スーパーロボット活劇、超世王セイバージャッジメント   作:dwwyakata@2024

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今までとはレベル違いの危険度を誇るネメシス種出現。

元はブラックウルフですが、その戦闘力たるや、世界を普通に滅ぼすレベルです。

正念場到来。

ノワールが共闘まで申し込んできた程の相手が牙を剥きます。






3、白狼

超世王セイバージャッジメントが改造されている。どんどん格好良くなっている。

 

あたいはそれを、呆然とみていた。

 

咳払い。

 

北条という人だ。

 

「飛騨大尉」

 

「あ、すみません」

 

訓練に戻る。後ろに立たれても気配が全く無いので、まったく分からないのである。それもあって、咳払いしてくれると助かる。

 

ストレッチなどもやる。

 

受け身の技術が上がってきたため、体のコントロールを更に良くする必要が生じたというのだ。

 

あたいとしては、超世王セイバージャッジメントの操作には身体能力が別に必須ではないと思っている。

 

問題なのは防御行動などで。

 

散々振り回される現状を考えると、受け身を取るのは必須になる。

 

だから、あくまで防御行動としての練習だ。

 

超世王セイバージャッジメントの操作は、あたい自身が鍛える。こっちは、専門家に頼む。

 

そういう事である。

 

ストレッチをこなした後は、密着状態から衝撃を叩き込んでくる機械に触れて。其処から受け身の練習をする。

 

吹っ飛ばされる度に見本を見せてもらう。

 

そして、毎回丁寧に説明を受ける。

 

北条という人は、ちょっとやそっとで出来ないくらいで、へそを曲げることはない。

 

今やっているのは超高度な受け身の技術であって、それをあっと言う間にこなせるような人間はいない。

 

北条という人はあくまで特例である。

 

それが理由らしい。

 

まあ、分かるには分かるし、とにかく丁寧に教えてくれるので助かる。それでも、ちょっと油断すると派手に吹っ飛ばされるし。

 

受け身をミスると骨を折りかねない。

 

少しずつ機械が与えてくる衝撃も大きくなっている。

 

これはあたいが上達しているから、らしいのだが。

 

それにしてもヘトヘトである。

 

一段落して、それで休憩。

 

次はシミュレーションだ。

 

斬魔剣Ⅲが導入されてから、更に戦いやすくはなった、とは思う。

 

シャイニングパイルバンカーと斬魔剣が統合されたことにより、装備重量が軽減されたからだ。

 

このため超世王セイバージャッジメントは更に小回りがきくようになった。それだけで充分である。

 

数度、ネメシスとシミュレーションでやりあう。

 

そして、もう一度と思った瞬間、警報が鳴っていた。

 

本物の出現だ。

 

すぐにシミュレーションを中断。

 

だらだら汗を掻いているが、即座に冷やすと風邪を引きかねない。この状態で風邪を引くのはまずい。

 

汗を拭い、それで着替える。

 

トイレにも行っておく。

 

その間に、イヤホンをさして、情報を確認する。

 

「ネメシス出現! これは……飛騨です!」

 

「少し遠いですね」

 

「既に現地で中型種と交戦中の模様!」

 

なんだろう。飛騨。

 

嫌な予感がするのは、気のせいだろうか。

 

とにかく着替えも終わった。

 

こうしている間に、超世王セイバージャッジメントを仕上げてくれている。

 

コンディションを整えて出向くと、すでに整備工のおじさん達が、仕上げを終えていた。

 

「オールグリーン、いつでも出られます!」

 

「よし。 飛騨大尉、すぐに出てください。 途中で呉美大佐達と合流して貰います」

 

「イエッサ!」

 

即座に乗る。

 

色合いも少し変わったか。超世王セイバージャッジメントに乗り込んで、即座にレバーを動かし、戦闘システムを起動。

 

お。

 

明らかに彼方此方軽く滑らかになっている。

 

