、幼い頃からとんぼを切っていた菜々美にはまるで及ばないようだ。

 

何よりまだ催眠教育の最中である。

 

現在の教育の進展からして、軍属になるにしても後二年。最低でも必要だという話ではある。

 

催眠教育の途中であっても、子供は普通に大人に接する。

 

ロボットの付き添いで買い物に出かけたり。

 

或いは軽作業などをリモートでやったりするからである。

 

だから、相手の子。

 

武田絵美というのか。

 

まあ、姓も名前も菜々美とはまるで違うが。

 

その子は、菜々美を見て物怖じするようなことはなかった。

 

「畑中少将が私なんかになんの御用でしょうか」

 

「いや、色々あって。 うーん、話しづらいな」

 

「私もです」

 

やっぱり違う人間だ。

 

クローンの技術もそうだけれども。育ちなどが違うと、どうしても人間は別の存在になるのである。

 

それは今、側で接してみて分かった。

 

軽くゲームを一緒にしてみる。

 

これは超世王のパイロットをやる過程で、呉美少佐も訓練としてやったものであるらしいのだが。

 

勿論プログラムは姉が組んだ。

 

それで複雑極まりない操作に対する適性を見るものなのだが。

 

随分と絵美は苦戦している。

 

自分とは違うな。

 

菜々美はこのゲーム、初見で記録的なスコアをたたき出し、姉が大喜びしていたのだが。

 

育ちの問題じゃない。

 

この絵美という子、決して全体的な評価は低くない。運動神経に関しても水準以上のようである。

 

緊張が原因だろうか。

 

いや、それもなさそうだ。

 

ゲームは好きだと言っていたし。

 

少しずつ打ち解けていく過程で、普通に上達している。だが、上達の速度にしても、あくまで平均よりはマシ、程度。

 

つまりは、適性はない。

 

呉美少佐の方が、余程適性があると見て良いだろう。

 

用済みのクローンは処分とか、そういうことはしていない。この子はクローンとして生まれたかも知れないが、この後は社会を支える大事な人材になる。

 

無能な人事が「代わりは幾らでもいる」とか抜かして、人間を使い潰していた時代ではない。

 

だから、この子の未来は保証されているし。

 

それが軍属で、シャドウ相手にすり潰されないのなら、それで充分である。

 

軽く話をしてから、絵美の家を去る。

 

そして、即座に市川に連絡を入れた。

 

「例の子と会ってきましたが、超世王を操作させるのは止めた方が良いですね。 そもそも私の代替にはなりません」

 

「ふむ。 監視カメラで見ていましたが、概ね理由はわかります。 ただ、年齢を重ねれば結果は変わるのでは?」

 

「その可能性はありますが、そもそもとして私の遺伝子にこだわる必要はないと言う事です」

 

「……分かりました。 いずれにしても貴重な人材です。 適性外の事をやらせて、潰してしまう事がないように手を回しましょう」

 

意外と物わかりが良いな。

 

とりあえず、宿舎に戻る。

 

兵士達が不安そうに視線をかわしているが。

 

咳払いすると、背筋を伸ばしていた。

 

「宿舎に戻ります。 護衛が終わった後は、各々の任務に戻ってください」

 

「イエッサ!」

 

「それにしても住宅街を視察ですか。 この辺りにシャドウが出る可能性が?」

 

「ゼロとは言いませんが、そんな可能性があるのなら、こんな軽装備で来ていませんよ」

 

そう事実を告げると、兵士達はほっとしたようだった。

 

まあ、それはそうだ。

 

螺旋穿孔砲を担いでいるとは言え、シャドウと至近で接触するのは文字通り自殺行為なのだ。

 

小型種でもそれは同じ。

 

動きが速すぎるので、どれほどの訓練を受けた兵士でも一瞬で殺される。

 

菜々美が来たのを見て、市街地にシャドウが潜伏していると思い込んだのかも知れない。まあ、確かにそれでは生きた心地もしなかっただろう。

 

宿舎にもどると、市川から早速データが送られてきた。

 

有望な兵士の一覧だ。

 

いずれも入隊直後の兵士達ばかりである。

 

