スーパーロボット活劇、超世王セイバージャッジメント 作:dwwyakata@2024
若き戦士、初陣の時です。
よりにもよって相手がネメシス種ですが、それでもやらなければなりません。
ネメシス種は手強いというよりもとにかく斃しづらい相手です。
徹底的に疲弊を強いてくる。
それが特徴ですね。
超世王セイバージャッジメントを駆って、あたいは行く。
最初の内、帽子に髪をねじ込むやり方を徹底的に仕込まれた。髪が稼働中の機械に巻き込まれて、事故死する事もあるからだ。
それも今ではささっと出来る。
髪は伸ばしている方なのだが、これは或いはだが。
自分なりの拘りなのかも知れない。
今は伸ばしている髪を、自分でささっとまとめて、帽子の中に押し込めるようになってきていた。
軍用のヘルメットの中に被る帽子はちょっときつくて、最初は嫌だったのだが。
今は無理なく押し込めるようになっていて。
それでコックピットでも、問題なく過ごせるようになっているのだった。
今日は超世王セイバージャッジメントを駆って、中国地方にちょっと遠征する事になる。
狙撃大隊の人達も来ている。
燃料だけはある。
問題は弾丸で、一応第二師団は短時間戦闘出来るそうだ。
ただし他の師団はまだ戦闘が厳しい。
アトミックピルバグとの戦闘で吐き出しきった弾薬は工場がフル稼働しても、まだ補充できていない。
なお、最近聞いたのだが。
シャドウ戦役の前にいたこの国の軍隊である自衛隊も、予算がずっと厳しかったらしく。弾薬は全然足りていなかったらしい。
だが、それでも此処まで酷い状態ではなかったそうだが。
「前線より連絡。 小型種に動きはなし」
「了解。 手を出すな。 現在はシャドウとの交戦は避けるように。 大規模な会戦になった場合、弾すらない状態でやりあわなければならなくなる」
「イエッサ」
そんな通信が来る位だ。
最精鋭で知られる第二師団ですら弾薬不足。他の師団は丸腰も同然という話を聞くと、まあそうなるだろうなと思う。
ともかく、今回は一人前と認めて貰って。
前線を狙撃大隊と連携してパトロールする。
それが目的だ。
イエローサーペントと戦うために作られた潜水艦型(というかまんま潜水艦)の超世王セイバージャッジメントもあるようだが。
これについても、いずれ実機に乗るらしい。
ともかく今日は戦闘になる可能性は低い。
そう聞いてはいる。
ただし、つい先月でも、東欧で小型種がネメシス化。
中型種の集中攻撃を浴びても中々止まらず、都市近郊で大暴れした挙げ句、やっと沈黙する事件が起きている。
その結果、人的被害は出なかったものの、都市のインフラを支えている側の川がズタズタになり。
悲鳴混じりに支援を求めてきているらしい。
現在代替輸送手段として生産が進められている大型ホバーも、まだまだ全然数が足りない状態だ。
何隻かは向かったが、それで支援できるかどうか。
幸いホバーをイエローサーペントが攻撃してくる事はないようだが。
ただ海洋種の小型種がどう反応するかもまだ分からないと言う話もある。
絶対はないから、とにかく注意を続けなければならないのだ。
前線の部隊と合流。
あたいは超世王セイバージャッジメントから出なくていいと言われている。
狙撃大隊を指揮しているベテランの大尉が出て来て、敬礼して話をしていた。
「パトロールに来た。 問題などはないだろうか」
「今の時点で問題は確認されていない」
「了解。 それでは帰投する」
最低限の会話だけすると、後は反転し帰投。
ただ、声は聞こえる。
「超世王セイバージャッジメントだ! 新しいパイロットが来たって話は本当だったんだな」
「ありがたい話だぜ。 ネメシス化なんかされたら対処はできないもんな」
「最近は中型に襲われなくなった事は助かるが、代わりにネメシスが出るようになったし、超世王セイバージャッジメントがいると安心感が違うな」
「本当だぜ。 これで畑中中将が無事だったら、もっと安心なんだがな」
全部聞こえていたが。
全部同感だったので、何も思うところはない。
一年訓練してはっきり分かったが、畑中中将は生半可なパイロットではなかったのだ。まだまだあたいなんかひよっこ同然。