装甲なんかもこれは強化されていると見て良い。

 

工場を出る。

 

敬礼をして送ってくれる整備のおじさん達。今は操縦に集中して、工場を出る。この間の物資提供で、倉庫が幾つか追加で建てられて、工場自体が大きくなっているのだが。それでも出るまでそれほど時間は掛からない。

 

それにしても飛騨。

 

なんだか嫌な予感がする。

 

濃尾の北にある山岳地帯だ。

 

なんでよりによってそんなところで出たのか。これがよく分からない。だけれども、この間のブルーカイマン・ネメシスのように、海路からの神戸急襲を狙って来たケースもある。

 

何か企んでいると見て良いだろう。

 

東に移動する。

 

機体の速度が上がっているようだ。

 

確か提供物資でデチューンモデルの強化もしたと聞いているが。

 

そう考えているうちに、呉美大佐が追いついてきた。デチューンモデルも、呉美中佐機はかなり強化しているようだが。

 

装備は斬魔剣Ⅱと投擲型斬魔剣か。

 

これは話によると、ただでさえ癖が強くて操作できないものだし、複数乗せてもあまり意味がないから、らしい。

 

あたいは即座に情報交換。

 

三機のデチューンモデルを連れている呉美大佐と合流し。あたいが少し先を行く陣列のまま、急ぐ。

 

合計して五機。

 

戦車をベースにしている機体だから、それほどの規模ではない編隊だが。

 

いずれもが、シャドウを斃せる可能性を持つ。

 

一機だって、無駄には出来ない。

 

「それにしても何故飛騨に。 動きにくいでしょうに」

 

「多分何か理由があると思います。 九州では海路からの奇襲を目論んでいましたし」

 

「……そうですね。 遠距離からの射撃にしても、流石に熱線砲だと距離がありすぎますし、何か別の理由でしょうか」

 

「熱線砲では無い遠距離攻撃手段はありませんか」

 

熱線砲は違うのか。

 

そういえば、以前超長距離攻撃をして来たネメシス種、シルバースネークのネメシス種が放ったのは、熱線ではなく毒液だった。

 

それに、クリーナー・ネメシスが長距離攻撃をして来たこともある。

 

必ずしも放熱の熱線だけが主力と考えるのはおかしいか。

 

しかし、だとすると何をして来るのだろう。

 

飛騨から仕掛けて来るとしたら、恐らく遠距離攻撃ではないのかと思うのだけれど。

 

移動しつつ、続報を聞く。

 

恐らく、ネメシス化した小型種はブラックウルフ。

 

だとすると、遠距離攻撃手段はないのか。しかも飛騨という半端な位置である。

 

そうなってくると、例えば超高速で攻めてくるとか。

 

ブラックウルフが元であろうと、ネメシス種になった時の破壊力は尋常ではなく、神戸に入られでもしたら終わりだ。

 

そういう意味では加速して来るというのは手としてはある。

 

だが、シャドウもシャドウで大型種まで鎮圧に出て来ている状態だ。そう勝手を許しはしないと思うのだが。

 

それに、確か濃尾には複数あのアトミックピルバグがいる筈。

 

あいつを回避して簡単に此方へ突破出来るだろうか。

 

「こ、こちらスカウト22!」

 

「どうした」

 

「ブラックウルフ・ネメシスが白く輝いています!」

 

「白くだと……?」

 

元とは別物に変異するネメシス種は珍しくもない。色が変わることくらいは別に何ともと思ったが。

 

映像が来る。

 

それを見て、絶句していた。

 

輝いている。確かに。

 

そして周りの全てが燃え上がっていた。あれは、熱をそのまま周囲に垂れ流しているんだ。

 

白く輝いているのは、そのまま熱を放出していて。

 

そして。空気が連鎖的に爆発もしている。

 

キャノンレオンを初めとする中型種が一斉攻撃を仕掛けているが、それを平然と流すようにして悠々と歩いている。

 

