スーパーロボット活劇、超世王セイバージャッジメント 作:dwwyakata@2024
飛騨咲楽さんはまだ若いので、肉体の回復も早いです。
実際問題、年を取ってくると、回復が遅くなるのを嫌でも自覚することになります。
ただ、人生の一番大事な時期をシャドウ……正確にはネメシスとの戦闘に全て取られてしまうのは。
幸せとは言い難いでしょうが。
序、分析と対策
ナジャルータ博士が忙しく走り回っている。またなんかあったのかも知れない。いずれにしても頭脳労働と縁がないあたいは知らない。訓練をするだけだ。
十日入院で済んだ。
かなり早い方だった。
今回は皮膚へのダメージが主体で、打ち身の類は殆ど無し。骨も折れていなかった。それが理由であるらしい。
ただ、医師には幾つか注意点を言われた。
今後も鍛えておかないと危ないだろうと思う。
出来れば高熱での戦闘に耐えられる状態を作って欲しい。そういう依頼が、畑中博士に飛んでいるようだが。
耐熱服などは着ると動きも鈍る。
もし着た場合は超世王セイバージャッジメントを今までのように動かせなくなるだろう。
それは結局、生存性を下げる事につながる。
しかしどうすればいいのか。
それは分からない。
いずれにしてもあたいに出来る事は、戦う以外にはない。
毎度至近距離でネメシス種のヘイトを集める盾役をあたいがやることで、被害を劇的に減らせる。
それだけで、どれだけ役に立てているか分からない。
時代が少し昔だっただけで、あたいがどれだけ悲惨な人生を送ることになったか分からない。
シャドウが現れないifの現在でも、それは同じだったかも知れない。
そう考えると。
あたいはなんといって良いか分からない。
訓練をする。
それで雑念を晴らす。
北条という人が、また丁寧に教えてくれる。
応用は必要ない。
愚直にただ基礎を繰り返す。これを完璧にやる事で、打ち身を全部なくせる。そう思うと、モチベも上がる。
勿論其処まで簡単な話ではないだろう。
それはあたいだって嫌になる程分かっている。
それでも、やる意味がある。
だから、雑念を晴らすためにも、やっていくのだ。
とにかく、数日は耐熱でのシミュレーションは避けるようにと言われているので、それには従う。
体をその代わり鍛えて、受け身をひたすらに取る。
実際問題、シミュレーションの方で新兵器を導入されると、習得には随分と時間が掛かる。
あの畑中中将ですらそれは同じだったらしい。
だったらあたいだったら、もっと時間が掛かるのは当然の事なので。
それに対して、悩むことはない。
ただ愚直にやっていく。
それだけだ。
夕方近くに、知らない学者がぞろぞろと京都工場に入ってきて、案内されていた。これは大きな事があったんだな。
あたいは関係無い。
黙々と訓練をする。
三池さんが、時間通りに帰るように言っていた。
あの学者さん達はこれから残業だろうかと思ったが、そんな事もないらしい。現在は会議とかは極めて迅速に終わるらしく。
昔の長時間会議をすると偉いみたいな風潮はなくなっているそうだ。
それでもこれから頭脳労働か。
大変なのに代わりは無い。
ともかく宿舎に戻る。
工場内にあるので、歩いてすぐだ。工場の敷地もそれほど広い訳でもない。たまにジョギングもするが。
実の所、ジョギングではそれほど体力はつかないらしい。
その話を聞くと、ちょっと苦笑いしてしまう。
ともかく、あたいに出来る事は今日は終わりだ。
ナジャルータ博士が自説を披露すると、思わず他の学者達が呻いていた。
「つまりシャドウの正体は未来から来た存在で、全てが核兵器由来の放射能に覆われた世界の住人だというのか」
「そういう事です。 この世界で何も無ければ、第三次大戦が発生していたことはほぼ間違いないと言われています。 実際シャドウ戦役が始まった時には、第三次大戦が開始されていたという説まであります。 それが核兵器が飛び交う地獄絵図に発展した可能性は、否定出来ません」
「確かにシャドウは核兵器どころか放射能にもノーダメージだ。 しかし、それでは彼等の主とやらも滅んでしまうのではないのか。 この時代の環境を変えたら、そうなるのではあるまいか」
「とっくに滅んでいるのでは」
これも仮説だ。
そもそもおかしかったのだ。
