スーパーロボット活劇、超世王セイバージャッジメント   作:dwwyakata@2024

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無理に無理を重ねた戦いの結果、ついに来るべき時が来ました。

最後の戦いです。

畑中菜々美というレジェンドパイロットにも、終わりは来るのです。






3、恐らく最後の

飛騨咲楽の訓練を見始めて、一月が経過した。

 

充分過ぎる伸びだ。

 

ただ、一年はかかるというのは、事前に報告している。それと背丈が長身の菜々美とだいぶ違うので。

 

もしも超世王の次の世代のパイロットになってもらう場合には。

 

多分コックピットに相当に手を入れなければならないだろう。

 

シミュレーションについては四苦八苦しているが、飲み込みが早い。

 

そして、様子を視察に来た広瀬大将に、軽く説明をする。

 

「やはりあの子が一番素質がありますね。 懸念されていた事も、いずれも今の時点では問題はないようです」

 

「分かりました。 最悪の場合も、超世王はどのみち対人兵器ではありません。 対処は可能です」

 

「そうですね……」

 

スーパーロボット作品でありがちだが。

 

スーパーロボットが敵の手に渡るとか。

 

パイロットが洗脳されて悪に回るとか。

 

そういう話はどうしてもある。

 

そしてその悪に回った形態のスーパーロボットは。むしろ本来の正義としての姿よりも人気が出たりするそうだ。

 

いずれにしても、超世王はいまだ不気味なごてごての塊。

 

格好いい人型ロボットとは全く違う存在である。

 

それもあって、このまま造形しても人気になる事はないだろうし。

 

まだまだアニメを新規で作る程社会のリソースはない。

 

ロボットの普及は、社会のリソースが足りないから行われた。AIについての発達も同じである。

 

まだどちらもかなり半端なもので。

 

幾つもシンギュラリティが必要なのも事実ではあるのだが。

 

それはそれとして、少なくとも人間の日常生活を支えるのには充分であるし。何よりもこうして子供を育てることも出来ている。

 

姉の後継者の方は、側に置いてある携帯端末が、コミュニケーションの補助を常に行っている。

 

とにかくぼそぼそと喋る上に、喋る言葉が極めて独特なので、そうでないと上手く意思疎通できないのだ。

 

かといって、それで姉が難儀している様子もない。

 

むしろ姉のスペアどころか、今では一番弟子の座を、急激に確保しようとしているようだった。

 

まあ、人員が増えればそれはそれで良い事だ。

 

広瀬大将が戻るので、送ろうとする。

 

その時だった。

 

菜々美と広瀬大将の携帯端末が同時になる。

 

あれから多少弾薬も蓄えたが、まだまだ全然足りない。

 

そしてシャドウは手を出されない限り手を出さないと約束したが。あれから連絡も寄越さない。

 

嫌な予感がする。

 

連絡を確認。

 

どうやら、予感があたったようだった。

 

「以前から問題になっていた、変異小型の出現兆候有り!」

 

「場所は何処ですか」

 

「琵琶湖東岸です! 現在琵琶湖では淡水濾過装置と浄水設備の建造が進んでおり、どうにか対処しないと」

 

「分かりました。 すぐに出ます」

 

工場に戻る。

 

姉が既に超世王をスタンバイしてくれていた。

 

咲楽という子は、当面シミュレーションマシンで慣れて貰う。流石にいきなり実戦には出せない。

 

即座にコックピットに乗るが。

 

これはちょっとばかり……いや予想以上にまずいか。

 

退院してからリハビリはしていたのだが、細かい動作などでやはり遅れが出るようになっている。

 

小型でも時速150㎞以上は余裕で出し、しかも直線ではなくジグザグに機動して攻めこんでくる。

 

中型だと速度は更に上がるのだ。

 

0.1秒でも反応が遅れれば、それは死に直結する。

 

これは、今回が最後になるかも知れないな。

 

そう思いつつ、菜々美は超世王を出す。移動しながら、話を聞く。

 

「琵琶湖付近にいる小型種が、一斉にそれから離れています」

 

「変異の可能性がありそうな小型種は?」

 