白い狼。

 

確か、チンギスハンの代名詞だったはずだ。

 

しかし、流石にあれは。

 

姿も現実の狼に似ているようだ。狼の一種には、ああいう神々しい白い毛皮を纏うものもいると聞く。

 

それにしても、生唾を飲み込んでしまう。

 

ゆっくりと歩いて来るのは、ネメシス種とは思えない。

 

というか、あれほどの熱量を浴びつつ、平然としているのは、もはや。

 

ネメシス種が、熱攻撃を克服したのか。

 

いや、違う。

 

シャドウですらそれは出来ないのに、ネメシス種ができる筈が無い。だが、辺りが炎上しているあの有様。

 

空気すら連鎖爆発する好熱の中を平然と歩くあの様子。

 

まさに神の狼。

 

あたいは速度を上げる。嫌な予感しかしないからだ。

 

「飛騨大尉」

 

「はい」

 

「超世王セイバージャッジメントは更に装甲を強化して、対熱効果を上げています。 それでも過信は禁物です」

 

「分かっています」

 

分かっている。

 

そもそもとして、あれだけの支援物資が来たとしても、そもそも無理なものは無理なのだ。

 

太陽の表面温度ですら6000℃である。

 

数万度単位の熱を数分浴びせないといけないシャドウは、火程度でどうにか出来る相手ではない。

 

更にタフネスだけならそれを超えるかも知れない最近のネメシス種である。

 

しかも彼奴は、熱を苦しがっている様子がない。

 

あいつの体は、放熱に特化している。

 

この間交戦したブルーカイマン・ネメシスは、体をパージする事で熱を効率よく体から切り離していた。

 

それだけ恐ろしい相手であった。

 

今度の奴は、体を放熱に特化してきた。

 

更にこれ以上進歩されると、文字通り手に負えない存在になる。

 

後何回、ああいうのを斃せば良いのか。

 

それに、だ。

 

アトミックピルバグが出る。

 

そして、一斉に凄まじい飽和攻撃をブラックウルフ・ネメシスに浴びせ始める。だが、奴は加速している雰囲気がない。

 

温いと言わんばかりだ。

 

そして周囲の熱が更に上がっていく。奴が踏んだ地面が溶岩と化している程である。それでいながら、奴は沈み込んでいない。

 

本当に一体、どういう事なのか。

 

「交戦距離まで三十分!」

 

「此方スカウト22! 危険域まで温度が上がっている! 退避する!」

 

「スカウト22、距離を十分にとってください。 極めて危険な相手です!」

 

「イエッサ!」

 

呉美大佐が黙り込む。

 

正直、これはかなりヤバイ状態だとあたいは思った。彼奴に近付けば、今の超世王セイバージャッジメントも長くはもたない。

 

つまり短時間で勝負を付けなければならない。

 

それなのに。

 

アトミックピルバグがもう一体来る。そして、先にも増してとてつもない火力をブラックウルフ・ネメシスに叩き込む。

 

連鎖する爆発。

 

恐らく核が何十とあの一点に叩き込まれているような火力の筈だ。凄まじい熱に、辺りの天気が急変している。台風が生じるかも知れない。そんな声が聞こえた。もし台風になったら、下手をすれば史上最悪レベルの超巨大台風になるかも知れないと。

 

まさか。

 

短期決戦で一気に斃せないのであれば。

 

超巨大台風に神戸を巻き込み、全てを吹き飛ばすつもりなのか。

 

日本も台風を比較的受ける国家だ。更に神戸は半地下都市でもあり、生半可な暴風程度は問題にならない。

 

だが、それが生半可ではない場合はどうか。

 

あたいも見た事があるが、凄まじい台風による大豪雨に晒されると、都市はパンクする。

 

地下にある貯水槽のキャパを超えると、膨大な水が溢れて、都市を一気に水浸しにする。

 