ノワールが上位者の存在をほのめかしてはいた。だが、ガイア理論などに基づく上位者だったとしても。
そういう存在だったらなおさら人間を生かしておく理由が無いし。
何よりも、人間が出現する前の環境に地球を戻す理由があまりない。
もしも地球に意思があったのなら。
人間を駆除する。これについては分かる。
だが、その後は人間が作り出した全てを消し去るだけで、後は好き勝手に任せるだけではないのか。
シャドウは明らかにそれ以上の事をしているのだ。
「今までのノワールとの話を総合する限り、恐らくシャドウは人間も適正数で保全されるように気を配っています。 もしも人間を滅ぼすつもりで攻めてきたのなら、各地に大規模集落なんか残さずに、徹底的に塵にしていた。 それも、シャドウにはそれが極めて容易だったのです」
「確かにそれは納得ができる」
「シャドウがどうして進軍をとめたのかはそれでいいとして。 では結局、シャドウは何がしたいのか」
「恐らくですが、この星の破滅を回避するのが、シャドウの主の願いなのではないでしょうか」
この星の破滅。
それは放射能汚染による破綻だ。
言うならば死の星。
仮にそういった状態が訪れるとする。
核の冬が去っても、各地が強烈な放射能汚染で満たされ、まともな生物が育たなくなってしまったら。
それは地球という星が有していた豊富な多様性が喪失することを意味する。
仮に、其処に生まれた生物がいて。
それが知的生命体にまで育ったとしても。
その存在は、少なくとも地球の覇者であった生物たち。節足動物や恐竜。それに現状の人間のような発展は出来なかっただろう。
そして、それらの存在が、人間の遺産を得ていたら。
最初は神と思うかも知れない。
だが、実態を知ったらどうだろうか。
ましてや、それが破滅へと邁進していった愚物だと知ったのだとしたら。
「最後のテクノロジーを用いて、少なくとも自分達の先に何かが続く未来を作りたい。 それがあのシャドウを作りあげた源泉なのではありますまいか」
「……突飛ではあるが、確かに腑には落ちる。 ただ、それだったらノワールとやらがどうして自分らの正体を隠蔽するのかが分からない。 人間を支配下に置いた後、好き勝手に使役して、後は地球を自由にすれば良かったのではあるまいか」
「幾つか分からない事がありますので、これはあくまで仮説です。 問題はノワールの反応ですね。 もしもノワールが……いや、確定で見ているでしょうが、 返事をくれれば話は早いのですが」
敢えてそう言うが。
反応は無し。
恐らくだが、ノワールは人間という種族を全く信用していない。
仮に。いまナジャルータ博士が言ったことが全て真実だったとする。
時間を超えて過去の世界……厳密に直線的に過去に来たのか、それとも平行世界の過去に来たのかは分からないが。
其処に来たとしても、いきなりシャドウが計画的に人類を滅ぼせるとはとても思えない。
シャドウによる侵攻は極めて計画的だった。
シャドウ戦役前に圧倒的最強だった北米を灰燼に帰した後は、大国を悉く滅ぼしつくしていったが。
その滅ぼす速度、順番、やり口。
あらゆる全てが、計算されつくしていたと現在だったら評価できる。
役割分担も完璧に近い。
クリーナーみたいな環境浄化用の小型種まで作り出すほどである。
過去のデータがあったとしても、実際に過去に来たらどうなっているかなんて分かりようがない。
だから、人間をある程度観察してから、攻撃に出て来たと見て良いだろう。
さて、問題はここからだ。
「これらの仮説は確かに面白いが、実証しようがないのが問題だな」
「はい。 ただ、シャドウが人間を知りすぎている。 此処に現在の問題があると思われます」
「ふむ、聞かせてくれ」
「シャドウは恐らく群で意識を統括しています。 これに関しては今までの発言が全て裏付けています。 ただし、今まで上位者の存在をほのめかしていましたが、それはあくまでシャドウの主であって、意識を統括していない。 これがこの説の要となります」
そう。
ノワールは主の事を何よりも大事にして、尊重もしているようだったが。
それでありながら、大型種ですらも、ただの駒としていたし。
アトミックピルバグのような次世代型ですら、倒された時に驚いてはいても、別に困ってもいなかった。