「現在確認中。 これは、ブルーカイマンのようです!」

 

厄介だな。

 

ブルーカイマンは水陸両用であり、最悪琵琶湖に入られると、有効な攻撃手段がない。中型との戦闘に巻き込まれでもしたら、琵琶湖が崩壊するかも知れない。

 

琵琶湖は現在、ブラックバスもブルーギルも外来種は全て駆逐されて、静かな湖に戻っている。

 

自称釣りマニアがやりたい放題に環境を破壊したのを、シャドウが尻ぬぐいしてくれたのである。

 

それがまた破壊し尽くされた場合。

 

琵琶湖をシャドウがまた支配に掛かる可能性もあり。

 

そうなると、淡水の取得源が大きく奪われる事になる。なんとか陸上で勝負を付けたいが。

 

ともかく、中型が始末に掛かるはず。

 

その様子を見ながらになるだろう。

 

難しい局面だ。

 

中型には近付きすぎず。他の小型にも近づき過ぎず。

 

巨大化ブルーカイマンがもしも琵琶湖を荒らすように動いたら、こっちに誘導するように戦わなければならない。

 

しかも今回、特に新規の装備は無い。

 

これは菜々美が限界近かった事もあって、姉がデチューンモデルの調整と。更には咲楽にパイロットを変わる事を考えて、調整をずっと続けていた事が要因である。

 

ともかく手持ちだけでやるしかない。

 

狙撃大隊四つと現地に急ぐ。

 

今第二師団が行動可能になるように、優先的に弾薬を回して貰っているが。

 

即応部隊用に回される弾薬はまだまだ限られている。

 

更に中型を相手にするわけでも無いと言うこともあって、とにかく軍部隊全部を再建している途上なのである。

 

それもあって、大隊四つ。一個連隊程度の規模の戦力しか動かせない。

 

非常に厳しい状態だが。

 

そもそもノワール曰く「寿命を迎えた小型」が相手だったら。これくらいしか、支援は出せないだろう。

 

「広瀬大将、狙撃大隊の指揮はお願いいたします」

 

「任せてください。 それと」

 

「此方呉美少佐、合流地点に急行中」

 

「助かります」

 

呉美少佐はデチューンモデルのうち、斬魔剣Ⅱだけを搭載したものに乗って来てくれているようだ。

 

それで充分過ぎる程である。

 

ともかく、今は相手の動きを確認し、誘引しなければならない。

 

琵琶湖が見えてきた。南側から回り込む。問題の地点まではまだ掛かる。

 

監視をしているスカウトから連絡が入っていた。

 

「中型出現! ウォールボアが二体! キャノンレオンも四体はいます!」

 

「刺激はしないように。 即座に後退してください」

 

「イエッサ!」

 

此処で踏ん張る意味が無い。

 

下手をすると、相手の攻撃の余波を受けて消し飛ぶだけだ。

 

それにしても、シャドウにとっての寿命が分からない。

 

中型には寿命がないと言う話だった。

 

どうして小型には寿命がある。

 

シャドウといっても色々な種がいて、それで小型は別の種族なのだろうか。だから寿命があったりなかったり。

 

だが、それにしても不可解な事が多すぎるのだ。

 

メール。

 

ノワールだった。

 

「やあ、久しぶりだね」

 

「何度も連絡を入れているのに、こう言うときだけ勝手に連絡を寄越しやがって」

 

「まあそういわない。 ちょっとばかり寿命を迎える私達が増えているようでね。 対処はしているんだが。 それでも時々こう近くに出てしまう」

 

「一体どういうことだ。 どうして小型には寿命があって、中型にはない」

 

ノワールは答えない。

 

舌打ちしたくなるが、ともかく今は琵琶湖の設備を出来るだけ守る必要がある。

 

神戸は今や人類の生命線なのだ。

 

その生命線のための水源である。

 

今までの生活では、水がとにかく貴重だった。それをだいぶ緩和できたのも、琵琶湖の再確保が故である。

 

また手放すわけにもいかないし。

 

何よりも、再建のための物資だって無駄には出来ないのだから。

 

「それで。 そっちで始末は出来ないのか」

 

