スーパーロボット活劇、超世王セイバージャッジメント 作:dwwyakata@2024
ついにネメシス相手にシャドウとの連携戦開始です。
少し前までだったら考えられない事態ですが。
弾薬を使い切ったこともあります。
何より斃しづらさに全振りしているネメシスが、シャドウにとっても邪魔であることもあります。
故に実現した、奇跡的な連携なのです。
小型種、ネメシス化の傾向。
場所は姫路西方。
それを聞いて、すぐにあたいは起きだす。かなり朝早いが、こればっかりは仕方が無い。今日のスケジュールは全て中止だ。
ネメシス化の傾向を示して、ネメシスにならなかった小型は今の時点ででていない。
むしろ早期発見が出来て良かったと言うべきだろう。
話によると、広瀬大将が現時点では戦闘が出来ない部隊をあらかたスカウトに回しているらしく。
それによっての早期警戒を徹底しているらしい。
それでの早期発見が出来たのであれば。
柔軟に戦力運用をして、広瀬ドクトリンが使えなくなった今でも。確実にシャドウを斃せる状態を作っている。
そんな広瀬大将に、感謝するしかないだろう。
おきだしてから、歯を磨いて、頭もさっと洗う。
軍服に着替えて、朝食を取る。
これらはしっかりやるように指導を受けている。いざという時、特に戦闘中に動けなくなったら話にもならない。
また、細かい不快感なんかは戦闘時のパフォーマンス低下にもつながる。
逆に、起きてから風呂には入るなとも言われている。
これは心臓に大きな負担を掛けるから、らしい。
特に今みたいに戦闘の可能性が極めて大きい場合は、こうして出来る事を先にやっておくように。
出来るだけ迅速に。
そう呉美中佐に指導されていた。
食事を終えて、それからトイレもすませる。
これも大事だ。
下手をするとコックピットで垂れ流しにしなければならなくなる。
昔はスナイパーをやっている人は、おむつまではいて任務に望んでいたらしいと聞いているが。
実際問題、ネメシス種との戦闘で、戦闘のパフォーマンスが落ちるような行動は絶対厳禁である。
ロボットの支援も受けながら、一通り準備を済ませ。
それで京都工場に向かう。
既にジープが来ていた。
運転手がいない自動運転式のものだ。今は珍しく無い。ブライトイーグルが邪魔してくる可能性もあるのだが。
ネメシス種が出た場合は休戦。
そうシャドウ側がいっているようだし、実際中型種が危ない場面で何度か手助けしてくれたのも見ている。
だから、それを疑うつもりもない。
移動中に携帯端末で、状況を見ておく。既に第二師団は動き始めていて、例の誘導弾を準備開始。
ものがものなので、蓄積はしておけないのだ。
ただし、ネメシス化の兆候を察知すれば、ネメシス種が暴れ出す頃には、弾の準備が終わる。
車両で運搬するタイプの迫撃砲が使えないと分かった今。
直接曲射するタイプの臼砲が脚光を浴びる。
それもまた皮肉な話だが。
ともかく機能してくれればそれでいい。
京都工場に到着。
既に超世王セイバージャッジメントの整備は終わっていた。
昔だったら空挺輸送して現地に投下、とか出来たのだろうか。
ブライトイーグルも、ミサイルや飛行機は許してくれない。恐らくシャドウとしても、それは譲れないラインなのだろう。
ともかく、ブリーフィングを受ける。
広瀬大将が、忙しく指揮をしている合間だろうに、会議に出てくれた。
いや、こっちが最優先と判断したという事か。
「超世王セイバージャッジメント、それにデチューンモデル二機の編成で出ます。 戦術は柔軟にやってください。 ただし、盾役は超世王セイバージャッジメントでまた務めるように。 後衛の二機に攻撃がいかないように、立ち回りを工夫してください」
「イエッサ!」
