天下の大宰相・呉鳳明伝   作:蘇芳ありさ

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幕間『長平顛末記・其の弍』

 

 

 

「──黄河の水位が例年にない低下をみせてるだと?」

 

「ハハッ! 各地の観測所よりそのような報告が!!」

 

 

 その急報がもたらされとき、魏国の主要閣僚がこの開封に留まっていたことは一つの幸運でした。

 

 呉慶、信陵君、李斯、蕭何、そして呉鳳明──彼らが『鳳明の千里盤』と呼ばれる立体地図を囲い込み、あれやこれやと議論していた理由は、ひとえに援軍を派遣した長平の急変に備えるためでしたが、これが後の迅速な行動につながります。

 

 

「う〜ん、各地の雨量計は異常な数値を示していないんですよね?」

 

「うむ、そのような報告は受け取っていない。……それに記録的な小雨となった昨年とて、黄河の水位はさほど低下しなかったらな。これは他の要因があると見るべきだ」

 

 

 蕭何と信陵君の会話を耳に、鳳明は真剣な面持ちで千里盤を見据えました。

 

 

 今や各国の了承を得て、中華の北西部も再現した厳密な地形を眺めればよく分かる。

 

 西へ、北へと向かうほど険しくなる山々に降り注いだ雨は低きを求め、膨大な支流群となって黄河と結合する。

 

 ましてや、その水源はチベット奥地の氷河にあり、局所的な小雨が与える影響など微々たるものだろう。

 

 

 ならば原因は──そう思案した鳳明は傍らの粘土を掴み、黄河上流の特に狭隘な渓谷に手を加えました。

 

 

 鳳明が何をするのか見守っていた群臣たちが次の瞬間に絶句します。

 

 無造作に茶碗を傾けた鳳明を非難する者は皆無でした。何故ならその中身が長平に流れ込み、趙軍の主力が籠る砦を飲み込んでしまったからです。

 

 

「……なるほど、水計か。俺も楚に留まっていたとき、秦の白起が郢に長江の水を引き込んで陥とした話は聞き及んでいる。奴ならばやりかねんな」

 

「うむ……。しかし、私はさほど軍事に詳しくないが、これは悪手になりかねんのではないか?」

 

「はい、信陵君。郢の陥落は浸水ではなく、長期の包囲により兵糧を食いつぶした已む無きもの。しかしながら長平の砦には、こちらより支援した多大な作物があります。砦の包囲が兵から水に変わったところで、あの廉頗が動揺するとは思えません」

 

 

 李斯、信陵君、呉慶らの言葉はまさに正論と言うべきでしたが、鳳明は黙って首を振りました。

 

 

「蕭何」

 

「はい、鳳明様」

 

 

 蕭何を呼び寄せた鳳明が耳打ちします。

 

 その内容は聞き取れませんでしたが、小走りに駆け出した蕭何は、やがて数人の従者を連れて戻ってきました。

 

 

 彼らが床に置いたのは二つの鍋……その中身は冷たい水と煮えたぎった油。

 

 いったい何をする気かと戸惑う男達の前で、鳳明はこう命じました。

 

 

「油を水の鍋に注いでください。ただしゆっくりと」

 

「わかりました」

 

 

 ただちに従者たちが鳳明の命令を実行しますが、なみなみと注がれる油は決して水の下に潜らず、その上に分厚い層を作りました。

 

 ……この時点で明敏な大人たちは気づいたようです。

 

 

「ここで火を点けるのはさすがにやり過ぎですよね?」

 

 

 鳳明の言葉に信陵君が渾身の首肯をもって答えます。

 

 

「まさか水と火の連環計……いや、あり得るのか……?」

 

 

 あり得る。そしてこの一手は、長平の砦に籠る趙軍を全滅させる奇策にもなりうる。呉慶将軍の背中に冷たい汗が滲みました。

 

 

「信陵君」

 

「う、うむ?」

 

「僕はこの策が実行に移されることを前提に、あの艦を動かすべきだと考えます」

 

「……あの艦をか?」

 

 

 鳳明の静かな要請に、さすがの信陵君もたじろぎます。

 

 