「寿命を迎えた私達は、ずばりその言葉の意味のままに振る舞う。 既に交戦している君ならわかるのではないのかな、畑中菜々美少将」

 

「自殺行為に出るのか」

 

「ちょっと違う。 役割を逸脱する。 目的から外れる。 私達からすれば、それは非常に由々しきことでね」

 

役割から逸脱するのが由々しきこと、か。

 

人間で言うと犯罪者になるようなものか。

 

だとすると、シャドウは本当に社会みたいなものがあるとすれば、それを効率に沿って回しているわけだ。

 

ただ、今までは無視出来る範囲の存在で。

 

しかも人間から離れた地域にしか出ず。

 

それも出てから中型が始末していたようなのに。どうして今になって。

 

それに、役割から逸脱したというのなら、どうして中型の攻撃に抵抗しない。聞いてもノワールは答えない。

 

答える事ができないのかも知れない。

 

「まあ、様子を見ながら対応してくれ。 こちらとしては、出来るだけ被害が出ないようにするよ」

 

「それはどうも。 有り難すぎて涙が出るよ」

 

それっきり通信が途切れた。

 

思い切り舌打ちする。

 

ともかく現地に急ぐ。

 

「浄水設備の人員、避難完了!」

 

「浄水設備が破壊されたときに、洪水などが起きないよう、起きても対処できるように、即座に人員派遣を」

 

「イエッサ!」

 

広瀬大将から連絡が飛び交っている。

 

弾薬を使い果たしても、軍では出来る事が幾らでもあるのだ。

 

そしてこの国のもとの軍隊であった自衛隊では、そっちの任務の方が主であったという話もある。

 

むしろ自衛隊の生き残りは、それに関しての練度が高そうだ。年配になってしまっていても。

 

見えてきた。

 

既に交戦が始まっているようだ。

 

一旦停止して、戦況を見る。

 

ブルーカイマンが巨大化したもの……全長は五十メートル、いやもっとある。八十メートル以上だろうか。

 

クリーナーもそうだが、巨大化するととんでもなく大きくなる。

 

しかも不定形のクリーナーが彼処まで巨大化したのだ。

 

体が長細いブルーカイマンが、あれほどの巨体になるのも、当然なのかも知れなかった。

 

「か、怪獣映画の化け物みたいだ!」

 

「距離を取ってください。 もしもこっちに来た場合、螺旋穿孔砲は無意味です。 小型などが介入してきた場合には、超世王セイバージャッジメントの支援を!」

 

「イエッサ!」

 

「……」

 

やはり妙だ。

 

あのサイズである。

 

現在、ウォールボアが二体掛かりで抑え込み、しかも頭の「壁」を挟みみたいな形にして二方向から巨大ブルーカイマンを抑え込んでいる。そして抑え込まれた巨大ブルーカイマンをキャノンレオンが集中放火しているのだが。

 

やはりもがきはするが、ウォールボアに抵抗はしていない。

 

ブラックウルフの巨大化個体は首尾良く始末できたようだが。

 

ブルーカイマンは恐ろしくタフなようで、凄まじい集中砲火を浴びながらも、まだまだ耐えている。

 

これはこっちに来たら厄介だぞ。

 

そう思いながら、菜々美は装備を確認。

 

間違っても琵琶湖に入られると困る。いざという時は、誘導しなければならないだろう。

 

あいつも凄まじい熱を浴び続けているはずで、下手をすると琵琶湖に入ったときに水蒸気爆発を起こす。

 

その規模次第では。

 

琵琶湖が吹っ飛びかねないのだ。

 

巨大ブルーカイマンが暴れている。それでも中型を傷つけようとしないのは不可解極まりない。

 

だが、パワーがどうやらウォールボア二体を凌いでいるようだ。

 

激しく跳ね回って、それでウォールボアの壁が外れる。

 

ぐおんと、もの凄い音とともに、ブルーカイマンの巨体が空中に跳び上がる。その途中もキャノンレオンが猛攻を浴びせていて、体が赤熱しているが。それでもまだ倒れる気配はない。

 

地面に直撃。

 