ましてやそれが地下都市だったらどうか。

 

外は大暴風。

 

史上最強クラスの台風だと、風速は70m/sとかに達するはず。もっと行くかも知れない。

 

地下都市神戸から出て来た人々を襲うのは、おぞましい程の暴風と高波だ。勿論地下都市に残れば溺死するだけ。

 

ましてや、こんな至近距離で巨大台風が発生したらどうなるか。

 

いつやむかも分からない桁外れの台風を前に、人間が耐えられる訳がない。

 

それに気付いて、あたいはぞっとしていた。

 

「あいつ、まさかただその場にいるだけで、巨大台風を引き起こすのが目的なんじゃあ……」

 

「可能性を確認します!」

 

「呉美大佐!」

 

「接近を。 既にアトミックピルバグが二体がかりでの攻撃をしています。 簡単に受け流せるはずがありません」

 

現地の映像が途切れがちになる。

 

凄まじい熱風が空に噴き上がり、それが一気に天候をおかしくし始めたのだ。

 

空。

 

ブライトイーグルが飛んできている。

 

環境の急変を改変する能力を持っているはずだが、それでもこれは抑えきれるのか。まずい。

 

ゆっくり歩いていた白い狼……ブラックウルフ・ネメシスは、平然と座り込んだ。濃尾平野を火の海に変え、辺りを溶岩にしながら、平然としている。

 

火力投射を続けているシャドウ達は、一切容赦が無い。

 

だが、それでも逃げようとする様子さえ見せない。

 

あいつ、ひょっとして。

 

「この間のブルーカイマン・ネメシスを更に変化させた形状なのかな……」

 

「どういう事ですか? 飛騨大尉」

 

「いや、あれで耐えられる訳がないですから。 ひょっとして、体を複層構造とかにしていて、それであの熱を放出する事に特化した形態で。 それで壊れるまで攻撃を受け続ければ、勝手に地球を半壊させるような台風が出来上がるのかもと思いました。 でも、ネメシス種は今まで死を明らかに怖れていました。 でも彼奴は……」

 

「死を怖れている様子が無い」

 

呉美大佐に、あたいは無言で頷く。

 

それしか可能性がない。

 

彼奴は元から斃されることを前提で来ている。そして、何が何でも人間を滅ぼすという凄まじい悪意だけがある。

 

死への恐怖を捨て去ったのは、どうしてかは分からない。

 

それとも、死なないという自信でもあるのか。

 

ストライプタイガーが行った。

 

そして、凄まじい勢いでブラックウルフ・ネメシスを切り裂く。

 

だが物理的な攻撃なんてネメシスどころかシャドウには元々通用しない。それはあの白い狼も同じだろう。

 

平然と座り込んでいるブラックウルフ・ネメシスに、今度はウォールボアが二体同時に突っ込む。

 

激しい熱を至近から浴びせているはずだが、それでも平気で座り込んでいる。

 

ダメだ。

 

あいつ、やっぱり完全に壊れるまで、そのままでいるつもりだ。

 

ごっと音がして、冷房の出力が大幅に上がった。

 

恐らく、外は既に地獄だと言う事だ。

 

間もなく接敵する。

 

アトミックピルバグがさがる。

 

多分あたい達を誤爆するのを避けたのだろう。キャノンレオンが距離を保ったまま攻撃を続行。

 

だが、まだまだ斃れる気配もない。

 

「飛騨大尉」

 

「はい」

 

「自由に攻撃を仕掛けてください。 他の三機は、散開。 各々集中攻撃。 弾が尽きたら即座に離脱を」

 

「イエッサ!」

 

行動のグリーンライトを貰った。

 

ここからは行動の全てに責任が生じる。さて、どうするか。

 

ともかく、最速で突っ込む。

 

もう指呼の距離だ。

 

あたいはまず、投擲型斬魔剣を叩き込む。これはこれで、装備としてある。優秀だからだ。

 