 通称・鳳明の鉄甲船と呼ばれるその(ふね)は、魏国が民間の商船として開発した帆船とは完全に別物です。

 

 黄河の安全な往来のために開発された帆船とは設計思想からして異なり、鳳明の鉄甲船は大洋の安全な航海を目的に研究・開発されたものです。

 

 

 国庫の余剰金を贅沢にも注ぎ込み、信陵君自身も多額の投資を行って、ようやく完成に漕ぎつけた貴重極まりない新鋭艦──それを目的外の戦場に投入すべきだと言われたのです。信陵君が切ない顔をするのも当然でしょう。

 

 

「どうしてもそうせねばならんのか? アレはまだ試運転すらしておらんのだぞ……」

 

「人命より貴重なものがこの中華にございますでしょうか? 無理を言っているのはわかりますが、初動の遅れは取り返しのつかない被害拡大につながります。どうかご決断を」

 

 

 なおも躊躇う信陵君でしたが、このときの鳳明には揺るぎない芯があったと李斯の言葉が残っています。

 

 

(普段はフラフラ遊び歩いてるようにしか見えなかったが、なるほど、こっちが鳳明の本質か)

 

 

 不機嫌そうに腕組みしても誤魔化しきれず、口元がにやけるのを自覚した李斯が表情筋の制御に集中する前で、鳳明はあらためて信陵君を説得しました。

 

 

「今回に限りません。僕は何度だって同じことを言って貴男を困らせるでしょう。ですが、すべては民のためです。どうかご決断を──」

 

 

 ……この鳳鳴の中身が丸ごと現代人なのはすでに語りました。

 

 彼は現代の日本人。農工大を卒業して、大手ゼネコンに就職した普通の男性です。

 

 

 だからこそ拘るのです。彼らの仕事は家やビルを建てるだけではありません。

 

 阪神淡路や東日本を襲った震災。火災。津波。台風や線状降水帯がもたらす異常な大雨。氾濫。洪水。土砂崩れ──彼はそうした痛ましい現場に赴き、人命の尊さをまざまざと実感させられたのです。

 

 

「────」

 

 

 そんな鳳明の言葉に胸を打たれた者がいます。

 

 副官の爺やが気遣わしげな視線を向ける呉慶将軍です。

 

 

 決して私情を挟むことのない彼ですが、趙国との事実上の同盟関係と、長平への援軍の派遣には思うところがありました。

 

 何故ならば趙こそが彼の祖国を焼き払った仇敵──だというのに愛息の鳳明は何を差し置いても彼等を助けるべきだというのです。

 

 

 だからこそ彼は驚きました。

 

 それを当然のものと受け止め、何ひとつとして迷わずに同意している自分自身に……。

 

 

「……私も軍部の代表者として、魏安君の方針に深く賛同いたします。ここで趙国の破滅を座視すれば、次に滅ぶのは我が魏国。総力を結集すべきだと愚行する次第です」

 

 

 恩人たる信陵君に強く願いでる呉慶の言葉が最後の決め手となりました。

 

 盛大に肩を落とした信陵君は、まるで降参だと言わんばかりに力無く両手を挙げたのです。

 

 

「ふぅ、わかったわかった。食客たちには申し訳ないが、しばらく貧乏暮らしを楽しんでもらおう。ただちに準備させる」

 

 

 その吹っ切れたような笑顔に、呉家の親子はこぞって頭をさげました。

 

 自然と頭がさがったのです。

 

 

 こうして信陵君の領内にある造船所を後にしたその艦は工兵と衛生兵、そして所謂粉末ABC消火剤を満載して長兵を目指し──氾濫して流れを変えた黄河を遡り、まさに危機的な洪水と火災に見舞われた城砦に到着したのです。

 

 

「な──なんだアレは!?」

 

「ほ、帆が見えるが……まさか外の洪水を逆流してきたのか?」

 

「みっ、見ろ……火が、火が消えていくぞ!!」

 

「む、むぅ……なんと……」

 

 

 城内に響きわたる将兵らの歓呼に、必死の消化活動を指揮していた廉頗四天王の一人・玄峰は呆気に取られてその光景を見守るばかりでした。

 