「誘導弾を今回の戦闘から実戦投入します。 着弾地点については、想定範囲をできる限り割り出して知らせます。 今回は位置的にはかなりの精度で予定地点に当てられると思います。 効果範囲をモニタに表示させますので、それに従って直撃は避けてください。 シャドウには通じなくても、超世王セイバージャッジメントには文字通りの致命傷になります」
これは、ブリーフィングというよりも確認だ。
何度も訓練でやっているが、それでも必要な事である。
最終確認を終えて、それで出る。出る前に、もう一度トイレが大丈夫かどうか確認される。
呉美少佐の発言は笑い話ではなく。
実際にそれだけ、戦闘時のパフォーマンスの向上を考えなければならない、という状況だからだ。
一応念の為にもう一度トイレにいっておき、出せるものは全部出しておく。
それから、出立。
距離を取ったスカウトが、連絡を入れてきている。
「小型種、巨大化! ネメシスです! これは……!」
「具体的に説明してください」
「今までにない巨体です! 恐らくシルバースネークですが、それにしても、全長二百mは超えています!」
「まずいですね……」
シルバースネークの最大の武器は毒吐きだ。
毒かすらも分かっていないそれは、人間も人間が作り出したものも等しく溶かし尽くしてしまい。
それ以外のものには一切害を与えないというよく分からない代物である。
ともかく採取できないので、成分の分析は出来ていない。
問題は、二百mにまで巨大化したシルバースネークがそれを放って来た場合。
二mのシルバースネークですら、下手をすると㎞単位での狙撃をしてきた例もある(普通は数百mだが、そういう例があるだけ)のだ。
一体何処まで毒が来るのか、分からない。
即座に呉美中佐が指示。
「編隊を崩して、相互に距離を取ってください」
「イエッサ!」
スカウトもそれぞれ距離を取りながら、観測に移ったようだ。
そして、中型が現れる。
アトミックピルバグが出て来たら話は早いのだが。確かあの辺りにはいたかどうか。ちょっと記憶がない。
グリーンモアが数体現れ。
早速キャノンレオンが猛攻を開始したようだ。
シルバースネーク・ネメシスが、逃げようとし始める。
だが、中型種もその動きを阻害に掛かる。ランスタートルが、シルバースネーク・ネメシスの頭(本当に頭としての機能があるかは分からないが、少なくとも毒は其処から吐き出される)に直撃、ついでにランスも爆破。
神話に出てくる龍神もかくやという巨体が、凄まじいうなりを上げて地面に叩き付けられていた。
其処に多数のウォールボアが群がる。
だが、いきなり、それらが沈んだ。
シルバースネーク・ネメシスが、地面に潜り込んだのだ。そして噴火するように、別地点から現れる。
いや、凄まじい熱量を既に帯びている。
だから本当に噴火のようだった。
それでも中型種は、全く怖れず猛攻を続ける。ただシルバースネーク・ネメシスの巨体である。
しかも蛇の柔軟な体の構造を思うと。
押さえ込めるのだろうか。あたいは現地に急ぎながら、とても不安になる。
「シルバースネーク・ネメシスの体温度上昇! 熱が蓄積されていきます!」
「まずいですね。 毒吐き以外に熱線も警戒しないと」
事実似たような地点で出現したネメシス種は、四国の都市建設予定地点に甚大な被害を与えている。
また似たような場所で小型種がネメシス化した。
やはり色々と何かしら、まだ此方が知らない事があるとしか思えない。
あたいは速度を上げる。
ただ、呉美中佐から無線が入る。
「飛騨中尉、速度を落としてください。 現時点では、まだ恐らくは此方を敵として認識していません。 燃料をうかつに失うと、それだけで戦闘時に小回りがきかなくなります」
「分かりました。 すみません」
「大丈夫。 戦況の推移を冷静に見守り、それで逐次対応しましょう」
戦争は基本的にいきあたりばったりだという。
ただそれは戦場に限定した話。
戦争で勝つための準備を戦略。戦場で勝つための様々な行動を戦術という。それについてはあたいも習った。