超世王の……正確には姉が作った変態兵器の操作特性があるかどうかを見極めた上で。選抜をしてほしいということだった。

 

菜々美は嘆息する。

 

思うのだが。

 

菜々美のこの超世王との適性。

 

ひょっとして、後天的なものではないのかと、ふと思うのだ。

 

あのゲームで軽く絵美とやりあってみて、それでも思ったのだが。何かしらの理由で、後から出来るようになった可能性はないか。

 

姉は幼い頃から人間離れしていたし、一緒に生活していた頃は、はっきり言って人間だとは思えなくて怖かった。

 

思考とかが三段飛ばしくらいで行われているので、会話が成立しない事が時々あったのである。

 

そういう場合は、姉は即座に察して。

 

会話のレベルを菜々美に合わせてくれて、それでやっと話が理解出来るということも多かった。

 

だが、それは次元違いのスペックの差を示してもいて。

 

正直側でいて、ひやひやしたのは一度や二度ではなかった。

 

それを思うと。

 

ああいう経験をし続けたことが、菜々美が姉に対して耐性が出来た原因だったのではないかとも思うのだ。

 

メールが来る。

 

姉からだった。

 

姉の方もクローンとあって来たらしいが、見込み無し、らしい。

 

昔の人間が遺伝子にやたらこだわってきたのは何だったのだろうとちょっとばかり思ってしまう。

 

そもそもとして、本人に極めて近いクローンでさえこれだ。

 

本人の半分しか共通していない子供が、親と殺し合いになる例なんて、古くには幾らでも存在していた。

 

性格だって能力だって、親とは似ても似つかない事が幾らでもあった。

 

人間が盲信してきた遺伝子なんてこんなものだ。

 

それをまざまざと見せつけられる。

 

「そっか、それで姉貴、どうするんだ」

 

「どうもこうも。 有望な子を見繕って貰うだけかな。 幸い私の方は、時間にだいぶ余裕があるからね。 ただ私としては、菜々美ちゃんのために超世王セイバージャッジメントの装備を調整しているつもりではあるんだわ。 それ以外の人間が使いこなせるかは、ちょっと自信が無いかなあ」

 

「まいったな……」

 

「同感だね」

 

まあ、姉も困るときがあるというのは面白い。

 

とりあえず関係各所に連絡を入れておく。

 

このままだと、超世王は菜々美の世代で、使える人間が絶える事になる可能性が決して低くない。

 

困ったことに、デチューンモデルはそもそも実戦を経た後に、やっと調整を重ねて、普通のパイロットに使えるようになったもので。

 

それには人柱が必須だった。

 

菜々美はその人柱だったと言う事である。

 

新しい人柱なんて、そうそうはいないよな。それに自分の子供やそれに近い存在を人柱にするなんて、上手く行かないのも仕方が無いかも知れない。

 

ただ現実問題として。

 

人間という種族を変えなければならない時代が来ているし。

 

超世王は今後、何世代も掛けて、シャドウとやりあえる存在に変えていかなければならない。

 

斬魔剣もバージョンを上げながら、シャドウに対する必殺兵器として性能を上げ続けてはいるが。

 

それでもまだまだ全然である。

 

ベッドに腰掛けて、ぼんやりとする。

 

しばらく頭を使いすぎて、疲れたかも知れない。

 

まだまだ、明日以降は苦労が絶えないし。

 

姉は思いついたように超世王のバージョンを上げるので、それにつきあってシミュレーションマシンを動かさなければならない。

 

少なくとも、余暇などは得られない。

 

 

 

市川は、幾つかのデータを見て、ふむと唸っていた。

 

畑中姉妹はどうやら無二の存在であるらしい。

 

此処数日、畑中姉妹に色々と動いて貰った。その結果については、専門の監視班が分析を終えていた。

 

不正の形跡無し。

 

本気で調べている。その上で、接触したクローンには適性がないと判断した。その様子は疑う余地がない。

 

監視を行っていた人員。

 

AI。

 

双方の結論が一致していた。

 

側で佇んでいる嵐山に、意見を聞いてみる。

 

「首席補佐官、どう思うかね」

 

