スーパーロボット活劇、超世王セイバージャッジメント 作:dwwyakata@2024
ネメシス種はとにかく厄介なシャドウで、被害範囲も大きい上に行動のパターンが読めません。
今まで四半世紀ずっと黙りを続けてくれていた(その前に地球をほぼ更地にしましたが)通常種のシャドウとは、あらゆる意味で違った存在です。
そして破壊力に関してもブレーキが効かない奴が暴れるのです。
起きる事は起きるべくして起きるのです。
序、起きるべくして
ナジャルータ博士は仕事に追われていた。ネメシス化した小型個体のデータを分析し続けていたのだ。
今まで人間やインフラに被害を与えた個体は四体。そのうち二体は畑中菜々美中将が、そして一体はついに超世王セイバージャッジメントを受け継いだ飛騨咲楽少尉が撃ち倒した。
残りの一体はオーストラリアで出現した個体で、中型の集中攻撃を受けて斃されている最中。
最後の力を振り絞って放った攻撃が、オーストラリアに残るただ一つの人間の都市、グラナダアベンデのすぐ近くにあった港湾施設を直撃したのである。
その結果、港湾施設は半壊。
二千人を超す死者が出た。
このグラナダアベンデでは、何度か広瀬ドクトリンによる小型に対する積極攻勢が行われて。
それで相応の被害に対して相応の小型の撃破記録を出していたのだが。
それが帳消しになるほどの被害だった。
何より、港湾施設に係留されていた最新式のホバーがそれで大破粉砕されたという事もある。
グラナダアベンデからGDFに救援依頼が飛んでおり。
現在ホバーに分乗した第一師団が、其方に向かっている状態だ。とはいっても全員を乗せることは不可能だが。
港湾施設の破壊だけでは済まず、現地の病院もパンク。
救援部隊は医療物資も積んでいる。
ちなみにこの破壊を引き起こしたのもブラックウルフ・ネメシスであり。
興味深いのは、飛騨少尉と交戦した個体のような、体の崩壊を引き起こさなかった事である。
ネメシス化は小型にとっての死。
そうノワールは言っていた。
だが、それがどういう意味なのか、ますます分からなくなってきている。
今まで消滅していた小型は死んでいなかったのだろうか。
螺旋穿孔砲が開発されて以降、小型は斃せない相手ではなくなった。だが、もしもそれすら幻だったとしたら。
実に恐ろしい話ではある。
とにかくデータが足りない。
このブラックウルフ・ネメシスによる破壊によって、GDFは更に事態を問題視し始めた。
中型を斃せる前よりも状態が悪くなったのではないか。
そういう声まで上がり始めている。
ただ、それに対しては。
市川代表が皮肉混じりに答えていたが。
もしも中型を今でも斃せていなかったら。ずっと怯えながら、シャドウの生態もわからないまま過ごし。
更には主戦派が無策で仕掛けた挙げ句、仕掛けるだけ兵士を死なせていただけだっただろう、と。
それを聞いてヒスを起こしている輩もいたようだが。
以前、クーデター未遂の時の主戦派の醜態は誰もが知っている。
だから黙らざるを得ないようであり。ナジャルータ博士も、それは助かるのだった。
野心的で危険な人物ではあるが。
市川は有能な代表ではある。
それだけは確かであるので、あまり多くは言えなかった。
ただ、皇帝に即位するとか言い出したら、その時はどうにかして止めなければならないだろうが。
「!」
メールだ。
これは、ノワールからだ。
畑中中将が倒れて病院で過ごすようになってから、奴は畑中中将に興味を失ったようだった。
その代わり、ナジャルータ博士に連絡を入れてくる。
それはあまり良い気分ではないが。
ただ対応しなければならない。
今日も幸い作業は京都工場で行っているので、即座に三池さんに連絡。連携しながら、対応に入る。
「やあ。 苦労しているようだね」
「おかげさまで。 それで何」
「はっはっは、ご機嫌斜めだね。 まあそれも当然か。 ただ此方としても、色々と想定外なんだよ」
「想定外?」
シャドウはどうも集合意識かなにからしいというのは仮説として建てている。
自分達を私ではなく私達と呼んでいるのもそうだ。
そもそもとして、個の損失をこれといって問題視していない様子すらある。だとすれば、そういう存在なのかも知れない。
大型ですら体の一部に過ぎず。
殆どの個体は、人間の駆除が一段落したから眠っているだけ。