それがずぶりと、ブラックウルフ・ネメシスに突き刺さる。

 

凄まじい負荷。

 

熱を叩き込みきる前に、溶けて壊れるかも知れない。数値のエラーを見ると、それが現実的だ。

 

だが、刺し傷が残っている。

 

それにだ。

 

何度もウォールボアが突進を叩き込んでいるが。座り込んでいるブラックウルフ…ネメシスはそれで微動だにしていない。

 

痛みなどをシャドウが感じる様子はないが。

 

ネメシスは攻撃を通じているなら明らかに嫌がっていた。

 

台風を引き起こすことが原因であっても、これは。

 

爆散する投擲型斬魔剣。

 

呉美中佐の放った分も同じく爆散したようだ。

 

斬魔クナイをデチューンモデルの一機が連射する。ちょっと中型にあたらないかとひやひやするが。

 

それらもやっぱり、ブラックウルフ・ネメシスに突き刺さると、短時間で機能停止、爆発していた。

 

ジャスティスビーム改を巻き付ける一機。

 

だが一気に高熱になる前に、ワイヤーが溶け始める。結果として、反陽子が漏れて、大爆発を引き起こす。

 

それでも平然としているブラックウルフ・ネメシス。

 

まるで暖簾にぬか押しだ。

 

危険信号が出る。

 

溶岩を踏み越えながら、超世王セイバージャッジメントは、白く輝く狼に突撃。斬魔剣Ⅲを横倒しにして、座り込んでいる狼に向かう。

 

見る間に熱が上がっていく。

 

かなり冷房を強化し、しかも今日は装甲にダメージを受けていないのに、もう暑くなってきている。

 

だが、この程度の暑さなら、耐えるのは簡単だ。むしろ、無限軌道が耐えられるか。下は溶岩、しかも堅いとはとても思えない。下手すると擱座して。そのまま立ち往生して終わりだが。

 

やってやる。

 

速力は上げない。速度を上げすぎると、多分きっともっと速く足回りが傷む。そのまま、突貫。

 

相手を横切るようにして、斬魔剣Ⅲを叩き込んだ。

 

灼熱のチェーンソーは膨大な熱量を叩き込みつつ、ブラックウルフ・ネメシスの体を切り裂く。

 

奴の足が半分くらい無くなり、座り込んでいても体が傾く。

 

一気に横を抜ける。

 

その間、僅か二十秒ほどだが、それでも機内の温度は一気に上昇して、汗がダラダラ出る。

 

溶岩地帯を抜けて、そのまま旋回。

 

斬魔クナイを叩き込んでいる一機はそろそろ弾切れ。

 

呉美中佐は溶岩を渡る自信が無いのか、投擲型が切れた後は距離を取って様子を見ている。

 

ちなみに誘導弾は既に放たれて、近くを凍らせているが。勿論ブラックウルフ・ネメシスは見向きもしない。

 

だからあたいが利用させて貰う。

 

誘導弾で凍った其処に突っ込む。

 

一気に機体を冷やして、そしてもう一回。

 

倒れているブラックウルフ・ネメシス。

 

悲鳴を上げていない。

 

効いていないと言う事だ。今度は首をかっ切ってやる。

 

そう思った瞬間。

 

ブラックウルフ・ネメシスの外皮が一気に溶けて行った。

 

凄まじい溶岩流のような有様だ。

 

そして、溶岩流の中から湧いて出て来たのは、ちいさななんだ。あれは。ヒトの形に見える。

 

それは、天を仰いで、口を開くと。

 

凄まじい悲鳴を上げていた。

 

ごっと、猛烈な風が吹き付けてくる。

 

これは、ひょっとして。

 

あれが本命か。

 

この熱を上空に全て押し上げて、北半球全部を包み込みかねないとんでもない巨大台風を作り出す。

 

いやそれはもはや台風ですらないのかも知れない。

 