 

「俺たちは魏の援軍だ。通してくれ」

 

「消火はこちらで引き受ける。重傷者はいるか? まもなく衛生兵も到着する。もう少し堪えてくれ」

 

 

 次々と城壁を乗り越え、赤く塗装された金属製の筒から伸びる野太い紐の先を火に向けて、プシューとやってる連中に何を言えというのか。

 

 なんとも居た堪れない気分を味わう玄峰でしたが、彼の不幸はこれからが本番でした。

 

 すぐに伝令の兵が玄峰の姿に気づき、嬉々として拝謁を願い出たのだから、これは精神の限界を試される老人にとっては不幸なことでしょう……。

 

 

「お会いできて光栄です。小官は呉慶元帥の副官を務める義忠少佐と申しますが、趙軍司令部宛に言伝を授かっております。この場でお伝えしてもよろしゅうございますか」

 

「う、うむ。儂にも解るような言葉で頼むぞ」

 

「はい、では簡潔に……洪水の被害が比較的軽い東の城壁から対岸(・・)まで、小舟を連結させて浮き橋となす計画が進んでおります。鳳明様も好きに使っていただきたいと申されておりましたが、ただちに着手してもよろしゅうございますかな?」

 

 

 ──ほら、もうわからない。

 

 浮き橋? そんなモノをどう使えと?

 

 それよりも、その、そうだ。救援には感謝するが、長平の領有権はこちらにあるという建前なのだから、あんなデカブツで乗り入れるなら、事前に王政府と協議してだな──本来は明晰な玄峰の頭脳はこのとき空転するばかりでしたが、()は違いました。

 

 

「構わん。ただちに取り掛かるよう伝えてくれ」

 

「むっ、何を勝手に!?」

 

 

 思わぬ横槍に激怒しかけた玄峰もすぐ冷静になりました。

 

 何故なら満面の笑みを浮かべて現れたるその人物こそ……。

 

 

「なんじゃ、お主か廉頗。怒鳴り散らそうとして損をしたわい」

 

「使者殿、聞いての通りだ。今さら遠慮は無用。貴様らのしたいようにしろ」

 

「ハッ! ただちに取り掛かるようお伝えします」

 

 

 ただちに駆け出そうとする魏軍の使者でしたが、その姿はまるで強敵を前に後退りをするようでした。

 

 

 ……廉頗将軍に敵意はありません。その使者も、危害を加えられると思ったわけではないのです。

 

 しかしながらあまりに異様な雰囲気──よほどの興奮によるものか顔だけではなく、その巨拳までもが赤く染まり。

 

 鬼すら一目で逃走するような厳つい(かお)を歪め、前歯を剥き出しにする廉頗将軍から目を離せなかったのです。

 

 

 そう、さながら郊外の山岳地帯で熊と遭遇でもしたかのように……。

 

 

「ふ、フハハ……しかも好きに使えと言ってくるとはな……」

 

 

 例外は傍らに控える古参の将兵のみ。

 

 彼らはこれが廉頗流の歓喜だと知っていたのです。

 

 

「熱いのォ!! よもや文弱な小僧と見くびっていた鳳明の口からそのような言葉が飛び出すとは、この廉頗、一生の不覚よ……!!」

 

 

 ……ちなみに、彼も言うほど鳳明を軽んじていたわけではありません。

 

 かつては戦働きを重視するあまり、ろくな戦功のない藺相如を「口先だけの男」と軽んじて、殺してやろうとも思っていた廉頗将軍ですが、その過ちに気づいてからは文官たちを下に見る悪癖もおさまりました。

 

 

 しかしながら畑違いの彼には、やはり文官の功績を正当に評価することは難しく、鳳明のしたことの何がすごいのかを説明されても、あまり理解できずにいました。

 

 

 無論、つい先ほどまで……!!

