スーパーロボット活劇、超世王セイバージャッジメント 作:dwwyakata@2024
入念にあらゆる準備を整えた末に決戦開始です。
ただし前回のキャノンレオン戦でもそうでしたが、人間はシャドウの事を知らなすぎる。
今回も波乱が待っています。
第二師団が動き出す。広瀬中将には信頼感があるので、菜々美はそれについては安心できる。
第二師団の最前衛が動き、陣形を展開する中。
第四師団がバックアップにつくようにして、その背後を固める。海兵隊も結局出る事になったようだ。
あまりいい印象はないが、第二師団の左翼。
これは海側になるが、かなり峻険な場所だ。其処の守りを任されるらしい。
最前衛にしろ。
斬魔剣を寄越せ。
そう喚いていたらしいが。それも本国から来た将官が、怒鳴りつけて黙らせたらしい。これ以上作戦の足を引っ張るようなら更迭する。
そう面罵された海兵隊のファーマー大佐は、流石にそれでは黙るしかなかったようで。不平タラタラの雰囲気ではあるが、海兵隊もそれで動いてはいた。
練度は高い。
確かに指定された地点を守りに固めている。だが、やる気は無さそうだ。分かるのだろう。最悪の状態になるまで、其処にシャドウが来る事はないと。
ジープやハンヴィーによる機動部隊が狙撃兵大隊を乗せて展開。
中衛に戦車部隊が配置され、部隊の間隔も広めだ。これは、相手の数があまりにも多い場合、逃げられずに混乱して挽き潰されるのを防ぐため。
高空戦力が既に意味を為さなくなり。
人間同士の戦闘でのノウハウが通用しなくなった今。
こうやって原始的な陣形を組んで、原始的にやりあうしかない。
シャドウが現れる前の兵士達は、これを見て良い的だとか嗤うかも知れない。そういう兵士達は、全部シャドウに殺されてしまったが。
なんとか王は、更にごつくなって、それでも確実に複雑な地形の中を進む。
無限軌道を装備した、40式を主体とした車体は前と同じ。
今回はとにかくごっつい装備を、後方から引いている。
牽引車は非常に巨大で、40式二両分はある。それくらい、ランスタートルの猛攻を防ぎきるためには、大がかりなギミックが必要、ということだ。
黙々と菜々美は、なんとか王を前進させ、所定位置につく。
紀伊半島に群れているブラックウルフと、シルバースネークが、既に此方を見ている。
「ランスタートル、まだ前線に姿を見せません!」
「分かりました。 攻撃を開始します。 各狙撃大隊、攻撃開始。 戦車隊、自走砲隊は、それぞれ相手の足止めに集中を」
「イエッサ!」
「ファイアっ!」
攻撃が開始される。
狙撃兵大隊の装備している螺旋穿孔砲が撃ち放たれる。菜々美も一旦車体から顔を出すと、それに加わる。
螺旋穿孔砲の扱いは手慣れている。
初撃で、30を超えるブラックウルフとシルバースネークが倒れる。同時に、相手も反撃に出てきた。
即座に狙撃大隊が後退を開始。後退しつつ、猛射を浴びせる。
螺旋穿孔砲は射撃の間隔が長いのが問題だが、当てればブラックウルフなら確殺出来る。
問題は、シルバースネークだ。
名前の通り銀色をしたそれは、普段はとぐろを巻いて静かにしているが。人間を殺すときは、不意に体を伸ばし、蛇行しながら迫ってくる。蛇に似た姿形をしていて、大きさは四m以上と、ブラックウルフよりだいぶ長いが。体が細いので。ブラックウルフと大して大きさに違いは無い。
問題はその速度がこれもまた時速120㎞に達する事。
何より蛇行して迫ってくることで、当てづらいことである。
だから菜々美は、シルバースネークを優先して狙う。シルバースネークが次々に狙撃で倒れるが。
接敵までの速度差がある。最前列はどうしてもブラックウルフになり、それはつるべ打ちで次々に倒される。
今の段階ではいい流れだ。
だが、それも長くは続かなかった。
少しずつ後退しながら射撃を続ける菜々美のイヤホンに、急報が入る。