地球全土を滅茶苦茶に破壊しつくす、文字通りの破滅の権化だ。

 

「まずいです呉美大佐! あれ、止めないと!」

 

「……分かりました。 恐らく一瞬しか耐えられません。 三機、撤退を。 私と飛騨大尉でやります」

 

「し、しかし」

 

「撤退を! 最悪の事態に備え、超世王セイバージャッジメントのデチューンモデルを使える人間が必須です!」

 

あたいはもう動いている。

 

凄まじい熱によって、辺りは既に破壊されつくされようとしている。

 

跳べれば。

 

あたいは携帯に叫ぶ。

 

「聞いてるでしょノワール! あいつに直に斬魔剣Ⅲを叩き込む! でも周囲は溶岩でいけない! ジャンプ台作って!」

 

「面白い。 良いだろう」

 

普段聞いていない癖に。

 

明確に、ノワールがこたえてくる。

 

恐らくは、これはまずいとノワールも思っている。

 

その推察はあたったのだ。

 

不意に飛び出してきたウォールボアが、二体。連続して並び、名前になっている頭の「壁」を用いてジャンプ台を作る。それをあたいは、躊躇無く踏み台にして、超世王セイバージャッジメントを跳ばせていた。

 

行くぞ。

 

上空に向かって吠え猛る人型に対して、跳ぶ。

 

斬魔剣Ⅲをあわせる。

 

キャノンレオン等も猛攻を続けているが、それでもまだ人型は斃れない。一瞬で与える熱量の問題ではない。

 

やはり、継続的に与える熱量の問題で。

 

それも、熱量の絶対量が問題だ。

 

しかし、奴は体の殆どをデコイにし。

 

それを用いてこの地獄みたいな状況を作り出した。その結果、奴の中枢部分はもう耐えられない筈。

 

ただし、奴を即座に斃さなければ、神戸どころか多分北半球が滅ぶと見て良い。

 

こんなとんでもない事を考えるなんて。

 

ネメシス種は人間の悪意の塊だと聞いているけれども。

 

まさに此奴は、その権化だ。

 

人型は、あまり大きくない。それが、こっちに振り向く。

 

斬魔剣Ⅲを叩き込む。

 

凄まじい悲鳴が上がり、上空に放たれていた上昇気流が一気に乱れる。

 

超世王セイバージャッジメントが揺らぐほどの暴風。

 

シャドウ達はまるで平気なようだが、衝撃波をものともしないのだ。それは当然なのだろう。

 

だが、あたいは見る。

 

超世王セイバージャッジメントの機体は、既にぼろぼろ。エラーだらけ。

 

コックピットの温度も、急激に跳ね上がっていく。

 

それでも、あたいは全力で斬魔剣Ⅲを操作する。

 

悲鳴が更に大きくなり。

 

聞こえた。

 

死ねクズが。

 

お前みたいなカスが生きているから俺は足がついたんだろうが。必ずお礼参りはさせて貰うからな!

 

もう体も大人になったんだから、体で稼いできな。お前みたいな子供でも好きな変態はいるからね。五万稼いでくるまでは家には入れないよ!

 

とっとと出て行けよ。これからデリヘル呼ぶって言っただろうが。殴らないとわからねえのか。

 

ギャハハハハ、ダッセエ!

 

俺の言う事が全部正しいんだよ!お前が何言おうと俺たちが違うって言ってるから、全てお前が間違ってるんだよ!

 

てめえ俺にガンつけやがったな!ブッ殺してやる!

 

チー牛!チー牛!さっさと死ねよ!死ねば異世界転生出来るかもしれないだろ!チー牛!早く死ねよ!みんなそう思ってるんだよ!くせえしさっさと死ねよ!ほらこっから飛び降りろよ!

