スーパーロボット活劇、超世王セイバージャッジメント   作:dwwyakata@2024

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北欧神話の終わりに、世界の果てからやってくる炎の巨人族、ムスペル。終末神話で一方的に神々を殺戮して、しかも勝って去って行くという異質な存在です。

その体内が地獄とも言われる凄まじい大悪魔、蝗害の神格であるアバドン。

それらの要素を足したようなネメシスが、襲い来ます。







3、ムスペルとアバドン

世界の終わりを描く神話は幾つも存在している。

 

終末思想というそうだが。

 

あの有名な一神教にもそれは存在していると言う事だ。

 

それらの中で異彩を放っているのが北欧神話。

 

北欧神話では神々が完膚無きまでに敗北し、世界が焼き払われてしまう。

 

それをやるのが、灼熱の国から来たムスペル。

 

そしてその王であるスルトだ。

 

それらの話は一般教養として、あたいも聞かされた。

 

ネメシス種のシャドウは、ある意味ムスペルなのかも知れないと思う。

 

ネメシスはネメシスで、ギリシャ神話での死の神らしいから、それはそれで意味があるのだろうが。

 

それに熱が弱点になると言う点では、ムスペルとは少し違うのかも知れないのだけれども。

 

それはそれとして、全く無関係だとも思えなかった。

 

畑中博士が発明した誘引弾の配備が始まっている。

 

これについては、世界中で即座にノウハウが共有されたらしい。

 

誘導兵器では作らない。

 

それが基本になる。

 

また、アトミックピルバグの射程範囲にも使ってはいけない。

 

あいつは人工物であったら何でも撃墜する。特殊な誘引弾だとしても、勘弁などしてくれないだろう。

 

超世王セイバージャッジメントで演習に出る。

 

やはり盾役をこなす。

 

実機で試してみて、少しずつコツが分かっては来た。

 

この間来てくれた畑中中将が、悪い癖とかを幾つか指摘してくれたこともあって、効率的にそれを直す事も出来た。

 

ただ、畑中中将ですらも、相手の熱線は完全に回避は出来なかった。

 

直撃を避けるのが精一杯であって。

 

今後も、相手の攻撃が来た場合は、必死に避けるしか他にないのだろうが。

 

「訓練開始」

 

「開始!」

 

そのままシミュレーションでの訓練を開始する。

 

実機を使っているとは言え、周囲の状況は仮想だ。

 

また、EMPを受けた時対策として、超世王セイバージャッジメントと、デチューンモデル二機との相互リンク機能は最小限に抑えている。

 

実際問題、人間が作るEMP対策程度では、話にならないのだ。

 

ブライトイーグルが使うEMPは、効果範囲も完璧に操作する事ができる上に。

 

人間がそれまで作りあげた対EMP防御を、悉く無効化した。

 

それもあって、今はあらゆる対策を練って行くしかない。

 

最悪、手動で全て動かさないといけないだろう。

 

黙々と訓練をする。

 

ラムセスの側に現れたホワイトピーコック・ネメシスを迅速に撃破する訓練。

 

やはり熱線を放ってくるのを、どうにか最前衛で回避し続けるが、完全回避はどうしても難しい。

 

後方にいる誘導弾を搭載している迫撃砲車両が射撃。ただ、これは実際には発砲していない。

 

今、中型種を含めシャドウを刺激するなというのが方針となっていて。

 

空砲であっても、弾を撃ち込んだりしたら、どうシャドウが動くか分からないからである。

 

撃ったという体で訓練を続行。

 

そのまま回避運動を続け、呉美少佐ともう一人が、主にジャスティスビームで攻撃。高コストだが、これで相手の寿命を加速度的に縮められるはずだ。

 

一応、訓練は終わり。

 

破壊的な熱線を放たせる前に倒す事が出来たが。

 

これはあくまで楽観だ。

 

楽観に基づいて行動していてはまずい。

 

誘導弾には引っ掛かる。

 

これはネメシス種の性質からして確定である。それに関しては問題はないのだが。懸念点は別にある。

 

中型種が攻撃と見なして、超世王セイバージャッジメントに襲いかかってくるのではないのか。

 

