スーパーロボット活劇、超世王セイバージャッジメント 作:dwwyakata@2024
今までの常識が完全に覆った戦い。
しかもそれは単発ではなく、一度起きると立て続けに発生。
それは今までどうにかやれていたという認識を、根底から覆すことになりました。
序、変異種
小型種の大型化。それが立て続けに二例観測された。それは決して、新種の中型が発見された、程度の事では済まなかった。
今まで小型は、広瀬ドクトリンに沿って戦力を揃えれば斃せる。
その程度の相手まで、危険度が下がっていたと認識されていたのである。それが変わった。
中型は超世王セイバージャッジメントか、そのデチューンモデルでないと斃せない。小型は広瀬ドクトリンに沿って戦えば、数さえ適切ならどうにかなる。それがクーデター騒ぎを経た結果もありどうにかGDFでは認知されていたのだが。
その基礎的認識を、文字通り揺るがす事態になった。
幸い大型化したクリーナーは倒す事が出来たが。
これにしても下手な中型と同等の戦闘力を有しており。発生のメカニズムが分からない限りは、侮れる相手ではない。
螺旋穿孔砲で武装した手練れの狙撃大隊だったら、相応の数は相手に出来る。
その今までの経験則すら揺らぐ事態。
即時で会議が招集される。
市川がこう言うときは、主導して会議を回してくれるので助かる。しかも、手際も天津原とは別次元に良かった。
「広瀬大将の参謀をしていた私からも意見を述べると、これはドクトリンを根本から変えるレベルの事態だといえます。 今までは螺旋穿孔砲を装備した狙撃大隊を運用する事で、数百程度の小型なら師団規模の戦力であれば無理なく斃せていました。 しかしながらこれがもしもいきなりあのような姿になると……」
「そ、それは一体どう対応すればいいのかね!」
「戦闘のデータは見た! 火力は核兵器並みではないのか!?」
明らかに恐怖で声を上擦らせている何処かの国の代表。
ナジャルータ博士は、何を今更と思った。
そもそも、シャドウが現れる前の時代ですら、戦車砲の一点に関しての徹甲に関する火力は、下手な核兵器を凌いでいたのである。
あの大型化したクリーナーが放った熱量は、キャノンレオンから受けた高熱を放熱した結果生じたものだが。
今まで認識されていなかっただけで、キャノンレオンもまた、とんでもない熱量を自在にコントロールしていたことが分かっただけである。
今までの戦闘で、連隊規模の戦力が瞬時に蒸発させられる事はあったが。それもあの戦闘のデータを分析して分かった。
あれはまだまだ全然火力を絞っていたのだ。
小型にしても、戦車砲を耐えるケースが当たり前のようにあった。実際問題、M44ガーディアンでは力不足で殆ど斃せた例はなく、螺旋穿孔砲が登場してやっと斃せる(理論上は)相手になって来たのである。
それらから考えて。
ナジャルータ博士の結論は一つ。
シャドウを甘く見すぎていた。
相手が少し本気を出す事態に遭遇した。
そして、それを見て無知な者達が驚いている。
小型にしても、どういうプロセスを経てああなったかが問題で。今までもああなっていた可能性はあったということだ。
しばらく恐怖の声がかわされていたが。
意見を求められたので、ナジャルータ博士は立ち上がっていた。
「専門家としては、これでもう一度、シャドウの恐ろしさを再認識する機会ができたのだと思います。 そもそもサンプルを得た事もなく、今までにシャドウが全力を発揮したらどうなるのか試した例すらありません。 シャドウは超世王セイバージャッジメントが登場してから「斃せる相手」にはなりましたが、相手の正体が分からない以上、何かしらの制限が能力に設けられていたという可能性は常に考慮しなければならないでしょう」
「同感」
畑中少将も同意してくれる。
退院したばかりだが、もう数回程度しか戦闘には出られないだろうと言う医師の話だ。
それもあって、今回の会議で建設的な意見が出れば良いのだがとナジャルータ博士は思うばかりである。
「ノワールという存在がアクセスをしてきて、それがどうもシャドウらしいことは分かってきています。 それの発言を分析していますが、シャドウと考えてほぼ間違いはないでしょう。 それで分かってきているのは、シャドウはまだ全然本気など出していないと言うことです。 とにかく今は、シャドウを刺激せず、技術とノウハウを蓄積して行くしかない。 今回も、その一端かと思います」
「し、しかし国民が怯えているんだ!」