 

そうか。

 

人間を学習する過程で、こんなのを取り込んで、それがネメシスになったのか。しかもこういう発言をする与太者は、人間達の間で特にシャドウ戦役の前には英雄視されてさえいたともあたいは聞いている。

 

シャドウが来なければ。

 

5000万人すらも、今は生きていなかったのかも知れない。

 

こんな連中を持ち上げているような人間が山ほどいて。

 

こういう連中が真面目に生きている人を馬鹿にして搾取していたのだとすれば。

 

それは滅んで当然だったのだ。

 

あたいは吠えた。

 

お前等、さっさと過去に消えろ。

 

お前達のせいで人間は滅んだんだ。地獄に落ちろ。

 

声にもならないその声。

 

気付けなかった。

 

どうして着地できたか。

 

灼熱の溶岩の中だったのに。

 

踏みとどまって、斬魔剣Ⅲをたたき込み続けられたのか。

 

ただ必死だったからだ。

 

ほどなく、被害妄想じみた寝言をいいながら、ネメシスが消えていく。灼熱の中、どうにかあたいは意識を保っていた。コックピット内の温度が急激に下がっていく。着地した時とかも、受け身は取れていた。

 

本番にはそれなりに強いらしい。

 

散々酷い目にあって苦労して、それで。

 

それで、気付いた。

 

「呉美大佐……?」

 

返事がない。

 

まだ生きているセンサーが、やっとそれを理解させてくれた。

 

朦朧とする意識の中で、あたいは見る。

 

あたいがやる事を即座に理解した呉美大佐が、溶岩を突っ切ってデチューンモデルを驀進させ。

 

奴の至近で、土台になったのだと。

 

だからあたいは奴を斃せた。

 

声にならない絶叫が喉から迸る前に、意識は消し飛んでいた。

 

 

 

呉美大佐が運ばれてくる。

 

溶岩化した地面に半ば埋まったデチューンモデルの中で、蒸し焼きにされたのである。生きているだけでも奇蹟だろう。

 

ただし、それには代償が伴った。

 

軍人としては再起不能。

 

外を歩けるかすら分からない。

 

全身重度の火傷を受けており、予断はまだ許さない。意識も戻っていない。意識が戻るかさえ分からない。

 

飛騨大尉も状況は良くない。

 

同じく限界まで踏ん張ったのだ。しかも恐らく、通信記録からして、呉美大佐の状態を最後に知った。

 

精神的なショックも大きい。

 

次の戦いはまだあるだろう。ネメシス種は更に凶悪になっている可能性も高い。

 

呉美大佐はもう駄目だ。

 

それで次をやれるのか。

 

そういう話が聞こえる中。三池は資料をまとめていた。

 

戦場では兵士が死ぬのは日常茶飯事だ。

 

分かっている。

 

三池は他の者よりも冷静になれる。冷静になる事がこう言うときは必要だと知っているし。

 

畑中中将の時に慣れた。

 

書類などを全てまとめておく。

 

病院とのやりとりもしておく、

 

流石の畑中博士も、初期から活躍してくれていた呉美中佐の事はそれなりに思うところがあるようだ。

 

じっと黙って仕事をしていた。

 

なお、二人が助かったのは、広瀬大将が至近に誘導弾を数発打ち込んで、溶岩熱を中和したからだ。

 

そうでなければ、呉美大佐は万が一も助からなかったし。

 

飛騨大尉だって命が危なかった。

 

それは、既に聞いていた。

 

大きすぎる損害。

 

超世王セイバージャッジメントとそもそも戦わない選択をするまで賢くなっているネメシス種。

 

まだどれだけ強くなるのか。

 

頭を振る。

 

もう。畑中博士が、どれだけ対応できるか賭けるしか無い。

 

出来るとしても、勝負は後一度か二度。

 

明らかにネメシスの進歩が早すぎるのだ。創意工夫ではどうしても限界がある。

 

それが分かっているから。創意工夫でどうにかしなければならない今が、心苦しかった。

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