今はまだ、戦略の段階だ。
確かに行き当たりばったりではなく、勝つために確実な準備を進めなければならないだろう。
シルバースネーク・ネメシスが、毒を吐こうとした。
狙いは神戸の方角。
だが、その時、タックルして方角を逸らしたのがストライプタイガーだ。超音速の体当たりは、例えネメシス種にダメージにならなくても、体を反らすくらいには役立つ。それで毒液が大きく逸れて、若狭の方に飛ぶ。
それを計測していた観測班が、恐るべき報告をしていた。
「シルバースネーク・ネメシスの毒液、百二十㎞先まで着弾! 着弾地点に人工物はなく、ダメージはありませんが……」
「しかも逸らされてそれです。 恐らく、その気になれば神戸を直撃すると見て良いでしょうね」
今のは、ストライプタイガーに神戸が救われたのか。
ものすごく複雑な気分だ。
だが、ともかく今は現地に急行する。飽和攻撃を浴びているシルバースネーク・ネメシスの体が。徐々に赤熱して行っている。
そろそろ熱線砲を放ってくるはずだ。
「シルバースネーク・ネメシスの周辺温度、急上昇! 放熱が始まっています!」
「シルバースネーク・ネメシスが!」
嬲られて暴れていたシルバースネーク・ネメシスが、いきなり上空へと飛んだ。
そして、そのまま地面にボディプレスを叩き込んだ。
シルバースネークについて調べているとき、蛇について調べた。蛇の中にはパラダイススネークと呼ばれる品種がいて、滑空を利用して長距離を飛ぶ。樹上生の蛇なのだが、それとは違って、今のは。
灼熱を帯びたボディプレスである。周囲の地盤が粉砕され、集っていた中型種が崩落に巻き込まれたようだ。
抵抗を直接しないにしても。
やはり中型種の攻撃を明確に阻害している。
抵抗しないというのも、これはそろそろ怪しくなってきているのではあるまいか。
シルバースネーク・ネメシスが鎌首をもたげる。
そして、その首が、神戸を向く。
まずい。
到着まで後三分ほど。
熱線が放たれる。
僅かにそれたのは、今度はランスが復活したランスタートルが直撃を入れたからだ。ランスが炸裂したこともあり、熱線は頭上に放たれた。
熱線の射線上にあった雲が消し飛ぶ。
シルバースネーク・ネメシスが、ランスタートルに巻き付くと、動きを封じ込む。ランスを再生させ、爆破しようとするランスタートルを、そのまま地面に叩き付ける。
その間もグリーンモアとキャノンレオンが高熱での攻撃を続けているが、それでも知りバースネーク・ネメシスは暴れ狂っていて、止まる気配などない。
だが。
「こちら呉美中佐! 現着! エンゲージ!」
「了解! 誘導弾発射!」
「第一射開始!」
撃ち放たれる誘導弾。
それは液体窒素をたっぷりため込んだ巨大な弾丸だ。飛んできたそれを、中型種は無視。恐らくは、カナダで使用された事を知っている。
人間のネットなんかよりも精確に情報を共有できているのだろう。
中型種が、指定された着弾地点から離れる。
通用しないと言う事よりも。
ネメシス種を誘引するのにはそれが必要だからだ。
即座に最前衛に躍り出る。
此方を認識したらしいシルバースネーク・ネメシスが、長大な首を振るって、地面に叩き付けに掛かる。
超世王セイバージャッジメントを知っている。
それはもう前提として動く。
脅威として認識している。
だから盾役として活躍出来る。
ぎりぎりまでひきつけて、一気にスピン。そのまま、地面に首が叩き付けられる。シルバースネーク・ネメシスのパワーが凄まじいというよりも、蛇の体は、殆どが瞬発力を司る筋肉で出来ている。シャドウがそれと同じかは分からないが、時速百数十㎞で移動する化け物だ。
速度が落ちていないのなら、灼熱の暴を地面に叩き込むのと同じ。
地盤が砕けて、直撃は避けたものの、超世王セイバージャッジメントが一瞬浮き上がる。そのままシートにあたいは叩き付けられたが、必死の受け身でダメージを減らす。