そういう圧倒的な存在だとすれば。
やはりまだ勝ち目なんてありはしないのだ。
ただ、そんな存在でも想定外はあるのか。
いや、あるだろう。
無かったら、畑中姉妹によって此処まで多数の中型小型が斃されていない。
個を失っても何ともないとしても。
それでもなんの痛痒にも感じていないことはない。守りを固めて来た事からも、あまり面白く思っていないことは明らかすぎる程だ。
「寿命を迎えた私達はあり方を外れる。 君達はネメシスと呼んでいるようだね」
「そんな事まで知っているのか」
「知っているよ。 君達の通信なんて、私達には全て筒抜けだからね。 君達のセキュリティなんて、紙も同然なんだよ」
「……っ」
まあ、そうだろうな。
仮想環境のメールサーバーで、現状のセキュリティを完全に騙してメールを送ってくるような輩だ。
そんなのは余技に過ぎないだろう。
必死にセキュリティを厳重にしても。
なんならデータをスタンドアロンにしても。
それら全てが、無駄であったかも知れない。それくらい、厳しい相手と今は戦っている。
それくらいの認識でいなければ、どうにもならない相手だ。
「あり方を外れた私達が、無作為に熱エネルギーをまき散らして抵抗するのは困ったことでね。 修復にもリソースは使う。 それに私達は約束した。 其方が手出ししない限り、手出ししないとね。 私達は君達と違って、約束は守るのさ」
「そうか。 紳士的だな」
「紳士という概念が嘘だらけだろう? 私達は違う」
「……」
確かにジェントルという言葉は、三枚舌外交で知られる英国で作られた概念だ。
元は階級を意味する言葉であり、一種の下級貴族だった。これがいつの間にか名士というような意味となり。
優れた人格者を意味するようになった。
最初は今とは全く違う意味だった言葉だし。
何よりも紳士と言われているような人間が、本当に紳士だった例がどれだけあるだろうか。
それについては、確かにナジャルータも口をつぐまざるを得ない。
「いずれにしても、私達に対する攻撃を君達は随分とした。 しばらくはああいう死を迎えて、そして逸脱する私達は現れ続けるだろう。 現れた時には距離を取ることだね。 私達で始末するが、暴れるからどうしても被害が出る」
「即座に斃せないのか」
「無理かな。 いつ私達が死を迎えるかは私達にも分からない。 こればかりは、どうしようもないことなんだ」
「……提案がある」
ナジャルータ博士は、広瀬大将からの提案をボードに掲げている三池さんを見て、素早くメールを打つ。
相手は珍しく話を聞く。
「今までに三回、被害が出る可能性が高いネメシス個体を我々は超世王セイバージャッジメントで斃した」
「ああ、あの面白い兵器だね。 あんなテクノロジーで、私達に対抗できているのだから、創意工夫には驚かされるよ。 テクノロジーも使い方次第。 創意工夫で、ひっくり返せる局面もあるのだと勉強になる」
「勉強になるのは良いとして。 都市部近くで……日本でしか出来ないが。 特に日本の
都市部近くでネメシスが出現した場合は、超世王セイバージャッジメントと共闘出来ないだろうか」
「ふうむ、共闘ね」
珍しくノワールが悩んでいる。
或いは、相手も全権が委任されている訳では無いのか。
主君がいるのは、以前からの話で分かっている。
嘘をついていないというのであれば、確定だろう。
それがただ意思決定を行っているだけの存在なのか、もっと強大な力を持つ存在なのかは分からないが。
それでも、ともかく利用すべく、頭を使っていかなければならない。
「結論が出た。 良いだろう。 今までも示し合わせた訳では無いが、少なくとも超世王セイバージャッジメントと君達が呼ぶ兵器は、終わりを迎えて逸脱する私達を滅ぼす際に、私達に攻撃はしていない。 だとすれば、それを続行するのであれば。 私達もある程度の連携は図ろう」
「そうか、助かる」
「では、せいぜい無意味な同士討ちをしないようにね」
通信が切れた。
メールは面倒な立場である事もあって、市川代表にも回している。
すぐに会議をするというメールが市川代表から来たので、げんなりした。三池さんが、話をしてくれる。
「ノワールで間違いありません。 今のやりとりは、大いに意味があると思います」
「色々厳しい状態に代わりはありません。 セキュリティが全て無意味だと知ったら、発狂する国家代表も出そうですね」