今もパトロールに来ていて、それでも緊張しているくらいなのだから。
今日はこのまま四国までいって、安全を確認してから戻る予定だ。超世王の燃料については心配しなくてもいい。
燃料だけは潤沢にある。
「こちら第二師団第七狙撃大隊。 他三個狙撃大隊とともに、これよりそちら四国方面に向かう」
「了解。 此方では問題はなし」
「問題発生!」
不意にアラートが飛び込んでくる。連絡は、どうやらさっき離れた中国地方のようだった。
即座に停止して、状況を確認。
淡路島に向かう橋に入りかけた寸前のことだった。
「小型種のネメシス化の兆候あり!」
「即座に退避せよ」
「い、イエッサ!」
「それで相手は何か!」
どうやらブラックウルフらしい。
もっとも平均的で数も多い小型種。平均的といっても二m足らずの体格で、時速百数十㎞は普通に出すし、接近すれば戦車を軽々ひっくり返す。戦車砲に耐えることもあり、螺旋穿孔砲が実戦投入されるまでは、M44ガーディアンで集中砲火を浴びせてやっと一体倒せるか斃せないかという相手だった。
今までネメシス化した例は四例。うち一例は九州で確認されている。ただ、いずれもが、中型種に斃されていて。少なくともネメシス化した小型種としては、危険度は小さいとは思われていた。
いずれにしても現地に急ぐ。
幸い中国地方はインフラが遠い。
ただ、四国にでも行かれたら面倒だ。
現在神戸の都市機能を移設した地下都市を建設中であり、此処にはかなりの人的リソースが注がれている。
万が一神戸が潰された時の保険として作られている都市であり。
また、地上に負担を掛けないためのものでもある。
シャドウがまたいずれ攻めてくる。
それを懸念した結果、プロジェクトとして立ち上げられているものでもあるのだが。
そもそも日本がシャドウに滅ぼされたときに、神戸に逃げ込んだ人々が作りあげた今の神戸が、彼方此方限界を迎えてしまっているという切実な事情もある。
それもあって、少しずつ神戸を補修するのと同時に。
その一部機能を移す新都市を建設しているのだ。
ネメシス化すると、小型種は能力もタフネスも跳ね上がる。その結果、四国の構築中のインフラが射程距離に入るかも知れない。
螺旋穿孔砲で斃せる相手ではなくなる。
中型種なみの脅威になると言うことは。
中型種同様の凶悪な能力を備える可能性がある。
今までの例では、ブラックウルフ・ネメシスがどのような能力を発揮したのかが確認されていない。
それが逆にまずい。
その程度の判断は、あたいも出来るようになって来ていた。
即座に引き返す。四国で待ち伏せるのは悪手だ。連絡が入る。
「此方呉美。 今其方に向かっています」
「呉美少佐、まずは前線に向かって、それから様子見で良いですか」
「かまいません。 ネメシスはシャドウの中型種に基本的には集中攻撃を受けます。 シャドウの方でもネメシス化した個体についてはあまり良く思っていないのか、それとも予想外の動きをされると困るのかは分かりませんが」
勿論それは知っている。
戦闘前の確認だ。
これから殺し合いが始まる。それを考慮すると、敢えて確認をする必要があるのだ。
ましてやあたいは初陣だ。
なおさら、確認はしなければならないのである。
「指定するラインまで到達したら、様子見です。 私も其方に向かいます」
「イエッサ!」
速度を上げる。
実際には狙撃大隊の歩兵戦闘車やジープの方が速度が出るのだが、これに関しては仕方がない。
燃料については、そこまで気にしなくていい。
今まで畑中中将ですらシャドウとチェイスの類はした事がない。というか、超世王セイバージャッジメントの速力はせいぜい整地で八十㎞程度。整地100㎞をたたき出すアレキサンドロスⅢより落ちるのは、装備重量と形状の問題だ。どちらにしても、時速百数十㎞を最低でも出すシャドウには速度で絶対に勝てないのだ。
基本的に近距離を詰めて、それ以降は殴り合いになるのが超世王セイバージャッジメントの戦い方。
それは畑中中将も同じだったし。
あたいもそうなる。