「第四師団より入電! ランスタートル出現!」
「なっ!」
「他にもブラックウルフ、シルバースネークも多数! ランスタートルは悠々と進んできています!」
「くそっ! どうやって後ろに回り込んだ!」
一瞬の混乱で、ブラックウルフが一気に間合いを詰めてくる。しかし、広瀬中将の指揮は冷静だった。
戦車隊が攻撃を開始。
ブラックウルフをまとめて砲撃で吹き飛ばす。勿論それでは殺せないが、動きを止めるには充分だ。
其処を、混乱から立ち直った狙撃大隊が射撃する。
問題は、第四師団だ。
「畑中中佐」
「はい」
「すぐに指定地点に移動してください。 第四師団は支援戦力が中心で、戦力次第では持ち堪えられません。 此方も後退しながら、支援に移るべく機動します」
「イエッサ!」
すぐになんとか王の車内に飛び込むと、操縦桿を操作して最大速度で前進を開始。そのままカーブを掛けて、狙撃兵大隊の合間を縫いながら、敵に向かう。
既に第四師団の一部は接敵を許し、阿鼻叫喚の有様のようである。分かっていた。そもそも紀伊半島の峻険な地形での戦闘だ。しかも相手は、もはやこの世界の全てを手に入れている。
地の利は、彼方にあるのだ。
ランスタートルは、小型を従えるだけの中型ではない。
こういった戦術を使いこなせる存在なのかも知れない。
急ぐ。
もしも敵が第二師団前面に陽動の部隊を配置していたのだとすれば。第四師団の方が敵の本命の筈だ。それは作戦としても理にかなっている。弱点から崩すのは戦争の鉄則だからだ。
だったら、ランスタートルを叩き。
更には迂回して来た第二師団が横腹を突けば。敵を瓦解させる事ができる。幾つかの連隊が、ブラックウルフに蹂躙されているようだ。その一方で、ハンヴィーに乗った兵士達が、悪路をなんのその、なんとか王を追い越していく。
「英雄の道を作る! 俺たち第十五狙撃大隊の力を見せてやれ!」
「第二師団の正面は大丈夫か?」
「広瀬師団長を信じろ!」
兵士達の信頼は絶大。
兵士達に勝利を確信させる将を名将というが、広瀬中将はそれだろう。他にも幾つかの狙撃大隊が動いて、救援に向かう。
海兵隊が動くようだ。
第二師団の正面のカバーに向かうらしい。
「オラ、いいように遊ばれてる雑魚共を助けに行くぞ!」
「ひょろっちいモヤシ共に俺たちの力を見せつけてやれ!」
「ヒャッハア! GOGOGO!」
血の気が多い事だ。
ブラックウルフとシルバースネークは既に速度差から分断されているはず。M44ガーディアンにこだわるあれらで大丈夫だろうか。少し不安は残るが、今はそれよりも、ランスタートルだ。
丘を越えて、見た。
彼方此方で煙が上がっている。
これは、幾つかの連隊はダメだ。完全に小型シャドウに食い荒らされている。だが、先に陣取った狙撃兵大隊が、猛射を浴びせ。撤退を支援している。第四師団の師団長も冷静に撤退を指示。横殴りの攻撃を浴びせ始めた狙撃兵大隊の支援を受けながら、被害を受けた部隊をさがらせている。
だが、それでも被害は大きい。
前のキャノンレオンの時と違って、小型シャドウの数が多いのだ。単純に。それも不意打ちを受けた。
小型シャドウ達は紀伊半島の峻険な地形をものともせず、第四師団の背後の回った。更に、悠々と歩いて来ているランスタートル。
あれは本当に一体だけか。
そもそもこの攻撃圧力、退路を狭めるものなのではないのか。
もしもこのまま、更に敵の戦力が倍増した場合、下手をすると第二師団、第四師団ともに海に追い落とされる事になりかねない。
この紀伊半島の峻険な地形は、あの織田信長でさえ攻めあぐねた堅固な要塞。
空軍が使い物にならなくなった今の時代では、簡単に落とせる代物などではないのである。
ともかくだ。
また車体から顔を出すと、小型を狙撃する。
暴れまくっているブラックウルフを、立て続けに三体撃ち抜く。味方の狙撃大隊も奮戦しているが、それでも射撃の数が足りていない。シルバースネークにまだかまっている余裕はない。