そういうものだ。

 

実際問題、今回作成する誘導弾は保存が多少大変だが。各地の生き残っている街でなら作る事が出来る。

 

ブラックボックスだらけの超世王セイバージャッジメントと違い、比較的簡単にあのネメシス種を誘引できる。

 

ラムセスの悲劇は、まだ復興が終わっていない事からも、その被害の大きさが分かる。

 

各国は泡を吹いて、畑中博士の発明を配備に掛かっている状況だ。

 

何度か条件を変えて訓練をするが。

 

やはりあたいは回避に専念して盾役をやった方が、被害を減らせると思う。

 

勿論盾役だけをするのではなく、攻撃もする。

 

シャドウも超世王セイバージャッジメントの事は既に認識しているし、恐らく錯乱状態にあるネメシス種でもそれは同じ。

 

だったら、盾役として動き。

 

更に相手に攻撃も浴びせれば、黙ってはいられないはずだ。

 

そして中型種がこっちを狙ってこない限り。

 

ある程度立ち回る自信は少しずつついてきた。

 

後はその自信をただのうぬぼれから。

 

しっかりとした実力と、実績から来る結果に変えていくだけだ。

 

京都基地に戻り、補給を受ける。

 

それと同時に連絡が来ていた。

 

「ネメシス種出現!」

 

「!」

 

「今度は何処ですか」

 

「濃尾です! 名古屋付近にて、一斉に小型種が逃走を開始! グレイローカストが算を乱しています!」

 

グレイローカスト。

 

群れで襲いかかってくる、ある意味下手な中型よりも危険な小型種だ。畑中中将も随分と手を焼いたと聞かされている。

 

もしもグレイローカストのネメシス種が出たら。

 

蝗害は昔神話で悪魔にされたことがあるらしい。

 

特に有名なのは、一神教における悪魔アバドン。

 

アバドンの体内が地獄であるという説がある程のとんでもない大悪魔であり。逆に言うとそれだけ蝗害が古くでは怖れられていたと言う事だ。

 

即座に出ると言いたいが、実戦用に装備を切り替える。

 

そして足が遅い迫撃砲車両が一番手間が掛かる。

 

もしネメシス種になってもグレイローカストが飛行能力を有していたりしたら、最悪の事態が訪れかねない。

 

いうまでもなく、最強最悪の爆撃機が出現するだろう。

 

空を失った今の人類にとっては、文字通り最悪の敵である。

 

中型も始末にあたってはくれるだろうが。

 

あくまで相手は勝手にやっている事。

 

超世王セイバージャッジメントと連携して動いてくれるとは、とても思えない。あくまで参考程度にしかできない。

 

それでも、やるしかないのだ。

 

ラムセスの被害の映像は、悲劇から一月ほどで廻って来た。文字通りの地獄絵図だった。

 

そしてシャドウ戦役の頃は、それが世界中で起きていたのだ。

 

それを思うと、とてもではないが柔軟になんて動けないし、考えられない事だって分かる。

 

分かるが。

 

悩みが忙しく交錯するが、戦場に急ぐ。

 

まだ戦場になるとは決まっていない。相手が何になるかも分からない。

 

今回は濃尾と言う事もあって、距離はかなりある。

 

その上確かあの辺りはアトミックピルバグがいる筈で、その射程範囲にネメシス種が入ったら一巻の終わりだろう。

 

実際問題、アトミックピルバグが対応にあたった場合、短時間でネメシス種は斃されているらしい。

 

ラムセスの件は、運が悪かったのだとしか言えない。

 

ともかく急ぐ。

 

間違ってもシャドウに期待など出来ない。

 

通信が入った。

 

広瀬大将からだった。

 

「現在スカウトが距離を取って確認中です。 まだなんの小型種がネメシス化するかは分かっていません。 現在の編隊のまま現地に急いでください。 後方から誘引弾を搭載した迫撃砲車両も追随中」

 

「イエッサ!」

 

最近はこのかけ声にも慣れてきた。

 

昔は女上官にはイエスマムだったらしいが、今の時代はそれもないらしい。確かに別に相手は母親でもなんでもないか。

 

現地からの追加の情報が入ってくる。

 