 

 

「玄峰よ、負傷者の手当ては魏の連中に任せたほうが良さそうだが、その他のことは貴様に一任する。遺漏なく治めよ」

 

「承った」

 

「輪虎たちは軍の再編を急ぎ、浮き橋が完成次第、対岸に橋頭堡を築け。……急げよ。白起めが嗅ぎつける前にどれほど兵を結集できるかが勝負の分かれ目と思えよ」

 

「了解しました」

 

 

 次々と指示を出す廉頗将軍にはこの戦いの終着点が見えていました。

 

 

 本質的には本能型で、自己の直感を唯一の正解とするかつての廉頗将軍は、手痛い敗北の中から学びを得ました。

 

 今のままでは、何度やっても白起に勝てぬ──そう直感した彼は、当時は敵であった玄峰に膝を追ってまで教えを乞いました。

 

 

 そうして視野を広げ、知見を得て、いつしか廉頗将軍は戦況を俯瞰できるようになりました。

 

 時差のある報告によらず、こうあってほしいという願望を一切混えぬ、現実との差異がまったくない戦況を想像できるようになったのです。

 

 

 さすがに今回の連環計のように、まったく想像のつかない要素が混入するとその俯瞰も崩れてしまいますが……今このとき、すべての駒が盤面に出揃ったならばその精度は未来予知にも等しいものとなります。

 

 

 そんな彼だからこそ鳳明を評価しました。

 

 この絶望的な戦況をひっくり返す神の一手──そして好きに使えと言うあの言葉が廉頗将軍を熱狂させたのです。

 

 

「よいな者ども! これより趙軍の反撃開始じゃあ!!」

 

 

 開戦以来溜め込んだ廉頗将軍の本気が、いよいよ炸裂する──。

 

 

 

 

 

「ンォフゥ」

 

 

 一方その頃、鳳明の鉄甲船を前に待機を命じた王騎将軍は胸のときめきを抑えきれずにいました。

 

 

「ご覧なさい騰。船上から小舟が降りてきますよォ。わざわざ迎えまで寄越してくれるとは至れり尽くせりですネェ」

 

「ハッ、感謝感激です」

 

 

 王騎は配下の将に戦はすでに終わり、自身は戦後処理のため会談に赴くと伝えましたが、背後に控える側近たちの顔はいかにも心配そうです。

 

 

「本当に殿を行かせて大丈夫なのか、隆国」

 

「……俺にもわからん。魏の公子はとても穏やかな性格で、腰も低い人物だと聞いているが、あれだけの事があったばかりだ。鏖殺はなくても拘束はあり得るかもしれん」

 

「なら俺たちも同行すりゃいいだろ? 魏の連中がふざけたマネをしたら思い知らせてやるってなァ」

 

「いや、それも難しいな。軍の指揮もあるし、そもそも録嗚未のように最低限の礼節もわきまえない男の同行を殿が許すはずがない」

 

「なんだその言い草ァ!?」

 

 

 その声はもちろん王騎の耳に届いてましたが、非常に瑣末な出来事だったので彼の心が揺らぐことはありませんでした。

 

 今の王騎に届くのは、副官である騰の言葉と、この場にいないもうふたりの──。

 

 

「ンフ、摎の様子はどうでしたか昌文君?」

 

「……知らん。儂に聞くな」

 

 

 その内のひとり。左の頬に大きな紅葉をこさえて帰ってきた武官の名は昌文君(しょうぶんくん)

 

 王騎とは初陣以来の知人であり、今は摎将軍の爺や──もとい配下の部隊長を務める老練な武人です。

 

 

「まったく、噂の貴公子に会えると知ってやれ着替えるだの、湯浴みもしたいだのと浮ついた真似をしおって……後見人のおまえからも何とか言ってやったらどうなんだ、王騎」

 

「ンフフ、年頃の娘らしくて可愛らしいじゃありませんか。あの娘のしたいようにさせてあげましょうよ」

 

「……年越しには祝言をあげて、自分の妻となる娘なのにか?」

 

「だからこそですよォ。あの娘はもっと広い世界を知ってから私に嫁いでもいいと思うんですよねェ」

 

 

 浮気を疑われた妻は夫に殺されても仕方ないと考えられているこの時代に、王騎の言葉はかなり異質なものに聞こえました。

 

 

「ちなみに昌文君は妻帯者で娘もいましたね?」

 

「む? 居るには居るが、とっくの昔に他家へ嫁いだぞ」

 