シルバースネークはいわゆる唾吐きコブラのように、強烈な毒を長距離まで飛ばしてくる。
この毒は酸の一種らしく、人間も戦車もクリームみたいに溶かしてしまう恐ろしい代物で、当然接近戦もこなす厄介な相手だ。
ともかく、それでも。
まず前線を食い荒らしているブラックウルフを削りつつ、ランスタートルの挙動を見なければまずい。
狙撃。
四体目。40式に食いついて、ひっくり返そうとしていた奴を撃ち抜く。そのまま弾丸を装填していると、通信が来る。
「畑中中佐! ランスタートルが、其方を見ています!」
「!」
来たか。
そのまま、なんとか王の中に引っ込む。
今、丁度山の斜面の半ばほどだ。此処だったら、ランスタートルの突貫を受けても、空中に放り出される事はないだろう。
出来れば平坦な場所でやりたかったが、それも今は厳しい。
すぐにギミックを展開する。
四重の盾を、ロボットアームが牽引車から展開。更に、その盾の後ろにある、四足のギミックが、地面に突き刺さる。
ガツンと、凄まじい音がしたのは、バンカーを地面に打ち込んだからだ。
山の腐葉土だから強度は落ちる。
だが、むしろその方が良いかも知れない。
さあ来い。
そう思った瞬間。
予想よりも遙かに凄まじい速度で、ランスタートルが飛んでいた。
文字通りの意味だ。
ランスタートルはランスを背負った亀のような姿をしているが、その足全てが高圧のジェットを噴きだし、高速飛行する。
その速度は最大マッハ12。だが初速は時速数百キロと言われていたのだが。
これは、違う。
明らかにいきなり音速を超えている。
それが直撃した。
一枚目のシールドが砕けるのが分かる。それと同時に、車体が吹っ飛ぶようにしてずり下がる。
姉は言った。
ランスタートルの突進をまともに受けるのは自殺行為だ。
そもそもランスタートルの突進は、バンカーバスターを耐える事を前提に作られた装甲を容易く貫通するほどのもので、内部の人間まで殺し尽くす。
それは要するに、直撃の際に何かしらの熱エネルギーなども生じている可能性が高いのだと。
勿論突進の速度も問題なのだろう。
上空まで浮き上がってから突進する事も多いらしいのだが。
今回は地上から、ノーモーションで突っ込んできた。
まずは、突撃させる。
そして、次は。
バンカーに打ち込んだ四つ足が、山の斜面を抉りながらさがる。土砂が噴き上がり、音速を超えて突っ込んできたランスタートルが作ったソニックブームが収まっていく。その過程で味方がかなりやられたが、歯を食いしばって耐える。
凄まじいGが全身にかかる。
それだけじゃない。
想像以上の衝撃が、ぶつかった瞬間に来た。ショックアブソーバーを全力で展開する仕組みになっているのに。
さがる。更にさがる。
ランスタートルが、シールドをこじ開けつつ、ランスを爆散させるのが分かった。
今までの比ではない破壊力。
車体が浮き上がりそうになるが、四つ足のバンカーがある。車体にとんでもない熱量と、シールドの残骸が叩き付けられる。二枚目、三枚目は瞬間的に砕けた。だがこれは、そもそも砕ける事が前提のシールドなのだ。
更にさがる。
山頂近くまで。
そこで、土砂をぶちまけながら必死に抗っていた四つ足のバンカーが次々砕ける。車体が浮き上がりそうになる。
だが、それでも。
山頂で、ついに。
40式をベースにしていたなんとか王は、踏みとどまっていた。
肺の中の空気を吐き出す。
荒く息をつく。
計器メーターの幾つかがオーバーフローで吹っ飛んでいる。だが、それでも分かる。幾つかのカメラは生きている。
それだけで、充分だ。
ランスタートルを。そのまま展開したロボットアームで、左右から挟む。シールドを悉く砕きまくったランスタートルだが、四枚目のシールドに体ごと突っ込んで、動けずにいる。
それをトングで掴むようにして、両側から抑え込む。