温度が既に上がり始めていて、冷房が全力で稼働し始めた。
この冷房も性能を上げてくれているらしいのだが、それでも足りないと言う事で、今回から動力から冷房へ出力を回す工夫をしたらしい。
これは冷房を複路化する事でダメコンにも活用し。
更には冷房の出力を更に上げるため、でもあるらしい。
ともかく、いつもほどコックピットの温度が上がる速度は早くない。だが、そのままシルバースネーク・ネメシスが横薙ぎの態勢に入る。
まずい。
横に薙がれたら、文字通り勝ち目が無い。
だが、その瞬間。
誘導弾が、凄まじい音と共に着弾していた。
後方の呉美中佐が斬魔クナイを発射開始。今回は、斬魔クナイに装備を切り替えたのである。
また、もう一機の両機はジャスティスビーム改を、上手くシルバースネーク・ネメシスに巻き付けた。
立て続けの超高熱を受けて、シルバースネーク・ネメシスが動きを止め。誘導弾が着弾した地点で拡がる冷気の凄まじさに明らかに気を引かれる。
そう。
全身を溶かす勢いで叩き込まれている高熱だ。
放熱までして消滅から抗っているのだ。
冷気を見たら、そっちに気を引かれるに決まっている。
荒々しく動き始めるシルバースネーク・ネメシス。グリーンモアが数体引きずられる。ストライプタイガーが、激しく動く蛇体に吹っ飛ばされる。
あたいはそのまま巨大な蛇に併走しながら、斬魔剣Ⅱを突き立てる。さらに、シャイニングパイルバンカーもおまけだ。
パイルバンカーとはいうが、殆ど注射器なのはあたいもちょっとどうかと思うのだけれども。
ともかくこれで高圧プラズマを、連続して叩き込む。
シルバースネークネメシスが、ぐわんと強烈に蛇行した。それで巻き付かれていたランスタートルが吹っ飛ばされて、至近に着弾しそうになったが。ランスタートルが空中で姿勢制御し、激突を避ける。器用な事をするなと感心している暇はない。蛇行する巨体に接したら、そのまま吹っ飛ばされる。必死に回避しつつ、斬魔剣Ⅱとシャイニングパイルバンカーを連続して叩き込む。
呉美中佐のデチューンモデルは、次々に斬魔クナイを叩き込んでくれている。これも使い捨てだが、破壊力は折り紙付きだ。あのアトミックピルバグを斃すのに活躍した武器である。
シルバースネーク・ネメシスが、誘導弾が着弾した地点に飛び込み、冷気を一瞬で相殺してしまう。
多少熱は奪われたかも知れないが、別にどうでもいい。
こいつが神戸に放熱代わりに熱線や、或いは毒吐きをして来たら、その時点で三百万以上の人命が消し飛ぶ。
第二弾の誘導弾が、近くに直撃する。シャドウの領域内だが、気にしなくて良いはずだ。そのまま、第二弾の直撃地点に、シルバースネーク・ネメシスが移動する。這いずった後を、溶岩のように溶かしながら。動きは鋭く蛇行も癖があり、必死に追いすがって攻撃するだけで精一杯だ。後方の二機は、距離を保ちながらの攻撃続行で精一杯。あたいがいざという時に盾役にならないと。
いきなりシルバースネーク・ネメシスが跳び上がり、地面に体を叩き付ける。不意の行動だった。
群がってきている中型、それにあたい達を邪魔だと判断したのだろうか。
いずれにしても、不意の一撃。
超世王セイバージャッジメントが、砕かれた地盤の余波を受けて、横転しかける。だが、バランサーを全開。更には斬魔剣Ⅱを振るって地面に突き刺し、パワーを相殺して持ち堪える。
ダンと、もの凄い音とともに地面に叩き付けられる。複雑な操作をしながらだったから、受け身を完璧には取れなかった。
背中の辺りを激しく打ち付けて、ぐっと声が漏れる。
だが、まだまだ。
シルバースネーク・ネメシスの前に数体のウォールボアが立ちはだかり、突進を食い止めるが。
それも巨体の前には時間稼ぎにしかならず、押し返されてしまう。
だがその間に、エラーチェックをすませたあたいが、奴の至近に。再び斬魔剣Ⅱを叩き込む。