そしてネメシスとの戦闘になった場合、簡単には勝てない。ネメシスは体格が中型より遙かに大きく、斃すために必要な熱量も多いようなのだ。
核を浴びせるような、一瞬で大量の熱量を打ち込むような戦術は通じない。これはシャドウ戦役の時に嫌と言うほど実例が出ている。
ただ、今回は。
一年という戦闘のブランクが開いたこともある。
その間に、畑中博士が。
色々と装備をブラッシュアップしてくれている。
その中の一つ。
ネメシスとの肉弾戦がハイリスクである戦訓を得て改良された武器を、今回は試すことになるだろう。
現地に到着。
既に軽武装の部隊はさがっている。
狙撃大隊も、更に距離を取っている状態だ。
最悪の事態に備えて、避難誘導をする意味もある。
四国の工事現場にいる人員は、避難を開始しているようである。
敵は。
見えた。
ブラックウルフは実物もパトロールの時に見た。名前の通り黒いが、姿そのものはあまり狼には似ていない。
そのままの姿で、とんでもない大きさになっている。
あれは、五十mはあるのではあるまいか。
畑中中将が最後の戦いで斃したブルーカイマン・ネメシスは70mを超えていたという話がある。
ただブルーカイマンは体が細長いシャドウであったことを考えると。
大きさに関する威圧感は、殆ど大差ない。
生唾を飲み込む。
既に中型種が来ている。
ブラックウルフ・ネメシスはのそりと歩き始めたが。その横っ腹に突っ込んだのは。恐らくランスタートルだ。
炸裂する。
それと同時に、ストライプタイガー二体が、凄まじい勢いでブラックウルフ・ネメシスに襲いかかる。
熱でしか斃せないのは、ネメシス化した小型種でも同じだ。
ストライプタイガーの恐ろしい刃は、ブラックウルフ・ネメシスにどれだけ通るのかはちょっと分からない。
ただ、ストライプタイガーにしても巨体である。
何より音速を超えて走り回るのだ。
それが、足を容赦なく押さえ付けて、態勢を崩したブラックウルフ・ネメシスを引きずり倒す。
ブラックウルフ・ネメシスはやはり中型種には抵抗しない。
理由はまったく分かっていない。
死を迎えた小型種だという話は聞いているが。
それにしても、一体何が起きているのか。
生唾を飲み込んで、様子を見守る。
今までブラックウルフ・ネメシスは中型種に斃されて、特に問題にはならなかった。だが、今回もそうなるとは限らない。
呉美少佐が、こっちに向かっていると言う。
分かっている。
今は仕掛けるべき時じゃない。
だけれども。一瞬でも目は離せない。
あれは、グリーンモアか。数体が凄まじい速度で襲いかかると、ブラックウルフ・ネメシスにその嘴を突き立てる。
嘴が超高熱を有しているようで、ブラックウルフ・ネメシスが苦しみ始める。更にだめ押しに、ランスタートルが起爆。更に熱量を叩き込んだようだが、ブラックウルフ・ネメシスが崩れる様子はない。
うおう。
凄まじい風のような音。
地面に叩き付けられたブラックウルフ…ネメシスの体。激しくもがく。ランスタートルが吹っ飛ばされる。
抵抗はしないが、もがいた余波でああはなるのか。
ランスタートルが空中で態勢を立て直す。
だが、名前にもなっているランスは、まだ再生していない。何らかの方法で高速で生成していると聞くが。
それにしても、即座に再生は出来ないと言うことか。
立ち上がろうとするブラックウルフ・ネメシス。
ストライプタイガー二体を引きずりながら、身を起こす。
更にグリーンモアが来て、嘴を突き刺す。熱量が更につぎ込まれていくが、倒れる様子はない。
嫌な予感がする。
「ブラックウルフ・ネメシスが空を向きます!」
「なんだ……?」
オペレーターの声。
怪訝そうなのは、様子を見守っている連中だろうか。
ただ、その直後。
ブラックウルフ・ネメシスの首が裂けて。其処から、よく分からないものが伸び出していた。
それは灰褐色のなんだかよく分からないものだ。首が裂け、頭が爆ぜて、其処から這いだしてくる。
動物の内臓に寄生する寄生虫の映像は見た事がある。人間の中にも、何mもある回虫が住み着くことがあり。
衛生状態が微妙だった昔は、そういったものが体の中にいる方が普通の状態であったと聞いた事もある。