あまり良くない情報だ。

 

「こ、これは! 此方スカウト14! 良くない知らせです!」

 

「具体的にお願いします」

 

「ネメシス化している小型種は二体! 二体同時です!」

 

「!」

 

これは、まずいか。

 

初のケースの筈だ。

 

そもそもネメシス化個体は、高熱で斃せるが。その代わり放熱で熱線砲も放ってくる事もある。

 

それもあって、二体同時だったら非常に厳しい戦闘になる。

 

それだけじゃない。

 

いるだけで極めて危険な高熱を放出し続ける相手だ。サウナどころでは済まないだろう。

 

引くか。

 

中型種がいる筈だ。始末に掛かる筈。

 

だが、それを判断するのはあたいじゃない。広瀬大将だ。分かっているから、どうにもできない。進むだけだ。

 

これが畑中中将だったら、行動のグリーンライトがあったらしいが。あたいみたいなひよっこに、そんなものはない。

 

更に報告が飛び交う。

 

「ネメシス化した一体はクリーナー! アトミックピルバグが其方に向かっています!」

 

「化け物同士でつぶし合ってくれると良いんだが」

 

「全部聞かれているって話だ。 気持ちはわかるが止めておけ」

 

「くっ……!」

 

兵士達が悔しそうにしている。

 

確かに通信が全部傍受されている可能性が高いという事実がわかってから、シャドウ相手の悪口を控えるようにと通知があった。

 

今は、シャドウを刺激するのは極めてまずい。

 

それを誰もが分かっているのだ。

 

海運が昔ほどの規模では無いにしても、復活しようとしているのである。それを思うと、確かに相手を刺激するのは悪手だ。

 

ホバーだろうが、イエローサーペントの前には手も足も出ないという点では同じなのである。

 

「もう一体はどうなっている!」

 

「今、確認中……なんだあれは」

 

「どうしたスカウト14!」

 

「形状が今まで確認されている小型種のどれとも類似しません! 元が何であったのかも分かりません!」

 

映像が来る。

 

確かに、何だこれはとしか言いようが無い。

 

確かこういう生物がいた。ザトウムシ、だったか。

 

蜘蛛に近い種類の節足動物だが、豆粒みたいなちいさな体に、とても足が長い体を持っている筈。

 

ただ、それは日本で良く知られているものに過ぎず。

 

大型種も普通に存在しているらしい。

 

ともかく、シャドウがそれになったのなら、安全な筈が無い。即座にスカウト14は撤退を開始したようだ。

 

アトミックピルバグが、巨大化クリーナーを始末に掛かっている。問題はもう一体の奴だ。

 

それに中型が多数襲いかかる。

 

ストライプタイガーが取り押さえようと飛びかかるが、その瞬間。ザトウムシっぽいネメシス種は、空中へ浮かび上がっていた。

 

更に、多数の足が旋回して、空中に浮かぶ。

 

ホバリングか。

 

其処に、キャノンレオンからの砲撃が多数着弾するが、平然と、ゆったりと移動し始める。

 

その姿を見て、初めて分かる。

 

「あれ、グレイローカストだ……!」

 

「此方ナジャルータ。 確認されたクリーナーではない個体を、グレイローカストのネメシス化個体と認定。 以降グレイローカスト・ネメシスと呼称します。 グレイローカストの形状が一度完全に壊れた後再構築され、空を飛ぶのに特化した姿になったようです」

 

「分かりました。 飛騨少尉、相手の動きに備えてください。 ジャスティスビームを叩き込むにしても、恐らく熱線で反撃してきます。 我等は少し後ろから、相手の動きに対応します」

 

呉美少佐が具体的な指示を出してくれて助かる。

 

イエッサと叫ぶと、あたいは超世王セイバージャッジメントを進める。

 

今の時点で、グレイローカスト・ネメシスはゆっくりと此方に進んできている。

 

それこそ驟雨のように叩き込まれるキャノンレオンのプラズマ砲は効いてはいる。見て分かる程、赤熱してきている。

 

だが、それで斃されるほどかというとそうでもない。

 

非常にまずい。

 