「ンフフ、それはご愁傷様。ご幼少のみぎりは父親と結婚するとまで(のたも)うた娘さんの嫁入りは、父親としてさぞかし応えたことでしょうね」

 

「……やかましいぞ。何の話をしている」

 

「それはもちろん摎の話ですよ」

 

 

 その時ふと、一陣の風が周囲をなぶり、王騎の髪を乱しました。

 

 

「あの娘にとって、肉親として慕える男は私しかいなかった。だから必死に私の背中を追いかけ、私の妻になるという幼い夢を叶えるためにこんな戦場(・・・・・)まで来てしまった。

 それぐらい狭い世界しか知らないあの娘の未来を、今後も私のなかだけに留めていいものか、なかなかに難儀な問題ですよねェ……」

 

「……それがあいつの望んだことでもか?」

 

「ええ、だってあの娘はそれしか答えを持ち合わせていませんから……そうならざるを得なかったあの娘は本当に幸福なんですかねェ?」

 

「それは儂からどうこう言えることではないだろう……」

 

 

 彼女も言うほど孤独ではないはずです。

 

 初陣以来の気心の知れた仲間もいます。人類最古の必然的出歯亀(ラッキースケベ)おじさんこと昌文君もいます。仮に孤独であっても寄り添う人間は少なくありません。

 

 それでも、もっと彼女の世界を広げてやりたい──そう願ってやまないのも、彼が彼女を愛しているから。

 

 

 そう、さながら娘の成長を見守る父親のように……。

 

 

 

 

 

「ふぅ、少しは見れるようになったわね」

 

 

 そんな話をしているとも知らず、身繕いを済ませた少女は天幕を後にしました。

 

 駆け出す先で微笑むのは、彼女にとって世界そのものとも言える男たち。

 

 

「王騎様お待たせ! 騰も一緒なのね? 昌文君も……ごめん、ちょっと強めに引っ叩いたから痕がついちゃったね」

 

「む? 侮るなよ小娘が……これぐらい何でもないわ」

 

「ンフフ、何しろ日常茶飯事ですからねェ。昌文君もいい加減打たれ強くなってるでしょうよ」

 

「ハッ、立派な常習犯ですな」

 

「そうね。いつもは気にならないんだけど、今日は前を見られちゃったから、思わずビターンッて」

 

「その話、もっと詳しく」

 

「ぬぐぐ、貴様、騰──」

 

 

 いつもの漫才を披露する仲間たちを楽しげに見遣って、王騎将軍が接岸した連絡艇に歩み寄ります。

 

 それと向き合うはどこか不満げに、そして不安げに応対する鳳明の近侍たち。

 

 

「……秦の王騎将軍とお見受けします」

 

「ハイ。私が正真正銘の王騎ですよォ」

 

「我らがあるじ、魏安君におかれましては、貴公を賓客としてお招きしたいと仰せですが、王騎将軍の返答や如何に?」

 

 

 できれば断ってほしい──そんな痛ましさすら覚える使者たちに、王騎将軍は満面の笑みを浮かべてこう応えました。

 

 

「喜んでお受けしますよォ。……こちらの随員は三名。もちろん武器などという野暮なモノは一切持ち込みませんので、どうかご安心を」

 

 

 安心できるか、と使者たちは思ったかもしれません。

 

 見上げるような巨躯に、太すぎる腕。そして厚すぎる唇に浮かぶ物騒な笑み。王騎将軍なら徒手空拳でも船上を制圧しかねない。そういった怖さがあります。

 

 

 ……とは言え、これはこちら側から言い出したこと。

 

 鳳明の無茶振りに慣れている近侍たちは、いつものように粛々と、そして少しだけ嫌々と賓客を迎え入れる準備を進めました。

 

 古代中国史における第二の転換点とも言われる『船上の語らい』は、こうして開始されるのでした……。

 

 

 

 

 




 


今日のNGシーン


「あの娘も色んな男を知ってから私に嫁いでもいいと思うんですよねェ……比較対象があってこそ私の男が輝くと思いませんか?」

「なっ!? 貴様、寝取らせだと──」


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