蛇体を激しくくねらせるシルバースネーク・ネメシス。
まずい。
ロボットアームに尋常ならざる負荷が掛かった。斬魔剣Ⅱをどうにか引っ込めるが、一緒に繰り出そうとしていたシャイニングパイルバンカーが吹っ飛ばされ、破損。エラー。これはもう、この戦いでは使えない。
立て続けに叩き込まれる斬魔クナイ。更に、引っ張られるようにして、ジャスティスビーム改に熱量を叩き込み続けているもう一機。
呉美中佐は最善の動きをしてくれているが、デチューンモデルに搭載している斬魔クナイは超世王セイバージャッジメントのものにくらべてあらゆる性能が落ちると聞いている。
使いこなせる代物では無いのだ、本来。
それでも、可能な限りやってくれている。
あたいはそのアシストを無駄にはしない。
斬魔剣Ⅱを構え直す。
今、使えるのはこれだけだ。
冷房も限界が近い。何しろ凄まじい巨体から、熱を放ち続けている相手だ。
連絡が入る。
ノイズ混じりなのは、恐らく超世王セイバージャッジメントのセンサやアンテナにもダメージが入っているからだ。
「此方広瀬大将。 これより誘導弾第三射を放ちます。 しかし、恐らく次で決めないと、超世王セイバージャッジメントがもちません」
「はい。 どうにかします!」
「任せます。 必ず仕留めてください」
誘導弾が作り出した強烈な冷気に飛び込むシルバースネーク・ネメシス。有効に気を引けている。
だが、此奴を野放しにしたら。
それこそあっと言う間に熱線攻撃に切り替えてくる。毒吐きも使ってくるかも知れない。
神戸どころか、近辺にある全てが消し去られるだろう。
そのようなこと、許してたまるか。
シルバースネーク・ネメシスが、蛇体をくねらせて暴れる。
尻尾が振り下ろされ、地盤を砕いた。それだけで、機体が吹っ飛びそうな衝撃が此方まで来る。
必死に受け身を取って、それを回避するが。
ジャスティスビーム改を使っていた機体が、もろに横転していた。
「こちら横田中尉! 機体横転!」
「今まで良くやった横田中尉! そのまま救助を待て!」
「い、イエッサ!」
呉美中佐は無事だが、そろそろ斬魔クナイが尽きる。
あたいは舌なめずりすると、第三弾の誘導弾が着弾するのを確認。そのまま、そっちに必死に這いずるシルバースネーク・ネメシスの前に回り込む。
かっと口を開けるシルバースネーク・ネメシス。その前を横切る。熱線砲。口に溜まっていくのが見える。
或いはこの超高熱下では、毒吐きは出来ないのかも知れない。だが、この瞬間を待っていた。
武器は使えなくても、そうでないものは使える。
叩き込んだのは、レッドフロッグ戦で用いられた陰陽バリア。強烈な粘性を持つ白玉を放ち、高速で放たれるものを相殺する。
それをしこたまシルバースネーク・ネメシスの口の中に叩き込んでやる。
一瞬で蒸発するかに見えたそれが、それでも一瞬だけシルバースネーク・ネメシスの動きを止める。
それはそうだろう。
もしも熱線で自爆したら放熱にならないのだから。
口をばくんと閉じるシルバースネーク・ネメシス。
陰陽バリアを溶かしきってから、熱線を吐こうというのだろうが。その瞬間、あたいは大上段にロボットアームで振り上げた斬魔剣Ⅱを、奴の頭に叩き込んでいた。
一気に熱で脆くなっている体に、斬魔剣Ⅱが食い込んでいく。凄まじい悲鳴。今までに聞いたことが無いほどの。
あれ、本当にそうか。
シャドウが死ぬときの悲鳴には法則性がない。
それは分かっていたのだが。この悲鳴、どこかで聞いたことがあるような。
まずい。冷房がアラートを鳴らしている。
そろそろ耐えられる限界温度を超える。そうなったら、一気に蒸し焼きになって気絶、そのまま焼き肉だ。
そんなことになってたまるか。
ぎぎぎと、斬魔剣Ⅱが更に食い込んでいく。アラートが、脱出しろと告げてきているが、無駄だ。
脱出したって、外の方が暑いんだから。