足のように見えた翼の回転速度が上がると、それ自体が放熱になっているようだ。辺りが見る間に灼熱に変わっていく。

 

これは、全身が放熱器官になっているのか。

 

ネメシス種は死を迎えた小型種の筈だが。

 

それにしては、死に抗っていないか。

 

いや、まさかとは思うが。

 

やっぱり死の定義が違うのだろうか。

 

あたいは前々からおかしいとは思っていた。ネメシス種は中型に反撃こそしないが、それにしても行動がおかしすぎる。

 

人間への殺意。

 

中型への絶対服従。

 

この二つだけは壊れていないが、それ以外の全てが壊れているのではないか。

 

実際環境への負荷を一切掛けずに戦っている中型とは、あらゆる意味で戦い方も違っている。

 

それに、明らかに存在の固定に固執しているようにも思えている。

 

なんなんだネメシス種って。

 

ノワールだったか。

 

奴の説明が不足しているのか、それとも価値観が根本的に違っているのか。それもまったく分からない。

 

とにかく、戦闘に備える。

 

あいつは今の時点で放熱だけしているが、それがこのままどうやって動き始めるか分からないのだ。

 

そして、その時は唐突に来た。

 

いきなりグレイローカスト・ネメシスが速度を上げはじめたのだ。

 

確かブライトイーグルなんかは、極超音速を出しかねないと言う話があった。それにグレイローカストも相当な高速で飛ぶことが出来たはず。

 

シャドウはそもそも空気圧を殆ど問題としていないようで、超音速で平然と移動する。奴もそうだとしたら。

 

一瞬で、あれが神戸に着弾しかねない。

 

そうなったら終わりだ。

 

即座に前に出る。

 

「斬魔剣で仕掛けます」

 

「分かりました。 速度が上がりきっていないうちに仕掛けた方が良さそうですね」

 

「ああっ!?」

 

スカウト14から通信。

 

なんとクリーナー・ネメシスが。アトミックピルバグを包み込んだらしい。

 

攻撃ではないようだが、それでアトミックピルバグは攻撃が出来なくなっているようだ。

 

中型種が集まっている。特に対空攻撃手段が無いストライプタイガーやウォールボアが剥がしにかかっているようだが、それも上手く行っていないようだ。ただ、まとめて熱量を叩き込んでいるようである。

 

多少仲間が失われても痛くも痒くもないのか。

 

それとも仲間意識そのものがないのか。

 

ぐっと歯を噛む。

 

接近。

 

まだ凄まじい火力を浴びているグレイローカスト・ネメシスが、全身赤熱し始めている。そのままだと、神戸に向けて熱線砲でも放ちかねないし、そうなった場合遮るものもなく、着弾。

 

熱線砲は防ぐ手段がない。

 

それこそ、着弾したら、核爆弾が炸裂するよりも悲惨な事が起きるだろう。

 

だから、間合いに入った瞬間、斬魔剣投擲型を放つ。距離はギリギリ行ける。それほど高高度を飛んでいないのだあの爆撃機は。

 

それもあって、斬魔剣投擲型は、灼熱を浴びて柔らかくなっているグレイローカスト・ネメシスに、文字通り突き刺さっていた。

 

凄まじい音が響く。

 

プラズマを直に浴びていたよりも、こっちの方が効くのか。だとしたら、以前アトミックピルバグ戦で使われた斬魔クナイの方が良かったか。

 

いや、それだけではダメだ。

 

ぐらりと巨体が揺らぐが、その程度で倒れる相手では無いはずだ。空を飛ぶ生物は脆くなりがちだが、あのシャドウがそんな法則に捕らわれる筈が無い。

 

来る。

 

反射的にジグザグに機体を走らせる。

 

熱線が、立て続けに至近に突き刺さった。回避運動をしていなければ、蒸発させられていた。

 

地面が爆発する。連続で。機体が激しく揺れるが、受け身をとり、どうにか耐える。密着状態で受け身を取る方法も習った。かなりの高等技術で、あたいにはとても難しかったけれど。

 

怪我をするよりも、継戦能力を失う方が怖い。

 

一気に熱が上がってくる。

 

これは、ひょっとして。

 

高度を下げてきているのか。

 