「スタンドアロンのシステムですら全て情報を抜かれているとすると、一体どうやっているのかは気になりますけれど」
そんな感想が出るのは、三池さんが本職だからだろう。
ともかく、テレビ会議の部屋に向かう。
おきだしたばかりなのか、いつも以上に不機嫌そうな畑中博士が、テーブルに頬杖をついている。
これはあまり喋らせない方が良さそうだ。
テレビ会議は五分ほどで始まった。
市川代表が、最も重要な事項については、各国の代表、或いはその代理が、即時で応じられるシステムを構築したのだ。
勿論市川代表は、その開催で遅れたことは一度もない。
野心的で危険な男ではあるが。
有能さでは間違いもないのだ。
嵐山さんが、今のやりとりについて、各国代表に説明する。広瀬大将が、それに捕捉していた。
「シャドウと手を組むわけではない事をご理解いただきたく存じます。 現時点でシャドウと対話するためには、あらゆる試みを試して行く必要があるのです。 そしてシャドウもイレギュラーで困っているのであれば、水面下で連携する事も可能でしょう、ということです」
「シャドウと連携だって……」
「いや、実際シャドウが攻撃を止めていなければ、我等なんてとっくに全滅している。 向こう側から譲歩を引き出せたのは、大きすぎる成果だ」
意外にも、肯定的な受け取りをしてくれたのは、少し前に被害を受けたばかりのオーストラリア代表だ。
アボリジニ出身の人物だが、この人物も村をシャドウに滅ぼされたという点では代わりはない。
原始的な生活をしていようが、シャドウには関係が無かったのだ。
「今は生き残る事が最優先だ。 シャドウが攻撃を停止してくれたのは確かにある。 今問題になっているのはネメシス個体。 これをどうにかしつつ、少しずつ状況を改善するしかない」
「港を焼かれたのに、随分と弱気だな。 それとも港を焼かれて弱気になったのか」
「あの騒ぎで私の息子も死んだ! 腸が煮えくりかえっていないとでも思うのか!」
揶揄に対して、オーストラリア代表が吠えた。
それを聞いて、流石に黙り込む者達。
申し訳ないと言うのをみて、気まずい沈黙が流れる。咳払いしたのは、ナジャルータ博士である。
「超世王セイバージャッジメントのパイロットとして飛騨少尉が就任し、しかも初陣でネメシス個体を斃してくれました。 絶望的だった状況は改善されているだけではなく、複数のパイロットが操作したことで、少しずつ癖が強すぎるワンオフ機にも汎用化の兆しが見えてきています。 シャドウと今、対等に交渉することは残念ながら出来ません。 相手と粘り強く交渉し、少しずつ譲歩を引きだして……出来れば安全を完全に確保するところから、最初は行うべきです」
「……」
「GDF代表としては今はそうするしかないとしか言えませんな。 とりあえず、反対意見がないのであれば、様子を見ます。 日本で小型種をもっとも斃した以上、ネメシス化個体が出るのは日本の可能性が最も高い。 勿論他の国でも出現していますが、今は連携しての対ネメシス個体の経験を積むことが大事なのです」
「分かった……」
新しく就任した北米の大統領がそれしか手はないかという風に嘆息していた。
会議もそれで終わる。
ヤジを飛ばす奴もこんな状況でもいる。
政治家が優秀な人間の集まりだったら、これほどの悪い状況でヤジなんて飛ばしている場合では無いと理解出来るだろうに。
それが出来ないと言う事は。
つまり、その程度の存在に過ぎないと言うだけの話だ。
とりあえず、会議を終える。
のそりと立ち上がった畑中博士は、寝直すと言って消えた。やはり相当にストレスが溜まっているらしい。
「まだ本調子ではないようですね」
「普段は滅多な事では動じない人なんですけれど、流石に畑中中将の事があってからは随分とこたえているようですね。 普段平気な分、精神へのダメージも大きいのだと思います」
「なんとかならないんでしょうか」
「畑中中将はまだ病院から出られないんですが、ある程度状態が改善してから、シミュレーターへのアドバイザーとして京都工場に来てくれるそうです。 退役はしていますから、顧問という形で。 そうすれば、恐らく畑中博士は本調子に戻ると思います」
本当に畑中中将が好きなんだな。