ランスタートルが、悲鳴を上げる。もがく。
オペレーターが、緊急を告げてくる。
「ランスタートル、二本目のランスを急速に精製!」
「そ、そんな、早すぎる!」
「シャドウは理屈の外にいる存在、そんなのは驚くには値しない!」
悲鳴を上げかけた誰かに、菜々美は叫ぶ。ちょっと口の中がしょっぱい。多分これは、口の中を切ったな。
さっきの衝撃二連発で、全身をシートに叩き付けられて、意識がかなり怪しい。
それだけの凄まじさだったのだ。
だが、それでも倒す。
なんとか王。
いや、超世王。
恐らく、車体の装甲もまた滅茶苦茶だろう。だがそれでも、菜々美の操作に応じてくれている。
ランスタートルは両足のジェットでさがろうとするが、逃がすか。そのまま、シールドを割る。
ランスタートルの顔が至近でカメラに写り込んだ。
それは至近で見ると、亀と言うよりは、なんというか、ワニに近いように見えた。ただ、その口で何かを食べるとも思えない。虚空そのものの口。それだけじゃない。目や鼻も、機能しているかは分からない。
良く魚の目を死んだ目とかいうが。
それとは違う。
出来の悪い作り物みたいな目。
まるで生き物のものとは思えなかった。
ロボットアームに続けて、それを展開する。
激しいバックでも耐えられるように、幾つもの伸縮型のレールを組み合わせて作りあげた、小型のマスドライバ。
それに乗っているのは。
姉いわく、なんだったか。とにかく、なんとかナックルだ。
それはナックルというにはあまりにも強烈な殺意を込めた円錐形の代物で、ミサイルと言う方が良いように思うが。
ただ円錐の戦端は緩やかで、高圧のプラズマが常に発せられるようになっている。
必死に逃れようと、上空に上がろうとするランスタートル。それをみしみしと負荷を受けながら、必死に耐えるロボットアーム。
操作をしているのは菜々美だ。
冷や汗が飛ぶ中、エネルギーの充填を済ませていく。
ガンと、激しい揺動。
いきなりランスタートルが、ジェットを切ったのだ。それで浮き上がりかけていた車体を、地面に叩き付けてきた。
下が柔らかい腐葉土とはいえ、それでも相当な衝撃だ。ぐっと呻くが、それでもまだ動いているコンソールに飛びついて、作業を進める。
ランスが赤熱し始める。
二射目がもう来るということだ。
アレを喰らったら何があっても助かる事はない。
だが。
菜々美はその時、がっとレバーを掴んで、一気に押し込んでいた。
そのまま、ナックルがレールを滑って、撃ち出される。一瞬早く、ランスが炸裂する寸前に、ランスタートルの顔面を打ち砕く。それは一瞬で音速に達すると、壊れかけていたロボットアームを粉砕しつつ、ランスタートルとランスごと、上空へ飛ぶ。そしてランスタートルの体に食い込みながら、回転して全身を破壊していく。
上空でとんでもない音が響く。
それは、ランスタートルの断末魔にも聞こえた。
上空二千mまで一瞬で打ち上がったそれが、炸裂する。
ナックルと称する代物と、ついでにランスが誘爆したのだ。これは、どうみてもランスタートルは死んだ。
凄まじい光と熱が、地上を照らす。
続けて爆風が叩き付けられ、思わず呻いていた。
計器類が、いずれもブラックアウトする。とんでもない衝撃波だった。
意識が一瞬飛んだか。
必死に目を開けながら、菜々美は火花が散る車内を見回し、ダメージを確認。最後まで生きていた緊急コンソールが、脱出推奨と告げている。
「此方畑中中佐。 戦況は」
「乱戦が続いています! 今、何部隊か支援を送っています! 耐えてください!」
「……了解」
なるほど、これはまずいな。
支援を送っていると言う事は、何処かしら前線が突破され、小型シャドウがこっちに向かっていると言う事だ。
螺旋穿孔砲を掴む。
そして、前回ほど破損が酷くないハッチのハンドルを回して開けて、外に。
凄まじい焦げ臭さだ。