ただし、超世王セイバージャッジメントの強烈な反撃。
それらがストレスになって、異変が生じた。
それがネメシスの増加だ。
ネメシスはそれまでも出現していた。
それは集合意識存在の残りカスが、下位である小型種に押しつけられ。その結果逸脱が起きていると見て良いだろう。
だが、もしもだ。
それだけが理由ではなかったとしたら。
例えばノワールが更に現状の人間を分析する……つまりシャドウそのものが現状の人間を分析した結果。
あまりにも知的生命体というのには拙劣すぎるその性能を見て、色々と問題を起こしたのだとすれば。
「現在シャドウと戦闘の矢面に立っている超世王セイバージャッジメントのパイロット、飛騨咲楽中尉の気づきですが、ネメシス種の断末魔は他と違っています。 明確に人間にとっての威嚇の声になっています」
「それについては確かに音声などの分析から確認が取れている。 ただ戦闘中、良く気付けたものだと感心する」
「天才……というのとは違って、何かしらの特化型だからなのでしょう。 こういった事に気付きやすいのかも知れません。 いずれにしても、シャドウからしたらまったく大した相手ではない人間の負の行動など、取り入れる理由が全くありません。 シャドウの目的が、地球の環境の安定化を行い。 人間が知的生命体と言える存在に成熟するのを見守る事だったとしたら」
「随分と独善的な話だな……」
不愉快そうに学者の一人がいう。
年配の学者だし、シャドウによる文字通りの鏖殺を見ている世代だ。当然、そういう風にも思うだろう。
「シャドウは超世王セイバージャッジメントの創意工夫を見て、コントロールが出来ない相手の出現に此方が思っている以上に動揺したのかも知れません。 勿論超世王セイバージャッジメントは滅多な事で操縦できる兵装ではありませんが、それにしても人間を調査し直す必要があったのでしょう。 シャドウはスタンドアロンのシステムにまで容易に侵入できる可能性があります。 神戸は兎も角、各地の街で人間のガンになっているような輩の習性など、容易に学習できたはずです。 それらが負の影響を与えているのだとすれば……」
「確かにネメシス種の断末魔が人間の威嚇行動に似ているのも納得ができる。 つまりだ。 ネメシス種は人間の映し鏡が、シャドウの力を得てしまった存在というわけか」
「仮説です」
「……分かった。 いずれにしても、面白い話だ。 わざわざ足を運んで聞く価値はあった」
頷く。学者達がさっと解散する。
これから、今の話をそれぞれが分析するのだ。
それぞれの専門分野から。
幸い今の時代は、昔存在していたような馬鹿馬鹿しい学閥の類はないし。そういったものでまともではない学者が偉そうにしている事もない。
裏口入学の類が横行していた時代は、そういうものの力で学者とはとても言えない輩が大手を振っていたこともあったのだが。
そういうのはシャドウにまとめて駆逐されてしまった。
ただし、各地に問題がある国や街や集落も多い。
これらに関しては、特に問題がある輩を……国や文明に致命的なダメージを与えるような輩を優先していたからであって。
それ以外は殆どどうでもいいと考えていたからなのだろう。
ため息をつくと、片付けに入る。
メールだ。
恐らくはノワールだな。そう思って、片付けを手伝ってくれていた三池さんに目配せを送る。
案の場。
ノワールからだった。
「興味深い説、拝聴させて貰ったよ。 幾つか間違っているが、何処が間違っているかは説明はしない」
「そう。 つまりかなり精確に事実に近付いていたと言う事でいいか」
「ふふふ。 ただ、主に関してはほぼ正解と言っておこう。 君達が考える上位存在はいるが、それは私達と意識を共有していない。 私達が引き継いでいるのは、主の無念と未来への希望だ」
そうか、そうだったのか。
だとすると、やはり。
シャドウは破綻した未来の地球から来たのだ。
恐らくは、破綻した未来の地球は、シャドウの力を持ってしても修復が不可能だったのだと思う。
いや、シャドウは明らかに物質を復元したり、化学組成を容易く変えている節すらあるのだが。
これらは、どうやっているのだろうか。
少しばかり、興味が湧く。