激しい揺れが来る。

 

あの大きさである。それも無理は無いだろう。

 

更に、跳ね回ることで、断続的に揺れが来る。恐らくは、苦しいのだろうと思うが。

 

まて。

 

中型が倒れるとき、苦しんでいたか。

 

断末魔の悲鳴のように例の音を上げていたが、音は全てが違っていたはず。

 

それだけじゃない。

 

抵抗は凄まじかったが、最後の最後まで抵抗するような連中だった。個としての命を優先していたようには思えない。

 

シャドウは死ぬときは、文字通り消滅してしまう。

 

それを思うと、あの凄まじい苦しみっぷりは不可解極まりない。あれは一体、何が起きているのか。

 

「ウォールボア、一体が琵琶湖に滑落!」

 

「キャノンレオン、崩落に巻き込まれました! 近場の山にて土砂崩れが起きているようです!」

 

「もう少しさがってください。 畑中少将も!」

 

「いえ、これはまずいですね」

 

滑落しなかったウォールボアが一体で巨大ブルーカイマンを抑えようとし、土砂崩れから這い出てきたものも含めて、キャノンレオンが攻撃を続けているが、あの巨大ブルーカイマン、タフネスは以前の巨大クリーナー並みだ。

 

しかもブルーカイマンは尻尾も含めて武器にしている強力な戦闘力を持っており、しかもあの動きで跳ね回ったら。

 

短時間で、彼方此方を滅茶苦茶にしかねないし。

 

何よりも、あの帯びている熱が厄介だ。

 

下手に暴れさせると、それこそ何が起きてもおかしくない。

 

決断。

 

即座に投擲型斬魔剣を打ち込む。

 

突き刺さるが、ダメージは致命傷には届かない。

 

それを見て、即座に広瀬大将が、狙撃大隊に後退を指示。

 

ちょっと状態が良くないが、気を引くしか無い。

 

ブルーカイマンが、飛び跳ねる。ウォールボアを引きずったまま。それで、ウォールボアが吹っ飛ばされる。

 

一際高く跳び上がったブルーカイマンが、やはり熱を放出。

 

というか爆破して。その破壊力を利用して、此方に飛んできた。

 

即座に操作して、着弾点から逃れる。

 

だが、至近に着弾したブルーカイマンが、地面をそのまま割り砕いていた。

 

超世王が跳ね上がる。

 

地盤を砕くような一撃である。それは、これだけの衝撃があるのも当然だと言える。

 

だが、そのままやらせるか。

 

即座に態勢を立て直すと、投擲型をワイヤーで引き戻しつつ、斬魔剣Ⅱを振るって斬り付ける。

 

残像を抉った。

 

またブルーカイマンが跳んだのだ。

 

跳躍の軌道を確認。即座に超世王を動かす。無限軌道が、滅茶苦茶になっている地盤に足を取られるが。

 

それでもどうにかバックを成功させ、レバーを引いて、必至に危険地点から逃れる。

 

再び地面に着弾。

 

吹っ飛ばされてひっくり返されかねない衝撃。

 

思い切りシートに叩き付けられるが。

 

だがぐっと歯を噛んで耐える。

 

骨が折れたかも知れない。

 

だが、彼奴をそのまま暴れさせたら、琵琶湖が崩壊しかねないのだ。ブルーカイマンは熱に苦しみながら、そのまままた跳ねようとするが。

 

其処に、突貫したデチューンモデルの超世王。

 

呉美少佐だ。

 

斬魔剣Ⅱを振るって、巨大ブルーカイマンに突き立てる。凄まじい火花が上がる。明確に効いている。

 

更に巻き取りが終わった投擲型斬魔剣を、発射する準備に入る。

 

うぉんと空気が鳴る。

 

まずいと思うまでもなく、巨大ブルーカイマンが、その尾を地面に叩き付けていた。

 

地盤がまた打ち砕かれる。

 

地震どころの騒ぎじゃない。

 

キャノンレオンがまた集中攻撃を浴びせて、ブルーカイマンが更に赤熱するが、それでもまだ倒れない。

 

ダメージが限界を超えれば倒せる筈だが。

 