車体前部が焼け焦げている。ロボットアームなどのギミックは全損。盾も完全に砕かれてしまっていた。
牽引車はどうにか形を残しているが、これはなんとか王はまた作り直しだろう。地面に深く穿たれた溝が、どれほどの距離をさがりながらランスタートルの凄まじい突撃を受け流したのか。物語っていた。
呼吸を整える。ぐらぐら揺れる頭。それでも集中。
やはりこっちに迫ってきている。ブラックウルフ4、シルバースネーク5。
ランスタートルが倒されても、小型シャドウは戦意を失うことはないらしい。そういえば、キャノンレオンの時もそうだったか。
いずれにしてもこれは倒し切れる数でも、逃げてもどうにもならない。
だったら。
まずは速射。
一番近いブラックウルフを撃ち抜く。
弾丸装填。
時速100㎞を余裕で超えるブラックウルフの速度は、山道でもまったく衰える事はない。
二射目。
また一番近いブラックウルフを撃ち抜く。
弾丸を続けて装填。
冷静に動いているが、かなり距離が縮まってきている。次に狙うのは。
狙撃。
三体目に倒したのは、一番近いシルバースネークだ。長い蛇体が撃ち抜かれ、消えていく。
これは、奴の射程距離に入りそうだったから。
奴の吐く毒の凄まじさは、何度も見ている。ブラックウルフがこの車体に到達するより先に。
奴の毒で、この車体ごと溶かされる。
そう判断したから撃ち抜いた。
弾丸装填。
だが、一番近いブラックウルフは、どうみても弾丸装填より早くこの車体に辿りつく。そして、仮に車内に逃げ込んでも。
この装甲の有様では、瞬く間に噛み裂かれ。引っ張り出されて、八つ裂きにされることだろう。
ふっと笑う。
みるみる迫ってくるブラックウルフ。
此奴は殺すためだけに口を使う。何かを食うためじゃない。だから、人間を捕食するのではなく。ただ殺すためだけにかみ砕く。
それでも装填を続ける。
跳躍したブラックウルフが飛びかかってくる。
別に身を庇っても意味がない。こいつは身長二メートルの屈強な大男を秒で細切れにしてしまうような奴だ。
菜々美なんか接近戦になったら勿論秒ももたないし、身を守ろうとしても無駄だ。
だから、飛びかかってきたブラックウルフが側頭部を撃ち抜かれた時は、そうか、とだけ思い。
毒を吐こうとしている態勢に入ったシルバースネークを撃ち抜いていた。
「此方第四師団第二猟兵中隊! 支援する!」
「支援感謝する。 ブラックウルフを狙ってくれ」
「了解!」
そのまま、再装填を開始。
菜々美はシルバースネークをそのまま立て続けに撃ち抜く。横殴りの射撃がブラックウルフを全滅させていたときには、側に救援のハンヴィーが来ていた。
乗っているのは、確か以前広瀬中将が陰険呼ばわりしていた市川参謀長だ。
「また派手に壊しましたな」
「相手が相手だから仕方がないですよ」
「此方に移ってください。 今、第二師団側にかなり大規模な小型シャドウの群れが現れました。 超世王は此方で牽引して安全圏まで下げます。 貴方はその狙撃の腕で、少しでも支援をしていただきたく」
「了解」
まあ、まだ来るだろうな。
第四師団の側はほぼ持ち直した。だがこっちが敵の主力だった可能性は高い。
第二師団側に新しく現れたのは、恐らくだが。
ランスタートルを失った事で、統制が取れなくなり。見境なく人間を排除するべく現れた敵だろう。
すぐにハンヴィーが移動。
その間に手当てを受ける。
衛生兵なんて兵種は存在していない。ハンヴィーに乗っているのは、支援して軍医療をしている専門家だ。
第二師団はさがりながら、敵を十字砲火の焦点に引きずり込み、効果的に殲滅している。
ただ殲滅力が足りない。
更に地形が狭い。
それもあって、徐々に押し込まれてきている。
ブラックウルフを殲滅は出来そうだが、問題はシルバースネークだ。あれがもっと前に出てきたら、大きな被害が出る。
ハンヴィーが止まる。