「怯えているのは貴方に思えますが」
「……っ」
市川が鋭く指摘する。
まあ、援護射撃をしてくれたのだと思おう。
陰険な男だとは聞いている。
だが、権力を大事に考える存在で、ある程度頭が回るのだったら。この場でナジャルータ博士の足を引っ張る事は無いはずだ。
一度着席する。
市川の方からデータが出され、それを分析した説明が為される。
シャドウの同士討ちという点で、興味を惹いている場面もあったが。
ナジャルータにはあれは同士討ちなんて人間に都合がいい行動だとはとても思えなかった。
キャノンレオンに一切巨大クリーナーは反撃していなかったし。
何なら逃げようとさえしていた。
あれは真社会性生物でいうところの、働けなくなった個体をゴミ捨て場に捨てるようなものだったのかも知れない。
いずれにしても、まだ情報を精査する必要があるだろう。
また解説が求められる。
それで、話をする。
「戦闘の経過を見る限り、小型と同じ戦術は通用しないと判断して良いかと思います。 中型以上の相手と同じように、熱量攻撃で仕留めるしかないでしょう。 それも超高熱を長時間当てる事しか倒す手段がありません」
そして問題なのは。
明らかにシャドウがそれを知っていたと言う事だ。
シャドウの弱点は熱だ。
これに関しては、新種であるアトミックピルバグもそうであったことから、ほぼ間違いないだろう。
何故熱で倒せるのかはまだ正直分かっていない。
仮説は存在はしているが、あくまで仮説の領域を超えていない。
逆に言うと。
下手をすると今後、シャドウが熱攻撃に対策してくる可能性すらあるということである。
結論からいうと、今の時点で人類はシャドウの行動で命拾いしたに過ぎず。そして今は何らかの習性……或いは最高に楽観的に考えて内輪もめとして。それに巻き込まれて、右往左往しているだけ。
超世王セイバージャッジメントが登場して、シャドウが絶対的な死の存在ではなくなってなおそうなのだ。
それを丁寧に指摘していく。
各国代表の血の気が引いていくのが分かる。
今更である。
畑中少将も。畑中博士も。
広瀬大将も。
今までシャドウに勝つのは無理だろうと言っていた、専門家全員が、別に驚いてはいなかった。
「何度も言いますが、というわけで今は技術の開発、国政の充実、それに準備の時です。 幸い歴史上の様々な略奪者、征服者と違って、シャドウは邪魔なものを駆逐した後は、我々が何をしようが興味を持っていないようです。 今の時点では、シャドウを下手に刺激しない事が最優先になります。 ただそれでも、いざという時は身を守るべく、準備をします。 シャドウを分析するのも続けてください。 予算に関しては増額しておきましょう」
「ありがとうございます」
「各国では、出来るだけ急いでイエローサーペントを刺激しない船舶の開発を急いでください。 我が国でも小型の輸送ホバーを実用のラインにまで乗せましたが、これも輸送量はタンカーなどと比べるまでもないほどにちいさなものですし、航続距離にも限界があります。 これを大型化し、海運で各国をつなぐと同時に、完全に孤立している島などで生き残りを探し、生き残りを発見した場合はどうするべきか考えましょう」
市川がまとめてくれる。
それで一旦会議を打ち切る。
疲弊を理由に、嵐山が提案。
それを市川が飲んだからである。
とりあえず、テレビ会議の場面から離れる。ナジャルータ博士は、あまりおいしくはないココアを飲むと。
思考を巡らせる。
ノワールによると、あの小型種の暴走は今に始まった出来事では無い、ということだった。
人間が観測出来なくなった地域は多い。
中東はあらかたそうだし、中央アジアも今はどうなっているかまったく分からない。人工衛星が根こそぎ撃ちおとされた今の時代、人間は地球平面説を真面目に信じていた時代くらいに、自分のいる星の状態が分からなくなっている。
幸いシャドウが現れる前に湧いていたいわゆるフラットアーサー、地球平面説信者のような阿呆はいても、テロ活動とかカルト教団として行動しているものはあまりいないのが救いだが。
それもこうシャドウに抑え込まれた状況が続くと、どうなるかは分からない。
京都工場からは少しずつ出られるようになったが、今でも護衛が必要である。
例の憲兵師団が発足してからは、その人員がナジャルータ博士の護衛にあたるようになり。
非常に統率されているので、ちょっと緊張はするが、それでも安心は出来るようにはなった。