そうだ、狙って来ている。それでいい。神戸に来られたら困る。あたいが此奴を誘引する。

 

そのまま加速。熱線が偏差射撃で飛んでくる。勿論放たれてから避けても間に合わない。シールドが時々発動するが、気休めにしかならない。

 

濃尾へ突っ込む勢いで、東に進む。

 

シャドウが縄張りにしている範囲に入ったら、まず間違いなく即座に八つ裂きにされる。今見えているだけでもキャノンレオン六体がいる。

 

あんなの畑中中将でも勝てない。

 

あたいなんか瞬殺されるだけだ。

 

だからギリギリを攻めるしか無い。

 

ゆっくり此方に向けて旋回してくるグレイローカスト・ネメシス。其処に、ジャスティスビームが二本絡みつく。

 

灼熱に、凄まじい悲鳴が上がる。

 

後ろのデチューンモデル二機が明確に引きずられている。それこそ翼長百mはありそうなとんでもない飛行存在だ。

 

そいつがしかも物理を無視して動くのである。

 

更に、辺りは凄まじい風が吹き荒れている。グレイローカスト・ネメシスが起こしている放熱が、辺りの空気を滅茶苦茶に引っかき回しているのだ。

 

「こ、此方三番機! 凄まじい風に飛ばされそうです!」

 

「風に逆らわないようにして機動してください!」

 

呉美少佐が、三番機のパイロットに指示。

 

あたいも出来るだけそうしているが、完全に敵認定されて熱線を連続で叩き込んでくるので、それも極めて難しい。

 

まずい。

 

直撃に近いのを貰った。機体がもろにういて、それで。

 

ひっくり返ったら即死確定だ。追撃を貰って絶対に助からないだろう。

 

その瞬間。何かがぶつかった。

 

そして、乱暴に地面に叩き付けられる。

 

なんだ。

 

映像を見て、思わず言葉を失う。今、体当たりしてきたのは、キャノンレオンだ。しかもそれでグレイローカスト・ネメシスは、制御を失った超世王セイバージャッジメントへの追撃をやめた。

 

中型には攻撃しない。

 

それを愚直に守っているのだ。

 

だが、助けられる謂われなんてない。

 

いや、本当にネメシス種相手には協力するというのか。だとしても、これはちょっと複雑である。

 

ともかく即座に移動。

 

蛇行しつつ、斬魔剣投擲型から熱量を注ぎ込み続ける。

 

ゆっくり旋回して此方を狙って来ているグレイローカスト・ネメシス。神戸からはどんどん離れている。

 

だが、立て続けに熱線を放ってくる。また機体が浮き上がりかけたが、耐え抜く。ぐっと歯を噛む。

 

コックピットがかなり暑くなってきている。冷房が全力で回っているが、それでも冷やしきれない。

 

彼方此方周囲が発火しているのが見えた。

 

別に乾期でもないのに、あまりにも凄まじい光景だ。外に出たら、一瞬でロースト人肉である。

 

超世王セイバージャッジメントは、これでも頑張ってくれている。

 

それにだ。

 

明らかに超世王セイバージャッジメントを攻撃出来る間合いにいるのに、キャノンレオンは一切此方に手を出してこない。

 

モニタがそろそろヤバイ。

 

エラーがかなり点灯している。

 

動けなくなったら一瞬で終わりだ。必死に盾役となって逃げ回る。それしか出来ないのだ。

 

更に高度を下げてきた。

 

あたいを何があってもブッ殺すつもりか。上等。神戸に住んでいる三百万人を超える人との引き替えだったら安い。

 

勿論自分の命を安売りするつもりはない。

 

だけれども、命を賭けてシャドウをやりあって。今のシャドウとある程度共闘出来る状況を作った畑中中将を見て、それでこう思えるようになって来ている。あの人は、本物の英雄だ。

 

自分ではそう思っていないようだけれど。

 

あたいは、少なくとも。

 

超世王セイバージャッジメントに乗っているんだから、恥ずかしくない戦いをしなければいけないんだ。

 

呼吸する度に肺が焼けそうだ。

 