既に弾丸の装填を終えていた菜々美は、身を乗り出すと、狙撃。シルバースネークを狙う。
体が細長いこともあって、狙撃を外しやすいのだ。
複雑な戦術機動を広瀬中将は上手く成功させているが。それでもこれは被害をゼロとはいかないだろう。
第四師団の救援を終えた狙撃部隊が、次々に山間に布陣。
敵を見下ろしながら狙撃を加えるが、一部の部隊がやはりどうしても接敵を許す。その中には、海兵隊もいたようだった。
どれだけ腕が良くても、やはりM44だと無理がある。いいアサルトライフルなのだが、それでも対人戦向きの兵装なのだ。
まだこれは、戦いは続くな。
最悪なのは、この状況で二体目のランスタートルが現れることだが。この無秩序な攻撃。此方の裏を明らかに掻いてきていたさっきまでとは違う。
多分出ないな。
そう判断しながら、菜々美は狙撃を続行。第二師団に主戦場が移った戦場で、シャドウを倒し続けた。
シルバースネークが毒を吐いているのが見えた。
あわてて兵士が逃げ出したジープが、一瞬で溶かされる。地面にはまるで影響が出ていないようだが。
飛沫を浴びただけで、兵士が片腕を丸ごと溶かされて、絶叫していた。
そのシルバースネークを撃ち抜く。
三時間ほど戦闘を続ける。
最悪の事態である、二体目の中型の出現は幸いなかった。それでも、味方の被害は大きい。
第二師団もそれなりの損害を出しているのが見えた。
第四師団に至っては、恐らく千五百から二千は戦死者を出しているだろうと菜々美は判断したが。
それについて、口にするつもりはなかった。
陽が沈み始める頃、小型の猛攻は終わった。
退却の命令が出される。
大きな損害を出した各部隊は、兵をまとめて下がりはじめる。小型種はもう姿が見えない。
医療チームが負傷者を探して戦場にいて、それを護衛する部隊がついているが。もしまだいる小型種に奇襲されたら、守りきれるかどうか。
菜々美は最後まで山頂近くに残り。
動いている医療チームを支援すべく、辺りを監視し続けた。小型は現れない。だからといって、紀伊半島からシャドウが駆逐されたとは、とても思えなかった。
兵をまとめて、広瀬中将は神戸に引き上げる。
GDFの本部は大勝利を喧伝しているが、ざっと市川がまとめたところによると、第二師団第四師団海兵隊支援部隊、まとめて被害は合計2200。負傷者が500程度なのは、シャドウに接近された場合、まず助からないからだ。これが人間同士の戦争と違うところである。
しかも負傷者も腕を丸ごと失っていたりと、以降は戦えない可能性が高い。
戦闘に参加した兵力は18000程で、参加戦力の一割超を失っている事から、これは敗戦だと広瀬は思っていた。
オフィスに戻ると、戦闘の過程をレポートにする。
しばしレポートを書いていると、連絡が入っていた。
レポートを提出後、司令部にて会議を行う。。
そういう連絡だった。
まあ、当然だろうな。
超世王セイバージャッジメントにより、初のランスタートルの攻略には成功した。これは画期的な戦果だ。
だが、代償が大きすぎる。
これでは以降ランスタートルを倒す事は厳しいし。
京都ではランスタートルに加えて、キャノンレオンの姿まで確認されている。ランスタートルはしかも複数である。
とてもではないが、今後シャドウを駆逐する事なんて不可能だ。日本からシャドウを駆逐する事すら無理だろう。
色々頭が痛い。
超世王セイバージャッジメントを量産するとする。
それぞれが、畑中中佐並みの活躍をして、シャドウを確殺できたとする。
だが、日本だけで確認されているだけでもキャノンレオンだけでも十数体が存在していて。
京都南の会戦の有様を見る限り、実数はその倍以上はいると見て良い。ランスタートルも同数くらいはいるだろう。
それに今回の戦闘で相当数のシャドウを倒したが、それでシャドウが刺激されないといいのだが。
もしも人間への再攻撃が開始された場合。
確定で人間は滅ぶ。