というわけで、京都工場から出て気分転換をする。
沃野が拡がっている。
この辺りは危険地域認定されていて、少なくとも一般人は来ない。以前クーデター騒ぎの時に暴徒が来たが、それも鎮圧後は基本的に一般人は姿を見せない。伸びをしていると、連絡が入る。
休んでいるのにな。
そう思って連絡してきた相手を見ると。
ノワールとあった。
思わず驚く。
即座に端末を操作して、三池氏に連絡。
向こうでも、即座に対応すると返してきていた。
「畑中姉妹と連携しているのは君だね。 半陰陽のナジャルータ博士」
「私の性別はどうでもいい。 貴方には聞きたいことが山ほどある」
「答えられないことも多いよ」
「一応畑中少将とのやりとりは把握している」
ナジャルータも研究者だ。
すぐに確認するが、どうやらノワールで間違いないらしい。
あれからノワールを名乗って悪戯をしたハッカー気取りが二~三人出たらしいのだが、いずれもお粗末な腕で、すぐに捕まったと言う事は聞いている。
ならば、話を聞く意味はある。
「あの巨大化する小型種はなんだ」
「あれは寿命を迎えた個体だよ」
「シャドウにも寿命が」
「正確には、君達がいう生物的な寿命とは違うけれどね」
だとするとなんだ。
生きている限り巨大化する生物は実際にいる。
ある種のロブスターや、一部のワニなどがそうだ。ただこれらにも限界があり、そもそもとして病気などを克服できる訳でも無いし、天敵にも見つかりやすくなる。強力な免疫を持つ事で知られるワニだが、そのワニだってどんな病気でも克服できる訳ではないのだ。
シャドウが寿命を迎えるというのは、どういうことか。
そもそもである。
今まで多数の小型種が確認されているが、それらの中で彼処まで巨大化したものは目撃されていない。
多少の個体差はあるが、それもあくまで個体差レベル。
シャドウがどうやって生まれてくるか分からなかったのと同じで。
そもそも子供の個体がいるのか。老齢個体がいるのか、それすらも分かっていなかったのである。
子供はともかくとして。
ノワールの発言が本当だとすると、老齢個体はいる事になる。
そしてノワールの発言から分かる。
これは別に人間に知られても問題ないと考えていると言う事だ。
「中型にも寿命が?」
「中型? ああ、君達はそう分類しているのだったね。 ふーむ、正確にはその分類は正しくは無いのだけれども。 まあ簡単に言うと、君達が中型と認識している私達に、寿命はないよ」
「!」
「寿命を迎えた私達は、基本的に色々と外れるのでね。 それもあって、処分は私達でしているのさ。 ただ……」
人間の反撃が行われた事もある。
それもあって、寿命を迎える個体が増えている。
そういう事を、さらりとノワールは言う。
相手にしてみれば大した事では無いだろう。例えば九州で観測された例で見ると、ブラックウルフの巨大化個体は、あっさり中型に制圧され、爆散していた。
更に中型に逆らうそぶりも見せていなかった。
「外れるとはなんだ」
「うーん、答えても良いけれど、どうしようかなあ」
「交渉か」
「ふふ、ただしするのは君とだ」
なるほど、GDFを介さないと言う訳か。
すぐに京都工場に歩いて戻り、キーボードを叩いている三池氏と頷きあう。畑中博士は、話の内容を分析しているようだった。
「何をすればいい」
「君は調べた限り、私達の真実にそれなりに近付いていると言える。 私達はそれ自体に敬意を評するが、君は恐らく其方では暮らしづらいだろう? スパイ呼ばわりされて、襲撃までされかけたではないか」
「確かにそういう事もあった」
「ならばいっそ此方にきても良いだろう。 此方に来たら、色々と教えてあげるがね」
思わず黙り込む。
分かっている。
そういう提案をしてきてもおかしくは無いということは。
何より研究者として、そもそもシャドウについて知りたいと言う知識欲もある。
だからこそ、すぐには答えられない。
無言でいると、相手がメールを送ってくる。
「悩んでいるのであれば、背中を押してあげようか。 此方に来るのであれば、身の安全は保証する。 なんならその半陰陽を治療をしてあげよう。 人間のサンプルは幾らでもある。 それくらいは容易だ」
「サンプルだって?」
「此方で採取したものではないがね」
それもまた妙な話である。
やっぱりシャドウは、どこから来た。
他の星ではないだろう。
それに、これは。このやりとりはあまりにも不可解だ。