「私も同意見ですな。 そもそも偉大な政治家なり帝王なり軍人なりの子供がボンクラである例などいくらでもあります。 卑近な例で言えば、私も議員秘書時代に、先代は……まあ歴史を動かした英雄などに比べればボンクラも良い所ですが。 ともかく先代は切れ者だった政治家が、凡人以下である例も多数見てきました。 クローンが本人を完全にコピーするほどの技術が現在にはないこと、更には経験なども能力を左右しているだろう事を考えると、畑中姉妹の代用品となる存在は、簡単には見つからないかと思います」

 

「そうか。 ではどうすればいいと思う」

 

「焦る必要はないのでは。 シャドウとの戦いは、おそらく長くにわたるでしょう。 そもそもシャドウの側が、人間には恐らく何も期待していません。 しばらくは監視だけをしてくるでしょう。 その間に我々が行うのは、何世代も掛けて奴隷化されないための技術の発展、物資の蓄積、人材の育成。 人材の育成には、ポストヒューマン作成の試みも含まれるでしょうな」

 

概ねそうだな。

 

市川も同意見だ。

 

広瀬大将は、市川から見て悪くない上司だった。これはあくまで能力面での話で、性格面は決定的にあわなかった。

 

市川は若い頃から野心が強くて、競争心がどうしても強かった。

 

周囲を蹴落としてでも出世したいと思ったし。他の人間より努力して、比較的若年であの軍神広瀬大将の参謀長として活躍も続けた。だから、今こうして、広瀬大将を超えて世界政府の事実上の代表にまでなったのだ。

 

だからこそに、である。

 

シャドウの奴隷にされるのは気分が悪いし。

 

今までやってきたことが無駄になるとも思う。

 

なんなら市川の行動原理は。

 

ただ上に立ちたい。それだけだ。

 

それで頭を無駄遣いしている。

 

恐らく広瀬大将はそれを見抜いていた。

 

クーデターでバカ共が乱痴気騒ぎを起こしたときは好機だった。

 

自分の私兵として第五師団を抱えて、長期的に出世を考えたのを、即座に切り替えた英断は、自分でも褒めて良いと思う。

 

事実それで、夢を叶えたのだから。

 

「それでどうなさるのです」

 

「決まっている。 とにかく代替品を探せ。 リストアップを急げ」

 

「分かりました。 ただ、急ぐ必要がありますか」

 

「ある。 シャドウはノワールとやらを通じてアクセスしてきたが、いつ気が変わるか分からない。 いつでもその気になったら自分を滅ぼせる相手が側にいる。 こんな状態は変えなければならない」

 

勿論これは人間の理屈だ。

 

だが。

 

シャドウは市川が見た所、個としては生物では無いのかも知れないが。群としては人間なんかよりもよっぽど整理された頭脳を持っているとみていい。

 

思考も人間に近いと市川は考えている。エゴは持ち合わせていないし、欲求もないようだが。

 

失望が存在していた場合。

 

人間をいつ滅ぼしに掛かってくるか、知れたものでは無いのだ。

 

だから天津原のような無能が消えた今こそ。

 

即座にGDFを動かさなければならないのである。

 

市川も野心で動いているが、それだけではない。それは、市川自身が自覚している事であるし。

 

何より市川自身。

 

バカな判断をして、人類を終わらせるような、自殺行為に手を染めたくは無かった。

 

この間クーデターを起こしたような連中と同じになりたくない。

 

プライドが高い市川にとっては、それは割と重要な事だったのである。それも嵐山や広瀬大将は見抜いているかも知れないが。市川自身も、自分の器量が英雄には程遠い事など理解している。

 

だからこそ、英雄の上に立ちたい。

 

そういう面倒な宿痾の持ち主なのだった。







市川さんは辣腕な嵐山さんとは相性がいいですが、これはあくまで仕事上の話。

心理的には嵐山さんは市川さんを毛嫌いしています。

ただ仕事ができる相手であり、今は感情で選んでいられる余裕なんぞないので、協力を惜しまない。

ただそれだけの話です。

残念ながら世の中には、感情を大事な局面で理屈より優先する人間が愚かしい事に多くいます。嵐山さんは違う。それだけですね。
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