近畿にいるシャドウだけでも対応は無理だろう。今の時点では、それくらい力の差がある。
レポートを仕上げてから、総司令部に出る。
長官の他、師団長が皆集まっていた。第四師団の司令官である増田中将は、疲弊しきった顔をしていた。
確か今回の戦いで息子を二人とも失ったと聞いている。
それもシルバースネークの毒液にやられたから、遺品すら回収されなかったという話だ。
此処に出ているだけでも苦悩が絶えないだろう。広瀬も、最大限の支援はしたが。それでも心は重かった。
そういえば、海兵隊の指揮官であるファーマー大佐がいない。
いかにもな四角い男であるファーマーだが。
その席は、空だった。
「ファーマー大佐は?」
「本国に送還が掛かった。 今回の戦いで、海兵隊も一割近い被害を出し、それでいながらシャドウのキル数は何処の狙撃大隊よりも少なかった。 二連隊がかりでだ。 それで今まで言動を黙認していた北米も堪忍袋の緒が切れたらしい。 小型輸送船で、反抗的な態度が目だった隊員もろとも送還。 以降は左遷だそうだ」
「そうでしたか」
「次はまともな指揮官が来るといいのだが。 広瀬君にも面倒を掛けたな」
面倒、か。
昔は世界最強の部隊だったのに、こうも色々と拗らせてしまうものなのだなと、寂寥を感じはした。
いずれにしても、改革が進んだら別物に化けてくれるかもしれない。
今の時点で、対人戦の戦闘力が高い部隊はあまり必要ない。
それが現実だ。
少なくとも、今は人間相手の戦闘なんて考えている段階では無い。人間は五千万しか残っていないのだ。
対人戦は警官だけやれればいい。
そういう状態なのである。
「それにしても、今回も大きな被害を出したな……」
「畑中博士が今回のデータを元に、あのなんとかいう新兵器を改良してくれるそうだが、それでも被害を減らしてあのランスタートルを斃せるかどうか。 戦闘のデータを見たが、あれを生半可な兵士が相手に出来る胆力があるとは思えん」
「それよりも、小型の随伴が厄介極まりない。 今回に至っては、完全に作戦の裏を掻かれた有様だ」
「次、の前に戦力を補強する必要がある。 出来れば年単位の休養期間が欲しい」
口々に参加者がいうが。
司令は言う。
「すまないが、次の作戦は三ヶ月後。 大阪湾に潜んでいる、イエローサーペントをどうにかしなければならない」
「正気ですか。 陸上戦ですらこれです。 海上戦なんて、シャドウに勝てる訳がありません」
「特にイエローサーペントは中型とはいえ、空母打撃群を単騎で潰すような相手です。 勝ち目なんて……」
「大阪湾でまた被害が出ている。 奴がいるだけで、神戸がいつ襲われてもおかしくないし、活動が活発化したら神戸は兵糧攻めにあう。 今までは必死にやりくりしていたが、輸送船が襲われる度に物価が跳ね上がり、人々は苦しむ。 何とかしなければならないんだ」
青ざめている司令。
この様子だと、三ヶ月を引き出すだけでも相当に激論を繰り返して、なんとか時間を稼いだのだろう。
広瀬は挙手。
「まずは畑中博士と相談が必要ですね。 それと第二師団が次も出ます。 第四師団は、とても次の戦いには参戦できないでしょう」
「同感です。 うちから無事な部隊を引き抜いて補填に当ててください。 再編にはどうせ一から手を入れなければならないので」
増田中将が提案してくれる。
広瀬は申し訳ない気持ちになったが。それでも、やるしかない。
無理なスケジュールで、しかもランスタートル以上の被害を出している海の王者とやりあわなければならない。
そう考えると、とても気が重かった。
文字通り、薄氷を踏む駆け引きの末の、首の皮一枚での勝利……!
しかもまだまだランスタートルなど、多数いる中型の一種に過ぎないのです。ランスタートルそのものも、一体だけではなくたくさんいます。
人間の勝利など、一度や二度の戦いで引き寄せられるほど、簡単なものではないのです。