一体何に従っているんだ。シャドウを従えている存在は多分地球そのものではない。恐らく未来や平行世界の人間でもない。
一体何者なのか。
「悪いが、その提案は断る」
「ほう。 悪くはしないのに? 今後一生の安泰と、なんなら不老不死だって約束してあげるが?」
「そんなものはいらない」
「そうか。 不老不死を欲しがる人間と、拒否反応を示す人間がいるのは知っている。 ただ、老齢になると誰もが死にたくないと考えるのも分かっている。 早く死にたいと思う個体もいるようだが、それは恵まれない人生を送ったケースだ。 豊かな生活をしてきた人間は、満足した人生を口にしながら、だいたいまだ生きたいと考えるものなのだがね」
やはりノワールは、人間について知り尽くしている。
まったくもってその通りだ。
文学などでは不老不死が如何に辛いかを描写する人間だが。実際の金持ちは、不老不死を本当に欲しがっている。
今までそれを実現したものは誰もいないが。
逆に不老不死が実現できるなら、どんなことでも平気でする輩はそれこそ幾らでもいるだろう。
幸い、今の時代は、1%の人間が99%の富を独占しているなんて時代ではなくなっているが。
それでも、不老不死を欲しがるもの。
それに、もうじき死ぬ事が分かって、もう少し生きたいと思う者はいるだろう。
実の所、ナジャルータ博士はそれほど長生き出来ないことが分かっている。
半陰陽というあまり正常では無い体の状態もある。
ただ、それでも。
人間を売ろうと言う気にはなれない。
人間なんか大嫌いな要素も多いのだが。それはそれ、これはこれである。
「人間については私もデータがある。 希に誇り高いものもいる。 ただ、そう見せて、実際には何かしら別の理由があってそう答えているものもいる。 貴方がどうなのか少しだけ興味はあるが、いずれにしてもこれ以上の会話は無意味なようだ。 ともかく、変異を始めた私達がいたら近寄らないように。 被害が出るとしても、それは私達を攻撃して、守りを厚くさせた貴方たちの責任だ」
それでメールは途切れた。
ナジャルータ博士は嘆息。
とにかくやりとりについてのデータを公開。
何一つ恥じる事はない。
それで、すぐに聴取のために連行されることになった。
別に高圧的に連行された訳では無いが、極めて機械的な扱いである。無言でそれに従う。
広瀬大将が便宜を図ろうとしてくれたようだが、多分逆効果になるので、ナジャルータ博士の方からやんわりと断った。
広瀬大将を、市川代表が嫌っているのは、一目で分かる。
それが介入してきたら、市川代表は恐らく態度を硬化させる。硬化させないかも知れないが、少なくとも良い方向に事態が動くことは無い。
それだけで介入を防ぐのには大いに意味がある。
軍刑務所ではなくて、第五師団が使っている聴取の施設に連れて行かれた。
拷問などはやらないらしい。
もしも情報を聞き出す場合は、催眠にかけてしまうそうだ。
自白剤の類は基本的に使わないそうだが、これは体に対する負担が大きいからで、使った人間は下手をすると廃人になる。
拷問は更に悪手で。
あれは基本的に、「言わせたいことを言わせるための技術」であって、実際の情報なんて引き出せない。
恐怖に屈する相手には有効かも知れないが。
そうでない相手には、ただ相手を壊して殺すだけだ。
魔女狩りなどでは有効だったのかも知れないが。今の時代では、相手を自白させて殺すための行動以外に拷問なんて意味は無い。
聴取に出て来たのは。
第五師団の女師団長だ。
広瀬大将と違って、公式の部隊にはいない特務の人間。
市川の懐刀だが。
無機的で、まるで出来の悪いAIと話しているようである。
「貴方はとても誇り高いようだ。 ただ、貴方がシャドウから勧誘された理由に何かしら心当たりは」
「ありませんね。 私は長生きも出来ないし、それは仕方が無いとも思っています。 それは死が間近に見えたら怖くなるかも知れませんが、それでもシャドウにすがってまで生きようとは思いません」
「口ではなんとでも言えますが」
「嘘をつく意味がありません。 今まで対シャドウ相手にどれだけ骨を折ってきたか知らない訳ではないでしょう」
ふむと、女師団長は鼻を鳴らした。
それから幾つか聴取されたが、乱暴は最後までされず。二日ほどで解放された。
ちなみにその間の食事は凄まじいまでにまずく。それが一番の苦痛だったかも知れない。
迷惑極まりないノワールの連絡。
ただ此奴は此奴で、別に悪意があるわけではないのです。
極めて迷惑な話ではあるのですが。