また至近弾。地面奥まで突き破ったらしくて、ずしんという強烈な手応えがあった。それに、装甲の一部が融解し、それに無限軌道まで外れて吹っ飛んだ。それにだ。これ以上降りて来たら。

 

押し潰される。

 

いやまて。

 

だったら。

 

急カーブして、更に進路を変える。グレイローカスト・ネメシスと追いかけっこに近い形だったが、敵前回頭だ。勿論熱線を叩き込んでくる。だが、奴の体は直視してみると、既に限界に近い状態だ。

 

ジャンプするのにいい地形は。

 

見つけた。

 

そのまま、走りながら調整する。相手は一際強烈な熱線を放って来ようとするが、その瞬間グレイローカスト・ネメシスの横っ腹にランスタートルが直撃、更にランスも起爆させていた。

 

凄まじい悲鳴が、文字通り世界を引き裂くようだ。

 

そこであたいが突貫。

 

丘になっている地形を利用して、飛ぶ。

 

「勝負だアバドンもどき! ぶった切る!」

 

叫ぶと、斬魔剣Ⅱを振るう。グレイローカスト・ネメシスが熱線を放とうとするが、キャノンレオンの砲撃を浴びて態勢を崩す。熱線が外れる。それは空を抉っていき、蜘蛛を吹き飛ばしていた。

 

斬魔剣Ⅱが食い込み、一気にグレイローカスト・ネメシスの頭部から腹部にかけて切り裂いていく。

 

斬る時の手応えは殆ど無い。

 

分かっている。

 

これはぶった切るような兵器ではない。

 

超高熱を浴びせる兵器ではあっても、相手を一刀両断できるような切れ味はないし。そもそもとして、シャドウは小型ならともかく、中型以上の相手でそれが出来るような事はない。

 

それでも、気迫だ。

 

精神論で勝負は決まらないが、

 

ほんの僅かでも後押しできるのであれば。

 

着地と同時に、受け身を全力で取る。

 

これで壊れないのだから、超世王セイバージャッジメントも凄い。ただ、ショックアブソーバーが機能していても、なおも意識が飛びそうな打撃が来たが。

 

ぐっと呻く。

 

それに、今ので熱い空気を思い切り吸ってしまった。

 

意識が遠のくのを、必死に踏みとどまる。

 

悲鳴を上げながら、消えていくグレイローカスト・ネメシス。

 

一気に周囲の熱量が下がっていくのが分かった。

 

冷房がコックピット内の空気を正常な状態に戻していく。すぐに通信。呉美少佐からだ。

 

「すぐに下がってください飛騨少尉! そこはもう普段なら小型が彷徨いている辺りです」

 

「い、イエッサ……」

 

声がかすれている。

 

そのまま必死にふるえる手で操作して、支援プログラムに助けて貰いながらバックする。それを、中型種は襲おうとはしなかった。

 

どうにか安全圏に抜ける。

 

彼方此方で火事が起きている。

 

だが、広瀬大将が手配してくれた軍用の消防車が展開して、それらを鎮火し始めていた。また、シャドウの領域の方では、もう一体のネメシス型。クリーナー・ネメシスをついにアトミックピルバグから引きはがし。

 

超火力の連射で焼き切ったようだった。

 

呼吸を整える。

 

明確に体の中が痛い。

 

例えば尿道結石などでは、トゲトゲの石が体の中の管を傷つけながら降りてくる事もあって。

 

体の中から痛いのだという。

 

今は、息をすると痛い。

 

肺の中を痛めているのかも知れない。だとしたら、そのままでは治らないかも知れない。どうすればいいのだろうと途方に暮れていると。

 

超世王セイバージャッジメントのハッチが開く。

 

救急隊員が来ていた。

 

「飛騨少尉、声は出さなくて大丈夫です。 意識はありますか?」

 

「……」

 

頷く。

 

シートベルトを外して、後は引きずり出される。

 

状態については、多分超世王セイバージャッジメントのバイタル検知装置が、救急隊員にデータを送っていたのだろう。

 

そのまま人工呼吸器をつけられて、病院に搬送される。

 

「あんな高熱環境下で戦うなんて正気じゃない!」

 

「だがあいつを放っておいたら、神戸が襲われて、あの熱で焼き払われたんだぞ!」

 