仲が良い姉妹……いや、畑中中将は姉の変人ぶりに困っていたようだから、姉から妹への一方的な愛情なのかも知れないが。
ともかく、少しでも新米の飛騨少尉の負担を減らさなければならない。
これでも対シャドウでは経験を積んでいるのだ。
先達が後輩の負担を減らすのが正しい姿勢である。デチューン版の超世王セイバージャッジメントではどうしてもネメシス個体の相手は難しい。
今後は呉美少佐とも、連携して動く事にするのは決めてあるが。
役に立てるかは厳しいという現実もあるのだから。
幾つか受けた軽傷の治療を受けてから、退院する。若い事もあるから、すぐに治るとは言われたが。
それはそれとして、無理をしないようにも言われた。
あたい飛騨咲楽は、病院が少し苦手になった。
なんだか随分過保護に扱われたような気がする。今はみんなそんなものなのかも知れないが。
大事にされた事なんてないので。
それで緊張してしまった。
宿舎に戻って、それでSNSを見る。シャドウの親玉が連絡をしてきて、それで会議があったらしい。
退院を知ったのか、上司にあたる広瀬大将から連絡があった。
会議の内容に目を通しておくように、というものと。
シャドウの側から、ネメシス個体が出た場合の戦闘連携について申し出てきたというものだった。
まあ、別に実際戦地では共闘していたようなものだったし、それは提案は有り難くはあるが。
そもそもシャドウが何を考えているかまったく分からないあたいとしては、本当に大丈夫なのだろうかとは思ってしまう。
シャドウの親玉はノワールと名乗っているらしいけれど。
嘘をつかないというのは本当だとしても。
目的は話さないらしいし。
そういう点では、信用して大丈夫なのかと不安になるのだ。
嘘をつかないだけで人間よりましか。
そういう考えも出来るには出来る。
これだけ催眠教育が普及した今でも、病気のように犯罪に手をつける奴はいる。
虚言癖が一種の病気だと分かった今でも、それとはまるで別の形で嘘をつくのが大好きな奴もいる。
多くの場合相手を馬鹿にするためか、自分より下の存在とするために人間は嘘をつくのだと聞いている。
そうで無い場合は相手を騙して利益を奪うため。
中には嘘つきを英雄視するような輩や、駆け引きの一つとして美化するような連中もいるらしいが。
あたいは一応軍属になる前から仕事をしていたから。
嘘をつく連中が、如何に醜悪な顔で笑っていたかはよく見ている。
ああいう連中の事を美化するようなのとは、何を話しても無駄。
それを思うと。
そんな輩よりは、まだシャドウはマシ。
そういう事なのかも知れなかった。
ともかく京都工場に戻る。
入院中もリハビリをしたのだが、色々と足りなさすぎる。工場に出ると、三池さんが出迎えてくれた。
お菓子を出してくれるので恐縮してしまう。
麟さんが仕事をしている背中が見える。
畑中博士は出かけているようだ。
入院中の不便などは聞かれたが、特になかった。打撲はあったにはあったが、実際それほど時間が掛からず治った。
最近はこういうのは短時間で治す方法が普及しているらしく、あたいもそれで治せたのだ。
ただし骨折などになるとそうもいかない。
あれだけ距離を取った戦いであったのに、それでも大苦戦を強いられたのだ。
シャドウとの戦いで、これからも手傷が増えるのは確定だろう。
ただ、それで怖いとは思えない。
まったく抵抗も出来ないまま、一方的に殺される方が余程怖い。
超世王セイバージャッジメントで戦って見て良く分かった。
螺旋穿孔砲が出てくる前は、人間は文字通りシャドウに駆除されていたのだ。人間が見た目で虫とかを嫌って、殺虫剤とかをブチ撒いていたかのように。
むしろ周囲にも害が出る殺虫剤を撒くだけの人間とは違って。
その後の処置もしっかりしていた分、シャドウのほうが余程マシだったのだろう。そう思うと、色々とげんなりさせられてしまう。
ともかく幾つか話をした後、丁度来ていた教官のレンジャーに頼んで、訓練のメニューを入れて貰う。
畑中中将も、一日休めば三日遅れるという精神で、ルーチンの訓練は欠かさなかったらしい。
病み上がりなのでペースは落とすが、それでもきっちりやる事はやる。
モチベはそれなりにある。
やはり。さっきも思った通り。
戦えるだけマシなのだ。一方的に殺戮されるくらいだったら、戦って死ぬ。そう、あたいは考えていた。