ブラックウルフ・ネメシスの体内から出て来たそれは、うねうねと動きながら、地面に落ち。
その瞬間、周囲の地面が赤熱していた。
とんでもない熱量を帯びているのだ。
「こ、これは形態変化でしょうか!?」
「今まで観測されたことがない現象です。 出来るだけデータを取得してください。 ただし、不用意に近付かないで」
恐らくナジャルータ博士の声だ。
モニタを見るが、まだ呉美少佐が到着するまで一時間は掛かる。
それまでにグリーンモア数体が熱を注ぎ込んでいる彼奴……ブラックウルフ・ネメシスが倒れるだろうか。
極めて疑問だ。
しかも、体内から出て来たなんだか分からないものは。蠢きながら、地面を何度も爆発させる。
そして。
明確に、こっちを見た。
反射的に、回避運動を取る。
それが正解だった。
一瞬おいて、超世王セイバージャッジメントを、とんでもない熱量が擦っていた。それだけで、強烈な揺動が来た。
一瞬でコックピットが暑くなる。
アラートが幾つも点灯した。
「ブラックウルフ・ネメシスの体内から出現した存在、熱線砲を発射! 超世王セイバージャッジメントに至近弾!」
「以前も見かけられた放熱機能か!?」
「だとするとネメシス化個体はみなあれが使えると言う事か!?」
「まずい!」
ナジャルータ博士が言う。
今の一撃、微妙にそれたものの、四国の工事現場を掠めたようだ。資材の一部が、一瞬で融解したという。
避難をしておいて正解だった。
いや、四国まで届くとなると。
神戸まで届くかも知れない。
装備の状態を確認。
グリーンモアが熱を叩き込む事で、ブラックウルフ・ネメシスの全身が赤熱しているのが見える。
それだけなら良いのだろうが、破裂した頭からだけではない。体からも寄生虫みたいなのがはみ出してきて、辺りの地面を爆熱させている。だが、それで体の構造が決定的に破綻したのか。横倒しにもなる。
うおん。
また音がする。
同時に、殆ど本能的にあたいは超世王セイバージャッジメントを動かしていた。
対熱用のシールド……スプリングアナコンダ戦で用いられたものが即時で起動したが、熱量が多すぎて防ぎきれない。
しかも今度は二発同時。
一発はそれたが、また一発は掠めた。
その上熱線は放たれると同時に大気中の空気を即座にプラズマ化させ爆発を連鎖させた。それほどのとんでも無い熱量だということだ。
揺動、シートに叩き付けられる。
「ぐっ!」
思わず呻く。
かなり衝撃を殺してくれているはずだけれども。
レンジャーの教官に、柔道でぶん投げられて。受け身をとりそこなった時よりも効いた。
受け身を反射的に取れるようにしろと言われているが、そんなん無理だ。
更に悲鳴が聞こえてくる。
「やはり四国の工事現場を狙っています! 一発が着弾! 爆発炎上しています!」
「危険すぎます。 消防車は出すのを控えてください」
「しかし貴重な物資が!」
「あの熱線を受けたら、もっと貴重な人的資源が消し飛びます!」
うごめき回るブラックウルフ・ネメシスから這いだしたなにものか。
あれは体内にあったものなのか、それとも形態変化したのか。それとも寄生虫か何かなのか。
「此方飛騨少尉。 彼奴を斃します。 許可を!」
「呉美少佐!」
「間に合いません!」
「……分かりました! くれぐれも無理はしないでください!」
広瀬大将が許可をくれた。
よし。やるぞ。
頬を叩く。
グリーンモアがかなり指揮系統の上位にいるシャドウだと言う事は、あたいも知っている。
それが攻撃手段を変えていないということは。そのままブラックウルフ・ネメシスの横倒しになっている体に攻撃し続ければ斃せると言う事だ。
装備を展開。
以前。ブライトイーグルを撃ち倒したビーム兵器……と言って良いのだろうか。
それを更に洗練し、高熱にも耐えられるワイヤーに切り替えたもの。
また、ワイヤー内の構造も更に洗練した。
その結果製造コストが更に跳ね上がったが。その代わり、流せる反陽子を更に増やせるようになり。
結果として、相手に与える熱ダメージを、短時間で加速させることが出切るようになったもの。
ジャスティスビーム改。