ただ、それは今の時点では解析できないレベルの科学の話なのだろう。少なくとも、理屈を説明して、ナジャルータ博士が理解出来るとは思えなかった。
「ネメシスの数が増えると貴方たちは言っていた。 今後もまだ増えるのか」
「いや、今がピークだ。 今後はある程度で落ち着くだろうね」
「そう……」
「ただ、それも君達次第だ。 私達もネメシスを抑え込む努力をしているが、その過程で調べた君達があまりにも愚かすぎた。 それが悪影響を与えているのは事実だ。 君の仮説はその点ではあたっている」
そうか。
あたって欲しくは無かったが、あたっていたか。
だとすると、あのネメシスの小賢しい動きもそれで説明がついてしまう。
ルールの穴をついて喜ぶ連中が人間には多く。
むしろ英雄視される。
それが今度は人間に向けられている。
シャドウの力を持った詐欺師の思考回路をもった輩。
それがネメシスと言う訳だ。
それは厄介極まりない。もしもそれが更に先鋭化していくとなると、被害は加速度的に増える。
「提案だ。 死んだ私達……ネメシス種を倒す事は私達でも難しい。 まあ斃せるのだが、こう進歩が著しいとね」
「それで何をすればいい」
「簡単な事だ。 私達はネメシス種の出現点を絞る。 一箇所は中央アジアの中央部。 もはや人間がいない土地だ。 君達がいう大型種の私達も其処で起こす。 もう一箇所は、君の近くだ」
「!」
なるほど。ネメシス種の出現を完全に人間がいない地域で、周囲にも大被害を及ぼさないユーラシアの中央部。
それに、対応できる超世王セイバージャッジメントのある京都工場付近。
それらに絞ると。
ならば、確かに無作為な被害は減る。
だが、それも完全制御はできないとノワールは言う。まあ、それもそうだろうなとナジャルータ博士も思う。
「君達がアトミックピルバグと呼んでいる私達も、もう少し多めに配備しておこう。 それで少しは楽になるだろう」
「分かりました。 そもそも、何かしら根本的な対策はないのですか」
「ない。 君達がそれは分かっているのではないのか」
「……」
そうだろうな。
シャドウに対する仮説を立てたのはナジャルータ博士だ。
シャドウの上位存在はもう存在していない。
存在していた時も、人間が破綻させた世界で、細々と生活していた、とても惨めな種族だった。
シャドウは地球が星として破滅するのを防ぐために到来した。ガイア理論に基づくものではない。
あくまで未来に破綻した主のため。
その願いを叶えるために今に訪れた存在。
だったら、その行動に妥協は無い。
それに、人間を滅ぼさないのも。
いずれその成果物が、何かしらの形で地球のためになるのかも知れなかった。
いずれにしても会話は其処で切れた。
三池さんが、頭を振っている。
これはまずい。
そう判断したのだろう。
それはそうだ。どう考えても全て人間のせい。それがはっきりしてしまったのだから。
宇宙から攻めてくる醜悪なエイリアンに、正義の人類が立ち向かう。
そういった特撮は幾らでもあった。
だがシャドウはエイリアンですらないし。
何より醜悪なエイリアンは、地球人の方だった。
それが分かってしまった今は。ナジャルータ博士に、ああだこうだと何かをいう事は出来なかった。
関係者にメールでのやりとりを転送するが。
内容を見た市川代表から、即座に箝口令を敷くようにと連絡が来ていた。
確かに、これはまずい。
まだ万物の霊長とか言う妄想を信じている輩は、一神教徒を中心にたくさんいる。それらが、自身のアイデンティティを崩された場合。
それこそ、クーデター祭の時よりタチが悪い事態になりかねない。
最悪の場合、集団ヒステリーの挙げ句、国を挙げて全員で集団自殺とかやりかねない。今は、とにかく時間を掛けて対応していくしかないだろう。
考えた上で、ナジャルータ博士は飛騨中尉を呼び出す。
そして、真相は話しておくことにした。
飛騨中尉は、少なくとも知る権利はある。そう判断した末の事だった。
ついにシャドウ……ノワールから来た決定的な連携の提案。
シャドウの側はネメシスの出現位置を絞ることに注力。それで人類の被害を減らし、戦闘でのダメージはシャドウが修復できます。
しかしながらそれは、神戸近辺に立て続けに強力なネメシスが現れる。
それを意味してもいるのです。