呉美中佐が、斬魔クナイを最後の全てを叩き込んだようだ。
中型が、全力でシルバースネーク・ネメシスを抑え込んでいる。
本当に協力してくれている。
だったらバカな人間達が滅びの道を邁進する前に、導くとか、たしなめるとか。他に何かなかったのか。
それが出来ないくらいに、人間がバカで驕り高ぶっていたのか。
分からないが、とにかく。
今は、一気に最後の力で、斬魔剣Ⅱで切り裂き抜いた。
シルバースネーク・ネメシスが断末魔を挙げながら消滅。一気に周囲の気温が下がっていったようだ。
モニタはエラーだらけ。
あたいは一気に涼しくなっても、全身がひりひりする。低温火傷寸前の状態だったのだろう。
それに、くらくらする。
熱中症か、これは。
「レッカー! 超世王セイバージャッジメントは、呉美機で牽引します! 横田機を出来るだけ迅速にシャドウの領域から救出してください!」
「イエッサ!」
「飛騨中尉! 意識はありますか!?」
ダメだ、こたえられない。
あたいは意識をそのまま失っていた。全身が酷く痛いのに、何もかもが遠くのことのように思えた。
シャドウの領域で気絶した。
そこまでは覚えていた。
目を覚ますと病院だ。どうやら助かったらしい。体の彼方此方包帯が巻かれていて、それにリネンを着せられていた。
リネンの下は下着もない。
色々とされたんだろうなと思って、今更ながらに恥ずかしくなる。ただ生きていると言う事は、神戸を守れたのだ。
何日も眠っていたかというとそんなことはなく、時計を見ると戦いの翌日だった。まあ、実際はこんなものだろう。
ただ、体中彼方此方痛いので、無事では無い。病院は苦手だけれど、仕方が無い。
横田という人は無事だっただろうか。ふと、そんな事を思った。
看護師が来てくれたので、状況を聞く。
今回はかなり勝利としては評価されているそうである。武装を使いこなし、更には機転も利かせた。
何より、超世王セイバージャッジメントの損害以外には損害はなく。
あたいの負傷以外には人的被害も無し。
横田という人も軽傷で済んだらしく。
また、戦いの後、レッカーが横田という人のデチューンモデルを回収するまで、小型も中型も何もしなかったそうである。本当にシャドウは約束を守ったのだ。
人間と違う。
同じ状況で、人間が約束を守るだろうか。
そういう意味では、溜息しか出なかった。
それから医師が来て、幾つか話をされた。
打ち身も彼方此方にあるが、体中の肌のダメージが深刻らしい。低温火傷までは行っていないが、それの寸前まで行っていたようで。
これ以上の継戦をしていたら、かなり危なかったらしい。
熱中症の寸前まで行っていたとも聞く。
それらについての恐ろしさは、高熱環境下での戦闘の訓練時に聞いているから、医者の先生に怒られるのは仕方が無いと諦める。
勿論、それだけやらないと彼奴を斃せなかったのも事実だが。
医者としては、それを許すわけにも。
認めるわけにもいかなかったのだ。
何より今回冷房を格段に強化したことで、この程度で済んだのだと言える。あらゆる意味で、畑中博士と麟博士には感謝するしかないと言えた。
今回は数日で退院とはいかないそうである。
色々とお薬を塗られて、検査もされた。
歩いていい許可が出るまで数日。
その間、麟博士が見舞いに来てくれた。
同期とも言える間だ。
年は相手の方が上だが、色々とシンパシィは感じる相手と言えばそうである。それに、今回助かったのは冷房の性能改善が要因だ。
それもあって、礼しか言えなかった。
幾つか話をした後、麟博士は咳払いして、それで話してくれる。正確にはAIが翻訳してくれる。
今回の戦闘でもっとも評価されたのはあの誘導弾だという。
それは確かにそうだ。
あたいも死力を尽くしたけれど、神戸を射程距離内に納めていたあのシルバースネーク・ネメシスの攻撃を人間の勢力圏に擦らせもしなかったのは、あの誘導弾があってのことだった。