蛇行しながら、ブラックウルフに近付く。現在だとちょっと距離があって、まだ射程班以外だ。
ジャスティスビーム改はコストがやばすぎるので、一回分しか搭載されていない。つまり外した場合、格闘戦に移行するしかない。
また熱線を放ってくる音。
即座に蛇行。
熱線、二連射。
そして、時間差でもう一発。
一発目は掠めた。
激しい揺動。何とか耐える。
二発目はかなり外れた。だが、恐らく四国の工事現場に届いている可能性が高い。後方で爆発音が凄まじい。海を掠めたとしたら、水蒸気爆発で派手に生態系にダメージを与えているはずだ。
三発目。
正面を狙って来ている。
かなり無理をさせるが、ウィリー。
また掠める。
シールドが一瞬で爆ぜるが、それでもダメージは減らしてくれたはずだ。それでも超世王セイバージャッジメントが一瞬浮き上がり、体がシートに叩き付けられる。正直冗談じゃない。
畑中中将を批判していた連中は。これよりもっと苛烈な戦いをしていたあの人を馬鹿にしていたのか。
汗がダラダラ出て、目に入りそうである。
エアコンは頑張ってくれているが、それ以上に外の熱がまずすぎるのだ。
そしてグリーンモアがブラックウルフ・ネメシスを殺しきる前に、まだまだ熱線を放ってくるはず。
このままだと、四国の工事現場が壊滅する。
下手をすると、神戸に直撃弾が出る可能性すらある。
モニタを確認。
よし、射程範囲。
だが、即座には発射しない。相手から見て僅かに横薙ぎになるようにして放てるように、機体を走らせながら、最適のタイミングを計る。
熱線で出来た溝を踏んで、機体が揺れるが。必死に踏みとどまると、更に体が破れて中身が出て来ているブラックウルフ・ネメシスに対して。
ジャスティスビーム改を、打ち込んでいた。
ワイヤーが唸り。相手の体に巻き付く。
反物質の対消滅によって生じる超高熱が、見る間にブラックウルフ・ネメシスの体をむしばんでいく。
ワイヤーがもつか。
いや、あれは消耗品だ。巻き付いた以上、後はどうにか反陽子を叩き込み続ければ、それでいい。
引っ張られる。
ブラックウルフからはみ出している中身が、ワイヤーを掴んで引っ張って来ているのだ。ワイヤーの長さに限界がある。だから壊されるわけにはいかない。まだ充分な反陽子を流し込めていないのだ。
ぐっと距離を詰める。
凄まじい熱量で、見る間に超世王セイバージャッジメントのコックピットの熱量が上がっていく。
滝のような汗。
それでもどうにもならない。
サウナより酷い熱さだ。エアコンがなんの役にも立っていない。
これは低温火傷にもなる訳だ。だが、ジャスティスビーム改が効果を示し始める。
ブラックウルフ・ネメシスは抑え込まれているが、体からはみ出している寄生虫みたいなものが暴れ、周囲を何度も薙ぎ払う。
熱線を放とうとするが、その寄生虫みたいなものの動きも鈍くなってきている。
悲鳴。
何度もシミュレーションで聞いた。
シャドウが死ぬとき、中型やネメシスが上げるもの。
実際には悲鳴なのかは分からないが、歯を噛みしめてそれを聞く。
動きが鈍りながらも、寄生虫みたいなのが、一斉に此方を向く。移動しながら、それを四国からも神戸からも外れるように動く。レバーが焼け付くようだ。意識が飛んでいないのが不思議なくらいである。
熱線が、収束していく。
あれが掠りでもしたら、即死確定だ。
だが、それでもあれが四国の工事現場や、ましてや神戸に直撃する事だけは許されない。
確実にこっちを狙って来ている。
だが、ブラックウルフ・ネメシスの体も、融解し始めている。
ばつんと音がして、ワイヤーが外れた。
ジャスティスビーム改が、十分に熱量を伝達し、役割を終えたのだ。使い切りの兵器だからそれでいい。
最後の一撃。
熱線を放とうとしている寄生虫みたいなブラックウルフ・ネメシスの中身に、斬魔剣投擲型を叩き込む。
汗で視界がぼやけているし、何より暑すぎて意識が飛びそうだが。
それでも、必死に操作して、打ち込んだ。
熱線が収束している先端部のわずか下に、斬魔剣が直撃。だが、熱量が凄まじすぎて、一瞬で崩壊したようだ。
だが、それでも僅かにずれる。
上空に向けて。