琵琶湖から上がって来たウォールボアが、さっき吹っ飛ばされたウォールボアとともに、こっちに全力で来る。

 

中型シャドウとの共闘。

 

あまり気分は良くないが、やるしかない。こいつの破壊力は文字通り地盤を割り砕くレベルだ。

 

こんなのに暴れられたら、この辺りの生態系が琵琶湖もろとも壊滅する。

 

呉美少佐は。

 

後退して、態勢を立て直している途中。

 

一度後退しようとしたところで、ブルーカイマンが頭の方を振るって来る。頭といっても補食するための口がついている訳ではない。

 

そのまま人間とその創造物を破壊するための口がついている。

 

がっとかみ合わせにくる。

 

それを、必至に回避。

 

一瞬の差で回避に成功するが、強烈な顎が掠めた余波だけで、超世王が揺れる。だが、怯む事はない。

 

斬魔剣Ⅱを振るう。

 

赤熱して、ダメージが行っていたこともあるだろう。

 

斬魔剣Ⅱが突き刺さる。そのまま、熱量を加え続ける。

 

ウォールボアが、巨大ブルーカイマンに左右から突貫して、抑え付ける。更にキャノンレオンの砲撃。

 

急激に超世王のコックピットの温度が上がる。エアコンで殺しきれる温度ではない。凄まじい熱量の上昇。

 

また尻尾を叩き付ける巨大ブルーカイマン。

 

それだけで、超世王が跳ね上がり、地面に叩き付けられる。熱に加えて、これは多分骨が折れたな。

 

だが、それでも。

 

レバーを動かす。

 

必至に食らいつく。

 

巨大ブルーカイマンに、斬魔剣Ⅱが食い込んでいく。呉美少佐のデチューンモデルが、ランスチャージの要領で突貫。

 

斬魔剣Ⅱが、巨大ブルーカイマンの脇腹に突き刺さる。呉美少佐のデチューンモデルをはねのけようと、巨大ブルーカイマンが何度も足を振っているようだが、それは届いていない。

 

だが。

 

巨大ブルーカイマンが、頭と足を使って、胴体を持ち上げる。

 

そして、胴体をボディプレスの要領で地面に叩き付けていた。

 

何しろ巨体だ。

 

それに体重がどれくらいあるかは知らないが、膨大な熱量を帯びている状態であり、そもそもシャドウは物理法則なんか無視して動いている。

 

水が彼方此方から噴き出した。

 

地下水脈までダメージが通っていると言う事だ。

 

ウォールボアが抑え込んでいる巨大ブルーカイマンが、またボディプレスの態勢に入る。

 

ロボットアーム、ダメージ甚大。

 

これ以上は厳しい。

 

それだけじゃない。

 

既にコックピットはサウナ同然の有様だ。これ以上暑くなったら、多分死ぬだろう。

 

コックピットのハッチをパージさせる。

 

何回かこれが開かなくて死にかけた事もある。姉が機能としてつけさせたのだ。外も凄まじい暑さだが、機械の放熱も受けているコックピット内よりは多少マシになる筈。あくまで多少マシ程度だが。

 

ボディプレス、二回目。

 

呉美少佐のデチューンモデルが文字通りひっくり返されたようだ。ただし、斬魔剣Ⅱはそのまま突き刺さっている。

 

あと少し。

 

今ので、また多分骨が折れた。

 

だが、食らいついてでもレバーを動かす。

 

操作して、倒しきる。

 

あれがこれ以上暴れたら、更に被害が拡大する。安定して得られるようになった淡水が終わる。

 

それだけは、許してはいけないのだ。

 

超世王を敢えて巨大ブルーカイマンに近づける。そして、残った全ての動力を……冷房の分も含めて、斬魔剣Ⅱに注ぎ込ませる。

 

更に食い込んでいく斬魔剣Ⅱ。

 

巨大ブルーカイマンの凄まじい断末魔が上がるが、まだ倒れない。尻尾を振るい、顎を振るい、辺りの地面を傷つける。

 

そして、キャノンレオンの一斉射撃が炸裂し。

 