「分かってる! 広瀬大将は、もっとマシな作戦を立てられないのか!」

 

「あの人で無理なんだ! 他の誰だって無理だ!」

 

看護師と医師が怒鳴り合っているのが聞こえる。

 

だが、あたいはそれにどうこういう余裕もなく、意識は間もなく落ちていた。

 

 

 

盾役をしてくれなければ、とても倒し切れなかっただろう。

 

呉美少佐は、それでも地獄みたいな熱量の中。僚機とともにグレイローカスト・ネメシスにジャスティスビームを叩き込んで、それで斃しきった。中型種の猛攻に加えてジャスティスビーム二本。

 

それに、飛騨少尉の奮闘もある。

 

いずれもが欠けていたら、奴を。グレイローカスト・ネメシスを落とす事は不可能だっただろう。

 

神戸は守られた。

 

だが、この状況は良くないと、呉美少佐も思う。

 

弾薬が尽きている。

 

更に有効打がない。

 

だといっても、第二師団に出来る事があまりにも少なすぎるのだ。

 

それに今回は、誘導弾を使っている暇も無かった。

 

搭載した迫撃砲車両の速度が遅く、戦闘に間に合わなかったのだ。勿論戦線が神戸に押し上げられていた場合は、有効に機能していただろうが。

 

消防車が消防に必死になっている有様を見ると。

 

この被害が更に増えるのは、あまり好ましい事だとは思えなかった。

 

僚機に乗っていた中尉は、既に病院に搬送されている。

 

呉美少佐も、出来るだけ早く病院にと言われていたが。

 

もう少し現場で、状況を検分しなければならなかった。

 

「広瀬大将。 課題が残りました。 ネメシス種の誘導弾は、今回は機能しませんでした。 これについては、大いに課題だと思います」

 

「分かっています。 迫撃砲車両は鈍重で、特に今回のような大型弾頭を用いる場合は、迅速な展開が必要です。 これについては、第二師団で調整します。 訓練も行います」

 

「お願いします」

 

「それで、現場の検分はどうですか。 終わり次第、即座に引き上げてください」

 

分かっている。

 

しばし検分を続けて、気付いた事がある。

 

中型種が、何度か熱線による破滅的な被害を防いでいる。

 

放熱と同時に放たれるネメシス種の熱線砲は大火力ではあるが、しかし中型種に痛打を与える程ではない。

 

それもあって、体で防いでしまえばどうにでもなる。

 

中型種に対してネメシス種は抵抗しないというのもあるのだが。

 

それには、或いは結局中型種には勝てないというのもあるのではないのか。

 

もたらす被害については、ネメシス種は中型種と遜色ない危険さではある。これについては、何度か交戦した呉美少佐が保証する。

 

ただし、戦闘の相性はどうか。

 

確かに痛打になる攻撃がない。

 

シャドウにとって熱攻撃は弱点だが、それも長時間与え続けなければならない。それも高圧プラズマレベルの熱量を、だ。

 

ネメシス種の熱線砲では、その条件を満たせない。

 

ただ、気になることは他にもある。

 

ネメシス種は、どんどん凶悪になっていないか。

 

これの理由がわからない。

 

ずっと人間が知らないだけで出現していたというには、不可解だ。最初に現れたクリーナー・ネメシスとでは。

 

今回のグレイローカスト・ネメシスでは、悪辣さが段違いにも程があったし。

 

何よりも同時出現したクリーナー・ネメシスも。

 

アトミックピルバグの動きを封じるという、とんでもない行動に出ていた。殺す事は出来ないだろうとしてもだ。

 

嫌な予感がする。

 

いずれにしても、飛騨少尉は想像以上の逸材だ。今後大事にしなければならないだろう。

 

救急車とレッカーが来た。

 

無傷ではないのだ。そのまま、自分から降りて、救急車に向かう。超世王セイバージャッジメントのデチューンモデルは通常の戦車よりだいぶ重いが、ちゃんと専用のレッカーなら牽引できる。

 

後は、病院で手当てを受けた後、レポートを出さないといけないな。

 

そう、呉美少佐は思っていた。

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