あれを地面に向けて発射する事は許されない。
だから、これでいい。
熱線が、放たれる。
最後の一撃だったが。一瞬早く放った斬魔剣と、その犠牲が意味を為した。
上空にずれた最後の一撃は、入道雲を消し飛ばし、空中で連鎖的に爆発を起こしながら。大気圏外にまで飛んでいった。
ブラックウルフ・ネメシスが断末魔の悲鳴を上げて、構造崩壊していく。
それと同時に、凄まじい熱が消えていく。
ハッチを開ける。
外の空気が涼しくて、それで生き返る気がしたが。
肺が焼けるような熱さだったのだ。
やっと、どうにかまともに息ができる。
酸欠になると、脳が壊れる事があると聞いている。
必死に超世王セイバージャッジメントから這い出そうとして、ハッチには触るなと言われた事を思い出すが、遅い。
思わず触ってしまい、一瞬で凄まじい熱さに反射的に手を離し。
コックピットに落ちていた。
尻を打った。
もの凄く痛いが、それよりも、外から入り込んでくる涼しい空気がありがたい。ふっと笑ってしまう。
勝ったよ。畑中中将。
そうぼやく。
でも、完璧とはいかないんだね。
呉美少佐にそう言葉に出さずぼやく。
いつも訓練で、完璧な見本を見せてくれる呉美少佐だったら、今みたいな失敗はしないのだろうか。
そうだ、コアシステム。
モニタはかなり動きが怪しくなっているが、どうにか無事なようだ。
良かった。
そうぼやいてしまう。
中型は、既に引き上げ始めている。
ブラックウルフ・ネメシスが抑え込まれていた辺りは、溶岩化して煮立っているようである。
熱の供給源が消えたとは言え、それでも凄まじい熱が放出され続けていたのである。それはまた、仕方が無い事なのだろう。
緊急放熱機構がやっと熱量を押さえ込み初めて、冷房が動き始める。
だけれども、まともに動けなかった。
救急車が来ているようだ。
情けない事に、そのままあたいは気絶していた。
ブラックウルフ・ネメシスが崩壊していくのを見やる。
呉美少佐は間に合わなかった。
だが、奴が崩壊していくところ。必死の一撃で、奴の最後の断末魔の熱線が、空に放たれて逸れたこと。
それは確認していた。
救急車が同道している。
危険だから少し後ろからついて来て欲しいといったのだが。いつも畑中中将の件で慣れていると言って、すぐ後ろにつけてきていた。
勇敢ではあるが。
それはそれとして、ちょっと苦笑いしてしまう。
それよりもだ。
超世王セイバージャッジメントに横付けすると、ロボットアームでハッチを固定し。更に冷却装置で、機体を冷やす。
超世王セイバージャッジメントの緊急冷却装置も働いているが、それでも熱を殺し切れていない。
ハッチをどうにか触れる温度にすると、救急隊員が中に入り込んで、気絶している飛騨少尉を引っ張り出した。
畑中中将はガタイが良かったから、引きずり出すのに苦労していたが。
飛騨少尉は体があまり大きくないので、ただしそれでも脱力しているので、それなりに引っ張り出すのは苦労したようだった。
レッカーを手配しながら、状態を確認。
片手間に聞く。
命に別状は無さそうであるが。念の為だ。
「飛騨少尉は」
「意識を失っていますが、酸欠で深刻な影響を受けている様子もなく、全身に低温火傷も受けていません。 ただ打撲傷多数で、更には最後にハッチに触ってしまったのでしょうね。 指先を火傷しています。 また、その時コックピットに落ちた打撲がそれなりに深刻そうです」
ただ骨折までは行っていないようだ。
超世王セイバージャッジメントは、苛烈な熱攻撃を受けて、機体にかなりのダメージが残っている。
だが、初陣でこれだけやれれば充分過ぎる程だ。
嘆息する。
やっぱり癖が強すぎる機体をどうにか使いこなす事。超世王セイバージャッジメントに求められるのはそれで。
それは才能に起因するものではなくて、何かしら別の要因が関係しているのだろう。
呉美少佐にはこれは出来ない。
だからこそに、飛騨少尉みたいな、昔だったら子供に分類されていた人間を乗せなければならない。
それがただ。ひたすら悔しかった。何のために大人として戦場にいるのか。そう、自問自答するばかりだった。