更に斬魔剣Ⅱを切り通し終えた瞬間。

 

奴は消え。

 

周囲から、熱がふっとなくなっていた。

 

呼吸を整える。

 

これはアドレナリンが切れたらきついだろうな。そう思いながら、コックピットのシートに背中を預ける。

 

今、六体か七体かの中型が射程距離内にいる。

 

奴らに襲われたら秒ももたない。

 

だが、そいつらはさっと戻っていった。それだけは救いだ。ただし、バキバキに打ち砕かれた地盤はどうにもならない。

 

本来だったら、小型シャドウが治してしまうのだろう。

 

だが、此処は。

 

それすらかなわないのだ。

 

レッカーが来る。

 

呉美少佐のデチューンモデルをひっくり返して元に戻すのもやっている。菜々美は即座に救急車に乗せられ、人工呼吸器までつけられた。

 

流石に大げさだろ。

 

そう思ったが、聞こえてくる。

 

「肋骨が肺に突き刺さっています!」

 

「低温火傷、体表面の16%に達している状態です!」

 

「畑中少将、聞こえていますか!」

 

「聞こえてる……」

 

答えたが、相手に聞こえたか分からない。実際問題、動こうとして動けていないのである。

 

意識はあるのだが、それももやが掛かったかのようだ。

 

「患者の意識レベル低下!」

 

「強心剤!」

 

「心拍、呼吸、下がり続けています!」

 

「あんな無茶苦茶な大怪獣と戦ったんだ! 当たり前の結果だ!」

 

医師が怒鳴っている。

 

一応聞こえるが。

 

それについて、もう答える事は出来なかった。

 

 

 

暗い世界の中を漂っていた。

 

此処は何処だろう。あまり快適な空間ではないが、別に辛くはないなとも菜々美は思う。いわゆる三途の川だろうか。

 

だとすると、少し面白いなと思う。

 

意識は薄いながらもあったから、医師が怒鳴っていたのは覚えている。あの様子だと、相当に厳しい状態だったのだと思う。下手をすると死んだか。いずれにしても、医師の警告通りになった。

 

これは、もう戦えない。

 

ただ、最後の戦いの前に、飛騨咲楽というどうにか後を託せそうな逸材を見つけられた。呉美少佐には、あの子に戦いのイロハを叩き込んで欲しい。

 

菜々美はこのまま死ぬのだろうか。

 

それも悪くない。

 

殺された事は恨んでいない。

 

シャドウを散々殺したのだ。

 

殺されるのもそれはそれで仕方がない。何よりも、軍人と言うのは殺し殺されるのが仕事だ。少なくとも専業軍人はそうで、少なくとも其処で恨む恨まないは筋違いである。菜々美の場合はそうだと思っているから、特にどうこうと考える事はない。

 

心残りはあるだろうか。

 

特にないな。

 

悲しむ人は何人か思い浮かぶが、いずれも覚悟はしていたはずだ。毎回中型との戦闘で死ぬ思いをしていたのだから。

 

英雄の死を悲しむ人はいるかも知れない。

 

その場合は、英雄の死という物語を悲しんでいるだけ。

 

菜々美の知った事ではないか。

 

いずれにしても、シャドウが興味すら持たない状態から。シャドウが少なくとも一方的ではあっても意思疎通を計る状態まで持ち込んだのだ。

 

それだけで、随分と大きな事をやれたと言える。

 

それで満足だ。

 

しばしぼんやりしていると、ふと目が覚めた。

 

どうやら、死んではいなかったようだった。

 

ただし、人工呼吸器をつけられていたし。何よりももの凄く全身が痛かったが、一応、意識はしっかりしているし。思考も出来る。

 

頭が駄目になっているような事はないようだった。

 

「意識回復!」

 

「畑中少将、聞こえますか! 聞こえるなら瞬きをしてください」

 

瞬きは、出来る。

 

して見せると、医師達が安堵したようだった。

 

それで聞かされる。

 

相当に危険な状態だった。

 

何回か生死の縁を彷徨った。

 

琵琶湖の浄水場は破壊を免れたが。琵琶湖近辺の破壊は凄まじく。琵琶湖の形が変わったレベルだった。

 