勿論シャドウ側が約束を守ってくれて。
それどころか、故意かどうかは分からないが、ランスタートルに至っては攻撃時のシルバースネークの動きを阻害して、被害を減らすことまでしてくれた。
それでも、誘導弾が機能していなければ、恐らくは。
神戸に直撃弾が入って、それこそ人間の生存圏の中核に深刻なダメージが入っていただろう。
それは疑いない事だった。
「今後は臼砲の装備を加速して、誘導弾を用いてネメシス種の攻撃を人間の勢力圏から逸らします。 また各地に配備されているデチューンモデルはジャスティスビーム装備のものに換装。 現時点では、あれがネメシス種相手にもっとも現実的に戦えると判断しました」
そう理論的な声が聞こえてくるが。
麟博士の口からはまったく違う内容の文章が聞こえてきている。
だから色々脳が混乱してしまう。
それでも、麟博士がばっちりやってくれるという信頼感はやはり強いので、それで納得出来る。
「冷房についても更に強化します。 今回の件で、それだけ怪我をさせてしまいましたが、今度はそれもなくせるように」
「いえ、この程度は」
「畑中中将も、毎回勝つ度に似たような事は言っていたようです」
「……」
そう言われると、はいとしかこたえられなかった。
嘆息すると、とにかく今は治療に専念する。
あたいは中尉になったとはいえ、まだ新米だし。それに作戦に関与できるほどの地位でもない。
何よりあくまで中尉待遇であって。
部隊を指揮するような権限だってない。
作戦もあたいが決める事は出来ない。これは畑中中将くらいになっても、まだ色々苦労させられたらしいし。
仕方が無い事なのかも知れない。
またお薬を塗るが、とにかく戦闘が終わってからが痛くて仕方が無い。アドレナリンが切れたからだろう。
痛いのは、体が警告をしてきている証拠。
元々無理をしていた体が、ダメージが何処に出ているか、叩き込んでくれている。
医者の先生はそういう事を言う。
当然麻酔なんか使わない。
出来るだけ今のうちに、無理をするとどうなるか、体に叩き込んでおくべきだ。そうキレ気味に言われるので、恐縮するしか無かった。
幸い病院食はそれほどまずくはなかった。
これは恐らくだが、あたいが内臓とか悪くして入院したからではないのだと思う。ちょっと塩味が足りない気がするが、味が濃い食べ物ばかり口にしていると、いずれ色々と無理をきたす。
これについては教育を受けているし。
そもそも家にある家事用ロボットにも説明は時々されるので、仕方が無い。
それに、昔は本当にまずかったらしい病院食だが。
今の病院では、そこまでまずいものは出てこないそうだ。
昔の病院でも、場所によって対応は全く違ったと言うことらしいから。
それについては、色々と察するしか無かった。
二週間ほどでだいぶ良くなって、歩くことも許可された。元々足のリハビリはやっていたのだけれども、ベッド上では限界があるし、肌を治療している間はちょっと動くだけで痛かったので、助かる。
ただ歩いて見て、体がもの凄く重いのでびっくりした。
二週間でこんなに衰えるのかと、戦慄する。
リハビリの本番はこれからだなと思ったし。
畑中中将は、勝った後一ヶ月二ヶ月と入院することがザラだったと聞く。だとすると、筋肉が衰えにくい体質だったのかも知れない。
歩いて良い許可が出てから、少しずつ歩く距離を増やして。
皮膚の方が問題ないと判断されてから、やっと退院。
それからは、体を鍛え直すリハビリをやりながら、シミュレーションマシンに入って訓練もした。
幸いこっちは衰えていない。
そうこうしている内にも、ヒマラヤで大爆発が観測された。
あの辺りには人間は既にいない。
だとすると、シャドウがネメシス種を斃したのだろう。
それにしても、やはりネメシス種はどんどん強くなっているようだ。今後は厳しくなるだろうな。
そう思って、戦慄するしか無かった。