超世王は例によってほぼ全損。

 

ただ、コアシステムは無事だそうだ。

 

呉美少佐は。

 

そう思ったが、話をしてくれる。

 

無事だそうだ

 

それを聞いて、良かったと思ったが。それから、少しずつ現実について聞かされていく。

 

まず菜々美は、既に体の機能が限界を超えてしまっているため、二度と超世王には乗れないそうだ。

 

クローン医療などもあるにはあるのだが。

 

それらを駆使しても、とても追いつけないレベルのダメージが体に入ってしまっているらしい。

 

寿命は四十いったら良い方。

 

いずれにしても、以降は超世王には絶対に乗れない。そういう話を、念押しされた。

 

まあそうだろうな。

 

手足についてはまだついているが、左半身のダメージが大きく、以降は松葉杖生活だそうである。

 

指などは欠損こそしていないものの、握力などは半減以下。

 

細かい作業もかなり厳しいだろうと言う事だった。

 

「仮に遠隔操作できるような装備であっても、同じように扱う事はできないでしょう。 思考能力についても低下することになります」

 

そうか。

 

目を閉じて、これで終わりかと思った。

 

後は病院でじっとしているのか。

 

いや、出来るだけまだやれることはやりたい。

 

ともかく、今は集中治療室にいるらしいので、そこから出るのを待つしかないだろう。

 

レントゲンやら色々取られる。

 

それで見せられたのだが、体中の骨が酷い有様らしく、これはもう治る事はないらしかった。

 

走る事は出来ない。

 

そう言われた。

 

確かに最後の戦いの前から、体の様子がおかしいなとは思っていた。医師が言う通り限界寸前だったのだろう。

 

それが、大怪獣と化した巨大ブルーカイマンとの戦闘で限界を迎えてしまった。

 

今は生きているだけで幸運という状態なわけだ。

 

確かにコックピットで何度もシートに叩き付けられて、骨が砕けるのは自分でも分かっていた。

 

だから、これは妥当な事だった。

 

医師が言う通りだった、というわけだ。

 

このままだと近く退役することになる。

 

もう出来る事はやったのだから。退役してもいいのではないか。

 

何度もそう説得された。

 

そして、小型種が「寿命を迎える」事例が発生するようになった今。

 

状況は新しい局面に入りつつある。

 

下手をすると中型と連携してそういった巨大化シャドウを倒さなければならない。姉も、まるで勝手が違う相手に対しての兵装をどうするかで、今頃頭を悩ませている事だろう。

 

栄養が点滴で入れられ。

 

排泄もカテーテルなどを使って。

 

集中治療室で数日過ごして。

 

やっと病室に移った。

 

カテーテルは取れたが、人工呼吸器はしばらく取れないらしい。折れた肋骨が肺に刺さって、それで肺の機能が極端に低下したそうだ。胸を切開して刺さった肋骨を切除したらしい。

 

聞いているだけで痛くなってくる話だが。

 

別にかまわない。

 

見舞いに最初に来てくれたのは、三池さんだった。

 

それで、色々と話をしてくれる。

 

姉も泣いていたらしい。

 

多分嘘だろうと思ったが、別にそれについてはいい。三池さんらしい優しい配慮だと言う事にしておく。

 

現実的な話も幾つかされた。

 

先に退院した(無事ではあったが無傷ではなかったのだ)呉美少佐が、これから咲楽の面倒を見るという。

 

超世王の訓練についてはシミュレーションマシンでやるとして。

 

軍人としての基礎を叩き込むらしい。

 

体の方は小柄とは言え出来てきているので、それは問題ない。螺旋穿孔砲の扱いに苦労はしそうだということだが、まあそれは仕方が無い。

 

つまり、次のパイロットは咲楽だ。

 

「私の二の舞に……ならないように……お願いします」

 

「分かりました。 今は休んでください」

 

喋るのですら一苦労か。

 

それからしばしして、医師から聞かされる。

 

菜々美は中将に昇進で、それで退役らしい。二階級特進でないだけでまだマシか。まあ、それはそれでかまわなかった。

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